刑事A 2022-01-18 14:27:13 |
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( 遺体発見現場に監視カメラは無かったが、そこに続くまでの道路、街中、お店、はたまたタクシーの車内カメラには容疑者としてあがった人達が映り込んで居る可能性がある。港の方まで足を運べばもっと確実な映像を見る事も出来るだろう。しかし今日この時間からでは流石に店も会社も開いていない為、矢張り明日朝一で確認し確実な証拠を手に入れる必要が__と、今は既にこの部屋しか明かりが点いていない事にも気が付かない程に考えを巡らせていた矢先。しん、と静まり返り秒針の音や書類を捲る小さな音しか聞こえていなかった部屋の中、ふいに響いた紙の束が床に落ちる音に反射的に双肩は持ち上がり弾かれた様に顔を上げ。果たしてそこには散らばった大量の資料と__「…ッ、エバンズさん!」そんなものは後で片付ければ良い事。顔面蒼白と言っても過言では無い程に血の気を失った様な顔色で、今にも崩れそうな身体を懸命に支える相手の姿。不調を抱えたままこんなに遅い時間まで仕事をしていた事で、身体に限界が来たのかもしれない、と。立ち上がるや否や倒れてしまわぬ様に相手の身体を抱き支え一先ず床に座らせようと試みる。散らばった書類の上であっても今は構わなかった。「エバンズさん、目を閉じて。直ぐ落ち着くから。」ぐるぐると回る様な目眩にも、ぐにゃぐにゃと歪む様な目眩にも、視界を閉じる事で僅かでも軽減させる事が出来る筈だと背に手を当てたままそう促して )
( 呼吸が上手く出来ず、呼び掛ける相手の声も一枚膜を隔てたかのように遠くに聞こえた。酷い目眩に加えて焼け付くような喉の痛み。あまりの苦痛に、このまま息が出来なくなって死んでしまうのではないかとさえ思った。空咳をする度に喉に強い痛みが走り思わず首元に手を添えたものの、息が出来ない苦しさと痛みに加えて不快な感覚が押し寄せる。「…っ、ごほ、…ッ」床に蹲ったまま、咄嗟に口許を覆ったものの床に散ったのは鮮血。多量の出血ではなかったものの、紙が散乱している事でその色は余計に鮮明な赤として主張した。それでも尚視界が歪むような目眩は落ち着く事なく、身体を起こしている事が困難になり。 )
( 相手は此方の声を認識していないようで、目を閉じる事も無く苦しげに眉を寄せ乾いた咳を何度も繰り返した。その度に丸くなる背中が跳ねる様に揺れ一秒でも早く落ち着く様にと背を撫で続けるのだが。「___え……」一層強い空咳の後、床に散乱した白い資料の上、散ったのは“赤”。内蔵に損傷を受け吐き出される大量の血液では無く、それは微量のものだったが量の問題では無い。多かろうが少なかろうがそれは“吐血”だ。身体は硬直し、双眸を見開いたまま薄く開かれた唇から何の言葉も発せないでいる中、蹲り苦しんでいた相手はまるで力尽きた、と言う言葉が正しいか、そのまま床に倒れヒューヒューと浅い呼吸を繰り返す。明らかに、明らかに不味い状況だ。“体調不良”なんて言葉で片付けられる程軽いものじゃない。「大丈夫…っ!今救急車呼ぶから!」半ば叫ぶようにそう言葉にし一度相手から離れ、デスク上の電話で救急病院に連絡をし救急車の手配をする。それからはあっという間だった。救急隊が駆けつける迄の間、これ以上の吐血で呼吸が阻害されぬよう相手の身体を横向きに寝かせ、懸命に声を掛け続ける。そうして救急隊が到着し相手が救急車に乗せられれば共に病院へと向かって )
