三丁目のミケネコさん 2022-02-21 22:59:24 |
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「うーん、確かに教員が生徒たちに付き添っていれば完璧に安全と言わなくても、多少は大丈夫そうだからねぇ.....ありそう!無闇には突っ込まないよォー、死んだら元も子もないからねぇ!」
(感知魔法か、確かに有り得ない話じゃないな。)
無謀に突っ込むなんてバカな真似はしない、それで命を失うなんてもう笑うしか出来ない救えないバカだ。それに、僕が死んだらシャーロットはどうなる。まだ5歳だぞ?今でもシャーロットが可愛いからって、孤児院のクソガキ共に泣かされてる可能性だってあるし、もしかしたら病気にかかってるかもしれないし、事故に遭ってたりするかもしれないし!僕はまだ死んでは行けない、もし入るなら、誰か共犯になってくれそうな子を探して、連れていくとかした方が良いかもな。1人よりもう2人だ、万が一見つかって怒られたら罪なすり付けれるしな。
「僕、小難しい事よくわかんないからさぁ....なんか変なこと言って機嫌損ねさせた事すら偶に気づかないんだァ。とりあえず土下座してそれで許してくれたら万々歳って感じかな!まぁ、みんなハッピーお気楽に行けるいい方法あればいいんだけどねぇー!」
平穏に過ごす為ならなんだってしないと行けない、シャーロットの為に、僕自身の為にも。宙に浮くのは箒に乗ってる時だけで十分だ。首に紐をくくって宙ぶらりんしてあの世へサヨウナラ...とかもたまったものじゃない。母さんもそれを望まないだろう。
「ねねっ!...あれってさ!もしかして組み分け帽子?ほらあそこ!なんか帽子が動いてる!」
僕は校長の挨拶を長々と聞かされて少し退屈していたころに、ふと副校長らしき人が帽子を持ってるのを見て、帽子を指さし、エリオットくんに耳打ちをして
「なんであれ交渉術なんだから、オレは咎める気はないぞ。そうだな、みんな頭が花畑だったならば間違いなく今よりは平和だろうな。それもそれで地獄だが」
謙遜なのかどうなのかわからないが、セシルはどうやらプライドには重きを置いていないらしいということが窺えた。プライドは諸刃の剣、時にはない方がずっと優位な状況を齎すこともある。自尊心の高さ故に破滅を招くのは悪徳貴族にとっての恒例行事だからだ。なるほど、とむしろ学ばされたとすら感じる。
「ん、ああそうだ。アレの一存で寮が決まる。組み分けに長考することもあるらしいが、オレは奴がなにを基準に分けているかの明確な線引きは知らん」
背筋を伸ばして真剣に校長の話を聞いている体を装ってはいるもののほとんど右から左へ受け流していたところにセシルがこそっと話しかけてくる。露骨ではない程度に彼の方へと身体を傾けて話しやすくすると、ぼそぼそと答えて。素質を見ているだの、理念を重視しているだの、色々と囁かれてはいるが真実は謎のところだ。
「それで、あれを脅してみるのか?副校長が持っているから難易度は高いぞ?たまに思考を暴露されている奴がいるから対話は可能だが」
やがて校長の話が終わり、組み分けに移る段階。にわかにざわついてきた群衆の中で、左の口端を吊り上げるとからかい気味に先程の話を蒸し返して。己が呼ばれるまでの暇潰し、年相応な雑談に興じるのも悪くはない。なんにせよこれでセシルとは話すのが最後になる可能性も全くゼロではないのだから。
たまに帽子が迷うこともあるが、どの子供もほとんどサクサクと呼ばれては振り分けられ、その度に寮生からは拍手が送られている。こうして見ていて思うが、スリザリンに行く子供は他の三つの寮と比べても少ないように見える。勇敢なのかなんなのか、自分が入りたい寮を念じては帽子にそれを見透かされ、わざわざ声を大にしてなにを考えているのか暴露されている子供もいた。そしてそういう者にはどっと湧くような笑いが向けられている。次第に組み分けされていない生徒数は減っていき、そろそろ順番が来るだろうかと髪を撫で付けて。
僕はエリオットくんの方に聞きやすくなるよう体を傾け、
「あ、やっぱり?そうだねぇ...人間性と生まれ持った才能...とか?でもそんな魔法ってあるのかな...頭の中を覗く魔法ならあっても性格を見る魔法て...あったらなんか怖くない?」
(どんなに魔法が便利で種類豊富と言っても、万能の筈がない。もし万能だったら、世界の秩序が乱れてしまうし、もう人は神に等しい存在になるだろう。流石に人間性を見極めるほどの魔法ってないのでは...?いやでもレジリメンスがあるんだから、おかしくないか?)
はっきり言って可能性がゼロという訳では無い、だからこそ怖い。もし本当にそんな魔法があったり、使える人が危ない人なら悪用されかねない。
「うーん、どうしよっかなぁ...脅迫罪でアズカバンか普通の牢屋に送られたりしそうだし...いや厳重注意で許されるか..。どうだろ..でも絶対先人いるよね...こんな面白い事だもん..そういう人達ってどうなってるんだろ...」
からかい気味に僕に先程の話題を振り返してきた彼に、僕は悶々と考え悩みつつも実は案外ワクワクしている。初日から目立つのは案外避けたいところだ、だが好奇心というものはやはり悪魔よりタチが悪い。絶対、やったことある肝が据わってる先人はいるはずだ、どうにか探し出して話を聞きたいところだけど、今この状況は無理に等しいだろう。
(やっぱり僕がやらないとわからないんじゃない?やってみよっかな!!流石に厳重注意ぐらいで済むでしょ!無謀だって言われても仕方ない、だけど人生って偶に無謀に突っ走った方が後悔って無いだろ?やらない後悔より、やって後悔した方がずっといい!)
