匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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な、んで。あなたがここにいるの……?
( あの日、「お気持ちだけで嬉しいです」と、ギデオンから延ばされた手をすげなく振り払ってから、大体2週間ほど過ぎた日のこと。ビビはひとり、ギルドロビーの真ん中で凍り付いたように立ち尽くしていた。本来、夢魔を含む悪魔絡みの事件は魔法省の管轄とはいえ、今回の様に捜査を進めた結果、その類の関与があったという事件は数知れず、事後報告で済まされることも多々あることで。しかし今回、4人での共同捜査もまた難航を極めていたから、討伐後の手続き簡略化のために、現時点で魔法省に先触れしておこうと言い出したのが、最近ビビに妙な好意を全開にしてくるエドワードだ。今日はその調査官がギルドに訪れる予定日で。事件優先で不規則な生活をおくっている冒険者や憲兵たちとは違い、あちらは省庁のお役人。昼休憩の12時から13時を除く、9時から17時の間でしか伺えないという融通の利かなさには閉口したが、ギデオンやジャネットの渋い顔を見るに、出向いてくるだけマシになったというレベルらしい。結局、キングストン近郊の依頼を中心に受けているビビが対応を名乗り出たわけだが──約束の時間、約束の場所。何度目をこすっても、そこに座る男の姿は別人にはなってくれなかった。
褐色の肌をした男の名はニール・オフリー。ビビを見つけると立ち上がり、アンバーのたれ目を気まずそうに細める。「……久しぶり、元気そうだ」と、記憶の中の彼より随分大人びた顔立ちに浮かべられる、記憶の中と変わらない微笑みに、ぎゅっと心臓が締め付けられる思いがした。「悪い。君が担当者だということは、俺も今日ここにきて初めて知ったんだ。今からでも別の奴を呼ぶから……」と項垂れる男を座らせると、ビビもまた震える膝を押さえつけながら「午後一で依頼が入っているから、そんな時間ないの。お互い災難だと思って諦めて」と相手の向かいに腰を下ろす。「……災難、か」────そう、災難だ。今日ここで彼と再会したことも。ふと目の合ったリズの表情が恐ろしい程怒りに満ちていて、そろそろ白状しないと信用を失いそうなことも。どこの連絡がうまくいっていなかったのやら、情報のすり合わせにやたら時間をとられて、時間内に収まらなかった話を、この男と二人きりで食事をとりながらする破目に陥ったのも。──そして、ギデオンに魔素の増幅作業について貸し出した学生時代の教科書に、この男の似顔絵が後生大事に挟まれていたことも。 )
( / いつも非常に親身に相談に乗っていただきありがとうございます。後から読み返してみて、要領を得ない相談だったと反省していたのですが、非常に丁寧にまとめていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございます!
まず、『悪魔そのものの扱い』『夢魔の扱い』についてですが。非常に世界観情緒あふれる設定かつ、現実味も感じさせるような素晴らしい下地で!!この様なファンタジー×現実が大好きなオタクなので、読むだけでワクワクしてしまいました。是非そちらでよろしくお願いいたします!
それから、『ニールの関わり方』についても、エドワード様ほどべったりではなくとも、2人の恋路に良い感じのさざ波をたててくれそうな、丁度良い登場頻度を保てそうな設定をご提案いただきありがとうございます。物語に登場させきれずとも、丁寧なバックグラウンドをご用意いただけたお陰で非常に描写しやすかったです。ありがとうございます。
早速登場させましたが、ダイジェストや確定の塩梅等いろいろ手探り中ですので、返信し辛い場合はお気軽に仰ってください。ビビのトラウマについては、数日以内にリズにバレる予定ですので(いつかサイドストーリーにできれば、いいな……)、それ以降マリア様に伝わることはありそうかなと考えております。
最後に今回の結末ですが、一番現実的なのは【3】かなと思いつつ、2人から手柄をかすめ取るような真似はニールがさせないはずですので、【2】予定だったところを、からがら逃げ出した夢魔と裏方の2人が遭遇し、舞踏会の夜の雪辱を晴らす【1】ルートという形で、戦闘と心理描写のバランスをとるのは如何でしょうか?
いつも素敵なご提案をありがとうございます。今回もお時間ある際にご確認いただければ幸いです。)
(あれだけギデオンに押せ押せだった相棒が、言葉だけはやんわりと、それでも確かに素っ気なく……こちらの申し出を断ち切った。それでさしものギデオンも、己の過ちの深さをようやく思い知ったのだが。──あの夕餉の席で何か誤解を招いたにせよ、彼女の告白をギデオンが袖にしてきた事実は変わらない。ならこれは、甘んじて受け入れるべき変化なのではないか。近くても遠くても駄目だというのは、身勝手が過ぎるというものだ。とはいえ、今のこの距離感は、互いに望んだものとも思えない。あの夏の日々のように、ギデオンのせいで彼女にああさせているのなら。今度こそ、自分のほうから動くべきではなかろうか。……)
(そうして悶々と悩み続けた末に。ようやく小声で相談を持ち掛けた相手は、今回のクエストのパーティーメンバー、女剣士のカトリーヌだ。男勝りな性格だが、やはりヴィヴィアンと同じ女性ということで、何らかのヒントを貰えないかと勇気を出してみたのだが。晴れ渡った秋空の舌、「──馬っ鹿じゃねえの!?」と真正面から糾弾されるとは思いもよらない。仕事は仕事ということで、倒した魔獣の解体作業をお互い休みなく続けながらも、相手からは次々に矢のような言葉を放たれる。「っかー……恋愛童貞にも程があるだろ!」「ていうかあんたたち、まだ付き合ってないなんて思ってたのかよ? 舞踏会であんなによろしくしておいて?」「あの子が素直でいられなくなったのは、あんたがそうやって拗らせてるせいだぜ」「“相棒”ってのが普通と違うクソ重い意味のそれだなんて、言われなきゃわかるわけないだろ」「付き合えない事情ってのも、いい加減説明してやれよ」「──とにかく、ギデオン、とにかくだ。あんたの本当の気持ちを伝えろ。過去のしがらみや責任なんてのは一旦全部投げ捨てろ。あの子が欲しいのはあんたの気持ちだ。それ以外に正解なんてない」……などと。十六歳も下の後輩にギデオンが募らせつつある感情など、まるで全部お見通しだと言わんばかりに。──ふう、すっきりしたぜ、と言いたいことを言い終えた女剣士が、魔獣の骨を担ぎながら去っていくのを見送ると。……キングストンに帰ったら、話をしよう、と。未だ苦悩の残る横顔で、それでもギデオンも覚悟を決めた。……はずだったのだが。)
