匿名さん 2022-02-27 12:39:30 |
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■レス頻度
レス頻度については私もそれでよろしいかと思います。たしかにあまりがちがちに決めてしまっても負担になりかねないですからね。主様とのPBCをできるだけ長く続けたいと思っておりますから、お互いストレスフリーで気軽に、が理想ですものね笑
■シチュエーション
素敵なご提案ありがとうございます。展開が頭に浮かぶようで、とても楽しそうですね…!
<東の魔法使いペア>
ひったくりに会って、シノがすかさず前に出る、という展開とても面白そうで、胸が躍ります!
それに振り回されてしまい、結局付き合うというネロの面倒見の良さも見どころですね。
泥棒が同じ魔法使いで、さらに、その街で指名手配されている魔法使いだと面白いかなと考えてみました。魔法使いの風当たりが強そうな街だったけれど、同じ魔法使いが悪い魔法使いを捕まえる、という展開にすることで、「魔法使いにも善良な者とそうでない者がいること」「人間と変わらないこと」を街の人に示すことができます。それで、魔法使いだとばれた後も、シノとネロは街の人に親切にされて、いいお店を教えてもらい、暖かい雰囲気で帰路につく、なんて展開も面白いか思いましたが如何でしょうか?
<オーエン&賢者ペア>
気紛れで賢者様を手伝うシチュエーションいいですね…!何より、気紛れというところがポイントな気がします。また、試作品として作ったクッキー(失敗作)をオーエンが口に入れてしまって、不機嫌になってしまうという展開も、オーエンの気分の変わりやすさを表現できるので、ありかなと思いました。静かに調理していたはずなのに、いつの間にかオーエンに振り回されて、賑やかな空間になっているというのも、場面的にもとても心が惹かれます笑
本当に素敵なご提案ありがとうございます…!
実を言うと、こちらのサイトでの成りは初めてでしたので、主様の丁寧な対応に非常に助かっております。
■レス頻度
それではレス頻度は各自自由に。ただし返事が1週間以上遅れる場合は連絡を入れる、というルールで進めて参りましょう。
■シチュエーション
< 東の魔法使いペア >
そう言っていただきとても嬉しいです!そしてシチュエーションを考えるのに夢中で人間と魔法使いの関係性にまで目がいかなかったので脱帽してしまいました。あの世界の魔法使いと人間の対立を見ていると胸が痛むことが多いので、心温まる素敵な物語を提供してくださりありがとう御座います。ちなみに細かいことではありますが盗品はただの食材や雑貨…etc、もしくは魔法使いですし人間にも影響が出るような危険な魔道具など何か考えていたりしますか?
<オーエン&賢者ペア>
オーエンの性格上、二度の失敗は許さないでしょうし晶くん命懸け( ← )のクッキングですね!…さてさて、シュチュエーションに関して他に疑問点や決めておくことなど御座いますか?もし無いようでしたら次からこの2人のペアのみ初回の絡み文をこちらから投下させていただこうかと思っております。
そうだったのですね、色々と要望ばかりで失礼が無いか不安だったのですが背後様のお言葉を聞いて救われました。私の方こそここまで相談にお付き合いくださりありがとう御座いました*/こちら返事不要です。
■レス頻度
レス頻度についてのルール承知致しました…!
■シチュエーション
<東の魔法使いペア>
いえいえ、逆に私はシチュエーションの大本を考えるのが苦手なので、とても助かっております。そういう意味で、もしかしたら主様とは相性がいいかもしれません笑
素敵なご提案をありがとうございます…!
盗品に関しましては、魔道具や魔法使いに関係するものだと、人間たち的にぴんとこないかなと考えております。人間、とくに社会人になると私たちも生活圏のとりわけ、本当に自分が興味を持つことしか気にできなくなるものだと、私は考えています。ですから、あちらの世界の人々もきっと自分の生活に関係のない(もしくは今まで関係のなかった)魔道具では、「救われた」という実感が湧きにくいのではないかと思っています。
細かい話で申し訳ありませんが、食材(人間たちの生活に直結するもの)にすれば、人間たちの喜びがより自然に感じるのではないかなと思いましたが、如何でしょうか?
以下、余談です。
また、ここからは、シノとネロの買い出しのお話が終わった後のシチュエーションになると思うのですが、指名手配(=何度も同じことを繰り返している)という点と、盗品が食材だという点から、「スラム街」「貧民街」に物語を繋げていくことができれば、ネロの盗賊団にいたという点に少なからず接点があるので、ネロ的に思うところもあって、そうでないシノとの心の対立や葛藤も描写でき、非常に面白そうだな、と考えてみました。
とはいえ、主様がご提案してくださった魔道具の窃盗についても、魔法使いだけの市場で魔道具ver.もネロ、シノともに既視感を感じながらの展開が少しギャグチックでそれぞれどのような言動で場を転がしていくのか非常に興味深いところではあります笑
<オーエン&賢者様ペア>
たしかに、仰る通りでございます笑
そういう緊迫感もあるといいかもしれません。ロルを書くうえで、留意したいですね。
特に今のところ主様にお伺いしたい事はないと思います。
もし、途中で何かお伺いしたことができた場合は、申し訳ありませんが、もしかするとPL会話を挟む場合があるかもしれません。
導入ロルをしてくださるということ、ありがとうございます。
拙いところなどあるかと思いますが、どうかよろしくお願い致します。
■シチュエーション
< 東の魔法使いペア >
確かに…自分達とは関わりのない物を盗られてもだから何だって話ですもんね。それではざっくりと纏めますと事件の元凶である魔法使いはその街で指名手配されるほど窃盗の常習犯であり、盗むものは主に食材や日用品など人間も必要とする物が多い。そのため街の人達の悩みのタネとなっていたが相手が魔法使いゆえに人間では捕まえるのが難しく、困っていたところにネロとシノがやって来る…といった感じですかね。
実はネロがあまり犯人探しに乗り気ではない理由の1つに過去の古傷を思い出すから、というのも考えていたので背後様が同じような考えを持っていらした事、とても嬉しいです。元盗賊ということに加え、(スラム街と明言はされていませんが)ネロ自身あまり治安の良くない環境で育ったということなので其方に関しても何かしら心理描写を入れていけたらと思います。
魔道具のお話もいつか出来たら良いですよね。ペアは東の魔法使いコンビでも良いですし、何ならオーエンと賢者様ペアでやってみるのも面白いかもしれませんね!
…さて、東の魔法使いペアも舞台設定が固まってきたので他に決めごと・質問等無ければそろそろ初めていきたいのですが、初回はどちらから回しましょうか?
