刑事A 2022-01-18 14:27:13 |
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ルイス・ダンフォード
( 自分にとっては勿論の事、エバンズにとってもクレアの存在は大きいものだろうからこそ“直ぐに来る”と言う彼女からの申し出は心強いものだった。『助かる。…取り敢えずは来てくれるだけで有難いよ。治療室に居る以上面会は一切禁止らしくてな、何かしてやりたくても出来やしねェ。』と重たい溜め息混じりにやや荒っぽくそう答えては、元々エバンズが入院していた病室の扉の横の壁に背を凭れるように立ち直し。彼女の口から【ミラー】の名前が出ればそれにも思わず表情が険しくなる。『…それがな、数日前から出張で居ねェんだ。それに、アイツ自身今の状態を嬢ちゃんには隠したがってる。』遠くで1人捜査をしているミラーに余計な心配を掛けたくない気持ちはわからなくもないが、戻って来てそこでエバンズの今の状況を間近で見た時の心配や絶望感の方が何倍も大きいとも思うのだ。どうしたものか、と言いたげに再度溜め息を吐き出して )
クレア・ジョーンズ
( ミラーが側に居ないとは思っていなかっただけに、ダンフォードの答えに対する驚きは大きかった。最近は彼女の存在が彼の支えになっていると思える程に2人は近しい間柄。12年目という節目の時こそ不安定な彼の側に居たいとミラー自身も願った事だろう。しかしやむを得ず出張に行く事になった______そして彼もまた、遠くの地で頑張っている筈の彼女に心配を掛けまいと自分の状況をひた隠しにしているのだろう。やるせなさにため息を吐きつつも『……分かりました。夜にはそっちに着くようにします。』とだけ伝えて電話を切り。---その夜、レイクウッドに着いたのは21時前の事。駅前で待っていたダンフォードは数年前と全く変わらず、久しぶりの再会を喜んだ。エバンズを心配する時の口ぶりも表情も、あの頃と何も変わらないと思いつつ、彼の車で病院まで向かい。治療室の中で酸素マスクや点滴を付けて横たわるその姿は、彼が銃弾に倒れ意識を回復しなかったあの時を彷彿とさせた。痩せたように見える身体と、眠っていても分かる目の下のクマ、胸が上下する感覚は心なしか早く浅い呼吸が聞こえて来るようだった。彼に関する週刊誌の記事は未だ下火になる事なく世間の関心を集めていて、それが彼を追い詰めている事は一目瞭然。ミラーが居ないという事もまた、此処まで状況が悪化した要因のひとつと言えるだろう。ガラス越しに見る彼の姿に少しばかり表情を曇らせるも、相手に視線を向けて。『______彼はきっと怒るでしょうけど、ミラー刑事に連絡するべきだと思います。ここまで状態が悪いなんてきっと彼女も思っていないだろうし…状況が分からない方が不安なはず。それにあの子の存在は、今のアルバートにとっては大きな支えです。ちょっとしたきっかけで、彼が絶望の淵から引き上げられるのを前にも見たんです。』と真っ直ぐに告げて。 )
ルイス・ダンフォード
( __数年振りに顔を合わせた相手は様々な経験をして来たのだろうか、当時よりも何処か凛として見えた。本来ならばこうして時間を合わせる事が出来たのなら3人で食事の一つでも行きたい所なのに、高度集中治療室で沢山の管に繋がれ横たわる彼の姿がそんな状況では無い事を示しているものだから、胸が締め付けられる思いになるのだ。『…コイツのこういう姿は見たくない、』と、隣の相手に聞こえているかどうかの声量で溢れ落ちる様にして呟いたのは紛れもない本音。目を覚まさないかもしれない、という恐怖が纏わりついて離れないのはそれだけの危うさや儚さを彼から感じてしまうからか。__話がミラーの事に移れば隣の相手へと視線を向け。真剣な表情で紡がれる言葉を聞き、少しばかり思案するように再びガラス越しに眠る相手を一瞥しては『……担当してる事件が解決してもいないのに、とんで来るなんて事になったら大変だぞ。』と、言葉を返す。勿論ミラーが彼の支えになる人物の1人である事は間違い無いだろうし、彼の心を少しでも楽に出来るのがミラーだと言うのならば近くに居るべきだと思う。思うのだが。“適当な人”だと思われていても“警察”だ、矢張り捜査を優先的に考える所はあるし、何より何時かの日の飲み会で彼から聞いたミラーは衝動的な所があると。加えてミラーの事を深く知らない。再び相手の意見を聞くべき体勢の間を空けて )
