刑事A 2022-01-18 14:27:13 |
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( 口角を緩め笑みを浮かべた相手のその表情にも喜びを覚えた。相手からすれば今も尚可愛い後輩であるエバンズの容態の安定は絶対的に安堵に繋がるものだろう。相手の心にもまた光が宿っただろうと感じるから。“考え過ぎてネガティブになるより動く”__すんなりと胸に落ちたその言葉はまた別の角度の“希望”の様に思えた。確かにその通りだ。頭であれこれと考えるより心に従う、行動する、それが時にとても大切な何かを生む時がある。「本当に。…話が出来た訳じゃないけど、エバンズさんの顔見たら元気が出ました。」何処となく気恥ずかしさを覚えつつも、今の気持ちに素直な真っ直ぐな返事をして。と、その後に続けられた言葉には思わず瞬く。感情に乏しい訳では無いが“尻尾”だなんて、そこまで分かりやすいとは自分では思って無かったからだ。「……そんなにですか?」と、些か怪しみを込め僅かに首を傾けはしたものの、何処が、何が、と追求する事は無く。__電気が消され暗くなったフロア内、自分達の居る警部補執務室だけは明るい光に包まれていて、その中で至極真剣な表情で以て映像を確認する。ほんの僅かの違和感も見逃さぬ様に、瞬きすらも忘れるくらい本当に真剣に、それは眠気すらも何処かに追いやるくらい。_肩に力が入っていたその余計な緊張を解したのは相手のぼやきだった。確かにこれだけ長い時間映像を見ていてもエバンズが執務室から出て来たのは片手の指でおさまるくらいの数。何時だって此処に閉じこもり、まともな食事を摂ってるのかも怪しい状況で眉間に皺を寄せた険しい顔で書類やパソコンと睨めっこをし、出て来るのは捜査に行く時、飲み物を淹れる時、トイレに行く時くらいと言っても過言では無い。「その内此処で寝泊まりする様になるんじゃないかって心配で、」と肩を竦め、態とらしく溜め息を一つ。そう思えば相手とエバンズは行動面で言えば真逆かもしれない。“自由人”と、何時かの飲み会の日に聞いた単語を思い出し思わず苦笑いを浮かべ。__その後、映像にはエバンズに用事のある署員達、サラやアシュリー、警視正の姿何かもちらほらと映り、その中でこの事件の犯人である総務課の男性派遣社員の姿も何度も映る事となり )
ルイス・ダンフォード
( そのうち執務室に寝泊まりを始めるのではないかという相手の懸念。彼ならやりかねないと、深刻な事態だとばかりに態とらしい真面目な表情を浮かべて同意を示した。まだ全ての映像を確認した訳ではないものの、此処まででも執務室に訪れている回数の多い署員は絞り込めるかもしれないと相手に声を掛ける。当然ながら皆一様にレイクウッド署で働いている一署員。見知った人物の名前が、捜査線上に上がってくるというのは相手にとってもあまり気持ちの良いものではないだろう。『俺が確認した映像で現段階でエバンズの元を訪れている回数が多いのは、刑事課と総務課の署員だな。お嬢ちゃんと警視正は省くが_____サラ・アンバー、ジェイコブ・スミス、サム・テイラー、グレッグ・クーパー。この辺りはほぼ毎日エバンズの元を訪れている。』アンバーとスミスは仕事内容的にも普段からエバンズの元を訪れることが多く、エバンズも2人の名前は把握しているだろう。テイラーは今担当している事件の捜査を始めてからエバンズに報告を求められる事が増え、行きたくないと同僚にぼやきながらもエバンズの部屋を度々尋ねていた。クーパーはここ最近刑事課の経理処理などを担当しているらしく総務課から度々エバンズの部屋を訪れている____あの男だ。 )
アシュリー・ベイルも数回出入りしている様ですが__回数的には除外かと。
