匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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……場合によっちゃ、ギルド協会への通報までが俺たちの仕事だ。
(相手の思想のバーサーカーぶりにも、今回は同意せざるを得ない。この込み入った事件を四、五人ならまだしも、たったふたりで解かなければならないのだ。依頼者から名指しされた事情に加え、非公式の抜き打ち監査をトリアイナ側に勘づかれないため、という意図もあるのだろうが……。荷馬車の揺れが変わったのに気付き、今一度地図を見直しながら、今回の引き際の一案を予め伝えておく。万が一存在する組織犯罪というものは、それほどまでに厄介な敵であると知っていて。──御者に礼を告げ、少し生温かさを感じる潮風を頬に受けながら歩くこと数分。以前の記憶は朧気ながらも、そこが変わり果ててしまっているのは明らかだった。建物を見れば、そこを利用する人々の性格や思想が読める、とは他でもない師匠の教えだが、果たしてこれは……と真剣に考え込んでいた折。隣から上がった声にもの言いたげな目を向けようとして、はたと中空を見つめ静止する。夫婦漫才を演じるというのは、特に傲慢な相手の油断を誘うのに意外と有効な手段だ。後で本人にしこたま引っかかれる羽目になるものの、スヴェトラーナとも時々使ったことがある。あの成功率を思えば意外にありかもしれない、と一瞬本気で傾きかけたものの、そこで名目上であれ相手のことを「妻だ」と言わねばならないと思い出せば、もう一度相手に目を向けて。男ならほとんどだれもが振り返るであろう、しなやかで豊満なスタイルと、何よりこの、ようやく少女を脱したばかりの溌溂とした若さ。……だめだ、犯罪だ。犯罪にしかならない。)
……偽装手段としてはありだが、あと10年は必要だな。
(顔を逸らしてぼそりと呟けば、紋章をあんな様にする連中には普通の礼を尽くしたところで無意味だろう、とノックすることもなく木製の戸を押し開けて。途端にむわんと漂ったのは、数種類の強い酒気。ロビーは薄暗く、長椅子やテーブルの上にすら寝そべる手前の男たちがこちらを胡乱気に振り返り。賭博の跡が伺える大テーブルの奥の方では、まだ昼前にもかかわらず、娼婦の姿がちらほら見える。男たちと軽くじゃれ合う程度で”本番”は始まっていないようだが、それでもあまりの堕落ぶりに言葉を失していると、「なんだ、だれか追加を呼んだのか?」と、すぐ側にやってきた大男が相手をずんと見下ろして。)
(/死者の取り扱いについて把握しました、大丈夫です!こちらも社会的にダークな部分に折々触れると思いますが、苦手なもの、もう少し控えめな方が好みなものなどございましたらお気軽にご相談ください。
また物足りなさ、については全くご心配なさらず。この物語の世界観も、ギデオンとビビの関係も、双方ともに毎回大満足させていただいております。今回の踏み込みも全然ウェルカムですのでご安心ください……!恋に盲目的なのは、という以前挙げた要素ですが、こちらの心配は背後様と複数回やり取りした中で完全に払拭されておりすということもここにお伝えいたします。世界観なり人間関係の変化なり、複雑に重なり合う構造が好みというのを背後は拗らせておりまして……その辺りの相性がどうか見るために挙げてさせていただいた、という事情が恥ずかしながら……!シリアス要素を引き立てるためにも、ギデオンが好きで仕方がないビビというラブコメ要素も、主様の心のまま楽しく投入していただければと思います。
あとこれは個人的に。トリアイナの意匠に元ネタを取り入れてくださったこと、大変嬉しかったです。ありがとうございました……!
お気遣いいただいた中心苦しいですが、最後に少しだけ必要なお願いが。トリアイナのある街の名前、ギデオンとビビの所属するギルドの名前、そして今回の依頼者はどんな立場の人物か、の3点について、これから便宜上必要になってくると思うので、主様の中でお決まりでしたら是非ご共有ください……!)
えー、バルガスには上手だって褒められましたよ!
( 元々にべもなく断られるつもりではいたが、作戦として考慮された上で具体的に不可と評価されれば、冒険者としてのプライドが刺激されてムッと頬を膨らませ。以前ほかの依頼で夫婦もとい、正確には恋人を装った際のことを思い出すと、既に扉を押し入っているギデオンに小走りでついて行きながら抗議して。ちなみに筋肉自慢の可哀想なバルガス君は、それでビビに本気で惚れ、白昼のギルド内で正々堂々告白してキッパリ振られている。そんな不満げながら元気な抗議も、ギルド内の惨状を見ればピタリと口を噤んでしまい。先程のギデオンの視線とは比べ物にならない、失礼で不躾な視線がジロジロと主に上半身に集まるのを感じれば、あまりの不快さに相手の後ろに隠れたくなるが、こんな連中に負けてたまるかと1歩進み出て。 )
キングストンのカレトヴルッフから応援に参りました。
"ヒーラーの!"ヴィヴィアンと申します。先に手紙を送ったのですが、届いていらっしゃいませんか?
( "追加"という表現に思わず、名乗る口調が強くなったのは許されたいところ。ビビの言葉を受けて「そりゃいいな!こっちで俺の"息子"の応援もしてくれや!」という野次にワッと上がった笑い声に、肩を震わせて唇を引き結ぶ。正面の連中から見れば、恐怖で涙を堪えているようにでも見えるかもしれないが、ローブの背中側の裾へ爪を立て、ギリギリと捻りあげている様を見れば、怒りに打ち震え今にも手が出そうなのを我慢しているのは明白で。ビビの言葉を聞いて、「ああ手紙ね……態々キングストンからご苦労なことで。」と、明らかに面倒そうな雰囲気を隠しもせずに長椅子から起き上がり、近づいてきた細身で黒髪の胡散臭い男は、書類上で見たトリアイナのギルドマスターの名を名乗って。「俺はジェフリー・カーン。俺もこの失踪事件には非常に心を痛めていてね。アンタたちが力を貸してくれると心強いよ。」年の頃はギデオンより10程上か、目元の皺を軽薄に深めると、白々しく2人の間に手を差し出して。 )
( / 諸々の確認とご相談ありがとうございます!
丁寧な説明もいただき、心から納得致しました。此方も募集でチラッと書いた通り、世界観を必要以上に著しく棄損するラブコメが苦手でして、世界観や様々な事情の上で折り重なる人間模様がツボな面倒なオタクのため、非常によく分かります!
