検索 2022-07-09 20:46:55 |
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………ッ!!テメェ、言わせとけば!、……あ、おやっさん!!
(この鳴.海.探,偵.事.務.所.に転がり込んだのはおやっさんに惚れ込んだからこそで、その背中を追うためにここにいる。そのためには出来るだけ長く彼と共に行動するのが一番だというのにあろう事か探偵でもない人間と組まされる事になるなんて。しかも相手の口から出てくるのはこちらを馬鹿にするような言葉ばかり、暫く黙って聞いていたが終いには堪忍袋の緒が切れて叫びながら掴みかかろうとした。しかしおやっさんにピシャリとその場を収められてしまい、止める間もなくおやっさんは事務所を出ていってしまった。たった二人事務所に取り残されてしまったが開口一番相手から聞こえてきたのはまたもや嫌味の籠った言葉で「それはこっちのセリフだ!」と言い返しながらヤケクソ気味に資料を開いて目を通し始める。「おやっさんと二人でやりたかったのに……」とブツブツ言いながら相手の集めた情報に目を通す。そこに書かれていたのは奇妙な内容だった。依頼人の男性は誰もが知る大手企業の取締役で相談内容は要約すれば『今の生活は何かが違う気がする』というぼんやりとした依頼だ。高級家具に囲われる暮らしが当然のはずなのに居心地が悪く、出社してもどんな仕事をしていたか分からないという。相手が検索した範囲では土地の権利書や履歴について特に矛盾はないらしい。だがこれと近しいものとして直近で『違う世界にトリップしてきたかもしれない』という書き込みが風.都内から一件、『お母さんが違う人になっている気がする』という警察への奇妙な通報が一件ある。いずれも日常が変わった気がする、というぼんやりとした内容だが三つ揃えば立派な異常ということか。だがどれもが雲を掴むような話で頭を掻きながら「全然分かんねぇ……」と呟いていて)
…彼らの共通項としては今の生活に違和感がある事とそれを認識しているのは本人だけという点だ。それだけなら単なる妄言や思い違いと言えるが地.球.の.本,棚にある彼らの本には不自然な乱丁や落丁があった。 …何かの影響を受けているのは間違いないだろう。
(相手が彼を慕っているのはこの数日だけでも十分に理解しているがベタベタとくっつき回っていて親離れ出来ていない雛鳥のようだ。こちらに不満を顕にしながらも任された依頼はこなすつもりのようでブツブツと何かを言いながら資料に目を通し始める。探偵業に興味はないが彼には助けて貰い生活環境を提供して貰ってる恩がある。彼が言うならと資料を読み終わったのを見計らって要点をまとめていく。依頼人の男に言わせて見れば『違う世界に来たような感覚』らしい類似案件は今の所3件見つかっている。何れも経歴や購入履歴などに不自然な所はない。今の状態に対する知識や記憶は頭に浮かぶもどれも他人の体験を見ているようで実感がないとのことだ。それだけならば単なる妄想や記憶違いだと一蹴する所だが検索の過程で調べた彼らの本には不自然な痕跡があった。大手企業を志すきっかけとなった出来事の記載が抜けていたりまったくもって接点があるとは思えない人と一日で関係を深めていたりと記載が抜けていたり強引な所がいくつかある。これまで見た本では有り得なかったことだ。何かしらが起きてるのは間違いないと現段階の結論をまとめると「今の情報だけでは特定は不可能だ」と呟いて)
本、にらくちょ………最初から分かりやすく言えよ!つまりさっき言ってたキーワードってのがありゃ………………あ゛ーーわかんねぇ!こういう時は足だ足!出かけんぞ!
