相乗りで何処までも 【 〆 】

っ、ならその生涯を共にするのがあいつなのはおかしいだろ！……っ、…んな事言われても俺は絶対にお前を、ッ？！おい！！
(どうやら相手は結婚の意味を正しく理解しているらしい。それならば尚更あの男と結婚するなんて口にしている事に心は動揺した。生涯共に生き支え合い幸福も苦難も共にするのを誓う約束よりも強く尊く特別な結婚という繋がり。いつも共にいて幸せを分かち合い最期の時まで一緒であるなら、その相手は絶対にあの高橋という男ではない。結婚するのにより相応しいのは、とそれ以上の言葉は決心がつかずに言葉に出来なかった。その間に相手は顔を顰めて目を瞑る、どうやら頭に痛みを感じているようでメモリの影響から抜け出そうとしているのかもしれない。しかしその淡い期待はすぐに崩れ去る。こちらを幸せに塗れた瞳で見つめ諭すように結婚しにいくと告げられると、メモリの影響だと理解しているはずなのに自分の心を構成するものが音を立てて崩れていくようだった。こちらを懇願するように見つめる目はいつもならば全てを叶えたくなるものだが、今は自分に想いが向いていなくて心に突き刺さるものとなる。苦し紛れにノーを突きつけようとするがその前に相手が行動に移った。不意に正面から相手がいなくなり両肩に置いていた手は宙を漂う。そのまま相手は事務所を飛び出してしまった。慌てて後を追うも一台のタクシーが走り去った後で窓からは相手の後ろ姿が見えた。あっという間の出来事にしばし呆然としていたが、徐々に怒りの感情がグラグラと湧いてきて「あ゛ーーーー！クソッ！！」と空に向かって思いっきり叫ぶ。急いで事務所に戻り道具をかき集め愛用のハットを被れば再び事務所を出ていく。バイクに跨りエンジンをスタートさせれば急いで潮風通りへと向かい)

…っ＿＿ …ありがとう。着替えてくるよ。……綺麗だ、
(発進したタクシーは自分の知らない道を通って海沿いへと向かっていく。彼と交した約束通り会場に向かって式をあげなければならない。当然のことであるはずなのに必死にそれを止めようとする相棒の表情が何か引っかかる。だが深く考えようとすればそれを邪魔するように頭痛がしたりくらりと視界が揺れて思考が纏まらない。そんなことを繰り返していると潮風通りに着いたようで工場の一帯を抜けたあとにある広い建物の前でタクシーが止まる。車のドアが開くとタキシードのような服を着た彼が立って待っていて手を引かれて降りる。『君の為に貸切にしたんだ』と上機嫌に彼が言う通り見ている限りに人影はない。西洋の城にも似た美しい外装を興味のまま観察していると『早く準備をしよう。』と強引に手を引かれ建物の中に入っていく。中にも広い受付や沢山の部屋があるようだが男は自分のペースで進んでいきやがて控え室と書かれた部屋へと入るように促される。大きな鏡があるその部屋にはメイク道具などが準備されていて中央には真っ白なワンピースが掛かっている。肩周りを隠すようなボレロも準備されていて気合いの入れ方が伺える。『急なお誘いだったからウェディングドレスは準備出来なかったけどコレもきっと似合うはずだよ』と興奮しながら語る男に礼を伝えてから準備に取り掛かる。着替えてリクエスト通り清楚系なメイクを施してから男に見せると大喜びされて興奮したように感想をまくしたてられた。仕上げにとウェディングベールを頭に被せられると『邪魔者が来ない内に式を挙げてしまおう』と急かされチャペルに向かうと相棒の言った通り純白の内装に人の背よりもずっと大きいガラス窓の先には街の象徴である風.都.タ.ワ.ーが移り何とも美しく幻想的とも言える景色が広がっていて思わず呟きを零す。結婚相手である彼と共にいるせいか事務所にいる時よりも頭に靄がかかったような感覚がしながらも促されるまま腕を組めば誰も居ない式場のバージンロードをゆっくり歩き始めて)