(──どう、いう、ことだ……と。二週間ぶりにカレトヴルッフに舞い戻ったギデオンは、いつもの涼しい表情をかろうじて保ったまま、エントランスでひとり静かに凍り付く。視線の先にいるのは、「銀髪緋眼のインキュバス」事件を担当する捜査班のメンバーたち、なのだが。資料を読み込むジャネット、それらの内容を書類にまとめているヴィヴィアン、彼女のすぐ隣に──いつの間にそんなに距離を詰めるようになったのか──座っているエドワード。そしてその傍らに、初対面のはずでありながら──あの時無自覚に目に焼き付けたのだろう──どこか見覚えのあるひとりの青年が立っている。……ギデオンの思い込みでなければ、あの男はたしか、相棒に貸し出された本の中に挟まっていた似顔絵の人物だ。あのとき、はらりと落ちた小さな紙を拾いあげて確かめたギデオンは──胸に湧いた妙な感情を、すぐさま封じ込めようとした。しかし結局はそれに突き動かされるまま、多忙な日々で後回しになっていた彼女への贈り物を探しに出かけ。今日それを渡すつもりで、それを口実に彼女ときちんと話すつもりでここへ来たというのに。よりによって実物と思しき男が、なぜここに──何故彼女と一緒に、と。……射貫くような視線を、迂闊にも気取られたらしい。こちらを見た男が、どこか不安げに仲間の方を振り返ったので、いっそこちらから近づいて挨拶に及べば、積み重ねてきた年齢がかろうじて面目を保たせてくれたのか、魔法省の若き官僚もほっとしたような反応を返す。しかし、その男……ニールの正体が、やはり相棒の同窓生と知り。ふたりで食事をしていたようだと、ジャネットの口からも聞かされれば。返すつもりだった本や、渡すつもりだったハンカチのことなど頭から消え去るほどには、内心思考がまとまらなくなる有り様で。カウンター越しに一同を注意深く観察するマリアの様子にも気づかぬまま、熟練戦士らしくそつない会話をこなすものの、どこか上の空だった。)
(/凝り過ぎていないか心配する気持ちもあったので、そう仰っていただけてほっとしました……! 現状の進め方に関して、全く問題ございません。寧ろ、ビビとニールの複雑そうな様子から過去の雰囲気を仄かに窺えて、一ファンとして大興奮でした。平時のそれとはまた趣を変え、それぞれの物語も楽しんでいければと。とはいえ、依然話した文字数のハードルのこともございますので、気負いなく楽な範囲でつづってくだされば幸いです(今回、話し合い以前のように長くなってしまい申し訳ございません……!)。
トラウマの伝わり方もより自然な流れで大賛成です。マリアのことも建国祭同様お好きに動かしてくださいませ!
今後のルートについても畏まりました! 現実性を踏まえながらも主人公たちがしっかり活躍できる素晴らしい展開で、全く異論ございません。「裏で魔法省上層部に圧力をかけられていたが、それでもふたりの手柄を守り通す」ことでビビへの罪滅ぼしをする……というような形で、ニールの誠実さもきちんと描けるのではないかと。
完全に余談ですが、主様からの公式情報が出るたびに、ニールの好青年ぶりに大変しみじみしております。彼より歳上のギデオンが男ぶりで負けるわけには、と俄然奮起する一方、若いライバルの多数出現にようっっっやく独占欲を自覚しはじめる年長戦士の不器用な有り様も楽しく描く所存です。
諸々の打ち合わせ、本当にありがとうございました。完結間近のおまじない編も、引き続きよろしくお願いいたします……!/蹴り可)
(/度々失礼します。主様のロルを読み返した後、ギデオンが2週間丸々ギルドを離れていた……というのは矛盾に近い上、事件担当中に半月のクエストへ遠征するのも不自然と考え直したので、そこのところは「数日ぶり」と読み替えていただければ幸いです。
今回以外にも、直近や昔のレスで主様のロルの情報と食い違うところが幾つかございますが、先出ししてある情報を意図的に無視しているわけではなく、偏に背後の不注意や修正忘れでして……実は後から頭を抱えていることが多々あります。
ご迷惑をおかけしますが、緩く大目に見てくだされば幸いです……!/お返事不要)
( ──ギデオン・ノースって"あの"? エリート然とした爽やかな笑みを浮かべ、ギデオンの挨拶を受けたニールの目が、その名を聞くと驚いたように小さく見開かれる。そのまま思わずと言った様子で、ビビに差し向けられた視線だけの問いに、気まずそうに視線を逸らすと、じわりと頬に熱が集まる感覚に縮こまったのは、ニールと付き合っていた学生時代。聞き上手な彼に促されるままに、幼い頃からの憧れの職業・冒険者について熱く語り、彼ら、彼女らが功績を上げ帰ってくる度に、恥も外聞もなくきゃあきゃあと熱を上げていたのを思い出したからだ。勿論その中にはギデオンも含まれていて、それまで冒険者など一人の名前も知らなかったニールが、ビビが何度も何度も語るうちに、その武勇伝を諳んじられるようになった始末。ニールとしては、アウェイで知っている名前が出たことに喜んでいるだけだし、ビビとしても、そんな身悶えしたくなる過去を、暴露されはしないかと気が気でなかっただけなのだが、旧知の男女が無言で視線を交わしたかと思うと、その片方がもじもじと頬を染める光景は、傍から見れば十分に意味深で。その証拠に、隣に座っていたエドワードが、「──そうだ、昨日また新しい呪具の情報を得たんだ。ね、ビビちゃん」とビビの肩に腕を回し、露骨に話題を逸らしにかかる。そうして始まった捜査の話題だが、久しぶりにかかった有力情報に、どうしてもその場の温度が上がる。とりあえずこの中で、まだ本物を見ていない、そしてまたビビとは違った方向の魔法のスペシャリストであるニールが見に行くことは確定として。この依頼を受けた時と比べ、かなり大所帯になりつつあるメンバー達を見回すと、仕方ないと言った表情で立ち上がりかけ。 )
今回の彼女は被害者ですけど、あまり大人数で押しかけても警戒されるでしょうし、何よりご迷惑ですね。
……オフリーさんは、私が案内しましょう。
