刑事A 2022-01-18 14:27:13 |
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( 此方の問い掛けの後僅かに空いた間。その後の答えは凡そ予測出来たもので、矢張り都会の本部ともなれば起きる事件は勿論の事、地方の署から来る報告書諸々の数も多いのだろうと少し困った様に笑い。「それなら良かったけど、無理はしないでね。」掛ける言葉は1年前から何も変わらない相手の身を案じるもの。__その後また少し流れた沈黙。ふ、と一瞬チラつく不可思議な感覚を覚えた。それは記憶や物理的なものでは無い、もっと、言葉に出来ない言うなれば直感。何故だろう、言葉にされた訳でも表情から読み取った訳でも無いが相手は“何か”を心に閉じ込めている気がしたのだ。「……何かありましたか?」無意識な敬語と努めて穏やかな声色で沈黙を破ると、その答えを待って )
( 相手に問い掛けられ、何故か“隠し通すのも限界だ”と言った警視正の言葉を思い出した。些細な所から異変に気付かれ、結局中途半端に隠し通せなくなるのでは二の舞だ。全てに蓋をして表向きを上手く取り繕っていれば、警部補の立場を失う事にはならなかったかもしれない、と。「______いや、何もない。」相手の問い掛けに対して、一度は隠し通す事を選ぶと「…数ヶ月前に、アンバーが来た。レイクウッドは忙しいらしいな。」と、話を変え相手に訊ねて。 )
( 少しの沈黙を置いて返って来た返事はそれ以上を問えないものだった。“何も無い”が嘘か本当かは現段階で判断出来ないのだから「そっか、」と小さな違和感を宿したまま頷き。話がレイクウッドへと移る事で記憶は数ヶ月前の本部応援の頃まで遡る。「アンバーが自ら志願しての応援だったんだよ。当たり前だけど本部は広いって言ってた。」警視正から本部に応援を派遣すると言う話が出た時、己は挙手しなかったが代わりにアンバーが珍しく“行きたい”と申し出たのだ。__そして帰って来たアンバーは本部での仕事の事や初めて訪れたワシントンの事を嬉々として話したが、他は話す事無く相手との“約束”は確りと守っていた。足先が冷たくなりほんのりと部屋が寒くなっている事に気が付くと一度立ち上がり部屋の隅の電気ヒーターを点ける。小さな機械音が鳴り程なくして部屋は温まるだろう。再びソファに戻ると「…そうなの。こう、何て言うか…新しい警部補が来たんだけど私も含めた皆が上手く馴染めなくてね。仕事が効率良く回らないのが忙しい原因なのかもしれないけど、もう1年になる訳だしそろそろ慣れるとは思う。だから、此方は大丈夫だよ。」その通りだと肯定はしつつも、相手に余計な心配をさせぬ様言葉は選んで )
( レイクウッドに居た頃にはやや控えめな印象を受けたアンバーが自ら望んで本部に来たと知り軽く頷きつつ「本部が特別だと言うつもりはないが、経験を重ねるのは刑事としての成長に繋がる。」と彼女の選択を肯定する言葉を選んで。「気遣い上手だとクレアも喜んでた、」ジョーンズが彼女を褒めていた事を伝えつつ、レイクウッドに新しく赴任したという警部補は誰だったかと思い出そうとするのだが、自分の顔見知りの刑事ではなかったはずだと考える。「…効率よく課が回るよう手配するのも仕事だと思うけどな、」ちくりと皮肉を言いつつ、相手が“此方は大丈夫”と告げるたびに、安堵する気持ちと共に何故かレイクウッドが遥か彼方、手の届かない所にあるような気がしてしまうのは自分が後ろ向きになっているからだろうか。また暫しの沈黙が続いた後「_______ミラー、」と相手の名前を呼ぶ。自分の惨めな状況を相手に話すつもりなどなかったのに、どういうわけか喉まで言葉が出かかっているのだ。 )
