白む空に燻る紫煙　---〆

( 案の定肯定の言葉も否定の言葉も返っては来なかった。今回は誤魔化す事もしないのかと燻る気持ちを抑えるように一度瞳を閉じて直ぐにまた視線を向ける。相手は今何を考えているのだろうか。それがわかる程自分は相手を知らない。傍に居て欲しいのか、だとしてもそれは自分では無い誰かになのか、はたまた一人そっとしておいてほしいのか。＿＿互いに何とも言えない空気を背負い気不味い雰囲気の中、ふいにそれを打ち破る相手からの要望が来れば「直ぐ淹れるね」とその場を離れて。ケトルに水を入れてお湯になるまでの間考える事はFBIとしては失格か、事件の事では無い。体調が悪いだけでああもなるのか。病院に通院しているとなれば大きな持病があるのではないのか。それとも何か別の…と、あっという間にお湯が沸いたのを表す音が。いつも相手が使っているマグカップにアールグレイの茶葉で紅茶を作ればそれを持ち再び相手の居るデスクへと戻って来て。「エバンズさん、私何でもやるよ。だから何だって言ってね。」温かな湯気が立ちリラックス効果のある香りが広がる中、マグカップを手渡しつつ己もまた少し落ち着いたのか口元に僅かに笑みを浮かべてみせて )

　





（　何年経っても、あの事件の事を誰かに話す気にはなれなかった。一人で抱え込む事で自分を保ってきた、今更誰かに抱えている物を曝け出す必要も無ければそれで何かが改善するとも思わないのだ。礼を言ってマグカップを受け取り、熱いそれを少し冷ましてから口にして。穏やかな口調で語られた相手の言葉は、普通なら感謝を告げて頼るべき物なのは分かっている。しかし、そんな事をしてしまえば相手を自分の元に縛り付ける事になってしまわないか、一度でもその優しさに寄り掛かったら戻れなくなるのでは無いか、そんな妙に理性的な考えばかりが頭に浮かぶ中ようやく相手と目を合わせ。知らなくて良い上司の暗い部分を相手に預けて余計な気苦労を掛けるのは憚られてしまう物。「…ミラー、今は事件の解決が最優先だ。余計な事は考えなくて良い。俺に気を遣う必要も無い、…良いな。」結果として告げた言葉は突き放すような、酷く冷淡な印象を与える物だったかもしれない。今日は体調が優れなかっただけの事、相手に要らない負担を強いてまで配慮して貰う程の事では無いのだと伝えて。「お前ももう帰れ、明日の午後には聞き込みに出る。そのつもりでな。」と半強制的にこの場を収めてしまうと、画面に開きっぱなしにしていた監視カメラのデータを閉じて。　）






　

( 死んだ人より、赤の他人の悲しみより、共に仕事をして、ご飯を食べて、他愛無い会話を繰り返した今目の前に居る相手の方が何百倍も大切で寄り添いたい相手なのだと。それが綺麗事でも何でもない本心なんだと言ってしまえばきっとFBIとしては居られない。突き放すような物言いの言葉に「わかりました」とだけ返せばくるりと背を向けて再び自分のデスクへと戻り。巻き添えを食った後ろの席の椅子をきちんと元の位置へ戻し、パソコンの電源を切りコートを羽織る。「お疲れ様でした。」と軽く会釈をして署を出れば家までの道のりで事故を起こさなかった事を褒めてもらいたいくらいだ。幼い遺体を見た時より、悲痛な面持ちで涙を流す遺族を見た時より、そのどれよりも心が痛い。誤魔化すようにいつもより熱めのシャワーを浴びるが頭は少しもすっきりする事が無く早急に寝てしまおうとベッドに入る。＿＿気が付けば朝。目覚ましの音よりも早くに目が覚めてしまった事に小さな溜め息を吐き出すと、朝食に軽いシリアルを食べていつも通りを心掛けようと決めつつ署へと向かって )

　