( 文字を追っていた目を持ち上げ時計を見遣ると時刻は午後の3時を回ろうとしていた。今日の魔法舎は人が少なく、退屈を潰す玩具を捕まえられなかった為、自室で読書をしていたが飽きてしまい。本を棚に戻し部屋から出る…すると何処からか漂ってくる甘い香りに鼻腔をくすぐられて。匂いを追ってたどり着いた先はキッチンでネロ辺りが居るのかと思いきやそこにいたのは1人の人間─先日新しい賢者としてこの世界に召喚された青年だった。自分には気付いていないようで真剣な様子でレシピを見つめる横顔を見てふと口角が歪に上がる、邪魔をしてやろうと。魔法の杖を振るように青白い指先を小さく翻し──すると彼の近くにあるクッキーが皿ごと浮き上がりフワフワと空中を漂い始め )
( / オーエンの初回ロルを投下させていただきました!物語の導入ということで長めになってしまいましたが合わせていただく必要はなく、本体様の回しやすい長さ、形式で回して下さって大丈夫です。オーエンを扱うのは初めてなので拙い部分もあるかと思いますが、改めてよろしくお願い致します! / こちらレス不要です )
■シチュエーション
冗長な説明を分かりやすくまとめてくださり、ありがとうございます。
主様と同じように考えていたこと、私も嬉しく思います。
私自身も、ネロがもと盗賊団であることを知らないシノの「違和感」や「疎外感」をリアルに描写していけたらいいなと思っております…!
前置きが長くなって申し訳ありませんでした。
主様の動かすネロの心理描写や言動など、とても楽しみです。主様の作り出す繊細な空気感を壊さないように、触れて、楽しんでいけるよう、頑張りたいと思います…!
オーエンと魔道具のお話…!とてもミステリアスで、危険な香りがしますが、それゆえに引き寄せられますね。素晴らしいアイデアだと思います!恐怖も羨望も期待も恋慕も賢者様らしさを第一に表現できたら嬉しいです。
オーエンと賢者様のペアの導入ロルは主様がしてくださるというお話でしたので、東の魔法使いペアの導入ロルは僭越ながら私にお任せ頂きたいなと考えておりました。よろしいでしょうか?
■シチュエーション
私も背後様の動かされるシノが何を思ってどう動くのかとても楽しみで、ワクワクしております。またシノの自信家だったり褒められたがりだったり少年らしい一面が可愛くて大好きなので、あわよくばどこかの場面で見たいな~と勝手ながら期待してます( 笑 )
いつか魔道具のお話もどちらかのペアで出来たらいいですね!
楽しくてついつい沢山書き連ねてしまいましたが、背後様のご負担となっては心苦しいのでシチュエーションのお話は一旦ここまでとさせて頂きますね。長々と相談にお付き合いくださりありがとうございました!(こちらへのお返事は不要です*)
ではお言葉に甘えてシノとネロの初回は背後様にお任せしますね。
そしてすでにお気付きでしたら大変申し訳ないのですが、>>18にオーエンの初回ロルを投下しましたのでお時間ある際にご返信頂けましたら幸いです!
▼晶
…(昼下がり。人も動物も虫も草木も、何もかもが眠り込んでしまったような静かな午後のこと。賢者こと真木晶はキッチンで、あるレシピに向かって言葉にもならない声を出しながら、首を捻っていた。晶は数分前にできあがったクッキーを平皿から一枚口に入れると、その出来栄えに眉を寄せた。塩辛くもないが特段スイーツとして特有の甘さを持つでもなく、それはやはり、クッキーと呼ぶには些か味気なかった。晶はもう一度レシピにある材料欄に視線を移し、まじまじと見つめる。前の賢者が残していったいかにも社会人の男が書き残しそうな文字とレシピの隣に置いた砂糖の袋を、晶の視線が交互に行き交った。そこで、ふと、「砂糖」と記された文字の上に薄く消えかかった何かがあることに気が付く。よくよく目を凝らすと、その何かは確かに晶の見覚えのある文字列であり、おそらくこれが今回、クッキー作りにおいて失敗してしまった要因なのだということは、鈍い晶にも容易に理解することができた。砂糖の種類を間違えていたのだ。種類が違えば糖度も違うだろう。その事実に思わず乾いた笑いを零そうと晶の口許が僅かに緩んだその時、砂糖の入った袋とは反対に置いていた例の皿が音もなく浮き上がっていく。晶はぎょっとして、不規則に、だが、緩やかに動くそれに、手を伸ばした。)
▼シノ
…(中央の国に陽光に温められた午後の空気が流れ込む時間帯。昼食を済ませた魔法舎を出たネロとシノは、夕飯の買い出しに少し遠くの街にその足を伸ばしていた。人目につかない場所で各々、箒から降りて地面に足をつける。人々の靴音に誘われて通りへ出ると、賑やかな空気が二人を出迎えた。行き交う人々に混ざりながら、シノは、前に立つネロの後ろ姿をはぐれないように何度も確認する。精肉店の前では気丈そうな女性が人好きのする声を出して、客引きをしており、その隣に構えた八百屋では中年の女性がせっせと無くなった商品棚に新しい野菜を並べている。向かいにある魚屋では、どこか気前のよさそうな男性が、笊に入った魚を大きな葉と紙でできた包みに慣れた手つきで入れ替え、親子で買い物に来たらしい客に渡していた。どの店も雰囲気の良い賑わいを見せていた。最初にネロが入った店はそのどれでもなかったが、ここでもやはり優しそうな笑みを口許に湛えた女性が店番をしていた。シノは棚に並んでいる瓶詰の粉末を手に取ると、訝しげに瓶の表面に着いた紙を見る。「ターメリック」。シノはその隣の瓶も手に取った。「オレガノ」。料理ができないシノには何のことだかさっぱり分からなかったが、それでも、その字面が持つ雰囲気を気に入ったようで、他の棚にもべたべた触っていた。)
(/東の魔法使いペアはロルにて少々進行させてしまいましたが、もし主様がもう少し前の段階から進めていきたい場合には遠慮なさらず、仰っていただければ、修正したものをこちらでご用意致します。また、ロルが少し長くなってしまい申し訳ありません。レスは200より短くても大丈夫です。
そして、こちらからも改めて挨拶させてください。拙い部分などあるかとは思いますが、改めてよろしくお願い致します。)
[ オーエン ]
