匿名さん 2022-05-05 14:12:04 |
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( 自分の手料理を口に運ぶ様を見て、傍で正座しながらドキドキと心配そうに見守って。殻は入っていなかっただろうか、変なものを入れてしまってないだろうかと不安は尽きない。
しかし、口にした相手が嬉しそうに笑顔になるのを見て、心の底から安堵したように此方も肩の力を抜く。
味付けが好みに合っているようで良かった、と息を吐けば、やっとのこと自分も箸を持つ。)
…そう言ってもらえて嬉しいよ。
少しずつ、練習しないとな。
( 見た目や味ではなく、気持ちだと何度も言ってくれる相手に、頷きながら少し表情を和らげて返答をする。確かにその通りだと思うが、まずはそう思える度胸からだな、なんて心中で呟けば、それでも喜んでくれる相手にまた作ってあげたいと思えるのもまた不思議で。
相手も何回も食べたいと言ってくれているし、練習しないと、と肩を竦めながら笑えば、自分も箸を進めて行った。)
…まぁ、リベンジ、という程ではないけれど、また、ゲームもしようよ。
今度は俺、勝つから。
( 優しく言葉を掛けてくれる相手に気分も上向いたようで、料理のリベンジと昨日の敗北のリベンジの意も若干込めつつ、再度ゲームもしようと提案してみる。)
今度は俺と一緒に料理してみない?
勇人と一緒にキッチンに立つのが夢だからさ。
(野菜炒めも美味しく完食するとお皿を綺麗に空っぽにし。お皿を重ね合わせ箸と一緒にトレーへ置くと期待しているのか笑顔で見詰めつつ返事待ちを。
食事後の予定も決まるとリベンジに燃え上がったのか単純な性格なのもあり即答で。
食器類を洗浄機で任せている間にシャワー浴びたり服を着替え、何時もの姿で相手の前に現れてはソファへ座り。
前回は勝たせてもらったが今回も負けるつもりはないと意気込みながらコントローラーを手渡して)
今回どのゲームをプレイするかは勇人が決めてくれないか。その方が面白くなりそうじゃん
( 相手が美味しそうに完食してくれる嬉しさと気恥しさに浸りながらも、此方も黙々と食を進めていき、今度は一緒に料理をしようと提案してくれる相手に対しては、同意を示すように頷き目を細めて微笑んだ。
料理を上達させたければ相手に習うのも良いかもしれないし、何より誰かと料理をするというのもとても楽しそうだ。
そして、此方も何とか完食し手を合わせれば、相手と共に食器を片付ける。
シャワーを浴びて身支度を済ませる相手を見れば、ふと自分の姿を見下ろして。癖毛は相変わらずだし、身支度を整えようとも黒ずくめに変わりはない。まぁ、これが落ち着くから仕方はないが、いつか相手と出かける時はお洒落でもしてみようと人知れず決意しておくとしよう。)
……、やっぱり、昨日の奴で勝たないと意味無いかな、なんて。
( 再度静かに相手の隣に腰かければ、コントローラーを受け取って言われた通りゲーム選択を行う。幾つか迷ってはいたが、迷った末に昨日行ったゲームをもう一度起動して、頭をかきながら上記を述べる。
同じでは味気ないかもしれないが、リベンジの意を成すのであれば負けた物で挽回せねばと、そこは一応謎のプライドはあるようで )
(頷くと昨日プレイしたゲームにて勝負が開始され、お互い一歩も譲らず接戦で攻防が続き。プレイ中は真剣すぎて会話はなく、それだけ白熱しているのだとわかり。画面に集中していたのだがふと、昨日の出来事が頭を過ぎるとその一瞬が命取りとなって勝負に決着がつき、今回は相手の勝ちで。
悔しさもあるがこうやって誰かとゲームをプレイできるのはやはり嬉しいのか、負けても笑顔で)
