嘗ての記憶を悪夢と名付ける、 2022-05-31 18:28:12 |
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(淡々と生きてきた。つもりだった。確かに三者から言わせれば不幸な人生かもしれないが、かと云って悲観したところで何ら変わりはしないのだ。
……こんなに馬鹿馬鹿しいことを考えたりはしなかったのに一体何が自身にそうさせたのか考えを巡らし、そして、目の前の光景をもう一度視認する。路地裏で極普通にありふれた暴力沙汰。否、ありふれたと云っても実際に目の当たりにしたのは人生で初めてである。
たった一人相手に四、五位で一斉に掛かろうとしていたのがつい先程、既になぎ倒され蹴散らされの惨事と化していて目を疑う。繁華街の騒々しさと煌びやかさから断絶された様に暗く細い其処に、瞬間月光が差し込んで、__殴られた頬を腫らしながら一人佇むその男の顔に走る引き攣った傷に目を惹かれずには居られなかった。)
おい、何してやがる。とっとと逃げろ阿呆。
(関わるつもり等毛頭なかった筈だが気が付けば声を掛けていて、均衡を保っていた何かが音を立てて崩れ行く奇妙な感覚に首を傾げつつ思考を掻き消して表情変えず歩み寄っている自分が信じられずにいた。)
(理由は単純。相手方五人が口々に睨んできただのと文句をつけてきたから。云わば其れだけだったが拳を振るうには十分すぎるだろうと思い込む様にして足元を見下ろす。殴られた頬が痛んで鉄の味に顔をしかめつつ拳に付着した鮮血を振り払って)
......嗚呼、またやっちまった。
ッ...、!
(つとネオン街の方へ視線を遣れば逆光で表情こそ見えないもののツーブロに綺麗に整えた髪の男が此方を見ている。これ以上騒ぎになってはまずいと慌てるのを余所に彼の口から零れたのは余りにも予想外のものだったのだ、臆することなく向かってくる彼とは対称的に後退り乍もつい瞠目し訝しんでしまう。)
...ええ?あんた、此奴らのグルじゃねえの、
......は?何故そうなるんだ
(驚くのも無理はない、と思考しつつ目を丸くする彼に構うことなく歩み、後二、三歩で手が届く程まで距離を詰め__心外だとばかりに首を振って。壁に凭れ悠長な素振りで繰り返すのは先から述べる忠告だ、)
言っただろうが。早く逃げた方が良いんじゃねぇのか?警察の世話になりたくなきゃ、もたもたするな。俺も目撃者だのと証言させられんのは面倒だ、
(そう言い終わらないうちに壁から離れ背を向けてしまえばふらりと立ち去ろうと。こう赤の他人に"お節介"を振り撒いた今しがたの行動に信じられぬ思いでいるのは自分自身だとこっそり苦笑しつつ流石に無愛想過ぎたかと思い立っては片掌をひらりと掲げて見せ)
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