検索 2022-07-09 20:46:55 |
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………とりあえずお前の知識欲が爆発してるのはよく分かった。それで事務所中のものの匂いを調べてたってわけか……え、……今日はもう休みになったしたまには暴走特急にも乗ってやるか。いいぜ、付き合ってやるよ
(どうやらキーワードは予想通りだったらしい、相手は目を輝かせながらホワイトボードの前に立ち時折ペンで書かれた内容を指さしながら匂いについての解説が高速でなされていく。ホワイトボードの文字も含めれば到底すぐに理解出来るものではないが、相手が匂いというものにどハマりしてしまっているのは分かった。事務所のものがガレージに集合してしまっている意味も分かる、これは全て元に戻すのはなかなか骨が折れそうだ。そう考えていれば相手の瞳が一層輝いた気がして、同時にまた嫌な予感が脳内を過ぎった。そしてお強請りされたのは外出だ。思わず声を詰まらせてしまう。この状態の相手を外にだせば何が起こるか分からない、それこそ幻の世界でみた相手のように気の向くままにそこら中を駆け回るだろう。だが出会ったばかりと違って今やこの煌めく瞳に滅法弱くなってしまったのは確かで、面倒な事になるのが分かっている反面気の向くままの相手について行きたいとすら願う自分がいた。今日は事務所も店じまいで条件は整ってしまっている。やれやれと呆れるようにため息をつくも、口元には笑みを浮かべつつ相手のお願いを聞くことにして「どういう匂いがいいんだ?」とまずは聞いてみて)
やった! それでこそ僕の相棒だ。そうだね…なら若.菜,姫が言っていた夏っぽい匂いがする所が良い。 日本の四季は外でないと感じられないからね。
(最早相手がノーと言おうが外に出ていきたい気持ちは留まるところを知らない。外出を強請ると声を詰まらせたが相手が自分に弱いことも振り回されるのが案外好きなことも既に証言は得ている。そんな弱みに漬け込むように見つめていればやがて溜息と共に承諾が下る。外で思うがまま匂いについて検証することが出来るのに加え大切な相棒も一緒なのだと思えば無邪気に顔を綻ばせて喜び、調子の良い事を告げる。続けて初めに求める匂いについて問われると少しの間悩み込む。検索の中で気になった物質は幾つもあり叶うことなら全てを検証したい所だがホワイトボードの文字が目に入ればきっかけとなった夏の匂いを所望する。屋内にいればあまり感じることの無い季節の移り変わり。外に出る様になってこれまでも相手と共に季節の景色を見てきたからこそこの時期ならではの匂いを堪能したい。風都に詳しい相手ならば抽象的な匂いの場所も知っているだろうとリクエストすればはやる気持ちは抑えきれずに「ひとまず行こう、翔太郎」と相手の手を取れば強引に引きガレージの階段を駆け上がって)
夏っぽい匂いか。潮風は当たった事あるし向日葵もちょっと時期がはや、……ちょ、フィリップ!
