鳴上 悠 2022-07-06 12:59:58 |
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……。
それでも、菜々子の宿題を見てくれたりおじさんの心配をしてくれたり、俺の事家に招いてくれたのは紛れもないあなただ。
全部が全部ウソじゃないし、そんな足立さんだから俺は仲良くなりたいと思ったんです。
(言葉だけでは彼が何を考えているのか掴みかねた。
だけど、自分と彼を妙に区別したがるのが気になった。
ただ少し環境が違っただけ。
それに彼が本当に何もかも利用する為に全てで嘘をついていたのならわざわざ堂島家に訪れたり必要のない世話や心配もしなかったはず。
きっと垣間見れた足立透の人間性に惹かれたのだと何とかつたえようとして)
足立さん!? もうちょっと頑張って布団の上で寝てくださいって、
(ガツンと痛そうな音がして彼の身体が床に伏せる。思わず声を上げてしまった。
こんな硬い床の上では眠れるものも眠れないし疲労も回復しない。慌てて傍によれば身体を揺らすも運んだ方が早そうだと肩を担いで寝床まで運ぼうとする。だがちからの入らない大の大人を一人で運ぶのは至難の技で引き摺るような形になりそうで)
……
(少し鈍痛を感じたが、気にする事も無く
僕はそのまま眠ろうとする。
悠君の声が聞こえるが、答える気力が無かった。
やがて、ふと身体が起こされたような気がして薄く目を開けると僕を寝床まで引きずろうとしているらしき彼の腕。
だがその腕は僕のヨレたシャツを思い切りつかんでいて、
今にも下手をすればボタンが飛びそうだった。
慌てて気力を奮い起こせば僕は声をあげる)
悠君!?ちょ、服……!
服?…ああ、でも着替えない足立さんが悪いんで
(まさか深夜にこんな重労働するとは思わなかった。
寝床への引き摺っていると彼の声。
それに従って彼のシャツを見れば確かに引っ張って今にもボタンが飛びそうだ。
だけど今は1回手を離してもう一度担ぎあげる方が面倒だなと素直に考えて。
ボタンが外れたら後から付ければ良いし何ならこの機会に新しいシャツでも買えばいいのに、と自分も夜中に起こされた眠たさと疲労と――そして本当の彼を知った親しさ故の雑さが発揮されると気にせず運び。
何とかシャツに損害が起きる前に寝床に付けば彼の身体転がして)
うわっ…… ……痛てて。
(悠君に運ばれるまま、僕の身体はごろりと寝床に転がされた。急に僕を雑に扱うようになった彼に恨み言を吐こうとするも床に倒れた時の痛みが蘇って、つい上体を起こす。
自分の格好を見れば解けかけている色褪せたネクタイ。そして着替えるのも面倒でそのままにしていたシワだらけのシャツ。
その上どうやら靴下まで脱ぎ損ねていたようだ)
……君はどうすんのさ?