これからもちょくちょく、雰囲気を壊さない程度にギデオン様に迫る描写を入れられるように致しますね。
地名について、今回も非常に薄くてお恥ずかしい限りですが、トリアイナのある街の名前はグランポート、2人のギルド名をカレトヴルッフ、またカレトヴルッフのある街の名前はキングストンと名付けさせていただきました……!依頼人はエウボイア号で師匠を失った、元トリアイナの見習いである青年を想定しております。治安維持組織が軒並み腐敗している中で、カレトヴルッフに依頼したことがバレると危険なため、大々的に協力はできないという設定を考えております。 )
( / 連続投稿失礼致します。以前お約束したヴィヴィアンの母親のPFが出来ましたので、上記と併せて確認お願い致します。)
姓名 / シェリー・グラハム(パチオ)
享年 / 28歳 (生きていれば51歳)
容姿 / 暗い焦げ茶色のカールしたショートカット。切れ長の睫毛の長い目は、ビビと同じ鮮やかなグリーン。身長155cm、小柄、細身。
人物 / ヴィヴィアンの母親、先代ギルドマスター、ギルバート・パチオの妻。非常に優れた剣士で才能だけは夫にも引けをとらなかったが、地位などには興味0の元祖脳筋。面倒見の良い姉御肌な性格で、娘にも増して真っ直ぐ。豪快で強い人。
備考 / ギルバートとはおめでた婚。ヴィヴィアンの出産で命を落とす。
(いつぞやの朝の中年どもなどまだ大人しいほうだった、そう思えてしまうほどにトリアイナの連中の反応は悪辣極まりない。男の自分でさえこの不快感、果たして直接ぶつけられたヴィヴィアン本人は如何ほどか。そつなく無表情を装うことは忘れないものの、内心は心配に思い横目で相手を確認すれば、力みすぎてさらに白くなる指関節を一瞬眺めることになり。──彼女が、あの猛る猪のような気性を持つヴィヴィアンが、それでもきちんと弁えて耐えている。ならば今この瞬間ではなく、のちの適切なタイミングで、ヴィヴィアン自身が思いきり鉄槌を下す機会を与えてやってこそ、彼女を預かる責任者たりえよう。こちらもそう腹を括れば、再び正面に視線を戻し、煩わしそうな顔の先方と形ばかりの挨拶を。差し出された掌に嫌な魔力が纏わりついていることは、相手の目をまっすぐ見据えたままでも、剣士の自分ですら感じ取れた。「失礼。こちらの”風習”には、あまり詳しくないもので……」困惑に微笑むふりをすれば、ジェフリー・カーンはにやりと笑い、馬鹿にしたような目を仲間と交わしながら奥の方へ戻っていく。「資料はそこの棚にある、それを好きに持っていけ。宿は自分たちで手ごろなのを見つけろよな。ま、そこの女を混ぜてくれんならうちでもいいんだが」……相変わらずの調子で、本来必須である情報共有や作戦相談の場を設ける気などさらさらないのが見て取れるこの態度である。かと思えば振り返り、「それと、警察の邪魔だけはすんな」と突然凄みのある顔を。「ここのは冒険者ってのにいやに冷たくてね。おまえらがあいつらの機嫌を損ねりゃ、俺たちが締め上げられんだ。……そうなりゃ、いくら応援だろうと俺たちも黙っちゃいない。いいな?」先ほどより数段冷えた声、周りの男どもも体を起こして威嚇するような雰囲気を放つ。再びヴィヴィアンにちらと目をやり、先ほどの彼女が防衛のため強気な態度に出たことを思い出せば、ここは自分が情けない役を印象付けておこうか、と判断。途端に気圧されたような表情をして両手を上げながら後ずさり、「わかった、そう脅さないでくれ……あんたたちと事を荒立てる気はない」少し震える声を吐き出す。さざめく笑い声、顔を寄せ合い囁きあう姿がいくつか。そこの棚に一冊だけ立てかけられている資料冊子を取ってくれ、と相手に目で合図すると、彼女を先に外に出す素振りは見せつつも、ここを一刻も離れたいというように、恐れの浮かぶ双眸をトリアイナの面々に向けながら出口の方へ体を向け。)
(/性癖ならではの関係性は大好きだけど、あまりリアルに考えるとまともな倫理観が発動してしまう……という募集板に記載されていたあれを当方も元々根深く患っておりましたので、オタクとして共通点が多々あることに大きな喜びを感じております……!こちらも同じく、雰囲気を壊さない程度に逃げ回ったり陥落したりをしていきたい所存です。
名前や依頼人の設定もありがとうございました!キングストンにカレトヴルッフ、主人公たちの本拠地にふさわしく王道感あふれる響きや由来を秘めていてとても好きです。依頼人に関しまして、一歩間違えれば命を狙われる立場だろうと当方も考えておりましたので、設定に大賛成です。また触れておりませんでしたが、トリアイナギルマスのキャラクター設定もありがとうございました、この先のロルで非常に助かります……!バルガスも非常にいいキャラをしているので、いつか息抜きのような小話でまた名脇役になってくれたりしないだろうかと密かに楽しみです……笑笑
他に相談事項等なければこちらは蹴り可です、引き続きよろしくお願いいたします!)
(/更新前のページを参照してロルを書いていたため確認が遅くなりました、シェリーPFありがとうございます……!元祖脳筋、しかもビビ以上に豪快、それでいてすらりと長身なビビとは反対に小柄な女性であるということ、解釈ド一致で拳を突き上げております本当に好きです……もはやカレトヴルッフ内で伝説の女性だろうな……そして14歳にして年上の彼女に淡い初恋をしていたギデオンも、見る目は間違いなくあるもののやはりかなりませた少年だった説が美味しく確定し、ひとりニヤニヤしております。何かの折にギデオンがビビをおませ扱いしようものなら、当時を知る人間から「おまえが言うか」「むしろお似合い同士」「割れ鍋に綴じ蓋」と総ツッコミを食らう展開があったりしても楽しそうです。彼女とギルバートの恋路も、女傑の心を手に入れたギルバート自身の人物像も気になりますし、ビビの出産で命を落としたのはあまりにも切なすぎるし、でも既に親馬鹿と記載のあるギルバートはきっと忘れ形見であるビビをそれはもう大事に育ててきたんだろうなあとか、妄想が尽きないやらあちこち萌えてたまらないやら……!きっと主様のご想像以上に一字一句残らず美味しく噛みしめております、とだけ、改めてお伝えさせていただきます。こちらもお返事には及びません、本当にありがとうございました……!)