(最初から答えは決まりきっていたようなものだが外に出かけることを承諾すれば相手の顔は無邪気に笑みを浮かべて、悔しい事にそれだけで外へ出かける選択をして良かったと思えてしまう。ペット探しもなかなかにドタバタしていたが、これからの時間は相棒に振り回されることになりそうだ。最初のリクエストを聞けばホワイトボードの中心近くに書かれたものが答えとして返ってくる。なんとも抽象的なリクエストだがその分候補はいくつか浮かんだ。真っ先に思い浮かぶのは海だが先日潮風の香りは経験しているしあれは太陽がもっと降り注いでいる時に行く方がいい。他に夏の香りといえば向日葵畑が思い浮かぶがまだ満開には早かった。他に夏の香りの候補を、と考えていた所で相手に手を引かれると強制的に移動が始まった。思わずまた叫ぶがこれこそが自分の望む状況でもあり声は弾んでしまっている。ガレージを出てハットを被ると勢いのまま事務所を飛び出した。その最中に夏の香りというワードにピッタリのものが頭に浮かぶ。階段を駆け下りバイクの元へとたどり着けば「なら、まずは市民プールにいくか」と行き先を決定するとヘルメットを差し出して)
早く行かないと検証しきれないだろう? 市民プール…確か海と同じような泳ぐための施設だったね。 ならそこに行こう
(胸に溢れた思いのまま散らかしたガレージはそのままに相手の手を引いて移動する。相手から名前を呼ばれるが制止を促す物としては随分と声が弾んでいて満更でもないことが窺えるとより心は踊る。事務所の施錠だけはしっかりと済ませて得意げに話しながらも階段を降りる。外の空気だけでもガレージの物とは何だか違う気がした。夏の匂いという抽象的なワードだったが相手は当てはまる物が見つかったらしくその候補を復唱する。プールという施設は簡単な知識だけはある、確か広い場所に大量の水を貯めて水着という衣類を着て泳ぐことを目的とした施設だ。それが夏と結び付くのかはピンと来ないが相手が言うのなら間違いはないだろう。ヘルメットを被り相手の後ろに乗ればバイクは目的地に向け発進する。道中の飲食店や植物による若干の匂いの変化を感じながらもバイクを走らせていれば市民プールとやらが見えてくる。入口から少し離れた駐車場にバイクを停めてから辺り匂いを嗅いでみるが特段夏らしいと思う要素は見つからずに「ここで合ってるのかい?」と相手に視線向け)
あぁ、合ってる。こっちだフィリップ。
(二人並んでバイクに乗れば早速目的地に向かって走り出す。夏といえばいろいろあるが初夏のこの時期に感じられる一番夏らしい場所はひとつしか思い浮かばない。相手が匂いに興味を持ったせいかこちらも走りながら街の匂いを嗅いでみる。いつも通り嗅ぎなれた匂いで意識したこともなかったが、時折人々の生活の匂いが風と共に鼻腔をくすぐるこの感覚は自分の好きな匂いなのだろう。興味深いというのも分からなくはないと思いつつプールへと到着した。駐車場では特段変わった匂いはしない。それにまだプールは準備中で人の気配もないが、もうすぐ夏の営業が始まるはずならば水は既に張ってあるはずだ。相手を誘って駐車場脇にある金網のフェンスへと近づいていく。そこは屋外に設置された25mプールがあって、まだ全力ではない太陽の光を反射していた。だがきっちりあの匂いはする。金網の目の前に立って深呼吸すれば、プールの匂いが体に流れ込んでくる。消毒用の塩素と水の匂いが混じった夏の香りだ。相手の方を見れば「夏っていやこの匂いだ」とプールを指さし)
思ったよりも大きいね。 …これは、塩素の匂い? 夏にはプールを訪れる習慣があるのかい?
(現時点では特段珍しい匂いはしない。不思議そうにしながらも相手に誘われるまま後ろを着いていき金網の方に近付いていく。そこには大きな凹みがあって水が張られていた。水を貯める場所としては見た事のある温泉に近い形を想像していたがそれよりも何倍も大きく深いプールに驚いたような声をあげる。きらきらと太陽の光を反射する水面は見ていても綺麗だ。そこで嗅ぎ慣れない匂いを感じれば隣の相手と同じく深呼吸してみる。薄められてもツンとくるような刺激臭。何度か呼吸を繰り返して検索結果からこれに近い匂いの元を引っ張り出してくる。塩素には強い漂白殺菌作用があったはずだからそれを利用しているのだろうか。だが塩素の匂いはあまり好まれる類のものではないはずだ。それなのに相手は好意的な反応をしている。これが夏の匂いだとプールを指さすのを見れば繋がりが見えずに若干難しい顔をしながらも理解を深めるためにプールの馴染み深さを問いかけて)
ここは市民プールだから25mプールだけだけど、ここよりもっとデカイとこもあるんだぜ?夏といえば水遊びだからな。海も良いけど匂いっつったらこっちだ。暑い日に冷たいプールで思いっきり遊ぶと、この匂いが思い出と結びつくんだよな
(プール脇の金網前に立てば鼻をくすぐるのは塩素のツンとした匂いだ。気温もまだ上がりきっていない所かプールに入るわけでもない今この状況では人間が嫌う匂いでしかない。そこと夏が繋がるのを納得していない様子の相手にさらなる解説を入れる。夏といえば海や山やいろいろあるがプールだって夏の風物詩のひとつ。今は不快に感じる匂いでも楽しい思い出と一緒になれば不思議とそれは夏の匂いとして思い出と一緒に記憶される。先日ここを通りがかった時に塩素の匂いが香ってきて夏の始まりを感じたものだ。とはいえ相手にはまだ夏とプールを繋ぐ思い出は無い。こればかりは体験しなければ二つを繋げる事は出来ないだろう。この不可解な顔が楽しげに変わる瞬間を想像すればその瞬間を楽しみに思う自分がいて「もう少し暑くなったらプールか海いくか」と声をかけて)
これよりも大きい…あまり想像がつかないな。 …なるほど、嗅覚は五感の中で唯一感情や記憶を司る扁桃体や海馬複合体と直接繋がっているからこの匂いによって楽しかった夏の思い出が呼び起こされるのだろうね。 …っ、行きたい!