(僕を寝床へ運んだ悠君へ僕は目線だけ向けて尋ねる)
人運ぶのって大変ですね。
(とりあえずこれで任務完了だ。
クマや仲間達と違って一般成人となれば運ぶのも一苦労で達成感に一息吐いて何処かズレた感想口にする。
明らかに寝るには不釣り合いな彼の格好。
でも今更風呂に入らなさそうだと追及はしないことにした。
そのまま自分も横にはなろうかと立ち上がった所で彼の問いと目線を受けて)
俺も眠くなったら寝るつもりです。
(そうとだけ答えればまた先程まで丸まっていた部屋の片隅に移動した。邪魔になりそうなジャケットだけ脱げば丁寧に畳んで端に起き床に腰を下ろして)
運ぶにしても、もう少し丁寧にしてくんないかなぁ……。
(ぼそりと愚痴を言った後、つい欠伸が出る。
どうやら本当に眠気が限界に来たらしい。
ひとまず寝られるようにはしておこうと両腕を後頭部の下に置いて)
……ん、そう。じゃあ、おやすみ。
(僕もそれだけ一言口にすると、瞼を閉じた。
眠りにつくまでの間、僕は僕の本性を知った彼にこれから先どんな顔をしていれば良いのか、彼はこれから僕に対してずっと変わらず接してくるつもりなのか、
そして事件において最も重要な手掛かりとなる『あの証拠品』をどうするかを考えていた――)
…今度こそおやすみなさい。
(自分の回答に納得したのか直ぐに彼は瞼を閉じた。それに自分も一言返す。
先程も交わした会話。だけど今はその時と同じような気もするし違うような気もしていた。
床に転がった拳銃に目線が行く。
もしも先程彼から感じた感情も涙も嘘だとするならば、今度こそ寝ている間に殺されてるかもしれない。
ならば今のうちに何処かに隠してしまおうか、とも考えて直ぐに頭から消えた。その時はその時だ。
色々考え事をしようとするも自然と眠気は襲ってきた。
何故一応の客人を床に寝かせても平気そうな彼にここまで世話をして、犯人だと知っても庇う行動を自分はしたのか。
要素は色々あっても明確な理由は自分でも分からず、疑問を残したまま彼の寝顔を暫く見つめていたが諦めたように眠りについて)
(僕は暗闇の中にいた。
いや、暗闇というよりは赤黒い霧が渦巻く空間だ。
ここは一体何処だ。
辺りを見渡すも、どこもかしこも禍々しい霧に包まれている。
自分一人しかいないのを理解すると、突然恐怖が襲って僕はその場にうずくまり、頭を抱えた。
身体が震えている。声を出そうにも出せない。
息が苦しい。
同時に胸の中で、何かが僕の身体を突き破って出てきそうな痛みがした。
その時だ。
何かの気配を感じて顔を上げると、一点だけ白い光がある。
光の中心には、見慣れた彼の姿があった。
何故か安堵して手を伸ばそうとした瞬間、僕の身体から大きな影が、刃物のようなものを持って彼のもとへ飛んでいくとそれを振りかざし――)
ッ!!!
(急に目が覚め、同時にばっと上体を起こす。
心臓の鼓動が早くなっており、身体は汗をかいていた。
そして外からは、朝を知らせる鳥の鳴き声がしていて)
はぁ……はぁ……、……夢、か……。
(息を静かにつきながら、僕は呟いた。
一体、あの夢は何だったのだろう。
僕から現れたあの巨大な影は、マガツイザナギのようにも見えた。
ふと、悠君はどうしているのか気になって僕は部屋の中を見渡す)
(その少し前。習慣づいた生活リズムはこの状況でも健全のようで自然と目が覚めた。
一瞬どこか分からなかったがすぐに昨日のことを思い出した。
上体を起こせば寝床には家主の姿。まだ寝ているようだ。
二度寝しようかとも迷ったが朝食の約束を思い出すと痛む全身を伸ばしながら立ち上がる。
昨日確認した冷蔵庫の中身から献立を考える。
初めて堂島家に来た時の冷蔵庫よりはマシだったが、それでも最低限の物かつ期限が切れてそうな物が入っているのは独身男性ならではなんだろうか。
その中からキャベツと2個だけ残っていたコンソメ顆粒、卵と台所下からパックご飯を取り出せば台所に立つ。
最低限のものでいいだろうなんて考えながらキャベツを切っていると後ろから物音。
振り返ると彼がどうやら起きたようだがその顔色は悪い。
それは指摘せぬまま朝の挨拶交わして)
おはようございます、足立さん
(声がした方に目線を送ると、台所でキャベツを切っている悠君の姿があった。
どうやら早速朝食の準備をしてくれているようで)
……あ、ああ。おはよう、悠君。
(先程の夢が蘇るが、普段通り苦笑いを取り繕う。
だが彼の事だ。僕がやせ我慢をしていると勘付くはず。
そんな事を考えていると腹の虫が鳴った。
とりあえず、寝床から立ち上がるとテーブルの傍に座り込む。
昨日の事――そして酷い夢を見た疲労のせいでとても身体が重かった)
さっそく作ってくれてたんだね、朝食。
中途半端なモンしかなかったでしょ。
(だるさをどうにか忘れようと、僕は悠君へ何気なくそう話し)
(何でもかんでも聞くのがコミュニケーションでは無いのはここに来て学んだこと。
彼にしては分かりやすいほどの苦笑いだが話したくないのなら見ないフリをするのが適切だろう。
きざんだキャベツを鍋に入れ、コンソメ顆粒と共に煮込む。
同時進行で卵焼きを作ろうとフライパンを探すが当然の如く卵焼き用の物は見つからず仕方なく普通の円形の物を取り出した。
テーブルのそばに座った彼を見ればなるべく手早く作ってしまおうと速度を若干早め)
ほんと普段の食生活が目に見えますね
今日にでもジュネスに買い物行かないと作れる料理ないですよ
(彼の振ってきた話題に作業しながら呆れたように応える。すっかりここで料理する気満々な事を述べながらも一度彼に目向け)
箸とか器、準備してもらっていいですか?