(こちらが一通り資料に目を通したのを見計らって相手がさらに情報を付け加えてくる。一応捜査に協力する気はあるようだ。だがスラスラと語られる内容を飲み込むのには随分と時間がかかる。相手の脳内には膨大な知識があってそれは本の形で……とおやっさんが言っていた事を必死に思い出すも、その前にまとめの一言が発せられると悩んだ時間の分をぶつけるように叫んでいた。再び書類へと目を移す。おやっさんが軽く読んだだけでこちらに預けてきたということは自分だけでも解けるそこまで難しくない依頼のはずだ。それを解き明かすには相手の言うキーワードというものが必要なはず。だが暫く書類と睨めっこしてみたものの、一向にそのキーワードとやらは浮かび上がって来ない。数秒もしないうちに根をあげると書類をおやっさんのデスクに乱暴に置く。こういうのは実際に話を聞きに行くのが一番早いのだ。早々に出ていこうとするも、ふとその場に立ち止まって相手の方を振り返る。大変に不本意だがおやっさんが言うことは基本的には従わなければならない、それはあの夜にもよく学んだ事だ。相手の方を不服たっぷりの目でみながら「お前もついてこい。でも絶対に邪魔すんなよ!」と外へ連れ出そうとし)
出かける? ……分かった。
(自分は調べた内容を説明しているだけでそれをどう使うかは受け取った側の問題だ。相変わらず叫んでいる様子だが再び相手の視線が書類へと向かう。それも数秒も持たずに書類をデスクに戻しては動き始める。やはり鳴.海.荘.吉には似ても似つかない。その様子を視線だけで追っているも不意に相手が立ち止まり出かける様に促されると僅かに目を見開く。特に外出が制限されていた訳では無いがここに来てから外に出ようとも思わなかった。不本意というのは全面に出ながらも初めて自分に外に連れ出そうとする相手の姿に困惑と躊躇の混ざった表情を浮かべ暫し考え込む。悩んで僅かに興味の方に天秤が傾くと素直な返事をしてから相手の後に続いて事務所を出る。外は明るく穏やかな風が吹いている。見慣れないものばかりで目移りする中、階段をおりた先の路地に小さな黄色の花が幾つも咲いている。調査のことなど後回しになり興味惹かれるままふらふらと近づいてしゃがみこみその姿を観察する。細長くギザギザしたような葉に茎の先に咲く丸く黄色の花、近くには同じく茎のような物の先に白くフワフワしたような質感の物が集まったような構造の物が生えていて風が吹く度に散って綿のような物が舞う。初めて見る植物を真剣な表情で観察していて)
ん?お、おぅ……___いいか、聞き込みの基本ってのは相手に親身になって話を聞いて、っていねぇ!!
(不服たっぷりに叫んでやり相手も同じようなリアクションかと思ったが返ってきたのは微妙な間と戸惑いだ。予想だにもしない反応にこちらも戸惑ったものの、素直について来ると言うなら良しとしよう。ガレージに続くドアに掛けられたおやっさんのハットをちらりと見遣る。まだあれを被る事は認められていない、早くあれに似合う男になりたい。そのためにもこの依頼を華麗に解決してしまわねばと意気込んで事務所を出た。相手が後ろを歩いてくる音が聞こえる、まだ得体の知れない相手と組まされるのは不服だが新たな助手、あるいは弟子を貰ったと思えば悪い気はしない。どちらにせよこの事務所ではこちらの方が先輩だ。探偵のイロハを教えてやろうと意気揚々と喋り始めたが、ふと振り返ると後ろにいたはずの相手はおらずもっと後ろでしゃがみこんでいるのを見つければ思わず突っ込む。いきり立って相手を注意しようと来た道を戻るが、そこで相手が何かを観察しているのに気がついてそちらへと目を向けた。隣にしゃがみこんで白い綿毛のついた方を手に取る。そして観察に夢中の相手に向かってフワフワの綿毛をふーっと吹きかけた。白い綿毛はこちらが吹いた息に乗って相手の顔へと次々にあたり「たんぽぽ見て何してんだよ」とジト目で相手を見やり)
…わ、 っ、これはたんぽぽと言うのかい? 初めて見るけど綺麗な色をしてるね、それに君の吹き掛けた方も不思議な形をしている。 細く繊維状の軽い材質で表面積を増やしているような構造をしている所を見るに風に飛ばされることを目的にしているのだろうか。たんぽぽが花であることを考えれば……
(初めて見る存在に目を奪われていると相手が横に並んでしゃがみこむ。それも気にせず一つの花のように見えて小さな花びらの集合体である構造を観察していたが顔に何かが当たる気配がして驚いたような声をあげる。その物体が当たった頬を擦りながらもその出処に目を向ければジト目の相手がこちらを見ていた。観察の邪魔をされたと不服を口にしようとするがその前に相手が手に持っている白くふわふわした構造の物と頬についた同じもの、そして『たんぽぽ』というキーワードに反応を示す。どうやらこの花の名前らしい。新たな情報を得ると自分の中で知識が繋がっていきその瞳は好奇心に輝き出す。一度火のついた好奇心は止まることなく相手の持っている手ごと掴んで近くに引き寄せると再び熱心に白い綿毛を観察する。相手が息で飛ばしていた所を踏まえ綿毛の構造と目的の考察をすればそれに合わせて口もノンストップで動いて考えを語っていき)
お前たんぽぽも知らなっ、……ちょ、待て待て!たんぽぽよりも依頼の方が優先だろ!ほら、あー……これが解決したら綿毛がよく飛ぶやり方教えてやるから、な?