( 差し出された掌の嫌な魔力は、隠せていないと言うよりは隠す気のない悪意に満ち溢れたもの。船上からわかりきっていたことだが、実際にここを訪れたことで、目の前の連中にグランポートを任せるわけにはいかないという気持ちは一層強くなっていた。その為に先程からの侮辱にも必死に耐えているにも関わらず、ここで握手を拒否していいものか、どうにか魔力を相殺できないか、手の中で魔法式を捏ねくり回して逡巡してしまい。その場はギデオンが笑われ役を買って出てくれたお陰で、なんとか捜査の権利は守れたものの、魔法から仲間を守る術もないくせに何がヒーラーだと、連中への怒りと同時に、自分の不甲斐なさに自分のつま先を睨みながら、トリアイナの戸をくぐった。 )
──なんっなの!アイツら!!!
特にジェフリー!!本当に信じられないわ!!生え際から残りの毛全部毟りとってやりたい……
( そうして立地だけは恵まれたトリアイナから、まずは拠点を決めようと大通りを歩きながら宿を探すことにして。あまりの衝撃や不快さ、仮にもギルドがあそこまで荒れているやるせなさに、暫くは口数も少なく心做しか足取りも元気がなかったが、ギルドの看板が見えなくなった瞬間、1歩強く踏み出したかと思えば一気に沸騰して。若い頃はそれなりの容姿らしかった名残が感じられ、今も明らかに気にしているであろうジェフリーの妙に広い額と、長い前髪に容赦なく言及すれば、胸の前でワナワナと何かを掴むように手を握り。そうして怒りに震えていたのもつかの間、ゆるゆると両手を下ろせば、しょんぼりと肩を落として立ち止まり。私がもっと我慢出来れば、悪意から仲間を守る術があれば、ギデオンさんを馬鹿にされることは無かった──!状況が悪かったのはその通りだが、自分のことより何より、怒りを感じていたのはその事で。目と鼻の奥がツンとするのを誤魔化すように、手の甲で鼻を擦り細い喉を上下させると、堪えるような細い声で、連中の前で主張してやりたかったことを漏らして。 )
ギデオンさんの方が強くて、ずっっっと格好いいのに……
まあ、男として少なくとも一箇所は勝ってたな。
(しばらくは見たことのない気落ちぶりだった相手から、やがて猛烈な勢いで怒りの声が噴き出しはじめれば、喉を鳴らして相槌を打つ。よりによって文句の付け所がそこなのだから、彼女の善良さが窺い知れるというものだ。話しながらも巡らせていた視線はひっそり佇む安宿に止まり、開放された扉に近寄ってその奥を覗き込む。まるで両脇の店に潰されるようにして縮小してきた店のようだが、古くとも中は小奇麗に整えられ、カウンターにいる店員も真面目に記帳に勤しんでいた。宿によっては地元ギルドとの結びつきが強いものだが、ここなら大丈夫だろう。声をかけるべく相手の方を振り返り、そこで初めてしょんぼりしていたことに気づくと、ふっと表情を和らげて。)
……心配するな。そのうち嫌でも思い知らせてやるさ。
(手を伸ばし、栗色の髪をくしゃりと一度だけ撫でる。そこには少なからず、連中の下卑た手出しを耐えきったことへの労いと、自分以上に、ギデオンのために怒ってくれたことへの感謝の気持ちが含まれていて。)
……!は、わ、……。っ頑張りましょうね!
( 形の良い唇が甘く弧を描き、大好きなペールブルーの眼が優しく細められる、そこに透き通ったものが混ざりつつある綺麗な前髪がかかって揺れて……どんな表情も格好いいなあ、とギデオンの笑顔を元気なくぼんやりと見つめていれば、頭に硬く暖かい思わぬ感触を覚えフリーズ。相手が許すのをいいことに、本人の前で好きだ好きだと騒いでいるが、まさかギデオンから触れられるとは思っておらず、優しい好き、格好良すぎ、なんて反応すれば、好き、もっと撫でて欲しい、今絶対変な顔してる、大好き、などと次々噴出する感情に処理落ちした形となって。顔どころか耳の先まで火照って熱いし、目は先程まで堪えていた残骸が無意味に零れ落ち、ニヤつかないよう意識して、逆に不格好に歪んだ口からは意味にならない音が零れる。依頼中だと思い出して、ハッと両手で頭を抑えると、なんとか絞り出した声はいつもと比べ物にならないほど小さかった。 )
これはもう……真っ黒ですね。
( 何処か夢見心地で踏み込んだ宿屋は、小さいながらも手入れの行き届いて暖かな印象で。親切な主人に、密談のできる信用出来る店を聞くと、態々掃除してまでもう一部屋貸してくれた。金を支払おうとすれば、この宿屋も4年前以降の警察署やギルドの横暴に煽りを受けているらしく、なんのこれくらいと太っ腹に微笑まれてしまって。兎に角、トリアイナから持ち出した資料を広げ、いざ作戦会議となったところで、控えめなノックに扉を開けてみれば、主人の背後から気まずそうな表情をした青年が現れる。青年は自らを今回の依頼者だと名乗り、他所のギルドの冒険者である2人に助けを求めることしかできなかったことを謝罪して、トリアイナのそれとは比べ物にならないほど分厚く、質の良い資料を差し出すと、師弟程の年の差である2人を見て複雑そうな表情をして帰っていった。それから数日、宿を拠点に青年の資料も活用して、トリアイナやグランポートの警察署を調べれば、出るわ出るわ呆れる程の悪事の証拠。エウボイア号の噂の謎はともかく、今回の事件のあらましも何となく見えてくれば、作戦会議用の部屋で今まで調べた情報を並べて、いっそ見事なほどの悪事に溜息をつき。 )
もう現場抑えなくても、余罪ありすぎて逮捕できちゃいそうですね……警察署がマトモならですけど。