( 救急車に乗せられたのと時を同じくして意識が途切れる。少量の吐血と異常な脈拍、呼吸困難、意識の喪失______酸素マスクを取り付けられ病院に搬送される間に、何かしらの中毒症状が疑われる状態だと病院に情報が共有された。病院に到着するとエバンズを乗せたストレッチャーは直ぐに処置室へと向かい、相手には外の待合室で待つようにとの声掛けがされて。---深夜1時を回った頃、ようやく担当の医師と見られる男性が相手の元へやって来て。『…未だ油断は出来ませんが、今は点滴による処置を行っています。_____多量の毒物を摂取した事による中毒症状で間違いないでしょう。体内から致死量に近い成分が検出されました。あと少しでも多く接種していたら、命を落としていた。…自殺、あるいは悪意を持って毒を盛られたか、その2択しかあり得ない状況です。』声を落として、今回の原因を相手に伝える。毒の成分を中和するために点滴での処置を行っているものの、未だ集中治療室から出られる状態ではないと。『血を吐いた事自体は、幸い命に関わるものではありませんでした。内臓がダメージを受けているのではなく、強い刺激によって喉が炎症を起こした。つまり、経口で毒物を摂取した事は間違いありません。』と続けて。 )
( 救急車の中で辛うじて繋ぎ止められていた意識が途切れたのを見て更なる恐怖から背筋が凍る思いをした。そしてその恐怖は病院に着き、告げられた医師の言葉で更に膨れ上がる事となる。__自殺?毒を盛られた?一瞬頭が真っ白になり目前の医師の顔を見詰めたまま口を開く事が出来なくただただ混乱を呼ぶだけ。「…毒って…でも、そんな__誰が、」漸く唇から僅かな息が漏れ、それに続く様に言葉がぽつ、ぽつ、と落ちるがエバンズが毒を摂取してる場面に身に覚えなど無い。そして絶対的に自殺では無いと言えるからこそ必然的に選択肢の1つは除外される訳で。倒れる前、相手が吐き出し書類に散った血が今尚頭を離れない。だが医師は内蔵の損傷では無く毒の経口摂取による喉への炎症だと説明するものだから、そこに関してだけはまだ唯一、僅か安堵出来るものだろう。「…警部補が口にする物は基本的に限られています。」と、伝えた後、此処で漸く少し頭が働くようになったのか「…警部補の事、よろしくお願いします、」と頭を下げ。__まだ集中治療室を出る事が出来ないとなれば、当然リリーの事件を追う事は不可能。この状況を警視正にも伝え何よりも相手に毒を盛った犯人を並行して見つけなければならない。絶対に許さない、と湧き上がる怒りをそのままに細い息を吐き出して )
( 相手から事情を聞いた警視正は、それが署内で起きた毒殺未遂事件である可能性も考慮して、エバンズに関する詳細は周囲に明かさないよう相手に指示した。彼は急遽対応しなければならない案件でレイクウッドを離れた、というのが表向きの理由。そして相手の他に本当の事情を知る存在として、信頼できる刑事に応援要請を打診すると告げて。---その後、早朝に相手のスマートフォンにメッセージを送ってきたのはダンフォードだった。“警視正から話は聞いた。お嬢ちゃんは大丈夫だったか?エバンズと捜査してた案件は俺が引き継ぐ。昼前には着けると思う。詳細は追って聞かせてくれ”と。 )
( “毒殺未遂事件”、それは言葉以上に重たく腹に落ち、その被害者となったのが相手だと言う事もまた負を助長させた。__翌朝、何故だろうか、応援に来るのは【クレア・ジョーンズ】だとばかり勝手に想像していたものだから、ダンフォードからの連絡には一度目を丸くし、続いて“私は大丈夫です。けれど何故エバンズさんが毒を盛られたのか、何もかもがわからない状態のままです。”と返信して。__時刻は午前11時30分を過ぎた頃。約束通り昼前にレイクウッドに到着したダンフォードと顔を合わせるなり、何も解決していないのだが大きな安堵を覚えたのは、きっと彼がどれ程エバンズを思っているか、その心を少しだけ知っているから。気丈に振舞っていた気持ちが僅か揺らいだ時、手が震え、思わず視界が歪みそうになったのを深い深呼吸で立て直す。リリーの事件、彼女が妊娠していた事がわかり一気に捜査は進みジェイとハンナが最重要容疑者として上がった中、今日は2人に話を聞き何としても証拠を見付ける大切な時なのだ。ダンフォードに事件の詳細が書かれた資料を手渡し、これまでの状況を説明しなきゃいけないのに。「…っ、ダンフォードさん…エバンズさんが…!」唇を開いた時、立て直した“と思っていた”不安定な揺れが顔を覗かせた。警部補専用の執務室の中、声量こそは抑えたものの、その震えまでは止める事が出来ずに )