やっぱり勇人は強いな。
勇人が良ければだが、今日もこのまま俺の部屋で一緒に過ごしたい。
( ゲーム選択も快く受け入れてもらえば、早速勝負を開始して。今回は余計なことは考えず、単純に勝負を楽しみながらコントローラーを強く握って操作する。会話はなくても、相手の隣は居心地がよく、何も言わずともお互いに本気で勝負が出来るのも自分にとっては凄いことだ。
暫く勝負は白熱して、体感時間でいえばなかなかの時間を接戦で費やした気がする。ふと、一瞬見えた相手の隙をついて勝敗が決まれば、リベンジの意通り、今度こそ勝つことが出来て。
ふぅ、と息を吐いていつの間にか前のめりになっていた姿勢を戻せば、画面から視線を外し相手を見た。)
……郁海も強いよ。やっぱり、一緒にやると楽しいね。
俺はいい….、あ、ちょっと待って。
( 相手と笑いながら話せば、今日は自分が勝ったから望みも言った方が良いのだろうか、なんて考える。といっても、すぐには浮かばないのだが…。
そんな事を思っていれば、今日も一緒に過ごしたいという相手からの誘いを受け、一瞬遠慮しようかとも思うが、自分も相手といて楽しいのは間違いなく、頷きながら口を開いた。
__だが、その刹那、ズボンのポケットに入った携帯が震えるのを感じ、自身の言葉を遮れば、携帯を取り出して通知の内容を確認する。そして、内容を見た途端、表情こそ変わってはいないが、先程まで平穏だった空気が突如張り詰めた。)
(笑い合いながらこうやって何気ないひと時が一番楽しい。隣に居てくれるのが一番の親友なら尚更気持ちは落ち着いて心が満たされ、はにかんで笑う。
返事の雰囲気から一緒に過ごせそうだと思っていたのだが、相手の携帯が震えてその様子からアルバイトか何かだと察し。己もバイト先から急なヘルプは日常的にあるのでバイト先からだったら、と気遣って)
バイト先からだったらバイトを優先して、俺の事は気にしなくていいからな。ゲームはいつでもできるし。
……あ、うん。バイト先からだった。
( 暫く携帯の画面を見つめていたが、相手からの声掛けにハッとして、再度携帯を仕舞いつつ返事をした。「 ごめん、準備もあるから、もう少ししたら部屋、戻るね 」 と言葉を続け、自分自身も残念な気持ちで一杯になる。
友達と一緒に酒を飲んでお泊まりして、ゲームで遊んで、昨日から今日にかけてはごく“普通”の学生になれた気がしていたのに…携帯に届いた一見なんの変哲もないメールの内容に、自分はそうでは無いという現実を突きつけられるようだ。
真実を言いたくても、こればかりは目前の相手に言えるわけもなく、ただ拳を握りしめて浅く呼吸を繰り返す。彼の前ではせめて良き隣人であり友人でなければいけない。)
(相手の事情を知らないのもあって気にすることなく笑顔で頷き、部屋を出る時は玄関まで見送ろうと考えており。時間までひたすらゲームをしてその間にお菓子を食べたりと楽しい時間はあっという間に過ぎ行き。
ふとした弾みで合鍵について思い出すと帰る前に渡そうとソファから立ち上がり、鞄からキーケースよりスペアキーを取り出したなら直ぐに戻って。相手の掌に乗せてしっかり手渡すと見詰める視線は慈しむような優しさがあり、温かみのある笑顔で)
──勇人。これ、俺の部屋の鍵。
俺がアルバイトでいない時でも、好きな時にいつでも部屋へ来てくれたら嬉しい。
勇人なら大歓迎だからさ。
( 日が傾き始めるまで、ゲームをしたり話をしたり、何気無い事で時間は過ぎていく。そんな中で、何処か胸の奥では罪悪感と自分に対する嫌悪感がふつふつと積もるばかり。