(市営されている所を見る限りプールというのは人々に馴染み深いものなのだろう。涼を取るために水に入ることは動物ではよく見られる光景だが人が何人も入れそうな目の前のプールよりもっと大きいところとなると想像しにくい。未知の空間に関心を寄せていると更に相手から解説が入る。つまり暑い夏の時期にプールで遊んだ記憶とその際に嗅いだこの匂いがセットになって夏の匂いとなっている訳だ。嗅覚の情報は大脳辺縁系に信号が送られて記憶や感情に携わる扁桃体や海馬複合体を刺激する。それだけ他の感覚よりも記憶と匂いは結び付きやすいということだ。本で知った情報と相手の言葉が合致すればようやく理屈としては納得が出来て一人頷く。だが肝心のプールで遊んだ経験がないせいかやはりこの何とも言えない匂いが夏らしいとはいまいちピンと来ない。ともあれ初めて知った夏の匂いを自分の中で整理していると相手に誘いの言葉をかけられ顔をそちらに向ける。プールに関する記憶がないのならば作れば良いだけの話だ。その意図を理解すればぱっと表情を明るくし、意志を表明して)
香りが感情と記憶に繋がってんのか……だから良い香りで気持ちがリラックスするとか、これみたいに匂いと記憶が結びついてんのか。……ならまたアキコに休みもらって、せっかくなら遠出するか。水着買いにいかねぇとな
(こちらの解説が入れば相手はさらなる分析を始める。小難しい言葉までは理解できないが、相手の言うことは自分が今までしてきた経験とも合致していて納得するように軽く頷く。正確にいえば夏の香りというのは存在しないものだ。それでもいくつか候補が浮かんだのは、それらが夏特有のものであると同時に何かしらの思い出が香りと結びついていて、匂いをかげばその時々のことを思い出すからかもしれない。こちらは納得の結果だがやはり相手は完全に腑に落ちたとは言い難い表情だ。だからこそプールに誘えば相手の顔は明るくなって分かりやすい変化に口元に笑みが浮かぶ。せっかく夏の香りに相手が興味を持ったならそれらを存分に楽しむ日を作ったっていいだろう。またひとつ未来の予定が決まったところで「そろそろ次の匂い探しにいくか?」と声をかけて)
ああ、出来ることなら君がさっき言っていたような大きな所が良い。 ふふ、また楽しみな予定が出来た。 そうだね、次は…美味しそうな匂いがする所に行きたい。
(こちらが行きたい意志を伝えると相手の口元は緩んで更なる提案がされる。まだ見ぬ体験とだけで心弾むが遠出するなら先程相手が話題に出したような広い場所が良い。そこで存分に楽しめば自分も今はただの異質の匂いだと感じるこれが夏の匂いだと結びつくことだろう。更なるリクエストをしつつも新しく出来た夏の予定にご機嫌な表情を浮かべる。休みを得るためにも暫くは所長の意向に沿うよう仕事を頑張った方が良さそうだ。十分にプールの匂いを堪能した所で次なる場所が促されてフェンスから一旦離れる。また別の夏の匂いを求めに行くのも良いが道中にした飲食店の匂いをふと思い出す。リラックスしたり記憶を思い出す為の香りもあれば料理のような食欲をそそるような作用を起こすのも匂いだ。少し考えてからそんな場所を所望すれば再び相手の手を引いてバイクの場所まで戻り)
ならアキコを説得できるようにどんどん依頼こなさなきゃな。美味そうな匂い、か。いろいろあっけど……よし、いくか
