Devil 2021-11-21 21:57:27 |
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(天使の傷ついた声と謝罪が聞こえて、やがて部屋は静かになる。
謝らせたいわけじゃなかった、幻滅されて嫌われるのを避けるためだけに天使を遠ざけてしまった。それも深く傷つけて。
そんな自分の醜さにもまた嫌気がさして、どんどん縮こまってしまいたくなる。
本当は、地獄で非道な仕事をしていた自分を許して欲しくて、それでも好きだと言って欲しかった。
でもそう言ってくれる確証はない。君は最低だ、なんてもし言われでもしたら立ち直れない自信があって言い出せなかった。)
(夜になり、ようやく布団から起き出す。
モヤモヤした嫌な気持ちを忘れてしまいたい。テーブルの上には相手が持ってきたワインとケーキが置かれていたが、それでひとり晩酌を楽しむ気には到底なれなくて、ノロノロと服を着替えてから家を出た。
向かったのは、相手となら絶対に足を踏み入れない裏通り。
オシャレなレストランもなく人通りも少ない、道端で喧嘩をしてる人がいたり治安がいいとは言えない通りにある一軒の寂れたパブへ。
薄暗く雑然とした店内には当然おしゃれをしたカップルなんかはいない。
カウンターのすみに座り、ウイスキーをロックで頼むとそれを一気にあおった。)
「 ___おい、貴様ッ、やっと見つけたぞ! 」
( 日も暮れ、月夜が辺りを照らし始めてどれぐらい時間が経っただろうか。夜が深くなるにつれて、裏通りには酔っぱらいや輩が増え始め、その喧騒も増していく一方。
悪魔が1人ヤケ酒をしている店へ、逃げ込むようにしながら駆け入ってきた男が1人。場違いなカジュアルスーツに身を包んだ男は、息を切らしながらやって来て、そして、カウンターの隅に座る相手を見つければ、前髪の隙間から覗かせた瞳で鋭く睨みながら相手の傍まで大股で歩み寄る。
途中で輩に絡まれでもしたのか、ブロンドの髪は乱れ、シャツもヨレ放題であったし、何やら疲れきった様子であった。)
「 ……まさか、また顔を合わせる羽目になるとはな。
我ながら最悪だ。」
( それでも、乱れた髪をかきあげ腕を組み、座っている相手を見下ろせば、グラス片手にやさぐれている様子に嫌悪感を露わにした。
自分からやってきたくせに、発言と今の状況には矛盾が生じているが、自分だって好きで相手の顔を見に来たわけじゃない。それどころか、邪険にしている相手を探すなんて面倒くさいことこの上なかった。それでもここまでやってきた理由については、勿論、相手も大体は察しがつくだろう。 )
……お前から好きで会いに来たんだろ。
最悪なのは、こっちのセリフだ__.
天使様が、こんな店に何の用だよ…晩酌なら御免だぜ、俺はレイモンドとしか飲まない。
(いつもより度数の高い酒を何杯飲んだだろう。大きな声が聞こえてこちらに歩み寄ってくる足音に緩慢な動きで顔を上げると、そこに立っている男を見上げる。
忘れもしない、あの最悪な天使だと理解するとあからさまに嫌な顔をして残っていた酒を飲み干し、あいたグラスと交換でもう一杯手元に引き寄せる。
自分から会いに来といて最悪だとは、こいつは何を言ってるんだと顔をしかめたがだいぶ酔いが回っているよう。
ギリギリ呂律は回っているがいつもよりゆっくりとした口調、目も赤く動きも緩慢。まさにヤケ酒で、普段飲みもしないウイスキーを大量に飲んでいるのだから当然だった。
自分と晩酌をしに来たならお前とは飲まないと言って、またグラスをあおる。
天使と晩酌をするのはレイモンドだからであって、このいけすかない天使と飲み交わすのはまっぴらごめんだと言ってのけた。)
( 相手の言葉に、これまた嫌味を言い返そうと口を開いたが、ここは一度、落ち着いて乱れていたシャツやジャケットを直し静かに隣へ腰掛けた。
眉間には皺を寄せたままだが、どうやら、今度は相手についての不満からくるものではないらしい。)
「 生憎だな。レイモンドさんは、…天界に帰りたいそうだ。」
( 晩酌は先輩とのみ、という相手の言葉に、皮肉そうにしながらも、それでいて大好きな先輩を心配そうに上記を呟いた。
昼過ぎ、再度地上を訪れ散策していたところ、どうやら偶然出会ったらしい。しかし、顔を見れば目は赤く腫れ上がり、泣き腫らしたようだった。此方の顔を見るや否や再度泣き出せば、「 帰りたい 」と弱々しく呟かれた。
酒ではなく、水を一杯もらおうと店員に頼みながら、隣に座る相手の顔は見ずに、僅かに怒りの籠ったように言葉を続けた。)
「 俺は、先輩を天界へ連れ帰りたかった。それは今でも変わらないさ。…でも、急に可笑しいだろう。
先輩は、お前に嫌われたと言っていた。
何を言ったんだ。」
………レイモンドが、天界に帰りたいって言ったのか?