チッ、見張りか……おいファング！出てこいよ！___お前もフィリップを守るってんなら今回は共闘だ
(バイクを会場前に停めれば入口に警備員、更に受付付近にも人影らしきものが見える。皆仕事をする素振りもなくぼんやりと佇んでいて不可解な光景を観察していれば、警備員の瞳が一瞬朱殷に揺らめくのが見えた。どうやら従業員もメモリの影響を受けているらしい。見つかれば相手のように支離滅裂なことを言われ追い返されてしまうだろう。ここは探偵らしく潜入する必要がありそうだ。ドライバーは持ってきたものの相手があの様子では変身にはあまり期待できない。となれば頼りは前回と同じくガジェット達だ。ポケットの中のギ.ジ.メ.モ.リ.を確かめた後潜入しようとするがその前にふともう一人味方に出来るものがあるのに気がつく。周囲に向かって呼びかければおずおずと草陰からファングが出てきた。嫌な思い出から始まったメモリだが相手を守るという行為は一貫している。ならば今回は相手を救い出すという目的は一致するはず、休戦して共闘を申し出るとファングは短く咆哮をあげ共闘関係が結ばれた。心強い味方も得たところでまずは建物を観察する。従業員が喫煙するスペースがあり、その横に扉があってあそこから侵入することができそうだ。その為には入口付近にいる警備員の視線を逸らす事が必要だろう。バ.ッ.ト.シ.ョ.ッ.,ト.をライブモードにすると扉とは離れた位置へ放ってそこで警報に似た音を出させる。こちらの思惑通り警備員は音の方に気を取られ、その間に建物の中へと侵入した。廊下を歩き相手を探す間も邪魔な位置にいる従業員をス.パ.イ.ダ.ー.シ.,ョ.ッ.ク.で誘導したり、ガードマンらしき男にはちあわせてしまった時はファングで少々手粗に眠ってもらったりして会場の中を進んでいく。人気は少なくおそらくあの男はここを貸切にしているのだろう。やがて会場を歩き回っていると建物内の地図を見つけ相手がいそうな場所を探し始めて)

……？ …ああ、誓いま、っ……！ …ぃ、やだ
(何処からか場に相応しい音楽が流れ始め一歩一歩足並みを揃えて進んでいく。ふと周りを見れば鏡面に二人の姿が映る。純白とも言えるワンピースは綺麗であるが何となくあの夜まで何も考えることなく与えられるまま着ていた白い服を連想させた。それにこうして誰かと共に歩くのには慣れているはずなのに肩の高さもたまに触れ合う体温もどちらともなく合っていた歩幅も何かが違う気がする。違和感を抱えるものの目の前の男と結婚する物だと
刻まれた認識を覆す程度ではなく上機嫌な男に合わせて進んでいけば祭壇の前に辿り着く。祭壇にはいつの間にか牧師らしき人物が立っていて朱殷を含んだ視線が男に向けられる。厳粛な空気の中牧師が誓いの言葉を読み上げていき男が期待を抑えきれない声で誓いを交わす。今度は牧師がこちらを向いて『病める時も、健やかなる時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか？』と問う。一呼吸置いて男と同じく承諾の言葉を返そうとするも最後まで声にならずに言い淀む。それだけは言ってはならないと警鐘が鳴っている。認識とは相反する本能に従い堪えるように唇を噛み締めているとこちらが誓いをするのを待っていた男が痺れを切らして苛立ちを表にしながらも『…まあいいよ、式さえ終えれば完全に俺の物になるし』と吐き捨てるとベールをあげられる。牧師の合図の元式場の鐘が大きく鳴り始めると肩に手を置かれゆっくりと顔が近付いてくる。身体はいつの間にか石になったかのように動けなくなっていてその様子を見ていることしか出来ない。残り数センチの距離まで近付いた所で嫌悪感が強く出れば僅かに顔を逸らし弱々しく拒絶の言葉を向けながらも来てしまう接触に絶えるように目を瞑って)