ふと、窓の外と時計に目をやると、そろそろ部屋に戻らねばと思考していたその時、相手からスペアキーを手渡されれば、温かな笑顔に胸が締め付けられる。 )
…ありがとう、郁海。
( 無くさないようにする、なんて付け加えつつ、鍵をぎゅっと握れば思わず相手の髪に触れて照れたように微笑んだ。
そして立ち上がると、自分の服などの荷物を手に玄関へ。「楽しかったよ。」と礼混じりに告げれば、優しく細めた目で相手を見つめた。
自分の部屋はたった壁1枚挟んだだけなのに、その見えない距離は計り知れない。この扉を開けて外へ出れば、いよいよ自分の棲む“現実”に戻ってしまう。
そんな後ろ髪を引かれる思いで、玄関から去っていった。)
(髪に触れられると嬉しそうに目を細め、照れたような相手の微笑みを見て嬉しい筈なのだが、何故か胸が締め付けられた。
謎の気持ちは膨らんでいき玄関まで見送ると去っていく其の背中に一抹の不安を抱く。
勇人はただアルバイトに行くだけ。それだけなのだが、どうしてだか釈然とせず。
見送った後、ついさっきまで一緒にいたからか落ち着かなく、ひとりの部屋はこんなに広かったかと考える程。
自然と出掛ける支度をしており、この気持ちが晴れるにはどうしたらいいかとソファに座りながら悩み考え)
……勇人。帰り際、なんか違ったな。だから俺は気になるのか?
( 相手に一抹の不安を与えている事には気付かず、自室へ戻ると、タンスの中からいつもの様に黒一式の服装を取り出す。相手に貰ったジャージを脱ぐと、一間、それを眺めては丁寧に畳んで仕舞っておく。醜い肌を急いで隠すかのようにハイネックのトレーナーにパンツを履けば、引き出しから1つ、ポケットに忍ばせ、もう一度携帯の画面を見つめる。
傍から見ればただの営業メール。しかし、その文面の真意を読み取るのはもう慣れたものだった。標的、場所、時間、経路、全てを頭に叩き込めば、身軽なまま早々に部屋を後にした。)
……。
( 玄関の扉を開けた時、隣の部屋の戸が目に入る。一昨日までは何も気にしたことは無かったのに、今ではこの並んだ扉が妙に嬉しくもあり悲しくもある。
だが、すぐにそれ等の感情を押し殺せば、施錠して、早足に駅のある繁華街へと向かっていく。
暗くなりゆく空の下で、帰宅する人混みに溶け込みながら、時に誰かと肩をぶつけつつ、まずたどり着いたのは、繁華街の外れにあるロッカールーム。
何気無い顔でパンツのポケットから小さなロッカーキーを取り出せば、番号を確認して中からリュックサックを1つ受け取る。初めて来たロッカールームだが、どうやら“偶然”鍵がポケットに入っていたらしい。きっと、誰かと肩をぶつけた時に入ってしまったのかもしれない。
__荷物を受け取れば、再び繁華街で人混みに紛れつつ、長い髪を結び、リュックの中から手袋とマスクを。一見すぐに怪しまれそうだが、人が多ければ多いほど、そして派手な街ほどそんな姿も溶け込んで消えてしまう。
あとは、飲み屋の前で一人、だらしなく頬を赤く染め、店員に悪態を着いている迷惑な中年男を視界に入れれば、もう、殆ど仕事は終わったようなものだ。
あのような横暴で人を見下す人間は、例えばぶつかってしまったり、横槍を入れたりすると逆上する。それでいてこちらの態度が謙虚であればある程、調子に乗って自ら人目につかない路地なんかで説教を始めたりするのだ。)
__ 社長さん、だったんだ。
( 暫く、中年男の喧騒が此方に向かって耳を突いていたが、暗い路地の上にはもう既に、静かになった男の姿。右手に握られたナイフの先で、赤黒い水溜まりの上に落ちた相手の名刺を拾いあげると、静かに口を開き、特に何の感情もない顔で相手を見下ろした。