(隣に座った天使に構うことなく、ただ酔うためだけにウイスキーを流し込む。
しかし相手から告げられた言葉に、ギョッとした表情を見せて相手の顔を見つめると本当に相手がそう言ったのかと尋ねる。
それからまた深くため息をついてウイスキーをあおると、おかわり、とマスターにグラスを押しやった。
このペースで何時間も飲んでいるのだから潰れるのも時間の問題だろう。)
_____やっぱり、俺はあいつに嫌われたんだ。
…何も言ってない、今は顔を見たくないからほっといてくれって、そう言っただけで…
だって、言えないだろ?地獄の任務に何週間も行ってたんだ。
…俺が何をしてたか、あいつに知られたら嫌われると思って…顔を合わせられない。___なぁ、分かるだろ。
(天界に帰りたいと言った、という事実を自分の中で繰り返すと、やっぱり天使に嫌われたんだと項垂れる。
天使と悪魔の両方が、お互いに嫌われたとしょげているのだから隣の相手にとってはさっぱり訳がわからないだろう。
ウイスキーが入ったグラスを見つめながら理由を話し出し、ついでにボロボロと涙をこぼし始める。
酔っ払って情緒が不安定になっているらしい。隣の大嫌いな大天使にはばかりもせずに子どものようにグスグスと泣いて、好きでもないウイスキーを流し込んだ。)
( 事実を確認するかのように問いかける相手に、黙って頷けば、水を一気に流し込んでため息を着く。
あんな事があったのに、自分に対してベラベラと話し始める相手を横目に、相当酔っているのだなと思いながら、とりあえず一通り話を聞くが、再度深くため息をついた。
お互いにお互いが嫌われたと、まるで子どものようにぐずる天使と悪魔。なんて難儀な関係なんだと、頭をかいた。)
「…お前、顔を見たくないって言ったのか?
阿呆め、そんなこと言われたら嫌われてると思うだろ。
おまけに、ずっと先輩を避けていたんだろう。
俺だって、ゼパルにそんなことされたら傷付く。 」
( 隣でついに涙を流す悪魔にギョッとしながら、なんで自分がこんな事を…と思いながらも強い口調で上記を返す。“ ずっと、顔を見せてくれないんだ ”と嘆く先輩の言葉を思い出せば、こういう事かと納得しつつ、ウィスキーを流し込むそのグラスをひったくった。
その勢いで仲の良い悪魔の名前を口走れば、一瞬、しまった、と舌打ちするが、一間して、隠しても意味が無いと諦めたように口を開く。)
「 言ってたろ、悪魔も天使も関係なく、レイモンドさんが貴様と一緒にいたいと。
俺は、到底信じられなかった。悪魔っていうだけで、皆救いようのない低俗だと思っていたからな。
でも、最近、先輩の言葉がやっと分かってきたんだ。
なのに、なんで貴様らがこの有様なんだ。 」
だって、本当に顔を見たくなかったんだ。
俺は人間を地獄に堕とすために死に誘惑した…顔を合わせて、俺はこんなことをしたけど嫌わないで、なんて言えるわけないだろ。
あいつが悲しむのは目に見えてる。だから、今は顔を見たくないって言ったんだ。
俺は悪魔で、あの人間たちも悪い奴だった。
だから俺は悪いことをした訳じゃない、でもレイモンドの顔を見たら罪悪感に押しつぶされる、…
(顔も見たくないほど嫌いなこの天使を相手にしながらも言葉は止まることなく、言い訳のように理由を語る。
これを彼に言えればここまでこじれることはなかったのだろうが、言ってしまってもし嫌われたら、という思いが邪魔をしてどうしても言えなかった。
反面この天使には嫌われても何ら問題はないため、ここまで明け透けに理由やら感情やらを話せているようだ。)
なんでゼパルが……ああ、お前たちも友達なのか。よかったな、
___なぁ、レイモンドに帰らないでくれって言ってくれ。
あいつがいなくなったらつまらないし、地上にいる意味がない。
ずっと一緒にいたいし、嫌われたくない……
(ゼパルの名前が出たことに反応したものの、深く考えることはなくお前らも友達なのかと勝手に納得する。
ウイスキーをさらに煽ろうとしたところでグラスを奪われ、酒を流し込むことは叶わない。
しかし既にかなりベロベロで、相手の腕を掴んで帰らないように言えと頼む。
思っていても普段は絶対に口にしない天使への想いを、絶対に聞かれたくないであろう大天使にベラベラと話しながら、またメソメソと泣き始めるのだから手がつけられないとはまさにこのことだろう。)
「 ___あのなッ、確かに、もし、仮に!そう言われたのが他の奴なら、お前のことを心の底から軽蔑し、否定するだろうな。
でも、本当に先輩はそんな奴なのか!?
