刑事A 2022-01-18 14:27:13 |
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アーロン・クラーク
( 薄暗い部屋の中で相手の褪せた碧眼が真っ直ぐにクラークを見据えた。目下の隈は色濃く相手自身も今回の騒動でダメージを受けていると言うのにその記事の__遺族の証言は事実無根だと答える声は揺れない。『…そうですか。』と、再び先の週刊誌の記事の時同様に軽い返事をし二冊目のそれも閉じるとこれらにもう用事は無いとばかりにソファの端に放って。『__そうですよねぇ、警察がもっとまともに捜査を進める事が出来ていれば、あの時犯人は自殺しなかったかもしれないしあれだけの犠牲者を出さずに済んだかもしれない。…貴方も“遺族”なのに、これじゃあセシリアさんの命日にゆっくりお墓参りに行く事も出来ないですね。』表情は極めて穏やかな笑み。口調も落ち着きのあるもの。けれど警察官を責め、態々“遺族”という単語やセシリアの名前を出す辺りは“ただの”世間話をしに来た訳では無い事が滲み出ていて。相手を絶望に落とす為の強い言葉を選ばずに様子を伺う、それはまるで狙いを定めた獲物をゆっくり、じっくり、追い詰めていくその過程がとても楽しいのだと言っているようなもので )
( 相手にとって週刊誌の内容が真実かどうかは然程重要では無かったようで、自分の主張を勘繰るでもなく頷くと冊子はソファに放られた。記事の内容に限らずとも何かしらの形で自分を追い詰める事が出来れば満足なのだろう。今回の件で特に辛いのは、本当は同じ立場でもある自分が心無い言葉で遺族の思いを軽んじて居ると受け取られる事と、騒ぎのせいでセシリアの命日を静かに過ごす事が出来なくなるかもしれない事。心の内にずっと渦巻いている後悔をわざわざ言語化するような相手の言葉は、じんわりと、其れでも確かに心の傷を抉る。「……それは、12年が経つ今でも後悔してる事だ、」とだけ答えると「もう良いか?記者が居ないなら早く帰りたい、」と告げて。家に戻った所で眠れる訳でも無かったが、少しでも安心できる場所で身体を休めたかった。過去の事を嫌でも思い出してしまう状況に加えて気を張っている日が続いている為、肉体的にもかなりぎりぎりの状態で。 )
アーロン・クラーク
貴方のその“後悔”が皆に伝わるといいですね。…そうだ、実は自分も妹を失った遺族なんだって話してみたらどうですか?もしかしたら同情されて貴方を責める人が減るかも。
( 12年が経つ今でもあの時の事件に縛られ続ける相手を哀れだと感じるクラークは。果たして己もまた、こうしてその時の話を出し相手を苦しませに来ている事を“縛り”だと気が付いているのか。“帰りたい”と訴える相手の言葉を華麗に流して名案を思い付いたとばかりに立ち上がると、パソコンの画面を閉じられた事で更に暗くなった部屋の中、相手に近付き耳元で何処か楽しげにそう提案しつつ、されど。結局はまともに相手に寄り添うつもりなど無いのだから『…許されるかどうかは別、ですけどね。』あからさまな悪意を隠す事もせず全面に音に乗せて。__さて、今日の楽しみはこれで終わったと自分勝手に終止符を打つ。相手が帰るなら折角だからと駐車場まで共に行くようで、攻撃性など最初から持ち合わせていないとばかりの爽やかな笑顔であまつさえ扉を開け、エスコートを )
( 相手の煽るような言葉に僅かに眉を顰める。妹を出しに使って同情を誘い自分の苦しみを和らげるなんて、あまりに身勝手だ。妹の事はメディアに騒ぎ立てられたくはないし、表向きの同情など必要としていない。悪意に満ちた声で紡がれる言葉に「……妹を軽んじるな、」とだけ答え部屋を出て。駐車場まで着いて来た相手は自分が車の鍵を開けたタイミングでわざとらしくエスコートでもするかのように扉を開けた。運転席に乗り込み扉を閉めると、一瞬視界がぐらりと揺らぎ息を詰めるのだが今は早く相手から離れ、署を後にしたかった。エンジンを掛けると「もう署には来るな、お前は犯罪者だ。」とだけ忠告して。 )