──いや、この場合はジャネットが適任だろう。ヴィヴィアンの言う通り少人数で行くべきだが、被害者の出自からして、まだ母国語しか話せない可能性が高い。
憲兵団のおまえたちならあの国の言葉もわかるな? ……ああ、少なくとも片方は女性のほうがいい、頼んだ。
(片手で相棒の立候補を制し、穏やかに、それでいてきっぱりと言い切ったギデオンは、至極落ち着いた様子で捜査班の面々を見渡す。己の考えを淡々と述べるその姿は、傍から見れば、如何にも熟練戦士らしい思慮深さに満ちていたことだろう──エドワードの目の奥に光った(へえ)というような表情を、こちらもまっすぐ、堂々と見つめ返すのでなければ。「……確かににジャネットは、僕の三倍は語学に長けているからね。ね、よかったら彼女に任せてみてよ」と、エドワードもまた、屈託なく相棒に笑いかけてさり気ない援護にかかる。相変わらずべたべたするところは内心気に入らないが、どうやらギデオンの意図を読み取り、一時協定を結ぶ気になってくれたようだ。そう──“何やらきな臭いこの官僚と彼女とを絶対ふたりきりにはさせない”という点において、奇しくもふたりの目論見が完全に一致していた。ダシにされたジャネットはといえば、さも気に入らなさそうなジト目で馴染みの男たちを見返しているが、ギデオンのもっともらしい意見に説得力を感じはしたのだろう。「構わないわよ」と了承し、ニールの方に向き直って聴取の段取りを打ち合わせはじめ。──そうして、古株の立場から話し合いの舵を取り続ければ、あっという間に日が落ちて解散の頃合いに至る。ジャネットとニールはしばらく外回り、エドワードは憲兵団の事件ファイルの参照(これもそれらしい理由に納得させて回した仕事だ)、ヴィヴィアンは魔導学院での解析、ギデオンだけがまたしばらくキングストンを離れることになる。……そうなる前に、少しでも、と。散りはじめる捜査班のメンバーを横目に、相棒に話しかけようとして。)
……、なあ、ヴィヴィアン。今、少し時間は──
( それは二人きりで捜査していた当初より、心做しか手短な打ち合わせを終えて。使用した椅子やテーブルの角度を直していた時だ。徐にかけられたギデオンの言葉に、先程。『ヴィヴィアンよりジャネットが適任』と言われた時から、微かにしんなりと萎れていた頭が、ぴょこんと元気よく持ち上がる。「……あ、えっと、」最近は殆どなかった相棒との時間、優しく掛けられた声が嬉しくないはずが無いというのに、素直な首肯を妨げるのは、やはり先日決めた切実な思いで。返答に詰まりながらも、キラキラと輝いてギデオンを捉えて離さない眼差し。じわじわとピンク色に染まる頬を見れば、相手に対する想いが薄れるどころか、寧ろ押さえ込んだ分 煮詰まっている程なのは一目瞭然なのだが、しばらく間を置いて、恥ずかしそうに首を傾げ問うた質問は。どうやら、仕事ややむを得ない理由なら二人きりになっても仕方がない!……という、少々強引な理屈によるものらしい。そんな屁理屈を捏ねてでも、隣にいたいと強く望んでいる気持ちに気づいていないのは、己ばかりで。 )
──す、少し、忙しくて。肩の調子を、見せていただきながらでも良いですか?
……あ、ああ。
(そこらの片隅で、ほんの少し話を聞いて貰えるだけでも御の字……という、望み薄な見通しでいたのだが。予想外にはにかむ相手を前に、ギデオンも思わず面食らった顔を浮かべ、青い瞳を純情に揺らす。……数日前の素っ気なさが嘘のように、好意的な反応を示されたように感じるのは、己の思い上がりだろうか。しかし、今は魔法医に診てもらっている古傷をヴィヴィアン自身も確かめたい、というのは、どこか口実めいて聞こえるような──。瞬かせた視線を落としながらも、安堵の追いつかぬ小さな声音で、「それなら医務室に……」と言いかけたときだ。「──ああそうだ、ギデオンさん! 先程、魔法医の先生がお呼びでしたよ」と、ごく爽やかな声が割り込む。一瞬固まってからギデオンが振り向けば、そこには帰り支度を済ませたはずのエドワードがにこやかに微笑んでいて。「あの日の潜入捜査で、昔の傷が悪化してしまったとお聞きしましたが。──カレトヴルッフにはとても優秀な魔法医がいるそうですね。もうだいぶ良くなっただとか」軽やかに、けれども抜かりなく。若いヒーラーであるヴィヴィアンが強く出られないように根回しを行うと、その彼女本人のほうを向き。「ビビちゃん、もし魔導学院に急ぐなら、うちの馬車でついでに送るよ。すぐそこだけど、歩くよりかは早いんじゃないかな?」と、いかにも親切そうに首を傾げ。)
──……先生に、診ていただけるなら安心ですね。
( そう おっとりと首を傾げながら微笑むと、相手へと伸ばしていた手を静かに下ろして握りこむ。その表情が我ながらあまりにもぎこちなくて。勿論気付いているだろう相棒に対し小さく肩を竦めると、少し俯いて苦笑して見せる。……これが、マーゴ食堂での打ち合わせ以前だったのなら。せめて、少しでもこの想いが薄れてくれていたのなら。多少の無理をしてでも、ギデオンが出発する前に時間を捻出しただろうか。──勝手に嫉妬して、傷ついて、自分から避けていた癖に、こうしていざ声をかけられれば喜んで。少なからず相手を困惑させている自覚に、最早大好きなはずの相手を前に、どうすれば良いのかさえ分からなくなってしまっていた。そんな時、多少強引にでもギデオンから引き離してくれるエドワードの提案に、「──じゃあ、お言葉に甘えていいですか?」と、明らかにホッとした表情を浮かべてしまえば、「勿論、喜んで」と差し出された手に一瞬逡巡するも、あまりに悪意の感じられない微笑みに観念して、そっと自分のそれを重ねる。そうして引き寄せられるままに数歩外へと近づけば、その扉をくぐる寸前。これくらいなら許されるだろうと振り返り、精一杯の笑顔で頭を下げた。
ビビとてギデオンとの関係を、このままで良いとは思っていない。仕事に支障を出す前に、相手がこの依頼から帰ってきたら話し合わねばならないだろう──例え、自分がこうなっている理由を話して嫌われたとしても。そんな覚悟が、ギデオンがキングストンに帰ってくる朝、ジャネットとニールによって新たな呪具が見つかり、それどころではなくなることなど今は知る由もない。 )
ギデオンさん、明日から、気を付けて行ってきてください。
怪我されないでくださいね。
( / まずは返信を大変お待たせしてしまい申し訳ございませんでした!