クレア・ジョーンズ
( 確かに相手の言う事はもっともだ。彼の状態を知り、側に居たいという思いに突き動かされて今請け負っている捜査を打ち捨ててまでレイクウッドに戻って来てしまったら。そうなれば、状況がどうであれ彼女に対して仕事に対する責任感がないという評価が下されるのは間違いない。しかし、ミラーはそこまで衝動的には動かないという確信があった。『_____その心配は無いと思います。新人の彼女を此処まで育てたのはアルバートです。自分の私的な都合や感情で捜査に悪影響を及ぼす事は決してあってはならないと常に伝えている筈だし…彼自身が其の信条のもと動いているのを、一番近くで見ている筈ですから。』と微笑んで。自分たちの都合は遺族には一切関係のない事、だからこそ無理を押してでも第一に事件解決に注力する。その教えをミラーはしっかりと受けている筈だと。『彼の状態を打ち明けて、今はダンフォードさんと私が側に居るから心配いらないと伝えます。その上で、捜査が終わったら直ぐにアルバートの所に来て欲しいと、…そう言うのはどうでしょう?』と提案して。 )
ルイス・ダンフォード
( “心配は無い”と言い切った相手が続けた言葉は何の疑問も無く胸に落ちる納得の出来るものだった。確かにミラーの事は深く知らないがエバンズの事はよく知っている。彼が例え自分の身を犠牲にしたとしても遺族に寄り添い、最後の最後まで事件解決に全力を尽す事を。そうしてそんな彼の傍で、彼の背中を見て此処まで来たミラーならば__。大丈夫だと自信があるのだろうその微笑みを見て漸く僅かに微笑み返しては『…嬢ちゃんの事を知ってるのは俺よりもお前の方だ。そんなお前が心配ないと言うなら、そうなんだろうよ。…電話は頼む。』エバンズの事は勿論の事、目の前に居る相手の事も信じているからこその返事と共に提案に首を縦に振り。それから態とらしく肩を竦めると『…それにしても、昔からお前の言葉には説得力がある。』と、少しばかりの過去への懐かしさを滲ませて )
クレア・ジョーンズ
( 相手が微笑みを浮かべ同意を示してくれた事に安堵すると表情を緩め、未だガラスの向こうで眠りの中にいる彼に視線を向けて。相手の口から紡がれた言葉に再び相手へと視線を戻すと少しばかり困ったように肩を竦め『そんな事ありません、私からすれば2人の方がずっと。』と答えて。言葉の説得力で言えば、飄々としていながらどんな言葉にも圧倒的な信頼とのあるダンフォードと、頭の回転が早く口を開けば鋭いまでの正論を淀みなく紡ぐエバンズの方がずっと上回ると思うのだ。新人時代の本部での仕事は間違いなく大変だったのだが、あの頃に戻りたいとも思ってしまう。ダンフォードの元でエバンズとがむしゃらに捜査に明け暮れた日、喧嘩をした日、酒に付き合わされ3人で笑い合った日。冷たさのない彼の瞳を見たいと、相手も同じように思う事があるだろう。---相手に断りを入れて病院の中庭に出ると、スマートフォンを取り出しミラーの番号を表示させる。少しの間を空けたものの番号をタップすると電話を耳に当て。そうして相手が電話に出たなら『______もしもし、ベルちゃん?急にごめんなさい、…ちょっと話したい事があるの。今少し時間を貰えるかしら、』と切り出して。 )