_____っ！その結婚待ったああああッ！！
(地図を確認すれば相手に話した人気のチャペルの位置を見つけてそちらへと走る。廊下を駆け抜け入口を見つけると結婚式でかかっているようなそれっぽいBGMが聞こえてきて相手があそこにいると確信した。鐘の音が響き渡る中勢い良く両開きの扉を開ける。目に飛び込んで来たのは純白の服を着る相手と憎き男の姿が向かい合い、今まさに誓いのキスを交わそうとしている所だった。考えるよりも先に体が動き出し鐘の音を引き裂くように声をあげる。走り始めたところでもう少しこの場を認識することが出来て、相手が嫌悪感を顕にして僅かに顔を逸らしているのを見ると、頭の中でプチンと何かがキレた気がした。バージンロードを駆け抜けるがそれよりも早く動いたのがファングだった。こちらの怒りと同じく怒涛の速さで相手の元へ向かえば、迫っている男に思いっきり体当たりし男を吹き飛ばしたのだ。次いで牧師の前に置かれていた煌びやかなペアのリングを見つけると咆哮の後にそれらに思いっきり噛みつき男の方へと吐き捨てる。無惨にもぐにゃぐにゃに曲がった指輪が二つ男の前に落ちれば、男は『僕たちの結婚指輪がー！！』と悲痛な叫び声をあげていた。内心で心の底からファングを褒めながら急いで相手の元に駆け寄る。男に代わり相手に向き合うとその頬に手を添えて「大丈夫かフィリップ！」と手出しされていないかと心配そうに見つめ)

＿っ、…翔太郎、僕は何を…。 大丈夫だ、君達が助けに来てくれた。…っ、く…ぁ、翔、たろ…たす、け…て
(男が近づいてくるのがわかる。単なる接触ではない遠回りながらも関係が深くなる中で教えてくれたキスの意味を思い出せばその相手はこの男ではないと拒絶反応を示す。だが身体は何故か動かなくてその時が来るのを待つしか出来なかった。その空間を破るように聞こえてきたのは扉を開く音と相手の大声で咄嗟に目を開ければ男も驚きに動きを止めていた。そこに咆哮をあげながらファングが飛び込んできては男を突き飛ばす。更に事前に準備していたのだろう指輪に激しく食らいつき、ぐちゃぐちゃになった残骸を吐き出す姿に状況を把握しきれず呆然と見ることしか出来なかった。その後直ぐに相棒が駆け寄ってきて心配するように頬に手が添えられる。その温度に漸くメモリの支配は薄れ今の状況を飲み込むことが出来れば相手を見つめて名前を呼ぶ。だがそれと同時に今からしようとしていたことを認識すれば顔を青くして震えた声を漏らす。自分が何よりも大切なのは目の前の相手なのに他の人と共にいる契約を交わす所だった。その事実に動揺しながらも心配そうな相手の顔が視界に入れば感極まって相手に抱き着いてまだ何もされてない事を告げる。相手と未だ男の足元で威嚇しているファングが助けに来てくれたおかげで致命的なことはされずに済んだ。自分がいるべき場所を確かめるように強く抱きついているとゆらりと男は立ち上がり抱きついている姿が気に障ったのか『僕の…僕の運命の人を返せええっ！』と叫んだかと思えばSeizureのメモリを手首に突き刺す。男の体が異形な物に変化すると共にメモリの影響力が強まればまた瞳に朱殷が浮かんで苦痛の声をあげる。大切な物が書き換えられていくような感覚、もう相手が何よりも大切なことは忘れたくなくて腕に力を込めて縋り付いて抗いながらも目の前の恋人に助けを求めて)

良かった……っ、フィリップ！おいフィリップ！！くそッ………いいかよく聞け！こいつは俺の相棒で、恋人だ！俺が運命の相手に決まってんだろ！！
(頬に手を添えれば相手は正気を取り戻したのかいつもの目がこちらへと向いて名前を呼ばれる
。漸く戻ってきた恋人に安堵の息を吐くが、直後相手の顔が青ざめていく。手出しはギリギリされていないようだが無抵抗の相手に口付けを、それも永遠を誓う口付けをしようとするなんて卑劣にも程がある。こちらへ抱きつく相手をしっかりと抱き留め抱き締め返し、安心させるように背中をさする。だが男はファングの体当たりから体勢を建て直したようで、立ち上がる気配を感じれば男へと目を向けた。直後メモリが男へと飲み込まれていってその姿が怪物へと変化する。同時に腕の中の相手は苦しむような声をあげてこちらを強く掴む、その様子に焦ってただ名前を呼んだ。怒りを隠さずに怪物の方を睨む、相手を手に入れるだなんて時点で言語道断だがその為に手段を選ばず相手を苦しめるなんて許せるはずがない。先程の反応を見るに相手を呼び戻す鍵はこちらと触れる事だ、必要なのはあれよりももっと強く結びつきを感じる接触。そこまで考えて、そしてこの場所の特性も相まってやるべき事に思い当たる。普段ならば絶対にしない言動だが、今は怒りが頂点に達していて歯止めなどきかない。事務所で囁かれた質問を思い出す、あの時は濁してしまったが今ならハッキリとこの男に宣言することが出来る。片腕で相手を支えたままもう片方の手を怪物にビシリと突きつける。そして今度こそ、相手が自分にとってどういう存在なのかを宣言してやる。ついでに怪物が口走った『運命』なんて言葉も奪い去ってやった。そして相手の後頭部へと手を支えると、未だ鐘の音が鳴り響く中で相手へと口付けて)