(ただ真っ赤になるだけならば、流石に気づくはずだった。しかし、小さな涙がぽろっと零れ落ちたり、蚊の鳴くような小声で返されたり、普段は勝気に笑む唇がくしゃりと歪んだりするものだから、まさかそれらすら薔薇色の恋情の発露であるとは夢にも思わず。……普段はどんなに猛々しくても、ヴィヴィアンとてうら若い娘。先ほどまで立派に振る舞っていた反動で、安心した今、トリアイナに味わわされた恐怖や惨めさがあとから蘇ったのかもしれない。あの悪漢たちに彼女が再び立ち向かえるよう、こうして要所要所で労わるのも肝要だろう、と。相手のことをあくまで守り育てるべき後輩として認識したまま、ぽん、と幼子をあやすような手つきまで最後に残せば、砂利を踏み宿の受付へ。ひとまずは一週間の宿泊を決め込むことにして。──はたして、そこはたまたま選んだ宿であったが、店の主人は意外な人脈の持ち主だったらしい。ギデオンたちが身を落ち着けたころに主人の案内でやってきた客人は、他でもない本件の依頼者だった。帰り際の妙な顔の意味はいまいち掴み損ねたものの、旧トリアイナ一員の青年が掻き集めた情報は非常に有益であり、同時に、ギデオンたち自身の足で拾い集めた情報同様、呻きたくなるほど酷いもので。トリアイナとグランポート警察は険悪な関係だというジェフリーの話は、やはり真っ赤な嘘だったのだ……トリアイナの繰り返す喧嘩騒ぎや密漁、またよりによって警察官による市民への恐喝や理不尽すぎる制圧、そして4年前から不自然に潤いだした双方の資金状況。一見別々に発生して見える数々の事実の記録を、日付や位置関係もしっかり頭に入れたうえでじっと俯瞰してみれば、陰湿な協力関係が嫌でも克明に浮かび上がる。要は、トリアイナが何か犯すたびに警察が恐ろしい口封じに回り、それがどういうわけか両者の懐を膨らませてきたらしい。座り込んだ椅子の背を斜め後ろに傾けると、しかめた目頭を揉みほぐす。あまりの腐れぶりに、ヴィヴィアン同様深い深いため息を落とし。)
ああ、立件すれば主犯でなくても十年はぶちこまれるだろうな。だが……警察ぐるみの隠蔽ってのが本当に厄介だ、こいつのせいでそう簡単には動けない。半端な追い詰め方じゃ本命の尻尾を捕まえ損ねて、依頼者の願いを果たせない羽目になりかねん。
(そう、今回の依頼はあくまでも、連続失踪事件を解決することである。トリアイナとグランポート警察の悪事を明るみに出したいのは山々だが、目的のためには慎重に立ち回らねばならない。こめかみに骨張った手を添えながら未読の資料を新たにめくり、ふとある情報に目を眇めて、相手も読めるよう冊子を横向きに滑らせて。沿岸部の貧しい漁師たちの証言、なんでも2週間に一度、トリアイナの連中が北端の波止場から小舟を出しているという。そして時には、そこに驚くべき人物が乗っている──グランポート警察署長、ヘルハルト・レイケル。赤インクで丸が付けられている辺り、この情報を拾ってきた依頼者の青年自身も、彼が何か関わっているのではないかと睨んでいる様子だ。記録の周期通りなら、次に小舟が出るのは明後日。もしそこで失踪者が出るとすれば、その前日、つまり明日、噂のエウボイア号が沖に姿を現すことになる。トリアイナ=グランポート警察の癒着問題とは別の、そちらの怪談じみた話も捨ておくわけにはいかないだろう。気分転換も兼ねてしまおうかと、調査先の選択を相手に委ねてみて。)
レイケルとトリアイナの関係で不明なのは、後は金の出どころくらいだな。それは一旦後回しにして、エウボイア号についても調べを進めようと思うんだが……行方不明になる前は普通の豪華客船だったんだ、何かしら記録はあるはず。造船所と歴史資料館、おまえならどっちに可能性を感じる?
順当にいくなら造船所……ですよね、でも……
( 4年前に失踪したはずのエウボイア号の噂。ヴィヴィアンはこれでかなり現実的であるから、幽霊など存在しないと思っている──いやもう本当に、絶対に、いないに決まっている、あれから拳に聖魔法を纏わせる練習なんて決してしていないし、慣れない宿で夜御手洗を我慢する羽目になったこともない、神には誓えないけど。ということで、本当に夜な夜なエウボイア号が現れると言うならば、それは実は密かに帰ってきていたエウボイア号そのものか、はたまたよく似た別の船に違いないのだ。どちらにせよ、前者であれば巨大な豪華客船を昼間は気付かれないためのカムフラージュが必要だし、後者ならば言わずもがな、必ずどこかの造船所が関わっているはずだ。しかしそうもハッキリと言いきれないのは、態々失踪事件の起こる"前夜"にエウボイア号が現れるという違和感で。これだけ失踪事件に街全体が震え上がっている中、噂と言えど誰かが消え去ると分かっている夜に、特に用事もないのに出かける人間は少ない。まるで市民に忠告し守るかのように現れるエウボイア号と、連中の関わりを測りかね、ギデオンがあえて歴史資料館をあげていることを考えても、安直に造船所を選んで良いものか逡巡し。これだけエウボイア号の噂が広がっている以上、先程の仕事をしたと名乗り出る造船所が現時点でいないのであれば、その造船所もグルの可能性は高い。それならば明日1日で突き止めるのは難しいだろう、と悩ましそうに伏せていた目をパチッと開ければ、消去法&冒険者のカンというあまり頼りにならない宣言を。 )
ヨシ、歴史資料館に行きましょう!
(きっぱり告げられた答えに頷き、上着を掴んで立ち上がりながら薄い袖を通す。バディを組んでの初めての仕事だったシルクタウンの事件では、相手のヒーラーとしての能力や、最適な作戦を導き出す思考力と行動力、何より一般人を必ず守らんというプロ意識の高さを垣間見た。そしてここ数日の資料精読や地道な聞き込み作業でも、天性の気づきの良さを何度か発揮するのを見ている。このため、相手のそういった判断には信頼を置くようになっていて。物わかりの良い店主の許可のもと、資料を残した部屋にきっちり魔法封印を施し終えれば、裏口から宿の外へ。空は快晴、太陽は天頂に届く手前といったところで、これから暑さが増す頃合いだろう。この港町特有の砂利道を歩きながら、表向きはあくまでもちょっとした観光。大通りの隣、海辺に続く商店街を資料館の方へ抜けながら、甍を連ねる店々の装いを相手とそれとなく眺めていく。海産物をふんだんに使った磯料理屋、釣り道具屋、水着屋、流木や海の生き物の骨を使った民芸品店、珊瑚や真珠のアクセサリーショップ。ほとんどの店の軒先には、潮風を受けてカラカラと回る魚の意匠の骨飾りが吊るされている。ふと目をやった先には老舗の酒店があり、店頭の樽の上には貝ひもや、『人魚の鱗』と題された鮭とば、レモラのからすみ、蓑亀の肝の天日干しが。いずれも酒飲みにはたまらない肴である、珍しく物欲しそうな声音でぼんやりと呟いて。)
美味そうだな……この件が落ち着いたら、つまみでも買い込みたいもんだ。
わあっ、いいですね……お土産にしたら皆喜びそう!