そうこう考えて居るうちに、もうそろそろ自分達の番だ。これで、エリオットくんとお別れをする事はありえなく無い。
(なんだか別れが惜しいけど、なってしまったら仕方ないだろうな)
そう自分の中で割り切って心の準備を整えた。
サクサクと4つの寮に振り分けられる生徒たち、何を思ってか、生徒の心の声を大音量で暴露する帽子は中々にコミカルな部分があるとみた、若しくは普通に性格が悪いかだ。先程寮が決まった男子生徒だって、『ほう!手洗いに行きたいのか!手洗いは広間を出て曲がって右だ!因みに寮はハッフルパフな!』だなんて、デリケートな事を大音量で暴露されてた挙句に、まるで寮決めはオマケの様に言われてた。顔真っ赤になって広間から出ていったのが見えて何とも哀れだと思った。その生徒にとって中々の黒歴史となっただろうな...
あと一人でエリオットくんの番だ、僕はぐいっと袖を引っ張って、
「同じの寮でも違っても、お互い頑張ろうね!」
にかっと笑っては、応援のエールを送って
「新しい呪文を生み出すことは不可能じゃない、知れ渡っていないだけの呪文もいくつもあるだろうな。開心術、あるいはその延長線の魔法をあの帽子は使っているのだと考えるのが妥当だが」
強制的に相手の心から思念や感情等を読み取る魔法、一般的な授業で習うことはないらしいその魔法に対抗できるのは対となる閉心術のみらしい。特異性のある帽子だからといって、全く未知の力をもっている訳では無いだろう。とするならばやはり一番近しいのは心を覗くということか。
「まぁ最悪退学で済むだろう、……とはいえ、帽子が嬉々として喋りそうだから晒し者になりたくなかったら控えた方がいいな。晒されたあいつの持ちネタも決まったようだしな」
脅したとしても意外と寛大な処分が待ち受けているのかもしれない、帽子が全校生徒に思考をばら撒くという私刑を下してきそうではあるが。とはいえ、"あいつ"ことお手洗いに駆けていったあの生徒を見るに、悪気なくバラしてくるタチなのだろう。困ったことにより性質が悪い。
「ああ、君が来るのを期待半分に楽しみにしておくよ」
袖を引かれれば、ふっと微笑を浮かべる。そして呼ばれれば、背筋を伸ばして壇上へと向かい。セントリックの名を聞いて、ごく一部の席が微かにざわめいたが、横目で一瞥するのみに留めて椅子へと腰掛ける。すぐに乗せられた帽子は、意外なことに唸って。
『ほぉ……、君は随分と複雑なようだ。偉大になれる素質も十分に持っているが、頭の良さも捨ておくには惜しい。限定的だが勇敢な面も持っているね、そして他を他と認める寛容さも見える。どの寮にも相応しい精神を持っているじゃないか』
(驚いたな、スリザリン一択だと思っていたが)
帽子の評価はオレにとっては寝耳に水だった。即決スリザリンかと思えば、まさか迷われることがあるなんて。と思っていれば、考えが読まれたらしく帽子がオレに話しかけてくる。
『なるほどなるほど、どの寮だって君はいい刺激を受けて育まれるだろう。だがスリザリンを希望しているのだな。ふむ、ではスリザリン!』
高らかに宣言されて、スリザリンからは拍手で迎えられる。スリザリンのテーブルに赴きながら、次に呼ばれるのであろうセシルにちらりと視線をやって、アイコンタクトを。
「確かにねー....やっぱりやっちゃおっかな!やらない後悔よりやる後悔よ。もしかしたら、先人が居なかったりしたら、入学後になんでやらなかったのかって後悔するし!........退学になったら、とりあえず入れ直して貰えるように謝って土下座するか!まぁ...あの子に関してはほんと気の毒だよねぇ...変なあだ名とかつけられそー...」
(確か、孤児院の去り際にライターを持っていたはず。それだけでは弱いか?傷口消毒用のエタノールなら、確かトランクに入ってたな、それをポケットに隠しておこう。)
僕はエリオットくんに向けて苦笑し、脅す気満々で作戦を企て、トランクの中にあるエタノールの小瓶をコートに、周りからバレないように忍ばせた。
エリオットくんは呼ばれ、周りはざわついた。まぁ名家な貴族出身って事だし、仕方ないだろうな。彼は椅子に座り、帽子が乗せられれば、唸り出した。どうやら、エリオットくんは思っていたより出生だけじゃなく、才能にも恵まれた人間だ。
(絵に描いたような神とやらに恵まれた人間だな)
組み分け帽子の言葉に僕は更にエリオットくんに興味を引き立てた。この少年は近い将来、なにか周りに大きな影響を齎しそうだなと直感で感じた。
(英雄になったりするんじゃない?まぁ、彼が何をしても、僕には関係ないか。)
のうのうとエリオットくんが英雄になったリした姿を想像して居たら、どうやらエリオットくんの組み分けはもう終わって、次は僕の番だ。彼は僕にアイコンタクトをし、僕もにっと自信に満ちた笑顔を向け返し、前に出た。大衆に向けている椅子に腰掛け、帽子を載せられた。
『ほう.....?私を脅すつもりかね!』
まだ何も言っていないし、考えていない僕は、帽子に脅すことを暴露されてしまった。だがまぁ想定内だ。あんなに面白い帽子が、こんな突飛な考えを持つ生徒の思考を周りに暴かない訳ないだろう?もし僕が帽子の立場なら、僕もそうするであろう。周囲がざわつき始め、教員一同は僕に警戒の目を向けだした。僕は瞬時にコートの中からエタノールを取り出し、器用に蓋を開ければ自分ごと帽子にエタノールを被せた。帽子は僕の頭から離れ、僕は椅子から立ち上がる。ぽたぽたと、頬に滴るエタノール、噎せ返る様なアルコールの匂いにも構わず僕は