（　相手を傷付けたというのは、その表情を見ていれば分かった。それでも見て見ぬふりをする様に湯気の立つ琥珀色の水面に視線を落とし。フロアを出て行く相手を見送り、暫くイスに座ったままでいたものの時間を掛けて紅茶を飲み終えるとようやく立ち上がり。今日は酷く疲れた、床を片付け使ったマグカップを軽く洗ってから灯りを消して署を後にする。家に戻りジャケットを適当に背もたれに掛けるとベッドに倒れ込み目を閉じて。---カーテンの向こうが明るくなり身体を起こすが、いつも以上に夢見が悪かった為か身体は重い。シャワーを浴びて髭を剃り、新しいワイシャツに袖を通すが気分は憂鬱なままだった。精神安定剤は眠気を催す事がある為避けたかったが、昨日のような事がまた起きては困ると結局服用し、2種類の薬は念のため普段より多めに鞄に入れて署へと向かい。---現在上がっている被疑者は3人、全員動機は十分と言える。1人ずつアリバイを確認し不審な点が無いかを洗い出して行く必要があると資料を眺めながら考えていると、捜査員の1人から声を掛けられ凶器が特定されたという報告を受け。連射が可能な自動小銃、殺傷能力が高い為周到に用意しての犯行だろうとの説明に頷き、その資料を手に相手の元へ。「ミラー、凶器が特定された。町に銃器を扱う店は1店しかない、そこで買うほどマヌケじゃないと思うが、念の為直近の購入履歴を確認しておけ。聞き込みは1時を目安に向かう。」捜査に関する事務的な情報共有、資料を渡すとそれ以上の会話は無く自分のデスクへと戻り。　）





　

( 「何か窶れてない？」という同僚の言葉に失礼な事を言うなとおどけたように笑いつつも内心穏やかでないのは昨日の今日だから。デスクに着くなり直ぐ様パソコンの電源を入れて今日やるべき事の再確認を行う。そうこうしているうちにフロアへと集まる人の数も増え話し声やキーボードを叩く音等様々な音が響いていく中聞こえて来た足音と聞き慣れた声。あくまでも事務的な情報共有は相手らしいと言えばらしいが小さな違和感もある。それでも相手がそれを望むならば、と資料を受け取り「了解」と短い返事をして。一時まではまだ時間がある。資料に載っている狂気を確認して直ぐにそのお店へと向かえば案の定誰かに売った履歴は無い。念の為に監視カメラも見たがこのお店は今回の事件に関わっていないだろう。再び署へと戻って来た時時間は1時10分前。コートを羽織ったその姿のまま相手の元に歩み寄れば「購入履歴は無かったよ。監視カメラも確認したから間違い無い」と伝えつつ「いつでも準備出来てるよ。」と続けて )

　




（　デスクに戻り聞き込みに向けての準備をしているうちに気付けば正午を過ぎていたようで、相手に声を掛けられて顔を上げる。やはりそう簡単には事は運ばないだろうと相手の報告に頷きつつ立ち上がるとコートを羽織り。先に全員のアリバイ確認を済ませてから凶器については突き詰める事にしよう。助手席に乗り込むと現場から徒歩圏内にあるジャックの家の住所を伝え、車窓に目を向けて。事件に関しての共有は全て済ませている為、昨日の今日で話す事も思い付かず押し黙ったまま。そうしていると車の揺れも相まって自然と眠気に襲われ、目を閉じてしまう。人に運転させて置いて眠ってしまうのも憚られるのだが眠りが深くなる前に覚醒はするようで、幸い夢を見る事は無く微睡む事を繰り返して。街並みから到着が近いと察すればイスに座り直し、手帳に視線を落として情報の確認だけ済ませておき。「…ジャックは独身、長年此処に住んでいるがとにかく騒音に敏感で近所とも過去にトラブルになっている。子ども嫌いは有名らしいな。人当たりの良いタイプじゃなさそうだ。」一軒家の前に止まると相手と車を降り。　）