( 砂漠に落ちた一滴の雫のように、彼の負の感情にまみれた悲鳴でも聞ければ退屈に乾いたこの胸も少しは潤うかもしれない。身勝手にもそう考え期待していただけに、顔を強ばらせただけの存外あっけない反応には落胆を禁じ得ず、色違いの瞳を退屈そうに眇めて。こんなことなら背後から急に話しかけてやれば良かった、とか部屋の照明を落としてやれば良かったとか、こと嫌がらせの事となるとよく回る頭が企てた次なる計画はどこぞの盗賊の頭ではないが、クッキーの強奪。指をかわした皿は操り手の歪んだ性格を表すように相手を中点として弧を描き、挑発した後そのまま部屋の出入り口、つまりは自分の手のひらの上に静かに着地し。肌に馴染んだ冷たく滑らかな磁器の上に乗ったきつね色のクッキーは温かく、出来立てであることが伺えた。思わず瞳を弓形に溶かしつつ己の存在を示すようにカツンと1回、踵を鳴らしたのならあえてお菓子については触れず口先だけは穏やかに言葉を紡ぎ。 )
──やあ、こんにちは。甘い匂いがしたから来てみたけど賢者様だったんだ。
[ ネロ・ターナー ]
( のどかな昼下がり。今日は天気が良いので世界各国の珍しい食材が豊富に売っていると聞き、以前から気になっていた街に繰り出してみることに。買い出しの相棒は同じ東の魔法使いであるシノ、食後まったりしていた彼に声を掛けてみたら快く買い出し係を引き受けてくれたのだ。首都から離れているとはいえ交易が盛んに行われている国とあって街の人口密度は高く大変な賑わいに包まれていた。法典に縛られた東の国では滅多にお目にかかれない全方位から響く客引きと多くの人の声に気質上、やや疲弊しつつもなんとか目的の店に辿り着くことができ。買い物を済ませ店主の女性が品物を梱包してくれているのを待つ間ふと、シノの姿が無いことに気付き。そう広くはない店内だが目で探してしまうのは彼に対して少なからず情を感じているからで…と店の一角、調味料コーナーにその姿はあった。一体どの辺に魅力されたのか大きい瞳をさらに大きくして棚に張り付いている姿はおもちゃ屋さんに来た子供のようで思わず微苦笑が浮かび。「何やってんだよシノ。あんまり店のもんに触るんじゃねーぞー。」と声掛けもつい、子供を持つ親っぽくなってしまい軽く手招きし。 )
( / 絡み文ありがとうございます!特に描写したいことは無いのでオーエン&東の国ペア共々このまま続けさせて頂きますね。
背後様のご協力もあり決めたいことは一通り決められたので、とりあえず背後は一旦下がらせていただきますね。また何かありましたらいつでもお申し付けくださいませ!)
▼晶
っ、え…あっ!
( 空中に抱かれるようにしてその身を投げ出した平皿はまるで意思を持った生き物のように晶の目に映る。あまりの出来事に、言葉を忘れた晶は嗚咽のようなくぐもった音が自身の口から無意識に零れ出るのにも気が付かず、それを捕まえようと右往左往と手を動かした。しかし、変則的にのらりくらりと晶の掌を躱す平皿が唐突にその行く手を変えたものだから、必死に手を伸ばしていた晶の身体はその勢いを殺すため、体勢の維持を犠牲にすることとなった。千鳥足で二歩三歩と晶がその調子を揃えきる頃には、もう当の昔に白い皿の行方を見失っていた。あまり慣れていない動きに身体が悲鳴を上げたのか、臓器が揺れた感覚に胸を摩りながら、きょろきょろと室内を見渡す。やがて、晶は、部屋の入口に誰かが立っているのを視界の端で捉えると、それに焦点を合わせて、瞬きを数回繰り返した。さらりとした灰色の髪に左右非対称の瞳、そして何よりも造り物のように整った目鼻立ちを湛えた彼は、北の魔法使いであるオーエンその人に違いなかった。晶は驚愕をその顔に浮かべて、緊張と焦りから失った言葉を探すように乾いた唇をぱくぱくと動かしていたが、静寂を宿したキッチンに響く靴の音に触発されて、我に返る。 )
…こ、こんにちは。オーエン。
( オーエンの後に続く晶の声は明らかに混乱の色を含んでいた。言葉に乗ったその色が困惑に塗り替えられるまでの時間はそう長くはなかった。先程まで晶が必死に追いかけていた平皿がオーエンの掌の上で大人しくその身を預けていたからだ。 )
▼シノ
( 粉末状の何かが入ったガラス瓶の横で、色とりどりに陳列された液体。それらは、窓から運ばれた昼の光で嫌に眩しく感じた。そのうちの一つを手に取ると、左右にゆったりと揺れる波状がシノに重みを感じさせる。これは、油だろうか。それとも蜂蜜だろうか。或いは自分の知らない何かなのだろうか。シノはそのガラス瓶を揺らしながら、幼い頃の情景を脳裏に思い浮かべていた。赤や黄に彩られた花壇に、舗装された小道。シノの手を引く小さな煌めきが、鮮やかな春を反射して笑いかける。ああ、いつかこの人が気兼ねなく笑えるような世界になればいいのに。在りし日のあの春の思い出はシノの中で確かに息をしていた。店の奥から響く耳に慣れた声に、シノははっとして、記憶を描いたキャンバスを、或いは写真をしまうように、手に持っていた瓶を棚に戻す。名残惜しさを手つきに落としたのは無意識だった。振り返ると、呆れを含んだ苦笑いを浮かべてネロがこちらを見ていた。)
…別に。そっちはもう済んだのか。何を買ったんだ。
[ オーエン ]
…何その意外そうな顔、部屋にこもりっぱなしなのも退屈だろ。
( 魔法使いと共に壊れかけた世界を救う救世主、賢者様。崇高かつ大層な肩書きとは裏腹に強大な力を有しているわけでも無ければ屈強な戦士でも無い、彼は街の人間と大差ない脆弱な存在だ。現に今も仮初の命を吹き込まれた食器に翻弄されており、当惑しながら暇潰しに付き合わされている姿は人の不幸を蜜の味とするオーエンの目を愉しませた。やがて忙しなくあちこちを撫でていた瞳が部屋の出入り口に向けられると視線がかち合い。狐につままれたような顔をしながらもクッキー泥棒を尋問するでもなく、律儀に挨拶を返してくるところに彼の人柄が垣間見え。笑みを象っていた唇から一瞬感情が消えるがキッチンに入る頃には、より強くなったバニラエッセンスの甘くまろやかな香りに機嫌は元通りに。その場で固まっている相手を気にも留めず部屋の中央に備え付けられたテーブルまでやってくると、半分自分の物にした心持ちで平皿を置き。見た目や匂いからしてよもや失敗作だとは夢にも思わず骨張った指先で1つクッキーをつまめばとびっきりの猫撫で声で言った。 )
ねえ、賢者様。さっき読んでた本に面白い呪術が載ってたんだ、オズに掛ける前に君で試してみてもいい?それかこのクッキー全部僕にちょうだい。