アーロン・クラーク
貴方こそ、俺がルーカスの兄である事を忘れないで下さいね。
( 妹の話を出した途端に纏う空気を変えるその様子が面白くて仕方が無いと再び楽しそうに笑えば、此方とてただ理由も無く相手を玩具の様に扱う悪人では無く“あの事件の遺族”だと言う事をちゃんと記憶しておけとばかりに。__車の扉を開けた本来険悪の対象になるであろうエスコートにも相手は不満を見せる事は無かった。それはそれだけ心身共に調子の悪さに蝕まれて居るという事か。ただ一言、落とされた忠告には態とらしく肩を竦めて見せ『貴方に俺を縛る権限は無いでしょ。俺は俺の行きたい所に行くまでですよ。』と何処吹く風。そうして最後に『…貴方も、ある意味では“犯罪者”ですけどね。』と、その単語の部分だけを態々聞き取りやすく、ゆっくりと口を動かし後は去っていくであろう車に軽く手を振って。__その日の夜。クラークが署に来た事を知らないミラーは約束通り相手の携帯へと電話を掛け様子を問う事とし )
( 相手と居た時間は其れ程長いものではなかったものの、彼も事件で大切な人を失った遺族で警察に恨みを抱いているのだという事を改めて釘を刺され、お前も犯罪者と変わりはないのだと自責の念を植え付けられる。大勢から向けられる蔑むような冷たい視線が、大々的に報じられた自分に関する記事が、確実に心を消耗させていた。彼に何を言う事もなく車を走らせ家に戻り、暗い部屋に明かりを付ける。スーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを引き抜くと薬の入った袋を掴み中からシートを取り出して2錠を口にして。胃の辺りの痛みは強くなっていて、ソファに身体を預けると目を閉じる。此処数日眠れない日が続いていたため、微睡むのに時間は掛からなかった。浅い眠りの中で薄らとあの日の夢を見ていたものの不意にスマートフォンが着信を知らせ、ビクッと肩を震わせる。ほんの数分の浅い眠りだったが僅かに息は上がっていて、深く息を吐き出すと「______エバンズだ、」といつも仕事の電話を受ける時の口ぶりで電話に出て。 )
( 呼出音が鳴ったのは数コールだった。直ぐに相手の声が聞こえ先ずはその事に安堵したのだが、名前を名乗ったと言う事は電話の相手の名前を見る事無く反射的に通話ボタンを押したか。電話越しでも僅かに乱れる息使いを感じ取り悪夢に魘される眠りの中に居たのかもしれない事を思えば、頭に響かぬ様声を少しだけ落とし、されど確りと繋がっている事を表す為に「うん、お疲れ様ですエバンズさん。」と、先ずは相手の名前を復唱する形で労いを。スマートフォンを耳に宛て、そこから読み取れる僅かな情報も聞き逃さないようにしようと思いつつ「…そんなに複雑な事件じゃ無いからきっと直ぐに解決出来ると思う。…薬はまだある?」此方の状況を軽く伝えた後に相手に掛ける言葉が一瞬出なかったのは、大丈夫か、も、眠れているか、も、どれもNOに決まっているから。結局薬の有無を確かめるだけとなりそんな自分にも思わず深い息が漏れて )
( 反射的に取った電話だったが、聞こえて来たのは相手の声。この時間に仕事の電話が掛かって来るはずも無いと思いつつ、背凭れに身体を預ける。出張先で担当する事件は然程複雑なものではないらしく、暗にすぐ戻ると伝えてくれているのだろうと思えば「…そうか、」と頷いて。続いた問い掛けには「ある。此方の事は気にするな。」と告げるに留めて。相手との会話の最中、不意にまた視界が揺らぐ感覚に襲われて思わず顔を顰める。それは先程のように直ぐに治まるものではなく、平衡感覚がわからなくなるような気分の悪さを伴うもので一瞬吐き出す息が震える。「_____明日も早いんだろう、…もう休め。」と告げれば早々に電話を切ろうと。 )