　

( 道中助手席側から何か言葉が来る事は無い。赤信号で泊まるタイミングでちらりと様子を伺い見れば浅いながらにも確かに眠っている相手。その姿に酷く安心感を覚える。知らなかっただけでもしかしたら夜ちゃんと眠れていなかったのかもしれない。それでも仕事だと体に鞭打って働いていたのかもしれない。気付いた所でただの部下に何が出来る訳でもないがせめて今だけは少しの休息が訪れますようにと願わずにいられない。＿＿車を走らせて数十分、男の住む街へと到着した事で相手により情報の共有をされれば最後の方に付け足された言葉に対して「子供嫌いだなんて、エバンズさんと話が合うかもね。」とあの出来事が起こる前と同様生意気に笑ってみせて。それから車を降りてジャックの家へ。数回のノックの後に「煩い！」と開口一番の怒声と共に出て来た男は確かに人当たりの良さは少しも見られず )

　





（　昨晩相手を突き放し傷付けたのも一方的に気まずさを抱いていたのも自分だったが、いつもと変わらず笑ってみせる相手の言葉に肩を竦め「…そこで話が合っても嬉しくない。」と一言。玄関を開けはしたものの威嚇するような対応のジャックに警察手帳を見せ名乗った上で早々に本題に入り。「貴方が幼稚園を良く思っていなかったと聞きました。騒音トラブルでしょうが、過去にも牧師を脅迫して逮捕されていますよね。事件当日は何処に？」ひとつずつ話を聞いていくが、彼の敵意剥き出しの態度は変わらず、“事件で休園になった為、静かになって清々した”と鼻で笑う始末。あくまで個人的な感情を挟む事は無く淡々と質問を続けたが、アリバイは立証されず決定的な動機も見つかる事は無く。良い加減帰らないと痛い目を見るぞ、と怒鳴る辺り気が短く攻撃的なのは確かだった。指紋を採取し車に戻り、スマートフォンを確認すると1件のメール。被疑者の1人、ライアンはオハイオ州在住。聞き込みが困難な為、その管轄のFBIが代行するとの連絡だった。「…ライアンは別の署が対応に当たってくれるらしい。片道8時間掛けて行けと言われなくて良かったな、」もう少し近い州であればその可能性もあったが、今回はその次第では無かったようで安心する。自分達はジャックとヘンリーの捜査に集中すれば良い事になり。2人に関する周辺情報をもう少し集めて取り調べを行う必要があり、前回同様凶器の発見も急がれる。その日はヘンリーの通うハローワークにも寄り、夕方頃に帰路に着き。　）




　

あれじゃあ子供嫌いってより人間不信だけどね。
( 威圧的な態度と発言は聞き込みの最後の最後まで収まる事は無く、何だか肩に可笑しなものでも乗っているかのような疲労が重く全身を包めば運転席の背凭れに体を預けやれやれと肩を竦めて見せて。結局手掛かりは一つも掴めなかった訳だがこの調子では本人に聞き込みするよりも彼を知る近所の住人に聞いて回った方が遥かに有意義な時間を過ごせそうだ。＿＿さて次は、と頭に入れた容疑者の名前を思い出そうとした時、ふいに相手から有難い言葉が。「危うくオハイオに別荘買わなきゃいけない所だった。」片道八時間掛けて行ったり来たりしていたらそれだけで事件が解決してしまう。片眉を持ち上げそんな戯言を紡ぐ車内はまだ太陽が真上にあった時よりも遥かに空気が生き生きとしているだろうか。＿＿署に着いたのは空がオレンジ色に染まる頃。「明日朝からジャックの周辺の聞き込みして来る。誰か彼の事見てるかもしれないし。」明日の自身の行動を伝えつつ「何かわかったら電話するね」と続けて )

　




