狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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ありがとうございます。
この震えは貴方様への畏怖、声の震えは緊張から来ております。貴方様からのご配慮痛み入ります。
(取って喰わないその言葉にどれだけ自分が救われたかきっと相手は分からないだろう、その言葉を受けて自然と体の震えが止まった。確かに会うまでは恐怖心の方が勝っていたが、こうして相見えた今はどちらかと言うと相手の声音、顔立ちに畏怖の念の方が勝っている。その事を伝えつつ見苦しい姿を見せた事への詫びと先程言われた言葉へどれだけ自分の気が楽になったのかを伝えたくなり、その配慮にお礼を言ったその時にふわりと柔らかな風が吹いた、今この環境では風は吹かないはずと伏せていた目を僅かに開ければ、そこには先程まで少し距離のある御簾の上げられた場所へと座していた筈の相手の衣服が目に入る。その早業と言うべきか瞬間移動じみた移動の仕方に驚いていれば、相手の持つ扇子の先で顎先を持ち上げられて顔が持ち上がる。流石に声も出ぬほど驚くがそれよりも失礼があってはと目を伏せていれば、次はひんやりとした冷たくだがどこか骨ばった感触のする、恐らく相手の指と思われるものが自身の頬を撫でた、その冷たさは人ならば有り得ない冷たさで確かに世の中には低体温症と呼ばれる症状や人もいる。だがこれは明らかに人ならば異常な冷たさだ、益々相手が人ではないと言う証拠が上がってくる。この方ならば自分をひいては巫家の者など赤子の手をひねる位の容易さで滅せれるだろう、少しの恐怖と多大な畏怖の念を抱えていれば、目を開けろという。正直どうするのが正解なのか分からない、否定しても失礼だろうし、そのまま開けても失礼だろう。ならばと色々考えに考えれば)
――では、畏れ多くも目を開けさせて頂きます。
失礼をば
(そう一言、自分の意思ではあるがあくまでも相手の意志を尊重した事、自分の目を気に入った様子の相手に失礼が無いようにと上記を言うと、ゆっくりとした様子で自分の目を開けていき、相手が華と称し改名する理由となった紫色の瞳が相手の金色の目と合えば、目の前に人外じみた美貌を持つ者がいると言うその顔面の迫力に僅かに息を詰まらせるも、恐らくこの国では黒髪黒目、あっても茶髪茶目と言う色の中、黒髪紫目と言う変わった色を持った自分の目の色が珍しくてこうして見たいのだろうと頭をフル回転させており)
(/ いえいえ、こちらもそう言った過程、夫婦の様子は大変好みですので、いずれその時が来たなら入れて下さればと思います。質問に答えて下さりありがとうございます!)
──菖蒲とはよく言ったものだな。良い名だ。さて、これから式がある。夫婦になるための式だ。
(この生娘がどこの出生かなど正直興味は無い。何処ぞの娘だろうと必要なものは己に対する“気持ち”だけ。嫌悪だろうと歓喜だろうと、それが自ずと変われば良いが変わらなければそれはそれで致し方無し。僅かに呑んだ息の音を耳に捉えながらもゆっくりと開けられた目、合った視線のそれに満足そうにひとつ頷きながら手を離してやれば立ち上がり扇子を開き軽く扇ぎながら縁側へと視線を向け。無駄に広い庭、季節の華が咲いており濃い紫陽花のなんと美しき事か、不躾にも少し離れた所にある蔵が少々景観を壊しているが。振り返りつつ視線を下げては相手を見て)
使用人どもが支度をと急かしていてな。式は夜だ、この間で行う。その後は宴だ、今宵は無駄に人が多いが致し方ない──さ、そこに居る使用人について支度しといで。
(やれやれ。と言いたげに両耳を下げては何処か不服そうに尾を揺らしては廊下の方に待機している使用人の方へと視線を向け。軽く手を挙げれば数名の女中が入ってきて、相手へと軽く手をひらりと翻しては上座の方へと戻りそのまま部屋を後にして行き)
名と瞳の色を褒めて下さりありがとうございます。大変嬉しく思います。
式……で御座いますか…?
