刑事A 2022-01-18 14:27:13 |
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( オレンジ色の暖色灯の光は暗い夜中だというのに心做しか温かさを運んで来る気がする。口内を潤す役割を果たしてくれたペットボトルのキャップを閉めてそれをテーブルへと置いたタイミングでポツリと落とされた言葉。一瞬弾かれたように動きが止まるが変にリアクションする事はせず、目前のソファへと座り直しつつ聞き漏らさぬよう耳をすませて。__相手は“偶に”という言葉を使ったがきっとそれは最後の強がりの砦。夜中にこうして飛び起きるくらい、日中に過呼吸を起こして酷い時は倒れるくらい、薬を飲まなければいけないくらい、それくらいの心身へのダメージを今も尚与え続けている事件とはどんなものだったのだろうか。“緑の瞳”と関係しているのだろうか。「……夢の内容って誰かに話すともう二度と本当にならないんだって。もしエバンズさんが話したくなった時、今じゃなくてもいつでも私でいいなら聞くからね。」話しが終わったタイミングで静かに唇を開く。悪夢に、夜中の寂しさに、引き込まれてしまわぬよう此方は暗くならないように。極めて穏やかな声色を心掛けつつ決して急かさぬ思いを告げて )
……話したくない、
( 相手は何を遮るでも無く静かに、自分が言葉を溢すのを聞いて居たが、それでも敏い相手には全てを見透かされている様にも思えた。穏やかに寄り添う様に掛けられた言葉、相手が興味本位で言っている訳でも急かしている訳でも無いと分かっては居るのだが、夢について口にすると考えるだけでも拒絶反応が出てしまい、首を振って夢の事は話したく無いと答えて。たった1人の妹を喪うと言う経験は二度と起き得ない、それなら誰かに話して思い出してしまうよりも抱え込んで沈めてしまった方がずっと良い。---一度弱みを曝け出し誰かに縋ろうとすると、まるで雪崩を起こす様に足元がぐらつき始めてしまうのだと知った。たったひとつを零した事で、ずっと沈めて居た負の感情も、抱えて居た罪悪感も悲しみも後悔も、その全てが浮かび上がりそうになるのだ。それを押し留めるには、やはり心に蓋をしてしまう以外の術を知らずに「…酒のせいか、感傷的になってるな。」と静かに呟く事で話を終える。弱さの滲んでいた瞳は、既に普段の色に戻って居る事だろう。いつもの様に気を確り持てと自分に言い聞かせて、一度転んで仕舞えば押し潰されて立てなくなってしまうと分かっているから、せめて立って居なければ、と。 )
そっか。
( ほんの少しを曝け出した後の拒絶の言葉にも今回は前の様な悲しみは無い。あるのはただ相手がほんの少しでも楽になっていればいいと言う思い。己は何かあった時誰かに話を聞いて貰う事で立ち直れる事が多い。けれどそれが一概に全員に当て嵌る訳では無いのだ。頑なに心を守り続ける方法を一つしか知らない場合、それが世界の全てだと思う事は珍しく無いしだからこそいろんな事件が起こるのだ__と、規模を大きく考える思考を一時ストップさせ簡潔に頷きつつ視線を合わせる。ぼんやりとした灯りの中でも確かにわかるのは相手の瞳にいつもの気高い色が戻っているという事。それでも今この時間、相手が再び眠る傍に居たいと思うのは我儘か。「私今日此処で寝ちゃ駄目?」ソファの肘掛けを軽くぽん、と叩き一つの願いを躊躇いがちに紡ぐ。それから答えを聞く前に「何か今から部屋に帰って一人で寝るの寂しくって」とはにかんで見せて )
( 何故話してしまったのかと言う後悔は無かったが、相手と居る事に慣れて来て居るのかもしれないとぼんやり考える。こんな事は無かったはずなのに、気付けば薬を飲む事も、感情を零す事も、いつもは固く閉ざしていたはずの物が相手の前では緩んでしまう様な気がするのだ。それが良いか悪いかは分からずそれ以上考えるのを止める。と、思い掛けない申し出に微妙な表情を浮かべて。「それは…どうなんだ、お前が良いなら別に止めはしないが…。」ホテルで部屋も隣同士、この時間まで一緒に居たのだから別に今更何を気にする事でも無いのだろうが、仮にも異性の部下を易々と部屋に泊めて良い物か。まぁ、それ程神経質になる必要も無いかと、結果的には好きにしろといつもの様に答えつつ「ベッドで寝れば良いだろ、俺は此処で良い。」と告げて。 )
