相乗りで何処までも 【 〆 】

……言ってたけどよ……お前の化粧の腕は折り紙つきってわけか…____やるしかねぇか。俺がこの最優先案件の彼女になりゃこの盗撮犯は絶対に食いついてくるはずだ。人気のないとこに呼び出してとっ捕まえてやろうぜ
(万が一にでも相手がもっと良い作戦を思いつかないかと期待したがこの流れが変わることはないらしい。かつて女装した時の感想を持ち出されれば再び言葉に詰まる。あの時は女装していたからこそそんな事が言えたが、日常に戻った状態で改めて女装するとなるとまたハードルは上がるものだ。それに街中を歩くのは馴染みと会う可能性もあり渋ったものの、相手の言うことは最もでああいうのを隅から隅までチェックするであろうウ.ォ.ッ.チ.ャ.マ.ン,が彼女の正体に気づいていないなら至近距離で出会わない限りはバレる心配はなさそうだ。それに相手の化粧の腕は十分に知るところだろう。こうなればあとはこちらの決断だけ。きちんと全てを確認したわけではないが、相手が写った写真がまだ売られている可能性もあり同じような輩を産まないためにも決着をつける必要がある。ゆっくりと深呼吸したあとに覚悟を決めれば踏ん切りがついて再び彼女になることを宣言した。これは探偵としての仕事だと言い聞かせつつ真剣な目を相手に向ければターゲットを炙り出す作戦を立てて)

ああ、このフォームから張り込みに有利な場所で彼女を見かけたと情報提供すればきっと姿を現すはずだ。 そうと決まれば早速決行しようか、僕は下で準備を始めておくから君は誘き出す所を決めてコンタクトを取ってくれ。
(この街のためとはいえ再び女装して街に出るのは躊躇われるものらしい。だがあの変わりようでは相当観察眼が鋭くない限りバレる可能性は低いように思われる。相手の性格を知ってるものなら尚更女装しているとは思わないはずだ。深呼吸を挟んだ相手が決断を下せば作戦に同意するように頷く。情報提供を逆手にとって盗撮犯を見つけやすく捕まえやすい場所に誘い込めばきっとその姿を掴むことが出来る。相手の同意も得られたならば今からでも作戦決行だと告げる。テキパキと段取りを決めていけば相手には良さそうな場所を決めて情報提供の体で誘い込む書き込みをする役割を頼めば自分はガレージに降りていきメイク諸々の準備を始めて)

分かった。なら海岸沿いの通りに呼び出しとく。そっちは任せたぜ
(一度覚悟を決めたならもうあとは実行するだけだ。これ以上街を泣かせないためにも即刻の作戦決行が決定されれば頷いて答える。盗撮するなら犯人は物陰に身を潜めるはず、そういう場所が少ない所であれば自然と隠れる場所は狭まり犯人の特定も確保もしやすくなるはずだ。それなりに開けていて人通りも少ない場所となれば海岸沿いの通りが最適だろう。片側が海に面している分隠れられる場所はさらに限定される。警戒心が強い犯人とはいえ隠れ場所が限定されてしまえば大胆な行動をせざるを得ないはず、そこを捕まえてしまえば良い。化粧の時間なども逆算し、連絡用のフォームに夕方頃に彼女の姿を海岸通りでよく見かける、という情報を書き込み送信しておいた。これできっと犯人は情報を元に海岸沿いへ現れるだろう、あとは囮役が出来れば完成だと相手の帰りを待って)

＿ お待たせ。 服も持ってきたから着替え終わったらまたここに座ってくれ。
(相手によって時刻と場所が決められるとそれに間に合うように手配を進めていく。まさかこんなに早くまたこの服の出番があるとは思わなかったが。ひとまず保管していた服やウィッグ、メイク道具を持って相手の元に戻る。相手の威厳の為にも事務所のドアにも休業中の札に変えておいたから夕方に向けて準備に専念出来るだろう。服の一式を相手に手渡して早速着替えるように促しつつも化粧道具を机に並べていく。 盗撮犯を引き寄せる為にはあの写真の時の再現した方が確実だがイベント会場ではなく街中という点も考慮した仕上がりにするべきだろうか。着替え終わるのを待ちながらも「化粧の方向性に希望はあるかい？」と問いかけて)