……ッ…、…翔太郎、君の想いはちゃんと届いたよ。 僕は君の運命の人なんかじゃない。それに誰かに無理矢理従わせられるのも真っ平ごめんだ。 僕が生涯を共に歩むのは翔太郎だけで良い。
(相手が何度も名前を呼んでいるのは聞こえるが上手く身体が動かない。相手に触れている場所の感覚だけで辛うじて今の意識を繋いではいるが強力なメモリ後からの前ではそう長く持たないだろう。相手にもたれ掛かるような体勢でその声だけを聞いていると後頭部に手が添えられて唇同士が触れる。大切な人とする特別な口付け。 何度も味わいその度に幸せな気持ちとなる行為は相手との繋がりを感じるには十分で侵食していたメモリの影響がピタリと止まる。今触れている人こそが間違いなく自らの一番大切な人なのだと心の底から感じられるとパチンとまた頭の中で何かが弾けてそっと顔を離す。いつも通りの瞳を向ければ今度こそ相手のおかげで正気を取り戻させたことを軽く笑みを見せながら告げる。相手の強く熱い想いがメモリの力を上回ったのだ。ならば次は自分の番だと怪物となった男の前に立つ。そして真っ向から彼の言い分を切り捨て自らの意思を伝える。Seizureは人の意識を無理矢理奪い掌握するメモリだ。恐らく彼は一目惚れした自分にお人形の如く傍にいて欲しかったのだろう。だが今の自分は誰かの指図を受けて生きるつもりは微塵もない。自らの意思で動き自らが大切だと思う相棒の傍に居たい。真っ向からそう反抗すれば『うるさいうるさい、君は僕の傍に黙っていれば良いんだ』と癇癪を起こし朱殷の攻撃を放つ。それをファングが弾いてくれると洗脳されても尚肌身離さず持っていた緑のメモリを構えては「行けそうかい、翔太郎？」と好戦的な笑みを向けて尋ね)

フィリップ……その調子じゃお前の隣に居てくれる奴なんて現れそうにねぇな。___もちろんだぜ、変身ッ！
(メモリの影響を振り払い相手を呼び戻すために送った口付け、ゆっくりと互いの唇が離れ目を開けるとそこにはいつもの笑みを浮かべる相手がいた。もうこの瞳に朱殷が宿ることは無い、再び安堵してこちらも笑みを浮かべる。もう少し相手が戻ってきた喜びを分かち合いたい所だがこの場はまだ終わっていない。相手が怪物に向かってキッパリと別れの言葉を告げるのを隣で黙って聞く。相手はかなりストレートな告白めいた事を叫んでいて普段なら赤面してしまうところだが、怒りと相手が元に戻った嬉しさと敵を目の前にした集中で顔色ひとつ変えずに相手の言葉を聞いていた。目の前で喉から手が出る程欲していた人のキスを見せられはっきりと決別を通告されれば怪物は癇癪を起こしていたが、あの調子では運命の人に巡り会うには遠すぎるだろう。生涯を共に生きるというのは片方が片方に黙って付き従う事じゃない。お互いを想い地獄の底さえ歩き事切れるまで共にある事を誓った今の二人の前では、男がメモリで作り出した幻想の誓いなど薄っぺらいものだ。相手がメインメモリである緑のメモリを構える。それに不敵に笑って応えると、腰にドライバーを装着し紫のメモリを構えた。相手の腰にドライバーが現れメモリが装填される、同時に相手の意識がこちらに流れ込んでくるのを感じればドライバーを起動させて変身を果たした。朱殷の攻撃は変わらずファングが弾いてくれている。この隙をついて一気に決めたいところだが「このチャペルを傷つけるわけにはいかねぇな」と街の人に愛されるこの場を守ることを決める。そうなれば必要なのは敵だけに攻撃が命中する大技、該当する必殺技はすぐに思い浮かんだ。相手と呼吸を合わせそれぞれのメモリを黄色も青色のメモリへ交換するとト.リ.ガ.,ー.マ.グ.ナ.ム.を構え「一気に決めるぜ！」と相手に呼びかけて)