(気に入られたのかは分からないがどうやら自分は薄皮1枚と言った感じではあるがどうやら相手の機嫌を損なうような事はしなかったらしい、自分の判断力と語彙力、知識を今日ほど褒めたくなる日はきっと無いだろう、そんな事を内心思っていれば相手の手が離れ立ち上がった事でまた相手との距離が離れた。自分でも思っていた以上に緊張していたのかほんの少しだけ肩の力が抜ける。式と聞けば、所謂結婚式が思い浮かぶがこの場合の式はどのような形式なのだろうか、建築や相手の正体からすれば白無垢を着た和式の結婚式が想像つくが実際はどうなのか分からない。とりあえず廊下で待機している使用人の人達が着付けてくれるだろうと思い、部屋を後にする相手を頭を下げて見送り、足音と気配が無くなった後に自分も立ち上がると待機していた使用人達の元へと歩き出す、その時に季節の花である紫陽花が目に入り)
―――綺麗な紫陽花、彼岸花以外は季節通りに咲くのかな…
(誰の耳にも聞こえないくらいの声量で紫陽花の感想を言い、誰にも注意されない位の短時間だけその紫陽花に見とれ、ふと紫陽花の花言葉を思い出す。紫陽花の花言葉は『移ろい』『浮気』『移ろ気』と言ったあまり印象の良くないものばかり、だが人の心もまた紫陽花と同じだろうとも思う。あの方の呼び名については後ほど聞くとして、永く生きる狐の彼は人の心について人以上に敏感だろう、ここで閉鎖的な暮らしをする可能性があるのと彼の嫁、そして機嫌を損なうような不貞な事はしないと断言出来るし、今日行うという式でも宣言があるかもしれない。紫陽花のように彼以外の人を見つめることがないように気を引き締めながら支度野為にと部屋へ移動する使用人達の後ろを着いて歩き)
いたた……強く引っ張るな、髪が抜ける。──嗚呼、そう言えばあの娘に着せるのは毎度のように白無垢だな?色を変更だ、菖蒲色にしろ。あの“目”は気に入った。
(屋敷の奥にある自室は無駄に広いが恐ろしい程に物が無い。長くながく生きてはきたが散らかる様がとても嫌でほとんど物は置かないと決めていた。低めのテーブルに壁一面にある本棚にはたくさんの本が並び、大きな箪笥には洋服と和服が入っている。丸窓の近くには大きな布団があり、窓の壁に寄りかかり表の庭と負けぬ程の中庭を眺めるのが好きであった。そんな自室、屏風の向こうで数名の女中に囲まれながら支度をされていると櫛で髪を解かされ絡まったそれに僅かに眉間へ皺をよせつつ、幾重にも重ねられた黒の狩衣へと袖を通し動きにくさに尾を垂らして。そうだと、脇に控えていた本家の連中に白無垢の変更を告げては時間が無いなどと言われるも聞く素振りを見せず。此方の視線と交わったあの瞳の何と美しき事か、菖蒲色とはよく言ったものだと考えながら扇子片手に一足先にと先程の部屋へと戻り。廊下を歩いていればこの耳に届く人の声、どうやら既にたくさんの一族の者が集まっているようで聞きたくもない話や声は耳に届いてしまい眉間へ皺を寄せるも襖を開けて中に入れば一瞬静まり返る場。少しだけ冷たい視線を送ると目元を細め、だがひとつ笑みを浮かべると「まぁ楽しむが良い」と一言。上座、少しだけ高くなったそこには豪華な装飾に盃があり、上手の方の座布団に腰掛けると肘置きに肘を置いては片膝を立てて再びくだらない話で盛り上がるそれを見つめながらも庭へと視線を向け)
わぁ……綺麗な紫色…って、白無垢って白い色だから白無垢じゃなかったっけ……?
(あれから使用人達の後ろを着いて歩き、とある一室へと案内されれば今夜行うと言う式の為の支度を女中の人達がいそいそとしだし、その間にも「御言様に気に入られたようで何より」やら「このまま仲睦まじくいるように」やらこちらの意思は全く無視した発言をされながらの身支度に幾許か辟易しつつも、仲睦まじくいる他自分には価値も居場所も無いと言われている以上やるしかないのはこの人達理解しているのだろうかと若干思いつつ、再度大人しく髪を梳かれたり、本来なら白い筈なのだが自分の目と同じ紫色をした白無垢を着飾られ、しまいには白子と紅と言う幼子にそれをするのかと言いたくなるが伝統だからの一言で押し切られそのまま式に向けての化粧まで施されれば、今の段階でも気疲れしてしまうも、それを『自分はまだ引き取られたのだから恵まれている』『失敗したら追い出されて路頭に迷う』と思い込む事で精神の安定を無意識に行っており。ようやく支度が終われば部屋を移動すると女中に言われまたその後ろを歩いて着いていき、宴会と言っていいのかお披露目と言っていいのか、式の会場となる部屋へと近づけば自然と知らぬ人達の声が沢山聞こえてきて、見知らぬ人達、そして失敗の許されない式と生活、今後を考えるとどうしても表情は固く、肩にも余計な力が入りどこかぎこちない動きで歩いていれば、部屋へと到着し、女中の者が障子を丁寧な所作で開ければ「花嫁の支度が出来ました。」と深く頭を下げると、視線で菖蒲に部屋に入るよう指示を出すが、どこに座れば良いのかと考えて困ってしまい、普通なら新郎にあたるあのお狐様の隣なのだろうが、今回は普通とは言えない式の為どこに座ればと少しだけ狼狽えて)
