鳴上 悠 2022-07-06 12:59:58 |
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(アパートの台所前の床で彼の身体の下に閉じ込められている。
手錠やらで縛られている訳でもなく、押さえつけられている訳でもないのにそこから逃げられない。
――それが逃げたくないのかは判断がつかないままで。
彼の口調は未だ楽しげでいつもは気にならない態度も今は憎らしい。
顔が熱いのも身体が動かないのもあなたのせいなのに、と認められたらどれだけ楽だろうか。
子供扱いされたくないといいながら子供で逃げようとする自分を棚に上げて言い訳して)
子供なのは事実ですから。
っ…分かってる癖に、…ほんと性格、悪い。
(心を掻き乱すような問い。
絶対この人は分かってて、意地の悪い聞き方をするんだ。
人殺しに人格を求めても仕方ないとは思うが、今は言わずには居られなくてこっそり彼を睨みつけながらも悪態ついて
そんな状態で追い打ちをかけるように名前を呼ばれるとそれだけでぴくりと肩ふるせて)
(早朝の台所前の床。
僕が悠君を押し倒している場所だけ、時間が止まったような感覚だった。
彼の顔はずっと赤いまま。
抵抗するような素振りも見えない。
それでも口では拒絶する所がやっぱり子供だ。
本心とは正反対の事を言い、此方を余計に刺激してくる。
悠君はこんなに悪戯心をくすぐる人間だったんだろうか、と思いながら)
……じゃあ……言ってごらんよ。離れないで……どうしてほしい?
(『分かってる癖に』という言葉を聞いて、僕はゆっくり、吐息と共に問う)
(嫌だと聞けば大抵な人は離れていくのに彼はそのまま。
余程自分のこの姿が面白いのだろうか。
本当に悪い大人だ。
それでも彼を嫌いになれないのだからどうしようもない。
このまま黙秘を続けようと口を噤むが、何処か優しく感じるような口調と至近距離で感じた吐息にぐらりと理性溶かされそうになるとそっと口を開いて)
……っ、…きす、されるかと…おもって
(浮ついた瞳向けると彼に促されるまま消え失せそうな声で白状して)
(悠君の眼が僕に向けられ、発せられた言葉。
消え失せそうなか細い声だが確かに聞こえた彼の望み。
その顔は、今にもして欲しいと強請っているようにも見えてくる。
僕の身体が熱くなってくるのを感じた。
もはや、朝食なんてどうでも良くなっていて。
僕は口角を上げる。
そして、何も言わず悠君の唇に僕自身の唇を重ねた)
(言ってしまった、と背筋が冷たくなって視線を伏せた。
ドン引きされた?それとも気持ち悪いと思われただろうか。
沈黙が痛くてこのまま死んでしまいたかった。
でも何とか誤魔化そうと「なんて冗談ですよ。」と口が紡ごうとして恐る恐る見上げると彼と目が合って。
その楽しげな笑みに目を奪われた。)
…なんて、ッ!?、
(それからはスローモーションで近づいていく彼の顔。
何故なのかと疑問が頭を支配してはその場を動けずにいるとそのまま彼が近づいて唇に柔らかな感覚がした。
その意味に気付いた瞬間、目を見開いて身を硬直させ)
(なにかを言おうとしていたようだが、それは僕の口によって防がれる。
そのままずっと唇を離さず、片方の手を悠君の後ろ髪に回した。
より密着させるように。
僕から、逃げられないように)
……。
(同じ男なのに柔らかい感触。
僕は不思議な心地よさに身を投げていた。
目を見開いて身体を強張らせる悠君は
憎たらしくもあり、愛しさもある。
そんな彼を見て溢れ出すこの欲を、どう止められようか――)
(質の悪い冗談だと初めは思った。
だから一瞬触れるだけで直ぐに離れると思ったのに予想は裏切られ、逆に後ろ手が回って更に密着した。
ますますパニックになる。何故が頭の中を支配する。
この人の考えてることが心底分からない。
――だけど決してキス自体は嫌ではなくて。
真意を探るように彼に目線を向ける)
…!……、っ、…
(一度落ち着こうと唇を離そうとすればまた強引に重ねられて。
それを何度も繰り返す。
柔らかい感触と伝わる熱はゆっくりと心の何かを溶かしていくようで
長くなっていく口付けの中、見開いていた目はうっとりと溺れるように細められていき)
(後頭部へ手を回し、唇が離されれば
息を吐きながらもう一度。
もう一度。
悠君の頭をそのままに、長い口付けを。
――しばらくして、顔を離す。
彼の眼は溶けたように細くなっていた。
肩で息をついてから、僕は尋ねる)
君、昨日僕の『友達1号』って言ったよね?その言葉に責任、持てる?