(夏の予定が決まれば相手の機嫌も上々といったところだ。相手の所望する大きいプールとなればしっかりと休みを取らなければいけないのは必須、となれば所長様にストップを掛けられないように探偵業に精を出した方が良さそうだ。それでもスリッパは一発貰うのだろうが、相手がまた初めてを経験する所を見れるのを考えれば悪くない話だろう。そうして手を引かれながら次にリクエストされたの美味しそうな匂い、だ。これならば山ほど候補はあがるが逆にひとつに絞るのが難しい。店の前を通りがかった時に強烈に匂いがするものといえばラーメン、焼肉、カレーといろいろ浮かぶが様々な匂いを探すのが目的であるなら手軽にいけるところの方がいい。そこまで考えてひとつ心当たりをつけると相手にバイクに乗るよう促す。互いにヘルメットをつけたのを確認すればバイクを走らせた。向かうのは住宅地、人々がくらす場所に目的地がある。家の合間を縫ってバイクを走らせたどり着いたのは小さなベーカリーだ。駐車場にバイクを止めれば「ここだ、美味そうな匂いがする場所」と目線を向けて)
何処に行くか楽しみだ。 __ …ほんとだ、良い匂いがする。 入ってみよう。
(少し先の夏の予定も決まってご機嫌のまま次のリクエストをする。色んな匂いを検証するというのがメインの目的ではあるが、こうしてこちらの希望する条件に当てはまる所を相手が風.都内から考え連れて行ってくれるのはちょっとしたデートのようで楽しい。美味しそうな匂いという案に少し悩んでから当たりを付けたようでバイクに乗るように促されるとヘルメットを被って後ろに乗り込む。次は何処に連れて行ってくれるのか背後で期待に声を弾ませながら呟いた。走り出したバイクが入っていったのは住宅街だ。てっきり飲食店が立ち並ぶエリアに行くと思っていた為多少驚いたが相手が行く場所なら間違いないだろう。やがてたどり着いたのは一軒家を改築したような見た目をした小さなベーカリー店だ。バイクを降りて軽く呼吸をしてみれば香ばしい感じの美味しそうな匂いがする。店の前に近付けばまだ営業しているようで相手の方に声をかけると興味惹かれるまま中へと入る。どうやら夜用の最後の焼き上げ時間の直後だったようで店内はより一層強い美味しそうな匂いが漂っている。その匂いに加えて【焼きたて】とポップのついたパンが目に入れば食欲がそそられて腹の虫が鳴く。そこでようやく本日の食事状態を思い出すと「そういえば今日は朝以降何も食べてなかった」と呟いて)
だろ?ここら辺に住んでる人向けのパン屋なんだけど、どれも美味いんだ。……ったく、あの状態のお前が昼飯食べてたわけねぇか。俺も小腹空いたしなんか食おうぜ
(相手の所望する美味しそうな匂いのする所、規模はそれほど大きくないがその分味に拘って作られたパンの並ぶベーカリーはピッタリな場所だろう。相手と連れ立って中に入れば途端に優しいパンの匂いに包まれる。焼きたての時間にもピッタリ間に合ったようで匂いを堪能するにはもってこいの環境だ。存分に興味の対象である匂いを堪能すればいいと思っていたが隣から聞こえてきたのは先程のような分析ではなく腹の虫の声だった。思わず隣を見ればポツリと呟かれた事にやれやれと呆れた笑いを浮かべる。最近は共に過ごす時間が多くて忘れがちだったが相手は食事よりも興味を優先する人間だ、油断すれば何食だって飛ばしてしまうだろう。こちらもペット探しで走り回りちょうど腹に空きがある、せっかくならこの匂いに誘われるまま味覚でもパンを味わうとしよう。トレーとトングを手に取るとトングをカチカチ鳴らしながら焼きたてのパンを眺めると、腹に溜まるものにしようとカレーパンをトングで取ってトレーに乗せて)
へぇ、知る人ぞ知るって訳だね。 、そうしようか、…じゃあこのメロンパンと、クロワッサンってやつにしよう。