ルイス・ダンフォード
( エバンズが何者かに毒を盛られ捜査から離脱せざるを得ないとレイクウッドのウォルター警視正から聞いた時、直ぐには状況を飲み込めなかった。同時にまた彼が謂れのない悪意を向けられ一方的に傷付けられ、苦しまなければならない事に憤りを感じた。そして、ミラーも既に同じ気持ちに苛まれているだろう、と。---事情を知らないレイクウッドの署員たちは応援に入った自分を明るく歓迎してくれたものの、彼女と顔を合わせた時からその不安定さ______なんとか感情を押し殺して捜査に集中しようと必死になっている事には気が付いていた。主人が不在の執務室で相手の声が揺らぎ、本当は一番気掛かりであろう本音が漏れると『……分かってる。あいつに毒を盛った犯人は必ず見つけて刑務所にぶち込んでやる。』と、乱暴な言葉選びながら力強く告げて。自分が知りたかった“詳細”は、担当する事件を差し置いて、エバンズの事。『あいつの一番近くに居たのはお嬢ちゃんだ。エバンズの様子に少しでも違和感を感じた事を全て教えてくれ。あいつは友達が居ない上に職場以外で人と接触する事がない。生活の中で毒を盛るなら、一番可能性が高いのは此の建物の中だ。証拠を消して逃げられる前に尻尾を掴む、』と。そこまで言った所で『少女が殺害された事件を早急に解決さえすれば、並行して何をやっていようが文句は言われないだろう。忙しくなるぞ、2つの事件を同時に担当するなんて本部の超売れっ子刑事くらいだ。』と、やや戯けて付け足して。 )
( 同じ署で働く仲間達にもエバンズの事を言う事は出来ず、あくまでも“何も無い”振る舞い方をしなければならなかったのもまた酷く心の磨り減る要因だった。不安も恐怖も顔に出す事が出来ない時間は余りに長く感じたのだ。だからこそ本当の事情を知るダンフォードと顔を合わせた時感情が溢れ出した。己の情けない揺らぎに、犯人に対して確かな怒りを滲ませた荒く力強い言葉が返って来ればそれだけで張り詰めていた心は幾分も軽くなると言うもの。震える息を一度細く吐き出してから同じ気持ちだと言う様に大きく頷き。「…最初は頭痛からだったんです。丁度天気も悪かったから、気圧の関係か風邪をひいたんだろうって思ってて。でも症状は全然治まらないし、それどころか酷くなる一方で、」エバンズの様子は果たしてどうだったか、最初に不調を訴えた所から遡る様にぽつ、ぽつ、と言葉を落とし。「…身体の震えや、脈が早くなったり酷い目眩がしたり__でも本人は過去に関するフラッシュバックが起きてる訳ではないって言ってました。それとはまた違う、わからない不調だって。」言葉にする事でその時の彼の苦しむ姿が思い出され胸が苦しくなるのだが、記憶している事は全て目前の相手に伝えなくてはならない。そうして最後、倒れた時の姿が鮮明に脳裏に浮かび、その時の息が出来なくなる程の恐怖が蘇りそうな感覚に床を見詰めグッと拳を握り締めてから「……此処で、倒れて病院に運ばれました。血を吐いたけど、それは内蔵の損傷によるものじゃなくて、何度も繰り返し毒を摂取した事で喉が傷付いたせいだって医者は。」病院に運ばれるまでの経緯を説明しつつ、静かに顔を上げ。「違和感は特別何も、…基本的にこの部屋に居るか捜査で私と一緒に外に出てるかで__、」この建物内で毒を盛られたとして、果たして一体誰が、と考えてしまう。一瞬だけクラークの姿が頭を過ぎったのだが、恐らく彼は違うだろう。エバンズを苦しめたい願望は人一倍強いだろうが、それはあくまでも“苦しみながら生きている”姿を見たい為。クラークの歪み切った性格を考えるなら生死に関係する様な手段は選ばない筈だ。無意識の内に眉間に皺が寄り険しい表情になったものの、まるで此方の心を少しでも軽くする様な戯けた言葉が続けられれば思わずぱち、と瞬きをし相手を見詰め。それから自然と持ち上がった口角のままに「エバンズさんが起きたら自慢出来ますかね。」と、同じく明るい戯けた返事を返して )