(隣にしゃがんでも見向きもしない相手の当てつけも込めて綿毛を飛ばす。ようやく相手はこちらを向いて最初こそ不服そうな顔を浮かべていたが、その顔はだんだんと変化して最終的には好奇心でキラキラと輝いた。相手と出会ってから大抵無表情か不服な表情か薄ら笑いしか見てこなかった身としては、こんな顔は初めてで思わず呆気に取られてその顔を見つめてしまった。常識が抜けているのは分かっていたがここまでとは。それを揶揄うような言葉を言おうとするが、その前に手を引っ張られてしまい言葉が途切れる。その後も相手の口は止まる所かヒートアップするばかりで、終わりの見えない知識の暴走に思わず叫び声をあげて無理やりそれを止めた。このままではたんぽぽの話を聞いているだけで一日が終わってしまう。今は一刻も早く依頼を解決しておやっさんに良い報告をしなければならないのだ。だがやめろといって止まる雰囲気ではない、となれば相手の興味を利用してこちらに引き込むのが良いだろう。しばらく考えた後ご褒美を用意する作戦を思いつく。今興味を全力で示しているたんぽぽをダシに交換条件を持ち出し相手の肩を軽く叩けば反応を窺い)
…っ! 本当かい? 分かった、ならばとっとと依頼の方を済ませてしまおう。
(小さく黄色の花がどうなればこんな白くふわふわとした物体に変化するのか興味は尽きない。捲し立てるような形で思うがままを口にしていたが相手が叫び声をあげれば流石にそちらに気を取られて言葉が途切れる。たんぽぽへの探究を止められたことに不服そうな顔を向けるも考え込むような仕草の後交換条件を出されると分かりやすくそのご褒美に食いつく。綿毛が良く飛ぶ方法について知ることが出来ればたんぽぽの種の拡散や特徴について更に知ることにも繋がるだろう。こくりと頷きその話に乗る意思を示すと即座に立ち上がる。彼の恩の為とたんぽぽの為にも依頼とやらを早く済ませてしまわなければ。検索で依頼人や関連のある疑いのある三人の居場所は把握済みだ。「行こう、左.翔.太,
郎」と名前と共に呼びかけて)
とっととって……まぁいい。まずは依頼人の男んとこいくぞ
(あまりにも子供っぽいご褒美だったかと思ったが、不満げだった相手は分かりやすくそれに食いついて立ち上がる。言い草は気になるが気持ちが依頼に向いたのなら良しとする。わざわざこちらをフルネームで呼ぶのにため息をつきつつ、まずは取っ掛かりやすい依頼人の元へ向かうことにした。事前に連絡をいれれば依頼人はちょうど家にいるとのことで直接自宅へと向かうことになった。閑静な住宅街の中で一際目立つ絢爛さを放つのが依頼人の家だ。家の前に立つだけで圧倒されてしまいそうだったが、咳払いをして気合いを入れてから玄関のチャイムを鳴らす。暫くするとインターホン越しに依頼人の声が聞こえて中へと招きいれられる。玄関までの庭も家の中に入ったあとも、外側に負けず劣らずの絢爛さで妙な緊張感に包まれながら家の中へと進む。『妻ももうすぐ帰ると思います』と一言添えられながらソファを進められて腰を沈めれば、思った以上に体が沈んで思わず声が出そうだった。改めて今回の依頼について聞き直しながら相手の集めた情報を記憶の中から引っ張り出す。相手が落丁と称した内容を思い出しながら「あなたが今の会社目指した理由、覚えてます?」と質問を投げていて)
…ならば幼少期はどんな過ごし方をしたか覚えているかい?……君の供述を信じるとするなら会社に就職してから今に掛けての期間の不自然さが気になる。過程があっての結果ではなく今の結果にする為に他の部分の帳尻を合わせたみたいな話だ