__私も、応援の機会があれば志願してみようかな。
( “あの時”は公私混同を含む沢山の複雑な気持ちが邪魔をして出来なかったが、今なら本部に応援に行っても確り仕事が出来る気がした。「そう言えば、数ヶ月前にクレアさんとも電話したの。今度ご飯に行く約束も出来たんだ、」相手の口からジョーンズの名前が出た事で表情が緩まる。彼女と話した相手に関する話は勿論伏せたまま、言葉の端々に楽しさを滲ませ。__再び訪れた少しの沈黙の後。僅か落ちた様に感じる声量で名前を呼ばれると「…どうしたの、エバンズさん。」と、先程問い掛けた時と同じ、柔らかく穏やかな声色で意識的に相手の名前を同じ様に呼ぶ事で先の言葉を紡げる様にと )
( ジョーンズの話が出ると、相手の声色が弾むのが電話越しにも分かった。不自然だったであろう呼び掛けにも、相手の返答は穏やかなものだった。「______刑事課を離れた。今は、……もう刑事じゃない、」たっぷりの時間を要して、漸くそう言葉を紡ぐ。“刑事ではない”という現実は、言葉にする事でより現実味を増して重くのし掛かった。本部での警部補という立場を、たった1年しか務め上げる事が出来ずに降りる結果となった事はあまりにも情けがない。またズキリと痛みが走り、浅く息を吐き出す事で其れをやり過ごす。僅かに身体の向きを変えると「…1年で降ろされたんじゃ、世話は無いよな。」自分自身を嘲笑するかのようにそんな言葉を紡いで。 )
( 促しの後の間は長く、それでもその間相手の言葉を急かす事はせず落ち着いたタイミングで話せる様にと待ったのだが。__漸く振り絞る様に紡がれたのは想像を遥かに超える事。刑事じゃない、とは一体どう言う意味だ。何かがあって休職をしている訳でも、調子が悪くて療養している訳でも無く言葉通り“辞めた”と言う事なのか。余りに衝撃的な事実に息を飲むばかりで言葉は出ず、今度は此方が沈黙を落とす事となり。同時に先程の問い掛けへの答えは、相手がまだ“警部補”として本部に居た時の様子を話したのだと察する。浅く吐き出された息の後、自嘲気味続けられた言葉でそれが相手自身の意思では無かったのだろう事に気が付くと、「___理由を聞いても良い?、」一度深く息を吐き出しソファの上で背筋を正し、恐らく上からの命令で相手が何を言った所で覆る事は無く今の状況なのだろうが、何があったのかは知りたいと、拒否の道も作った上での問い掛けを続けて )
( 体調を崩し上層部からの強制的なストップが掛かった。根本の原因を言えばそうなるのだろうが、理由としては求められる仕事を満足にこなせなくなったからに他ならない。「______求められるだけの成果を上げられなかった。上からの命令だ、」言葉少なにそうとだけ答えると、体調の悪化について触れる事はせず「…今はFBIアカデミーに所属してる。毎日座学の担当だ。」と現在の仕事を告げて。本来であれば銃器の扱い方や実践的な捜査を行う授業などもある訳だが、其れらは担当していないためひたすら座学の講義を行う日々なのだ。 )
( 相手の刑事としての優秀さを約2年間近で見て来た。自分自身の不調を薬で抑え込み全ての捜査に私情を挟む事無く全力で挑み、被害者や遺族に誠心誠意向き合うその姿を見て、憧れ、相手の様な刑事になりたくて此処まで来た。その相手が“求められるだけの成果を上げられなかった”だなんて。何かの食い違いがあったか余っ程の理由があったと考えるのが普通だ。__FBIアカデミーの座学担当になれば捜査に出る事は勿論無い。時間を問わず急な呼び出しがある事も、夜中まで仕事をする事もほぼ無いだろう。つまり、相手には十分身体を労る時間が取れると言う事だ。無言のまま相手の紡ぐ言葉を脳内で繰り返し、何があったかの想像をした結果__全身の血の気が引くのを感じた。襲うのはとてつもない恐怖。それは薬も効果を発揮せず、一時の“長期療養”などではもう無理な程に、相手の身体も心も限界だと言う事ではないのか。「…っ、」だとすれば、相手はどれ程の苦しみを長い間1人耐えて来たのか。そうして相手が最も嫌がる“体調のせい”で刑事を降ろされた今、どれ程の絶望と無力感の中に居るのか。何も知らなかった。勿論知った所で己が上の決定を覆せる訳でも無ければ何か出来た訳でも無い、けれど心が痛いのだ。「……エバンズさんの、望む仕事じゃないよね、」視界が歪んだのは心が震えたから。同時に唇も震え、漸く紡ぐ言葉も震える。相手の身体も、心も、心配で堪らなかった )