( 薬がまだ残っている事自体は喜ばしい事だ。例え手元に無かったとしても病院嫌いの相手は度々行く事を拒むのだから。しかしながら表情や一瞬の動きを見る事が出来ない今、それが果たして本当の事なのかはわからずアダムス医師に連絡をしたい気持ちすらも湧くものだから困ったもの。「エバンズさんの事を常に考えてないと仕事が捗らないの。」明らかにそんな事は無いとわかる軽口でこの会話を終わらせ次へ__と思ったタイミングで一瞬相手の息が詰まり続いて吐き出した息が僅かに震えた。それは本当に一瞬だったのだが長く相手の近くに居れば例え機械を通しても気が付くものだったようで、正しくその不調を悟られまいと早急に電話を終わらせようとする様子に「待って、」と、通話終了を拒む。「苦しかったら何も話さなくていい。だからこのまま少しだけ繋げてて。」それが相手にとって良いか悪いかは正直な所わからなかった。けれど電話を切ってしまえばその僅かの繋がりも無くなり相手は1人きりで苦しみを耐える事になる。傍に居て背を擦る事も出来ない事実は重たく伸し掛るのだがどうしても今を終わらせる事が出来ず )
( ほんの僅かな息の乱れからも、相手は此方の状況を瞬時に把握する事が出来たようで電話を切る事を拒む声に、通話終了ボタンを押そうとしていた手が止まる。何も話さないままに電話を繋いでおけば、それこそ相手の時間を奪う事になると思うのだが相手は今電話を切ることを良しとしないようだった。自分もまた、相手の訴えを無視して通話を終わらせる事も出来たのに、どこかに心細さがあったのだろう。視界が揺らぐような眩暈と共に感じた息が詰まるような感覚は、やがて呼吸を狂わせた。気分が悪くてソファの手すりに額を押し付けたものの、浅くしか酸素が取り込めなくなり明らかに可笑しなペースへと変わって行く。クラークの言葉や記者の声が頭に渦巻いて居るのだが、此れに取り込まれてしまえはフラッシュバックを起こす事にも繋がりかねない。「っ、はぁ…ッ、」懸命に今に意識を繋ぎ止めようとしながらスマホを持つ手に力が入り。 )
( 繋がった電話の向こうから聞こえた声は言葉にはならず、やがて時折喘ぐ様な悲痛な音が漏れる様になった。噛み締める事で軋んだ奥歯、木枯らしが吹く様な掠れた息。鼓膜を揺らすそれらが、相手がどれだけの苦痛をその身に受けているのかを知らしめている様で双眸にはあっという間に涙の膜が張る。「大丈夫…ッ、続かないから、苦しいのも、痛いのも、…ちゃんと終わるっ、!」無責任な“大丈夫”を傍で抱き締める事も出来ないのに言うべきでは無いかもしれない、ましてや明確な“何時”も言えない終わりなんて尚更。けれどたった1人孤独に耐え、痛みに耐え、涙を流しているかもしれない相手に何も言わない事も出来ないのだ。どうか少しでも早くこの苦しみが終わり眠りにつける様に、その時に決して孤独の中眠るのでは無いと思えるように、声だけは僅かでもいい届いて欲しいと )
( あの報道が成されてから今まで、ずっと自分の中で耐え続けていたものが崩れてしまいそうだった。上手く酸素を取り込めない所為で浅く掠れた呼吸を何度も繰り返す。蓋をし続けていた筈の、周囲から向けられる白い目も、自分を蔑むコメンテーターや記者の言葉も、貴方は犯罪者と同じだと言ったクラークの言葉も、全てが痛みとなり心を抉る。酷い酸欠の所為で一瞬意識が遠退き相手の言葉に反応せずにいたものの、時間にしてどれ程だったかは定かではないが少しばかり波が収まり呼吸が深くなる。視界がはっきりして来ると冷たく痺れた指先に力を込め、汗に濡れたワイシャツのボタンを震える手で外すとそのままソファに身体を横たえて。スマートフォンを手から離し耳元に置いたまま、自分に呼び掛ける相手の声が聞こえて視界が滲んだ。目元を手で覆い、小さな嗚咽だけが漏れて。 )