───さぁ、式を始めようか。
(縁側から眺める庭の景色は格別なもので、それを眺めている時はこの喧騒から離れられているような感覚に陥る。式と言ってもほぼ形だけのものに近く、大昔のような厳格さはここ数十年でどんどん薄れている。扇子を開いて嫌に蒸し暑い空気を払うように扇いでいれば鼻に掛かる香りと、開けられた襖から姿を現した相手の姿煮僅かに目元を細め。周りから好機や妬みにも思える声や視線が相手に向けられる中、いくばか困惑している様子を見て取れると立ち上がり。騒がしい連中の間を抜けて相手の前までやって来ては軽く身を屈め「よく似合っている」相手の耳元でたった一言だけ伝えると、抱え込むように横抱きにしては先程まで座っていた位置に戻り膝に抱えるようにしてそのまま腰を下ろしては片膝を立てて左手で相手の身体を支えるようにしては、口元に弧を描いて。周りからはなんやかんやと野次も飛んでくるがお構い無しに強行すると、めかしこんだ使用人が目の前に盃を置いてそこに酒を注ぎ終えるのを待てば片手でそれを持ち上げ相手の前に差し出して)
これは俺に捧げられた神酒だ。だが呑めたとて、お前の身体では敵わんだろう──盃に口を付け呑む真似だけで良い。
(畳の部屋にずらりと並んだ親族と、隅の方で待機する大勢の使用人。囃子の音や鈴の音、式に捧げられる音楽が響く中で相手の歳も考えると酒は呑むものでは無いと判断し、耳打ちをしては支えていた左手を動かして相手の頬へと移すと軽く撫でて)
(支度が出来た姿をお狐様は勿論周りの人間皆が見ようとこちらを向けば、いくら幼いとはいえその視線に混じる、妬みや羨ましいといった感情は見て取れ、このお狐様の嫁に選ばれるのはこの家にとって特別とは聞いていたが、もしかしたら、その嫁を輩出した家の者、引いては両親はその代に置いて嫁にと選ばれた事による特別措置や権限なんかをもたらされていたのかもと思えば、巫家の血なんて全く引いていない赤の他人の娘で年端も行かぬ娘となれば、面白くもないだろう。ならば自分達の血族から娘を嫁にすれば良かったのにと思いはするが出来るものならしている筈、それが出来ずにわざわざ孤児院から自分を引き取った位なのだから、巫家から女児は産まれず、男子のみしか産まれなかったのだと容易に想像出来る。出来はするがその悔しさなんかをこちらに向けるのはお門違いでは無かろうかと心の中ではその視線の煩わしさと憤りを感じており。そうこうしていればあのお狐様が自分を抱え先程まで座っていた上座へと戻り、膝に座らせる形で自分も座らせられる、発せられた言葉と先程の言葉を聞けば)
――――ありがとうございます。
では、そのように
(飲むふりで良いと言われれば、お神酒と言うことは酒であり、まだ肝臓機能なんかが上手く働かない今の歳では飲めないため、飲むふりでいいと言われれば少しほっとし、差し出されたその盃に手を添えれば口を付け飲むふりをする。先程の言葉といい、このお狐様は悪いお狐様では無いようには感じるし比較的穏やかな性格なのも人で騒がしいのもあまり好きではない事が分かる、だが狐と言うのは日本古来より化かすのが上手いと聞く、狐に化かされた。狐につままれたようだ。なんて言葉があるくらいなのだ、まだ警戒は解けないし今後を考えれば緊張もする。そんな事を考えながら盃から口を離せば、とりあえず盃の酌み交わしは終わったが、座る位置はここで良いのだろうか、無礼になるのでは?と考えれば、せめて相手の斜め後ろあたりに居た方が良いかなと思い、少しだけ後ろを振り返って誰も居ないか確認し)
……私はここで座っていて良いのでしょうか?
せめて後ろに座った方が良いのでしょうか
(こうした和式の結婚での作法なんてあまりよく知らないし、知っていたとしても今回は普通の式とは違い、人外で妖狐もしくは神狐とも言える存在との結婚式なのだ、失礼があっては良くない。せめて必要最低限の事は聞いても問題無いだろうと上記を問いかけ)