ルイス・ダンフォード
( ひとつひとつ、記憶の糸を辿るようにして紡がれたエバンズの変化。その中には彼の事をしっかりと見て、彼の言葉をしっかりと聞いていなければ記憶に留まらないほど些細なものも含まれていて、エバンズに対する相手の誠実で真っ直ぐな向き合い方を目の当たりにしたような気がした。毒物を摂取し血を吐くほど状態が悪いなら命に関わる可能性もあると一瞬肝が冷える思いをしたものの、内臓の損傷ではないという言葉に思わず息を吐き出す。『外に居る時に毒を盛るのは至難の技だ。煙草のフィルター部分に毒を塗り込んで毒殺を図ったケースを担当した事があるが、あいつは煙草は持ち歩かない。普段口にするものも限られてる…ペットボトルの飲み物や薬くらいだろう。』と、毒の摂取経路について考えを巡らせて。しかしどれも本人にバレずに毒を混入するのはそう簡単ではない。_____ふと、エバンズのデスクに置かれたマグカップに視線が止まる。いつも彼のデスクに置かれているイメージがあるし、此処で話をしている最中彼がマグカップを口に運ぶ姿は何度も見た事があった。『……マグカップなら、気付かれずに毒を混入できるか、』独り言にも近い呟きが溢れて。 )
( 相手の言う通り、署内でも聞き込みをする車の中でも彼が煙草を吸っている姿を見た事は無く、本当にたまに柔軟剤の香りに混じる様に僅かに煙草の香りを感じる事が出来るくらいの認識しかない。薬だって彼が服用している事を知っている人物は限られるのだから、そこを選ぶのは至難の業の筈。残るはペットボトル__と記憶を呼び覚まそうとしたその時。ふ、と溢される様にして落ちた相手の独り言に息を飲み勢い良くデスクに頭を向ける。そこには主不在であっても静かに鎮座する見慣れたマグカップがあり、それを捉えた時にまるで胃液が上がる様な嫌な感覚を覚え思わず片手を口元に宛てがい。「ッ、」この部屋でマグカップに毒を塗る事は簡単だ。彼が捜査で留守にしている間に部屋に入る事は誰でも出来る。このフロアの人物も、別のフロアの人物も、ただ一言“用事がある。”と言えば良いのだから。でも、もし本当に毒物が付着していたのがこのマグカップなのだとしたら__「っは、ぁ…」私は何度、このマグカップで彼に飲み物を淹れた?__自分でもわかるくらいに身体の温度が下がった。勿論毒が付着していると知っていて意図的にそのマグカップを彼にわたし続けた訳では無い。けれどもっと早く気が付き、注意をし、別のコップか何かを選びそれをわたしていれば此処まで酷い事態は避けられたのではないだろうか。喉に息が引っ掛かりそうな感覚に、口元に手をあてたまま俯く。瞳が揺らいだ事で部屋の床が滲み、余りに大きな罪悪感の様な負の感情に飲み込まれてしまいそうで )
ルイス・ダンフォード
( 考えられる可能性として何の気なしに口にした呟きだったが、その反応を見て直ぐに、相手がエバンズの為にとマグカップに飲み物を淹れて渡していた事を悟った。おそらく稀に、という訳ではなく定期的に。『______大丈夫だ、俺の目を見ろ。』明らかに動揺している相手の肩を掴み、視線を合わせるようにしゃがんで相手を見つめる。『悪意を持った人間があれに目を付けた可能性はあるが、お嬢ちゃんが悪いことなんてひとつもない。コーヒーや紅茶の一杯二杯、俺だってあいつに飲ませる。それくらいでしか休憩を取らないからな。…非があるとしたら、ふざけた事を考えた犯人だけだ。マグカップを置いていたエバンズも、お嬢ちゃんも何にも悪くない、』言い聞かせるように言葉を紡ぎ、してを落ち着かせようと。ただマグカップに毒の成分が付着しているかは確認する必要がある。しかしエバンズの物だと気付かれない為には、念の為隣町の鑑識に頼むのが最善だろう。ちょうどここから10kmほど離れたカルダーン署には馴染みの鑑識がいるため、今日中にでも依頼をしようと考えて。 )