[ ネロ・ターナー ]
今日の晩飯の材料とそれからほら、もうすぐ婿さんの誕生日だろ。流石に花嫁さんはプレゼント出来ねえからサヴァランでも作ろうかと思ってさ。
( ガーネットの瞳が見つめる瓶の中の物はどちらともそう珍しい物でもなく、シノの好物であるレモンパイとも関わりのないスパイス。17年の人生の一端しかまだ知らないネロが在りし日の思い出と秘められた従者の忠義心に気付くことは無い。ただ、とても大切なものを見るような優しい眼差しは見覚えがあり、世界は人で溢れていれどもシノがそのような目を向ける対象はそう多くはない。恐らく主人のことを考えていたのだろうと推測を立てれば急かすように手招いていた腕を降ろし、それからレジスターを軽く顎で指し示すことで買い出しの戦利品を教えて。代金の計算と並行して大きな紙袋のなかに今晩の晩食に出すグラタンとスープの材料、そしてケーキの盛り付けに使うフルーツが女性の手によって手際よく詰め込まれていく。服の懐から財布を取り出しつつふと調味料コーナーを一瞥すると気に入ったのかシノはまだそこに居た。思わず吹き出しそうになった笑いを抑えるように手の甲で口元を隠しつつ、 )
オレガノの方は肉料理に使うやつでターメリックは…パエリアとかターメリックライスって食ったことねえ?それに使うんだけど。
▼晶
あ、いや…最近あんまり会わないなって思ってたので、びっくりしてしまって…。
( オーエンのどこか不服そうな口ぶりに気圧されつつも、晶は一度小さく咳払いを零す。そうして、声の調子を整えてから、雨の日のタンポポのような、しおらしい苦笑を浮かべながら、そう言った。繋いだ会話に言葉を探しながら、晶の意識は、初めにオーエンをその目に射止めた時からずっと、例の平皿に固定されていた。平皿の上にあるクッキーはもれなく全て失敗作である。そのことを伝えなければいけない。問題はその後に続く。天邪鬼である彼は、晶が嫌がれば嫌がるほど、それを実行に移してしまうだろう。晶が懸念している点はそこであった。とはいえ、これ以上の策があるわけでもない。晶は早々に諦めると、言いにくそうにもごもごと上下の唇を動かす。しかし、晶が言葉を選ぶより先に、オーエンはまるで持ってきたお菓子を自慢する子供のような滑らかな手つきでクッキーを手に取って、口を開いていた。慌てた晶の口からは「あっ」なんて短い音が漏れ出たが、彼の優美な指先がその動きを止めたのを見て、束の間の安堵を胸に落とす。オーエンは西の魔法使いを思わせる色香を持ちながら、その実、彼の口から放たれる言葉は、北の魔法使い然とした恐ろしさを含んでいた。オーエンの声を聞きながら、晶は幸せな胸やけを起こした朝のような、妙な気分に胸を押される感触がした。先程の無理な動きが祟ったのだろうか。晶はつい眉間に薄い皺を寄せながら、彼の問いかけに慎重に答える。 )
あの…実はそれ、ちょっと失敗しちゃって。オーエンの口には合わないと思うんです。
▼シノ
そうか、いい案だな。
( ネロの手に下がる紙袋に視線を落とす。彼の話に耳を傾けながら、もうそんな時期かと変わりゆく時の早さに内心驚きながら、視線をネロへと戻した。水彩を落としたような柔らかな髪を揺らしながら此方の返答を待つ彼に、シノの口許から小さな笑みが零れ出る。一度頷いて、肯定を示す言葉を並べつつ、シノはオーブンの中でじりじりと焼き目がついていくサヴァランを想像した。今にも香ばしい匂いがしてきそうな光景に、思わず喉を鳴らす。ネロが別の商品棚に離れていく後ろ姿を確認して、シノはもう一度じっくりと棚に視線を滑らせた。先程見た瓶とは、また違った形態の、海藻にも似た中身や、綿菓子のような不思議な何か、それらは、まるで海水に煽られるように、あるいは、風に撫でられるように、一定した動作を繰り返しているように見える。シノが博物館の展示物でも見るかのような調子を保ちながら、一通り、商品棚を物色し終えたところで、会計を終えて戻って来たらしいネロと合流する。横から入ってきた彼の声に、シノはその身を振り向かせると、何やら様子のおかしいネロに片眉を上げた。続けざまに放たれた彼の丁寧な説明を聞きながら、シノが、「知ってる、パエリアはぱらぱらしていてすごく上手い。また食べたいな。」と大して中身のない感想を口にしようとした時だ。ガラス越しに店内に響いた道行く誰かの悲鳴がシノの耳に入る。)
…おい、なんか外が騒がしくないか?
(/ 連日返信が遅くなり、申し訳ございません。これからも、リアルの都合により、2~4日ほど返信頻度にムラがあるかとは思いますが、無言失踪は致しませんのでご安心ください。拙いロルではありますが、これからもよろしくお願い致します。こちらは、返信不要です。)
【 オーエン 】
口に合うかどうかは僕が決める。
( その身かお菓子か、どちらを投げ出しそして奪うにせよ迅速かつ無慈悲に実行に移していただろう…彼の言葉を聞くまでは。言い辛そうに失敗作であることを打ち明けられれば拍子抜けし、初めにキッチンを訪れた時に見た浮かない横顔にも何となく合点がいき。しかし、室内を包むクッキーの匂いのなんと香ばしく甘やかなことか。材料の1つであるバニラエッセンスはあくまで香り付けであり、入れても甘くならないことを知らないオーエンは香料に魅せられており。忠告はすれど一定の距離を保ったまま近付いてこない青年を冷ややかに見流した後、彼お手製のソレを勝手に口に運び。ちろっと、口内から赤く小さな舌先を覗かせ、さながら警戒心の強い野良猫のように舐めるだけに留めたのは一応、失敗作の三文字がネックとなったため。予想に反して苦味や辛味など不快な刺激が襲ってくることは無くもっとよく味見してみようと今度は半分ほど口に含み。咀嚼してすぐ、甘さは雪溶けのように直ちに消え去り夜月のように静かな旨味の余韻を残す。スイーツが苦手な者には優しい甘さなのかもしれない。ただ極度の甘党であるオーエンには物足りず、片目のみで不可解そうに食べかけのクッキーを凝視する様は推理中の探偵のよう。それからたった一言、怒りとも落胆ともつかない呆然とした声はいつもの嫌味というよりかは自然とこぼれ出た感想といった色を含んでいた。 )
…?なにこれ全然甘くない。
【 ネロ・ターナー 】
それじゃあ今度……な、何だ?