( 捜査の為の映像確認とは言え何だか“盗撮”にも似た気持ちも少なからず覚えてしまうのは、同僚であり友人でもある人達を疑いの目で見なければならないからだろうか。自身が確認している映像の中にも相手の方の映像と同じ面々が映っていて、その中にアシュリーの姿もあるが回数的な事を考えれば“容疑者”に加える事は無い筈。「アンバー、スミス、テイラーの3人は刑事課の者ですが、彼は総務課の派遣署員で___、」相手が口にした数名の至極簡単な説明をしようとして、言葉が止まる。画面に映る【グレッグ・クーパー】の姿を見詰め、次に顔を相手に向けては「…一度、エバンズさんの居ない時に此処で顔を合わせました。確かマーティンの名前が新しく容疑者としてあがった時だから、」何処と無く緊張の様な色滲む表情で映像を早送りし、その場面で再生を。そこには書類を持ったグレッグが執務室に入り、それから直ぐに部屋に入る己の姿が。もう少し進めば部屋から出る2人も流れるだろう。「その時は、エバンズさんに渡さなければならない経費関係の書類があるとかで。」つまり、だ。マグカップに毒を塗るとなれば当たり前ながら部屋に誰も居ない時じゃなければならない。エバンズが居て、彼に用事がある時では駄目なのだ。生憎この部屋に監視カメラは無い。名前の上がった他の人達の時はこの部屋の具合がどうだったのかも確認しなければならないと思いつつ )
ルイス・ダンフォード
( エバンズの部屋を訪れている回数が多い人物を絞り込む所までは、滞りなく進んだと言えよう。既に日付を跨いでいる訳ではあるが。ただ相手の言うようにエバンズが部屋にいる時では毒をマグカップに仕込む事など出来ない。エバンズが部屋に居ない時に度々部屋を訪れている人物を割り出す必要がある。調べるべき日を更に絞り込んで効率よく確認をする為には_____『…お嬢ちゃん、事件の捜査がどういう日取りで進んでいったか覚えてるか?いつ何の捜査を行ったか、誰に話を聞いたか、何処に出向いたか。そういう大雑把な記録みたいなもんだ。それがあれば、捜査を軸にあいつが体調を崩していた日を思い出せねぇか?』捜査を行う上で、いつ何をしたかの記録があれば、捜査の動向と合わせてエバンズが大きく体調を崩した日を思い出せるはずだ_____相手ならば。どこに行った時、誰に話を聞いた時、エバンズの調子が悪そうだったと、相手ならば覚えているだろうと踏んだのだ。『検出された毒は即効性こそないが、その日の内には効果が出る。エバンズが体調を崩した日、更にその日の捜査に出向く前のエバンズが部屋に居ない時間帯。そこの映像を調べて人物が特定できれば、そいつが黒だ。』と自分の想定を説明して。 )
( リリー殺害事件、最初は比較的スムーズに進むと思っていたのだが途中から容疑者が増え絞込みの捜査にも時間が掛かったのだ。相手の想定通りに行けば確かにこの部屋で1人になる事が出来た人物を__エバンズに毒を盛った犯人を見付ける事が出来る。「待って下さい、聞き取りをしたメモを見れば、」鞄から手帳を取り出しデスクの上に置く。座る相手の隣に立ち開いた手帳には日付け、時間、を最初に聞き込みをした内容が書き記されていて。__リリーの母親への聞き込みから始まり、大学での聞き込み迄は良かったのだ。この後、「…此処が最初です。此処で初めてエバンズさんに鎮痛剤をわたして、クリスへの聞き込みの後、症状が悪化しました。エバンズさんを自宅に送ってから、もう一度ペットショップに戻って聞き込みをして__さっきのグレッグとの遭遇に繋がります。」ページを開き、そこに書かれている自分の字を追う毎にその時が思い出される。事件の事は勿論、同時進行する様に体調を崩すエバンズの苦しそうな表情も。この後、エバンズの家に二回泊まった事は勿論伏せるものの、その前段階としてエバンズがトイレで“家に帰りたい”と訴えた事や、捜査が進む中でどのタイミングでリリーの遺体を見付けたかなども思い出し。メモを巡るのに合わせて監視カメラ映像を早送りする中で、グレッグがまた1人執務室に入る場面があった。