( 喘ぐ様だった呼吸が僅かに落ち着き、肺の奥深くまで酸素が届けばそこからは呼吸が乱れる事は無いと思うものの、次に襲い来るは大きな疲労の波か。電話越しに聞こえる音が小さな嗚咽だとわかり相手は涙を流しているのだと言う事が確信に変わる。傷付いた心を抱えたまま眠り、それも悪夢が朝までの安眠を保証しない。外に出れば眩しい程の光が記者を連れて来て、署では相変わらず相手を責める様な空気が漂う。全部嘘なのに、相手は何も悪くないのに、許されていい筈なのに、何処までもまるで呪縛の様に付き纏う“12年目”が相手を逃がす事をしない。「__身体、しんどいでしょう。お水を飲んでから一緒に眠ろう。…この携帯を繋げたまま、私が何時も眠る所に置いて。」何時しか相手の心に同調する様にして溢れ出した涙は頬を滑り止まらないのだが、拭う事もせずに優しく話し掛ける。きっと汗もかいたし喉もからからの筈だ。少しでも水分を補給した方が良いし、少しでも多く眠れる時間を確保した方が良い。時折小さく鼻を啜りながら、お泊まりをする時、自分が相手の隣で眠る時の様に携帯を傍に置いて欲しいと再び要求して )
( 呼吸が落ち着いた先に重たい倦怠感が襲うのはいつもの事。起き上がる事すら億劫な程の身体の重さを感じつつ、普段であればそのまま眠りに落ちてしまう事もあるのだが水を飲むようにという相手の言葉に、ややして身体を起こしゆっくりと床に足を付ける。ひんやりとした床の感触を感じつつ未だ微かに震えの残る身体に力を入れて立ち上がると、キッチンのシンクでグラスに水を汲み其れを飲み干して。汗の染み込んだワイシャツを脱ぎ楽な部屋着に着替えるとソファへと戻りスマートフォンを手に「……水は飲んだ、____こんな時間まで悪かった。」とようやく声を発する。ベッドに向かい身体を横たえると「…携帯は此処に置いておく。必要があったら電話を掛けるから、お前ももう休んでくれ。」と、電話を切って眠ることを促して。息も付けぬ程の苦痛は治まっていたが、夜中に魘された時に出張に出向いている相手にまで迷惑を掛けるのは心苦しい。自分の事ばかり気にさせては仕事にも影響が出てしまう事も考え、必要な時は電話を掛けると伝えて。 )
( 水が流れシンクを打つ音や、衣服の擦れる僅かな音の後に再び相手の声が聞こえる。その声は苦痛に耐え涙を流した事で掠れていて酷く疲労し、話すのもやっと、と言う状態だ。「まだ寝る時間じゃ無いからね。エバンズさんが謝る事は何も無いよ。」謝罪を聞きながら軽く首を左右に振り問題無い事を伝えながら、頬を湿らせていた涙の痕を拭い己もベッドへと身を横たえる。人の温もりが無い布団の中はひんやりとしていて、相手も同じ寒さを感じているだろうかと思えばそれにもどうしようもなく胸が締め付けられるのだ。枕を少し立ててそこに背を預けた後に眠る事を促されては、少しばかり考える間が空き。「__約束だよ。迷惑だなんて思わないから、」折れたのは、電話を繋げたままではもしかしたら此方を気遣い自由に身動ぎをし眠る事も出来ないかもしれない、目覚めた相手が物音一つ立てず耐えるかもしれないとも考えたからで。それならば本当に電話をしたいと思った時、相手はその心にまだちゃんと従える事を信じようと )
( 電話越しでは相手に伝わらないと分かって居ながらも、紡がれた相手の言葉に小さく頷く。「_____お前も其方で頑張れ、」とだけ告げると「…おやすみ。」と呟くように言葉を紡ぎ、電話を切って。引き摺り込まれるようにして眠りに落ちた後、夜中に悪夢に魘されはしたものの現実との区別が付かなくなる程に酷いものではなく、その夜は結局相手に電話を掛ける事はしなかった。---翌朝、倦怠感は重たく身体に纏わりついていたものの当然出勤しなければならない訳で、身体を起こすとキッチンで薬を流し込む。少しでも記者が少ない時間にという思いから普段より1時間近く早く署へと向かい。 )