( 憮然としながらもどこか嬉しそうなシノにネロも目を柔らかく細め話に耳を傾けていた最中、突如として響いた誰かの悲鳴に意識が引っ張られる。怯えと驚愕に満ちた声は穏やかな昼下がりの空気を変え、店内に居る誰もがその表情を強ばらせていた。ネロとシノも驚いた顔を見合わせた後状況を確認すべく外に飛び出し。悲鳴の出どころはすぐ傍、向かい側の歩道にいる行商人の男性から上がったものだった。嘆声はすぐに怒号へと変わり『畜生!また“アイツ”にやられた!』と言って憎々しげに見上げた先は空。隣にはブラウンの毛色をした馬が一頭、心配そうに見えなくもない眼差しで主である行商人を見ていて。胴体に装着されたハーネスは轅を通して荷台と繋がっており商品がたくさん積まれている。しかし、視線を下に落として気が付いた。ぐしゃりと潰れた果実達、粉々に砕け散ったガラス瓶からは何かの薬と思しき液体が漏れレンガを濡らし、子供が好きそうなお菓子の缶詰めまで転がっている。見るも無残な状況から察するに強盗にあったのだろうと思いながら、気付かず軽く蹴ってしまった硬貨を拾おうと腰を落とし。売り物がだめになってしまった分せめてコレだけは届けてやらないと、そう思った時誰が放ったか。市場の喧騒に混じって確かにハッキリと聞こえたのだ、魔法使いを恨む暗く刃物のように冷たい声が。男が何故あんなにも憎らしそうに空を睨んでいたのか、痛いくらい納得すると同時に心臓が軋み息が詰まるような心地を覚え。 )
▼晶
あっ、待ってください…!
( 晶の言葉を貰ったオーエンが数秒口を閉ざしたのを見て、嫌な予感がしたが、晶は、彼が、彼の手の中にある小さなクッキーへの興味を失う未来を祈るしかなかった。しかし、無情にも、クッキーはオーエンの薄い唇に近づいていく。それは、まぎれもなく、今度こそ彼がそれを咀嚼しようとしている合図に他ならなかった。晶は先程までのヤマネコのような用心深さも忘れて、その足を動かした。いったいオーエンを何がそうさせたのだろうか。もしかすると、慎重になりすぎてしまったのが、逆によくなかったのかもしれない。晶は後悔に足を引っ張られるような感覚に陥りながら、蛇のように、あるいはミルクを舐める子猫のように、桜色の舌を伸ばす彼を見て、歩みを緩める。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、次の瞬間、晶は、目の前で、オーエンの口に包まれるように消えたクッキーの欠片を瞳に映して絶句した。た、食べた…。灰色の髪を揺らしながら、訝しげに食べかけたそれを見つめるオーエンの姿に、晶は顔色を失っていく。不機嫌な彼を想像してしまったからだ。ところが、上から落ちてきた彼の言葉には、苛立ちも失望の念も感じられないように思えた。それは、少なくとも追い詰められた鼠のように青ざめる晶が想像していた彼とは異なるものだった。 )
その…砂糖の種類を間違えてしまって、思うように甘くならなかったんです。それで、今からもう一度作ろうと思ってたところで…。
( 引っ込み思案な子供にも似た動作で、どうにも恥ずかしくなって、無意識に耳の後ろを触る。 )
▼シノ
( 道を行き交う、あるいはその身に杭を打たれたかのように立ち止まる人々に、半ば引き寄せられるような形でシノは店を飛び出した。二人が通りに顔を出すと、今までガラス越しに聞こえた人間特有の憎悪を孕んだ声がよく耳に入ってきた。シノの眉間に自然と皺が寄る。荒らされた荷馬車。足跡が付いた食べもの。憎しみを湛えた声音。それらが判断材料となってシノの頭の中でぐるぐると回り、シノに、目の前の凄惨な光景が強盗現場のそれだという事実を嫌でも理解させた。歯ぎしりをする店主の視線を追うように空を仰ぐと、フードを目深に被った男性とも女性ともつかない格好の人物が箒に跨っていた。しかし、その動きは妙に緩慢で、どこか千鳥足の老婆を彷彿とさせるものだったため、シノは目を細める。強盗犯は背中に大きな荷物を背負っているようだった。白い布で包まれたそれは、今にも突き破らんという勢いで膨れ上がっていた。いくら覚束ない飛行だとしても、魔法使いは箒に乗っている。なんにしろ、時は一刻を争う状況と見て間違いなかった。シノが早口で自身の呪文を唱えると、目の前で箒がゆらゆらとその姿を現した。そうして、シノは、名も知らない誰かが吐いた魔法使いを貶める陰口も、それを耳にして心を痛めるネロにも気が付くことがないまま、空へと舞い上がる。急激な上昇の負荷にシノの髪が下を向く。つられるようにして、俯いたシノは、水色の頭を見つけて、一言こう言い放った。 )
おいネロ!あいつを追うぞ…!
( シノはすぐに顔を上げて、眼前を行く箒に照準を合わせると、徐々にスピードを加速させる。箒が建物の角を曲がる時、風に煽られた強盗犯のフードがあっけなくその身を落としていく。強盗犯は、シノよりも幼い少年だった。少年は傷だらけの顔でシノをその瞳に映すと、大きな目をさらに大きく見開いた。まさか、箒で追われるとは思っていなかったのだろう。 )
【 オーエン 】
最悪。…レシピも読めないなんて賢者様の目は飾りなの。取ってやろうか?
( 香りと味がちぐはぐなクッキーに一見分かりづらいもののオーエンは軽いショックを受けていた。色違いの瞳は指先に釘付けだったが、失敗の原因を聞き状況が飲み込めてくるにつれて深まる眉間のしわ、幼子のように口をへの字に引き結び。しかし、一度口をつけた物を突き返すのは品がない。なら捨てる?…いや、賢者の物を奪った挙句、目の前で廃棄したと北の双子に知れてみろ、うんざりする説教が待っていることは想像に難くない。逡巡の末に反省とは程遠い自己の保身を優先とした結論に至れば残りを一気に口の中に放り込んで。儚い甘さを淡々と咀嚼しながら、オーエンがキッチンに足を踏み入れた時からその動向を追い続ける灰色がかった深紫を一瞥する。無邪気な照れ笑いを見て毒気が抜けた…なんてことは無く、自業自得の憂さ晴らしの矛先は不運にもそばにいる晶へと向けられた。物憂げに口から放たれた言の葉は毒舌でも何でもない、己の落ち度を認めない捻くれ者の子供じみた八つ当たりであり、素っ気なく顔を逸らせば近くの椅子に腰掛けて。 )
ねえ、突っ立ってないで早く新しいの作って。次はちゃんと甘くなきゃ許さない。
( 新しく作り直すと聞いても一緒に手伝う、といった考えは欠片も無く。細く長い脚を組んでは人差し指でコツコツとテーブルを叩きながら偉そうに催促を。 )
【 ネロ・ターナー 】
ばっ…ちょっと待てってシノ!