ああ、被害を最小限に一気に決めるならアレだ。 ト.リ.ガ.ー.フ.ル.バー.スト！！ __＿ …また君に助けて貰ったね。 来てくれてありがとう。…それと、メモリの影響とはいえ他人と結婚しようとしたのも事実だ…ごめん。
(二人が横に並べば怖いものは無い。腰に現れたドライバーにメモリを装填し意識を相手の身に移すと二人で一人の姿となる。怪物を止めないといけないがこの真っ白で美しいチャペルを壊す訳にもいかない。本来結婚とは大切な人と永遠を誓う幸せの満ち溢れた儀式だ。そんな風.都一の場所を守ることに同意し、その為の方法が意識の中で一致すれば思わず仮面の下で笑みが零れた。メモリを交換して怪物に銃口を向ける。共に技の名前を叫びトリガーを引けば青と黄色の光弾が複数放たれ、曲線を描いた後ド.ー.パ.ン.トの急所に的確にヒットする。男は呻き声をあげながら倒れ込みそれと共に異形の姿は人間の物に戻る。排出された朱殷のメモリが粉々に砕け散ったを確認すれば変身を解いて元の身体へと戻る。これでひとまずはこの騒動も終わりだ。彼も一方的で身勝手な愛ではダメな事を今回の件で学んでくれると良いのだが。そんな感傷に浸っていると複数人がチャペルの中に駆け込んでくる。どうやら式場の支配人やスタッフもメモリの支配を受けて居たようで正気に戻って様子を見に来たらしい。状況説明と事務所の名前を出せば話はスムーズに進み、スタッフの方で警察への説明や事後処理をしてくれるようだ。『今日は予約のお客様も居ないので良かったらゆっくりみて帰ってください』との支配人の好意に甘え彼らが男を連れて立ち去るのを見届ければチャペルに二人きりとなる。無事解決したことも相棒と共に居られることも喜ばしいことなのにメモリのせいとはいえ一番大切な人に他人と結婚すると言って事務所を飛び出した手前、2人きりは何だか気まずい。もしも相手が突然他人と結婚すると言い出した時の事を想像すればその辛さは容易に想像がつく。恐る恐ると言ったように相手の方を向くとまずは助けに来てくれたお礼を切り出す。それから一呼吸置いてその話を告げるも申し訳なさと罪悪感か募れば視線は下がって謝罪を口にして)

気にすんな、お互い様だしこれくらい朝飯前だしな。…、…謝る必要ねぇよ、最初からお前の様子がおかしいのは分かってたしそれに………………俺達は、その…今まで通りって事が、よく分かったわけだしな、うん
(二人で一人の手から放たれた光弾はド.ー.パ.ン.トのみを的確にうちぬいてメ.モ.リ.ブ.レ.イ.ク.を果たす。無事にこのチャペルを守りつつあの男にキツイお灸を据える事が出来たようだ。変身を解除し一息ついていれば会場のスタッフが中に駆け込んできて、一通りの説明をすれば男を担いで慌ただしくチャペルを出ていく。まさかこのまま見学が許されるとは思わなくて呆気にとられたままチャペルで相手と二人きりになった。相手の方に向き直れば何処か気まずそうな顔を浮かべていて、その緊張を解すように柔らかな目で相手を見つめる。先ずは感謝を伝えられればヒラリとニヒルな笑みと共に返事をした。それを言えばこちらもついこの前助けに駆けつけてもらったばかりだ。あの時とは緊迫度が随分と違ったが、どんな状況でも相手を取り戻したいと思う気持ちはお互いに同じという事だろう。そして続いたのは謝罪の言葉、結婚するだなんて言い出した事に傷つかなかったと言えば嘘になるが原因は全てあの男にある。メモリの影響だと分かれば相手が謝る事も無いと首を振った。それにあんな状況に晒されたからこそ、互いの想いを包み隠さず叫ぶ事になったのだ。と、そこまで考えたところでふと我に返って体が固まる。ここは結婚を誓い合うチャペルで目の前にはウェディングドレスを模した純白のワンピースを着た相手。そんな状況で自分が口にした事、こちらがやった事、相手が宣言した事、それらを冷静に思い返せば、あまりに心のまま運命だなんだとクサイ言葉を叫び衝動のまま行動していた事に気がついて、顔から火が出る勢いでそこが熱くなるのを感じた。慌ててハットに手をやり目深に被って顔を隠す。今更羞恥に襲われ思いっきり動揺しながら、途切れ途切れに返事をしていて)