( __事件の捜査は考えていたより何倍も難航したものの、後一歩の所まで迫れる状態にあった。それは勿論の事喜ばしい状況であるのだがどうしても引っ掛かるのはレイクウッド署で連絡の取れなくなっているエバンズの事。昨晩サラから連絡があり“警部補が戻って来ない”と言われたばかりなのだ。一日の有給では職場に復帰出来ない程に調子が悪いのか、最悪何処かで倒れている可能性もあるのではないか。考えれば考える程ネガティブな事しか浮かばない状況に本日何度目かの溜め息が重たく吐き出されたその時。ふいにスマートフォンが着信を知らせ、手に取れば画面にはクレアの名前が表示されていて。こんな時間に急に話したい事とは__何だか無性に胸の奥がザワザワと揺れる。「…勿論、今ホテルだから問題ありません。」と言葉を返しつつ、ベッドの縁へと腰を下ろし話を聞く体勢を )
クレア・ジョーンズ
( 出張先での捜査に対する焦燥感や彼の状況が分からない不安もあるのか相手の口調は普段のように明るいものではなく、自分の言葉を待つ様子からも少しの不安が伝わった。『今レイクウッドに来てるの。ダンフォードさんにも久しぶりに会ったわ。』と、明るい声色を心掛けつつ状況を語ったものの、早く本題に入るべきだろう。『______実は、アルバートの容態が良くないの。事件の前の日、夜に署内で倒れたのをダンフォードさんが見つけて、搬送されてそのまま入院になったんですって。ベルちゃんには言わないよう、アルバートから固く口止めされていたみたい。…でも、肺炎を併発して高度治療室に移る事になったって今日ダンフォードさんから電話を貰って。私たちも面会が出来ないんだけど…状況だけでも貴女に伝えた方が良いと思ったの。今は私たちが見てるから心配はいらない。捜査が終わったら、病院に来て欲しいの。』と、此処に至るまでの状況を説明して。エバンズの許可を得て連絡している訳ではなく、あくまで自分の判断で連絡したのだと告げつつあまり不安を煽らないように言葉を選びながら。 )
( 話し始めた相手の声は明るさを滲ませ、元上司との久し振りになるのだろう再会を喜んでいるものだったのだが。その前の切り出しの言葉の端に滲んでいた少しの重たさを見逃した訳では無いのだ。だからこそ相手の口から“アルバート”の名前が出た事に息を飲み、続いた“容態が良くない”に絶句する事となった。“どれくらい?”そう問い掛けるよりも先に、署内で倒れた、入院、肺炎、高度集中治療室、面会が出来ない…と。畳み掛ける様な“最悪”に思考が全く追い付かないとはこの事だ。そりゃあ連絡も取れないしサラが署に来ないと言う訳だ。加えて自分には連絡しないようにと口止めされていたなんて。「ッ、」きっと派遣先で事件捜査をしている己に余計な心配を掛けない様にと、ちゃんと集中出来るようにと、そう考えた配慮なのだろうが。例え命令だったとしても“こんな時”に何故彼の元を離れてしまったのかと思わず視界が歪む。スマートフォンを持つ手にも、シーツを握る手にも力が篭もりやるせなさに暫く言葉を紡ぐ事が出来なかった。一度深く深呼吸をして、“心配はいらない”の言葉だけを頭にも心にも残す努力をする。2人が側に居るのなら、きっと、きっと、大丈夫。「___事件解決次第…直ぐに行きます。だから……私が言うのも違うけど、エバンズさんの事をよろしくお願いします…っ、」一度ぎゅ、と瞳を閉じて“行きたい”を閉じ込める。けれども人の気持ちとはそんな簡単に割り切れないもの。堪えた言葉の代わりに涙が頬を伝い、雫が床へと落ちる前に拭っては「…クレアさん、本当はエバンズさんの傍に居たい…。」と、相手にだからこそ言えた本当の気持ちを震える息と共に溢して )
クレア・ジョーンズ