( 怒りは瞬く間に人から人へと手渡され軽い恐怖を覚える程に場は魔法使いに対しての厭悪の感情で満ち溢れている。かくいうネロも一刻も早くこの場を離れなくては、と思っているものの顔を上げられない。頭上で飛び交う罵詈雑言の嵐に飲まれかけていたその時、またしても誰かの悲鳴が聞こえた為咄嗟に空を見上げて─目を見開いた。箒に跨ったシノが居たからだ。騒めく周囲を気に留めることもなくネロに向かって真っ直ぐ放たれた声は誰よりも力強く、この混沌とした場に於いては清涼感すら感じさせた。ともすれば一陣の新風のようにあっという間に空高くへ昇っていってしまったシノ、止めようと伸ばした手はあえなく空を掴み。出来れば穏便に買い物を済ませたかったが、こうなっては正体を隠すのも馬鹿らしい。となるとやる事は一つ、硬貨を行商人に押し付けるように握らせるとネロも箒に跨り空へ。向かい風に目を眇めつつ徐々にシノと距離を詰めていくなかで先頭を飛ぶ人影も見えてきて。大荷物にどんな大男かと思えば犯人は年端もいかぬ少年で、例え盗っ人だとしても傷だらけの痩せこけた横顔は痛ましく奥歯を噛む。少年の方は追手が増えたことに焦ったようで無理にスピードを上げると、曲がり角の向こうへと姿を消して。 )
ああクソ、見失った。どこ行った?
( 後を追いかけ角を曲がるが一足遅かったようで少年の姿は無く、眼下の人混みの中にもそれらしき影はどこにも見当たらない。とはいえあの大荷物だ、どこかに隠れているのではないかと思えば「まだどこかに居る筈だ、探してみよう。」と目に付いた路地裏を指差し。 )
(呆然としたオーエンがいつもの彼に戻ったのを見て、なんだか少し安心してしまった。晶は薄い唇に苛立ちを乗せる男の言葉に、なんといえばいいのか分からず、短く謝罪の言葉を零した。そもそもの話、こちらの制止に聞く耳も持たず、クッキーを口に運んでしまったオーエンが悪いということは晶にはわかっていた。しかし同時に、北の魔法使いにそんな理屈は通用しないということも晶は身をもって知っていたのだった。男は暫し、手に持った歯形付きの焼き菓子を持て余していたが、やがてそれを放り投げるような手つきで口に入れた。彼はきっとクッキーを最後まで食べてはくれないだろうと思っていたため、驚いて目を瞬かせる。オーエンは渋々といった雰囲気だったが、それでも晶の小さな胸の内を温めるのには十分な出来事だった。それから、不機嫌な男はキッチンに備え付けられた木製の椅子にその身を預けると、これまた晶が面食らうような言葉を淡々と吐き出すのだった。晶は1秒か2秒、身を固まらせて、だらしなく口を開けていたが、間もなくその口から小さく言葉が紡がれることになる。)
―――わ、かりました。新しいのですね。
(口調こそ小骨がつっかえたようなたどたどしさを含んでいたが、先程とは打って変わって、晶の声音には明らかに積極性が感じられるだろう。晶は目の前で、自分の作るお菓子を待ってこちらを見ているオーエンという魔法使いがどこか愛しく感じた。それは、晶の目には、その姿がまるで、おやつをねだる猫のようにも映ったからかもしれなかった。)
▼シノ
っ…!
(シノの後ろにネロの気配が着いたとき、眼前で身体の震えをスピードに変えるように箒で風を切る少年は建物の影になった瞬間、たちまちその姿を消してしまった。曲がり角の死角を利用して雲隠れしたのだろう。シノはまだ脳裏に焼き付いたばかりの少年の顔を思い出していた。傷だらけの顔に薄汚れたフード。よく見なかったが、盗品を包んでいたシーツのような布も黄ばんで、とても衛生的とはいえないような見た目をしていたような気がする。思い起こされた記憶に予想を重ねて、嫌な予感がしたシノだったが、中央の国で手柄を立てることに専念したいシノにとってそれは、言ってしまえば邪魔な要素でしかなかった。かと言って、そうであったなら、事態は盗人を懲らしめて終わりとはいかなくなるのではないか。シノはそこまで考えた末、一旦とめどない思考の湖に蓋をして、何かに向けて指をさしているネロに視線を向ける。彼の指は、石造りの素朴な建物の間から伸びているどこか寂れた階段の入口の方向を示していた。おそらく、路地裏の、しかもあまり治安のよくないエリアのそれを感じ取ったシノは眉根を寄せて、静かに肯定の言葉を漏らした。それはほとんど相槌のような些か素っ気ないものだったが、確かな意思がくみ取れるだろう。)
―――やっぱりか。おいネロ、この辺りは貧民街だ。さっきのやつも…。
(砂の被った古びた階段を二人で降りていくと、目の前に広がったのは賑やかな通りでも、素朴な住宅街でもなく、荒廃したお粗末な建物と人間だった。道の端に何かを敷いて微動だにしない者、遮るもののない窓から小さな顔を出してこちらを窺うように見つめる痩せた子供、屋台が骨組みだけ残ったような建物の下で何かを焼いている小汚い男。していることは違えど、皆一様にその目はどこか虚ろに虚空を向いているような違和感を覚えた。ああ、住む世界が違うのだとシノは肌で直感した。)
【 オーエン 】
ふふ、やった。とれたての内臓を裏ごしして、どろどろに煮詰めたような甘い瓶取ってくる。
( ポカンと無防備に固まっているニンゲンを見上げる両眼はあいも変わらず冷めており、言外で要求を拒否することは許さないと顕著に告げていた。寸秒して晶の石化が解けると、雨雲の切れ目から晴れ間が差し込むように真一文字だったオーエンの口元が嬉しそうに弧を描いて。ニッコリと、ともすれば月の傷痕を彷彿とさせる毒気のない笑み。甘いもの一つで手の平を返す様は案外くみし易いと取るか、はたまた移ろいやすい魔法使いの性と取るか。とにかく好物は気難しい魔法使いの警戒心をほんの少しだけ解き。近所の野良猫でも見守るような温かい眼差しに気付くこと無く、晶の傍から離れれば冷蔵庫の扉を開けて。キッチンの主たる人物の性格がよく反映された整理が行き届いたそこを台無しにするような手つきで中を探り取り出したのはジャムの瓶。苺やりんご、ブルーベリーにマーマレード…片っ端から取り出したものを円状に並べていきテーブルはちょっとしたジャムパーティと化していた。小窓から差し込み瓶を照らす淡い光はジャムの透き通った色合いを引き立てて、より美味しそうに見える。オーエンは満足げに目を細めた後、再び賢者のほうヘ視線を戻して言った。 )
