Devil 2021-11-21 21:57:27 |
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…アル!家にいるのかい?
( 大きな翼で家の周辺まで飛んでくれば、あとは相手の部屋まで駆けていく。部屋の前まで来れば強くノックをして声を上げるが、暫くしても返事はなかった。
だが、微かに気配や物音がするのを感じとれば「開けるね」と言って扉を開ける。力を使って鍵を開けようとしたのだが、どうやら鍵自体が掛かっていなかったようで、慌てて室内へと入っていった。)
……アル、どうしたんだっ!
ラグエルの仕業だろう?なぁ!
( 室内に入るや否や、明らかに様子がおかしかった。部屋中に彼の苦しそうな呻き声が響いてくる。此方から見るに、ベッドの上でうずくまり、その声は止まぬ事を知らなかった。
その光景は皮肉にも仲違いをしてしまったあの日のようで、彼は羽をバタバタと拡げて苦しんでいるのだ。
一瞬何が起こっているのが分からずその場へ立ち尽くすが、後輩の仕業であることは確かだった。枕に顔を埋めて呻く相手をみて、彼の苦しみが乗り移るかのようにジワジワと涙が滲む。
相手が此方に気づけているのか定かではないが、もう一度名前を呼んで傍へ駆け寄ろうとする。)
…っ、あ゛…レイ……ッ頼む、…頼むから来ないでくれ…!
(相手が近づくにつれて痛みは酷いものになっていき、耐えきれずに怪我をした鳥がするように羽をばたつかせた。これは紛れもなく白い羽根をもぎ取られた瞬間のあの痛みで、獣のように呻き悶えることとなった。
あいつは天使どころか、悪魔よりもずっと悪魔的だ。
相手が自分を呼ぶ声がすぐ耳元で聞こえて一瞬枕から顔を上げる。しかし相手を認識しその名前を口にするだけで、相手がすぐ隣に立っているだけで、気が狂いそうな痛みを受けることになるのだ。
ブルーの瞳が泣きそうに潤んでいるのに、今は安心させてやる余裕もない。相手を求めるように一瞬手を伸ばしたものの、それは相手に届かずシーツを握りしめた。
頼むから自分から離れて欲しいと言いながら、そんなことを言ったら相手は戻ってこないのではないかという不安もあったが、痛みに邪魔されあの天使にされたことを伝えることはできなかった。)
( 来ないでくれ、その一言で駆け寄ろうと踏み出した脚が静止した。何もしていないのに息が上がり、呆然と苦しむ相手を見ている事しか出来なかった。近寄ることさえ拒まれ、また、自分は呻く彼の支えにはなれないのだろうかと拳を握った。
どうしたら良いか分からず…先程まで近づこうとしていたその脚も、1歩、また1歩と後退る。)
「……あぁ、ほら。
彼だって、先輩と居るのを望んじゃ居ないんですよ。」
( 後退った先にトンと何かにぶつかれば、そっと肩を抱かれる。
すぐさま顔を向ければ、愛しい先輩を追ってきたのだろう、ブロンドの髪を少し乱し此方を見下ろす後輩がいた。
「 随分と苦しそうですね 」なんて呟けば、先程よりも憎しみや怒りを込めた視線で部屋の奥で苦しむ悪魔の様子を見る。その口元はそれはそれは満足そうに微笑んでいた。
_今にも零れ出しそうなほど涙をためた瞳で後輩を睨みつければ、相手のコートの胸倉を掴み引き寄せ「どういうことだ」「これがお前の言う制裁なのか 」と我慢出来ずに詰め寄った。)
「 えぇ、ですが先輩が悲しむ必要はありません。
彼は自分のしたことの報いを受けているだけ。悔い改めれば楽になるのに、反省する気がないからこうなるんです。
…空気もすさんでいるし、こんな場所は毒です。
彼も出て行って欲しがっていますし。さぁ、帰りましょう。 」
(高圧的で人を見下したような態度をとっていた悪魔が制裁を受け痛みに悶える様子を見るのは、胸のすく思いがした。
胸ぐらを掴まれると抵抗することなく、今にもこぼれんばかりに涙を溜めた瞳でこちらを睨む相手の目元を軽く拭い、心配はいらないとでも言うように優しく微笑む。この場所で相手の美しい涙が流れるのは嫌だった。