「おっと...!手が滑っちゃった!」
てへっ!やっちゃいました!と言わんばかりにからからと笑う。教員のひとりは杖を持ち、僕に術を掛けて押さえようとするのを見えたが、別の教員に停められているのが見えた。まぁ押さえつけられてもおかしくない。何せもう盛大にやらかしてる自覚はあるし、いつ追い出されてもおかしくない。
「やだなぁ~?脅しじゃないんだよぉ~、『お願い』をするつもりなんだァー!」
『....ふむ。そのお願いとやらは、聞かないとライターで、燃やされると言う事かね?それだと君も巻き込んでしまうよ?』
僕はライターの事を出されてから、それを取り出し、カチカチと鳴らしながら火をつけたり消したりして遊び
「あ、これの事?これはねぇー、寮のロウソクに火をつける為に持ってきたんだァ!ほら見てよ。中々に綺麗でしょ?包装が。」
とライターを帽子に近づけた瞬間
「エクスペリアームス!!!!」
と先程から僕に杖を向けてた教師が呪文を叫び、ライターを吹き飛ばした。幸いな事に、火は付けてない状況だ。
「っ!!.....危ないなぁー。一歩間違えてたら、大火事になってましたよ、せんせぇ」
僕は先程の教師に目は笑わず、口角だけ上げて、ライターも拾わずにそう言った。周囲が段々と緊迫した空気になっているのがわかる。だが初めてしまったものなのだから、最後までケジメはつけないと行けなくて、続けて帽子に問う
「んーとねぇ、僕はスリザリンに入りたいんだよねぇー。さっきさぁ、初めてできたばっかのおトモダチがスリザリンに入ってったからさ。僕もスリザリンに入れてくれない?」
『...ふむ...そんな無謀な事をしてまで、そのお友達.....とやらと一緒に居たいのかね?最悪の場合、スリザリン所か退学になってしまうよ?そんなリスクを負ってまで、一緒に居たいのかね?』
「だからァー、脅しじゃないって!お願いだよ、お願い!...ねぇ?」
(もう何となく冗談にしては度が過ぎてきたのは感じるし、ここからは色んな可能性が出て来るだろうな。たまに予測できないやつが来るかもだけど、その時はなる様になるだろ!教員に押さえつけられて退学か、脅されてスリザリンに入れてくれるか、若しくは怒らせて別の寮に入れられるか....)
僕は可能性を予測していると、帽子は少し間を開けてから、重い口を開きこう言った
『...その狡猾な思考、巧みな話術、如何なる事でも手段を選ばず目的を達成させる精神。君こそスリザリンに相応しい!良かろう!スリザリン!!!』
どうやら何とか無事スリザリンに入れてくれるらしい、僕はパァっと嬉々として
「やったぁー!ありがとう、愛らしい帽子さん!」
礼を述べ、ベルトに掛けてあるワンドケースから杖を取り出した。教員側がまたザワっとしたのを見たが
「あぁ、大丈夫!別に燃やさないよ?レベルテ!...元に戻すだけだよ!ずっとエタノールの付いた帽子さんも可哀想だけど、後ろの子達にもエタノールがついちゃうとかも、可哀想でしょ?折角の人生に一度の、ホグワーツでの入学式なんだから!」
ケラケラと笑っては予習で学んだレベルテを使い、エタノールのついてない元の状態に戻してから、スタスタとエリオットくんの後ろに戻って行った。全員拍手を忘れて『狂ってやがる』だのなんだの、良い評判では無い事をほざいて居るみたいだが、まぁ僕自身は面白いの体験できたから全て良し!これで目をつけられてもおかしくないが、まぁ、その時はその時だ。僕はエリオットくんに
「いやー、なんかちょっとやりすぎた気がするけど、これで何とか同じ寮に入れるね!これから宜しくね!」
と背中をポンっと叩いてそう言い
「マジかッ…!?」
やけににこにこと良い笑みを向けてきたかと思えば、帽子に行った行動に驚愕が口から飛び出して。周りもざわめいていたのでオレが浮くことはなく、むしろ当たり前の感想として処理される。まさか本気で脅したりするとは思っておらず、腕を組んで静かに成行きを見届けるつもりだったオレの優雅な計画は瞬く間に水の泡となり、目を見開きあんぐりと口を開けて。
(ライターって、確かマグルの利器だったか?火をつける道具だと聞いたことがあるが、いやなら被っている液体は引火性のものか!?自殺行為だろ!?)
魔法界ではあまりメジャーではない文明の利器、魔法道具に似た形状のものはあるが、そちらではなくマグル御用達の道具だろう。帽子のみならず彼まで引火性の液体を被っては、帽子の言う通りセシルも巻き込まれる。万が一があっても教員がなんとかするとは思うが、ヒヤヒヤとした心地でローブの内側に偲ばせている杖を握り、いつでもアグアメンティを唱えられるように準備をして。結果的にそれは杞憂に終わったものの、本当にあんな破天荒な方法を実行してまでスリザリンに来るとは思わなかった。
(トモダチって、なんでそこまでしてオレと…?オレの家柄を何かしらに利用したいってだけの理由じゃ、被った損に対してのメリットが少なすぎる。まさか、本当にオレと友達になりたいと……?)
あれではオレ以外の有力貴族に対しても爆発的な悪評を植え付けてしまう可能性が高い、例外は別だがまず遠巻きに見られるだろう。となれば、権力や名声に肖りたいという可能性はゼロにはならないものの極端に低くなる。あんなものを持ち込んで実行している時点でバカではないのだから、セシルとて分かってやっているのだろうし。となれば、友達になりたいがために…?
