春の蛹　〆　

おー、全部ピアス。…気になる？宗くんピアス空いてねぇもんな。
（　金に染まる髪の隙間から覗ける幾つものシルバーピアスは両耳合わせて凡そ9個程だったか、思い返し乍ら見易い様にと片側だけ横髪を耳にかけて。比較的多く付けた其れに怖がる事も無しに興味の矛先を向ける相手に安堵感覚え　）

そう、開けたい気持ちはあんだけどね。
（　ピアスが先程よりもはっきりと確認出来、遠くから見るだけでは飽き足らずに相手と自身の間に手を付いて其処へゆっくりと重心移動させて僅かに身を乗り出し、晒された耳輪に触れようと未だカップの熱残る指先を伸ばして　）
開ける時、痛くなかった？

何処も悶える程の痛みはねぇけど、開けて暫くは熱を持って脈打つ感じはした。あー…でも耳朶は全然痛くねぇよ。何なら開けてやろっか、お兄ちゃんが。
（　幾つものピアス穴が完成した当初を想起すべく視線を宙に投げていたが為、革張りのソファが軋む音で漸く相手が指先を此方に伸ばしている事に気が付き。不思議と不快感は感じず大人しくされるが儘に身を委ね、簡易的な質問に応じれば初めて使う呼称を敢えて用い乍らも不意に沸いた閃きに相手の耳元指差して　）

…え、まじ？…俺、兄ちゃんにピアス開けてほしい。
（　微かに温かい耳輪とは対照的に冷たいピアスへと指先運び、親指と人差し指の腹で耳朶優しく挟む様に触れ。此れ迄機会が無かった事、そして器用とは言えない己の手先を信用していなかった事がピアス開けない原因であった為、己にとって好都合な提案には瞳輝かせて大きく頷き　）

…まじか。
（　閃き一つで進む問答に提案した当人乍ら眼前で瞳輝かせる弟へ届くか否かの微かな声量で驚愕を滲ませた声音で呟き。耳朶に触れる指先をやんわりと掴み胸元付近で離せば、今度は此方から相手の耳元へ触れようと先程より縮まった距離感を良しと腕を伸ばし　）
俺の部屋に一式は揃ってるけどいつ開ける？つーか何処に開けてぇとかあんの？

…庵さんが暇な時なら何時でも。場所は…んー…無難に耳朶に開けよっかな。なあ、何処に開けたら格好良い？
（　自身の手が温かい掌に包まれ胸元で手放されると無意識に眉尻垂れ名残惜しそうな表情見せるが、此方に伸びる腕には僅かに横を向いて触れやすい様耳を晒し。先刻の相手の発言踏まえて耳朶へ穿孔する事想像しながら好奇心宿した瞳だけ其方へ向けて　）

弟の頼みなら何時でも予定空けるけど。お前の心の準備が出来た頃でいいよ。んー…宗くん綺麗な顔してっからなぁ、何処に開けても様になると思う。
（　単なる気の所為か一瞬見せた相手の表情に小さく瞠目するも別段言及する事は無く、物珍しげに見詰めたのはほんの数秒。直ぐに向けられた眩いばかりの視線に目を細めたのなら、飾らぬ所感を吐きつつ手慰みに指の腹で耳殻から耳朶になぞる様に触れて　）

そんじゃ、ひと思いに今、っく…すぐってぇ…！
（　提案を聞いた現在が最も好奇心強く肝が据わっている様に感じて早速今にでも開けようかと申し出ようとした瞬間に耳に触れた指先が其のの形確認する様な動きで滑り、僅かな刺激にびくりと体を震わせ咄嗟に触れられている方の肩を竦めながら薄く開いた唇の隙間から笑い声ともとれる吐息洩らし　）

あ、これも駄目なんだ。宗くん、まじで擽ったがりなんだな。
（　滑らかな軌道を描き指先が耳朶へ触れた瞬間反応を示す相手に愉快そうな感情を添えた声音で呟けば、気を使ってか伸ばしていた手を引いて。先程遮ってしまった中途な発言を偶然にも聞き逃しておらず首傾げてはまじまじと耳元見詰め　）
…んで、今開ける？

うん、開ける。耳朶んとこ。
（　指先遠退くと安堵してすとんと肩を落とし、未だ残るむず痒い感覚を逃す為に自身の掌で耳を乱雑に撫でた後改まった問い掛けには首を縦に振り。感情の殆どを占める好奇心とは別にある僅かな不安を払拭する様に机上のカップへ手を伸ばせば残り少ない茶を煽り　）

了解。じゃあ必要なもん取りに行かねぇと。───心の準備しながらちょっと待ってて。
（　意思が固まったと見れば身を委ねていたソファから緩慢な動作で腰を上げ自室のある方向へ視線流し。一歩踏み出した所で不意に相手を振り返り、ピアッシングが初という事を踏まえた上で自身なりの不器用な気配りから声を掛けては廊下へと消え行き　）

