星の数ほど 〆

興味を持って貰えたなら良かったよ。
まぁ、僕もそんな立派な者ではないけどね。

( 相手からの言葉に嬉しそうに上記を返せば、本を一つ一つ棚へと並べながら微笑み混じりに肩を竦めた。
正直、教授としてはあまり自信がなく、とにかく、学生に歴史の楽しさを少しでも味わってもらえればよいと思っている。
…学長に知られたらあまりいい顔はしないかもしれないが、これまでもその姿勢でやってこれたのだし、あまり気にしないでおこう。)

そういえば、吉田くんはいつから野球をやっていたんだい？

( 自分の事よりも、と再度相手へ視線を送れば、いつも草野球をしていた彼へ質問を投げかける。
何気ない会話はした事があったが、彼がどれほど野球を行ってきたのかなど、まだ聞いたことない話はたくさんあった。)

小学校4年生くらいからかなぁ。
少年野球からそのまま中、高ずーっと野球部。
続けてたからってそんなうまくないんやけど…。

( 自分の話になれば、野球をし始めた頃を思い出し、そこからずっと野球に打ち込んできたことを伝えれば、その割に技術は上達せず、今は趣味程度でやっている。そういえば、自分の試合を相手は見たことがあるのだったと思えば今更気恥ずかしくなり。相手も野球に興味があるのだろうか、はたまた経験者なのだろうかと気になれば｢野球するんですか？｣と問い返し。)

続けているっていう事が凄いよ。
それに、僕からすれば、十分上手に見えるけどなぁ。

( 変わらず手は動かしつつも、相手からの返答に相槌を打ちながら聞き入る。小学校時代から続けているとなると、相手も相当野球が好きで、野球にはそれ相応の魅力があるのだろう、となんだかこちらまで楽しい気持ちになってくる。
それに、相手はそんなに上手くないと謙遜するが、実際にプレーできない自分にとっては既に羨ましい限りだ。なので… )

いやいや！
僕が野球なんてそんな…、運動は若い時から苦手でね。
観戦して、自分もやっている気になってるだけさ。

( 相手の問い返しに慌てて首を振り、少し恥ずかしそうにしながら運動が苦手であることを明かす。
しかし、一間して「 やってみたいとは、少し思うけどね 」なんて笑えば、眼鏡をかけ直して微笑みかける。)

ははっ、ありがとうございます。

…やってみます？？
試合は、さすがに無理でもキャッチボールとか、バッティングセンター行ったりとか…ちょっとやるだけでも楽しいもんですよ。俺教えるんで、いくらでも！！

( こんな自分を褒めてくれる相手には、少し照れくさくなり笑って礼を伝えて。その後で、｢やってみたい｣という言葉を聞けば、待ってましたと言わんばかりの食いつきようで野球バカが炸裂し。ちょっとでも相手にボールを触る楽しさが伝わればと、息巻いて喋り倒した挙句、気がつけば相手に迫る勢いで近付いていたことに気付き、｢…あ、すいません｣と我に返ると困ったように苦笑して。)

………。
ふｯ､…あははｯ、それなら、キミに教えてもらおうかな。

( 先程の自分以上に熱を込め、近づいてくる相手に、思わず呆気に取られたようにぱちくりと瞬きを繰り返す。そして、相手の顔を見つめたまま、我に返った相手の様子を見て思わず吹き出して笑ってしまう。
好きなものについて語り出すと、それだけで楽しくて、興味を持って貰えたことが嬉しくて…、その心情ががよく分かるからこそ、笑みが零れてしまう。

しかし、それと同時に、やってみてもいいかもしれないな、と言う気持ちも高まり、苦笑いする相手の肩を叩きながら、教えてもらおうかと続けてみる。)

ほんまに！？
せんせ、やっぱなしはダメやで！約束な？

( 相手の反応が意外だったのか、目を丸くして驚けばその後嬉しそうに笑い。この際笑われていることはどうだっていい、相手と野球に関する繋がりが持てることに高揚する気持ちをどうにも抑えられず。暫く経ってから、少し心を落ち着かせなければと思うと、深呼吸を一つ。｢近かったですね、すいません。｣と言い、再び少し離れて作業に戻ろうとダンボールの中の本を取り出して。)

…ﾌﾌｯ、吉田くん、近くで見るとより男前だね。
それに関西弁、使う人によっては威圧感を感じて、少し苦手意識があったんだけど…

キミの話し方は、なんだか安心するよ。

( 謝罪を述べ、落ち着いたようにもう一度作業に戻る相手を、再度瞬きを数回繰り返しながら見届けると、柔らかな微笑み混じりに言葉を並べた。そこには、決して嫌な気持ちになった訳では無いという思いも混じっているのだろう。
また、独特な話し方や方言も、なんだか心地よくてついつい惹き込まれてしまうし、正直、距離感に少しドキッとしてしまったのは内緒だ。)

僕と吉田くんの約束、ちゃんと守るから。

( 此方も、再度止まっていた手を動かし本を片付け、空になったダンボールを処分しながら、ちゃんと確認するかのように約束は守ると告げると、もう一度笑いかけた。 )