此処はエバンズさんの部屋だから、ベッドだってエバンズさんの物なんだよ。
( 一瞬考える素振りを見せたものの結果的に判断を己に委ねてくれれば満足そうな笑みを浮かべソファから立ち上がり。「お先に洗面所借ります」軽い足取りで以て洗面所へとその姿を消す__直後に一瞬だけベッドの方に視線を向けて一応部下らしい気遣いを一つ。備え付けられているアメニティの歯磨きを一本袋から出して歯を磨き、化粧を落として洗顔をする。ふう、と一つ息を吐き出し再び戻って来ればミネラルウォーターのペットボトル以外のテーブルの上に散らかした飲み物類を簡易冷蔵庫へとしまいゴミをゴミ箱へ。「これなら部屋一つでも良かったね。高いお金出したのにって文句言われそう。」リラックスするように背凭れに深く体重を預けた形でソファに腰掛けてはこの状況を上が目撃したらなんて言うか。おどけたように小さな笑い声を零しつつ、それでも流石に夜中の二時過ぎはまだ眠気を連れて来る時間帯、小さく欠伸を漏らして)
( 頑固な面がある相手の事、一度良いと言ったならベッドを使う気はないのだろう。相手が洗面所に姿を消すと立ち上がり、その間に寝る時用のルームウェアに着替えて睡眠薬を1錠口にする。相手が戻ってくると入れ替わりに洗面所に向かい歯を磨いてからベッドに腰掛け。「勝手に金を出したのは上なんだ、別に良いだろ。2人で同じ部屋に泊まったなんて言うなよ、その方が変な目で見られる。」確かに此れなら一部屋で良かったと言うのはその通りなのだが、2人で同じ部屋に寝泊まりしたと周りに知られた方が厄介な事になると苦い表情を浮かべて。「赴任早々女性刑事に手を出したなんて話になればもっと嫌われるに決まってる。」と、既に周囲から良く思われていないのは重々承知しているらしい、少し冗談めいた言葉を一つ。布団を捲りベッドに入ると、電気は好きにして良いと言いつつ横になって。 )
エバンズさんこそ、私が夜這いに来たなんて言わないでね。
( ベッドへと身を横たえた姿を確認して安心した気持ちと、相手は上司で年上にも関わらず少しの母性本能を感じれば自然と持ち上がる口角。それに加えて初めて聞いた冗談に此方も冗談を返せば「おやすみなさい」と続けてリモコンの照明OFFボタンを押す。途端に部屋は真っ暗闇へと戻り光に慣れていた瞳は辺りの様子を捉える事が出来なくなるが直に暗闇にも慣れてくるだろう。手探りでテーブルの上に置いたスマートフォンを手繰り寄せ電源を付ければ明るい画面に一瞬顔を顰めて。観光とはいえ大抵のお店が早くても九時くらいの開店であろう。シャワーや諸々の用意の時間を計算して目覚ましを朝の七時にセットすれば再びテーブルへと戻し、いいホテルなだけありそこそこの大きさのあるソファの上で所謂小動物的何かのように体を丸め瞳を閉じ__ややして気が付かないまま眠りの底へと落ちていき )
( 誰が言うか、と呆れた口調で返しつつ程無く暗くなる室内。薬の効果か誰かが同じ空間に居るある種の安心感か、また夢を見たらという恐怖は然程感じる事なく目を閉じて。暫く意識は覚醒したままでいたものの、やがて睡眠薬も効き始め3時になるより前には眠りに落ちていて。その後は2回程、辺りが白み始めた頃に夢を見てハッと目を覚ましたものの、苦しさを伴う事は無く眠気に負けて再び眠り込める程度の覚醒。途中暗闇の中で確認したが、相手はソファの上で丸くなって静かに眠っている様だった。---自分の物では無いアラームの音が遠くに聞こえた気がしたが、珍しく眠りは深かった様で直ぐに目覚める事は無く。相手が動き始めて少ししてから目を覚ますと、横になったままベッドの中で瞬く。辺りは明るく、確り眠ったと言う感覚があるのは久し振りの事だった様に思えて。 )