( __翌日。相手は記者との接触を出来る限り避ける為に時間をずらし出社した訳だが、その考えが読めない程経験の浅い人は今日は居なかった。相手が来るよりもずっと早くから署の見える物陰で張り込んでいた記者は、相手の姿を確認するや否や相変わらずの録音機を片手に足早に近付き隣への位置取りを明確なものにして。『…今日はまた随分と早い出勤ですね。』朝の挨拶もろくにする事無く、相手が自分達を避けている事に確信を持っていながらそんな戯言を掛けると、続けて『遺族への弁解の言葉はもう決まったんですか?それとも、自分は悪く無いと開き直るつもりで?』一番最初に記事に出た、相手からすれば全く身に覚えの無い遺族の証言を持ち出し尚もあの話の続きはどうなったとばかりに詰め寄って )
( 普段と時間をずらした甲斐も無く、車を降りるや否や記者たちに囲まれる。ただでさえ体調も思わしく無いと言うのに、飽きる事もなく朝から責め立てられストレスで可笑しくなりそうだった。弁明の言葉も何も、例の証言は間違いで自分は遺族に対してそんな風に暴言を吐いた事は一度たりとも無いのだと何度も主張しているのに、結局自分達に都合の良い内容しか受け止めるつもりはないのだろう。何を言っても本筋を歪められ悪役に仕立て上げられるのなら、何も言わない方が良い。署内にさえ入ってしまえば記者たちは中に入ることは出来ないため、ひと言も口を開く事なく、記者たちと視線を合わせる事もなく署の正面玄関へと歩みを進めて。 )
( 『何も言わないと言う事は、開き直りは肯定と取りますよ!』__結局はこうなのだ。何かを言っても言わなくても結局の所事実を捻じ曲げた可笑しな自論も含め、相手を責める為だけの記事は世に出る。相手が署内へと入ってしまえば記者達はそれ以上追い掛けて来る事は無くその分のストレスからは解放されるかもしれないが、決して平穏が訪れる訳では無い。アナンデール事件に関するニュースや遺族による偽りの証言は今や署内に居る人達の殆どが知る事となっていて、フロア内では勿論の事、廊下で擦れ違う他の部署の人達も相手に白い目を向ける日々が続き。__その間も定期的にミラーは相手と連絡を取り合って居たのだが、当初の見立てより事件解決は遅れを見せていた。証拠や証言も取れ解決も間近だと思われていたのに、何故だか事件当日容疑者の完璧なアリバイだけが崩せないのだ。レイクウッドから離れていてもアナンデールのニュースは嫌でも目に留まるものだからその度に相手の事を思い、気持ちを乱す。__署に再びクラークが訪れたのは、尚も相手が記者達から逃れる為に誰も居ないフロアの中、デスクの小さな明かりだけを頼りに報告書に目を通している時だった。此処に来る事が、来れる事がさも当たり前だとばかりの態度で扉を開けるや否や『…こんばんは警部補。相変わらず“隠れんぼ”は継続されてるんですね。』と、目だけは全く笑っていない微笑みを向けて )
( 何日経っても記者たちが諦めたり別の事件や話題に関心を持って減って行く事もなく、毎日待ち構えられ心無い言葉を投げ掛けられる日が続いた。一連の週刊誌の記事は勿論、それに関する問い合わせやクレーム、記者たちが署の近くに張り込んでいる事などで署員の負担も少なからずあり署内で向けられる視線も冷めたもの。事件の日が近付くにつれて特集などの形で報道が為される事も多く、日に日に追い詰められて行き。---夜のフロアで、暗がりの中報告書に目を通していると不意に硬い靴音が響き、ハッとして顔を上げると其処にはまたクラークの姿。また犯罪者だと罵りに来たのかと警戒の色を浮かべつつもその顔にはかなりの疲労が見て取れ、目の下の隈も色濃い。「_____もう来るなと言った筈だ、」と嫌悪の表情で告げて。 )
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