仕事をしたのも随分久しぶりだった気もするし、前に比べて腕も落ちてしまった気もするが、これで一仕事着いた、と、あとはいつものように帰るだけの、はずだった。 )
(悩み考えていると隣から部屋から出て行く音や施錠する音がして、気持ちは決まる。
最初尾行するのは躊躇っていたが、どんなアルバイト先か気になり。飲食店だったら偶然を装って入る事も可能だから、何て考えながら部屋から出て素早く施錠し、気付かれぬように尾行開始する。
脚の長さもあって相手の歩調は早く、ついて行くのが限界だった。繁華街まで尾行できたのは良かったのだが時間帯が悪かったのか、人の多さもあって姿を見失ってしまう。諦めて戻ろうとしたその時、すれ違い様にスーツ姿の中年男性の肩とぶつかってしまいすぐに謝罪する。男性はそのまま行ってしまい、歩き出すと次に全身黒い服装の長身男性と直ぐにすれ違う。黒の服装で相手を思い出しながら歩くがその脚は直ぐに止まることとなる。
なぜならすれ違った時、一瞬だったが黒の服装の長身男性から同じシャンプーの香りがしたから。まさかと思いつつその男性を追いかけると既に遠くへ歩いており、慌てて尾行する)
──まさかな。でも……行かないと、ダメな気がする。
(日が沈み繁華街はネオンの灯りで眩しくなる。周りは暗くなり近付かないと顔は見にくくい程だ。狭い路地から声が聞こえ、其方へ歩くが近づくにつれて声が小さくなり最後は聞こえなくなった。
不思議に思いながら曲がり角を曲がると、先程すれ違った全身黒の服装をした長身男性がいた。
気付かれぬように忍び足で近付くと鉄のような独特な香りが鼻を刺激する。香りを嗅いだ瞬間から胸が早鐘を打つ。頭では危険だと警報を鳴らしているが、目の前にいる男性は背格好が相手とほぼ同じで、後ろ姿もそっくり。決め手となったのは同じシャンプーの香り。
背後からゆっくり優しい声音でいつものように名前を呼ぶ)
……勇人?
( 叫び声や怒鳴り声は嫌いだ。だからいつも、成る可く静かに終わらせる。人というのは実際に凶器を目にした時、それはそれは嘘のように静かになるものだ。目を見開いて、先程までの威勢も殺し怯えたように此方を見上げる。
その光景は慣れたもので、この男もそうだった。その隙を突いて身体を押え付けることは造作もなく、滅多刺しにする必要も無い。ただ、急所を狙って刃を滑らせれば良いだけ。急所の場所も刃の扱いも全て熟知しているが故に、呆気なく、一瞬で終わってしまう、自分にとっては簡単な仕事だ。
流れる血液や冷たくなる皮膚の感触にさえ、最早何も感じないのに…優しく名を呼ばれるだけで胸が痛くなるのには、当分、慣れそうもない。)
………、い、くみ。
( 近付いてきた気配に気付き、刃を向けた先には、此方を見つめる友人の顔があった。通りゆく車のライトが反射する中、血の滴る刃を握り、横たわる男の傍に立つ自分は、相手にどのように映っているのだろうか。
咄嗟に慣れた手つきでナイフの血を薙ぎ払い仕舞えば、持ってきたリュックにそのナイフや付けていた手袋を仕舞い込み、靴を履き替える。本当は今すぐにでも逃げ出したいが、その為に仕事を疎かにする訳には行かない。バレてしまった以上、自分も、彼も、立場が危うくなってしまう。)
……帰ろう。
( きっと、彼は言いたいこと、聞きたいことは沢山あると思う。それでも、横たわる男の傍にリュックを投げ捨てれば、視線を逸らし、低く呟いたまま、相手の傍を通り過ぎて行く。
暗殺は一人でやっている訳では無い、情報を集める者、準備を整える者、実行する者、後処理をする者、全員が迅速に連携して行われる。このままこの場にいては処理班がやって来てしまうだろう。 )