ああ、頼む。
（　相手は意識的に軽い口調を心掛けてくれているのかもしれないが実際それには少し救われていて、署の駐車場に到着すると頷き。自分はライアンの聞き込み結果とヘンリーの情報を集める事にしよう。---だがその後、周辺から情報は出てもどれも決定的な証拠とまではならず数日に渡ってもどかしい時間が続く事となり。ライアンもまた、家に居たと証言したが定職に就いて居ない事や近所付き合いが無い事で捜査は難航した。凶器も特定はされたものの依然として発見されず、相当周到な用意の末の事件だったのか遺留品も殆ど見つからない。日が経つ毎に遺族からの圧力も当然強まり、お互い日に日に疲労が蓄積するのを感じつつ、何か1つでも有力な証拠を見つけなければと奔走する日が続いていて。　）





　

( 甘く見ていた。周囲への聞き込みならば何らかの情報が出て来ると思っていたのに皆が皆口を揃えて『あんな人のアリバイなんて知らない』。『アイツが犯人に決まっているだろう』と全く協力的じゃないのだ。少しコンビニに立ち寄れば『まだ犯人捕まえられないのか』と話した事も無い全くの赤の他人に罵倒されるのも一度や二度じゃない。加えて凶器の発見にも至らず無情にも日々だけが過ぎていく中で疲労は確かに少しずつ体を蝕んでいく。それでも早急に解決しなければこんなサイコパスが絡んでいそうな事件、下手したら次なる犠牲者が出るかもしれないと気持ちは焦る一方で。明日こそは。明日こそ何かほんの僅かの手掛かりでもいい、事件解決に向けて糸口になりそうな事を聞き出さなければ。＿＿ここ数日相手の姿もまともに見ていないのだ、あの日ああ言われたがはいそうですかと気持ちを切り替え無かった事には出来ない。誰もいない所でまた発作が起きているのではないかと心配は消える事がなく )

　





（　相手と会話をするのはここ数日電話が中心。顔を合わせる事は無かったが、報告の電話のトーンも明るい物では無い為お互いに追い詰められている事は電話越しの短い会話でも分かり。事件から間も無く1週間が経とうというのに被疑者を絞り込む有力な証拠が上がらず、状況は良くない。眠れていない事も手伝って体調も思わしく無く、焦りから凶器は未だ見つからないのかと他の捜査員に声を荒げた事もあった。---ジャックのアリバイが成立したと、突然思いがけない電話が相手から入ったのは暗くなってからの事。何でも偶然聞き込みを行ったスーパーの店員が彼からクレームを入れられたという話をしていて、それが事件当日の昼だったと言うのだ。カメラの映像も確認出来たという報告は、容疑者を絞り込めたという意味では大きな一歩。スーパーに行ったなら先に供述してくれという苛立ちも同じくらい感じはするのだが。---ライアンの犯行だとすれば、被害者の居場所を特定するにはいちいち自宅に帰っては居られない。連泊しても怪しまれない観光地のホテルを中心に聞き込みを行うべきか。ヘンリーは此の所ハローワークにも顔を出して居なかったというし、捜査員に張り込ませ出掛ける先を調べさせようか。何とか捜査を進める手立てを考えつつパソコンと向き合っていて。　）


（／何度も恐れ入ります。エバンズの病状に関するご相談なのですが、過労、重めの貧血、ストレスから来る心疾患など一重に体調不良と言っても色々な度合いがあるかと考えております。それによって倒れた後、処置と安静が必要なのか、一時的な入院が必要なのかなどが変わって来るのかなと思うのですが、どの程度の度合いが適当でしょうか？倒れるのは容疑者逮捕の直前、バタつき始めた辺りを想定していますが、署の敷地内で他にも目撃者がいたのか、出先などで関係者はミラーしか居なかったのかも決めておけたらなと…！）





　