( 相手が夜中に数回目を覚ましていた事には気が付かなかった。身体を丸める決してのびのびとした体勢では無いのに随分と深い眠りにつく事が出来ていたのは単純に何処でも眠れるタイプだからか、それとも同じ空間に相手が居る事への安心感や居心地の良さからか。どちらにせよスマートフォンの目覚ましが鳴った事で漸く意識が覚醒すれば徐に伸ばした手でそれを引っ掴みOFFのボタンをタップして。それからのっそりと起き上がり相手が眠るベッドへ頭を向ける。体を起こしていない所を見るとまだ眠っているのか、起きてはいるが動く気が無いのか。どちらにせよ無理に起こす事も無いと思えば静かに立ち上がり、くわ、と欠伸を一つで洗面所へと向かい。夜中に使った歯ブラシで歯を磨き顔を洗い、生憎メイク道具は自分の部屋の為にスッピンのまま戻って来るとテーブルに置きっぱなしの温くなったミネラルウォーターを一口飲み__シャワーは流石に部屋に戻るべきだろうと考え何が面白かったのかそんな考えをした自身に少しだけ笑い。後は相手が動き始めてからあれこれをしようと再びソファへと座り直しこの辺りの良さげな観光名所を検索して )
( 普段、朝はアラームが鳴るよりも前に目を覚まして肌寒さを感じつつ起きる事が殆どだったが、今日は眠りが深かった所為か起きてからも若干の眠気を纏っていて身体も普段より温かい気がした。少ししてベッドに身体を起こすと、相手は既に落ち着いた様にソファに収まりスマートフォンを弄っていて。起きた時に誰かが側に居るのは妙な気分だったが、思えばついこの間病院で目を覚ました時にも隣には相手が居た訳で。「…眠れたか?」と朝の挨拶も無く相手に目を向けると、ソファで丸くなって眠っていた相手を思い出しゆっくり休む事が出来たのだろうかと尋ねる。欠伸を噛み殺しつつ、そのまま起き出して洗面所まで歩いて行くと歯を磨きながら戻って来て再びベッドに腰を下ろして。今日は観光をするのだと来た時から意気込んでいた、それくらいの事には付き合ってやろうと。 )
あ、おはようエバンズさん。
( スマートフォンの画面の中にはオススメの観光地が地図になって沢山記されており、何処もかしこもが気になる中で時間との勝負だなと考えを巡らせていた矢先、布団の捲れる音がベッド側から聞こえて視線をそちらに向ける。目を覚ました相手は夜中の事など無かったと思えるくらいにいつも通りだ。問い掛けに対して「今までで一番って思えるくらいぐっすり。起きた時に同じ部屋に誰かが居るってなんかあったかい。」と笑えばソファから立ち上がり相手の目前まで移動しスマホの画面を見せて。「エバンズさん動物園とか興味ある?」そこには『ブランクパーク動物園』の文字とキリンの写真が。明らかに返って来る答えがわかっていそうな問い掛けをしつつ「一回シャワー浴びに部屋に戻るから用意出来たらまた入って来てもいい?」と、この出張で随分と輪をかけて図々しくなった雰囲気を掲げて。されどその瞳にも声のトーンにも楽しみで仕方が無いという明らかな色がひしひしと滲み出ていて )
( よく眠れたと言う事と温度を感じると言うのは相手と同意見だったが、それを口にするのは辞めておく。スマホの画面を見せられ動物園に興味があるかと問われれば、歯ブラシを咥えたままいつも通り間髪入れず「ない。」と一言。最後に動物園に行ったのがいつだったか記憶すら定かでは無く、楽しみ方もいまいち分からない。とはいえ自分が何と言った所で動物園が目的地である事は変わらないのだろうという若干の諦めも既にあり。2人での仕事を熟す毎に、臆さない押しの強さを日増しに感じるようになっているのだが、それに対する返答も最早お決まりの物。好きにしろ、と言う言葉は相手に対してのみ許可の意味が込められているのかもしれない。自分もシャワーを浴びる際に鍵をしないで居るのは流石に不用心だろうと、部屋に戻ろうとする相手にルームキーを投げ渡して追い払う仕草をすると、一度洗面所に戻って行き。 )