ふふ、この仕事が終わったら買いに来ましょう──
( トリアイナや宿周辺の中心部は、まだキングストンにも近い街並みだったから、海辺の風情溢れる商店街に目を輝かせ、上がる気温に怯むどころか、あちこち覗いては元気な歓声をあげてみせる。昔の貝が入った魔法石や、メガロドンの体に生えた海藻を煎じた素材など、目に入るもの全てが魅力的で、自分に暇さえあればここだけで半日は潰せるだろう。──それに、それに周りからはデートに見えちゃうかも!なんて、内心幸せそうに1人はしゃいでいると、ギデオンの呟きにハッと其方を振り返り、滋味豊かな酒のあて達に楽しげな声をあげて。今回の依頼にあたり、仕事内容につき、余計な入れ知恵につき、ギルドの女性陣には大変お世話になっている。ビビはあまり強くないが、酒飲みの彼女達へのお土産にもピッタリだと両手を合わせる一方で、仕事中に珍しい反応を見せたギデオンに心配そうに目を丸くもして。慣れない地で人の悪意に晒され続け、流石の彼も疲れているのだろうと、何か元気づけられる様な言葉をと頭をフル回転させれば、"疲れた男にはこれよ!いいもの持ってるんだから活用しなさい!"とは誰のアドバイスだったか、徐にギデオンの腕をとってぎゅっと抱きつき、上目遣いで見つめれば、これまた誰かの入れ知恵をここぞと披露して。 )
──そ、そしたら、ギデオンさんのお部屋で飲みたいなあ、なんて、
……馬鹿を言うもんじゃない。だいたい、おまえはそんなに飲める方でもないだろう。
(呑気によそ見していたせいで、不覚にもそれを許してしまった。ふと気づいたときには、己の太い左腕に華奢な細腕が密に絡みつき、何ならふんわりと柔らかな──それでいて確かな質量のものすら押し当てられている有様で。ほんの一瞬、脳内に宇宙を広げながら無の一色に染まる横顔。しかし以前と違うのは、それでも歩みを止めはしなかったこと、そしてすぐに目を閉じて小さく息を吐く程度には、我に返るのが早かったことだ。……恐ろしいことに、相手のこういった積極的なアプローチに慣れ始めている自分がいた。流石に男として反射的な動揺はするものの、最早いなせないほどではない。どこか気遣いも交じって聞こえる、しかしちゃっかりと私欲いっぱいの声に対しては、呆れ顔で見下ろしながら無慈悲な却下を。ついでに空いているほうの手を裏返しに持ってきて、相手の額を手の甲の山でこんと、窘めるように小突く。瞬間、パチッと閃く雷魔法。それでもその威力は、古馴染みたちにぶち込む時の百分の一以下だろう──元々魔力の保有量がかなり少ないギデオンは、高火力の魔法を何発も撃ち込むような芸当が叶わぬ代わりに、繊細な微調整ならば比較的得意である。冬場の金属に触れて起こる静電気にすら劣るであろう、見かけ倒しのそれで相手の気を逸らす間に、不埒な事態になっていた腕をするりと振りほどいてしまい。そうこうするうちにも、付近の海岸線を一望できるであろう丘の上に建てられている、古めかしい資料館の屋根瓦が見えてきて。)
んっ……この前は一気飲みしたからで、少しなら飲めますもん。
( 一瞬白く飛んだ視界に思わずキュッと目を瞑ると、するりと抜けていく逞しい腕、明らかに手加減されつつも、彼と仲の良い冒険者たちがよく打ち込まれているそれを額に感じれば、他人行儀より少し距離が近づいた気がして、思わず額に手を当てたまま小さく笑い。形だけは不満げに唇を尖らせながらも、小走りでギデオンに追いつけば後ろで手を組み「それに酔ってもギデオンさんだけならいいじゃないですか」と無邪気に相手の顔を覗き混んで。勿論ヴィヴィアンにとっては、ただ単純に例の時とは違って、周りに勘違いされて迷惑を被ることは無いという意味なのだが。 )
──へえ、以外。この街の何処から金が出たんですかね。
( そうしてたどり着いた歴史資料館のエントランスにて。館内は展示品のために空調魔法でもかかっているのか、室外に比べサラリと涼しく湿度も低い。日々目まぐるしく躍動する貿易の街で、過去の遺産である歴史はあまり人々の関心を集めるものでは無いらしく、閑散として心地良い静寂に包まれた建物内に2人の足音が響く様は、この建物の広さを予感させる。目的のエウボイア号の資料の場所を探すべく、所蔵品の分類が示された何がしかを探して徐に周りを見回すと、エントランスでも1番目立つ中心部、天窓から差し込む日光を反射するガラスケース内の、人の腕を象った黄金の彫像に目を惹かれて。その指の皺さえ見て取れそうな精巧さに、ふと下の説明書きに目を落とせば、驚いたような感心したような声を上げてみせ。トリアイナのできる遥か昔、この入江に人々が移住する黎明期のグランポートは、金の輸出が盛んだったらしい。魔獣や妖精の悪戯、流行病に晒された厳しい開墾時代から、今の華やかなグランポートへの礎を築いたのは、この金から得た莫大な利潤だと、当時の彫刻と共に建都市秘話が記されている。この街で過ごした数日、金の出そうな山などは見当たらなかったが、なんせ魔法概論も成り立たぬ時代のこと、伝説の錬金術師や人智の及ばぬ魔物の存在を想像すれば、楽しそうに目を細めてギデオンを振り返り。 )
俺だけならって──おまえ、それはそれでなあ……
(ぱたぱたと軽い足音を立てて追いついた相手の無邪気な一言に、もはやお決まりになりつつある嘆息を。妙な真似を働いたりしないと信用されていることを、ここは有難がるべきか。だがしかし、酔った状態で男とふたりきりという状況を想定し、それで全く危機感を抱かれないというのも、いくら歳の差があるとはいえ、男の沽券的にはこう、アレではないだろうか。そんな至極平和な懊悩が脳内を占める日が来るなど、十数年前のギデオンを思えばまるであり得なかったはずだが、本人は気づくこともなく。「他所でもそうやって軽々しく煽るんじゃないぞ」と、ただでさえ数多の男に狙われている彼女の身を案じるように釘を刺すことにして。)
……普通の採掘方法じゃなかったのかもしれん。今の行方不明者も、それで鉱夫にされた可能性はあるが……地理的に、グランポート周辺に金鉱山なんてないはずだ。川から砂金をさらうにしても、ここいらじゃ下流すぎて大した量は採れないだろう。それならいったいどこから……?