(いやいや、ぶっ飛んだ奴の考えることはわからん。突発的な好奇心100パーセントの行動なのかもしれないし、オレが組み分けされる前も異様に乗り気だったからな。だが、オレと同じ寮になりたいという動機もあったら、……少し嬉しいかもしれないな)
衝動よりも理論を重視しがちなオレにとっては、セシルの行動にも筋が通るなんらかの理屈があって然るべきだと思っている。だからそうでない者の思考を理解することは難しいし、セシルはそういう方向性の人間なのかもしれない。天才と狂人は紙一重とはよく言ったものだ、退学させられることもなく無事にスリザリンへと分けられたセシルはまさに天才の方へに転んだというもの。その行動に、少しでもオレと友達になりたかったという理由が入り込む余地があってほしいと思ったのは、オレ自身がセシルという人間と友達になってみたいと思ったからだろうか。
「はは、まさかそこまでするとは思わなかったがな。よろしくセシル」
ほとんどブーイングに近い言葉を浴びながらオレの元へと来たセシルに笑って見せれば、周りの目がギョッとしたようにオレに集まった。言葉にされずとも、お前がセシルの友達か!とドン引かれているのがわかる。これではオレ共々、寮生そして教員に目を付けられる監視生活の幕開けが確定してしまうので、すくっと立ち上がると先制攻撃を。
「どうなるかと思ったが、無事スリザリンに来てくれて良かったよ!」
わざとらしく、よく聞こえるように声を張り上げてセシルへと語りかける。彼の背中に腕を回して背中に手を添えることで、オレが彼の友達なのだと他の寮生にもわかるように気を配りつつさらに空いた手をオレ自身の胸の前へと当てて、気取りを倍増しにして注目を集めることで、生徒たちが思考を中断してオレとセシルへ集中するようにして。
「組み分け帽子を脅して、望み通りの結果を齎す才人が他の寮に取られなくてよかった!教員の皆様まで巻き込んでこれだけの行動ができるんだ、グリフィンドールとして見出されるほどの勇敢さを持っているのは一目瞭然、そうだろう?計画的な部分はレイブンクローにも通ずるものがあるな、困ったことに我らスリザリンのライバル寮の資質を持ってしまっている!そんな才能溢れる彼が望んでスリザリンに来たんだ、喜ばしいことじゃないか?」
気分はさながら舞台俳優と言ったところか、政治家でもいいかもしれない。ともかく、弁舌を振るうのは苦手ではなかった。セシルの長所を強調して、スリザリンに来てくれたことを讃える。聴衆は強い意見を正論と思い込みやすい、特にライバル心を刺激されればより効果的に作用する。この場合はスリザリンとはバチバチに争いがちなグリフィンドールとレイブンクローをダシにした、するとどうだ、才人がライバル寮よりもスリザリンを選んだということに元々プライドがエベレストの者が多いスリザリン生は、論点をズラされたことにも気が付かずに上手く煙に巻かれては納得したような晴れやかな表情でセシルへ拍手を送り始めた。
(グリフィンドールとレイブンクローも、……あぁ悔しそうだな。いや、レイブンクローはいいのかそれで?意外と流されやすいな)
オレの声は他の寮にもしっかりと聞こえていたらしい、グリフィンドールとレイブンクローも対抗心を刺激されたのか今や悔しそうに臍を噛んでいる。流石に知識人の集まるレイブンクローはオレの演説に流されきっていない人間も多いが、それでもチラホラと話に乗ってしまっている生徒が見えた。
「セシル、改めてスリザリンへようこそ。これから友達としてよろしくな?」
最後のダメ押しとして、オレはにこやかに笑うと手を差し出してセシルに握手を求めてみて。
エリオットくんは僕の背に腕を回し、手を添えて、大衆の注目を集める様に気迫に満ちた立ち振る舞いと声で高らかと僕を称賛した。スラスラと出てくる褒めの言葉はまぁ、貴族として必要なスキルで、当たり前として一旦置いて、論点が少しズレている気がする。だけれどそれでも周りに気づかせずに上手く話を進め、望む結果になる様流していく。どうやら彼は思っていた以上に敵に回したら厄介な人材だ。その年で人の心理を理解していて、上手く利用し、いとも簡単に利用しその場を丸く納める事が出来るほどのカリスマ性を持ち合わせている。全校までとは行かないが、教員含め大半以上を占めて居るのは確か....まさに悪魔的天才と呼べるだろう。これ程出来のいい人間、見た事がない、それとも僕が暫く他者との交流を途絶えたせいで知らないだけか?ともあれ、組み分け帽子は正しい、この男は偉大になれる。絶対になれる、但し道を踏み外さない限りはな。是非とも友人のひとりに欲しい素晴らしい逸材だ、この男の価値はそこら辺とは比べものにならないほどある。これ程に、神と言う名の悪魔に愛され恵まれて居るのだから、外側のステータス、貴族出生の事なんざ霞んでオマケの様にしか見えない。中身が余りにも眩しい、まるで宝石の原石のようだ。質がいい程、利用しにくいのは事実、上手く隙を探さねば。
(最初は好奇心で八割、彼と友人になるのを二割で組み分け帽子を脅したけど...これは...予想以上に良い収穫だな。)
エリオットくんの演説は終わり、たちまちと周りは批判の声から僕への拍手へと変わって行った。特にスリザリン生からは歓迎の声が高い、まぁ僕が入る事になった寮なんだから当然か。...流石はレイブンクロー、ちゃんと流されないものが多い。そりゃそうだろう、モラル的に考えたりしたら、ある意味入学式をめちゃくちゃにした僕が悪いのだから。だが果たしていつまで自身の観点に自信を持てるのだろうか。我が強い少数派以外なら、多数派に抑圧され易いし、エリオットくんの演説で流せなくても、別の人が代わりに流してくれるだろう、まるで宗教の布教のようにね。
「あはー!またまた助けて貰っちゃったね!そんなに褒められると、なーんか照れちゃうなぁー!」
僕は歓声を浴びながら、間抜け面で笑いつつ、照れる仕草を出す為に頬を掻いて、差し出された手を両手で握り
「うん!えへへ、ありがとう!全然こちらこそだよぉ!部屋決めも、同じ部屋になれると良いなぁー!」
僕が同じ部屋がいいと言った途端、流されていない教師が顔を顰めこちらを見てきたのがよく見える、特にエクスペリアームスを掛けてきた教師からには。だがまぁ、さっきしでかした事もあるんだ、もう一度起こるかもしれないって思われても仕方ないだろうな。
(これ程大きい騒動起こしちゃったんだから、暫くは相当大人しくしとかないと目をつけられたりして、ダメかな...)