それは己が1人でマーティンの家に聞き込みに行ってる時間の事。この時果たしてエバンズは何処に居たのか思い出せないのだが、リリーの遺体を見付けた後の事は覚えている。「…この時、エバンズさんが調子を崩したんですが、グレッグが来て、3人で顔を合わせました。」明らかに調子の悪そうなエバンズを見て、動揺したグレッグの顔を良く覚えていた。その後はエバンズが倒れ病院に搬送されるまでの流れで。「……私達が捜査に出てる時、この部屋に入ったのはグレッグだけ、とはいきませんが回数で考えたら多いと思います。後の人達は比較的エバンズさんが居る時に来てるんじゃないかと。」固い表情で、真剣な眼差しで、一つ息を吐き出して )
ルイス・ダンフォード
( 相手の証言があった日付の映像を遡り、総務課の男がエバンズの部屋を訪れているかどうかを確認する。その結果、彼が体調を崩したという日の朝方や捜査に出て不在にしている間に数度グレッグが書類を持って執務室を訪れている事が分かった。『お嬢ちゃんの言うエバンズが体調を崩した日_____この総務課の男は概ね此処に足を踏み入れているな。…此れを見ろ。日中に別の署員に書類を渡してるが、通りすがりにこの部屋を見てる。エバンズが居たんだろう、中には入ってねぇが気になるな。』相手に見せた映像には別の署員と書類を手に話をした後、通りすがりにエバンズの執務室の中を確認するグレッグの様子が映っていた。その日は朝既に書類を手にエバンズの部屋に入っているが、書類を催促する様子はなく刑事課のフロアを出て行っている。『…こいつについては調べた方が良さそうだな。いつからレイクッドで働いているのか…派遣なら履歴書なんかも総務課にあるだろう。』現時点で1番怪しいのはこの男だと仮定すると、素性についても調べる必要があると。 )
( 記憶と、メモの内容と、カメラ映像をまるでパズルのピースを合わせるかの如く当て嵌め導き出したのは矢張りグレッグは現段階決して“白”では無いと言う事。グレー__何方かと言うと極めて黒に近いグレーであろう。執務室を通り過ぎる際に部屋の中を確認しようとしたその行動は果たしてどんな意味があったのか。「…自分が盛った毒がちゃんとエバンズさんに効いているか…様子を見たかったんでしょうか。」睨む様に画面の男を見詰め、確かな怒りの籠る口調でそう言葉を落としてから、グレッグの調査には同意を示す様に頷き。「リチャードさんに頼めば見せてくれるとは思いますが、その理由をどうするかですね。“刑事課の人が履歴書を見に来た。”なんてグレッグ本人に言われでもしたら直ぐに証拠を消されます。」この事を知ってるのは極僅かの面子だけ。確実に彼を調べるならば、理由は伏せるべきだ。少しばかり考える間を空けた後、「__この時間なら総務課も誰も居ない筈です。“考えすぎるより行動”、ですかね?」先程相手が言った言葉の“ネガティブ”の部分だけを省いたそれは、暗に“忍び込み”をチラつかせるもの。この強引ともとれる考えを相手はどう思うか )
ルイス・ダンフォード
( 本人に勘付かれる事なく素性を探るというのは骨の折れる作業だと考えていた矢先。相手からの提案に相手へと視線を向け少しばかり意表を突かれたような表情を浮かべると、やがて豪快に笑い。『さすがお嬢ちゃん、相変わらず大胆だな!お堅い警部補なら嫌な顔をするだろうが、生憎俺はそういうのは嫌いじゃない。ハッキングなんかはする訳にいかねぇが、書類を見るくらいならなんの問題もないだろう。』そう言うと立ち上がり、ぐぐっと伸びをしてから相手と共に部屋を出る。真っ暗な総務課のフロアの電気を点け、総務課長のデスク付近の棚へと向かう。『人事やスタッフの契約に関するファイルがどっかにあるだろ。それを探すぞ。あとは本人のデスク周りにも何かあるかもしれねぇ。』そう言いながら棚の引き戸を開けてファイリングされた書類の中身を確認し初めて。 )