男前って…それ、先生みたいな人に使う言葉やと思うんやけど。

あー、大学の友だちも関西の方の人いてへんし、普段できるだけ普通っぽい言葉使おうと思ってるんやけど…やっぱ無理やなぁ。先生が嫌じゃないならよかった。

( 生まれてこの方20年余、｢男前｣などと言われた経験はなく。ぴんとこないが、一つだけ言えるのはその言葉に相応しい人物こそ目の前の相手だろうと思う。こちらの大学にきてからというもの、周囲で関西弁をつかう人も少なく、何となく浮いているような気持ちになるため直そうと思ったこともあるが、やはり生まれながらに染み付いたこの訛りは抜けることはなく。苦手意識があるという相手の言葉には内心ドキドキしたが、安心すると言って貰えてホッとする。)


…大学の先生って、普通に土日お休みなんですか？

( 約束について守ってくれるという相手には嬉しさのあまりついにやけが止まらず、変な顔になっているだろうと自分でも思う。そうと決まればいつ相手と予定が会うのだろうかと、土日は休みがあるのか問いかけ。)

直さなくていいよ。
僕の他にも、好きだと言ってくれる人は沢山いるはずさ。

( 男前の言葉を返されれば、此方もその言葉にはしっくりと来ないようで、そうかな、なんて笑って誤魔化すが、話し方に関しては、直さないでほしいと思う自分の我儘も含めて上記を述べる。
自分は関東出身の為、特に特徴的な訛りや方言は無く、そういった地域にはやや憧れを抱いているのも事実だ。)

研究をしようと思えば大学に来ることもあるけれど…基本は休みかな。講義が無い日も休みだし、教授って意外と自由なものだよ。

( 続けて、だいぶ片付いた部屋の中を見渡しながら、質問へと安易に答える。
教授というのは随分と堅苦しく厳しい職業に思われがちだが、勤務時間も自由に等しく、研究といっても、元々は自分の興味から派生した専門分野なわけで、特別苦に感じることも無い。
とはいっても、自分はブランク有りの身である為、もう少し緊張感を持たなければな、と苦笑いして。 )

そうですかね？

( 自分の言葉のことだとは分かってはいても｢好き｣ という単語には過敏に反応してしまい。何をドキドキすることがあるのかと、気持ちを落ち着かせながら平静を装い。相手が好きだと言ってくれるなら、これからもこのままでいようと思うのであった。)

へぇ、なんか意外やなぁ。
ほんなら、土曜日とか空いてます？今週。
あ、でもせんせ、御家族とかいてるんちゃいます？

( 教授の勤務形態について知らなかったとはいえ、もう少し堅苦しいものだと想像していただけに拍子抜けし。土曜日の予定を尋ねてしまってから、ふと相手は家族がいるのでは。だとしたら休日にわざわざ呼び出すのも気が引けると思うも、もし家族がいたとしても自分に付き合ってくれるだろうかと、少し不安気な面持ちで。)

あぁ、空いているよ。
それに、独り身だから気にする事はない。

( 土曜の予定を聞かれれば、脳裏でスケジュールを確認し、何の予定も入ってない事を思い返せば、頷きながらそう答える。
そして、わざわざ家族の心配までしてくれる相手に、なんだか逆に申し訳なさそうに独り身である事を告げると、最後のダンボールから資料や残りの書物を取り出した。)

……今でこそ、独身は珍しいものではないけど、僕ぐらいの歳となると少し恥ずかしいね。
一人も、気楽で楽しいものだけどさ。

( 自分の若かった頃といえば、結婚するなんて当たり前のような事だったし、それができない自分に劣等感さえ感じていた。今は決してそんな事はないが、結婚も出来ないような冴えないやつだと思われてしまわないか、なんだか少し情けない気持ちになる。
と言っても、結婚できなかった理由は性格などの単なる理由の他にもあるのだが、それはまだ伝えることでは無いだろうと思う。 )

あー、なんかいらん事聞いたみたいで、すいません。
…ええと思うけど、一人でも。逆に貫き通してるのかっこいいわ。

ほんなら、俺と思いっきり野球の練習したり、遊んだりもできるってことですね。ええことだらけやんか。

( 家族のことを聞いたがために、なんとも言えない雰囲気になり、情けないと言ったような相手の表情にはいらないことをきいてしまったと後悔し。しかし自分の中では独り身であることに関しては全く問題視もしておらず。むしろ独り身であるから、これからも気軽に相手を練習に誘えそうだと笑顔になり。片付けていた本も最後の1冊になり。棚へとしまえば。｢おわったー｣と一度天井へ向かい背伸びをして。)

あ、いや、そんなつもりでは無かったんだよ？
配慮してくれて、ありがとうね。キミは優しい人だ。

( 後悔したように謝罪を口にする相手へ、更に変な気を使わせてしまったと慌てて手を振りながら弁解し、此方の事情を配慮しようとしてくれた心意気に対して礼を述べる。
そして、笑顔で続けられた言葉には 「 そうだね 」と優しげに同意を示し、素直で前向きな相手の姿勢に思わず笑みが零れてしまう。)