(確かにここに来るまでの道は住宅街で情報が無ければわざわざここにパン屋を探しに迷い込んだりはしないだろう。相手がこの街のことをよく知っているからこそ案内してくれたお店だ。感心をしつつも中に入れば見たことある物から知らない種類のものまで様々なパンが出迎えてくれた。焼きたてのパンの匂いと視覚からの情報に空腹だったことを思い出して腹の虫が鳴ったことに若干恥ずかしそうにしつつパンを食べることに賛成を示す。トングを不用意にカチカチと鳴らす様子には不思議そうにしつつも相手がカレーパンを取る様子を眺める。美味しいと聞けば色んな種類を食べてみたくなるがずっと動きっぱなしの頭は糖分を求めてメロンパンをチョイスしてトレーに乗せる。その他についても周りを見ると特段強いバターの匂いを感じてそちらに近づいてみると焼きたてのクロワッサンという名前のパンが並んでいた。三日月の形で表面が他のパンと違って層っぽい不思議な形をしていれば興味に目を輝かせてそれもトレーに取る。他にも気になるものはあったがあくまで今日の目的は匂いの探求だ。「夕食前だしこれくらいにしておこう」と告げてレジに向かい)
あくまで小腹用だからな、これくらいで十分だろ。____近くに公園あるからそこで食おうぜ、ついでに植物庭園もいくか
(こちらが選んだカレーパンはひとつで小腹を満たすのに十分で、焼きたての香りに加えてカレーの香りも混じるパンだ。一方相手が選んだのはメロンパンとクロワッサン、甘い砂糖の香りと強いバターの香りが漂ってくるチョイスだ。三者三様の香りを放つパンを選び終われば早速レジへと向かう。それぞれ小分けの紙袋に入れてもらえば、焼きたてのそれらは抱えるだけで温かくて手元からもそれぞれのパンの匂いが鼻腔をくすぐった。これは早く食べなければならないが小さなベーカリーのここには飲食スペースはない。となれば公園に移動するのが良いだろうが近場の公園を思いだせば今の状況にピッタリであることを思い出す。公園には小さな植物庭園が併設されていてこの時期ならもう花も咲いているはずだ、匂いを巡るデートには適した場所だろう。バイクへと近づきつつ次の目的地を提案し)
植物庭園…! 今の状況にピッタリの場所だね、冷めない内に早く行こう。__ここなら匂いも味もゆっくり楽しめそうだ。 じゃあ頂きます。
(会計を済ませ焼きたてのパンが詰められた紙袋を抱えて店を出る。温かさと焼きたての匂いに顔を綻ばせているとこれを食べる場所を提案される。のんびりと腰を落ち着かせて食べられる公園に加えて植物庭園があると知らされると表情を明るくして分かりやすく食いつく。季節と食べ物の次は植物の匂いを確かめに行こうとも考えていたからちょうど良い。焼きたてを十分味わう為にも早く移動しようと声を掛ければバイクに乗って目的地へと向かう。そうしてたどり着いたのは中央に大きな噴水が設置された広めの公園だ。その周りを囲うようにベンチが設置してあって奥には庭園へと案内図がある。日の暮れも近く人も疎らとなってきた園内をぐるりと見渡せば早速ベンチに座って紙袋の中からまずは食べたことの無いクロワッサンを半分出す。軽く手を合わせてから紙袋を持ち手代わりに1口齧り付く。折り重なった層による不思議な食感とバターの強い匂いを感じて「サクサクしていて美味しい」と好意的な感想告げ、更にもう一口齧り付いて)
今日は匂いを楽しむ日だからな。……バターと焼きたてのパンの香りだ