それから、設定置き場の方では温かいお言葉も、本当にありがとうございました。お陰様でロルを書く間は、座っていられる程度には回復してまいりました。背後様のPCもご不調とのことで、当方のことは気にせずゆっくりと良い物をお探しください。
また、ギデオン様が一時的に初期のように戻る展開について確認いたしました。最後のカタルシスがより色鮮やかに楽しめそうなご提案をありがとうございます。今からギデオン様のクソデカ感情が楽しみでなりません……!!
それに伴い、しばらくギデオン様を避けていたビビが再び、“話し合いたい”という口実でギデオン様との時間を持とうとするような形でシーンを締めさせていただきました。
呪具が見つかって、強制召喚の準備をする数日間をそのターンにできればと、本格的におまじない編ラストスパートに向けて描写を飛ばしましたが、理性的になるきっかけなどの描写がし辛い、また他にまだやりたいことがある場合は、最後の文は無視していただいて構いません。
最後に、おまじない編最大の目的であるギデオン様のクソデカ感情の発露について。
此方の認識が間違っていないかの確認をさせてください。黒い館編を解決しておりませんので、ギデオン様がビビに応えることは未だできないとは思うのですが、今回のことで“過去のことがなければ”ビビの気持ちには応えたいと思っている。つまり、気持ちはビビに向いている、ということを否応なくビビも認識する、といった形で間違いないでしょうか。
以上でなにも間違いや問題等なければ返信には及びません。引き続きよろしくお願いいたします。 )
ああ、それじゃ。……また来週な。
(どうにか相手を引き止めて、あの日以来ぎこちなくなった関係を修復するつもりでいたというのに。不自然な微笑みを浮かべて引き下がる様子、エドワードの誘いにはごく自然に安堵する様子──あまつさえ、目の前で彼にその手を委ねる様子。かすかに見開いた目でそれらを見遣ったギデオンは、しかしすぐにその表情をいつもの涼しげなそれへすげ替えると。相棒の温かな挨拶に、こちらも片手を掲げてただ穏やかな返事を送り。彼女の姿が見えなくなったのを確認して初めて……最後の光景を忌むような、堪える様な色をその横顔に走らせながら。無言で視線を引き剥がし、魔法医の元へ姿を消した。
──高ランクの魔獣が蔓延る闇のダンジョンの攻略や、今取り組んでいるようなオークの部族の包囲作戦。魔剣をどう振るえばドラゴンの首を一撃で斬り落とせるか、どのように交渉を運べば孤高の巨人族の協力を取り付けられるか。冒険者として求められるその手の技量なら、四十年近くも生きてきてベテランと呼ばれるようにすらなった自分には、最早造作もないことだ。しかし──たったひとりの、十六も下の娘との、関係の機微だけは。まるで何も掴めず、闇の中でひとり思いつめるばかりだった。カトリーヌにああ言われようと、ギデオンにとってはヴィヴィアン本人の示す全てこそ真相に他ならない。だからこそ金輪際間違いたくない──彼女の心が少しずつ移ろっているとして、それを止める権利が己のどこにあるというのか。相手の言動を完全に誤解をしていることも、心を掻き乱すこの苛立ちは自分自身が他の男に散々与えてきたものであることも、今のギデオンもは思いもよらず。クエスト中は極力頭を切り替えながらも、醜い小鬼たちの肉を断つ剣捌きがいつもより殺伐としていたことは、普段のギデオンをよく知る連中なら、おそらく薄らと勘づいたことだろう。
更にギデオンの誤解を加速させたのは、再びキングストンに戻ってきてからの、若い捜査員たちの明らかな変化で。決して短くはないこの数週間、ヴィヴィアンとエドワードとニールは、捜査班としての連携を確かに築き上げてきたらしい。加えて、いったいどんな情報が流れているのやら、ギデオンの劣勢と留守を聞きつけたキングストンの青年たちや、時には他所のギルドの連中すらも、ヴィヴィアンへの再アプローチを仕掛けに来た有り様で。──異性からの求愛に慣れきっている彼女にとって、押し寄せる青年たちは少々仕事の邪魔だったに違いない。そんな状況で、呪具の解析優先するためにと手を貸してくれるエドワードやニールに少なからず信頼を寄せるのも、当然といえば当然なのだ。しかしここ暫くの間、ほとんどキングストンにいなかったギデオンには、そういった過程など知る由もなく、以前より親密になった若者たちの様子をいきなり突き付けられた状態。……ああ、と、静かな諦めがついた途端、ここ数週間の苦悩がいっそ爽やかに晴れていくのが感じられた。ヴィヴィアンは自分と違って、日向で生きる若い娘だ。日々を忙しく過ごすうちに、新しい関係を築き、その中で大事にされていくだろう。自分と近づいたひとときも、いずれは新しい人間関係に押し流されて、過去のものとなっていくはず。未来などない自分のそばに、彼女までとどまる必要はない。先に進んでいく彼女を、自分は先輩戦士として優しく見守ってやればいい。きっとそれが正しいのだ──あるべき距離に、戻るだけだ。
──そうして一種の悟りを開いたギデオンは、以前の寛いだ様子を取り戻し。相次ぐクエストで忙しく飛び回る合間に、捜査班の二十代のメンバー相手に、ベテランならではの知見でアドバイスや議論を行い、知己であるシスター・アンを通じた教会とのやり取りも進めていった。……ヴィヴィアンを観察してメーカーを嗅ぎ当てたらしいジャネットが、相棒と同じ香油を髪につけだし、ギデオンの不機嫌を誘って密かに言い争う、裏の一幕も経た後に。ワーム狩りの帰りに魔導学院の研究室へと顔を出したのは、数日後に控える強制召喚で用いる呪具を厳選中であろう若い捜査員たちをねぎらいに行くためで。)
(/いえいえ、本当にお気になさらず! 体調が少しずつ回復しているとお聞きして、本当に安心しました。しかしただでさえ寒い季節ですので、引き続きゆっくり養生なさってください。また、現在新PCの配送待ちなので古いものを使っているままなのですが、主様の更新分にテンションが上がりまくった結果つい長文となってしまいました……。ひとえにはしゃいでしまっただけですので、お返事のロルのボリュームはどうかお気遣いなく!