おぅ……___化粧の方向性……基本はあの時と同じにしてくれ。服も一緒だしあの日の彼女だってすぐわかる方がいい。あとは日が落ちてく時間だから暗い所でも映えるようにして盗撮犯の気を引きたいところだが……できそうか？
(事務所スペースへ戻ってきた相手から衣装を受け取る。再び相まみえる事になるとは思わなかったがこれも風.都.と相手のためだろう。前の依頼でボレロが破れてしまったが、服を買った店長が今回のお礼にと新しいものをくれたお陰でミリタリーロリータ服は一通り綺麗に揃っている。短い返事と共に受け取れば気合いを入れるように軽く息を吐いてからジャケットを脱ぐ。シャツを脱いで代わりに大きなリボンとフリルがついたブラウスを着れば、前回同様あとは化粧のあとに着ようと化粧道具が並べられた机の隣に座る。化粧の仕上がりを問われれば、少し考えた後に同じように、とリクエストをする。相手が街中で女装した時は確かブラウスを変えていたがミリタリーロリータ服はそもそも服が個性的すぎて街中に溶け込むよう寄せるようなものではない。それにすぐさまターゲットとして目星を付けられる方がこちらとしても都合がいいだろう。追加で注文をするがそもそもより目立つような化粧ができるのか知識のないこちらはサッパリで窺うように相手をみて)

それもそうだね。 気を引けるようなもの…ならば少しメリハリのある感じにしてみようか。ばちっとメイクを決めて強気そうな子の隙を突けるかもしれないという体にした方が盗撮犯の興味を掻き立てられそうだ。
(ブラウスを着た相手が椅子に座れば方向性について意見を聞きながら下地を塗っていく。色々考えたものだが確かに今回の目的からすれば同じ人物だと思ってもらわないと意味が無い。雰囲気は同じものとするとして更に追加の要望が来れば少し悩んだ後に前回よりも一部を濃くしてメリハリを付けることを提案する。人気がなく物陰の少ない海岸沿いを指定したがそういう場所であることは盗撮犯もきっと考慮するはずだ。注目案件だと様子を見に訪れたとしてもそのリスクより獲物を得る価値が高く見えなければきっと食いつかず作戦は失敗だ。あの写真のイメージから可愛らしい所を見せるよりも強く冷たい印象を与える彼女の素を撮れるかもしれないという闘争心を煽った方がリスクを犯してでも姿を見せる可能性があるだろう。その事を口にしながらも早速綺麗に整えた肌の上に前回と同じような感じで化粧を施していく。目元を濃く目立つようにするのは割と簡単だが加減を間違えるとキツイ印象に見えて年老いたように見えてしまう。その為前回よりも慎重に色味を重ねては少し離れて全体のバランスを確認するを繰り返す。つい真剣な顔でその作業に没頭していたが丁度良いぐらいに仕上げることができ、上げた睫毛にマスカラを塗り終わるとひとまず目元だけは完成すれば鏡を手渡しながら「目はこんな感じで良かったかい？」と確認求め)

___、相変わらず凄いなお前……まさに強気で隙のねぇ女って感じの目だ。この化粧に似合う雰囲気で外歩かねぇと
(椅子に座れば早速また色々な液体やらが肌の上に乗っていく。化粧が分からない側からの注文も相手は上手く拾い上げてくれたようで邪魔にならないよう時折小さく頷きながらその方向性に相違ないことを示していた。相手に言われるがまま目を閉じたり開けたりしながら目元にどんどん手が入っていく。相手の真剣な顔をこんなに間近で見る機会はなく、その顔を眺めているうちに時間はすぎて睫毛にブラシがあてられたあと終わりを告げられた。鏡を渡され中を覗き込んでみれば、鋭く冷たい射抜くような目があって思わず目を逸らす。だが鏡の中の目も同じ動きをするのだからそこに映るのは間違いなく自分の目という事だ。特に表情を変えていないのに鏡の中の自分はじっと見つめる事が憚られるような力強い目線をしていて、相変わらず化粧の魔力とそれを実現する相手の腕には感服するばかりだ。思わず戸惑う目線を相手へ向けるがこれではせっかく施してもらった化粧に似つかわしくない。軽く頭を振って気持ちを切り替える。盗撮犯の気を引けるようにとこちらがオーダーしたのだ、相手の化粧を最大限いかせるよう化粧のコンセプトに沿った振る舞いをしなければせっかくの化粧も台無しだろう。目は自然に開き相手を流し見ながら口に薄く笑みを浮かべると「こんな感じか？」と自信を押し出した表情を向けて)