(相手に連れられたのはほかの住居よりも一段と大きく絢爛さを放つ家だ。一等地にこれだけの広さの家を建てようと思えば相当の額が必要だろう。扉が開かれ中に招かれるとこれまた凝った調度品の数々が出迎えて前を歩く相手からは緊張しているのが伺えた。通された部屋は美術品なども飾っていて興味のまま近付こうとするが相手に制止されて大人しく共にソファーに座る。改めて依頼内容について確認した後に相手が落丁していた部分について問う。男は意外な質問に戸惑った後に『多分世の中を平和にするためとか…そうだったような…』とハッキリとしない返答をする。もしも何かの影響を受けているのなら転換点があるはずだ。いつも通りの口調でその期間を検証するための質問を投げかける。男は意図が掴めない様子ではあったが今度はすらすらと概ね本の記載通りの幼少期の思い出を語り始める。更に少年期、青年期と問いかけるとそれもまた懐かしむように語られるも大学後期頃から記憶の曖昧な所が出てきた。今の会社に就職し昇進していったことは覚えているがどんな功績で何をしたかと問えば言葉が詰まる。『この家も広くて落ち着かないんです、もっと狭い場所で過ごしていたような気がして…』と言葉を続けたのを聞けば考え込むように口元に手を添えながら自分の意見を述べてみて)
……それなら就職してから今までで一番デカイ事ってなんでした?
(相手曰く落丁していると言っていた部分は回答が不透明ではっきりしない。だがそれに反して幼少期からの記憶は鮮明で、だが現在に近づくにつれて曖昧になりここ最近となると更にはっきりとしない。それを取りまとめるように相手の意見が男へと投げかけられる。理論に基づいた的確な指摘だ、かなり探偵っぽい、もといおやっさんっぽい指摘に対抗心がゆらりと胸のうちで揺れる。違和感を覚える原因がその期間にあるとすればなにかキッカケがあったはず、それについて質問してみると男は一瞬間を置いてから『そりゃあまぁ』と恥ずかしそうに頭を?く。そのタイミングで玄関の方で音が鳴って『ちょうど帰ってきましたよ』と先程の緩んだ顔のまま言われ、暫くすると女性が部屋へと入ってきた。恐らく彼女は男の奥さんで、就職してから一番大きかったのはこの女性との結婚なのだろう。予定にない来訪者に妻の方は驚いていたが最近感じる違和感について探偵に相談していると告げれば彼女は朗らかにそれを笑って流している。どうやら彼女は男の言う違和感を感じていないようだ。それでも渋る様子の男に『あなたの気の所為って言ってるのじゃない。私はあなたとここで暮らしてて幸せよ?』と優しく男に語り掛ける。だがその言葉を発する瞬間、彼女の瞳に白銀のモヤのようなものが一瞬揺れた気がして眉をひそめて)
……おそらくあの銀色のゆらぎはガイ.アメモ.リの反応だ。彼女が使用者か影響された側かは分からないが何かしらの影響を受けてるのは確かだろう
(物理的証拠がない以上原因を探る手がかりは当事者の証言しかない。今現在の取締役になるまでの過程が曖昧という本の状態と一致した答えが得られて考えをまとめるように思考を巡らせていると玄関から音が鳴り暫くして女性が部屋に入ってくる。彼女と男は婚姻関係にあるが二人の出会いも偶然が重なったもので交際期間もかなり短かったはずだ。簡単な会釈を済ませ男が依頼内容を説明するが彼女は笑って優しく諭す。その瞬間、瞳に一瞬白銀のモヤが揺れて直ぐに立ち消えた。あの現象は一度か二度、施設での実験で見た事がある。彼女の言葉を受けた男は『そうだよな、君が居てこんなに豪華な家とやりがいのある仕事があって、僕は幸せだ』と確認するように呟くと男の表情は幾らか迷いが晴れたようにも見える。その光景を目の当たりにすると相手の傍によって自分の推測を告げる。その後も男と彼女で愛を確かめ合うようなやり取りが続けられた後にこちらを向き『ここまで来てもらって申し訳ないのですが、やっぱり僕の気のせいだったみたいです』と話して)
っ、あのメモリの……待ってくれ。本当に、これで正しいのか?ここが広すぎると思うなら本当はもっと狭いとこに住んでたんじゃないのか?今の会社に違和感があんなら本当は別の仕事に就いてたんじゃねぇのか?本当は、この生活は間違ってんじゃねぇのか?