( 耳に当てたスマートフォンから聞こえた相手の声は小さく震えていた。自分が刑事である事に拘る、その理由を知っているからこそ此方の状況に心を寄せてくれているのだろうか。自分の代わりに、悲しみ、悔しがり、哀れんでくれているのだろうか。「……望む仕事では無いな、」暫し考えた後に、素直に相手の言葉を肯定する。刑事として現場に立ち、事件を解決する事こそが自分の望む道だというのに、今は其れすら叶わない。「______全てが中途半端だったんだ。もっと遣り様があった。…今更後悔しても、刑事に戻れる訳じゃないけどな、」無理をするなら、もっと完璧にこなして見せなければならなかった。誰にも気付かれないように。無気力にソファに横になったまま天井を見つめ、深く溜め息を吐く。「暫くは今の仕事をこなすしかない。頃合いを見計らってもう一度打診してみる、」冷静に先を見据え“前向き”に受け止めているかのような、物分かりの良い言葉を紡ぐのは、そうとでも言っておかなければ、歩みを止め本当に全てが潰えてしまいそうだから。全てが辛いのだと、子供が喚くように黒くドロドロしたものを吐き出してしまいそうだからだ。そこに本心はない。「お前も、無理はするなよ。」と、表向きだけ取り繕われてやけに”綺麗な“言葉を紡いで。 )
__“遣り様”?
( やけに素直な肯定に感じた僅かな違和感、それを追尾する間も無く淡々と続けられる言葉の中にあった一言、それを聞くや否や唇の震えがピタリと止まった。「遣り様って何ですか…?」もう一度唇の震えが戻るとしたらそれは悲しみからでは無いだろう。「エバンズさんの言う遣り様って、つまり“もっと上手く隠す”事…?」自分でもわかる程に声量は落ちスマートフォンを持つ指先に力が籠る。まるで何処か他人事の様にさえ聞こえる、余りに冷静で明らかに心に蓋をした“前だけを見据えた”言葉も、此方を気遣う言葉も、そんなものは現段階で一言だって聞きたく無い。「__それが本心じゃない事くらい顔を見なくたってわかります。…そんな綺麗な言葉じゃなくて、心にある“本当の言葉”を聞かせて。」揺れる心を抑え告げたのは極めて真剣な色宿る言葉で )
______もっと上手く隠し通せていれば、刑事課を離れる事にはならなかった。
( 相手の言葉に被せるようにして、其の憶測を肯定する言葉を紡ぐ。限界だと気付かれさえしなければ、周囲に異変を察知させなければ、刑事では居られたのだ。「刑事でなければ、何の為に立っているのか分からない。捜査に行かなくなっても、1日中座ったま講義をしても、何も変わらない。苦しいままだ、」仕事が変わっても身体が楽になる訳でもなく、気持ちばかりが落ちて行く。蓋をしていたものが溢れていくのか言葉を紡ぐごとに感情が乗ってしまう。「自分でも、満足に捜査が出来なくなってる事くらい分かっていた。成果も上げられず、それでも刑事でいさせて欲しいなんて、言える訳がない、…っ」誰にも言えずにつかえていた、内側に押し留めていた汚い気持ちが、ボロボロと零れ落ちていく。吐き出す息が震え、スマートフォンを持つ手に力が籠って。 )
( 相手が選ぶ道は、選べる道は、何時だって“隠す事”。自らの心に分厚い氷を張りその上から重たい蓋をする。そうやって懸命に立ち続けても尚、相手の前には高い壁が立ちはだかり、傷だらけになりやっとの思いでその壁を超えたとしても次は無情にも足元が崩れる。相手は何も悪く無い。不調に繋がる何もかもは全て“あの事件の犯人”が招いた事だ。苦しむべきはたった1人しか居ないのに。__何も言える筈が無い。何を言っても相手の心を楽になんて出来ない事が今回ばかりはわかるのだ。ただ、悔しくて涙が止まらない。噛み締めた奥歯が軋み、痛むのも気が付けないくらいに悔しい。電話越しの相手の息が震え、余りに大きく渦巻く感情が溢れ出しているのがわかる。「…私は今、っ…腸が煮えくり返るくらい腹立たしいし、泣き喚きたいくらい悔しい…!、でも…ッ、本当に悔しくて泣きたいのはエバンズさんの方だって、……何で、っ、エバンズさんばっかりがこんなに苦しい思いしなきゃいけないんだろうね