お疲れ様。
手伝ってもらって本当に助かったよ。

( 潰したダンボールを一つの山にまとめれば、背伸びをする相手に再度笑顔を向けて改めて感謝の意を示し、これで講義の準備が進むと笑ってみせる。
一人だとどうにも退屈で苦行になってしまう片付けも、こうして誰かと会話を交わしながら行うとあっという間に感じるものだ。 )

いえいえ。
これくらいどうってことないです。

( 一通り作業が終われば、意外と早く終わってしまっただなんて少し残念な気持ちもあり。礼を言われるとにっこり笑って上記のように言い。見違えるように広々とした室内を見渡せば満足する。ふと、このままここでお別れというのも寂しいし、まだ相手と話したい気持ちもあるので思いつきでこの後の予定を尋ね。)

あ、そや、先生。
この後時間あります？

　うん、僕も特に予定はないけれど。

( 最後に、自分の服についた埃やらを手で払って落としていれば、ふと、今度は此方の予定を聞かれてそのまま素直に何も無いことを告げる。
　教授としても今日はオリエンテーションのみで、特に会議なども無く、比較的暇らしい。最初で約束していたお礼の件だろうかと思いながらも、「どうかしたのかい？ 」と絶えず柔らかな笑顔を浮かべたまま首を傾げる。)

あー…、先生さえよければ飯でも食べ行きませんか。


( そうは言ったが特に何も考えていなかったことに、情けない声を出すとふと日も少し傾き始め、夕方の空色になっていることを窓の外から知れば相手にそう尋ねて。とは言ったものの、相手が食べるものとは一体何だろう。何が好きなんだろそんなことばかり頭をぐるぐる回っていて。ちらっと相手の反応を伺えば返事を待ち。)

お、いいね。
一足早くゼミの親睦会でもしようか。2人でだけれど。

( 相手からの提案には、あまり深く考えず同意を示すように笑いかけて頷いた。丁度時間も頃合だし、何せ久しぶりの大学に緊張して、午前中はあまり食事が喉を通らなかったのだ。なんて言うと、また情けなく思われるだろうか。
ところで、ゼミの親睦会なんて言えば、少し考えて「 まだ伝えてなかったね 」と思い出したように笑顔で言葉を付け加える。)

今年度、うちのゼミ生としてよろしくね。

( どうやら、偶然にも彼はゼミ生だったらしく、学生内に顔見知りがいた事への驚きが大きく、ゼミのメンバーとして名簿にその名があったことをその場面では忘れてしまっていたようで。)

やった！
…、え？そうやったんや！すごい偶然ですね。
めっちゃ嬉しい。宜しくお願いします！

( 喜んだのもつかの間、｢ゼミの親睦会｣という言葉に、自分が相手のゼミ生の一人であることを知り目を丸くする。しかしその後、嬉しい気持ちを素直に話す。寧ろ、これが運命というやつなのか、と思ってしまう。勢いよく頭を下げ、再び挨拶をすれば顔を上げてにっこり笑い。)

ほんならどこ行きます？
せんせ、何かたべたいものある？？
( スマホを取り出すと、大学周辺の居酒屋、ラーメン屋、ファミレスなどは自分もよく利用するのだが、相手はどんなものを食べるのだろうか。独り身と言っていたが、料理はするのだろうか。などなど思いを巡らせ。)

( 勢いよく頭を下げる相手を見て 「さすが元野球部だなぁ」なんて、体育会系の挨拶に笑って感心すれば、ゼミ生であることを喜んで貰えて安心したように肩の力を抜く。
少人数を相手に行う活動においては、相性の問題もある為に教授側としても緊張するのだ。しかし、今年度は相手がいるおかげで、なんとかやっていけそうだと楽しみな気持ちが勝る。)

食べたいものかぁ…そうだなぁ。
…吉田くんは、お肉好きかい？

料理はしてても、肉をたくさん食べれるのは外食する時ぐらいだからね。

( 食べたいものを訊ねられると、腕を組んで、暫く考える。すると、咄嗟に焼肉なんかが脳裏に浮かんで、相手が嫌いではないか訊ね返した。
家ではよく料理をするので、元々外食はしない方だが、一人暮らし故に、一度にたくさん肉を買うことも無く、良い機会だと言わんばかりに提案してみる。好き嫌いも特になく、割と胃袋は若いらしい。 )

肉！いいですね！
ほんなら、大学近くの焼肉屋でもいいですか？あ、それとも先生どこか美味しいお店知ってます？

( 相手からまさか肉という言葉が出てくるとは思わなかったのか、最初は少し驚いた様子を見せるも、自分も肉は大好きなため喜んで便乗し。大学近くにも焼肉屋はあるが、学生が利用するためあまり落ち着いた店ではなく、そんな所くらいしか知らないことに悩んで。外食をあまりしなさそうな相手に聞くのも申し訳ないのだが、一応念の為聞くことにして。)