ジャム入れていいでしょ?砂糖もたっぷり入れたらきっと凄く甘くなって美味しくなる。すっきりした味の紅茶と一緒に食べたいな。
【 ネロ・ターナー 】
…だろうな。皆が皆、魔法使いってわけじゃなさそうだけど用心して進もう。
( 箒から降り薄暗い路地裏を抜けるとそこには市場にあった華やかな活気や贅とはまるで無縁の寂れ果てた住宅地が広がっていた。閑散と言えば聞こえがいいが、頭上に広がる晴天なんてお構いなしに辺り一帯にはどんよりとした陰鬱な空気が蟠を巻いて滞留している。整備されていないガタガタの道を進みながら、少年を捕まえた後のことを考える。盗った物はちゃんと返さなくてはいけないとしてもあの痛ましい横顔を思い出すとどうしても胸が痛んで何か出来ることは無いのか──と、シノも彼のことを考えていたようで途切れた声にネロは弱ったように失笑を返して。答えの出ない自問を一度打ち切り少年を探すべく周囲に目を配り。身なりの整った二人組は良くも悪くも目を惹くようで、よそ者に向ける視線は人によって様々。大半は好奇心や警戒といったものが殆どだが、中には建物などの影に隠れて金目の物はないか品定めするような眼差しもチラホラ散見される。ミイラ取りがミイラになる展開は避けたい為、シノに軽く注意喚起すると持っていた荷物を抱え直し。)
教えてくれるか分からないけどさ、とりあえず犯人のこと色々聞いてみようぜ。
( 進もうと言ったものの闇雲にうろついても仕方がない。市場街では至るところに貼ってあった犯人の手配書を見掛けないこと懸念点とはいえ、一部から向けられる敵意のない眼差しにネロは一縷の望みを賭けることに。記憶を頼りに魔法で瞬時に手配書を複製してみせればシノの前に差し出して。 )
▼晶
( 事も無げに、あるいは嬉しそうに、男の口から穏やかではない言葉が選ばれた。晶は、オーエンのそんな口ぶりには幾分か慣れていたし、少なくとも、ここに初めて訪れた頃よりは遥かにましに返答できるようになっていたので、それはあまり驚くところではなかったが、甘味という魅力はこのとっつきにくい魔法使いの雰囲気をどこか柔らかくしてくれたようだった。内臓という単語に一瞬パテのようなペースト状の液体を想像したが、晶はそんなわけがないと、すぐにそれを振り払って、彼が指しているのはおそらくジャムのことだろうと思い直す。オーエンが冷蔵庫の中を物色しながらぞんざいに瓶詰されたジャムを取り出していくのを見て、晶の口から自然と「あんまりぐちゃぐちゃにするとネロに怒られちゃいますよ」という言葉が出たが、聞いているのか、聞いていないのか、銀糸の後ろ姿に反応は見られなかった。諦めるように短く息をついた晶は、キッチンの作業台に置かれたメモ用紙にもう一度目を通した。今度はもううっかり間違えないように。やがて、作業台の上には宝石のような色合いを宿した美しい瓶たちが居並んだ。晶は最後の瓶詰を冷蔵庫から取り出してくるオーエンを見て、いつもこの場所を上手く使っているのだろうネロという魔法使いに心の中で謝罪をした。嬉々として宝石たちを見つめるオーエンを微笑ましいものを見るような気分で眺めていた晶だったが、その時、橙の採光が男の顔を照らし―――。晶は時が止まったかのような感覚に陥る。そこには列をなした宝石とは比較にもならない、名状に尽くしがたい光景があった。わざとらしく言葉で表現しようとするならば、それはまるで、気の遠くなるような長い年月を与えられながら陽光を浴びて山吹色に輝く琥珀のような、あるいは晶がいつの日か海岸で見た日が沈む前の滲む太陽に、ぐっと赤の色彩を閉じ込めて清水で洗ったような、そんな景色だった。晶はそれが、今までその目で見てきたどんなものよりも綺麗だと思ったし、実際そうだろうとも感じた。不意にこちらに視線をやったオーエンと目がかち合って、その面映ゆさに目を逸らす。再びメモ用紙を視界に写しながら、晶はすぐに口を開いた。晶はこの時、早鐘を鳴らす胸にそれどころではなかったのだが、努めて自然な風を装いながら言葉を選んだ。もしかするとその様は、若干言葉の回りが早くなって不自然であったかもしれないし、顔のどこかが赤くなっていたかもしれなかった。 )
―――そうですね。真ん中にジャムをいれたらきっと見た目もよくて素敵だと思います。あれなら普通のクッキーと作り方は変わらなかったはずなので、多分俺でもちゃんと作れると思います。
▼シノ
(シノが慎重に放った一言に対して、同じようにしっかりとした重さをもって返された肯定にはさすものシノも沈黙を禁じえなかった。それは、2人を囲む雰囲気がそうさせたのかもしれなかったが、少なくとも何かに怯えたわけではなかった。シノはただ、眼前を行くこのネロという魔法使いにここでの方針を任せることにしたのだ。そうした方がいいのだろうという形のない直感染みたものがシノの中にはあったからだ。前方で行動を促されて、シノは短く「ああ、わかった」と肯定を示す。いつに建てられたのかもう随分とボロボロになってしまった建物を見上げながら、シノは頼りになる奴だなと素直に思ったが、その反面、胸の中にわだかまった小さな闘争心に息を吐く。それは、格闘家が気合を入れるときのような、あるいは森の動物が叢の中から獲物に視線を見据えるときのようなそれだった。ネロの懸命な判断に従い、今歩いている近辺を見渡して、なるべくこちらの質問に誠意をもって答えてくれそうな、それでいて悪意のある要求をしてこないだろう相手を探した。ふと、些か離れた建物の影から視線を感じて振り向くと、そこには年嵩の老婆が佇んでいた。老婆はシノと視線が合うとわざわざシノの前まで足を動かして「あんまり若いもんがこんなとこに来るもんじゃないよ」と窘めた。箒から降りたところを見ていないのか、それとも見て見ぬふりをしてくれたのか、シノにはよく分からなかったが、兎にも角にも、この老婆から悪意のようなものは感じられなかったため、早速この人物に少し尋ねてみることにした。 )
――おい、ここに魔法使いがいるだろ。小さい奴だ。知らないか?