(その十数分後、ひっそりと開館していたグランポート歴史資料館にて。自分の口から零れたのは、疑念あらわな声だった。館内の思わぬ涼をありがたく享受していた矢先、相手の感嘆に振り向いてみれば、そこには見事に輝く黄金の腕の像。自分もそこに足を向け、相手が視線を注ぐ先に、台に片手をつきながら一緒に覗き込み──ふと、怪訝に思ったのだ。ガラスケースにしっかりと守られて展示されている彫像は、美しいことには美しいが、言ってしまえば与太の類。こんな贅沢品を作る余裕があったということは、当時それほど大量の金が採れたということ、しかしそれはいったいどうやってもたらされたというのだろう。それに、相手と眺めた商店街には、金工芸の郷土品などひとつとて見当たらなかった、名残を受け継いでいそうなものすら。一般的な鉱業都市では冶金魔法が発達するものだが、グランポートにそういった評判があるわけでもない……街のあちこちに活かされている魔法文明は、水産業と観光業に相応したそればかりだったはずなのだ。それらを踏まえて考えれば妙に浮いている、この黄金の遺物とグランポートの古い歴史。それがどうにも引っかかる。だが、もう一度読み込もうと相手に寄せた頭には、現実的な経験と各地の風土に関する見聞がある程度蓄積されているからからこそ、いにしえの魔物の仕業という可能性がまるきり抜け落ちてしまっていて。記されている以上の情報はないと諦めをつけてしまえば、垂れた前髪を掻き上げつつ身を起こし。「……エウボイア号についての特集は、現代のコーナーにあるらしい。とりあえず、金の歴史も確かめがてら時系列順に観ていこう」と、ひとまずの提案をして。)
……!ごめんなさい、気をつけます───でも、本当にギデオンさんなら、いいんです、けど……ね。
( 相手の忠告にきょとん、とできるほど疎い年齢でも既になく、寸前の自分の誤謬を産む発言に気付き一瞬固まったかと思うと、すぐに火がついたようにかあっと赤くなり。本当に全くそんなつもりがなかったからこそ、いくら其方方面の経験値が少ないとはいえ、自分の迂闊さに反省し素直に頭を下げ。先程のビビにそんな気がなかったのは相手もわかっているだろうに、アタックに迷惑そうにしつつも、こうして気まずくなってでも忠告してくれるギデオンの誠実さに内心、超大人!!好き……とますます惚れ直すばかり。そんな相手に今度こそ自分の言葉で気持ちを告げようとするも、人の言葉を借りた時とは違う気恥しさから俯いていき、どんどん早歩きになってギデオンを追い抜かさん速度となって。最後は「あっ!資料館!!見えてきましたね!!」と先程から見えていた屋根瓦に今更気づいた振りを。 )
……はーい。
( 決して相手の真剣な横顔と博識さに見とれていた訳では無い……それも少しあるかもしれないが、自分が気づいている可能性に、経験のあるギデオンが気づいていないはずがないという先入観が邪魔をしたのだ。その場で"その可能性"を口にすることは無いまま、相手からの提案に素直に頷き、足を展示に向けかけ──ふと、どうせ作るならもっと美しい手でも良かったのではないだろうかと、もう一度金の手を振り返る。立場上見慣れてはいるが、剣ダコのある太ましい手は芸術的に美しいとはあまり思えない。その上何か助けを求めるように歪んでいるようなと、その疑問に答えを出すことも出来ないまま、パタパタと相手の背中を追って扉を潜り。ギデオンが知識として覚えた違和感は、ビビもまた言語化こそできないものの体感していた。グランポートは豊かな水のマナや魔法に満ち溢れているが、多くの鉱山で栄えた土地でみられる、暖かい土のマナや魔法の気配はあまり感じられずにいる。だからこそ金の出処を、移動可能な生物ではないかと疑う発想があった訳だが、時系列に沿って見始めた歴史の序盤、グランポートが当初は罪人の流刑地でもあったという展示の前で、やっとその発想の破片をポロリと漏らして。 )
流刑地かあ……そしたらその中に錬金術師がいたのかな。いにしえの──金を産む魔物とかもロマンありますよね。
(先ほどあんなに大胆な誘惑をけしかけてきた娘と、本当に同一人物なのだろうか。思わずそう首を傾げるほど純な赤面を見せた相手が、それでも言い募るように隣で絞り出した、小さな小さな声。本当にか細いものだから切れ切れにしか聞こえなかったが、刹那静止した視線を(……ん?)と向ける程度には、さしもの朴念仁でも、彼女の言わんとしたことがうっすらと感じ取れて。果たして当の相手はといえば、俯きながらも途端に足を速め、目的地を元気よく指し示す様子。その不自然さが余計に、己の胸中で声高に主張する聞き間違いの可能性を消し去り、確信をもたらすはずだったが。いや、もう資料館に着くのだ、今は依頼のためにこんな些事など忘れるべきだろう、と。「空いているといいな」だなんて、普通の応対に舵を切って無理やり押し流すことにした。……揺らぐことを、避けた。真剣さに本当に気がついてしまうのを、無意識に恐れていた。)
……金を、産む……。