…、今まで通りっていうのはどういうことだい？ 僕が君にとっての相棒で、恋人で…運命の人ってことだろうか。
(様子がおかしかったのを最初から気づいていたと聞けば流石探偵というべきか。柔らかな目と言葉に幾らか気が楽にはなるが完全には罪悪感が拭えずにいた。そんな中で突然相手の言葉が途切れる。不思議に思って視線を向けると何かに考えが至ったのか急にその顔が赤く染まっていく。突然のことに目を瞬かせるもその後に途切れ途切れに続いた言葉と動揺しきったような様子からその原因に検討がついて次第に口元が緩んでいく。薄れゆく意識の中でもハッキリと聞こえた男に向けた相棒の言葉。2人きりでも感極まったりしなければ言わないような言葉を自分を取り戻す為に宣言をして口付けをしてくれたのだ。遅れてその言葉に対する嬉しさが湧いてくれば深くハットを被ってしまった相手に近付き顔を覗き込みながらも更にその言葉を深掘りするように問いかける。その顔はすっかり楽しそうな表情に変わっていて分からないといった定で話を進めながらもハットを持つ手を重ねてから下げさせる。相手を見つめ言ってくれた言葉を幸せそうに噛み締めるように口にしながらも反応を伺って)

な、だからそれは、……そう、だよ……運命ってのがあるなら、隣はお前しかありえねぇ……、ほんとの結婚式みたいじゃねぇか……
(せっかくハットで顔を隠したというのに相手はこちらを覗き込んでくる。純白の空間に純白の服を着た相手が楽しそうに笑っているのを見れば否応なしに心は掴まれて、心臓が跳ねると同時に呼吸が詰まったのが分かった。ついにはハットに添えた手も相手の手と共に取り下げられてしまって顔を隠す手段は無くなってしまった。とぼけるにはもう遅い上、相手が心底幸せそうにこちらが口走った言葉を繰り返すものだから誤魔化すこともできない。最後には観念するように肯定し、相手と目を合わせ次の瞬間には逸らしと目線をゆらゆらさせながら答える。しかしやはり運命なんて浮ついた言葉を口にするのは恥ずかしい。導かれるよう運命的に出会った相手とこの先も共にある事を選んでいくと返事をするも、それはまるで結婚式でよくある牧師が読み上げる宣誓の内容と一緒だ。それに気づけば余計に恥ずかしくなってしまい繋いでいない方の手で拳を作って口元に当てるとせめてそこだけでも隠そうとし)

…ふふ、僕もこれからもずっと隣にいて欲しいと思うのは君だけだ。 …せっかくなら今からするかい？ 僕らの結婚式、
(じっと相手を見つめていれば言い訳をするような言葉が重ねられるも目が合えばすぐにそらされつつも観念したように肯定の返事がされる。決まらない様子はとてもハードボイルドとは言えないものだが、だからこそ素の相手らしく愛おしく思えて笑い声が漏れる。何の確証も無い言葉だが相手と出逢えた事とこの先もずっと一緒に歩んでいく関係になれたことは運命と言ってしまっても良いような気もしてくる。手を繋いだまま真に隣に居てこれからも一緒に居たいのは相手だけだとこちらも同じ気持ちであると告げた。祭壇でお互いのことを思い将来共にあることを誓う、確かに相手の言う通り今言い合っていることは結婚式でやる内容と同じことをしている事に気付く。暫く見学しても良いとされたチャペルに二人きり、そうなればやることは一つだ。口元を隠そうとする手すら掴んで相手の両手を捉えれば更に一歩近付いて期待に目を輝かせながらとびっきりの提案をして)