(相手が盃に口を寄せたのを見てそれが終わるのを待てばそれを受け取り入っていた神酒を一気に呷り喉の奥が焼けるような感覚と五臓六腑に染み渡る神酒の力に口元が緩み。盃を交わした事で夫婦になった訳で周りからは歓声にも近いそれが挙がるがそれはこの後の宴に対したものか、少しだけ目元を細めつつ盃を隅へと放り投げては周りの人間はぞろぞろと宴の行われる大広間へと行くためか姿を消していき。使用人達も食事や酒の用意等で慌ただしくなるため皆出払って行ってしまえば残されたのは相手との2人だけ。途中聞こえていた、膝の上に乗っていていいのかと質問にそう言えばと相手へと視線を下ろし。白無垢、とは言えないが菖蒲を咲かせる瞳と同じその和服はとても似合っていて、まだ齢が十だとは思えない程。だがまだあどけなさの残る顔は年相応か、小さな口から紡がれる言葉は年相応とはあまり思えないものではあるが。ひとつ笑みを浮かべては相手の頭の被り物を取ってやり)
構わん。それにただ“盃を交わすだけの儀”だ──これで私とお前は夫婦だ。よろしく頼むよ。
(ああ堅苦しいと言わんばかりに相手を膝から下ろしてやればこの着ている狩衣が酷く暑苦しくて嫌気がさす。適当に肌蹴させると、だらしなく体勢を崩して肘置きに肘を置いて扇子片手に顔を扇ぎながら呟くと鋭い犬歯を覗かせながら笑みを浮かべ。「これから先、お前はこの屋敷で暮らす。夫婦になってもお前はまだ赤子同然──部屋もちろん与えられているし、専任の女中も付く。都心の方にも出掛けられるし、欲しい物は何でも言えば手に入る。何か困った事があれば私の名前を出せ……嗚呼、私は“御言”と呼ばれている」パチンッ!と力強く扇子を閉じると相手を指差すように相手へ向けてつらつらと言葉を紡ぎ)
(見知らぬ様々な人が終わった、宴会だと口々に言いながら、喜色満面と言った様子でお披露目の間を後にしていく姿を見ていれば、先程妬みや羨ましいと言った感情を乗せた眼差しをこちらに向け、言葉にせずとも目で『我が家に娘がいればあの場は娘のものだったのに』とありありと語っていたのに、婚姻の儀と言って良いのか盃の酌み交わしが終われば皆手のひらを返したようにめでたいやらこれからも繁栄をやら言っており、自分勝手な人達だと、引き取られた理由と自分に対しての物言い、態度やらで巫家の人達には正直あまり良い印象は抱いておらず、そんなモヤモヤしたものを抱えていればいつの間にかこの間には自分とお狐様の2人だけになり、不意に頭に被せられていた被り物が取られ、纏められていた烏の濡れ羽色と称しても良いくらいには黒く無造作に伸ばされてはいるが艶のある髪が背中を覆い、いきなりどうしたのかと困惑が隠しきれずにいるが、これで夫婦だと言われれ)
――私の無作法でご不快な思いもさせる事があるでしょうが、精一杯妻を努めさせていただきます。
これから先末永く、よろしくお願い致します。
(夫婦、正直な感想を言うなら自分には縁がなかった言葉だしどんなことをすれば夫婦となるのか、この方に相応しい妻となれるのか分からないし不安は大いにある。だがそれでもと相手の膝から降りれば堅苦しくも再度恭しくそして深い礼を見せては、頭を上げた時に衣服を着崩して体を楽な体制に取った相手が目に入り、人外の顔面にそのどこか気だるさな様子に男の色気というものを初めて知れば、どこか見てはいけないものを見たようなそんな感覚に頬が熱く感じる、それを気取られないように平静を装うとしているが頬の熱さは引かず、そうしていればつらつらと相手から今後の暮らし方と呼び名を教えて貰え)
……でしたら、御言様とお呼びさせて頂きます。
何もない事が1番とは思いますが、私の力ではどうにもならない事が出来ましたらお呼び致します。
(呼び名を聞けば、巫家から御言と呼んでいる事は聞いていた、聞いていたが本人の口からの要望された呼び名で呼んだ方が良いだろうと判断していたから今まで名前をわざと呼ばずにいては、何かあれば頼れの一言はとても嬉しいし助かるだろうが、都心に出掛けるにも巫家の許可がいりそうだし外を見ればどうしてもこの暮らしと他人の暮らしを比べてしまう、そんな事をしても心労がたたるだけでいい事は無いと自己判断している為言葉ではこう言いつつも外に出たり、何かあってもよっぽどが無い限り頼る気はあまり無く)
──お前は良い妻になる。今までの中でも指折りだ……その歳で不運な運命だがな。