(そんなさざ波から数分が経った頃。相手がふと口にした言葉を鸚鵡返しに繰り返しながら、頭の片隅で閃いたものにゆっくりと目を瞠り、思わず顔を見合わせる。消える人々、出どころの不明な金、この地に伝わる謎の黄金、まさか。先ほど手に取ったリーフレットの館内情報に目を走らせ、「悪い、エウボイア号は一旦後回しだ。一緒に来てくれ」そう頼むと、踵を返し資料館の入口へ。歯のないしわくちゃの老婆が受付を担うそこに着けば、彼女に一言、「地下の保存書庫を拝見させてほしい」と申し入れを。老婆は細めた目でギデオンを見、次いで(普段から胸元を軽くくつろげている)ヴィヴィアンを見。もう一度ギデオンを、今度は露骨に、ありありと、あからさまに、若干呆れすら感じさせる目で上から下まで眺め倒すという妙な一幕を経たものの、黙って記帳をすすめた。老衰ゆえかぷるぷる震えながらの歩行で通されたその地下の一室は、若干埃っぽいものの広々としており、上階以上にひんやりと冷え込んでいる。「グランポート民話で、蛇かドラゴンが出てくるものを探してほしい」相手にそう告げながら自分は書架の間を抜け、流刑地時代の記録を探し出そうと、油紙にくるまれて保管された古書の数々を調べはじめ。
──ファーヴニル、という大蛇、あるいはドラゴンの伝説がある。神話の時代、ある三兄弟のうちの次男が海鳥に化けて飛んでいたところ、神々に捕まり殺されてしまった。神々はそうとは知らずに、宿を経営していた三兄弟の父親にその日の宿を求めたため、怒った父親は神々に賠償金を請求する。困り果てた神々は、とあるドワーフから黄金を生む指輪を奪うことにするが、不当に感じたドワーフは、嵌めた主と同化して不幸に陥れる呪いを、盗み出されるときにかけた。やがて神々の手から父親のもとへ、黄金を生む指輪が差し出されることになるが、ここで三兄弟の長男、ファーヴニルが欲を出し、父親を殺してまで指輪を奪い取る。指輪を嵌めた瞬間、ファーヴニルは呪われ、大蛇あるいはドラゴンに変身してしまった。黄金を産み出せる代わりに人の理を外れた身の上を嘆くファーヴニルは、解呪して人に戻るべく、人を攫ってはその魂を貪り喰う怪物に成り下がる。しかし最後には、唯一人として生き残っていた末の弟に心臓を焼かれて弱まり、孤島に閉じ込められた……というのが、ファーヴニル伝説のあらましだ。
本来はグランポートに限らず各地に伝わる物語だが、次第に広まり派生していくのは、伝承の持つさがだろう。もしこれが、事実であったとしたら。流刑地として選ばれた島で、罪人たちがファーヴニルを見つけたのではないか。そのことに、現代になって気づいた者がいるのではないか。調べ始めて数時間、その見当は思わぬところで確かさを増すことになった。開拓時代、流刑者を島に送り届けていた最後の刑吏の名が──ファビアン・レイケルと記されていたのだ。)
( 羞恥で焼けるような思いで絞り出した言葉は、相手には届かず生温い空気に溶けて霧散したようだった。それに落胆する気持ちよりも、安心する気持ちが大きいことに我ながら失望しつつも、きっと届いていたら資料館にいる間マトモに相手の顔を見ることは叶わなかっただろう。一ヶ月前、あの揺れる馬車の中で素敵な女性になってから告白すると宣言した手前、それは不本意であるから、これで良かったのだと胸を撫で下ろせば、ギデオンとは対照的に清々しい気持ちで資料館の扉を潜った。だから己の発言に相手と顔を見合せた時、既に表情は真剣な冒険者そのもので、一緒に来てくれという言葉に浮かれるような色の入り込む余地もなく。まさか──まさか、まさか!と常識はその荒唐無稽な発想を否定し続けるも、冒険者としてのカンが完全それを許してくれない。そしてビビの浅い経験上このカンは割と当たる方だ。急いで老婆に許可をとってなだれ込む様に地下に──とはいかず、じっと意味深に見つめられるなんとも言えない時間のおかげで少し冷静さを取り戻した。ありがとうお婆ちゃん、次ここに来る時は第1ボタンまで閉まるヤツ着てくるね。ということで、ギデオンが歴史書を紐解いている間、ビビはグランポート周辺の海図と魔法史を片端からひっくり返していく。もしファーヴニルが実在するとして、マナの質や妖精達の様子を見れば入江内ではないだろう。神話を鑑みても入江外の孤島である可能性が高い。しかし栄えた港であるグランポート周辺の島は、どこも既に商人や市に買い占められ、魔物が住めるとは思えない。ならばと引っ張り出したのがグランポート魔法史で、このグランポートが水のマナ溢れる土地であるならば、絶対にあの手の魔法があるはずだ───見つけた。海図と併せかれこれ数時間続いていたページ捲る手を止めたのは、見えないはずの物を見せ、存在する物を隠す水属性の魔法でも高度な魔法のひとつ、蜃気楼を人工的に生み出す魔法のページ。何百年も島一つ隠し続ける程の規模になれば、もはや現代の人間には不可能だろうが、地上にマナの溢れていた古代・神代ならあるいは。あるものとして考えれば、海図の中に不自然に潮の流れの変わる点を見つけることも難しくはない。分厚い羊皮紙の冊子を持ってギデオンの元に小走りで近寄れば、どうやら向こうも同じタイミングで先日調査中に見かけたばかりの男の名前を見つけたところのようで。 )
あーっ!!レイケルってあの胡散くs……警察署長!!