(悠君の目から視線を外さず、薄く笑いながら)
(離れたらもう一度。
言葉を交わす訳でも同時に何かする訳でもない。
意味は分からずとも不思議と心地好いのは確かで、ただ唇を重ねるだけの行為に身を委ねていた。
そっと向こうから顔が離される。
ようやくまともに息が出来て何時もよりも深く呼吸しなからも何処と無くふわふわした気分からまだ抜け出せないでいた
そんな中彼に問われる。
確かに昨日言ったことだが、キスをした後に聞く事だろうか。
これが友人の範疇なのかは微妙ではあるが今でもそう思ってることには違いなく)
…?…まあ、はい、友達だと思ってます…
(問いの意図読めないのか不思議そうにしながらも肯定の言葉告げて)
(離した顔の下、彼は息を深くして整えようとしている。
僕はにっと笑って言葉を続けた)
それなら、君は僕の『共犯者』ってことになるけど?
他のお友達はほっといて、僕の味方をするって事になるよ。
(相手の回答を待つ。
悠君はこの1年間、事件を終わらせる為に仲間と一緒に動いてきた。
それを無駄にする事なんて簡単にする訳がないか、と
頭の中で拒否の意を示された場合も考えていて。
しかし。
僕は何があっても、悠君を逃がすつもりは無かった。
その為だったらどんな事だってしてやる。
そう思いながらじっと彼の顔を見つめ)
…共犯者、…
(浮ついた頭の中でも共犯者という言葉は重く響いた。
殺人犯の正体を知っていて、それを放置するのは確かに共犯と言えるだろう。
突如出された選択。
何も無ければ昨日のように直ぐに彼のことを受け入れただろう。
だがそれを選ぶというのは彼の言う通りほかの仲間、自称特別捜査隊もおじさんを欺いて、信頼を無下にするのと同義。
これまで必死に追ってきた事件の真実も築いてきた絆も放り出せるかという残酷な問いに息を詰まらせてしまって。
すぐに答えを出すには重すぎる判断。
その重圧に赤かった顔はすっかり青ざめ、助けを求めるように彼に向けた目線は迷いに揺れていて)
(選択を迷い、助けを乞う眼。
僕はただ彼の青ざめた顔をじっと見ていた。
その眼は揺れており、どうすれば良いのか分からない葛藤を映している。
僕はその迷いを切ってやろうと、僕は目元を歪ませ口を開いた)
早く決めな?
じゃないと……今度は僕が、菜々子ちゃんをテレビに入れちゃうよ。
生田目の時のようには行かない。僕の世界に取り込んでやるさ。
(もちろん、これは彼に決断を焦らせる為の冗談だ。
だがきっと僕の顔を見ていれば、本気だと受け取るかもしれないなんて思い)
それは駄目だっ!
お願いだから、菜々子には手を出さないでくれ…
(どちらを選んでいいのか分からなかった。
だけど従姉妹の話が出れば大声と共に彼の肩に掴みかかる。
彼女がテレビの中に連れ込まれたとわかった時、生死をさ迷っていたとき生きた心地がしなかった。
それにあんな幼くて可愛い従姉妹を巻き込んで再びあの恐怖を感じさせるなど出来るわけ無く焦りに焦った表情でやめてほしいと懇願して。
これで選ばないという選択肢は実質なくなってしまった。
何が正しいのか自分がしたいのか困惑しながら再び彼に目線向け)
…足立さんは、俺の事、裏切りませんか?
(共犯者になれば彼は全てを見せてくれるだろうか。
本性を知ったからこそ、彼を選んだとしてもあっさり捨てられる未来も容易に想像つく。
例えそうだとしても嘘をつかれる可能性だってあるが今は縋れるものが欲しくて、恐る恐る彼に問いかける自分の天秤は若干彼に傾きつつあって)
ッ!……冗談だよ、そんな心配しなくても、
僕は堂島さんや菜々子ちゃんの事は気に入ってるんだから。
そんな事するワケないだろ?