(バイクを走らせ公園へとたどり着けば噴水の周りにあるベンチへと座った。花の匂いを満喫する前にまずは腹ごしらえしながらパンの匂いを確かめる時間としよう。自分の分であるカレーパンを手に取るが、それに齧り付く前に相手がクロワッサンを頬張る様子を眺めていた。好意的な感想が告げられると口元を緩ませる。あのベーカリーのパンが美味しいのは十分知っていたが、相手が同じ感想を持ってくれるのは素直に嬉しい。こうやって相手の望み振り回されるまま愛する街を走り回って魅力を知ってもらうのはやはり悪い気はしない。自分の大切なものを相手も気に入ってくれるのに柔らかな幸せを感じていた。不意に相手の方に体を寄せて齧り付いているクロワッサンの匂いを嗅いでみる。相手と同じ香りを共有してまた口元を緩ませると、人も疎らな公園で緩やかな時間を堪能していた。自分の分であるカレーパンを袋から半分だけだすとサクリと耳障りの良い音と共に齧り付いて)
だろう? 食事とは五感で楽しむ物だと改めて感じるね。 …カレーのスパイシーな匂いがする、
(相手が不意に近付いてクロワッサンの匂いを嗅ぐ。急に近付いていたことに少し驚くも同じ豊かな香りを共有出来ればにこやかに笑う。焼きたてのパンとバターの贅沢な香りはもちろん、層が連なった不思議な形と口にした時のパリパリな食感と音、そして相手の言う通り絶品とも呼べる味の五感を感じながら取る食事は心が豊かにさせる。生命維持活動の為でしか無いと関心もなく目の前に置かれた物をただ口にしていた頃とは大違いだ。ぽろぽろと破片が落ちてしまわぬように気をつけながら食べ進めていると隣から焼きたてパンとは違う香ばしいカレーの匂いが漂ってきた。視線を向ければちょうど相手がカレーパンに齧り付いていた所でその匂いに釣られてじーっと見つめていて)
ん…?一口食うか?……いや、今日のお前は匂いを嗅ぐのが目的だったから食わなくてもいいのか
(最低限の食事しか取らなかった相手がこんなにも食事を楽しむようになったのは喜ばしい変化だ。美味しいものを一緒に食べるというただそれだけで互いに笑顔が浮かぶ幸せを噛み締めつつこちらもカレーパンに齧り付いていた。しかし隣から相手の視線と呟きが聞こえてくれば再びそちらへ目を向ける。じっとこちらを見てくる相手の顔を見ればその心の内の声まで聞こえてくるようだ。言葉のないオネダリにこちらのカレーパンを相手へと近づけるがふと悪戯心が浮かんで中途半端な距離で手を止める。五感で食事を楽しむと言っていたばかりだが今日の主目的は匂いのはず、わざと相手の目の前でユラユラとカレーパンを揺らしその匂いだけを相手に届くようにして楽しげに口角をあげて)
ああ、食べ…、……っ、翔太郎、意地悪のつもりかい?
(匂いにつられてじっと相手を見ていればその視線に気付いたようでいつもの様にカレーパンが差し出されようとする。分け合うというすっかり馴染みの行動に笑みが浮かんで『食べたい』と伝えて口元に来るのを待とうとするが何故かその動きが途中で止まる。不思議に思っていると当初の目的だった匂いだけで十分だと宣告されて目を見開く。確かに今回の検証は香りが目的であり、それだけで言えばゆらゆらと目の前で揺らされる現状でも達成出来るものだ。だが食欲を誘うような美味しそうな匂いと実物を前にして食べる事が出来ないというのは探求モードの自分には辛い物がある。少しの間我慢しようとするも長くは続かずカレーパンに顔を寄せて食べようとする。だが相手の手によってカレーパンは逃げてしまい再びそれを追いかけるように顔を近付ける。餌を前にした犬のようにそんなことを数度繰り返すもなかなか食べられないことが続くと眉間に皺を寄せじっと相手を見つめながらも拗ねたように苦情を申し立てて)
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