( 此方の“匂わせた提案”を汲み取り豪快に笑い、意図も簡単に了承して見せた相手は矢張り不思議なタイプで、これまで共に捜査をして来たどの刑事とも違う様に思えた。だからか、相手と共に総務課に向かう道すがらで“このタイプ”の相手に教育された、まだ新米だった頃のエバンズを想像してひっそりと微笑み。__日付を跨いだこの時間、矢張り総務課には残ってる署員は居らず何時もの賑わいは無かった。相手の言葉に頷き「朝までに見つけられると良いんですけど。」と、危惧したのは恐らく契約の書類などかなりの枚数があると踏んでいるから。相手が書類を探す間、己は先ずグレッグのデスク周りから、と部屋の一番奥に向かい__足が止まった。その理由は“何かの違和感”を感じたからだ。彼のデスクはきちんと整理整頓がされていて、必要な物を直ぐに取り出し易い様になっているが、“綺麗過ぎる”気がする。徐に引き出しを開けるがゴチャゴチャと余計な物は入っておらず、言うならば“何かあれば簡単に纏めて出て行ける”状態。「…ダンフォードさん、ちょっと来て下さい。」棚の書類を探す相手にそう声を掛け、相手が来たのならば「少し綺麗すぎる気がしませんか?…勿論性格なのかもしれませんが、それにしては物が無さ過ぎる気が、」と、呟いて )
ルイス・ダンフォード
( グレッグ・クーパーに関する契約書類を探してファイルを確認していると相手に声を掛けられ、それを棚の上に置いて相手の元へと向かう。確かに相手の言う通り彼のデスクはさっぱりとしていて物が少ない印象を受けた。『言われてみりゃそうだな…最近聞くミニマリストってやつか?ここまで物が少ないと仕事にもならなそうだが、』と怪訝そうに口にしてから、デスクの脇に置かれた紙袋へと視線が落ちる。紙袋の中には書類の束が入っていて、その外側には“廃棄”と書かれた付箋。『_____これを見ろ。書類を大量に処分しようとしてる…デスクを明け渡す為に片付けてる最中なんじゃねぇか?』思い至ったのは、このデスクを他の人物に明け渡すために整理整頓を行っている最中なのではないかという事。異動や退職を控えた人物のデスクとして見ればなんの違和感もない、異動期には度々目にしてきた光景だと。 )
…まだ仕事を任されていない新人なら兎も角、
( 監視カメラ映像にもあった通り、グレッグは以前から度々刑事課フロアを訪れ経費に関する書類や様々な仕事に携わった来た筈。腑に落ちない、と僅かに眉を潜めたその時。デスクの脇にある“廃棄”の紙袋に目を留めた相手がその中にある大量の書類を見付けると思わずギョッとし。「明け渡すって……本当にグレッグが犯人だとしたら、証拠もまだ掴めて無いのにこのままじゃ逃げられます。」相手の考えが正しいなら何時から彼は異動の準備をしてきたのか。そうして今話は何処まで進んでいるのか。「明確な証拠があれば…。」と、落とした呟きは思いの外小さかった。「__リスクはありますが、明日の朝一で本人に直接聞くのはどうでしょうか?勿論事件の事では無く、異動の件のみについて。」顔を上げ廃棄書類から相手へと視線を向けては、果たしてどうするべきか、ある意味指示を待つ形を見せて )
ルイス・ダンフォード
( 証拠がまだ出ていない疑惑の状態で男に接触するというのは、疑っている事に気付かれ警戒され、一歩間違えれば隠蔽工作によって証拠を見失う可能性もある。『逃したくない気持ちは分かるが…この状況で本人に退職について聞きに行くのはリスクの方が高いだろうな。_____ただ、それを逆手に取るっていうのは無しじゃねぇな…』一度はリスクが高すぎると懸念を示した提案だったが、上手く使えば尻尾を捕まえられるだろうかと考え込みながら独り言を。『……本人に退職について聞けば、疾しい事がある場合俺たちが疑っている事に気付くだろう。警戒されて証拠を消される可能性もある。だがそれを逆手に取って、揺さぶりを掛ける事はできるかもしれねぇ。疑っている事に気付かせて、動くように仕向けるんだ。被疑者に接触した後、行動を監視する。慌てて証拠を廃棄しようとしたり普段と違う行動があれば任意で事情を聞けるって事だ。明日クーパーが退勤した後を尾行する大掛かりな対応にはなるが、』考えていた方法を相手に告げると、自分は警部補代理の仕事もあるため必然的に尾行するのは相手になると付け加えて。 )
