春の蛹　〆　

似合ってんじゃん。流石俺の弟。
（　満足気な笑みに僅かばかりの達成感抱き仄かに口角を上げて頷き。快諾されるとはつゆにも思わず、暫し思考を巡らせて漸く口から転び出たのは幼子の様なリクエストで　）
卵焼き。…甘いやつ。基本好き嫌いねぇから、宗くんの得意なおかず入れてよ。

得意なやつねえ、了解。ふりかけは俺のお気に入りの鮭味、入れといてあげる。
（　弟と認識されている事、それから容姿褒められた事に対する照れから僅かに睫毛揺らして伏せ、ボトムスのポケットに忍ばせていた携帯を取り出し其方へぎこちなく視線移し。それからメモアプリ立ち上げては簡潔なリクエストと予定している惣菜を其処に打ち込んだ後、主にメッセージ機能利用しているSNS立ち上げおずおずと口を開き　）
…連絡先、交換…したい、かも。

おー、育ち盛りだから豪華な奴にして。
（　何やらスマホに打ち込む相手へ嬉々として茶々を入れ、まだ見ぬ弁当への期待膨らむ儘其方眺めて居れば突如視線が交錯し。盲点だったと少々慌て気味に尻ポケットに収めていたスマホを取り出し、手早くQRコードを表示させては相手の動向を待ち　）
完全に頭から抜けてたわ、ごめんね。…っと、これ読み込んで。

──…よし、出来た。あんがと。
（　兄弟としての距離感を推し量って行動している分、多少の不安は付き物だが此方を慮る言動の一つ一つに心配事が消え、酷く安心し。画面のコードを読み取り、追加の表示に優しく指で触れると友人一覧に兄の名前が追加された様子見て眦垂れ下げ、此の状況に託つけてもう一つのお願いを　）
あと、もう一個。宗くんって呼び方、他人行儀じゃん。…だから、呼び捨てで呼んでほしい。宗って。

じゃあ遠慮なく呼ぶけど、…代わりにお前も庵って呼んでくんね？年齢差も少ねぇしそっちのが気楽。
（　メッセージを知らせるアイコンが幾つか目に留まれど現在の優先順位は眼前の彼にあり、触れずに其の儘画面を消して傍らに置き。思わぬ申し出に微笑ましさから寸で頷きかけるも、須臾一考した後に交換条件を提示し　）

OK、庵がそう言うんなら。
（　当初兄との間にあった隔たり薄れた様に感じて嬉しく、柔らかさの中に何処と無く爽やかさ混じった声音で、早速敬称無しに相手の名を呼び。不意に机上に置かれた相手のカップへ視線移せば、指の背ですっかり冷めた其れに触れた後、意地悪に口角持ち上げ猫舌揶揄し　）
これ、さっきちょっと飲んだっきりじゃん。──庵ぃ…もしかして、こんな冷めきってんのにまだ飲めねぇの？

そりゃ冷えるわ。ココアより宗を優先してやったんだよ、ばーか。いい兄貴だろ、褒め称えろよ。
（　背中を預けていたソファから上体を乗り出し腕伸ばせば、近場に設置されたゴミ箱に使用済みピアッサーや包装を半ば投げ入れる様に捨て。いけしゃあしゃあと生意気に言葉紡げば先刻より随分と冷えたマグカップを片手に再度背凭れへ身を委ね、煽りに対し飲み口傾けて一気に呷れば喉に張り付く様な甘さに僅かに顔顰め　）
…あっま。

く、はは…知ってる。俺の我儘聞いてくれてあんがとね。
（　揶揄負けない程の小癪な言葉がすらすらと紡がれていく様子は最初に抱いていた印象とかけ離れたもので、愉しげに笑い声洩らし。飲料飲み干す姿横目に茶注がれていたカップ手に取ってから立ち上がり、相手の物も受け取ろうと手を差し出しつつ爪先はキッチンへと向けて　）
カップ頂戴。後で俺が一緒に洗っとくから。

どういたしまして。つーか、手作り弁当でお互いイーブンだろ。
（　距離が縮んだ事で漂う和やかな雰囲気に乗せられ調子良く友人に対する様な態度に後々気付けば、根源である口元咄嗟に手の甲で覆い相手を窺うも、気にする素振り一切無い様子に腕と共に胸元撫で下ろし。若干躊躇気味に空になったカップを差し出しては頷き、ソファに身を埋めた儘顔だけキッチン方面に向けては不意に沸いた疑問を投げ掛け　）
え、…あー…じゃあ頼んだ。───夜飯、何か食いてぇのある？一応出前とかもとれるけど。