先輩は、お前が可愛らしい悪さしかしないから、だから一緒に居たのか?違うだろ?」
( さっきから黙って聞いていれば、酔っている所為か否か知らないが、言い訳のような御託を並べ、腕にしがみついてくる。あろう事か人伝に気持ちを伝えようと…、おまけに此方の顔を見ながら更に泣き出す始末。
いい加減にしろ、堪らず立ち上がり、相手の胸倉を掴んで此方に引き寄せた。
わざわざこんな薄汚いところまで探しに来てやったのに、先輩の事をいとも簡単に自分から奪っていったくせに、相手の姿が情けなくて此方の方が悲しくなってくる。)
「 言っておくがな、先輩は昔から、悪魔がどんな奴なのか全て知った上で、差別せずに公平な方だった!それこそ、天国で白い目を向けられてもな。
貴様が、先輩の事を思って、嫌われたくなくて突き放したのなら…、なんで既に、あんなに悲しんでいるんだ?」
( 奥歯を悔しそうに噛み締めながら怒涛のように言葉を告げれば、投げ離すように相手の服から手を離し、もう一杯水を受け取れば、「 さっさと頭を冷やせ 」と相手の前に乱暴にその水を置いた。)
……違う、あいつはそんな奴じゃない。
(いつもだったら相手の胸ぐらを掴み返していたであろうが、今は情けのないことに酔いのせいでそんな判断は瞬時にできない。
そんな状態で怒った大天使から言葉を投げかけられ、確かにそうだ、あいつはそんな奴ではないとだけ首を振る。
そして相手が悲しんでるなら行って謝らないといけない、というくらいのことは理解したらしい。
本当ならしっかり酔いを覚まして、しっかりと謝りに行くべきなのだが。差し出された水を飲み干した。)
___レイモンドに謝ってくる、
(そう言ってフラフラと覚束ない足取りで店を出て行ったかと思えば、外に出るのと同時に指を鳴らした。
店に残された相手は、悪魔が飲んだ大量のウイスキーの精算をさせられる羽目になるのだろうが、そんなことは今は思い至りもしなかった。
そして天使の家のリビングに行こうと指を鳴らしたはずが、あまりに酔っているせいで上手く行かずに玄関の中途半端な所に出てしまい、盛大な物音を立てて家に侵入した上に転ぶことになった。)
「……あ!…ッおい!」
( フラフラと店を後にする相手を追いかけるが、此方の声も届かず、店を出た刹那、相手は行ってしまった。
やれやれと肩の力を抜いて眉をひそめれば、ちらりと店内へ目をやる。大量のグラスだけが取り残されたのを見れば 「 俺にも酒をくれ 」とため息混じりに、カウンターへ踵を返したのだった。)