( 確定した訳では無いものの可能性として極めて高い毒の付着物に頭が真っ白になる感覚を覚えたのだが、ふいに肩を掴まれ顔を上げた事で揺らぐ緑の虹彩が真剣な色を宿した相手の瞳と重なった。そのまま紡がれる言葉は己にも、勿論エバンズにも非など僅かも無く悪いのはあくまでも犯人ただ1人であると言うもの。相槌を打ちながらその言葉を静かに飲み込み心に落とし、頭を数回縦に動かす。__まだ何も確定せず、何も進めていない以上此処で動揺しやるべき事を見失ってはリリーの事件もエバンズの事件も何方も解決する事は出来ない。軽く瞳を閉じ震える息を一度細く吐き出してから再び相手を見詰めた時、虹彩に今さっき迄の不安定な揺れは無く決意が灯り。「__すみません、」先ず初めに口にしたのは取り乱した事への謝罪。続けてマグカップを一瞥し「…もしこれに毒物が付着していたとして、誰にも怪しまれず調べる事が出来るでしょうか。」と。それは正しく相手が依頼先の件で考えていた事と同じ事で )
ルイス・ダンフォード
( 相手の瞳にあった不安定な揺らぎは消え、2つの事件の解決に向けてしっかりと自分を持ち直したようだと思えば頷いて力付けるように肩を叩いてやり。『あぁ、その事なんだが。隣のカルダーン署に馴染みの鑑識がいるんだ。事情は伏せて、そいつに頼もうと思う。今抱えてる仕事より先に分析してくれって頼んどくよ。』相手の問いにそう答えると笑って見せ。_____『さて、そうと決まったら俺はまずカルダーン署に行ってくる。悪いがお嬢ちゃんは本線の方の事件を進めてくれ。鑑識にこれを渡したらすぐに合流する。ただ、おそらくだが…被害者が妊娠していた事実は2人とも知らなかったと言うだろうな。知っていたとなれば動機に繋がる、見た目にも分からない状態となれば認めるメリットがない。証拠を突き付ける意外に認めさせるすべはない、後で話そう。』エバンズのマグカップを、証拠品を扱う時のように袋で掴み口を閉じると、相手に指示を出す。しかし相手が話を聞きに行く2人はシラを切るだろうから、新しい話が出なくとも気落ちしないようにと言っておき。そうして10km離れたカルダーン署へと向かって行き。 )
( エバンズが毒を盛られた事は警視正を含めた自分達3人しか知らない事で、“急遽対応しなければいけない事件”の為署に居ない事になっているのだから当然鑑識に疑われる事態は避けなければならず、マグカップに毒物が付着しているか否かを調べるのはかなりリスクを背負う事になる…と思っていたのだが。相手の人脈の広さを此処に来て知る事となり表情からは自然と硬さが取れる。そうして後に続けられた言葉もまた相手の人柄を表しているのだろう、此方が気落ちしない様に、事件解決を急ぐ余り変に気負わない様に。__相手はカルダーン署へ、自身は先にジェイの元へ行き毅然とした態度でリリーの妊娠の件を突き付けるのだが、ダンフォードが考えていた通り、ジェイは“知らなかったし全く気付く事が出来なかった”と言った。そうしてそれはハンナも同じで何方も認める事をせず、現段階では逮捕出来るだけの証拠を提示する事も出来ない為に周囲の再聞き込みの後署に戻り、一先ず相手の帰りを待つ事となり )
ルイス・ダンフォード
( カルダーン署で馴染みの鑑識の所まで行くと、随分久しぶりの再会に互いの近況を軽く話し合った後に『頼みたい事ってのは、これの解析なんだ。ちょっと訳アリでな、なるべく早く成分を割り出して欲しいんだよ。昔の顔に免じて、明日までに頼めねぇか?』と。随分急な、それも急ぎの依頼に対して男は溜め息を吐いたものの“お前は昔から変わらねぇなあ”と呆れたように言ってマグカップを受け取った。感謝と共に明日また結果を受け取りに来る事を告げ、相手と合流すべく署に戻る。その途中で、エバンズが捜査に回していた照合の結果がデータで届き、確認した内容に深く息を吐き。---署に戻り執務室へと向かうと、相手の聞き込みの結果を聞くよりも前にスマートフォンの写真を相手に見せる。『被害者の身体に巻きつけられていたナイロンテープが、ジェイの働く会社のものだった。この証拠を突き付ければ言い逃れは出来ないだろう、』と。 )