…地味に出前ってとったことねえんだよな。
（　差し出されたカップ受け取りキッチンへと歩を進め、水道のレバー押上げ軽く水溜めて其れ等をシンクへ置き。此れ迄意識していなかった空腹自覚して腹部を軽く掌で擦りつつ再びソファへ腰掛ければ瞳輝かせて己の願望呟き　）
俺、久し振りにピザ食べたいかも。

…まじ？じゃあピザ食お。確か郵便受けに突っ込まれてたやつ、自販機帰りに持って来てたんだよな。
（　再び相手戻って来れば正面向き座り直すもリクエストに一つ首肯しては、腰を上げ立ち代りキッチンへ向かい戸棚を幾つか開けて。漸く二枚程派手な写真と文字踊る広告を発見するなり、其れ片手に足早に戻り遠慮なく相手の隣に腰落ち着けて紙面差し出し　）
好きなの選んでいいよ。つっても二社しかねぇけど。

じゃあ…こっち。
（　目前に差し出されたチラシを見比べ、比較的商品の種類が豊富そうな向かって右の紙を選択すれば其の中でも大々的に写真が掲載された一枚のチーズピザ指差して　）
庵が甘じょっぱいの好きならこれおすすめ。蜂蜜かけて食ったらうめぇんだよ。

え、蜂蜜かけんの？
（　別段と大々的に掲載されたピザに相手が指差す先をなぞる様に視線移し眺めていれば思わぬ発言に顔を上げ僅かに瞠目し驚愕顕に。声音から巫山戯ている訳でも無いと判断すれば腹括り聢と頷き　）
じゃあ、お前の味覚信じて頼も。二人だからMサイズで充分か───…んや、待った。宗って結構食う方？

外で大盛りとか頼むし、結構食う…かも。
（　怪訝な声音に食した経験無いのだと推測すれば、複雑な味にどの様な反応得られるのか期待に胸を高鳴らせ。続く問い掛けには自分の事ながら確証は得られず、普段の行動思い返し返答していたがサイドメニューに目が留まると一度制止掛け　）
…あ、待って。サイズはMのままで…このポテトとオニオンリング追加したら良い感じじゃねぇ？

良いね、そうすっか。ついでに飲み物も頼まねぇ？
（　薄く見える身体と相反する解答に幾度か目を瞬かせ順に窺い見るはチラシと弟。準える様にサイドメニューに視線流しては良い塩梅に腹の膨れる提案に頷き賛同し、ソフトドリンクの欄を指差し問うて　）

飲みもん…は、コーラ一択。
（　指先が視線誘導する様に紙面滑り、釣られて其方に目を動かすが相手の言葉を聞くなり目当ての飲料探し当てる前に用意されて然るべき炭酸飲料選択して得意気にふん、と小さく鼻鳴らし　）

流石宗、分かってんじゃん。ピザにはコーラ一択だよなぁ。
（　一連の動作に可愛げ感じ得て表情筋は固けれど判別出来る限りに眦を弛め一笑零し、歳頃らしい正にジャンクな組み合わせは自身も望んでいたが為か少々弾む声音で相手へと掌擡げてはハイタッチを求め　）

やっぱ？…同じじゃん、俺等。
（　ほんの僅かな食の嗜好が合致しただけでも共通点を見つけ出せた事が嬉しく無邪気な笑みを浮かべ。不意に持ち上げられた掌見てすぐに其の意図を理解出来た様子で幾度か小さく頷きつつ、軽快な音を立て掌を重ね　）

やっぱ兄弟って似るんだわ。血ぃ繋がってねぇけど。
（　年齢相応の無邪気な笑みに視線引き寄せられるも触れ合う掌が軽快な音立てればハッとし、間延びした口調で軽口を述べ。何処か満足気な調子でチラシ引き寄せピザ屋の電話番号を確認し、片手でスマホ操作し乍ら戯れにわざと幼子宥める様な口振りで　）
…これ、電話でオーダーした方が早いな。兄ちゃん電話すっからお利口に待っててな。

…はーい。
（　重なった掌は自身の物よりもほんの僅かに大きく感じ、離れていく様を羨望に似た視線で追い掛け。年の差を意識した不意の出来事に目前の兄が妙に大人びて見え、其処に追討ちをかける柔らかく心地の良い低音には子供扱いされているのだと感じるが其れも不思議と心地良く、目尻弛めた儘ぼんやりと姿見詰め　）