ははは……。そうだねぇ、そろそろ買い物行かないと冷蔵庫の中身ヤバいかも。
(呆れ気味に言う彼へ困ったように笑みを浮かべては、
確かにある程度食材を揃えなければ食生活がまともなものにならない。
給料の事もあり懐事情が心配になったが、悠君がすっかり食事を
僕の家で作る気である事を感じ取ると仕方ないか、と肩で息をついた)
ん?オッケーオッケー。それぐらいは流石に僕がやらないとね。
(テーブルに手をついて、立ち上がれば食器棚へ向かい
箸や器を手に取れば台所の空いている場所に置こうとした、その時だ)
うわ、わぁっ!?
(寝起きのせいだろうか、足がもつれて転びそうになる。
その目の前には悠君がいて、このままではぶつかってしまう。
慌てて体勢を整えようとするも間に合う訳がなく――)
材料があったら作って欲しい物あらかた作ってあげますから
(なんかすっかり世話の範疇を超えてるのは気のせいだろうか。
仲間にオカンみたいと冗談で言われることもあって今まではそれを否定してきたが、流石に自分でもそれに近いという自覚はある。
少し冷静になって手が止まってしまったがだからといって辞めようとも思わず子供に言い聞かせるような言葉を返せば卵を器の中で混ぜて味付けをする。)
ありがとうございま、ッ…! いった…、
(食器を準備してくれた彼に御礼を言おうと一度器を置いて彼の方を向いた瞬間、バランスを崩して倒れかかってくる身体。
咄嗟のことで支えることも受け身も取れずに乗ってきた体重のまま彼の下敷きになる形で床に倒れ。
走る痛みに顔を顰めながらも上に乗ってきた彼見上げ)
ぷっ……君さ、僕の母親気取り?
(その発言に思わず素で笑ってしまう。
もはや悠君は僕が心配というより、僕の世話をとにかくしたいだけなんじゃないかと思い始めてきた。それを認識すると少し空っぽの胸が埋まった気がした)
……っててて……。ゴメン、悠く―― !?
(悠君が呻く声が聞こえた。
手に取っていた器は茶碗だった為落としても割れずに済んだが、
僕はそのまま彼の方に倒れてしまったようだ。
こちらも痛みが走っているが、両手を床につき上半身を起こして謝る。
途端、僕は今悠君を押し倒してしまっている状態になっている事に気づき言葉に詰まった。
目線の下の彼は、僕の顔を見上げていて)
,…………っ……、…その…、積極的ですね?