悪魔の分際で天使に手を出し、先輩を地上に縛り付けておこうと誘惑した。これは重罪だ。その報いを受けているだけなのだ。
羽根を引きちぎり抉られるのはかなりの苦痛を伴うものらしい。その上相手がすぐ隣にいるのだからさぞ苦しいことだろう。やまない痛みに若干朦朧としている様子の悪魔を見下ろして笑みを浮かべる。
激しい痛みでいずれは精神も保ってはいられなくなるだろう。自滅してくれればこれほど楽なことはない。
よどんだ空気が漂う部屋を早く出て行きたくて、相手が怒っていることを気にすることもなく手を引いて促した。悪魔はついさっき自分の言葉で先輩を拒絶した、これほど相手を遠ざけたがっているのだからお望み通りにしてあげよう。)
………。
( 此方の怒りを他所に、優しく微笑む後輩の顔を見ればなんだか力が抜け、胸倉を掴んでいたその手を離す。
後輩からの言葉をぼんやりと聞けば、尚も苦しみ唸る相手の方に目をやり、拭われたそばからまた涙を一筋流した。動揺で未だ息は上がったまま、痛みに苦しむ相手を見たくなくて手を引かれたまま更に後ろへと下がっていく。
彼が何故報いを受けなければならないのか…自分が彼と親しくありたいと望み傍にいたせいで、後輩は怒り彼に力を使ったのでは無いのか。_全て、自分自身が彼を傷付けているのではないのか…。本当に、傍に居ることを望むべきなのだろうか。
思考が揺らぎ、考えがまとまらなかったが、「僕のせいだ」と言う結論に行き着くまでは早かった。
自分がいて彼が苦しむことになるのなら、このまま潔くいなくなったほうがいいのだと、後輩に促されるがままに一度は背を向けた。
…それでも、肩を組み笑いあっている彼の姿が脳裏から離れなかったのだ。)
…アル。ごめん。
僕はとても身勝手だ…。
_あと少しだけ、耐えてくれよ。
( 小さく謝罪の言葉を口にすれば、その刹那、繋がれていた後輩の手を払い駆け出した。後輩によってかけられた力ならば、自分の力で解くことができる。今この時、相手がどれほど苦痛を強いられるか定かではないし、もしかすると相手は自分と親しくしたことを悔やんでいて、これからも拒まれ続けるかもしれない。それでも、駆け寄りたいと望んでしまった。
涙を流しながら全速力で駆ければ、暴れる相手の羽もものともせず苦しむ身体をただ強く抱き寄せた。)
(相手が悪魔に背を向けたのを見て、ようやく相手と悪魔のつながりを断つことができると安堵して相手の肩を抱き家を出ようとしたものの、突然手を振り払われた。
諦めて自分の言うことに納得してくれたと思っていただけに相手の突然の行動に対処できず振り返った時には、愛おしい相手は悪魔の元に駆け寄っていたのだ。
暴れて大きく羽ばたかせる悪魔の羽根が先輩を傷付けるのに、自分を犠牲にしてまでその体を抱き寄せる相手の姿は苦しむ者に手を差し伸べる神々しい天使の姿に見えて、その場に立ち尽くしてしまうのだった。)
(酷い痛みに暴れて大きく羽ばたいた羽根が何かにぶつかる衝撃があって、体をグイッと抱き起こされるのと同時に一瞬にして痛みは嘘のように消え去った。
まるで悪い夢を見ていたのかと錯覚するほどに、あれほど辛かった痛みを一切感じなくなったのだ。体はとても優しい温もりに包まれていて、背中に添えられている手が心地よささえ与えてくれる。
暴れていた体は大人しくなり、羽根も静かに閉じる。すぐに正常に頭が働くようになり、自分を抱きしめてくれているのが天使だと気づいた。羽根で強く打ち付けてしまったのも、相手の体だ。怪我をさせてしまったかもしれない。
肩に雫が落ちて、相手が泣いているのだと理解すると腕を伸ばして相手の背中に回し、すがるように相手の首もとに顔を埋めた。
痛みをおさめてくれたことに対するお礼でも、相手を安心させる言葉でもなく、絞りだすように一番最初に口を突いて出たのは「自分のそばからいなくならないでほしい」という正直な思いだった。)
___レイ。……どこにも行くなよ。
俺のそばから離れないでくれ。お前に置いていかれるのは耐えられない…。