( 案の定動物園への興味は欠けらも無い返答が来れば「んー」と何とも歯切れの悪い返事だけを返しつつ投げ渡されたルームキーを迎え入れるように両手でキャッチし。「お邪魔しました」の一言を残して部屋を出ればそのままの足で隣の自分の部屋の鍵を開けて中へと入り。__シャワーと軽い化粧を済ませ持つべき物を持って再び相手の部屋を訪れたのは八時を少し過ぎた頃。身支度が終わっている事を確認して再び側へと歩み寄ると、先ずはルームキーを返し続いて先程と同様にスマホの画面を近付けて。「動物園以外の候補だとこのマーケットとか、植物園も有名なんだって。もしエバンズさんが本とか好きなら議事堂の中にある図書館は全米一位の綺麗さらしいよ。」本来ならば観光などせずにホテルでのんびり過ごして居たいだろう相手を連れ出すのだ、少しでも悪くなかったと思って貰える場所の方がいい。観光名所として挙げられている数箇所をピックアップしつつ選択肢を委ねては、「気になる所ある?」と首を傾けて )
( シャワーを浴びて髭を剃り、髪を乾かしてから新しいワイシャツに袖を通す。チェックアウト後にスーツケースなどの大きめの荷物をフロントに預かって貰うべく荷物を纏めてからソファに腰を下ろし仕事のメールを確認していると相手が戻って来て。ルームキーを受け取り、差し出されたスマホの画面に再び目を向けると追加の観光地の候補を提示され。特に行きたい観光地がある訳では無いのだが、あれ程観光を楽しみにいた相手を無碍にするのも、調べ直したらしい候補地にも興味が無いと切り捨てるのも流石に忍びなく、一応候補には目を通して。「__俺はどこでも良い。…楽しみにしてたんだろ、お前の好きな所を選べ。今日は付き合う。」とぶっきらぼうな返事を一つ。結果的にどこでも良いと言う何の全く参考にもならない返事ではあるのだが、この観光を楽しみにしていたのを知っているからこそ相手の行きたい所に付き合う気はあるようで、気にせず好きな場所を選ぶ様にと促して。 )
( 『此処がいい!』と言う明確な答えは返って来なかったが観光が心底嫌な訳では無いのかもしれないとその言葉で思えば小さく頷きつつ「じゃあ__マーケット少し見てから動物園にしようかな。」と簡単に観光名所を決めて。まだ終わった訳では無いが2泊3日というのはこんなにもあっという間なものなのかと思う。それはもしかしたら一緒に居るのが相手だからだろうか。どちらにせよ明日からまた仕事になる訳だから今日を目一杯楽しまなければ。テーブルの上の置きっぱなしにしたミネラルウォーターのペットボトルを手持ちの鞄に押し込み用意が出来たのを確認して共に部屋の外へと出る。フロントに鍵を返してスーツケースを預ければ鞄に一つで身軽になった体は一足先にホテルの外へと出ており。__午前中限定のマーケットはなかなかの混み具合だった。色々な国のブースや、食品、雑貨、様々なものが所狭しと並ぶコーナーに歓喜の声を一つ上げては「もしかしたら珍しいお酒のおつまみ売ってるかも。」と昨晩の小さな飲み会がとても楽しかったのか、再び相手が付き合ってくれる確証など無いにも関わらずキョロキョロと辺りを見回しながらゆったりと歩みを進めて )
( 相手の提示した観光ルートに了承の意味を込めて頷きつつ、自分でも植物園や図書館の詳細を調べて居た様でチェックアウトの手続き中に「…時間があったらアイオワ法図書館にも寄って良いか、」と尋ねて。何処でも良いとは言ったものの、調べている内にヴィクトリアン調の内装に興味を持った様子。折角なら見ておきたいという興味が後になって湧いたのか珍しく希望を口にして。---ホテルを出て向かったのは、様々な出店の並ぶ賑やかなマーケット。人混みは好きでは無い為こう言ったマーケットに自ら足を運ぶ事は無いのだが、目を輝かせているいる相手につられてブースを眺めていると雑貨や珍しい食べ物が目に入り興味を惹かれはした様で。飲食店は勿論、花や工芸品、アクセサリー、革製品などバラエティ豊かな出店の数々。楽しげな大人子どもの騒めきや客を呼び寄せる店員の声が聞こえ、此れ程賑やかな空間に身を置くのは久し振りだと歩きながら考える。「つまみを買ってどうするんだ、今日は泊まらないだろ。」と、もう一泊して晩酌をする様な勢いの相手に言葉を投げ掛けつつもゆっくり眠れたお陰もあってか口調に普段程の鋭さは無く。 )
っ、あるよ時間。たっぷりある。