……っ、」ボロボロと堰を切った様に流れる涙に邪魔されながら、僅かに俯く。相手ばかり、相手ばかりが何故こんな思いをしなければならないのか。物分りの良い振りも、諦めも、何もかも相手には必要無い。責めたい人を責め、言いたい事を言えば良いと思った。例えどれ程汚い言葉であってもその全てを聞き届けたいとさえ思うのだ )
( 自分一人では泣く事が出来なかった。どれ程苦しくても、絶望に叩き落とされても、ただ耐える事に必死で心に蓋をして、涙を流すだけの余裕が無いと言うべきか。けれど、相手が側に居る時だけは______相手が涙を流す時だけは、自然と泣く事が出来るのだ。悔しいと涙を流す相手の声を聞きながら、涙が溢れるのを感じた。「忘れている筈だったのに、些細な事で当時の記憶が蘇る…っ、動きたいのに、身体が言う事を聞かない…いつまで経っても一歩も進めない自分に、心底嫌気が差す、」事件を起こし、多くの人を絶望に突き落とした本当に責められるべき存在は一生失われ戻る事はない。その状況から、いつしかやり切れない気持ちの矛先は自分へと向くようになってしまった。葛藤を口にしながらも、紡がれるのは自分自身への嫌悪。雁字搦めになったまま、苦しいのだと訴える。長く身体の調子が優れない事は心身を消耗させ、暗い深みへと徐々に身体ごと引きずり込まれていくような感覚だった。 )
( 吐き出す息が震え、喉の奥で言葉が引っ掛かるのを聞いて涙を流せている事がわかった。その事には安堵するがだからと言って相手の苦しみが綺麗さっぱり無くなった訳では無い。震える唇から紡がれる言葉は全て“自己嫌悪”で、動きたくとも動けない葛藤の中身動きが取れず立ち尽くして居るのがわかるものだから、そうでは無いのだと、一生このまま何て事は絶対に無いのだと、今の相手に例え届かなくとも伝えたかった。「…エバンズさんの望む道は必ず敷かれます。ずっとこのままな筈が無い。ずっとエバンズさんだけが苦しい筈が無い。っ…そんな事、絶対にあっちゃ駄目だから、」スマートフォンを持たない片手を強く握り締め昂る感情を抑え付けながら、言葉を繰り返す。「エバンズさんはちゃんと進めてるよ。そうは思えないだろうけど、私が知ってる。__今はね、エバンズさんの嫌いな“休憩中”なだけ。休憩には必ず終わりが来るから、そしたらその時……、」“その時”。後に続けようとした言葉を思わず飲み込んだのは、相手が本部に異動した理由を知っているから。けれど、これが“心に正直”な気持ちなのだとしたら、「…近くに居たい。___戻って来て、エバンズさん…。」心からの想いが言葉に乗り、漸く小さな音として放たれた。そのまま少しの沈黙が落ちて )
( 相手の素直で真っ直ぐな言葉に、返事をする事は出来なかった。自らの意志でレイクウッドを離れたのに、1人で抱え切れなくなったものを相手に支えて貰う為に______苦しさを少しでも薄れさせる為に、レイクウッドに戻るのはあまりに身勝手だ。自分が戻って、またミラーに危害が及んだらどうする。「…レイクウッドに戻れば、……少しは楽になるんだろうな、」本部と違って刑事として仕事を続けられるかもしれないし、事件の頃に見ていた景色を見る事もない、側で寄り添ってくれる相手がいる。けれど。「______今は、未だ戻れない。」静かに紡いだ言葉は非情なものだと思われるだろうか。自分が楽になれても、またミラーが苦しむような事になれば自分で自分を許せなくなる。「…お前と話せて良かった、」暫しの間を置いて、幾らか気持ちが落ち着くとそう告げてソファから起き上がり。 )