手間掛けさせて悪い。…でもありがとうな、…超楽しみ。
（　自分本位な御願いにも関わらず嫌な顔一つせず支度始める様子見て申し訳無さそうにやや眉尻垂らしていたのも束の間、後に投げ掛けられた気遣いの言葉には兄なりの優しさ感じて眦下げ、初体験に酷く警戒した様子も見せず呑気に小さく頷くのみで　）

お待たせ。何個開けるか聞き忘れたから、取り敢えず左右の耳朶で二つ分。新品のピアス切らしてたから今回はピアッサーな。
（　自室に戻れば潰した段ボールが占領するスペースに眉顰め一瞥をくれ、ピアッシングの道具揃えた棚を開き。数分後両手にピアッサー持ち再度リビングへ足を踏み入れては先刻と同じ場所へ腰を落ち着かせ、未だ未開封の其れを机上に置いて見せ乍ら簡素な説明を添え　）

ん、左右一個ずつで二個開ける。…うっわ、よく見たらめっちゃ針。これで耳に穴開けんのか…。
（　机上に置かれた物を上体前方へ屈めて捉えれば意外にも見知った道具ばかりではあるがきちんと説明は受けるべきかと耳をそば立て、時折理解している事示す様頷き。まじまじと其の器具眺めているとふと鋭利な針先が目にとまり、現物前にして背筋ぶるりと震わせつつ頼りにする兄へ視線を送り　）
これ、庵さんがバチンってしてくれるん…だよな？…ひと思いにやって。焦らすの無しね。

おー、お兄ちゃんに任せろ。伊達に穴開けてねぇし腕は信用していいよ。
（　弟の要望聞き届ければ了解の意を込めて首肯し、机上に並べたピアッサーのうち一つ手に取り丁寧に開封し乍ら悠々と言葉を並べ立て。何処か不安が混在する様に思えた視線を受け取れば少々揶揄するかの様な発言を繰り出すも声音自体は優しく柔らかいものであり　）
…カウントダウンとか必要？

要らねえ。もう、こうやって話してる間に好きなタイミングで開けちゃって。
（　心強い言葉と鼓膜に優しく響く心地良い声に安堵した様子で一度小さく息を吐き出し、それから覚悟決めた様子で先ずは相手に向けられた耳に掛かる少量の毛束を指先で払い除け、視線は特に何を見るでも無くやや下方へ向けた儘、何と無しに別の話題持ち上げ　）
──…これまで平日の昼飯ってどうやって食ってた？購買とか学食、…それとも弁当？

肝座ってんなぁ。最初は音に吃驚するかもしんねぇけど…まあその調子なら大丈夫か。
（　針の位置を調節し先端を耳朶へあてがいピアッサー支える指先に力入れ押し込めば、数秒も経たぬ内にバチンと音響き片耳貫通し、手慣れた仕草で二つ目のピアッサーを開封し準備進め乍ら他愛も無い問い掛けに口を開き　）
一年ん時から昼は購買。…偶に学食も食うけど、大盛況だろ彼処。並ぶのすげぇ面倒い。弁当なんて更に手間掛かるし。宗くんはどうしてんの？

…っ、おお……！
（　冷たい針先が柔い耳朶貫く瞬間、心臓がひやりと縮こまる心地に息を詰まらせるが想定していた程の痛みは無く安堵の息吐き出すと同時に感嘆の声洩らし。反対の耳に関しても先程同様、穿孔し易い様髪を退けつつ再び兄との会話へ意識向けて気を逸らし　）
俺は弁当持ってってる。…自分で作ってるから、毎日って訳にはいかねぇけど。寝坊した日とかは購買で買ってんの。

自分で？すげぇな。じゃあこのピアッシングのお礼は、宗くんの手作り弁当っつー事でよろ。
（　別段痛がる素振りも見せず寧ろ感嘆する声音に安心感を得ては手早く、然れど丁寧に二つ目のピアッサーを先程同様に押し込み左右バランス確認の上耳朶に穿孔させ。取り払った用済みのピアッサーを机上に纏め片付け乍ら、交流の最中でも確りと自立心感じる相手の発言故に特に驚愕示さず手放しに賞賛し、終いには呑気な調子で図々しさ満点の約束を一方的に取り付けて　）
完成。どうよ、初ピアスの感想は。

　

え、出来たん？ちょっと待って、鏡見る。
（　終わり告げられ指先を自身の耳朶へ滑らせると、其処は僅かな熱を持っている程度で痛みは全く無く。忙しなく机下の引き出しから手鏡取り出せば、両耳に取付けられたピアス確認して満足気に双眸細めて笑み、鏡面伏せ机上に置いてから改めて相手に向き直って　）
めっちゃ良い感じ。…さんきゅ、兄ちゃん。お返しに庵さんの好きなもんいっぱい入れた弁当作るから、何入れて欲しいか教えて。