お褒めに預かり光栄だ。 他の箇所もこの目を引き立てるように整えていけば十分盗撮犯を誘い出すことが出来るだろうね。っ…ああ、そんな感じでいいと思う。
（相手を自分の手で変化させていく工程は割と好きだ。相手の観察するような視線にも気づかず集中して目元を仕上げるとひとまず完成を告げ確認してもらう。鏡で仕上がりを確認した相手からその腕を褒められると素直にうれしくて得意げな笑みを浮かべながら言葉を返す。一番特徴的な目元が問題なさそうであればこれに見合うようにほかの箇所も施していけば今回の目的通りの恰好が仕上がることだろう。だがその目力に反してこちらに向く目線は戸惑いがちで何だがちぐはぐだ。いつもと雰囲気の違う顔で素っぽい反応を見せる相手を微笑ましく見ていると何か気合を入れるように呟いて軽く頭を振る。次にこちらを見た時にはさきほどの不安そうな面はどこへやら、流し目とともに強くも怪しく微笑まれるとそのギャップは凄まじく一瞬息が詰まる。自分が施したにも関わらずそこに相手の表情が乗れば吸い寄せられるような魅力があって心臓がうるさく主張をはじめる。思わず目を逸らして動揺したことを隠すように早口でそれらしい返事をすると「他の場所も仕上げてしまおうか」と机の方を向き意識を逸らすためにも続きに取り掛かろうとして）

…お前がそう言うなら問題なさそうだな。……残りも頼む
(ものは試しとやってみた自信に溢れた笑みだったが相手には効果抜群だったらしく、誤魔化すように短い返事がされるが早口で目を逸らされるとその心境はバレバレだ。思わずニヤケそうになるのをぐっと堪えながら雰囲気そのままにすました顔と声で返事を返す。前回も同じ様に相手は動揺していたが前回と違うのは相手がいつもの格好という点だ。おかげでこちらは心乱されることも無く化粧も相まってか余裕を持って相手を見つめていられる。そういう余裕があって何事にも動じない女性を今から演じるのだから相手と話すのはちょうどいい練習にもなるだろう。勝手な理屈をつけつつ次の準備を始めた相手をみれば、椅子から少し腰を浮かせて相手の腰へと腕を緩く回す。相手の耳元に顔を近づければ少々冷たい口調なのにわざわざ吐息がかかるように耳元へと囁いて、すました顔のまま優雅にゆったりとした動きで椅子へと戻って)

、ッん…僕の気は、引かなくて良いだろう。
（どうやらすっきりなりきっているようで横目で見た相手の表情と声からは動揺を悟られたのかは判断がつかない。気付いていないという僅かな可能性に賭けつつも意識を次の作業に移すことで平常心を取り戻そうとする。だがそのせいで相手が近づいてきたことに気づくのが遅れ、腰に腕が回されると分かりやすく身を硬直させる。そのまま相手の顔が近づいて吐息交じりに囁かれると小さく肩は跳ね反射的にがたんと机にぶつかりながらも距離をとる。文句を言おうと反射的に相手の方を見るがそこには当然澄ました整った顔があってあっさり自爆してしまえば顔がみるみる赤くなっていく。盗撮犯の意欲ばかりか自分まで惹かれてしまっている。深呼吸をして一旦気持ちを落ち着かせると負け惜しみのツッコミを入れながらも今度こそ残りの工程に取り組む。眉を整えハイライトやシェーディングで立体感を出していくが確認する際時折相手と目があってはどきっと心臓が跳ねて視線を逸らす。そんなことを続けながら頬にチークを入れていくと唇以外の部位は出来上がり「ひとまず完成だ」と再び鏡を渡しながら告げて）