「...あれー?せんせぇ達、お顔怖いですねぇー?折角のおめでたい入学式なんですし、他の新入生の前でもあるんですしさ!そんな怖い顔よりほら、スマイルスマイル!!ね!」
僕が自分の両頬に両手の人差し指に当てて思いっきり笑ってそう指摘すると、顔を顰めていた教師達も段々引き攣った笑顔になって行った。
「ねね、エリオットくん!寮の部屋決めってどうやって決めるのかなぁ…くじ引き?」
僕はそう、引き攣った笑顔の教師達を構わずにエリオットくんの方に振り向き、首を傾げて聞いてみて
「ん、ああそうだな」
(あっっっっっぶない!よかった、上手く転んでくれてよかった!兄様ならもっとスマートにできたんだろうが、オレにとってはこれが限界だ!!)
余裕泰然としてセシルと握手をしながらも、内心ではアドレナリンが切れたことにより冷や汗かきまくりだった。元々こんな目立つつもりはなかったし、なんなら綱渡りなんて毛頭する気もなかった。リスクはなるべく捨てて、安定した日常を送るつもりでいたのだ。今回、上手いこと大衆の思考が固定される前に先制できたのが功を奏したのか、万全とは言えないがそこそこ良い収まり方に導けた気がする。とはいえ、これが失敗してなんだコイツ?と軽蔑される未来も有り得た。普段は隙がないように取り繕っているので意外に思われるかもしれないが、オレは案外小心者である。勢いがあったからできただけで、今は背中に冷や汗が伝うぐらいには肝が据わっていない。ここで挙動不審になればまず間違いなく怪訝な目が向けられるので平然としているが、少々ぎこちなく言葉少なになってしまったセシルへの返答が、精々の違和感だろうか。
「こら、それ以上先生方を煽るな煽るな。部屋割りは──どうなんだろうな?」
先生方への挑発とも取られないようなセシルの言動にヒヤリとしながらも諌めようと試みて、部屋割りのことを聞かれれば顎に手を当てて同じように首を傾げる。そして、くるりとその場で後ろを向けば、一つ飛ばしの席に座っていた女性の監督生に問い掛けて。"P"のバッジを付けているから、それさえ知っていれば監督生が誰かを見破ることは簡単だ。
『何人の生徒が寮に入るかわからないから、組み分けされた順で配属するの。もう組み分けも終わったみたいだし、校長先生が締めの挨拶をすれば早速寮の案内に移るわ。貴方たちはそうね、最後に分けられたし、嫌でも同室になるでしょうね』
「ありがとうございます。だってさ、セシル。嫌でも同室になるかもだと」
苦笑しながら答える監督生に礼を言えば、同じく苦笑いを浮かべながらセシルに振り返り。いよいよ奇妙な縁を感じてきたところで、もう組み分けされる生徒もいなくなれば校長先生が最後の挨拶に移るようで。
エリオットくんは素っ気なく答えて、僕の手を握り返した。
(あぁ、そのその素っ気ない反応に余裕そうな表情、とてもいい。もしかしたら、僕がそうするとわかって計算していたのかもな...だとしたらとんだ化け物だ。最高じゃないか!だがいくら天才とは言え、完璧超人はさすがに存在しないだろう。何処かに短所はある筈...それが致命的な欠陥にならなければいいが..)
「んー?あー、煽ってるつもり無いけど...確かにそう捉えられるか...せんせぇごめんなさい」
本当に煽るつもりは無いが、確かによく考えてみたら案外煽りとも捉えられるな。指摘されて初めて気づいた僕はもう少し気をつけないと確かに危ないかもしれないと、内心小さくエリオットくんに感謝した。
(そこまで人の感情に敏感じゃないからなぁ...そこに気づくエリオットくんは気配り上手であるか、若しくは繊細な人だったりな..まぁどの道気づかせてくれたんだから、ありがたい)
僕は先生方に素直に謝ったら、先生方は首を小さく縦に振った。許すって意味なのか、それか目を付けるぞと言う間接的な意味なのか...僕には分からないが、わかる時が来ればわかるし、分からないなら今無理して分かろうとしないで行こう。
部屋割りに関して、エリオットくんが1つ席を飛ばして座っている女子生徒に聞いていた。胸には"P"のバッヂが付いてある、
(お、この方はスリザリン寮の監督生かな....?...ふむふむ、なるほど、つまりはエリオットくんと同室という事か!)