ビビのこれからの行動、いよいよ強制召喚を控えた数日間についても把握いたしました! ギデオンがどうして初期の感じに戻ってしまうか考えたところ、上記のような誤解による悟りルートとなりました。ビビのことを誤解したり致命的にすれ違ったりする様が背後的にも本っっっ当にじれったいのですが、「あるべき距離に戻るだけ」と一旦悟ったようでいて、ビビの気持ちが少しでも自分に向いていると感じてしまえば、未練による無意識の嫉妬は全然発動し得る有り様かと。是非お好きにかき回してやってくださいませ……! また、今回ビビと周囲の人間関係について強めの確定を使ってしまいましたが、主様の意図から外れている場合は削除・スルー・改変していただいて構いません、やりやすいようにしていただければ。
おまじない編のフィナーレにて、ビビがギデオンの気持ちを認識する話ですが、その方向で間違いございません。ビビがギデオンの気持ちを知った後でも、未だ頑固に幸せを拒むギデオンをますますもって陥落しにかかる、といったような流れで、「猛アタックする娘と逃げ回るオジサン」の構図は継続できるかと思います。以前と変わる箇所があるとすれば、ビビの目的が「ギデオンに好きになってもらう」から「ギデオンに素直になってもらう」に進むところでしょうか。ギデオンも彼女にある程度バレたことで、ますます必死に理性を動員させつつも、ふとした瞬間のデレがますます大きくなりそうです。
特に新規の相談事項がなければお返事のお気遣いには及びません(どうかご休息を第一に……!)。毎度可愛らしいビビの供給をありがとうございます、大変悶えております。引き続きよろしくお願いいたします!/蹴り可)
わあ、お久しぶりです!ギデオンさん!
えへへ、見てください……これでやっと捕まえられます!
( 会えない期間の中で、相棒との間に生まれていた大きな誤解など知る由もないまま、久しぶりの再会である相棒を出迎えたビビの顔には色濃い隈が浮かんでいた。研究室の端には力尽きて倒れ伏す若き助手達の亡骸が、ここ数日の嵐の激しさを物語る。それ以前から、ギデオンの帰還後、何度も何度も声をかける機会を探っては、エドワードに、ジャネットに、全てを悟ったギデオン自身の無関心に邪魔され、行き場をなくした想いを全て、丁度見つけられた呪具の解析へとぶつけたのだ。──……解析はいい。寂しさも、虚しさも、解析に集中していれば少しだけマシになるようで、ビビが身体に鞭打った分、一人でも被害者が減るのだと思えば、やっとほんの少しの睡眠に甘んじることが出来た。──それにほら、結果を出せば会いに来てくれた……!!初めて二人で見つけた呪具であるアメリアのイヤリングに、複数の呪いが重ねがけされた物を誇らしげに持ってくると、褒めて、撫でて貰えるものと信じて疑わない頭を不思議そうに傾げて見せ。 )
……?あの、
……そうか、よくやってくれた。これでいよいよ解決できるな。
(無垢に輝いていた相手の顔が、ふと怪訝そうにこちらを見上げるものの、いっそ吹っ切れてしまったギデオンには、以前のように親密に触れる選択肢など最早あり得ず。ただしっかりと、穏やかに、“新進気鋭の若手冒険者”に対する称賛の言葉を──それだけを与えるにとどまる。……社交めいた微笑みひとつ残して部屋の中央に向かうギデオンが密かに心がけるのは、シルクタウン以前の距離感だった。ヴィヴィアンのことを、単に若い後輩のひとりとして見ることができていたあの頃。恩師シェリーの娘だからこそ、見守るほどには近づき過ぎず、必要なときだけ手を差し伸べるにとどまっていたあの頃。ヴィヴィアンのほうもまた、ギデオンのことを、単なる先輩戦士のひとりとして慕ってくれていた程度のはずだ。──単なるベテランと新人の関係、それが最良の行く末のはずだ。
相棒の様子は依然振り返らないまま、「差し入れだ」と説明を挟んで、空きの作業台の上に置いた手持ちの袋をがさりと広げる。途端にふわりと広がったのは、空腹を突き刺すであろうチーズやバジルの香り。研究室に缶詰になっているのなら学食ばかり食べているだろうし、と、道すがら見繕った弁当屋で、四人分のリゾットをテイクアウトしてきたところだった。案の定、ヴィヴィアンを手伝っていた青年がぴくりと動いて起き上がり、自分の分を確保してふらふらと椅子に座ると、匙を口元に運びながら「かゆ……」「うま……」と呟きだす。そのグールめいた挙動に可笑しそうな目を向けながら──そう、至っていつも通りの様子を見せながら──自分とヴィヴィアンの分を手に取り、相棒のほうに温かい箱を差し出すと、丸椅子のひとつに腰かけて。)
──実のところ、今日は知らせを持ってきたんだ。
食べながらでいいんだが……良いニュースと悪いニュース、どちらを先にする?