(名前を呼ばれるまで体感的に長い時間に感じられた。道路を走り行く車、そのライトの反射によりうっすらと相手の顔が見えた様な気がしたが表情までは判別できず。
今の己は相手の一連の流れを静かに見守ることしかできなかった。その姿は手馴れているようにも見えてこの“仕事”は相手にとって長い時をかけて行ってきたのだろうか。理由があってきっとこの様な“仕事”をしているだろうから、相手から話してくれるまで詮索しないと決めた。
真実は相手にしか分からないので推測の範囲を抜け出せず、相手を想うとそのことについてこれ以上考えるのは止めないと。
誰だかわからないが性格ゆえにそのまま立ち去る事はできず、地面に拡がる血液は横たわる“その人の姿”から流れ出ていると考え。両手合わせるとせめてもと弔い。ゆっくり瞼を開けた後、後を追ってついて行くが今の相手を想うと隣に並ばない方がいいと判断し、後ろからついて行く形でアパート目指しひたすら無言で静かに歩みを進めて)
………。
( 早足を緩めちらりと後方を見やれば、冷たくなった標的に手を合わせる相手の姿。嗚呼そうか、本来なら亡くなった人を前に手を合わせるのか、とぼんやり考える。そして、自分はそんな事すら麻痺してしまっているのかと思い知らされた。
言葉を発することのないままアパートへと戻ってくれば、こんな形で相手を部屋に上げたくはなかったと思いつつもこのまま別れるのもいけない気がして、暗い部屋の玄関の戸を開いた。)
………どうして、いたの。あの場所に。
( 部屋の電気も付けぬまま玄関の戸を閉めれば、それと同時にゆっくりと口を開いた。
決して近所ではないあの場所に偶然彼も居たのだろうか。それにしても、あんな路地で出会う偶然なんてあるのだろうか。
…まぁ、正直にいえばあの場所にいた理由なんて対した問題ではなく、1番問題なのは自身の仕事を見られた事だ。 )
あの場所にいたのは尾行していたから。
虫の知らせというか……何となく勇人が心配になって。
(無言のままアパートへ到着。てっきり部屋の前で分かれると考えていたからか、相手の部屋へ通されるとこの緊張感のある状態でも嬉しさが勝ってしまい。「お邪魔します。」と一言囁き己が部屋の中へ入ると扉が閉まり、それと同時にゆっくりと深く深呼吸を。
質問には包み隠さず素直に今の気持ちを乗せながら回答。暗闇で表情は分からないが真っ直ぐに曇りのない表情で目を逸らさず、しっかり見詰めていたが謝罪と共に頭を下げ)
尾行してしまったことについて改めて謝らせて欲しい。俺の勝手な行動で迷惑かけて……ごめん。
……尾行に気づけなかったなんて、やっぱり、鈍くなったのかな。
( 謝る相手に乾いたように笑うと、首を横に振りながら上記を述べた。そして、部屋の奥へと歩みを進めれば、無造作に床に投げられていたリモコンを踏んでしまったのか、薄明かりが部屋の中を映し出す。
束ねられた髪を解き、着ていたトレーナーを徐に脱いでしまえば、色白でいて醜い肌が灯りに照らされる。左腕は上腕にまで切り傷が無数にひしめき合い、鍛えられた体には無数の傷と、見るに堪えない痕跡がある。
「 いつもなら、その場で終わらせるんだけど 」と呟けば、ポケットから折り畳み式の刃物を取り出し、何の躊躇もなく左腕に新たな傷を描いた。仕事をする度に増えていく傷、これは、標的となった相手への僅かな手向けと、自分自信が痛みを忘れず、己の異常さを思い出す為の手段だ。
滲み出る紅は諸共せず、衣類の散らばった椅子へ腰掛けると、その傷口に指でなぞる様に触れた。 )
確信はなかったけど、すれ違った時に俺と同じシャンプーの香りがしたから。それがなかったらきっと気付けなかったかもな。