( それはあまりにも露骨な聴取の仕方だった。それこそ、少し頭を回せば2人が何をしに来たのか疑われてしまうのではないかというほどに。しかし、シノはそんなことは気にも留めなかった。最終的に目的が達成されれば別にどこも問題はないだろうと考えていたからだったが、シノは幾つかの可能性についてあまりよく考えてはいなかった。 )
【 オーエン 】
──…は?
( 初めから甘い物が目当てだったオーエンにとって目の前のニンゲンは目的を果たす為の都合の良い駒あるいはクッキーのオマケにくっついてきたおもちゃという認識だった。そのために晶がどんな反応をしようが何を言おうが気分を害されない限りはあまり彼の様子は気にならなかったし、そもそも気にしようとも思わなかった。しかし今はどうだろう。視線が合わさった途端、カッと瞳をめいっぱい見開き逃げるように素早く俯いた賢者の不自然な挙動を怪しく思い微かに眉間を寄せて。最初にキッチンに足を踏み入れた時はそこまで驚かなかったくせに意図しない場面で驚かれて…いや、驚く、と言うのも何かが違うと勘が告げている。だからといって他にしっくり当てはまる表現なぞ知らない。上手く言語化出来ないもどかしさを感じていたが、柔らかそうな髪の隙間から見えた彼の耳が薄紅に色付いていることに気付いた時、その答えを得る事となった。それと同時に思いもよらない反応に少しばかり頭が混乱してしまい呆然として溢れ落ちた声が早口と重なる。…何でコイツ、照れてるの。何か羞恥心を煽ってやった訳でもなし今の会話にしたって照れる要素なんて何一つとしてない、少なくともオーエンには心当たりが無かった。綺麗だと思われていることなんて知るよしもないオーエンは、糸で縫いつけられたかのようにレシピを見たまま顔を上げない晶のことを奇妙なものを見るような眼差しで見ていて。ただ、目が合ったことから彼に見られていたことは何となく分かりその理由を突き止めるべく少しの間思考の海に浸り。 )
…賢者様もこの目が欲しいの。ふふ、あげない。
( 青白い肌に色素の抜けた髪、薄くて血色の悪い唇…時に死人に喩えられるほど魔法使いのなかでも浮世離れした容貌をしているオーエンだが、そのなかでも特に人目を惹きつけるパーツはやはりこのオッドアイ、ではないだろうか。それも先天性のものではなく片方は他人から奪った目玉となれば尚更に。きっと彼はこの色違いの目に興味を惹かれたのだろう、とオーエンなりに結論付ければ顔の左半分を手で覆い琥珀を隠して。あの騎士本人も彼の能天気な性格を表したかのような明るい金眼も嫌いだが、奪ったからにはそう簡単に他人にくれてやるつもりも、ましてや本当の持ち主に返してやる気だって微塵もない。歪んだ形ではあるものの左目に少なからず価値を見出していることが言動の節々から感じ取れるだろう。もっとも指摘したところでオーエンは絶対に認めないだろうが。 )
【 ネロ・ターナー 】
( 逃げる盗っ人を捕まえようと誰よりも真っ先に飛び出していったシノだ。反対されることは恐らくないと感じていたが、力強く即答されると喜びが心中を満たす。事件の解決は当然として少年も助けたいネロと純粋に功績が目当てのシノ、両者の間にある決定的な考えの食い違いにはいまだ気付かないまま、聞き込みをすべく左右を見渡し。600年という長い人生の大半を正体がばれぬよう、人目をうかがいながら生きてきた為に直感的にアイツは駄目、こいつもきっと教えちゃくれないと道行く人々をふるいに掛けていた最中、誰かに引き止められる。多少驚きながらもふっとかかった声の方角に振り向いてみるとシワが刻まれた優しそうな垂れ目が印象的な老婆が立っていた。外見的な特徴を差し引いたとしても余所者の身を案じてくれるところに世話好きな気配がする、お世辞にも治安が良いといえない街だが彼女は信頼に値する人物と見てよさそうだ。早速少年のことを聞こうと口を開きかけて、ネロよりも先にシノが切り込んだ。ある意味口数の多くない彼らしいといえばらしいのか。とはいえ、人を探すには情報量が少ない説明に「さすがに大雑把過ぎねえ…?」と思わず隣からツッコミを入れて。現に老婆もシノの説明を聞いてピンとくるものは無かったようで難しそうに小首を捻っており、その様子にネロはどうしたものかね、と人差し指の先で頬をかき。 )
あー……今この辺を賑わせてる泥棒がいるだろ?俺達そいつに物を盗られちまって探してるんだ、アンタ居場所知らねぇか。
( ネロは考えた、いくら悪意はないとはいえ馬鹿正直に目的を打ち明けて警戒されないとは限らない、ならば盗人に襲われた哀れな被害者を装うのはどうだろう。親切な彼女の善意に漬け込むのは些か心苦しいが背に腹はかえられない。舌に乗せる直前まで己の行いを悩んでいたばかりに言葉の出始めが若干ぎこちなくなってしまうが、手配書片手にシノの説明に付け加える形で詳細な事情を話して。予想通り老婆の眉間のしわが少しだけ和らいだのを見て「大切な物なんだよ、手元に戻ってくるなら金払ったって惜しくない。」と畳み掛けるネロの表情は愁いを帯びており。もっとも事の真相を知っている者の目に息を吐くように嘘を並び立てるネロはどう映っているのか…良心の呵責と嘘がバレないか不安で気にする余裕など無い。 )
(/ こんばんは。突然申し訳ないです。リアルが本格的に忙しくなってきてしまって、今後について少しお話したいです。今のところロル打ちの時間が取れず、1週間に一回が限界になってきてしまっているので、希望としましては期間を延長し、きりのいいところまでで今回はお暇させて頂きたいと考えております。こちらの勝手な都合で本当に申し訳ございません。主様のご都合の方もお伺いしたいので、お時間があるときにでもお返事を頂ければ幸いです。)
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