( 話を聞きに行った一番最初に『スーパーの監視カメラを確認してくれたらわかる』と言えばいいものを、自らのアリバイがどれ程大事なのか理解していないのかと此方が声を荒らげたくなる気持ちはきっと相手も同じだろうと電話越しの声でわかった。何はともあれこれでジャックのアリバイは成立したと言う訳だ。＿＿それからはヘンリーの聞き込みを重点的に行い結果として事件のあった日の週数間前、園を訪れて園長と保育士長と口論になっていた事を突き止め再び電話で相手へと報告を。ライアンの方がどうなっているかはオハイオの署に任せているが、気になる所。もしエミリーが此方に居るという事を突き止めていた場合暫くはホテル暮らしをしていたであろう。それは正しく相手と同じ考えで、だからこそコートを羽織りここ暫く顔を合わせていなかった相手の元に向かい。「エバンズさん、私この付近のホテル当たってみる。エミリーの居場所がもしばれてたとしたら近くで寝泊まりしてた可能性もあるし、」やっと少しだけ進展しそうだ。この期を逃してはならないとばかりにそれだけを伝える足早に署を出て行き )


（ ／ いえいえ！こうしていろいろな話をするのがとても楽しいのです。個人的には検査もするので数日入院して下さいと言われたエバンズさんの元にベルをお見舞いに行かせたいです…！手土産は食べ物とは別に事件解決の報告を…！署の敷地内でもし他に誰かに見られていたとなると、上への口裏合わせが上手く出来なくなってしまう可能性があるのかなと思いますので、ここは出先で如何でしょうか？結局運ばれたとなると上司にはバレますが目撃者がほかに居なければきっと何とでも乗り切れるかな、と！ ）

　






（　声を掛けられると顔を上げ、ホテルに聞き込みに行くと言う相手に「念のため観光地のホテルも当たってくれ。連泊していた可能性を考えるとそっちの方が怪しまれない。」と告げて見送り。その後、ついこの間怒鳴り付けたばかりの捜査員から凶器と見られる自動小銃が見つかったとの連絡を受け、現場に向かい。沖に出ていた漁船の網に引っ掛かっているのが発見されて通報に至った様子。ビニール袋に包まれている事を考えても、証拠隠滅の為犯人が海に捨てたと考えるのが妥当だろう。周到な用意の末の犯行なら指紋が出るとは考え難かったが鑑識に回し、署に戻り。明日は相手の聞き込みに同行し、手分けしてホテルを当たるのが良いだろうと思いつつ資料に再度目を通す。暫く有力な情報が得られなかった焦りや、夢見が悪く眠れない日が続いた為かまた頻繁に目眩を感じるようになっていて、一度メガネを外して息を吐くと鼻の付け根辺りを揉み解して。　）


（／そう言っていただけてとても嬉しいです。良いですね…！精密検査の必要があると言われても、今休める訳がないと受け入れようとしなかったものの、ミラーに強く言われて渋々入院。その後見舞いに来たミラーが事件解決の報告をしてくれるという感じでしょうか。確かにそうですね、ホテルへの聞き込みを終えて署に戻ろうとするタイミングなど、出先で倒れる流れにしようと思います。入院と事件解決、取引きを兼ねた食事を経て、何か2人での出張案件などがあると良いかとも考えておりました。同じホテルに泊まるとなれば仕事以外の話をする時間が出来たり、夜の過ごし方を垣間見たり、今よりはプライベートに踏み込みやすくなるのかなと…！）






　

( 運転席へと座るや否や直ぐに手帳に差していた赤ボールペンで地図に付近のビジネスホテルの箇所に丸を付ける。次いでに念には念を入れラブホテルにも。されどその何処にもライアンらしき人物が泊まった履歴が無ければ小さめのホテル類は矢張りハズレなようだと観光地のホテルを潰して行き。レイクウッド内の観光地だけでもまあまあの数はあり案の定今日一日だけで回りきれる筈も無く、結果的に明日以降も続きそうだとバツ印で埋められた地図を見やり溜息を吐き出して。＿＿翌日。署へと出勤するや否や真っ直ぐに相手の元に向かいデスクに地図を広げると「ビジネスホテル類は全滅。やっぱりエバンズさんの言う通り観光地のホテルが怪しいのかもしれない。…今日一緒にまわれる？」昨日の思わしくない結果報告と今日の仕事の予定を訪ねつつ、「南側のホテルは比較的安く泊まれるみたい。」と情報を付け足して )