( ──どうして? そう相棒の背中へと伸ばしかけた腕を、確かな心当たりが邪魔をする。嫉妬に駆られて、先に曖昧な態度をとったのはヴィヴィアンの方だ。いざという時に信用ならない相手に、命を預けられる訳が無い。そう積み重なった疲労が、思考を極端な方へと差し向ける。──……貴方の心を乱さない、"良い相棒"でいたかっただけなの。ぎゅっと拳を握って俯いたビビを苛んだのは、夏の間、無意識に掛けられていた呪い。振り返らない背中を見るのが辛くて──それと同時に、この表情を見られずに済んで良かったと、心底そう思った。ヒーラーとしてのなけなしのプライドが、気丈な微笑みを浮かべた顔をあげさせる。相棒ではいられなくなっても、ギデオンは肩の爆弾がある以上、どうしたってヴィヴィアンに関わらない訳にはいかない。ここで自分が傷ついた顔をすれば──優しいこの人は、自分を大切に出来なくなってしまう。どうか、それだけは。 )
……、ふふ、温かい。ありがとうございます。
それじゃあ……、私は良い方から聞きたいです。
( そうして、祈るような気持ちを押し殺し、ギデオンに近づくと、一緒にとる最後の食事になるかもしれないそれを受け取り、それは大事そうに、湯気のたつ紙箱を抱きしめる。一足早く美味しい食事にありついて、正気を取り戻してきたらしい青年達が「悪い方」「悪いニュースから」と、案外気の合う様子を見せるのに小さく笑って──どうせ、もう隣にいられないのなら……と、必要性の無くなった我慢をやめて、態々椅子を引っ張り出してきては、ギデオンの隣にぴたりと腰掛ける。それから、大いにすれ違っていることに気付かぬまま、暫しの慈悲を願うように、甘えるように眉を下げると、じっとギデオンを見つめ、悪戯っぽく首を傾げて。)
(人懐こい近さで置かれた椅子の音を耳にすれば、刹那の間、様々なデジャヴが舞い降りる。──グランポート行きの船の甲板、山奥の宿のベッド、建国祭最終日の東広場のベンチ、『シャバネ』から買える馬車の中。ギデオンを熱烈に慕う相棒が、いつも何かと真隣にくっついてきたあの頃。……過ぎ去ったものと割り切ったはずだろう、と、青い双眸を伏せたまま、口の端にほんの一瞬自嘲めいた笑みを浮かべてしまう。ヴィヴィアンはただ何の気なしに、以前の習慣の延長でやっただけだろう。それを甘く勘違いしてしまえるほど、己はもう青くない。彼女の尊敬を取り戻せるよう、醜態には重々気をつけなければ。──一度閉じた目を再びすっきりと開くと、隣から感じる視線にこちらも落ちついたまなざしを向け、そつなく微笑んで。……しかし、匙で粥を掻き回しながら、青年たちの息ぴったりの意見をさらりと無視したのは──結局のところ、暫くぶりに見た彼女の甘えを叶えてやりたい無意識によるものだろう。)
それじゃ、憲兵団に聞いた朗報から。──奴らが一般市民に注意喚起をしてくれた甲斐あって、先週のまじない被害者はとうとうゼロになったらしい。
それとこれはドニーからだが……祓魔師協会本部が、まじない被害者のための相談窓口を設置してくれるそうだ。俺たちが初動段階できちんと通報したおかげで、上に通った話がすぐに各種対策へ と広がったんだとさ。アメリアやアドリアーナも、おそらくそこの案内でより良い治療を受けられるだろう。
翻って、悪いニュースだが。──例のインキュバスの捕獲は、俺たちじゃなく祓魔師協会の人間がやることになった。前例がないってことで、魔法省の連中が生きたまま捕まえたいらしい。
……俺たちは一応、“元”立役者ってことで、現場について行くことはできるが。悪魔の討伐はあまり経験がない──要するに素人だから、手出しはするなとのお達しだ。
わあ……!良かった……本当に良かったです!
( ギデオンから齎された朗報に、こればかりは心の底から嬉しそうに頬を染め、はしゃいだ声を出すヴィヴィアンの一方。長い腕をゆっくりと組みながら「なんだい、それは」と面白くなさそうに唸ったのはエドワードだ。それはギデオンとヴィヴィアン、目の前の二人の距離感に対してか、続けられた悲報に対してか、大方その両方にかけられたものなのだろう。几帳面に整えられた髪を荒っぽく崩したかと思うと、座ったまま大きく上半身を倒し「君も、こんなの体の良い手柄泥棒だと思うだろ」とニールに絡み出しては。居心地悪そうに肩を竦めた色男に「お前、さては知っていたな!」と掴みかかる──馬鹿、リゾット!火傷する!と楽しそうにじゃれあっている青年達は、今回の事件で一番仲良くなったのは誰かと聞かれれば、(エドワードが聞いたら目を剥くだろうが)まず間違いなく選ばれるべき二人で。そんな二人を尻目にビビはと言えば、真っ白な湯気をたてる粥にふうっと息を吹きかけ、恐る恐る口をつけるも、たっぷりとチーズを使ったそれは簡単には冷めてくれなかったらしい。はふはふと顔を真っ赤にしながら水を煽り、尤もらしいことを言いながらも、ギデオンを見上げた目にはうっすらと涙が滲んでいて。小さな咳払いひとつで、完全に冒険者モードに切り替えたビビが数日後の予定を確認する背後、エドワードにつつかれながらも、どこか満足気に目を細めたニールにビビが気づくことはなかった。 )
──っ!……それにしても、なんだか中途半端ですね。現場には入れてくれるんだ……?
アンさんの手前でしょうか──そうすると、"これ"はどなたにお渡しすれば良ろしいですか?ドニーさん?
……聖誕節が近いからな。教会の封鎖を知らずにやって来る地元民に備えて、体良く警備させようって腹だろう。
(相変わらずのあどけなさを発揮する相手の様子に小さく笑う──ふりをして──静かに視線を外す。そのまま匙を手に、湯気の立ち上る夕食を口元に運びながら、ひねくれた推察を述べて。……無論、事の真相は知っている。伝令を持ってきた魔法省の人間が、ある青年のことを鬱陶しそうに愚痴っていたのだ。今時人情なんて馬鹿げている、ただ黙った上の指示に従えばいいものを、と。──捜査メンバーの預かり知らぬ場所で、ニールは余程頑張ってくれたのだろう。当初こそ(個人的なやんごとなき事情のために)警戒してはいたものの、官務の合間を縫ってこちらに赴き、嫌な顔ひとつせず解析の手伝いを手伝っているという仲間の話からしても、彼の好青年ぶりは今やギデオンも知るところ。……だが、ああしてエドワードに絡まれながらも黙して語らずにいるのだから、ここでギデオンが種明かししては野暮というものだろう。故に、一瞬こちらを見たニールに感謝の視線を送るだけに留めると、再びヴィヴィアンに目を戻し。元々ギデオンの胃には少なかった皿の中身を手早く空にすると、片付けながら説明を。)
明日の昼過ぎに、教会の人間がこっちに取りに来るそうだ。専用のトランクも向こうが用意するというから、現物を用意して引き継いでくれれば問題ない。
あとは最後に見届けるだけだから、根を詰めたぶん数日はしっかり休め。
(──そこまで告げて、ふと妙な沈黙を一瞬だけ挟んだのは。予定外の言葉が、不意に思い浮かんだからだ。「そろそろ引き上げるなら、送っていこうか」──ただそれだけの、軽い誘い。だがしかし、ここから相手の下宿まで、別段危険な通りはない。それなのに何を……まさか、ニールやエドワードとこうして毎日過ごしているのを、目の当たりにしたからか。──彼女に応えてやれもしない癖に。伏せた視線をそのまま閉ざし、己の血迷った未練がましさを、緩くかぶりを振って断つ。それから立ち上がったころには、いともあっさりと帰り支度を始めて。)
……連絡はこれくらいだ。家が花街の方だから、持ち主に返すものがあればついでに持っていくが──何かあるか?