(開いた扇子で顔を扇ぎながら、耳へと届く宴の無駄騒ぎが今こうして相手と2人で話しているのを妨げられているようで些か不快な気分にさせられる。まだ困惑しているのか、どこか落ち着きのない様子の相手だが、無造作の濡れ羽色の髪はどうにかしてやらんとなんて細めた双眼にそれを捉えつつ不意に陶器肌のような艶玉の頬に紅がさしたような気がしたがそれは化粧のせいなのか否か、口元を扇子で覆うと意地の悪い笑みを浮かべ。まだまだ恭しくほんとに齢十の幼子かと疑ってしまう程で苦笑が出てきそうになるも、そうならねばならぬ程の境遇だったのだろうかと頭の隅で考え。孤児院の出だと娘がやってくる前に噂をしている使用人が話しているのを聞いた事があるが、どうやらそれは本当の事だったようで背伸びをして無理に大人の様に取り繕い周りとは少し掛け離れた態度で過ごしてきたのだろうか。所詮は人間の幼子、どれだけ取り繕うともその心は脆く弱い。軽く捻ってやれば直ぐに壊れてしまうだろうに、今までもそんな娘は沢山居たなと少しだけ目元を細めると遠くを見るように庭へと視線を向けるもゆっくりと立ち上がり、相手の元へと半歩寄れば頭を撫でて)
まだお前は幼い。態々堅苦しい言葉も、私を“様”とも呼ぶ必要はない──慣れぬうちは無理ではあろうが……まぁ何かあれば躊躇いなく“喚び”なさい。何処に居てもすぐに迎えに行くよ──さ、宴に出ておいで。花嫁は出るしきたりだ、疲れた時は使用人に声でも掛けて早めに休むと良い。
(その瞳と、見た目の可憐さからは少しだけかけ離れた伸び放題の黒髪を軽く指で梳いてやれば、どこか哀しい色を含ませた瞳を向けるも妖しく黄金色に煌めくと、相手の前に片膝をついて屈むと長い髪を畳に垂らしては相手の右手を掴むとその甲に唇を落とし。僅かに口を開けば鋭さのある犬歯を柔肌に少し突き立てては相手にとっては鈍い痛みだろうかと考えつつ、暫くして顔を離すと相手の甲には菖蒲の華にも似た紅い痣のようなものが出来ており)
良い妻………至らぬ事も多いでしょうが、
精一杯頑張ります。
(これまでの嫁の中でも指折りの良い妻になると言われれば、これまでどんな人が妻として召され、どんな物言いをしどんな事をしてきたか自分は知らないし、教えてくれたりしなかった、だが何人も嫁を迎え、何人もその嫁を看取り人という者を見てきた相手が言うのだからこのままでいるのなら相手の言うように良い妻になれるのだろうか?孤児院に居た時から本が好きでおおよそこの歳にしては知識も語彙も所作も飛び抜けていい事位は孤児院で見てきた同い年の子の様子からしても知っているが、好きな人でもなく強制的かつ人ならざるもの者との結婚生活なんて分からないし、そもそも普通の人達の夫婦生活も親となった人達の生活も分からない自分に本当に務まるのか不安でしかない。だが、少なくても今の現段階で御言様は良い妻になると判断しているし、追い出すような素振り所か自分の髪を撫でたり、瞳の色を褒めたりと良い印象である事に間違いはない。これからもこのままの関係が続くように励まなければ…と強く心から思う)
いえ、失礼があってはならないと申し付けられております。未熟ながら御言様とどのように話せば良いのか分かりません。
共に過ごし御言様との話し方、接し方がわかるまではどうかこのままで居ることをお許し下さい。
………っ。
(言葉の言い回しについて言われるが、巫家の人から失礼があってはならないと耳にタコが出来る位注意をされたし、自分とて故意に言葉を崩して御言様の反感など買いたくもない、それに今日初めて会ってしかも夫になり、狐の人外で祀られるくらいには神格というものを保持していそうな相手にどうして言葉を崩せるのか、そんな事が出来るのはよほど気の強い人か、事を理解出来ていない幼子、気の据わった人だろう。自分も十分幼い年齢ではあるがそんな愚行は起こせない。そんな話し方をして癖になればいつかボロが出てきっと巫家の人から躾がはいるかもしれない、そんな事は容易に想像出来る、誰が好き好んで不要な躾を増やすものかと思いながらも遠回しに御言様との距離をどのように取れば良いか模索してる、その間はご容赦をと伝えていれば、骨ばった指が自分の髪の間をスルスルと抜ける感覚がする、この方は頬を撫でたり髪を梳いたりと人に触れるのが好きなのだろうかなんて思っていれば、御言様の月色のような綺麗な髪が畳へ流れる様子が見えた。『綺麗な髪の色、きっと触ったらサラサラとしていて…そう、まるで絹のような肌触りというやつなのでは無いだろうか』と少しだけ触ってみたい欲に駆られるが、それはグッと我慢する。宴会には花嫁は参加は必須と聞けば、あの騒がしそうで視線の五月蝿そうな場所へ行くのかと少しだけ嫌な気持ちになっていれば、右手を取られる。何をするのかと困惑まじりに見守っていれば人以上に鋭さを持った犬歯が自分の右手の甲へと刺さる、予想もしていなかった痛みと驚きで思わずビクリと体が震えてしまい、手を開放されればそこには自分の名前を冠する花に良く似た痣が刻み込まれており、なんだこれはと思わず見つめるも答えなんてわかる訳もなく)
………あの、これは一体?