____!?
( 昼間、泣きながら街中を放浪していれば、久しぶりに後輩に会い、情けないことに涙ながらに全てを吐き出してしまった。威厳のある先輩でいたかったが、幻滅させてしまっただろうか。
落ち着くまで暫く相手と共に居たのだが、すっかり夜になり、自分の醜態にいつまでも後輩を付き合わせてはいられず、大人しく自分の家に帰ることにした。
本当に上へ帰ることになれば、色々と、整理しないといけないこともある。
それから、部屋で書類をまとめながらも、何時間経っても未だにズルズルと鼻を啜っていた。おかげで仕事も何も捗りはしない。
全て投げ出して、とりあえず寝てしまおうかと布団を捲った瞬間、玄関から大きな物音がして思わず肩を跳ねさせる。慌てて其方へと向かえば、何故だか彼がそこにいた。
転んだらしい相手へ、「大丈夫かい!?」と思わず手を添えて起き上がらせるが、ハッと目を逸らし、すぐにその手は離された。)
……ベリアル。どうしたの、こんな時間に。
____レイモンド、…
……俺が悪かった、上に帰るなんて言わないでくれ。
ずっと一緒にいたい、お前に嫌われたくない…
(床に転んだことで腰を打ち付けた鈍い痛みに顔をしかめたものの驚いて出てきた相手の名前を呼ぶ。
手を差し伸べられて起こされるも、相手はすぐに目をそらしてこちらから手を離してしまった。
離れていってしまった温もりに悲しそうに目尻を下げると、相変わらずぎりぎりなんとか呂律が回っているゆっくりとした口調で相手に言葉を伝える。この距離でもさぞ酒臭いことだろう。
伝えたいこと、謝りたいことを思うままに口に出しているせいで話の内容は支離滅裂で、話している内にまた涙がこぼれる。
今日の悪魔はどうにも情けない。)
…え、あ、待って待って。とりあえず、座ろう。
水も飲まなきゃ。
( 相手に名を呼ばれ。ゆっくりと視線を其方に戻すと、どれぐらい酒を飲んだのだろうか。色白い肌は真っ赤になり、おまけに、こちらと同じぐらい、相手も泣き腫らしたような目をしていた。
おまけに、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎながらも涙を零す相手に、理解が追いつかないと言うように、慌てて制止する。
そして、フラフラな相手を部屋の中へと誘えば、相手をいつものソファーへと座らせ、キッチンから水を汲んで来る。)
……どうして、キミが帰ることを知っているのかは分からないけど。僕は、嫌っている訳じゃないよ。
でも、もう、僕と一緒にいない方が、楽なのかと…。
( 隣に腰掛け、コップをテーブルへと静かに置きながら、小さく返事を述べ始めた。
ずっと一緒にいたいなんて、嫌われたくないなんて…どうして相手が言うんだろうか。自分は嫌いだなんて思っていないし、寧ろ、嫌っていたのは相手の方ではなかったのか。
色んな考えが巡る中で、ただ、自分の考えを述べた。顔を合わせたがらなかったし、やっぱり、天使といるなんて馬鹿げてたと思われたのでは無いのかと、ずっとずっと不安だった。その不安は、謝罪を受け入れた今でも拭いきれてはいない、自分のせいで、相手が窮屈な思いをするのは嫌だった。 )
(相手に促されるままに相手の部屋のソファに座り込み、冷たい水を飲む。
明るい所で見た相手は、たくさん泣いたのであろうことがよく分かる潤んだ目をしていて、あのいけすかない天使が言った通り本当に天界に帰りたいと彼に泣きすがったんだろうと思えて眉を下げた。)
…俺が、顔を見たくないって言ったからだろ、
顔を見たくないのは本当だった。
地獄で仕事をして帰って来て、罪悪感でいっぱいだったんだ。
お前が知ったら悲しむようなことをした…顔を合わせたら、失望させると思って、
お前に嫌われたくなかったから、…だから、今は顔を見たくないって言った。
(自分が顔を見たくないと言って相手を跳ね除けたから、それで相手を傷付けてしまった自覚はある。
でもそれは、天使を嫌いになったからじゃない。
はじめから話しておけばこんな溝は生まれなかったと思いながら、ポツリポツリと、相手を拒絶した理由を話し始める。
相手のソファーに座って水を飲んで、まだ体中が熱かったし頭もくらくらしていたがほんの少しは落ち着いたようだった。)
( 先程よりも少し落ち着いたように話す彼を横目で見ながら、静かに最後まで聞いていた。