お前の気が引けないようじゃ盗撮犯を誘き出せねぇからな。確認だ、確認
(いつもと違う調子、化粧に合わせた仕草で囁いてみれば相手の体は面白いくらいに跳ねて机が揺れる音がそれをさらに強調させる。さらに目が合えばこのまま爆発でもするのではないかという勢いで相手の顔は真っ赤に染まって思わず笑い声を挙げそうになった。だがここで平常心を保つのも練習の一貫だと小さく笑うだけに留めればそれっぽい理屈をつけて飛んできたツッコミをかわしておいた。その後残りの部分にも相手の手が入る。時折目線が交わる度に相手は慌てて視線を逸らしていて、こちらを嫌でも意識してしまう姿をみるのはなんとも良い気分だった。唇以外の完成が告げられ鏡を除けば先程よりもさらに洗練された造形にまた胸が跳ねそうになるがそれを必死に押さえつける。この姿を乗りこなさなければならないのだからいちいち動揺している場合ではないのだ。「完璧だな」と相手に賞賛を送ったあとに傍らに置いてあった服へと手を伸ばす。ズボンの代わりにスカートを履けば腰には無理やりながらも女性っぽいくびれが出来て、ボレロを羽織れば筋肉質な腕と脚が隠れてシルエットはさらに女性へと近づく。最後に黒髪ボブのウィッグをつければ服装も完成だ。軽く頭を振ってウィッグの着き具合を確かめ、指で髪を梳いて整えれば「あの時の彼女だろ？」と相手に確認するよう問いかけ)

…ああ、カッコ良さと可愛さが共存する翔ちゃんの完成だ。 ……、僕があの男と会う依頼をこなす時に送り出すのを嫌がっていた君の気持ちがよく分かるよ。…他の人には見せたくない。
(9割9部揶揄う目的だっただろうが深く突っ込めばまた自爆しそうで残りの部分を仕上げることに集中する。出来上がった姿に相手が満足そうにすれば早速残りの衣類に手を伸ばしていた。相手と自分の仲なら着替えもさほど気になるものでもないはずだが今の相手の姿と自分の状況では目に毒な部分が多く、化粧道具を片付けながら出来上がるのを待つ。少し経ち呼びかけられてから視線を向けるとあの服に身を包み髪型も変わった美しい相手の姿があって思わず見蕩れてしまった。どくどくと鼓動は早くなるのに目は離せなくて夢見がちのような覚束無い口調ながらも相手の言葉を肯定する。これならば盗撮犯も目を奪われることだろう。それと同時に今からこの姿を囮のためとはいえ他人に見せるかと思えばえも言われぬ気持ちが湧いてきて違った意味で落ち着かない。ふと立場が逆だった時の相手の行動を思い出せばその感情の理由が思い至る。気付けば相手の元に近付き皺にならずメイクが崩れない程度に緩く抱き締めていてぽつりと本音零し)

…お、おぅ………、…なんだ、妬いてんのかフィリップ。……心配しなくてもこの姿をじっくり見ていいのはお前だけだ
(唇以外の準備が整い声をかければ、先程フラフラと泳いでいた相手の視線はまさにこちらへと釘付けになっている。視線を奪うという表現が相応しい相手の様子にますます気は良くなっていくが、そのまま上の空の様子で問題ない事が告げられるとそこまで相手の気を引いている事にこちらも嬉しいやら恥ずかしいやらで言葉を詰まらせながら返事をしていた。そうやって僅かに動揺しているうちに相手が近づいてきて、気がつけば緩く抱きしめられる。僅かに目を見開くも続いた独占欲を滲ませる言葉には思わず口元がにやけてしまった。滅多に見ることのできない普段とは違うテイストの魅力的な姿、それを白昼に晒したくない気持ちは十分理解できた。だがそれよりもこんなことを言わせてしまう程に相手の心を奪っている事実に胸が高鳴って仕方がない。こちらからも化粧と服が崩れない程度に緩く抱きしめる。最初こそからかうような事を言うが、相手の独占欲を満たしてやりたくて相手だけが特別なのだと、そんなことを言いながら頬に手を添えると視線が交わるようにこちらへと顔を向かせ化粧には似合わない柔らかな視線を相手へと真っ直ぐ向けて)