「ぃよっしゃぁ!!!!!やった!!やったぁ!!同じ部屋だぁ!!」
苦笑いを浮かべる二人に僕は逆に、久しぶりに飼い主と再会した犬のように喜び、例え校長先生の最後の挨拶が始まるというのも気づかずに、嬉しさで興奮気味に飛び付こうとして
「うおっ!?」
飛びつかれてバランスを崩しかけるも、そこまで筋力皆無というわけではないのでしっかりと踏ん張って。とはいえすっかりと余裕は剥がれ落ちて、年相応な驚き顔に染まってしまっているのだが。
「ははっ、喜びすぎだろう。……まぁ、オレも嬉しくないって言ったら嘘になるが」
引き剥がさずに受け入れている時点で、オレはオレ自身が思っているよりもセシルに絆されてしまっているのかもしれない。いやしかし、仕方ないだろうと誰にともなく言い訳してみる。身分や上下関係を意識せずに出来た初めての対等な友達なのだから、仕方がない。ちなみに後半の言葉は、心の内に留めておくつもりだったがポロリと出てしまったものだ。声量は大きくないのでセシルにしか聞こえていないだろうが。
(父様に知られたら、怒られるだろうな。付き合う相手は選べ、決して他者に気を許すな、セントリックの血縁以外は敵だと思え。耳にタコができるほどに聞いた小言だ。ちょろいのはオレ自身もなんとなく気が付いてはいるが、家の監視がないホグワーツぐらいは好きにしたっていいだろう)
厳格な父は、たとえ純血であろうとも身分の低い者と付き合いを持つことを許してはくれない。その抑圧で、早い話が"普通"に憧れている節がどうしてもオレにはあった。……セシルそのものが普通かどうかは置いておくとして、対等な友達はまさしく普通の学生のものだった。密かに憧れていたから、こんなにも早く絆されてしまったのだろう。
『貴方たち、いきなり減点なんて冗談じゃないわよ?ほら、先生のお話が始まるから離れて離れて』
「うぇ…!?し、失礼しました!」
監督生に注意されて我に帰れば、校長先生は既に壇上へと登っていた。気恥ずかしくなり、耳を真っ赤にすると慌ててセシルから離れて、勢いよく椅子に腰掛けて。
(/またまた背後がいきなり出てきてすみませんが、セシルのキャラシ出来ました!制服姿のバストアップに、ポニーテール姿だけで気力尽きましたが!あとシャーロットちゃんのビジュも決めました!シャーロットちゃんの場合はまだアナログの状態ですし、シャーロットちゃんの絵だけじゃなく、セシルのも日を置いて描いてたりしてますので、絵柄がブレてたりしてるの絶対一目瞭然ですが、大目に見てくださるとありがたいです...!上のリンクがセシルで、下の方はシャーロットちゃんです!)
https://d.kuku.lu/76f4d9f34
https://d.kuku.lu/ac0d760ee
「!!!ほんと!?」
嬉しいのは自分だけじゃないということを知り、僕は周りに花が飛ぶ様に、更に舞い上がった表情をし、大きな声で聞き返した。
エリオットくんは僕を引き剥がして来ず、表情も先程の余裕が無い。
(...これは...もしかして絆されやすい...のか?いやでもそれさえも計算だったりする可能性があるかもしれない。僕が騙されてどうする、まだ警戒はしておかないと行けない。)
そもそもこの人の本性をまだ知らないのだから、反応だけ見て早とちりは良くない。目に見えるものが全て真実とは限らない世の中なんだから。だが...もし本当に疑い過ぎなら?有り得ない訳では無い。それもひとつの可能性として取っておこう。エリオットくんは僕にとってあまりにも未知な存在だ、だがこれからは7年もの月日がある。ゆっくり人間性も知っていけるだろう。焦らずに行こう、きっとそれが最善だ。
そう思っていると監督生から注意され、エリオットくんは即座に僕から離れ、席に着いた。
「いやぁごめんごめん!少しばかり嬉しすぎてねぇ!へへっ」
僕も席に腰かけ、チラッとエリオットくんの方に目を向けてみると、表情はいつも通りと変わらないのに、耳だけは真っ赤になっていた。
(...人の癖とは案外よく表に出るものだ、もしかしたら、エリオットくんもそうなのでは?それともただ純粋に恥を感じているだけなのかな。)
まぁこの状況で考えても仕方がないし、決め付けれる証拠も一切ない。今は大人しく校長先生の話を真面目に聞こうと目線を向け返す。
(...だけどやっぱり今日の収穫は余りにも大きい。今大事な場面なのに、にやけそうになるの何とか耐えないとな。校長の話をちゃんと聞かないと、後で困るのは自分なのに、困ったな...マスクみたいなものがあればいいのに..そうだ!マフラーで口元隠せば多少ごまかせるか?)
必死にニヤケを耐え、さりげなく少し曲がったマフラーを治す仕草をし、口元を隠して
(なんだか、セシルといると調子が狂ってばかりだな。素直かと思えば突拍子もない行動をする、こういう奴を天才肌だと言うんだろうな)
大人しく校長の話を聞きながらも、ぼんやりと考えるのは彼のことだ。なにせ、今まで見たことがないタイプの人間で、今日一日でもこれまで生きてきた数年分の驚きに見舞われた。校長から視線を外してちらりと彼を見れば、マフラーを口元が隠れるぐらいまで押し上げている。寒いのか、あるいは口元を見られたくないのか。フランクなくせにミステリアス、独特の雰囲気を纏っている彼のことをもう少し知りたいと思うのは、友達だと認めているからだ。
(この後は寮まで案内されて、部屋割りか。時間的に部屋の荷物を整理すればすぐに就寝時間だろうな。明日から授業、寝る前に予定を確認しておかないと)
校長先生が話すこの後の予定を聞けばテキパキと段取りを付けて、改めて教材と時間割の確認をしようと考えていれば、どうやら校長の話は終わったらしい。部屋まで戻れば自由だろう、散策はできないだろうが。そう考えながら立ち上がろうとすると、頭上から大きな音が聞こえた。
「!?」
ぎょっとして見上げれば、人間が何人積み上がっても手が届かなさそうなほどの高い天井いっぱいに、色とりどりの火花が煌めく。教員たちからの歓迎の印として魔法で打ち上げられた花火が、次々と咲いては消えていく。一つ一つの命は短いのに、埋めるように咲き誇るせいで儚さとは無縁だった。
「セシル、すごいな!オレ、花火なんて初めて見たよ!」
生徒たちが大きな拍手をして歓喜する中で、オレもキラキラと目を輝かせると飾らない笑顔を浮かべながら興奮気味にセシルへと話し掛けて。祭りやパレードには行ったことがないので初めての経験だったが、光の洪水とも言うべき苛烈ながらも美しい光景に、たかが11歳の子供にはしゃくなと言う方が無理なようで、オレも結局外面を取り繕いきれずに子供らしさを晒して。
(/おおー!塗りがとても綺麗で、本当に憧れます!髪結んでウインクしているセシルくんかっこいいですね!緑の髪留めがスリザリンらしくてクールですー!エタノール被ってるデフォルメセシルくんもすごくかわいい……!!表情も小悪魔のようで愛らしいですが、ライターカチカチの物騒さが映えてますね!