聞き終われば、一言「 そう、だったのか 」と安堵や情けなさが混じったように息を吐きながら呟いた。
自分は決して嫌われていた訳ではなかったのか、と思う反面、ちゃんと相手の話を聞こうとせず、勝手な憶測で行動してしまった自分が恥ずかしかった。)
ごめん、ベリアル。
僕も、自分勝手に解釈して、勝手に、諦めようとしてたんだ。
キミが地獄から帰ってきて、やっぱり、僕みたいなお気楽で脳天気な天使なんて、嫌になったのかと思ったんだ。
…キミは、最初天使なんて好きじゃなかっただろ。
( 静かに謝罪の言葉を述べれば、此方もゆっくりと語り始めた。顔を見たくないのだって、きっと、今だけの話じゃなくなって、天使とは関わりなくないと思っているんじゃないかと。そんな不安は、1度根付いてしまうとなかなか拭えない。そして、それはきっと、彼も同じで、自分だって、面と向かって話すのが怖くて、確認もせずに逃げてしまっていたのだ。
それ故に、彼だけを攻めることは出来なかった。)
…そんな訳ないだろ。
たしかに天使は嫌いだけど、お気楽で脳天気な天使は好きだ。
俺は悪魔で…天使からすれば軽蔑されるようなこともする。
天使に軽蔑されるのは別にいい、でも…お前に嫌われるのだけは嫌だ。
お前が上に帰るのも嫌だ、地上にいる意味がなくなる。
(相手が話す言葉を聞きながら、地獄に行ったくらいで天使を嫌いになるなんてあり得ないと首を振る。
むしろ地獄に行ったからこそ会いたかったのだ。怖くて顔を見せられなかっただけで、本当は帰ったその日から会いたかった。
天使は嫌いだけど相手のことは好きだと言ってのけ、酔いのせいでまだ自分が何を喋っているのかいまいちはっきり理解していないのだが、相手に嫌われたくないと訴える。
どの天使に軽蔑され罵倒されても、目の前の天使を悲しませたり失望させたりするのは嫌だった。
それに相手が地上からいなくなることも。
そばにいたいのだと、いつもなら言わないような直接的な言葉で相手に伝えて、また泣きそうな顔をした。)
…アル。
キミが一生懸命仕事したのに、僕がそれを軽蔑するはずないじゃないか。 嫌いになるなんて、そんなの無理だよ。
僕らは人間を天へ導くし、キミたちは地獄へ誘う。その正反対な事実は変わらないけれど、僕らに出来ないような事を、君たちはやってくれているんだ。
( 酔っている所為なのか、珍しく思っていることを素直に表現してくれる相手に、嬉しさと切なさが募ってくる。
相手の話を聞き終えると、肩の荷が降りたように息を吐いて、ゆっくりと相手へ向き直り、泣きそうな瞳をした相手の顔を両手で包み込んで此方へ向ける。
静かに名を呼べば、自分だって、相手を嫌いでは無いことを真っ直ぐに伝え、優しく微笑んだ。
確かに、彼の言う通り、地獄では、天使が軽蔑し卒倒するような仕事もたくさんあるだろう。しかし、人々の人生や生と死に携わる自分たちの仕事は、お互いがいなければ成立しない。地上は善と悪で成り立っているし、どうしようもない悪人は、我々には手の付けようがない。
人間を悪の道へ誘ってしまうのも彼らかもしれないが、自分たちの手に負えない人間を然るべき場所へ導くのも、彼らの立派な仕事だと思う。)
それに、キミがそうやって想ってくれているなら、上には帰らないよ。
( 乱れた相手の髪をそっと撫で、続けて、優しく上記を述べた。正直、顔も見たくないほど嫌われているのなら、いっそ天国へ戻った方が楽だろうかと思っていたが、自分の中で誤解は解けたし、相手の気持ちを知れば、帰ろうと思う気持ちなんて消え去ってしまう。)
…悪人を、死に誘惑した。
(相手の優しいぬくもりを持った手が両頬に添えられて、澄んだブルーの瞳とまっすぐに目が合う。
相手は悪魔のしたことを軽蔑することもなく、むしろ天使にできないことをやってくれているとまで言った。
その優しさに改めて触れて、天使に顔向けできないと卑屈になっていた気持ちがゆるむのを感じて、懺悔するように自分のしたことを相手に話していた。
天使たちが守っている人々の命を、甘い誘惑で自ら断つように仕向けた、仕事をしながら相手のことが頭をよぎって苦しかったのだと。またそんな感情を抱く自分が悪魔らしくないことにもショックを受けたのだと。
まるで子どものように話しながら、結局また涙をこぼす。