(一瞬しか捉えられなかった白銀のモヤだが、相手も同じものを目撃したらしくどうやら見間違いではないらしい。しかもあれがあの日大量に見たガ.イ.ア.メ.モ.リ.によるものだと聞けば眉間の皺は更に深くなる。男と彼女はなにやら話が纏まったような風でこちらを家から送り出そうとしているがこのままでは引き下がれない。彼女はメモリの影響を受けているとして、男に白銀が見られなかった以上影響を間接的に受けているのかもしれない。だから言いえぬ違和感を男は抱えている、のかもしれない。確信をもって言える事はない、だが分かるのは二人をこのままにしてはダメだと言うことだけ。ソファから立ち上がり二人を真っ直ぐと見つめる。そしてひとつずつ、男が口にしていた違和感をもう一度突き付けた。最後の一言と共に男は再び不安げな顔へと戻る。同じく彼女の方も瞳が揺れ始めた。瞳に白銀が浮かんでは 消えを繰り返しながら『そんなことない!今は私が夢見てた理想の生活そのものなんだもの!そんなことない!!』と激しく拒絶反応を示す。だが男は何かに気づいたようにハッと顔をあげると『いや違うよ。僕らはこんな生活してなかった。もっと普通の家庭を持ってたはずだ。』と確信めいた事を口にした。彼女は『違う!』とまた強く拒絶反応を示すが、それと同時に彼女の頭の上に今度は白銀の輪っかのようなものが姿を現す。四枚の羽を持った天使の輪のようなそれに驚愕していたが、その輪っかが白銀に光ったと思えば彼女は呻き声をあげて苦しみ出す。彼女を苦しめる原因があの輪だと確信した瞬間に体は動いていて、輪に手を伸ばしてそれを掴んだ。だが輪っかは触れた瞬間にガラスのように高い音を立てて粉々に砕け散ってしまう。同時に周囲の風景にノイズがかかったと思えば、絢爛だった室内は一般的な家庭のそれへと早変わりして)
…元に戻った? だがここまで大きく周りに作用するメモリは僕の記憶に無かったはずだが…。
(まるで用は済んだとばかりに話を終わらせようとする所に相手が立ち上がって再び違和感を突きつける。そうすると男は再び不安げな顔に戻るが彼女が必死に繋ぎ止めようと訴えかけている。その度に白銀が消えては浮かんでを繰り返して激しくメモリが作用するような反応を見せる。今まで見たことの無い現象を興味深そうに観察していると突如彼女の上に輪が浮かんで白銀が光り出す。アレが彼女に作用していた物だろうか。苦しむような声をあげる彼女に相手が手を伸ばしてその輪に触れると何かが割れたような音が響いて辺りの風景にノイズが走る。一際強く光り反射的に目を閉じて次に開いた時には豪華な内装は消え去り一般的な住宅の硬いソファーの上に座っていた。思わぬ出来事に目を瞬かせる。一方で異常なことが起きたにも関わらず周囲から騒然とした声は上がらずに半開きになった窓からは穏やかな風が吹く。男とその妻も『私は今、何をして…』と呆然としている。一連の流れを考えるならメモリの作用が消えて元に戻ったというのが自然だろう。だが今まであの施設で自分が携わった範囲にはここまで大規模な認知や空間を変えるメモリは無かったはずだ。眉を寄せ悩みこみながらも一段と白銀が強く宿した時に彼女が発した「夢見ていた理想の生活…」というキーワードをぽつり呟いて)
なんだ今の……いえ、依頼解決したなら何よりだ。じゃあ俺達はこれで