( ギデオンからの視線を受け、曖昧な愛想笑いを浮かべたニールは、実はこれまでこの冒険者があまり得意ではなかった。今回のことでどうなるかはわからないとはいえ、曲がりなりにも魔法省で出世街道を来た青年である。第一印象もさるところながら、何処か思いつめたような雰囲気の年上男に、神経を擦り減らしている表情を、浮かべることこそなかっただけだ。それがこの後魔法省に帰還して、この時の視線の意味に気が付くと、今後魔法省でギルド絡みの案件を抱えるたび、ギデオンを指名する大口顧客になるのはまた別の話。 )
ありがとうございます。それじゃあ、この二つはルナシーのママに。此方はC地区のハンナさんにお願いします。
( その一方で、テキパキと帰り支度を始めた相手に、「私も行きます」と、喉元まで出かかった言葉を飲み込んだのは、思わずといった体で立ち上がったヴィヴィアンだ。──短い時間でもいい。今再びこの人の隣を歩けたらどんなに幸せだろう。内心ではそう願っているにも拘らず、先程のあの拒絶が滲んだ背中を思い出すと、箱を閉じる指先が震える。──今は、少しでも彼の信頼を取り戻したい。その一心で数日後の作戦に向け、『しっかり休め』その指示を全うする意思を少しでも伝えるべく、「エドワードさーん!詰所まで馬車に乗せてくださいな!」と、彼もまた帰り支度を始めたエドワードに追いすがり。乗り心地の良い馬車で家路につく間、装飾品の入った箱を渡す際に触れた、大好きな指の感触を。いつまでもいつまでも、未練がましく握りこんでいた。 )
──おはようございます。ギデオンさん。
( そうして迎えた決行当日は、生憎の空模様だった。今にも崩れだしそうな暗い空と、今年一番の身をも凍らす様な冷え込み。呪い捜査を始めた残暑の日を思い出すと、はるか遠いところまで来てしまったかのような錯覚に身を縮める。そう、あの幸せな建国祭の夜からはるか遠く。集合場所で見つけた大好きな背中にも、もう飛びつけなくなっていた。──今日が、最後になるかもしれない。一週間かけても拭いきれなかったその恐怖を覆い隠す様に、久方ぶりに二人きりになった相手を見上げてへらりと微笑む。それでも、今日で決着をつけてみせる。此方は何とか間に合った覚悟さえも、これ以上大好きなアイスブルーを見つめていれば揺らいでしまいそうで、泣きたくなる前に視線を逸らす。そうして十分な距離をとって視線の交わらない隣に収まれば、憲兵たちを待つ間、昨晩勤務時間を超過しているニールが持ち込んだ作戦指示書を読み込むふりをして。 )
──それにしても、本当に当日まで、持場も教えていただけないなんて思いませんでした……。ニー……魔法省に先触れを提案してくださったジャネットさんのお陰ですね。
( / お世話になっております。
お忙しい中度々お時間を割かせてしまい、誠に申し訳ございません。
やり取りを読み返す間に、前回のロルに、やりたいことを全部詰め込もうとして弛れる悪癖が復活していることに気がつき……背後様に返信し辛い思いをさせてはいないかと非常に心配しております。
可能であれば書き直しさせていただけないかと思うのですが、もしもうロルをご用意されているのであれば、其方を無駄にしてしまうのは本意ではございませんので、どうか背後様に一番ご負担がない形で挽回させていただきたいです。
度々ご迷惑おかけして申し訳ございません。よろしくお願いいたします。 )
(思えば三ヵ月以上も捜査し、しかしあっという間に終わりを迎えることとなった、“幸せのおまじない”事件。その舞台を飾るのは、キングストンの片隅にある聖ルクレツィア教会だ。古めかしくも素朴な美しさのあるその建物は、確かに敷地や外観を眺めるだけでも時間を潰せると知ってはいるが──フェンリルのコートを着込んでいて尚堪えるこの寒さの中、本当に外で予備警備をさせられる持ち回りになったというのだから笑えない。しかしそれでも、うら若い相棒とひとたび顔を合わせれば、たちどころに身体が温まる気がしたのも事実で。己の有り様を嘲笑いたいのを押し隠した控えめな笑みを浮かべ、こちらも静かに挨拶を返すが、相棒の続けた言葉におや、と怪訝な顔をする。ギデオンは前日、ニールを通じて場所と持ち場を聞いていたのだが、どうやら相手は違ったらしい。何かここに来て情報の齟齬があったようだが……ギデオンが案内すれば埋められる溝ではあるだろう。──まさか、未だギデオンとヴィヴィアンに執着を燃やすジャネット本人の差し金とは思いもよらず。しかしその邪な企みを、誠実なニールの助けによってあっさり打ち破ることにしてしまうと。夕闇の中に白い吐息を零しながら、ほど近い場所にある教会へと歩き始めて。)
──魔法省の秘密主義には俺も辟易するが、安心しろ、ニールに聞いてる。
憲兵団のあいつらも同じだろうし、先にふたりで現場に向かっておこう。教会の敷地内なら、少しは木枯らしがましになるはずだ。
(まずは長らくお待たせしてしまい、大変申し訳ございませんでした……!