シャーロットちゃんもかわいいです!お姫様のようで、是非とも交流するのが楽しみですー!)
必死に平常心を保っていると、気づいたら校長先生の演説は終わっていた。
(あー..ろくに校長の話し聞いてなかったな。どうしよ...まぁ、まぁ大丈夫だろ!なにか重要な知らせとかあったならエリオットくんに聞こう!部屋に戻ったら自由時間のはずだし、明日の教科書を整理して、制服の準備、そしてお風呂にでも入ったらもう寝よっかなぁ。明日から本番なんだから、ちゃんと寝ないと授業中に居眠りなんかしたら大変だ)
周りの生徒も徐々に一人一人と席を立ち上がって行き、エリオットくんと僕も席から立ち上がろうとした瞬間、パッと照明が消えたかと思えば
『ドンッ!!!!!』
っと耳鳴りを起こす様な爆発音とともに鼻を過る何処か覚えのある匂い。僕はビクッと肩を震わせ、即座に音のなる方へと頭を上げ、見上げる。そしたら何と大きく咲いては散っていく花火が、何発も何発も打ち上がって行った。どうやら教師が生徒を歓迎する為に打ち上げたものだ。新入生達、先輩達の歓声が響く中、僕は呆然とその場を立ち尽くし、目を虚ろにして、花火を見つめた。懐かしい匂い、そう、それは火薬の臭いだ。思い出せば思い出す程、苦しくなる。
花火なんて大嫌いだ。父が冤罪で逮捕されて、母は水商売を始めたまではまだ少なくとも我が家は持っていて、平穏とは行かなくても、帰る場所はあった。だが、刺客なのか、若しくはただの悪意を持った一般人かは知らないが、家に火花を咲かされた。運良く僕と母さんは無事だったが、シャーロットはそう行かなかった。その小さな背中に一生残る程の、酷い火傷の痕が付いてしまった。どれ程僕が身代わりになれれば良かったのかと今でも後悔している。
(妹一人すら守れない僕は正に、お兄ちゃん失格だな)
何故罪のない赤ん坊までそんな酷い目に合わないと行けないのか。何故僕達は殺されそうになら無ければならないのか、そしてなぜ、町をゆく人々は僕たちを心配疎か、危害を加え、救ってくれないのか。僕には分からない、何も分からない。ただ唯一知った事は、僕達を救って、愛してくれる神なんて存在しないとの事だけだ。
(....これがもし、高い天井じゃなくて僕たちが立っているこの地面で爆発したら、まだ綺麗だって言えるのだろうかね。)
「ヴ....っ、」
僕は嫌な過去を思い出していると、たちまち火薬の臭いを、焼ける生肉の匂いと錯覚しだし、吐き気を感じ即座に口を塞いだ。するとそれと同時に、嬉しさで興奮気味なエリオットくんの声が僕の悪い方へ行こうとする考えを断ち切ってくれた。彼の方へと振り向いたら、そしたら、11歳の子供らしく元気にはしゃぐ、とっても愛らしい表情が向けられていた。
「...ははっ!...そうだね!とっても、とっても綺麗だね。」
あぁ...皮肉な程に美しい花火。だけれど、これで誰かをこの様に幸せな笑顔にするのなら、それもまた一興。用は物は誰がなにかに使うって事だ。物に罪は無い。僕は無意識に少しだけひきつった笑顔を彼に返したが、顔色は先程よりも、お陰様でずっとずっと良くなった
「僕は昔もっと迫力のある綺麗な花火を見た事あるけど、やっぱりこんな程々な花火が一番だね!そしてぇー、この綺麗な花火よりももっと綺麗な花火なら、今そのお顔に咲いてるよ?ほら周り見て!綺麗なレディたちにも釘付けだよ!良かったね!!」
僕はいつもの調子に戻り、惚れ惚れした表情でエリオットくんを見てくる愛らしい女子生徒達をダシに使い、彼を茶化して。
(/お褒めいただきありがとうございます....!こんなに褒めてもらって嬉しすぎますよ...!!こちらいつも絵柄が日によってコロコロ変わっているのでねぇ...まだまだですねぇ..いやぁ次は式典服やら、クリスマスパーティーの服とか描こうかなぁと思っております!そしてまだシナリオがそこまで進んでもいないのに、エリオットくんとセシルくん2人の中々良さげな構図を思い付いてしまって描いていいものかと考えている所です...!
シャーロットちゃんは母親似で透き通った艶やかなブロンドに、水色のぱっちりした瞳、そして頭には可愛らしいピンクのおリボンです!私も是非ともいつかシャーロットちゃんに交流させたいです!きっとなんか癒されるシナリオになりそうです!!)
「ああ、意外と派手好きなんだなホグワーツは」
(…?顔色が悪い気がしたが、今はそこまででもないか。だがなんだか笑い方がぎこちないな、体調が悪いのか?それとも、花火はあまり好きではないのか?)