( 電話の向こうで相手が息を飲むのが分かった。僅かに吐き出された息で涙を我慢しているのであろう事も。そして全ての気持ちを押し殺して、相手は“捜査が終わったら”直ぐに病院に向かうと答えた。『…大丈夫、きちんと私たちが着いてるから。何も心配しないで。』と、安心させるように告げて。しかし暫しの沈黙の後に涙ながらに紡がれた言葉こそ、相手が心から願う事だろう。大切な人が苦しんでいる時、何を差し置いてでも側に居たいと願うのは可笑しな事ではない。『______そうよね、気持ちは分かるわ。…だけど貴女が悩みながらも出張に行ったのも、事件の日に帰って来る事を選ばなかったのも、アルバートの側に居たいと感じるのと同じくらい、あの人に近付きたい、失望させたくないって言う気持ちがあるからだと思うの。其れは正しい事。焦らなくて良いの、アルバートは貴女が全力で捜査に取り組む事を望んで、自分なりに努力した過程を評価する筈よ。その上で、戻って来たらたくさん支えてあげて。』---未だ病院に来てから目を覚ましている彼の様子を見る事は出来ていない。其れでも苦しんでいる彼が、相手が側にいる事で救われると分かっているからこそ焦りを生まないよう相手に語りかけて。 )
( 涙ながらに溢した本音を相手は否定しなかった。“気持ちは分かる”と今にも張り裂けてしまいそうな心に寄り添い、それでいて焦燥に駆られる不安定さを優しく包み込み大切な事を思い出させてくれる。__誰よりも尊敬出来て信頼の出来る上司に少しでも近付きたくて、彼の様な警察官になりたくて、此処まで来た。何時だって真っ直ぐに目の前の事件と向き合い遺族に寄り添う、そんな彼に指導された自分が“今出来るベスト”を放棄してどんな顔で彼の前に立てると言うのか。“良くやった”_ふ、と時折彼が掛けてくれる労いの言葉が鮮明に思い出され、涙が止まらなくなった。電話の向こうの相手には見えていないとわかりつつも、何度も何度も頭を縦に振る。「…きちんと事件を解決して、胸を張って、っ…戻って来ます、」彼にも、彼を支えてくれる相手やダンフォードにも、恥ずかしい姿は見せないと涙に邪魔されながらも強い意志の元でそう返事をしては、一度だけ小さく鼻を啜った後「クレアさん、ありがとうございます。」とお礼を紡ぎ )
( 相手の決意が籠った言葉に、クレアは微笑みつつ頷くと同時に『何かあったらいつでも電話して、』と元気付けるように告げつつ、彼女なら大丈夫だと確信していた。---エバンズは精神的なものも重なっているのか、肺の炎症が落ち着くのに通常の患者よりも時間を要し高度集中治療室を出る事ができたのは今朝の事だった。その間に彼自身の人格を否定するような______無理矢理事件とこじ付けたような内容の新たな記事が週刊誌に掲載されたものの、世間の関心を引き付け続ける程の掴みはなく、レイクウッド署の前からは少しずつ記者が減り始めて。一般の入院病棟に戻りはしたものの、酸素マスクは未だ外れず微熱も残っている状態。安定剤によって酷い発作は抑えられているものの、ダンフォードにもクレアにも多くを語らず、事件の幻影に苦しんでいる事は手に取るように分かった。 )
ルイス・ダンフォード
( __高度集中治療室から一般病棟に戻ったのは喜ばしい事だったが、だからと言ってエバンズの肺炎が治った訳でも退院が出来るまでに回復した訳でも無い。それでもガラス越しなどでは無く手の届く距離で相手の側に居られる状況は酷く安心出来るもので。事件から12年目は相手の心を傷付けるだけ傷付けて静かに過ぎ去り、けれどもまだその余韻を確りと残している。例え事件の報道がされなくなり世間が再び日常に戻ろうとも、相手の時間はあの時から止まったままだ。酸素マスクを付けて静かに呼吸を繰り返し、まるで遠くの過去を見ているような瞳を覗き込み『コーヒー買いに行って来るが、お前は何がいい?』と問い掛ける。その際目にかかる前髪の束を軽く払ってやり )
( 此方を覗き込むダンフォードと視線が重なると、自分は要らないと小さく首を振り。定期的に病室を訪れる2人に余計な苦労を掛けていることもやるせない、休みが長引き仕事に復帰出来ずにいる不甲斐なさや、重たく沈んだままの気持ちを抱えたままでいて。相手がコーヒーを買いに部屋を出た後、廊下を歩く革靴の音が聞こえた。其れは入院患者の見舞客か、回診の医師のものだったのだろうが思い出されるのはひとつ。ルーカスの分も苦しめと言った彼の顔が思い出されて、思わず喉元に息が引っかかる。僅かに身体を横向きに、ベッドの手すりを握り締めると上擦り始める呼吸に耐えながら苦しげに表情を歪めて。 )