( 行きたい場所への要望が出た事に目を丸くし数秒相手を見詰めるも直ぐに何度も頭を縦に動かす事で了解の意を示しては「エバンズさん本好きなの?」と歩む足を止めずに問い掛けて。ブースの前を通る度に『寄ってって』と声を掛けられるがそれ全部に応えていては本当にもう一泊しなければならなくなる。ニコニコと愛想の良い笑みを浮かべ時折片手を振りながら沢山のお店の前を通り過ぎつつ「今度また一緒に晩酌しよ。」と隣を歩く相手を見上げるように頭持ち上げ視線を向けて。__目に止まったのは世界各国のチーズが売られているブース。特別大好物な訳では無いがジンジャエールで割ったワインとは良く合ったと昨晩思って居た為に自然と足も止まり。店員が『これは何処の、あれは何処の』と紡ぐ説明を頷きながら聞き入り、時折出される試食を食べ決めたのはフランスのカマンベール村で作られた本場のカマンベールチーズ。それを一つ買って満足そうに頷いた先にはチョコレート屋さんが。「エバンズさん、此処いろんなアーモンドチョコあるかもしれないよ。」これまた相手にとって好物という訳では無いのだろうが折角なのだ、見て損は無いのではと歩みを其方に向けて )
( 相手の問い掛けには「…そうだな。建築も気になる。」と歩きながら答えて。眠れない夜の時間潰しに調度良いと言う事もあり本は読む方だし、昔ながらの建築物にも少し興味がある。少し立ち寄る程度で構わないのだが惹かれる物はあった。ひとりで家で飲む事は余り無い為か晩酌といえば外出先でするイメージがあるのだが、つまみを買うと言う事は家で飲む事を想定しているのだろう。仕事の付き合いで仕方無くと言った風では無く、何も無い日に自分を誘ってまで晩酌を楽しみたいと言うのは、相当な酒好きか相当な物好きかのどちらかだ。と、本場のチーズを購入して満足そうな相手に促された先にはチョコレートの量り売りの店。チョコレート好きとして認識されるのは少し気恥しくもあるのだが、味から種類まで様々な物が並んでいる店頭は目を惹く物で。相手の言う通り、ビターやミルクの味の違いや、使っているアーモンドが違う物、細かく砕かれて居たり丸ごと入って居たりとアーモンドチョコだけでも実にバラエティ豊かな品揃え。ココアパウダーが掛かりアーモンドが丸ごと入っているミルクとビターの2種類が気になる所だが、好きなものを選べばグラム単位で売ってくれるらしい。4種類選べばお得なセットに出来ると店員から声をかけられ「…どれか食べたいのあるか?」と相手に尋ねて。 )
( 建築物も本にも興味があるというのがわかったのはなかなかの収穫だ。もしいつか、また何処かに出張の仕事があって運良く相手と一緒だった場合空いた時間を観光出来ると言うのならば古い歴史を感じる建物や、美しく細やかな建物、様々を選べるという事ではないか。今後何時来るともわからぬ楽しみに内心小さく笑えば、目の前に立つだけで甘い匂いが広がるチョコレートブースの隅々に視線を移し。魅力的な店員の言葉に続いて相手からの問い掛けが来れば折角ならばお得なやり方で買うべきだ。シンプルなミルクチョコも美味しそうだが酸味が香るストロベリーチョコも捨て難い。結局散々迷った挙句「これがいい」と指差したのはオレンジピールにミルクチョコレートがかかった程よい甘味も酸味も楽しめるもの。_さて、相手はこんなに山ほど種類のあるチョコレートの中からどれをチョイスするのだろうと店員との会話を楽しみつつ興味深そうに観察して )
( 相手の希望を聞けば、ビターとミルクのアーモンドチョコをそれぞれ1種類、オレンジピールの物と、クランベリーをチョコレートで包んだ物の4種類を指定して購入する。程無く渡された小さな紙袋の中には、ひとつずつ小分けの袋に入れられ律儀にもリボンで縛られたチョコレートが綺麗に収められていて。自分の嗜好の為に普段より少し奮発して何かを買うのは久し振りの事。自分は気になっていたアーモンドがあれば良いと、オレンジとクランベリーの2袋を相手に渡して。---出店の数々を眺めながらマーケットを歩いていると、ふと人混みの中すれ違った女性が酷く懐かしい姿に思えて思わず足を止めて振り返る。背格好や服装、髪型が記憶の中の妹に似ていたのだが当然彼女が此処に居るはずも無い。誰かと笑い合っている横顔は勿論別人の物で、直ぐに歩き始めて。 )
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