そうなのかもしれない。……うん。こんな表情が見られるのは僕だけだ。 だから盗撮犯には一枚も撮らせないし、君の顔をまともに見る前に捕まえる。
(頭よりも身体が勝手に動いていて相手を軽く抱きしめる。自分から言い出した事でもあるこの作戦が盗撮犯を捕まえる最善手ではあることは理解しているし今更辞めようと言い出すつもりはない。だがそんな探偵としての自分の考えとは別に恋人としての自分の想いも胸を占めていて魅力的な相手の姿を見てからかい目的の言葉にすら素直に肯定してしまっていた。相手の腕に包まれながら自分の中で何とか折り合いを探しているとふと相手の手が頬に添えられて真っ直ぐとお互いが向かい合う体勢となる。相変わらず目を奪うような見た目で鼓動が早くなるが柔らかな視線と顔から隙のない強い女性という設定とは違う相手ならではの要素が感じられた。加えて独占欲を満たすような特別な権利を与えられるとザワついていた胸は徐々に落ち着いてきて、相手の目をしっかりと見つめ噛み締めるように呟く。いつにも増して真面目な顔で独占欲故の決意を口にすれば「速攻で終わらせよう、翔太郎」と作戦へのやる気を見せていて)

……あぁ頼んだぜ。これ以上写真撮られるのも勘弁だしな
(揶揄うために発した言葉さえ受け止め肯定されてしまえばこの胸は幸福で満たされてならない。あれだけ抵抗のあったこの格好も相手の心をこれだけ揺さぶり掴めるならば悪い気はしなかった。視線を交わしながら独占欲を満たすような言葉を送ればそれ以上に独占欲を隠さない言葉が返ってきて、そうやって相手を絡め取るようなこの行為こそ自身の独占欲を満たしていることに本人は気づいていない。事実としてこれ以上この姿の写真が増えるのも困る、何かの拍子に情報屋の誰かが写真の彼女の正体に気づく可能性は十分にあるのだ。特にあの女子高生二人は勘が鋭く侮れない、こちらが囮役になる分相手にもきっちり働いて貰わなければ。盗撮犯へ指定した時間が刻々と近づいてくる、相手の視線を一身に受け心は満たされているが時間がまだあるならばあともう少し相手の心が欲しい。その奪い方には心当たりがあって、頬に手を添えたままもう片方の手をゆっくりと挙げてくる。口は薄く弧を描き視線は柔らかなものから相手を射抜くような鋭いものへ変えると、人差し指を一本立て指先をまだ色の乗らない自らの唇に添れば「マーキング、しなくていいのか？」と相手に誘いかけて)

任せてくれ。 …ッ、…する。
(この格好の相手を目の前にすると何故かすらすらと思っていることを口に出してしまう。相手が魅力的で他の人を惹き寄せるかもしれないことへの不安からかもしれないが独占欲を見せる言葉すらあっさり相手が受け止めるものだから止めようがない。この姿も自分だけのものだ。その写真を撮って悪用しようとするなら探偵としても恋人としても盗撮犯は必ず押さえなければ。こちらも軽く微笑みを見せてやる気を見せていたがそろそろ夕方に近くなってきている。移動すべきかと考えたところで相手がこちらを注ぐ視線か優しく慣れ親しんだ物から鋭い物に変わるとまたぎゅっと心臓が掴まれるような脈の上がり方をする。加えて相手の指先が唯一未完成な唇をなぞれば無意識にそこに視線は奪われ、極めつけに誘い文句を言われると再び熱が上がって小さく息を飲んだ。マーキングという甘美な響きは作戦前という理性を揺らがすには十分で短い返事だけすればこちらからもそっと相手の頬に手を添えて唇を重ねて)

…、……これでちゃんとお前のものだな
(見つめる視線の毛色を変えれば相手の瞳が揺れるのが分かりその心を揺さぶっているのだと手に取るようにわかる。そして唇へと誘えば息を飲む微かな音さえこの耳に届いてくるようで、こちらに心奪われる様を存分に楽しみ、また幸せと独占欲とを満たしていた。それらを決定づけるように唇が重なる。これから卑劣な盗撮犯に挑もうというのに柔らかな感触に心は満たされるばかりで、もっと相手との時間が欲しいとさえ願ってしまいそうだ。優しく唇を擦り合わせるようにしつつ小さなリップ音と共に唇を離す。互いが互いのものであるのはこれまで何度も確かめあってきた事だが、何度でも確かめたくなるのだから仕方がない。まだ名残惜しいがそろそろ準備を終わらせなければ。至近距離で見つめたまま「最後の仕上げ頼む」と頼んで)