(顔を見上げればすぐ側に彼の顔。
至近距離といっていい近さと上に乗られていることに気付けば一旦思考が停止した。
昨夜抱きしめた時も勿論密着していたが、その時は色々考えて何とか彼との繋がりを繋ぎ止めようと必死だった。
だが今は自らの意思が介入しない距離感にフリーズした後に状況を理解しては一気に顔に熱が登ってきた。
混乱の中、その場から動けずに赤くした顔で彼を見上げつつも、何とか空気取り持とうと口を開くがうまい言葉が浮かばず。
思わず頓珍漢なことを口にして)
(見る見るうちに、悠君は何を思ったのか顔を赤くし始める。
昨日僕を抱きしめた時はそんな顔をしていなかったのに、なぜか今の彼の顔は突然の事で驚いて恥ずかしがっているような、同時に何かを期待しているような、そんな表情をしていた)
……は!?積極的……って、いや、僕はそんなつもり……
(状況が状況なだけに悠君の言った言葉に僕は慌てふためいた。
しかし――恐らく慌てて否定をする僕の様子の方が、彼には余計に怪しさを感じさせてしまうのではと心の隅で思っていて。
僕は一刻も悠君の上から退きたかったのだが、
何故だろう。
もう少し、赤く染まったその顔を見ていたい気もしていた)
(単なる事故で意図は全くない。
そんなのは分かっているのに妙に意識してしまうのは何故だろうか。
その理由は何となく知らない方が良い気がしてとりあえずこの状況を何とかしようと声を掛けるが視線は逃げるように反らしていて)
冗談、ですよ。……そろそろ、退いてもらっていいですか?
(いつもより早くなった鼓動を聞かれないように平然を装った喋り方をすれば自分から離れるようお願いして)
ホントに?……顔、赤くなってるけど。
(視線を逸らす悠君に、そう声をかける。
――いじめてやりたい。
そんな欲望のような感情が沸き起こってきた。
普段あまり表情を変えなさそうな悠君が、今は珍しく顔を赤くしているのを隠そうとしている。
そんな彼の姿を見ていたら、思春期らしいと愛しく見えてしまい
退くつもりが消え失せるのも尚更だ。
僕にその気は無かったはずなのだが、それは段々と強くなってきている。
悠君の離れてほしいという願いを耳に入れず、口元ににやりと笑みを浮かべると僕はもう少しだけ顔を近づけ)
……ねぇ、僕に何かされると思ってた?
(顔を近づければ、悠君のものらしき心臓の鼓動が聞こえていた)
それは…、
…あなたが寝惚けてそう見えてるだけです
(とりあえずこの状況を何とかしたい。
顔色について指摘されると図星で、だけど認めたくもなくて。
あくまで彼の見方の違いだと言い張って何とか追及から逃れようとし。
良くも悪くも彼は何かに執着を持ったり気になったりしない。
だからこうすれば直ぐに興味をなくして退いてくれると思ったがいつまでも退く気配はない。
何かあったのかと反らしていた目線を戻したのが不味かった。
先程よりも近い位置に彼の顔があってその口元は楽しげにつり上がっていて。
思わず小さく息が漏れた。
正にやぶ蛇だ。
直ぐに視線反らすも一度意識すれば心臓がうるさい。
そこに意地悪な彼は更に疑問を投げかけてくる。
自分は彼に何をされるのを想像した?
)
っ…、思ってませんから、子供を揶揄わないで下さい
(隠していた何かに気付いてしまいそうで、赤くなったのを隠すように顔を背け何とか否定の言葉を紡ぎながらも片手で彼の肩を押してこれ以上近づかれぬよう距離を取ろうとし、抗議の声を上げ)
(僕が寝惚けているせい、と此方の見えている
彼自身の表情を否定する悠君に対して、もっと追及してやりたくなった。
昨日、僕が真犯人である事を知ってもなお僕を受け入れたのは悠君だ。それを今日に限って拒むのは身勝手にしか思えない。
ならいっそ、僕の事しか考えられないようにしてしまえば――。
先程まで腹の虫が鳴っていたのはいつの間にか消えていて。
僕の声に悠君が小さな息を漏らす。それはハッキリと僕の耳に入った)
あれれ、自分で子供って言っちゃうんだ。
子供扱いを嫌ってたクセにさ……それに、ホントに僕に離れてほしいの?
……悠君?
(肩を押されながらも、顔を背ける彼に僕は追い打ちをかけようと
相手の心をかき乱してやるように言葉を繋ぐ)
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