(刻み込まれた痣は何なのかと困惑と言った表情でやや眉が八の字に下がりながら恐る恐ると言った様子で問いかけ、所謂聖痕というやつなのだろうか、何となく結婚し夫婦になった証なのかななんて思いはするが、あくまで憶測の為その答えを相手に問いかけ、これまでの嫁にもついていたのかなと少しだけ疑問が湧き上がるもそれは聞かずに痣についてだけ聞くことにして)
……これは“印”だ。私がお前の物であると、妻であるという証。それに──これがあれば何処へ行こうともすぐに見つけられる。
(歯を立てた事で僅かに傷がついた相手の甲からはほんの僅かではあるが出血をしてしまい、それが牙を伝い口内へと入ってくればその甘美さに思わず目が見張る。嗚呼、やはりこの娘は何処までも歴代に匹敵する程の者なのだなとほくそ笑んでは相手の手を離してやりながら立ち上がると、驚いている様子の問に答えを。初代の花嫁を今でも覚えている、雪の降る中見たあの姿は今でも忘れられない。一族に繁栄を齎す為にこに憑いて早数え切れない程になるが、たくさんの嫁を貰う中でその娘等は狐の力故か否かは未だに図りきれないが、周りを魅入らせる性質があり些か“厄介事”に巻き込まれやすい傾向にある。この“胤”はそれ等から守るための目印にあたり、目のつきやすい箇所にあればある程力は強く、遠くに離れていても些細な変化や“喚び声”で直ぐに駆けつける事ができるようになるのだが、この華は呪いでもありその娘の引き立て役になってしまう為に余計に厄介事に巻き込まれやすくなってしまうのが疵な所である)
私はこの屋敷から外へ出ることは滅多にないが、お前は違う。私の妻として外へも赴かなければならない──何かあれば、私の庇護がある事を思い出すがよい。……さて、そろそろ連中共が痺れを切らすだろ、行っておいで。
(まだまだ幼く小さい娘、何故ここに連れて来られたかも何故自分なのかも全てを理解しているかどうかも定かではないし不運な運命に巻き込まれたと嘆いてるやもしれないと思うとなぜだかいつも胸が痛むような気もしてならない。相手の頭を撫でてやれば、くるりと襖の方へと身体を反転させてやり軽く背中をトントンと叩いてやるとちょうど相手の専任の使用人となる“柊”が迎えに来た所で『ああ、ちょうど良い所に来たな。菖蒲、お前の世話をする柊という者だ。能面みたいに表情が固い女だが仕事は的確だよ、良くしてもらうといい』柊あとは頼む。と付け加えると佇んでいる着物姿のまだ若さのある女は会釈をして、それを見届けては眼下の相手の頬に顔を寄せようと屈みこんでは軽く唇を寄せて直ぐに離れると謁見の間を後にしていき)
……そうですか、よく分かりませんが
ありがとうございます。
(御言様が突き立てた牙により手の甲から溢れ出た血が甲を伝って相手の口内へと流れていく様を見ていれば、その血が口内へと入った時に御言の瞳が一瞬だけ妖しく煌めいたように見え、瞬きを数度すればその様は消えており、気のせいかなと小首を傾げたあと、手が開放されたことで見れるようになった痣をまじまじと見つめ、こちらへと返された回答を聞く。この手の甲の花のような痣は自分の予想した通り御言様の妻となった証だと説明をされる、呼べばいいとの言葉からして、これがあるからかそれとも狐の嫁ともなれば他にも見たことの無い厄介な出来事や人外や怪異と人で呼ばれるモノを引き寄せてしまってそれを回避もとい妻を見つけ出して助けるための発見機と移動手段にでもなるのだろうか?と考えるも御言様の言葉からこちらは何となくの推察しか出来ないし、そもそも人ならざる者に会うのは今日が初めてとはいえ実在しているのなら他の人外や神と言った存在や都市伝説なんかで語られる怪異と呼ばれるモノも存在しているのかもしれない、女でかつ子供、しかも力を持つ狐の嫁ともなれば良い餌になるのだろうかそんな事を考えつつも、自分を思ってしてくれたのだろうと思いお礼を言うと、さぁ…と急かされたのもあり、被り物を手に取り立ち上がれば、少し重たく窮屈な紫色をした白無垢の裾を踏んで転ばないように慎重に歩きながら柊と呼ばれた女性の元へ近付き「お待たせして申し訳ありません」と一言詫び)
(全てを知り得るにはまだ心は弱く狭い、全てを理解せよとも思ってはいない。理解してきれていないであろう相手に失望もしないし嫌でもこれから先の事を考えれば何時かは理解する時が来るとも思えばそれは相手にとっては長いことかもしれないが、永い時を生きてきた己に取ってはほんの瞬きに過ぎないであろう。覚束無い足取りで向かう相手の背を見送りつつ困ったような笑みを浮かべては自室へと戻り。堅苦し事この上ない狩衣を脱ぎ捨てては畳の部屋の中央付近にある座布団へと腰を下ろし、長い髪を散らしては近くにあった煙管を引き寄せてひと吸い。ふぅ、と紫煙を燻らせながらそれが消えていく様をぼんやり長めつつ暫く経過、ふと壁に掛けてある時計へと見遣れば既にとっぷり日付けは越えていてどれだけの時間ぼんやりとしていたのか末恐ろしくもなるもので、いつの間にか消えていた煙管の火をもう一度付けるような気力はなく寝巻き用の和服へ袖を通すと緩めに帯を締め。