今日一日そのことを覚えておきたまえ。ああ、…これで完成だ。よく似合っている
（誘われるまま唇を重なればいつもの暖かさと柔らかさを感じる。目の前の人物が愛おしい相手なのだと当たり前のことを再認識しては無意識に腕に込める力を強める。そのままお互いを確かめるように軽く擦り合わせながらもキスを続け小さなリップ音とともに離れていく。もう一度を願いたくなるがこの姿を自分だけで独占するためにも今日はやるべきことがある。相手が口にした言葉を刻み込むように真っ直ぐとした視線とともに念押しすればテーブルのリップを手に取る。頬に添えていた手を顎に移動させ動かないように固定すれば口づけをした唇を色づけていく。最後に若干はみ出た所を指で拭ってやれば完璧な女性の完成だ。少し離れて全体像を確認すれば軽い笑みとともに素直な褒め言葉を伝える。これならば盗撮犯の目を引くには十分すぎるだろう。指定した時間も近い。潜伏する位置を確保するためにもそろそろ移動しようかとしたところでふと自分の服が目に付いた。個性的らしいこの服のままでは人気の少ない海岸沿いでは目立ってしまう可能性もあるだろう。少し考えた後に「ここに置いてる君の服借りてもいいかい？」と確認取り）

あぁ、ちゃんと覚えとく。___ん、ありがとよ。これで準備はバッチリだな
(唇が離れ互いに視線を交わしマーキングをさらに刻み込むような言葉が向けられれば相手からの果てぬ独占欲に嬉しさで体が震えそうでなんとか平静を装うと頷いてそれを享受する。この格好でもっと相手を翻弄してみたいと思うもその前にやるべきことをやらなければならない。相手に最後の仕上げを頼めば唇にも鮮やかな色が入って翔ちゃんの完成だ。はみ出たリップを拭う指さえ今は体に毒だが、あらゆる衝動をなんとか飲み込んですました顔で相手の方を見る。服を着る前は抵抗が強かったが一度着てしまえばやはり悪いとは思えなくて、見た目が代わりその雰囲気に合わせてなぜか自信が湧き出てくる。指定時間に近づく中、今度は相手が変装する気のようで自分の服を指されれば驚いて目を瞬かせるものの問題ないと頷く。この格好で頭にクリップをつけた相手は物陰に隠れるにしては目立ちすぎる。こちらが女装なら相手はハードボイルド探偵への変装と言ったところか、潜伏する人間らしくビシッとスーツを着てもらおう。「ならこいつも一緒に持っててくれ。俺の服じゃ持てねぇからな」と服の傍に置いてあったドライバーを手に取る。相手が外出する以上万が一に備えて対抗手段は持っておくべきだろうと相手へ差し出して)

分かった、今日は僕が預かっておこう。＿＿お待たせ。…じゃあ行こうか、お嬢さん。
（唇にも鮮やかな色が乗れば今回の作戦の主役が完成だ。これで盗撮犯の方をひきつけることは出来るだろうが肝心の捕まえるプロセスで自分が見つかってしまえば台無しだ。その為にも相手の服を借りる旨を伝えるとすぐにその意図が通じたようで了承がされた。ついでに収納場所のない相手に代わってドライバーの持つ役割を任されると少し得意げな笑みを見せつつそれを素直に受け取った。相手の服を置いている場所に向かえば自らの服を脱いでスーツに着替える。クリップを外して前髪の分け目を変えるだけでも少しは印象が変わって多少見られてもあの写真の人物や探偵に思われることは少なくなるはずだ。張り込みに使うガジェット達も持ってきて支度を済ませれば相手の元に戻って声を掛ける。早速移動しようと動き出そうとするが先ほどから翻弄されてばかりだと気づけば夢の国でしたように相手の手を取り、その甲に触れるだけのキスを落としてその姿に見合った女の子扱いをしてみせる。それから事務所を後にして）