ルイス・ダンフォード
( 何も要らない、と首を振った相手に『わかった。』とだけ答えて部屋を出る。同じ階の奥にある休憩室の自販機で温かいカップコーヒーを買いその場で立ったまま一口啜れば、喉を通り胃に落ちた苦味が僅かに曇る心を晴らした__ような気がした。それからもう一口飲み、まだ半分以上中身の残るそれと共に廊下を進み再び相手の居る病室に戻ったのだが。数分前までベッドに静かに横たわって居た筈の相手は、手すりを握り締めゼェゼェと荒い呼吸を繰り返しているではないか。不味い、と小走りに駆け寄りベッド脇の台にカップを置けば『エバンズ、大丈夫だ。』と、声を掛け背中を擦り。その際外れてしまわないようにと相手の口元にある酸素マスクを軽く押えて )
( 事件の日の光景が脳裏に焼き付きて離れない。いつか見せられた血の気のない妹の写真と、床に倒れた子どもたちの姿が鮮明に思い出され、思わず縋るように相手の手を掴んでいた。未だに肺に引っ掛かるような重たい痛みは幾らか残っていて、背中を摩られる感覚を感じながら懸命に呼吸を繰り返す。酸素マスクを抑えられるさりげない動作によって思い出されたのは、苦痛を与えようと胸を押さえつけた“彼”の動作。そして楽になる資格などないと酸素マスクを外された事。「_____ッ、」僅かに表情に恐怖心が滲み、掴んでいた相手の片手を離すとマスクを抑える方の相手の手を退かそうと、喘ぐような呼吸ながら力を込めて。 )
ルイス・ダンフォード
( 小刻みに上下する背中を何度も擦る中で一瞬褪せた碧眼と視線が交わった。しかしその瞳には何故か恐怖の色が浮かんでいて、続け様に酸素マスクを押える此方の手を外そうと力を込められるものだから、思わず背を摩る手が止まる。少しの驚きを含んだ声色で『エバンズ?』と、呼び掛けた所で“誰か”と勘違いしている可能性が浮かぶと、一先ず何に対してなのかわからぬ恐怖心を取り払う事が先だろうと抗う事をせずに静かに酸素マスクから手を離し。『大丈夫だ。…俺が誰かちゃんとわかるな?』背中に添えた手は相手の身体を支える為に、もう片方の手で次は酸素マスクでは無くコメカミ付近を緩く撫で、その瞳に自身の姿を映す為に少しだけ顔を近付けつつ落ち着かせるように、宥めるように、話し掛けて )
( 相手の手が離れた事で張り詰めていた恐怖は僅かばかり緩み、同時に促されるようにして視線が重なった相手の顔を認識すると問い掛けに小さく頷いて。上擦った呼吸は直ぐに落ち着く事はなかったものの、宥めるようにこめかみ辺りを緩く撫でる相手の優しい手に自分の手を重ねると、緩く握りしめて。週刊誌の記事のこと、事件のこと、クラークのこと______思い出すだけでどうしようもなく苦しくなる。相手の手を握り締めたまま、浅い呼吸を懸命に繰り返し苦しさを逃そうとして。 )
ルイス・ダンフォード
( 再び瞳が重なった相手が静かに頷くのを見て、それで良いとばかり軽く微笑む。髪を梳く様な動きでコメカミ付近を撫で続けながら、恐怖心が僅か薄まったのを感じて反対側の手で軽く酸素マスクの端に触れると『__これは、お前が付けてていい…必要なものだ。』と告げる。あの一瞬見せた恐怖の色が何処から来たものか、何に対してのものなのかはわからないが、背に触れた事に関してでは無いと直感的に感じたのだ。だからこその言葉を選び、後は未だ呼吸の安定しない相手が一秒でも早く楽になるのを待つ為に、頭から手を離し再び背を緩く擦ってやり )
( 言い聞かせるように紡がれた言葉に少しばかり怯えたような色が薄れると、背中を摩る手に意識を向ける。苦痛を取り除くために手を貸してくれている相手に促されるようにして、少しずつ気持ちが落ち着くと、今は楽になっても良いのかもしれないと思えた。やがて上擦っていた呼吸は酷い発作を引き起こすまでに悪化することはなく、少し掠れた正常なものへと戻り。 )
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