（ ／ あ、いいですね！仕事が終われば真っ直ぐに病院に行ってあれ食べろこれ食べろというベルにうんざりしたような顔するエバンズさん…申し訳ないけど想像してにやけます…！是非その流れでいけたらなと思います！出張是非です！殺人事件なような大きなものじゃなく比較的あっさりと解決出来そうな何かの警備とかで行くはめになり、残りは観光とかも少し出来たらそれはそれで楽しそうです。プライベートに少しでも触れられる事で更なる発展や一面が見れたりする可能性もありますもんね。是非食事後の流れはそれでお願い致します！ ）

　






（　聞き込みは相手主導で行って貰い、自分は署内に残りこれまでの情報整理や監視カメラの映像確認などを主に担っていたものの今日は外に出ようと思っていた所。デスクに広げられたバツ印の並ぶ地図を覗き込み大方の状況を把握すると付け足された情報に頷き。「ああ、今日は俺も出る。なら南側から調べて、ハズレならビーチ沿いの観光地を回ろう。__被害者のエミリーは敬虔なクリスチャンで、以前の職場も教会に併設された幼稚園だったらしい。州さえ特定すればその条件で絞り込むのはそう難しい事じゃない。こっちに来ていた証拠さえ押さえられればライアンを叩ける。」---コートを羽織り車に乗り込むと南側の地域へと向かい。今は定職についていないらしいライアンがなるべく滞在費用を抑えようと考えた可能性は高い。不確かな仮説で動いているのだが、行き詰まっている今はこれに賭けるより他無い。ホテルの受付けに写真を見せて見覚えが無いかを尋ねる地道な聞き込みを始めて。　）


（／既に見せたくない状況をいくつも目撃されている気まずさがあるのに飽きもせず構われてうんざりしつつ、でもそれが自分の中で本気の拒絶や嫌悪感では無い事に本人も気付き始めるかもしれませんね…！警備くらいが確かに調度良さそうです。少し観光をしたりお酒を一緒に飲んだり、仕事やプライベートの話をしたり…事件に追われていない2人が見られるのも距離を少しずつ縮めて行けるのも楽しみです。お言葉に甘えて出張を食事後の展開に置かせていただきますね！）






　

( 相手と共に捜査するのが久しぶりだと思うくらいにはある程度の時間が経っていたように思えた。一軒一軒「この顔に見覚えは無いですか？」としらみ潰しに探す作業を続けて数時間が経った頃には南側の観光ホテルも全滅状態。地図に更なるバツ印が増えた事にウンザリとした気持ちになるもまだ希望がゼロになった訳では無い。途中の休憩を挟みつつ次はビーチ沿いの観光ホテルで聞き込みの再開を。＿＿有力な情報を得られたのは三個目のホテルでだった。支配人こそあまり記憶に無いと答えたものの、たまたま泊まっていた女性が彼と会話をしたと言うのだ。何でも今回の事件の被害者であるエミリーを探していたと。彼はエミリーの兄だと名乗ったそうだが勿論嘘に決まっている。これでライアンが何らかの形でエミリーの居場所を知った可能性が浮上した。それからまた数時間後、漏れていたビジネスホテルから先程と同じ話が出て写真を見せた結果ライアンを泊めた事が判明。宿泊名簿にも監視カメラにもバッチリ記録されていた。「エバンズさん、これでライアンを引っ張れるね。」長かった事件もこれで解決まで一直線かもしれない。署に戻って早急に手続きをしようと意気込んで )