( 執務室で顔を合わせた相手は酷く険しい表情をしていて、見せられた写真とその絶対的な証拠に此方もまた思わず眉間に皺が寄る。「やっぱり何も知らなかった、だなんて嘘だったんですね。」と、溜息混じりに言葉を落とした後相手と視線を重ね「犯行の動機がリリーの妊娠だと仮定して、ハンナが関わっているかどうか__一先ずジェイを連行します。」主犯はジェイである可能性が高いが、果たしてハンナはその全てを本当に何も知らなかったのか。慎重に見極めないと大変な事になると思いつつ、続けて「…あの、マグカップの分析の方は、」と、様子を伺う様な少しばかりの心配を滲ませた問い掛けを )
ルイス・ダンフォード
( この証拠があればジェイを引っ張る事が出来る。彼に証拠を突きつけ、共犯者が居たのかどうかを問い詰めればある程度の事件の大枠は見えてくる筈だと同意を示し。相手にとって何よりも気がかりなのはエバンズの事だろう。マグカップの分析について問われると『安心しろ。昔のよしみで明日には結果を上げて貰える。他のどの分析より優先するように頼んどいた。』と相手の肩を叩き。 )
( 何方の事件の方が大切で、何方の事件の方を優遇する、何て個人意志で勝手に決めて良いものでは無いが矢張り心を支配するのは今尚容態の回復しない上司の事で、それが偽りの無い本心なのだ。だからこそ相手から貰った言葉にわかりやすい安堵の表情を浮かべると「良かった、エバンズさんをあんな目に合わせた犯人を早く捕まえなくちゃ。」結果がどうであれやるべき事をやる、と今一度意気込み。__分析結果が出るのは明日。となれば今日、今やるべきはリリー事件の解決だ。相手と2人で容疑者の取り調べをすると言うのは初めての経験で、エバンズを育てたと言っても過言では無い相手は果たしてどんな進め方をする刑事なのか。ある意味勉強になると思いつつ「取り調べには同席させて下さい。」と、告げて一度署を出て。__向かうは再度ジェイの元。彼は『さっきも言った通り何も知らなかった。』と繰り返したが、此方には証拠品がある。ダンフォードに送って貰った写真を突き付け署への同行を願えば、ジェイは何も言わず素直に車に乗り込み。そのまま署へ、ダンフォードと共にジェイの取り調べに移ろうか )
ルイス・ダンフォード
( エバンズの容態が心配なのは当然変わらないが、応援で来た以上引き継いだ事件を滞りなく解決するのが第一に求められる事。相手と共に、任意同行を求めたジェイと取調室で向かい合って座り。録音機を回した後に、ここまでの捜査で尋ねてきたアリバイの有無や被害者との関係性などについて再び確認を取り『リリー・ブラントが妊娠していた事は知っていたのか?』と、一度はジェイが否定した問いを投げ掛ける。知らなかったと首を振る男に向ける視線は、普段の明るく快活な彼らしさが一切消えた厳しいもの。エバンズが取り調べの時に纏うのは鋭く冷たい威圧感、ダンフォードは更に其の圧を重たくしたような、嘘を吐くのを躊躇わせるような言い知れぬ恐ろしさを感じさせる力があった。『それなら、このナイロンテープについてはどう説明するつもりだ?此れは間違いなく、お前の会社で使われているものだ。通販や店で出回ってる一般的なものじゃない。店長のお前なら自由に持ち出せただろうな。』続けて尋ねると、ジェイはモゴモゴと否定していたものの言い訳がましく、説明が噛み合わなくなってくる。ダンフォードの顔を見る事が出来ず、気まずそうに俯いていたものの『分かりやすい嘘をついて俺たちの手を煩わせるな。此処まで証拠が出てるんだぞ、』と告げれば暫しの沈黙の後にやがて、『……俺が、殺しました……』と認める言葉を呟き。 )
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