(強い光を感じで思わず目を瞑り、次の瞬間には全く異なる空間にいてまた驚愕の表情を浮かべる。これがガ.イ.ア.メ.モ.リ.の力なのだろう。未だ困惑してうわ言を繰り返す彼女に男は『間違いなくこれが僕らの家だ』と心底安心したように呟くと彼女を優しくソファに座らせる。続いてこちらに礼を言い頭を下げてくれた男にハードボイルドな男らしくクールに謙遜の言葉を述べ、きっちりとしたキメ顔で軽く手を振れば相手を伴って家を出た。彼女にはあの男とゆっくりする時間が必要だろう。家を出て振り返ってみれば、そこにあるのは周囲に並ぶものと変わらないごくごく一般的な一軒家が立っていた。彼らの言動を合わせれば恐らく先程まで見ていた家や男が感じていた違和感はメモリの影響を受けている彼女を発端とするものだろう。そしてあの天使の輪のようなものが壊れたことで捻れが解消された。彼女があの状況に固執していたのを考えればあれは彼女が望んでいた世界なのかもしれない。その時に相手が家の中で呟いていた単語をふと思い出して「さっきなんか気になってたのか?理想の生活がどうとか」と相手を見やりながらきいて)
…ああ。具体的なメモリの能力や使用者の目的は分からないが結果として影響を受けた人の理想を叶えているのは今の様子を見れば明らかだ。 特に悪影響を受けてる様子もなかった。…ならば彼女を影響下から解放するのは本当に彼女達にとって良い事だったのかい?
(未だ全てを解明出来ては無いが相手に連れられて家を後にする。振り返った際に見えた一時でも夢に見て過ごした空間が幻だったことを知った彼女の顔が強く印象に残った。ごく平凡な一軒家を後にする。他にも類似案件はあったがひとまず鳴.海.荘.吉に任された依頼分はこれで解決だ。帰路に着く中でも暫し考え込んでいて相手に話しかけられると顔をそちらに向ける。考えをまとめるにはアウトプットも必要だろう。一連の流れを見れば男の違和感や落本の丁、家が様変わりしたのがメモリの影響なのは明らかだ。だがそのせいで何か問題があったようには見えなかった。寧ろ元の生活よりも豊かな彼女の望むような生活が用意されていたのだから喜ばしいことだろう。メモリはただの道具に過ぎない。それならばあの時相手が白銀の輪を壊して彼女を解放したことは正解なのかと一番の疑問を相手の目を見ながら問いかけて)
え…………おやっさんなら………確かに彼女は彼女の理想の生活をしてる方が幸せそうだった。でも、彼女が生きてきた中で築いた良いもんも悪いもんも、全部あの人を作るもんだ。だから全部手放さずに生きていく方が良いと、…俺は思う
(自然と事務所への道を歩く中、予想だにもしない問いが投げかけられて思わず足を止めた。暫くこちらを向く相手の目線から逃れる事が出来ず、息を飲みながら相手を見つめる。相手の指摘は最もなものだった。この街を泣かせたくなくておやっさんと同じ探偵の道へと進んだはずなのに、彼女の理想を壊した事によって結果的に彼女にあんなに沈んだ顔をさせてしまったのは事実だった。ならばあの状態から解放すべきではなかったのだろうか、自分が手を出さなければ二人はあの豪華絢爛な家で理想的で幸せな生活を送っていただろう。だが本能はあれは間違っていると叫んでいる、言葉にしようとするも上手く出来なくておやっさんの姿を思い浮かべた。しかし記憶の中にいるおやっさんでもこんな時にどんなハードボイルドな言葉を言ってのけるのか検討もつかない。追うべき背中さえ見失って言葉が萎んで目線が下を向く。軽く深呼吸をした。答えは自分の中にしかない、たっぷりと時間を使ってゆっくりと自分の言葉を引っ張りあげる。それと共にゆっくりと目線をあげ再び相手と目をあわせれば最後には誰にも頼らない、自分の言葉を言い切って)
そういう物なのかい。 …やっぱり僕には分からないな、不都合なことや嫌な事は無くす方法があるのならそれを選ぶべきだ。 でも君の考え方も一つの参考として覚えておくよ。