( __そう、苦しみの全てが無くなる訳では無いがレイクウッドに戻れば何かが変わるかもしれない。此処でなら本部程の忙しさも無いのだからと警視正は再び相手を刑事に戻すかもしれないし、相手の主治医であるアダムス医師も居る。相手は嫌がるかもしれないが定期的に病院に通い、薬だけじゃなく別の方法も取り入れながらまた働く事が出来る様になる可能性だって大いにあるのだから。相手もそれをわかっている。わかっていながら、それでも首を縦には振らなかった。けれど。「__…エバンズさんが本部に戻った本当の理由、私知ってるよ。」電話を終わらせようとする言葉尻に被せる様にしてそう告げる。今本当に苦しいのは相手なのだから、他の誰の事を考えるのでは無く、相手自身の心を一番に優先して良い筈なのに相手はそれをしない。理由を言う事も無く水面下で守り抜こうとするのだ。「…私は、何時だって遅いね。守られてる事に気付きもしないで、ただ泣くだけで、何も見えてなかった。…“大丈夫”に何の根拠も無いのにね、」ぽつ、ぽつ、と話すのは相手が隠し通そうとした真実。静かな部屋の中で、時計の針の音と、電気ヒーターの僅かな機械音だけが響いて )
( 相手の口から思い掛けない言葉が紡がれると、思わず沈黙が生まれる。異動を決めたきっかけについて相手には話していないのだ。「……本部異動は自分の為だ、」と、此れ迄も説明してきた理由を重ねるも、相手がまるで全てを知っているかのように言葉を続けるものだから、後に続く言葉が無くなる。アンバーもジョーンズも、相手には言わないと言っていた筈だが、何処から其れが相手に伝わったのか。何にせよ”隠し通す“事が下手になっているのは間違いない。「______俺が嫌だったんだ。お前を守ろうとか、崇高な事を考えた訳じゃない。」暗にあの一件がきっかけになった事は認めつつも、あくまで自分の為に動いたのだという主張は崩さずに告げる。「…だから、未だワシントンを離れるつもりはない。」今はこの場所で、例えそれが望まないものであったとしても目の前の仕事だけをこなさなければならないと。 )
( 例え相手が“自分の為”に決めた異動であったとしても、結果的に守られた事は事実だ。相手がそれを頑なに認めなくとも。犯人も捕まっていない今、“私は大丈夫”だと言う以外の言葉が見付からない中で相手の心を変える事はきっと出来ない。「__私は、私の見えない所でエバンズさんが苦しんでるのが嫌だ…、」余りに小さく落ちた言葉は再び震える。「私の見えない所で泣いてるのも嫌だし、私の見えない所で耐えてるのも嫌だ。でも…っ、1人で全部背負って“隠される”のはもっと嫌…。“隠す”なら、私の目の前で隠して…!」嫌だ、嫌だ、と何もを否定するまるで我儘な子供の様に相手がたった1人で頑なに貫く気持ちや負の感情を隠す事を嫌がり。__以前は気持ちを隠される事の全てが嫌だった。けれど相手の中に染み付いたその“癖”はそう簡単に変えられるものでは無い事を知った。ましてや不器用で優しい相手なのだから、人に弱みを見せる事を良しとしない相手なのだから、尚更。それならば、せめて己の前で、と思うのだ。相手が隠し通そうとする“本当の気持ち”を全て掬い上げて吐き出して欲しいと、一緒に寄り添い、一緒に解決策を考えたいと、そう思うのだ )
( 相手の目の前で隠したのでは、其れは隠した事にはならないと少し笑う。「それじゃあ隠せていないのと同じだろう、」と言いつつも、自分が必死になって蓋をしようとしている様々な感情を素直に受け止めてくれる存在というのはとても大切なものに思えた。「_______次に会う事があったら…その時は話を聞いてくれ、」今はこんなにも離れているが、もしまたレイクウッドか、或いはワシントンで会うことがあったら、その時は自分が胸の内に溜めた様々な感情を聞いて欲しいと、そう告げて。 )
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