（ ／ そうやって自分の中にある新しい感情にエバンズさんも、ベルもまた気付いていく様子が見れるのが楽しそうです！お酒もいいですね！時には息抜きをしなければ、と飲みながらいろんな話が出来たらなと思います。この後の展開もますます楽しみになってきていてワクワクが止まらない状況です！まずは事件の解決に向けて、よろしくお願い致します！ ）

　





（　兄を名乗り被害者を探していた、というのはかなり大きな情報だった。ライアンが事件当日家に居たという証言も完全な嘘という事になる、自身の暴力が原因で別れていながら元妻に執拗なストーカー行為を繰り返し、引っ越し先を特定してまで接触を図ろうとしていた。自己中心的な怒りで彼女を殺害しようと企てた可能性は大いにあると言える。更にその後の聞き込みで、とあるビジネスホテルに2週間近く宿泊していた事が分かり、疑惑は深まる。事件の日ニュージャージーに来ていたとなればすぐにでもライアンを逮捕する事は出来るだろう、その後の事情聴取で証拠を突き付け罪を認めさせる必要はあるが、何にせよオハイオの担当署に連絡を取らなければと。---しかし捜査の途中から、あの軽い眩暈のような感覚が起き始めていて口数は少なく。薬を飲もうとしたもののこの所忙しく失念していたようで、手持ちは既に無くなっていて。帰りの車で少し休めば良くなるだろうと思ったのだが、その前に体調が急変した。オーナーに礼を陳べホテルを出る直前のロビーでの事、突然ぐらりと視界が大きく揺らぎ咄嗟に手近にあったイスに掴まる。ガタンと、思いのほか大きな音が立ったのだがそこから体勢を立て直す事が出来ず、突然の激しい眩暈に吐かないようにするのと途切れそうになる意識を保つのとで精一杯で。　）


（／楽しみな展開が目白押しで贅沢過ぎる程です…！そうですね、まずは事件解決に向けて此方こそ宜しくお願いします！）





　

( 此処に来ての有力な目撃証言は事件を解決するのに大きく関わって来る。結果的にライアンは嘘を付いていたと言う事もわかった訳だし後はオハイオ州の管轄と話さえ付ければ逮捕も目前だろう。エントランスの向こうに見える空は茜色に染まって来ており、このまま署へと戻れば今日は日を跨ぐ事無く家へと帰れそうだと考えつつホテルを出ようとして。＿＿鼓膜を揺らしたのは椅子が立てた音だった。ハッとしたように振り返ればあの日署内で見たのと酷似した相手の姿。不味い、こんな所で、と慌てたように駆け寄り顔を覗き込み「エバンズさん！薬何処！？」と声をかけるも周りにチラホラと居たお客さん達が騒ぎ始める。それに釣られるようにホテルの係員が「今救急車呼びましたので！」と。あっという間に騒がしくなったロビーは最早てんやわんや状態。あの日のようにネクタイを外しそれを自身の鞄へしまい第一ボタンを外す。それから相手のコート、ジャケットのポケット、鞄の中を弄り薬の錠剤を探して )


（ ／ それでは、背後は一度失礼致します！また是非お話を！ ）

　





（　異変に気付いた相手に名前を呼ばれ、周囲に騒めきが広がり始めるのは聞こえていた。救急車なんて大袈裟な事にするのは辞めてくれ、少し休めば良くなると言いたいのだがその余裕は無く、ポケットや鞄を弄られる感覚があったのだが、生憎出てきたとしても空のシートしか無いだろう。此の所消費が多かった事を確り気に留めておくべきだった。あの日のようにフラッシュバックや過呼吸の症状を外で起こしてしまわなくて良かったと辛うじて思うものの、やがて揺らぐ意識は闇に飲み込まれ、身体を支えていたイスからも手が離れるとその場に倒れ込んで。---そこからの記憶はかなり断片的なものだった。遠くで響くサイレン、自分の名前を呼ぶ声、機械的な音。それに加えて呼吸がかなり楽だった事と、手元が温かく包まれているような感覚は感じていたのだが、やがてまた意識は閉じてしまい。　）