え……な、は？！結婚式っつってもどうやって…
(慣れない晴れの会場に慣れない言葉を口走って恥ずかしさで頭はパニックだが、相手がこちらと同じように隣にいると言葉を送ってくれると胸は華やいで顔を赤らめながらも笑顔が浮かぶ。あらゆる形で、あらゆる言葉で、何度も繰り返してきた内容だが、その想いは何度聞いてもこの胸を暖かくする。顔に熱が上がっているのも相まって浮遊感の伴う幸せを噛み締めていた所で結婚式をするなんて言い出した相手に目を見開きまた固まってしまった。相手の言葉を正しく飲み込んだもののやはり頭はパニックのままでまたも大きな声をあげた。確かにこのチャペルはこの街を象徴する風.都.タ.ワ.ーを背景にしていて風.都.の探偵である二人にとっては絶好の場所であるし、こちらはスーツで相手は純白のワンピースで、しかも二人きりとなれば状況としてはバッチリだ。だが縁遠いと思っていた結婚なんて言葉が突然降り掛かってくると焦ってしどろもどろになる。しかし両手を掴まれ輝く目で見つめられればもうなにも言えなくなってしまう。相手の愛おしいと思う箇所であるそこが煌めけば何でも言う事を聞いてしまうのだ。詰まらせた息をゆっくり吐き出すと口元に緩い笑みを浮かべ「やるか、指輪ねぇけど」と今度は目線を真っ直ぐ向けながら答える。繋がった手をエスコートするように持ちかえれば、手を引いて二人並び前方に設置された台の方へと歩んでいき)

ああ、どうせ二人きりなのだから僕らの好きにやれば良い。＿＿ ごほん、それじゃあ左.翔.太.郎。 君は病める時も健やかなる時もどんな場所でも僕を相棒として恋人として支え合い、命尽きる最期の時まで隣に居てくれると誓ってくれるかい？
(相手は相変わらずパニック状態で結婚式の話を持ち出せばまた固まってしまった。これだけ条件が揃っているのだからやらない方が損という奴だろう。相手の手を握り期待を込めた視線を送っていると焦っていた表情は途端解けて緩い笑みと共に承諾の返事がされるとこちらも明るい表情を見せる。結婚式と言っても誰かに見せる訳でも特別な書類などを提出する為のものでもない。何かが大きく変わる訳でも無い二人きりの自己満足に過ぎない行為ではあるが、今は相手とそういう事をしたい気分なのだ。繋がった手をエスコートするように引かれて相手の右側に立ちバージンロードを進んでいく。並んだ肩の高さも不思議と合う歩幅も繋いだ手の温もりも全て馴染み深くて大好きな相手のモノだ。やがて台の前までやってくれば相手と向き合う。その場の空気に多少緊張を覚え気持ちを落ち着かせるように咳払いをすれば真っ直ぐと相手を見つめてフルネームを呼ぶ。それから牧師が言っていた内容を自分なりの言葉として紡ぐと約束を違わないかと優しく問いかけて)

あぁもちろん、誓います。じゃあフィリップ……お前は病める時も健やかなる時も、二人で居る時も離れている時も二人になってる時も、共に支え合い命尽きる最期の時まで俺の右隣に居ることを誓ってくれるか？
(バージンロードを並んで歩いて階段を上がる、ドライバーを介さなくとも二人の呼吸はピタリとあって誓いを交わす場所へとたどり着くと相手と向き合い目線を交わした。二人しかいないが、だからこそより特別な雰囲気がこの場に漂っていてこちらも緊張感が顔に浮かぶ。たった二人きりのチャペルの中はシンと静まりかえっていて相手の咳払いが反響してよく聞こえる。そんな中で相手から改まった雰囲気で名前を呼ばれた後に誓いの内容が告げられていく。チャペルの中に反響した相手の声が様々な方向から聞こえてきて、まるで相手の声に包まれているようだった。これまで何度も交わした約束、つい先日はより深みに堕ちる薄暗さを伴って交わしたものだったが今日は同じ内容でもより晴れやかで明るく、そして結婚式であるならその繋がりはより深くなる。相手の目を真っ直ぐ見つめ風.都.タ.ワ.ー.に見守られながら約束を守ることを誓った。次はこちらの番だ。軽く息を吐いて緊張を解し繋がった手に無意識に力を込めながら名前を呼ぶ。そして同じく結婚式の記憶を引っ張りだしながら自分なりの言葉で誓いを紡ぐと、約束を違わないか相手の目を見つめながら問うて)