あの娘はもう眠っているだろうか、広い屋敷の隅々まで神経を伸ばしても耳へと届くのは静寂と幾つもの寝息。帰った連中も居れば一晩泊まる者も居るのだろう何時もと異なる息遣いとどれだけ離れていても屋敷を満たす酒の香りに上手いこと見つけることは難しいようで。寝付けない変わりに様子でも見に行こうかと考えたが止めておくかと軽く羽織を肩に掛けては部屋を出て長く暗い廊下を歩けば縁側に。窓を開けて小さな中庭を見つつ腰を下ろしては片膝を立てて柱に寄り掛かり、白月に照らされる草花を見遣り昼間の出来事を思い出す。嫁候補等幾らでも居た。良家の出、遠い親族の娘等所謂“巫家に相応しい者”ばかりの中にひとりだけ場違いの娘が居た。孤児院で育ち親も知らぬ娘、良家の出でも無ければ1番素性の知れぬ者であったのに他の候補よりも頭が飛び抜けて良いと聞いた。齢十とは思えぬ程の秀才ぶりを持つというそれに心惹かれたのを覚えている。屋敷にやってきた小さく丸まった背中、背伸びをするかのように大人びた言葉や口調を遣いながらもひしひしと伝わる恐怖心と少しばかりの嫌味、何とも面白い娘なのかと心踊りその顔を見れば美しい菖蒲の華を持っていた。大それた理由も聞かされずにこの屋敷へまだ成人もしていないのに嫁として連れて来られ、身勝手にも妻とされ心底不運にさえ思えて仕方の無い事ではあるが、あの華に心奪われたのは事実。ふわりと揺れる風に思い出の沼から引き戻される感覚に瞬きをひとつすると、楽しいのか嬉しいのかゆらゆらと尾を揺らして)
―――疲れた、寝たいのに眠気が来ない……。
(どんちゃん騒ぎと言っても良いくらいには賑やかな宴会へと足を踏み込めば、妬みや辛みと言ったチクチクと刺さる視線に宴会の中は晒され、こちらが幼いから分からないと思っているのか遠回しに言われる嫌味じみた言葉が飛び交う会場に内心嫌な気持ちを持ち、モヤモヤしながら過ごしていた。と言うか、女の人が居ないと思っていたのに遠縁と言う女性や巫家の血を僅かに引くと言う良家の娘など自分よりも歳上で綺麗で、御言様の妻に相応しそうな人が居た事に驚いた。女性が居ないから自分が引き取られたのかと思ったのに女性は居るし、なら血族がとも思ったがそれを考えたら自分なんて論外。何故と思いはしたが盃の酌み交わしに証まで施されたのだから自分に逃げ場はない、そうしてやっと宴会も終われば泊まっていくもの帰るものと分かれ、解散になれば柊と呼ばれた女性の手によって湯浴みをとの事でお風呂に入り、髪や体が洗われていく、正直自分でも出来るのだが恐らくこう言うのかこれからも続くのだろうと思うとため息をつきたくなるが、それは部屋まで我慢。湯浴みが終わり寝巻きの和服へと袖を通して自室まで案内されれば柊も居なくなる。朝から今まで誰かしらおり、肩に力が入っていたが自室に来たことでやっと息がつける、なんだかどっと疲れが押し寄せ、早くに寝てしまおうと思って布団に横になったのに、まだ気が昂っているのか緊張しているのか眠たい筈なのに寝られず、思わずため息をつくと、そう言えば庭のお花が綺麗だったなと思い返して、それを見ようと立ち上がり夜はまだ肌寒い為体を冷やさないように肌触りの良いかつ布地が少し薄い羽織を羽織ると庭に面している縁側へと出て少し行儀悪いかもしれないが縁側に座って庭の花々を眺めて心を落ち着かせようとしており)
おお…今宵は満月か。──どうリで血が騒ぐわけだ。
(時折隠れてしまう月だったがちょうど雲の隙間が出来たようでいっそつ白く照らされた庭に思わず顔を上げて見ると、そこにぽっくりと夜の海に浮かぶまん丸い月がひとつ。白く輝いていてとても神秘的、しかしながら獣には些か不都合というものが出てきてしまうもので。どれだけ神化に近かろうが所詮は獣の類、こうも綺麗な満月の夜はどうしてか上手い言葉で言い表せないがぽつりと呟いた通り血が騒ぐ。身体の底から煮え立つようなそれは今までに嫌という程味わってきたもので、今となっては見境もなく喰い散らかしたりなんでことはしないし自分の欲求を抑え込めるほどに精神力も成長している。些細な事で動揺も理性を失う事もないが、得体の知れないそれが常に張り付いているようで少しばかり薄気味悪いもの。やれやれと言いたげに首を降ると僅かに頭の上の耳が揺れ、気の所為かと眉間へ皺を寄せては少し歩こうかと立ち上がり。素足のままであるが、足の裏に感じる土や草の感触がとても心地良くて時々こうして素足のまま庭や竹林などを散歩をして使用人に怒られることもしばしば。だが今は誰も邪魔する者などなく自由に動き回れるとなればやっとの自由時間のように感じて楽しくて仕方がない。尾を揺らしながら散歩をしていると広い屋敷の向かい側まで歩いてきたようで、ふと視界の隅で動いた影に其方へ視線を向けると和服姿の相手の姿。色々なことが一度にたくさん起こった日だ、とても疲れている顔をしているなと考えれば思わず苦笑が零れてしまうが少しだけ相手の方へ寄ると声を掛けて)