( 普段必要最低限の仕事の事でしか会話をしない相手が急に話し掛けて来た場合、少なからず何かあると疑われるのは必然で矢張りリスクが高過ぎるかと視線を落とすが、間髪入れずに続けられたのはそのリスクを逆手に取る方法だった。態と此方が疑っている事を相手に示しその上で出方を伺うなんて__絶対にバレないと言う事だけを考えていた己にとってそれは視野の広がるもので。相手を見詰め一つ瞬き、漏れたのは“成程”という音の代わりの感嘆にも似た息。勉強になる、と素直にそう思えば数回相槌の様な頷きの後「…では明日、午前中の内にグレッグに接触して行動を監視します。」と、少しの緊張も混じる返事を。それもその筈、今や殺人事件はエバンズと共に多く捜査して来たが、尾行の経験は一度だって無い。バレたらその瞬間に何もかもが水の泡になる程重要だとわかっているからこそ、普段の何倍も緊張するのは当然か。視界の端でチラついた自身の髪を見「……目立つかな、」と誰に宛てるでも無く呟いたのは、比較的目に留まりやすい髪色をしていると自覚があるからで )
ルイス・ダンフォード
( 突然対象者の尾行という提案をされても動じない辺り、相手もエバンズにしごかれながら数々の事件捜査を潜り抜け経験を積んで来た刑事だけある。タイプは違うがジョーンズを前にしていた時の頼もしさに似たものがあると思いながら少し笑って。『わかってると思うが、間違ってもカツラなんて被って来るんじゃねぇぞ。帽子も怪しいからな、髪は結んどきゃあ大丈夫だ。』尾行と聞いて、そのイメージばかりでカツラや帽子、サングラスを使うと思っている若手が多いのだ。以前自分よりも2回り以上離れている新人に、何の変装を準備すれば良いかと真剣な眼差しで聞かれた事を思い出し相手にも釘を刺しておき。 )
( カツラ…とはまではいかずとも、帽子の存在の事は少なからず考えていた。後頭部で髪の毛を全て括り帽子の中にしまってしまえば目立た無いのでは、と。だからこそ此方の考えを読んだ様な忠告に一瞬ドキッとし思わず薄い苦笑いが表情に滲み。“感情がわかりやすい”と言った相手には恐らく気付かれただろう。「…危なかったです。自然体が一番バレないって事ですね。」下手に隠す事はせず先ずは素直に過ちの告白を。気付かれない様に、気付かれない様に、と変装をした結果、それが一番不自然となり目を引く。もしこの先潜入捜査や尾行の任務が降りて来た時にも思い出す事が出来る様心に刻んで置こうと決め。__グレッグへの接触が明日ならば、今出来る事は契約書類を確認し彼の素性を知る事。先程呼び止めてしまった相手と共に再び棚の引き戸からファイルを物色し、ややして人事や契約関係のファイルを数冊見付けると「ダンフォードさん、これ。」と、声を掛けて )
ルイス・ダンフォード
( 相手の表情を見逃す事はなく『お嬢ちゃんの場合は髪を括ってメガネをかけるくらいで良いだろうな。派手な色の服は避けて…後は音の鳴るヒールも履かない方が良い。気を付けるのはそれくらいだ。』と助言しておき。相手が持って来たファイルを開くと、グレッグの履歴書を見つける。以前働いていた会社を一身上の都合で退職して以降は派遣の仕事をしている様子。記載されていた住所を控えておき『俺はこいつの事をもう少し調べてみる。仮にこいつが毒を盛った犯人なら、何かしらエバンズとの接点があったと考えるのが妥当だよなぁ。』と、履歴書を眺めて。 )