勿論誓うよ。君と生涯を歩みたい。……翔太郎、
(こうして顔を突合せて向かい合うのは慣れきっているはずなのに、真っ白で幻想的とも言えるチャペルの空間のせいでつい緊張してしまう。こちらが誓いの言葉を読み上げると真っ直ぐな目がこちらに向けられ力強く肯定の返事がされる。それに自然と笑みが浮かぶと今度は相手が繋いだ手を強く握って名前を呼ぶ。続けて紡がれる誓いの言葉は何度だって交わした約束だが式場という神聖な場所だとより身の引き締まる想いだ。そのチャペルの目玉とも言えるガラス窓の先にはこの街のシンボルが見える。本来こういう場では本来神様に誓うのだろうが、この街を守る二人としては風.都.タ.ワ.ーに誓うのが自然なような気がした。街の景色が見えるこの場所で相手を見つめて自らの意思で約束を守ることと望みを伝える。何処までも相乗りするのならその過程の幸福も苦難も分け合い二人の望みを叶えるために支え合う、そんな未来を相手と歩みたい。シンプルな言葉でまとめれば少し照れ臭そうに笑うも更に一歩近付いて相手との距離を縮める。先程は自分を正気に戻すためのものだったが今度は純粋に自分達の為だけの誓いの口付けがしたい。瞳に期待の色を乗せ強請るように名前を呼べばその瞬間を待ち望むように瞼を閉じて)

、フィリップ……___
(相手からの返事が返ってくると柔らかに微笑む。その後に続いた言葉には胸を強く掴まれた気がして息を詰まらせながらその名を呼ぶ。これまで同じ意味の事を表現するのに、相乗りだとか二人で一人だとか、二人にしかない言葉を選んで使ってきた。だが今結婚式という場でごく有り触れたシンプルな言葉で想いを伝えられると、この世に生きる他の人達と同様に自分達も幸せな時を迎えているのだと実感して胸が華やぐのを感じた。相手がこちらへ一歩近づく、そして期待の色を乗せて名前を呼ばれ相手は目をつぶった。ここで相手が何を望んでいるのか分からない程バカではない。こちらからも一歩近づくと片手は腰にまわし、もう片方の手は後頭部に添える。そして再びゆっくりと唇を重ね、誓いのキスを交わした。何よりも大切な相棒で恋人、その相手と生涯喜びも悲しみも分かちあって生きていきたい。胸に溢れる想いの分唇を重ねたあとゆっくりと離す。そのタイミングで賑やかな音が聞こえてそちらへと目を向けた。いつの間にかファングを含めたガジェット達が階段の下に集まっていてピコピコと電子音を発したり咆哮をあげたりしながら飛んだり跳ねたりしていて、どうやら二人を祝福してくれているようだった。二人っきりの結婚式かと思ったが「こいつらと風.都.タ.ワ.ー.が証人みたいだな」と立会人がいた事に笑みを浮かべるとまた相手に視線を戻して)

……ん…、本当だ。 君達も僕たちの未来を見守って手を貸してくれるかい？ 、頼もしい証人だね。
(目を瞑って待っていると腰と後頭部に手が添えられてゆっくりと唇が重なる。周りに音や気配もなくただ相手の温もりと込み上げてくる感情を確かめるようなキスは幸せ以外の何物でもない。お互いの未来を誓うように長くキスをしてから唇を離すと目を開いて満足そうに微笑む。そのタイミングで何やら騒がしい音が聞こえて共にそちらに目を向ける。そこにはガジェット達が集まっていて思い思いに電子音を鳴らしたりはしゃぐような動きを見せる。思わぬ立会人に一瞬目を見開くも直ぐに笑みが零れた。彼らも普段の探偵業で情報を集めてくれたりピンチに陥った際に状況を打破するきっかけとなってくれたりする大切な仲間だ。そんな彼らに祝福されるのが嬉しくてこれから誓った未来の為にも協力してくれるように声を掛ければそれに応えるように一斉にガジェット達が音を出したり飛び跳ねたりし出す。その様子に更に笑みを深めて呟けば改めて相手に視線を戻す。相手と共に将来を歩むことを改めて言葉にして誓い合う儀式めいた体験に「結婚式とは良い物だね」と嬉しそうに感想を口にして)