そいつだ──今のヘルハルトの方は、十中八九ファビアンの子孫なんだろう。
(普段ならば、相手の率直な人物評に口の端のひとつでも歪めるところ。だが、かれこれ数時間も缶詰になって調べた末の重大発見ともなれば、真摯な低い声で推測を述べるにとどまり。古文書の束を持ったまま、相手と顔を見合わせて事の真相に触れていく。──まず、刑吏ファビアンが流刑地の魔物ファーヴニルを発見し、その黄金をもって黎明期のグランポートを栄えさせた。それはいつしか、何らかの経緯で失われ、ファーヴニルの存在もただの伝承民話に成り下がってしまった。しかし現代になった今、おそらくは一族に伝わるファビアンの記録によって、ファーヴニル伝説がただのお伽話ではないと勘づいたヘルハルトがグランポートにやってきたのだ……先祖が発見した巨万の富をもたらす魔物を、先祖と違い独占的するために。その魔物は、人間の身に人に戻るべく他者の魂を欲している。行方不明者たちはきっと、黄金を与える代償として、ファーヴニルの生贄になるべく連れ去られてしまったのだろう。だから若くなくとも、どんな人間でもよかったのだ。数年前から前歴持ちの冒険者たちで塗り替えられてきたトリアイナは、ヘルハルトのために人攫いを実行している実働部隊に違いない。そう考えれば、ヘルハルトとトリアイナの双方が不明な資金で潤っていることの説明もつく。──たった一握りの人間が分不相応に富むために、無辜の民の命が次々奪われている事件。当然早急に解決しなければならない、だがどうやって切り込んでいくべきか、そう迷いかけたところで、今度は相手の調査の成果物が大きな進展をもたらしてくれた。偉大な魔法使いを父に持ち、自身も高い魔法力によってヒーラーを務めるヴィヴィアンは、マナの流れに敏感だ。若くも確かな勘を頼りに徹底的に調べたところ、グランポートからやや離れた沖にて、不自然な潮流がある場所を発見したらしい。そしてさらに、水属性からなる高度な魔法、蜃気楼魔法についての文献も発見していた。おそらくはファーヴニルを数百年隠し続けてきた魔法、だがこれは、もしかすれば──。暫しの黙考の後、思いついたのは大胆な案である。よそ者の自分たちふたりだけで解決にあたろうとすれば、地元警察と地元ギルドによる反発・封殺は免れず、事件を闇に葬り去られてしまう危険がああるだろう。だが、例えば地元のマスコミを同行させ、その目で現場を確かめさせるならどうだ。それには当然、相手にそうと気づかれずに尾行する必要がある。島の正確な場所を確かめるためにも、奴らが明日の夜か明後日に出すであろう小舟についていくことができたら。──こちらも、隠密に船を走らせることができれば。レイケル、トリアイナ、魔物ファーヴニル。すべての悪を一気に叩き伏せることができるかもしれないと、相手の鮮緑色の瞳を、いつになく熱のこもった真剣な目で見据え。)
ヴィヴィアン。あと24時間で、小舟ひとつを数時間隠せる程度の蜃気楼魔法を会得してほしいと言ったら……やって、くれるか。
(/いつもお世話になっております、じっくりと調査パートに取り組ませていただきありがとうございました!どうしても設定・推理描写に偏りがちになってしまい、少々ダレてしまっていないだろうか、返しにくい思いをさせてしまっていないだろうか……と懸念しておりますが、大丈夫でしたでしょうか。展開の運びなどに改善点がございましたら、長くお付き合いしたいので是非遠慮なくご相談ください……!
また今後、いよいよ実際的な救出・戦闘に奔走する解決パートに入っていくのが良いかなと考えております。この先、幽霊船エウボイア号によるオオトリ展開が待ち構えていますので、取り急ぎビビたちも島に向かう展開もご用意させていただきました。その先において、展開の順やイメージの方向性など、主様の方で何かアイディアはございますでしょうか?こういう美味しい思いがしたい、ギデオンとビビの絡みでこんなものを混ぜ込みたい!など、主様の心躍る要素をご共有いただければ幸いです……!)
……こんなの断れるわけないじゃないですか。
( 相手の大胆な発想にはさしもの脳筋も驚き、大きな目を丸くして見せる。しかし多数の無辜の民のために、罪人の魂を売ったファビアンにさえ肯定的な感情を抱けないのに、ましてやヘルハルトやジェフリーに抱く憤怒は激しいもので、必ず彼らの悪事を白日の元に晒してやらんという気持ちは此方も同じ。増してや普段逃げるように視線を合わせないギデオンが、その静かな秋の空のような瞳を熱く揺らしてビビの顔だけを正面から映しているものだから「…狡い」と、此度は珍しくヴィヴィアンがため息をつく番で。この男はヴィヴィアンが冒険者として、人として、如何に相手のことを好きなのか知っているのだろうか。 )
───ふふん、どうです?凄いでしょう!
褒めてくれても良いんですよ、ビビちゃん天才って撫でてください。さあ!
( かくして、宿の主人の伝手で借りたボートと、港の中でも不便な位置にある小さく隠れた水路にて。あれから碌に寝ずに古い資料と睨めっこしていたビビは、24時間を待たずに、寝不足のテンションを隠しもしないままギデオンを引っ張り出した。撫でろもなにも、ビビの姿自体がギデオンには見えてすらいない訳だが、ボートの存在によって歪む波さえ見えない静かな海面から、普段の2割増で元気なビビの声が響く。そんなシュールな光景と高いテンションに誤魔化されそうだが、水の魔法を殆ど習得していなかったところから、一晩で成した内容としては本人の自己評価は過言どころか妥当なもので。まだ真上に近い太陽の位置を鑑みれば、仮眠にしろ作戦準備にしろ、決行までに使える時間を残してひとつ大きな課題を片付け、ぴょんこ、と姿を表しながらギデオンの脇に降り立つと、満足気に相手を見上げながら首を傾げて。 )
( / 此方こそ大変お世話になっております。ダイジェストでという事だったので、証拠集めの方はかなりすっとばさせて頂きましたが、調査パートはミステリアスな雰囲気を楽しむことが出来とても楽しかったです。毎回これ以上なく返事のしやすいパスをいただきありがとうございます。此方も背後様とは長くやり取りが続けられればと思っておりますので、気になる点などがあればぜひ仰っていただけると幸いです。
これからの解決パートに向けてお気遣いありがとうございます!ビビには蜃気楼魔法という見せ場を既にいただきましたので、個人的にはシルクタウンの様なギデオン様が戦うシーンが見られれば嬉しい限りです。展開としましては、最初に申し上げたのと少し変わりますが、
1.予定通り行方不明者発生
2.証拠を突きつけるために海へ
3.隠されていた島に上陸しようとしたトリアイナ・レイケル・行方不明者を見つけて捕まえる
4.行方不明者の数が合わない
5.エウボイア号が現れる
という順番がスムーズかなと考えておりますが、その都度やりやすいように進めて行ければと思います。よろしくお願いします。
以下はお時間ある時によんでいただければ幸いなのですが、前回の背後会話にて、PFや地名等へのお褒めの言葉大変ありがとうございました!返信不要とお気遣いいただいていたため遠慮致しましたが、おませなギデオン君を想像してにっこりしてしまいました!さぞ罪深い美少年だったのでしょう……。仲間からの総ツッコミや、ギデオン様がシェリーに淡い気持ちを抱いた経緯もいつか見ることが出来ればと、今後の展開を非常に楽しみにしております。ギデオン様のPFで拝見した昔の女性達の登場も待ち遠しく、まだまだ暫くお付き合いいただければ幸いです! )
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