( 髪を括る紐も、伊達眼鏡も、底がぺったんこな軽い運動靴もある。黒いTシャツにジーンズを履けば人混みに紛れる一般人そのものだろうと相手の助言に頷き。__グレッグの履歴書は特別不審な点も無く極一般的な派遣社員の様に思えた。勿論履歴書の写真と文字だけで何もかもを判断など出来る筈が無いが、相手の呟く様に落とされた言葉に同じ様に履歴書に視線を落とし。“接点”その単語で一番初めに浮かんでしまうのはどうしたって“あの事件”だ。「…もし彼が“遺族”なら、立派な接点になります。本来恨むべき犯人はもうこの世に居なく、関係者として残されてるのはエバンズさんだけなんだから、」動機としては十二分に有り得ると、まだ決まった訳では無いものの声に少しの怒りや悔しさを滲ませつつ。しかしそれだけを見て後を除外する事は出来ない。「……それ以外の理由なら、例えば過去に逮捕された…注意程度だったかもしれませんが、その事での逆恨みの線はどうでしょうか。」顔を上げ隣の相手に視線を向けた時には、その声色は何時も通りの捜査に向き合う真剣なものに変わっていて、「後者で、それも逮捕まではされていなかった場合、エバンズさんとの接点を調べるのは相当難しいですよね。」と、困った様な息を吐き出して )
ルイス・ダンフォード
( 相手の言葉に頷き『あの事件の犠牲者の苗字はさらってみるつもりだが…関係者として残っているのがあいつだけだからこそ、直接接点のない奴から恨みを向けられた線も排除仕切れねぇ気はするな。…嫌な話だが、』と続ける。あの事件の遺族という線は勿論、直接エバンズとの接点がなくとも一方的に恨みを抱く、という状況も考えられなくはないのだ。全ては、あの事件の関係者がもう1人しか残っていないという忌まわしい状況故に。そうなれば接点を見つけるのは至難の業だ。『それも十分に考えられるな。ただ、逮捕までされないような状況なら恨みを募らせるほどの影響はなさそうだ。毒殺しようと目論むほどにエバンズを恨んでいたなら、例えば逮捕された事で職を失ったとか、恋人を失ったとか、そういう背景があるんじゃねぇか?』と想定を口にして。 )
__そうだとしたら…英雄気取りも甚だしい。
( 残っているのが彼だけだから、それがもし今回の事件の動機なのだとしたら。あの事件の“悪”に制裁を加えてやった、そう狂った正義感に満たされてるのだとしたら。見る人が見ればその嫌悪に塗れた表情に驚くかもしれない。反吐が出る、とでも言いたげに眉を潜め吐き捨てた言葉は酷く冷たく刺々しい空気を纏って地面に落ち。続けられた想定の言葉には再び考える素振りを見せる。確かにそうだ、毒殺まで企てたのならば“相当の理由”があると考えるのが妥当だろう。「…“お前のせいで俺の人生が__”って事ですね。」正しく逆恨みの想定理由にやれやれと肩を竦め、「明日、何か掴めると良いんですけど。」と。そうして再びグレッグの履歴書を見詰めては、「…エバンズさんが目を覚まして、何か思い出せれば、」今尚意識の戻らぬエバンズの事を口にして )
ルイス・ダンフォード
( 相手の落とした呟きは、まさしく嫌悪感の滲んだもの。エバンズの身に降りかかる様々な不条理を近くで見て来たからこそ、そして彼を大切に思っているからこそのものなのだろう。『あいつもかなりの数の事件を担当してる。クーパーの顔を覚えてるかどうか…とはいえ、仕事の事となると驚異的な記憶力を発揮するからな。覚えがあるかもしれない。普段顔を合わせてる人の顔と名前は全く覚えねぇクセに、事件の事はよく覚えてたりするんだよ。』---翌日。ダンフォードはグレッグの素性を調べながら、署員たちの報告書を見たり捜査の相談に乗ったりと午前中から忙しくしていた。退職を控えたグレッグは、後任を連れて仕事で接点のあった刑事課の事務員などにも挨拶をしに来ていて、今後の経理処理などを後任に引き継ぐ旨などを説明しており。 )
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