(無言でそのまま奥の部屋へと進み、何かの弾みで部屋に灯が点る。ただひたすら前を向き続け、服を脱ぐ姿を見守って。この状況から不謹慎だが鍛え上げられた美しい肉体が露になると釘付けになり、己には白い肌に刻まれた全ての傷痕も美しく見える。左腕に新たな傷痕が生まれるとゾクリ、高揚感から僅かに身体が震えた。
相手が椅子へ腰掛けるまで見届けてからゆっくりと近づき、座っている相手の目の前まで移動。まるで童話の中の王子様がお姫様の前で跪くように屈んだなら左手に触れて優しく掴み、そのまま手の甲へ唇を押し付ける。
顔を上げてからはしっかりと相手の瞳を捉えて気持ちを伝え、痛まないように優しい力で腕を引き寄せた。滲み出て滴り落ちる紅を躊躇いなく生温かい舌でねっとり舐め取ったり、態と音を響かせ啜る。新しい傷痕をうっとりとした恍惚な表情で見詰めるその姿はどこか異質にも見え、ひとによっては異常とも捉えられるだろう)
……勇人。気にならないと言ったら嘘になるが俺から何か聞いたりしないから、安心してほしい。ずっとひとりで抱えて頑張ってきて辛かった、という言葉は正しいかわからないが、俺に傷跡を見せてくれてありがとう。
( てっきり、怖がられ、非難されるとばかり思っていたが、相手の反応はそんな予想とはまるで違い、左手の甲へ口付けを落とす様を、髪の隙間から物珍しげに眺めてしまう。
そして、腕を優しく引き寄せられれば、傷口に触れる相手の舌や啜る感覚に眉をピクリと動かし、思わず声を洩らして息を吐く。)
……違う。俺はもう…人を殺しても何とも思わない。
それぐらい、俺にとっては、当たり前の事なんだ…。
( 安心して と声をかけてくれる相手に、仕事後静かに高揚していた心や体も徐々に鎮まって、段々と左腕の傷口から発する痛みがじわじわと伝わってくる。
そして、「辛い」と比喩してくれた相手に、ゆっくりと首を横に振りつつぽつりぽつりと言葉を発した。この仕事自体を辛い、なんて思ったことは無かった。しかし、人の命を奪う行為を辛いと思えない自分が卑しくて、それは確かに、胸に秘めた悲痛なのかもしれない。
この醜い自分を目の当たりにしても、見せてくれてありがとうと礼を述べてくれる相手は_なんて優しくて、なんて異質なんだろう。
此方を引き寄せてくれる相手の腕を掴み返せば、物悲しげな目で彼を見た。彼になら、なかなか言えなかった望みも言えるのだろうか。あのゲームで勝利した、その報酬を今、言ってしまってもいいだろうか。)
…………こんな醜い俺でも、愛してくれないか。
当たり前すぎて“悲しい”や“辛い”という感情が欠落してしまったみたいだな。
勇人の心はきっと悲鳴をあげているはずだ。自覚がないだけで。
(腕を掴み返されるとゆっくりと立ち上がり、身体を密着させてぴったりとくっつき隣へ座る。耳許で囁くように優しい気持ちでゆっくりと言い聞かせるように。腕に触れていた手は相手の背中へと伸ばしてゆっくり抱き寄せる。
上半身は未だに服を着ていないので相手の美しい肉体から伝わる素肌の温もりに心と身体は癒されて。ドキドキと気分は高揚し続けており、愛して欲しいという発言には当たり前に頷き、強く抱き締め。
醜いなんて誰のことを言っているのだと言わんばかりの様子で、気持ちは相手を初めて見た時から決まっているのか秘密を知っても尚変わらず、健気に想い続けており)
勇人は醜くないぞ。俺の気持ちは勇人を初めて見た時から決まってるからな。それは変わることがなくずっとーーーこの命がつき果てるまで愛してる。
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