酒には強い方だが、泥酔すると泣き上戸になるのだろうか。酔いが覚めて自分の言動を聞かされれば、ショックで卒倒するかもしれない。)
……レイ、お前のそばにいたい。
俺は絶対にお前を嫌いになんかならない、
__俺のことも、嫌わないでくれ、
(帰らないと言いながら優しく髪を撫でてくれる相手。
相手のそばにいたい、嫌いにならないで欲しいと、何度もくり返した言葉をまた言いながら隣に座る相手に縋りつき、背中に腕を回して相手を抱きしめた。
本当は相手とワインを楽しんでガトーショコラを食べるすてきな夜になるはずだったのに、度数ばかりが高い酒を流し込んで酔っ払って、泣きながら天使の愛をもとめているのだから情けないものだった。)
…それは、大変だったね。
( 懺悔するように一つ一つ吐かれる言葉に、静かに頷きながら聞いていれば、涙を流す相手の頬を拭い、安易にも一言、上記を述べるしか無かった。
悪人なのだから、と言ってしまえばそうなのかもしれないが、死というのは、非情で残酷な事だ。だが、そんな残酷な選択へ人々を誘わなければならなかった彼の心情を考えれば、その辛さは計り知れない。
“優しい”と言う言葉は、悪魔には悪口だと、出会った頃に言われたことがあった。その言葉の意味を、今更ながらに改めて納得する。哀れんだりするような慈悲の心があっては、到底悪魔の仕事は成し得ないのだ。)
僕だって、これからも嫌いになんてならないよ。
でも…、キミが、悪魔らしくなくなったのは、僕のせいかもしれないのに…。
それでも、傍にいてくれるのかい?
( 此方を強く抱きしめる相手を、拒むことは無く、返すように相手の背へと腕を回しながら、尚も泣き続ける相手を落ち着かせるようにその背を撫でる。
ショックを受けた、と話す割に、まだ傍にいたいと願ってくれる相手へ、申し訳なさと嬉しさで此方も再度涙を流しそうになりながら、そう言って静かに笑ってみせた。 )
(自分のしたことを伝えてもなお、相手が自分に寄り添う言葉を掛けてくれたことに安心するのと同時に、元から相手はこういう心優しい天使だと知っていたはずなのに、嫌われる可能性を恐れて相手を拒絶した自分がいかに馬鹿だったかを思い知る。
天使と関わるようになって、自分の中に悪魔らしからぬ少しの“優しさ”が生まれたのだと、今回の件で自覚した。
中途半端な優しさで、それはほんの小さなものだったが、優しさをほとんど持ち合わせない悪魔からしてみれば大きな変化だ。)
元は俺も天使だったんだ、ちょっとぐらい悪魔らしくなくなったってバレない。
…ずっとそばにいたら、羽根がグレーになるかもな…
(相手に抱き返されて背中を優しく撫でられると、心の底から安堵が湧きあがってくる。
少しくらい相手の影響で悪魔らしさが失われても問題ないと言いながら相手の肩に顔をうずめ、息を吐く。
安心したせいで急に眠くなったらしい。泣いたり眠ったり忙しいことこの上ないが、相手に抱きついたまま瞼が重くなるのを感じていた。)
キミの羽根が何色でも、僕が傍にいるから安心してよ。
( 相手の言葉を聞きながら、少し安堵したように上記を呟けば、瞳に溜まる涙を拭った。
最初から地上を気に入っていて、余程のことがない限り天国へは帰らないとずっと考えてはいたが、地上や人間がどうより、相手と離れるという選択肢がこんなにも辛いとは、自分の思っていたよりも遥かに苦痛であった。それほど、相手が自分にとって掛け替えのない存在であり、支えであることを改めて知った。
それにしても、突然相手が家にやってきたのはどうしてだろうか、と思考を廻らせれば、会話の中の断片から察するにきっと後輩と会ったのだろう。悪魔嫌い、基、目の前の相手を嫌っている後輩がわざわざ話をしに行ったとは信じ難いが、もしそうならば、今度お礼でもしようかと考える。)
…アル?寝てしまうの?
一応僕は、まだ少し拗ねてるんだけど……。
( ふと、段々と重くなってくる相手の体と顔を埋める様子に小さく問いかける。
きっと、今日まで自分のために色々と考えて、たくさん泣いて疲れたのだろう。おまけに大量に飲んだらしいお酒の事を考えると眠いに決まっている。
だが、それらを考察した上で、何も言わずに蔑ろにされていたことを拗ねている、と言ってみて。)
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