セシルの方を向いた時、彼の顔色がすこぶる悪くなっているように見えた。こちらに返答する彼をあらためて見つめればそこまででもなかったが、それでも表情が固い。先程マフラーで口元を覆っていたし、実は体調が悪いのかもしれない。あるいは花火が嫌いか。綺麗で派手だが音がうるさいので、敏感な人間はあまり快い気持ちにはならないだろう。てっきり星空を見て喜んでいたセシルのことだから花火にも同じように喜ぶかと思っていたが、どうやらそうとも限らないようで。無意識に先入観を抱いていたことを少し反省し。
「また!そうやって!から!かう!……君たちもあまり見ないでくれ、花火かあちらの先輩方にしてくれないか」
具合が悪いのか聞こうかとも思ったが、聞くタイミングを逃してしまった。先程の様子はまるで蜃気楼だったとでも錯覚してしまいそうなぐらいに元通りになるものだから、オレもついつい乗っかってしまう。なんだかコロコロと転がされているような気がしないでもない、というか絶対転がされているのだが、どうにもこういった軽口には慣れていないので勝てそうになかった。セシルがダシにした彼女らに少しでも見られないように、口を手の甲で覆うように隠しながら適当に目に付いた華やかな先輩の方へと半ば無理矢理押し付けて。見目が良ければ誰でもよかったのだろう、目論見通り先輩の方へ寄っていった女子たちを尻目に、やり過ごした疲労でふーっと息を吐いて。
「君だって、端正な顔立ちをしているんだ。ライターをカチカチしてさえいなければ、まず間違いなく女子に集られていただろうさ」
花火が上がる中、順番に寮生達が退場していく。スリザリンもそのうち監督生に集められて大広間を出ることになるのだろう。その間、あまり人目を惹かないように退場までの時間稼ぎとして隠れるようにセシルの方にそろそろと寄ろうとして。
(/クリスマスパーティ服!私もエリオットのを描きたいと思ってたんですよ!セシルくんのことなので、なにを着ても絶対に似合うでしょうね!楽しみです!主様にセシルくんと一緒にエリオットを描いてもらえるなんて最高ですね!是非是非描いていただければと!毎日ワクワクしながら待ってますので!
シャーロットちゃんとの交流は絶対に癒されるでしょうね…!エリオットは女性と年下には当たりが柔らかめな上に振り回されるタチなので、是非とも小さなお姫様にタジタジにされながらもほのぼのとする光景が見たいです!ホグワーツに来るようなイベントか、屋外会場の魔法界のお祭りなんかを用意してみたいですねー!)
「ね!僕もまさかこんなに盛大に、花火なんて打ち上げてくれると思ってなかったや!それに、さっきレベルテ使っといて正解だったなぁー、じゃなければ花火から落ちてくる火の粉で頭燃えてたかもしれないやぁ!」
(花火は最悪だったけど、代わりにいいものは見れたし、オールオッケーって事にしよう。入学早々思い出すもんじゃないし、もう終わった事なんだから。)
そうケラケラと笑ってはブラックジョークを言った。そして、エリオットくんは僕のからかいに反応したの分かったら、口笛を吹いては
「ひゅーひゅー!さっすが色男ォー!入学早々、かっわいいお嬢さん達を釘付けにするなんて、エリオットくん中々やるねぇー!」
(さっき、何か言いたげだったな。まさか...吐きそうになってたの気づかれた...のか?ならばそれは都合が悪い。僕の過去に関係する物や事は徹底的に排除して、隠さないと行けないのに...これはかなりの失態だ。小さなミスは気にしないと後に、段々と隙が広がって大事になる。例え今誤魔化せても、後で何か決定的な証拠として残されかねない。それに、そう言うものは、他人の罪やらでっち上げをする時にもよく使えて、珍しいことではない。この子がまるで絆されている様に振舞っていても、内心はそうじゃ無い可能性が大きい。人は見かけによらないし、エリオットくんは実は俳優の素質があったりする可能性だってあるんだ。気をもっと引き締めて無いと行けないな。)
内心色々と複雑に考えたり、疑っていつつも、言葉は全部追い打ちをかけるようにからかい続け、エリオットくんの背中を叩いた。エリオットくんは恥ずかしさからなのか、口元を手の甲で隠し、レディ達を見た目華やか先輩達に半端強引に押し付けた。まぁ、やっぱりエリオットくんを気になる子は結構多いらしい、何人かまだチラチラとエリオットくんを見ているのが見える。
(先程の演説中の凛々しさと、花火を見て子供のような愛らしい笑顔が見えたんだから、それは所謂...ギャップ...?って奴で、仕方ない事だろうなぁ。)
「だってさぁ、やっとかないと損だもん!ここでの入学式って人生に一度だからさ!良い経験も悪いものも、積極的に試しては、経験を積み上げてくもんじゃない?僕はー...そうだなぁ...今はレディたちにモテるより、もっと他に面白いこととか、新しい事とか試したいなぁ!」
今女子にちやほやされるのは興味無い、人脈を築く事は大切だが、今の所懐に誰かを入れるつもりは無い。年齢的にもそうだが、やはり、シャーロット以外の人を信じれないのが一番に大きいせいだろう。僕はにしっと笑ってそう答えては
(いつ、何処で、何を理由にして裏切ってくるか分かったもんじゃないからね。どうせ、みんな自分が一番に思ってて自分が一番に可愛いんだから、僕がシャーロット以外の誰かを一番に可愛がる理由は一切ないね。)
と内心ひねくれたことを思っていて。
そうこうしていると、グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフの寮生達が順番に大広間から出ていって行く。じきにスリザリンの番もやってくるだろう。ふと、エリオットくんが僕の方にそろそろと寄ってきた。
「?...なぁに?どうしたの?もしかして人混みで体調少し悪くなった?」
僕は少し心配そうに彼に聞いてみて
(/おお!エリオットくんのクリスマスパーティー服!とっても気になります!!絶対とてもかっこよくて可愛いじゃないですか!!めちゃくちゃ楽しみにしてます!!
良かった...!描いても大丈夫そうでよかったです!!遠慮なく描きますね!いつ出来上がるか分かりませんが、頑張ります!
あー!!とっても可愛いじゃないですかエリオットくん!!シャーロットちゃんはきっとすぐエリオットくんに懐くと思いますし、それを見たセシルはきっと最愛の娘を嫁に出したくないお父さんみたいな反応しそうですねぇ...!なんかこう...文化祭的な..そんな校内のお祭りとかあると面白いですねぇ!是非ぜひそういうイベントを三人に用意してあげましょ!!)
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