(突然肩に掴みかかられるが、へらへらと笑ってみせる。
僕の肩を掴む悠君の顔は、僕がそうする事を
心からやめてほしいと願っているようだ。
……だが、彼が裏切った時は別だ。
何せ、僕は菜々子ちゃんが生死を彷徨っていたあの時
音を立てずに病室へ入り、生命維持装置を外そうとしたのだから。
その瞬間に悠君や堂島さん、菜々子ちゃんと過ごした日々が
脳裏をよぎって果たせなかった。
でも、きっと僕はそれで良かったのかもしれない。
そのお陰で、今こうして悠君を実質僕の仲間に引き込む事ができるのなら)
……あぁ、僕は裏切らないよ。
(彼の問いに、僕は素直に返答する。
僕を庇い、友達として接する事を選んだ彼に対して僕自身が裏切る理由は何処にもないからだ)
っ、冗談でも言わないでください…。
(例え冗談でも聞きたくない提案に一度キツく睨みつけてから、手を解放する。
深呼吸すれば頭に上った血が徐々に落ち着いてくる。
もしここで彼を選ばなかったら直接仲間達に危害が加えられるかもしれない。だからしょうがない。
……なんて勝手に世間体向けの言い訳が浮かんだ
その部屋を訪れて、殺そうとした彼を受けいれた時から心はすっかり彼の方に傾きかかっていたのだ。
それの後押しするように裏切らないと語った彼を信じてみたいと天秤にまた一つ理由が乗っかって 。
深く息を吐き出した。それから再び彼の方を向けば)
……、いいですよ。あなたの…足立さんの共犯者になります
(静かにそう覚悟を決めて伝えた。
それが何を意味するのか今度こそ分かっていながらも目の前のひとりぼっちの彼の手を取ると告げて)
ごめんごめん。
(僕の肩を掴んでいた手が離れる。
睨みつけられるが、僕は気にしなかった。
悠君は何かを考えているような顔をし、
その後ひとつ深く息を吐いたと思うと僕を見て口を開く)
……!
(『共犯者になる』。
その言葉を静かに、そして覚悟を決めたように言った悠君が僕の手を取った)
そうか……。それじゃあ……ちょっと待ってな。
(僕はそう言って立ち上がり、部屋の角にある棚をあさって一枚の紙を取り出す。
そして表は見せないように持ったまま悠君の所へ戻れば、ひらりと表を見せた。
その紙は、堂島家に届いた脅迫状――。)
コレ、うっかり鑑識に回し忘れてたんだよねー。
……犯人の僕としてはこいつがあると困るんだけど、
共犯者なら証拠隠滅に協力してくれそうだなぁ……、……ねえ?
(シャツのポケットからライターを置くと、僕は果たして相手がどんな行動を取るのか
挑発するような口調で言い、敢えて悠君の方を見ず後ろを向き)
(彼が立ち上がってどこかに行く。
漸く解放されてこちらも立ち上がって彼の動向を観察する。
彼が持ってきたのは1枚の紙。
表に返されたそれは見覚えがあって。)
…、文字通り共犯者になれってことですか。
(立証が難しいであろうこの事件で、真犯人に繋ぐことが出来る唯一の証拠。
それが今自分の手にあった。
これをおじさんにでも渡すか、それとも彼の置いたライターで無かったことにしてしまうか、選ぶのは自分だ。
燃やしてしまえばもう今までの日常に戻る事は出来ない、彼のやった事に加担して文字通り共犯者だ。
そうなれば彼から逃げられないだろう。そしてきっと彼はそれも込みで持ち掛けたのだから本当に姑息で性格が悪い。
良心は辞めろと告げている。――だけど心の奥底、影は別の事を囁いていて。)
足立さん、…俺らが求めていた真実って呆気ないですね
(ライターを手に取る。その手が震えているのには見ないフリをして火を灯す。
だけど自分の決断を彼には見届けて欲しくて名前を呼んだ。
火をかざした紙は簡単に燃えていく。
罪悪感か、今まで探し求めていた真実がこんなにもあっさりと闇に葬られることへの感傷か。
泣きそうなそれでいて諦めにも似た笑み浮かべればぽつりと燃え尽きていく紙片見ながら呟き)
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