おや、眠れないのか?──もう夜も遅いぞ。
(月明かりに照らされる紫陽花と彼岸花の咲き誇り青紫、赤紫と赤色の色彩豊かな綺麗な庭に、月明かりを反射してキラキラと光る池とその池の中を泳ぐ白と赤模様が綺麗な錦鯉、見事としか言いようの無い美しい庭の風景を眺めていれば、雲間から月が見える、日本では夜中の2時から4時まてを丑三つ時、夕方の6時位の時間を逢魔が時と言うくらい夕方から夜は妖魔の時間とされてきた、満月はどうだったか忘れたが西洋魔術からだと満月は魔力なるものが満ちる良い刻だと言う、今の時間は恐らく丑三つ時と呼ばれ尚且つ満月なのだ、狐である御言様には何かしらの影響はあったりするのだろうか…なんて考えながら、都心でも田舎でもそうそう見ることの無い美しい庭を見ていれば、心の中で考えていた人物が現れて心でも読んだのかと思ったくらいには驚き、思わず目が丸くなる、そんな心情を知ってか知らずか眠れないのかと問いかけられ)
………まだ、気が昂っていると言うか緊張が解けないみたいでして…
お庭を眺めて心を落ち着かせようとしていた所です。
お邪魔でしたら、中に戻りますが……。
(先程も考えたが夜は御言様のような人外の時間、眠気なんてものは昼とかに来るのだろうか?と考えつつも、確かに宴会が終わったのもおおよそ0時で今の時間は夜の帳も深い時間、いつもならもう寝ている時間なのだが、結婚に宴会、明日から行うと聞く躾等を考えてしまって眠れるものも眠れず、こうして相手が居るということはこの時間帯は散歩の時間なのだろう、邪魔なら部屋に戻ろうと立ち上がると相手の顔を見る、相変わらず不気味な程に顔が整っており月明かりの効果故か更にそれを増強させる。これからこの方に相応しくなれるよう躾などは受けると聞いているがこれだけ顔の良い者画隣にとなると幼いながらも女として複雑な気持ちになる。あまり顔を見ると魅入られそうと思って下に視線を向ければ、なんと相手はまさかの素足では無いか、これでは足が汚れてしまうと思って、いや既に手遅れな気もするが)
あの………草履は履かないのですか?
(これくらいの問いかけ位なら良いだろうと質問をし)
ははは、そうか。邪魔などと思うものか、お前の家なんだから……どれ、私のとっておきの場所を見せてやろう。おいで──嗚呼、足の裏に感じる感触が好きなんだ…だがこれではみっともないか。
(池で鯉の跳ねる音がする。縁側に腰掛ける相手はやはり小さく、昼間見た時よりもいっそう幼くなったと云うよりかは年相応に見えてどこか少し安堵を覚える。此方の問に返ってきた答えには一瞬目を丸くするものの、当たり前かと思えてしまうと機械的にも思えていた相手の言動を思い返してはきちんとした所もあるものだと愉快に思えてしまい思わず笑いが込み上げて。まだどこか遠慮深くよそよそしい態度は致し方ないかと考えつつも早く慣れてくれれば良いものだという言葉は胸の内に隠し、和服の裾から扇子を取り出すと開いて緩く扇ぎながら片手をひらりと。まだ眠れぬのなら少しだけ癒しでも与えようか、人間がどう思うかは知らないが個人的に癒しの空間と呼べる場所が存在していてそこへと案内してやろうかと片手をさし伸ばした所で素直な質問に思わず手を引っ込めては己の足元を見下ろしひとつ頷いては、楽しそうに緩やかに目元を細めると笑みを浮かべるが、さすがにだらしがないかと縁側の軒下、近くにあったサンダルへ足を通し少し慣れないその感覚に確かめるように足の指先を動かして)
ありがとうございます…。
とっておきの場所………行きます
(邪魔にはならない、ここが家だと言われれば、これまでかけられた事の無い言葉に困惑も混じるがそれでも自分を必要としてくれていると感じられてどこか胸がほんわりとするようなそんな感覚になる。今の現段階では御言様は悪い狐では無いし自分の欲しい言葉を投げかけてくれる少しだけ心が休まる気持ちになるが、油断は禁物。明日から行われる躾はきっと厳しいものだと想像は容易い、自分に耐えられるだろうか不安だし、ここで御言様に気を許して泣いたり口調を崩せばそれはいつか使用人の人達に伝わるかもしれない、それを考えれば気を許すのはまだまだ先だと思って。とっておきの場所と聞けば、この庭だけでも十分綺麗だと思うが、この庭を見慣れているだろう御言様の言うとっておきなのだ、きっと凄く綺麗な光景が見れるのだろうと思うと自然と目が輝き、行ってみたいと素直に思う。せっかくの好意だし見てみたいと言う自分のちょっとしたこれくらいの我儘なら咎められないだろう、行くと即答すると自分も近くにあった自分用の小さな草履を履いて御言様に近づき)
(/ 1度上げさせて頂きますね。通信障害のせいで返せない、中の人が多忙など事情はあるかと思われますのでこちらは気長にお待ちしております。もし私の文面で至らぬ部分があり、相性が悪いと思われたのなら遠慮なく仰って下さいね。)
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