匿名さん 2022-01-26 21:20:43 |
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( くふ、と欠伸を零すと風が吹いた。目の前を落ち葉がからからと回りながら通り過ぎてゆく。その様子にたわむれながら日々を営む人間を思えば、自然と笑みが溢れる。以前と比べれば参拝者もめっきり減ったこの神社。今や訪れるのは定期的に境内を掃除しに来てくれる働き者の愛し子と、年老いた馴染みの参拝者が数名程度。神に頼らぬのは世の安泰の証。しかし、それを喜ばしく思う反面、愛し子たちの顔を直に見ることができないのはやはり寂しいものである。恨めしく思う気持ちなどは微塵もないが、どこへも行く宛のない感情は自身の中で燻り日に日に大きくなっていた。はあ、と溜息を吐くとまた風が吹く。この風が誰か拐ってきてくれぬものか、と考える矢先、鳥居をくぐる気配に背筋が伸びる。この気配はここの管理を任された彼の子のものでも、馴染みの参拝者のものでもない。しばらく待っていると気配の主はやけに神妙な面持ちとともに姿を現す。あれは少し前にこの地を発った娘。戻っていることは知っていたが、そうか、会いに来てくれるとは。舞い上がる気持ちを隠さぬままににっこりと笑みを浮かべると、其の子が目を瞑っている間に賽銭箱の奥へと姿を現す。そうして、眩しそうに空を見上げては柔らかな語り口で声を掛けて )
やあ、今日は良い天気だなあ。絶好の再会日和だ。──おかえり、おれの愛し子。向こうの地での暮らしは如何だった、変わりはないかい。
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