(促されるまま気になった疑問を問えば相手の足が止まってこちらを見つめたまま静止する。次に出たのは尊敬しているであろう彼の名前だったがその後は言葉が続かない。やがて目線は下に向いて少しの間黙り込む。不思議と急かす言葉は出てこなくて相手が言葉を紡ぐのを待つ。やがてゆっくりと目線が上がりながらも言葉が紡がれていく。いつもは借りてきたような言葉ばかりだが今は相手自身が喋っているように思えた。再び目線があって相手の話が終わる。真正面からその言葉を受け止めて噛み締めながら考えを巡らせるがイマイチピンとこないと呟く。記憶にあるのはあの施設で過ごした事とここに来てからガレージに籠っていた日々だけで相手の言う生きてきた中での忘れるべきでない悪い事も忘れたくない良い事も自分にはない。今だって鳴.海. 荘.吉に連れてこられて、自分にとって都合の良い環境だからココにいるだけだ。変わる事のなかった自分の意見を伝えつつも全く違う相手の考えに関心を抱いたのも事実でいつもよりも幾らか抑揚のある声で言葉を返す。用が済めば「鳴.海.荘.吉の元へ行こうか」と声をかけて再び歩き始め)
不都合な事や嫌な事は無くすべき、か……そう、なのか…?あ、待てよ!
(自分が感じたまま、自分の中からなんとか言葉を引っ張り出したものの相手にはピンとこなかったようだ。自分の考えは伝えたものの、それを裏付ける経験も信念もなくて途端に意思は揺らいでしまう。この街の人を泣かせたくない、その思いに従うならばより笑顔であれる道を選ぶのも正しい事なのだろうか。誰かが幸せであるならそれ以上の事なんてないようにも思える。例えメモリの力で歪んでいても、それは悪くない世界なのだろうか。再び目線は下がって宙を彷徨う。そうやって迷っているうちに相手は歩き出してしまって、後を追うようにして慌ててその場を駆け出した。程なくして事務所にたどり着いて入口扉をあければ何時ものように彼が奥のデスクに座っていて「おやっさん!」と声をかけてデスクへと走りよる。色々と思うことはあったが依頼を解決したことは事実なのだ。興奮気味に依頼人の家に行き不可思議な状態を解消してきたことを報告する。おやっさんは黙ってこちらの言うことを聞いていたが彼を離れて事件を解決出来た事が嬉しくて最後には自慢げな笑みと共に報告を終えて)
……、? …あの白銀の様子を含めて検索してみよう。
(事務所に辿り着けば用を済ませたようで彼が奥のデスクに座っていた。案の定相手は直ぐに表情を明るくしてデスクへと走っていく。興奮気味に依頼を成し遂げてきたことを相手が話せば黙って話を聞いていた彼が短く『よくやった』と褒めるのが聞こえる。それに喜ぶ相手の姿を見れば何かが違うような気がした。だがこの光景に違和感を覚えること自体が妙で眉を寄せる。まともに顔を突き合わせて相手の話を聞いたからこそ変に意識が釣られてるのかもしれない。 二人から離れたソファーに腰掛けて本を開く。男の情報を確認すれば取締役から中小企業の主任に役職は変わり落丁や乱丁も無くなっている。メモリの支配下から解放されたせいだろう。今回見た白銀のモヤや頭の上にあった輪の情報を含めて再度該当するメモリの検索を始める。一方で鳴.海.荘,
吉はもう2つの件を当たっていたようでそのうち1件はその場で同じように解決したらしい。だが対象者の頭の上に浮かんでいた輪っかの羽は3枚と彼は言う。また警察署への通報の人物をツテで今から事務所に呼んで貰うことになったと話せば『応対、お前に任せていいか?』と相手に尋ねて)
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