主様のロルが原因というようなことは一切ございませんので、どうかご安心ください。寧ろ、ニールとギデオンの密かな関係の変化や、ビビの繊細な心理描写、いよいよやってきた終盤の幕開け──といった流麗な運びをわくわくしながら読ませていただきました。
主様のロルの投下に気づくたびに、紐のかかったプレゼント箱を開けるような喜びが湧いております。本当に日々の楽しみです、ありがとうございます。
今回お返事が遅れたのは完全な背後事情の方でして、この数日間ゆっくりお休みをいただいておりました。連絡の一言も申し上げられず、大変申し訳ございません。今は回復しておりますので、こちらについてご心配には及びません。
あっという間に年の瀬となりましたが、朝夕の冷え込みがいよいよ厳しくなっておりますので、主様もどうか暖かくしてお過ごしくださいませ。/蹴り可)
……ありがとうございます。お願いします。
( そうギデオンの言葉に頷いて、よく冷えた石畳を打ち鳴らすこと暫く。暖かそうな毛皮で膨れたシルエットの愛しさに瞳を奪われていては──はっと小さく頭を振って、今年バーゲンで勝ち取ったバロメッツの外套から、赤い花の刺繍が入った布袋をギデオンに差し出す。勢いよく差し出された袋の中身は、極東で使われるカイロという防寒具を参考にした魔道具で、火竜の鱗を魔法薬でコーティングしただけの簡易的なそれだ。魔法薬には少量だがギデオンからもらったドラゴンの血液も使用したそれは、ビビが両手で握りこむと、ぽわ、と布越しに暖かそうな光を放ち、冷えた指先を丁度良く温めるにも関わらず、昨日の拒絶を思い出して、受け取ってもらえないのではないかという恐怖に指先が小さく震える。──さも、ギデオンを想ってという顔をして。本当に彼のことだけを考えていたのなら、もっとシンプルな無地の袋を用意しただろう。最後かもしれないという覚悟に、一冬だけでもと、ささやかな、けれど確かに女の影を感じさせる小花で爪痕を残そうとする卑怯さは自覚しているからこそ、ギデオンの顔を見ることができずに俯けば、説明する声は段々小さくなっていき。 )
ギデオンさん、その……これ、ヴァヴェルの鱗なんですけど、冷めても火の魔素を吹き込めばまた温まるので──リントヴルムのお礼、まだお渡し出来てなかったから、
( / 新年あけまして誠におめでとうございます。昨年は大変お世話になりました。
最初のご挨拶からこんな形でお恥ずかしい限りですが、今年は背後様やギデオン様にご心配をおかけせず、心から楽しんでいただけますよう精進してまいりますので、今年もよろしくお願い致します!
今回のことですが、頂いた時間で自分のロルを読み返せば読み返すほど至らなさが目についただけでして……、結果的に背後様を急かしてしまうこととなっておりましたら、大変申し訳ございません。普段余程こちらの方が連絡をせずにお待たせしておりますので、本当にお気になさらないでください。
いつも本当に温かいお言葉ありがとうございます!当方もトピックや設定置き場の更新をいただくたびに、心からワクワクしてはリアルに笑顔を浮かべております。
リアル優先でお時間のある際にお付き合いいただけるだけで幸福ですので、のんびりと末永くお付き合いいただければ幸いです!/蹴り可 )
別に気にする必要は──……、いや。……ありがとうな。
(道中不意に差し出されたそれは、控えめながらも可愛らしい小花のあしらわれた布袋。見慣れぬそれを目を瞬いて見つめ、ついで贈り主に視線を移せば、ずっと気にしていたのだろうか、まるでこちらに合わせる顔もないといった様子で。……渡せていなかったも何も、ギデオンにとっては想定外の返礼だ。あの時の土産を、わざわざ手作りの品に活用してこちらに分けてくれるだけ、よほど殊勝な心掛けだろうに。そう思って途中まで出かかった言葉はしかし、ふと表情を和らげ、ただ純粋な感謝の声へと切り替える。──礼儀正しい後輩が、真心を込めて作ってくれた魔道具なのだ。素直に受け取ってすぐに活用するほうが、よほど報いてやれるだろう。そう考えて、コートのポケットに突っ込んでいた片手を出すと、骨張ったそれを伸ばして贈り物をそっと受け取り。確かにそれはじんわりと温かかった──真冬の寒さが優しくほどけていくようだ。しばらく手の内で転がしてじっと眺めていたそれを、静かにポケットにしまうと。「この冬はこいつに大いに助けられるな」と、相手の込めた切ない思いを知らぬまま、白い息を吐きながら小さく笑いかけて。
──それから一瞬だけ会話を打ち切ったのは、すぐに教会にたどり着いたからだ。聖堂前で話し合っていた聖職者と祓魔師たちは、敷地に入り込んできたギデオンとヴィヴィアンを見て、「悪いね、デートに来たならちょっとよそに……」と言いかけたものの。ギデオンが帯剣しているのに気づくなり「ああ、君たちが!」と表情を変え、捜査の礼を述べてくれた。それからすまなそうな顔をして外の警備を頼みこんできた辺り、どうやら既に準備が終わり、いよいよ一連の事件を引き起こしたインキュバスを召喚する段らしい。頭を下げて後を頼むと、ヴィヴィアンと二人連れ立って離れ、正門そばで一般人の乱入に備えておくことにする。──逢瀬をしに来たと間違われるだけあって、この時期の教会は、庭の植木や聖人像が魔法石のイルミネーションで煌びやかに彩られており、目が醒めるほど美しかった。……だが、今のギデオンにそれを眺めていられる余裕がなかったのは、相手に不意の贈り物をされてから、ずっととある勇気を振り絞り続けていたからで。結局、暫しの沈黙の後、コートの内ポケットから小さな包みを躊躇いがちに取り出すと、さりげない振りをしながら相手のほうに差し出す。中に入っているそれは、瀟洒なレースのあしらわれた純白のシルクのハンカチであることだろう。しかし、煌めく夜景に目をやるふりをして相手の顔を見なかったのは──ギデオンもやはり、自分の用意したそれを今更受け取ってもらえるかどうか、心許なかったからで。)
……、本来、俺が先にこれを渡すべきだったのにな。遅くなってしまってすまない。
舞踏会の時に駄目にしてしまったあれの──代わりになればいいんだが。
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