……そんな事、出来るわけないだろ。
本当、僕は危なっかしい奴だからさ、キミが見ててくれないと。
( 呻き声も羽も落ち着いたと思いきや、ゆっくりと背中に回された腕に更に涙を流す。強打された頬や背中は痛んだが、そんなものどうでもいいぐらい心の底から安心した。
相手が顔を埋めればその頭部を優しく抱き寄せて上記を静かに囁き、やっとの事で微笑んだ。
自分はやはり傍に居るべきではないと一瞬考えてしまった…それでも「どこにも行かないでくれ」と言ってくれた相手の言葉にこれから先、二度とそのような考えはできそうに無いと涙を拭った。相手が居ないと耐えられないのは此方も同じなのだ。)
……ラグエル。
君は、本当に優秀で自慢の後輩だよ。
でも、今回のことは、いくら僕でも許せない。
( もう一度相手を抱き寄せながら顔を上げれば、そこにはどうする事もできず立ち尽くしている後輩が映る。彼は今どんな思いでそこに立っているのだろうか。その気持ちも、きっとこちらからは計り知れない…。
しかし、きちんと話をしなければならない。先輩として後輩へ、そして、古くからの友人として。
相手の身体を労わるようにゆっくりと離せば、もう一度目元と頬を拭って立ち尽くす後輩の名を呼んだ。
そこに微笑みはなく、赤らんだ瞳を真っ直ぐに向けて素直な気持ちをそのまま口にするのだった。)
(相手からの答えと泣き止んで微笑んでくれたことに安心して、珍しく大人しく相手に寄り添ったままでいた。
少しして相手と体が離れると黒い羽根をゆっくりとしまい、全ての元凶とも言える天使を睨みつける。
散々痛めつけられたことは到底許せるはずもなく、あいつにも同じだけの痛みを与えないことには気が済まないのだが、相手が怒っているのだ。こんな顔をしている相手は見たことはない。
今は自分が手出しするべきではなさそうだと、不貞腐れつつもベッドの上であぐらをかくと2人の様子を眺めることにした。)
「 …………。 」
(傷ついた悪魔を優しく包み込んだ相手はいつもと変わらず慈愛に満ちて美しかった。その様子を見つめながらどうすることもできずにいた。
2人の関係を断ち二度と関わりを持てないようにするつもりが、目の前で2人はお互いを求め合う恋人同士のように抱き合い、相手は悪魔に与えたはずの苦痛をあっという間に取り払ってしまったのだ。
うって変わって訪れた静けさの中で先輩が顔を上げ自分を見つめる瞳に思わずビクッと肩を震わせてしまう。いつもの優しい微笑みはなく、相手を怒らせてしまったことは明白だった。
先輩を自分のものにしたくて、ずっと側で微笑んでいてほしくて、その邪魔をする忌まわしい悪魔に制裁を与えた。
悪魔が悪で自分たち天使が善であることに変わりはないし、誰より大切な先輩を悪魔の手から守りたかっただけなのだ。先輩を守れるなら、悪魔なんて消滅してもいいと思って強い力を使った。
「許せない」と突きつけられた言葉に動揺しながら、相手を思ってのことだったのだと歯切れ悪くも口にした。)
「 俺はただ………悪魔の手から、レイモンドさんを守りたくて…
先輩に、戻ってきてほしくて……。 」
…それは、よく分かってる。
君は、いつでも僕の身を案じて助けようとしてくれた。
( 歯切れを悪くしながらも口を開いた後輩に対して、ゆっくりと歩み寄りながら返答する。自分は後輩に対して…というよりもあまり怒りを表すことは無い。それ故に先程まで余裕のある姿勢を見せていた後輩も、今はその影もない。
彼はいつまでも自分のお陰だと恩を抱え、多くのことを手助けしてくれ慕ってくれた。自分はただ道を示しただけであり、実際は彼自身が努力をして掴んだものが多くあるのに。それほど努力家で天使としての才能に恵まれた者なのだ。一方で、1つの概念に固執し、感情的になりやすい部分があった。それを知っていても尚、諭せずまま上の事を任せ、ここまで歪ませてしまったのは自分なのかもしれない。
そんなことを考えれば、「すまなかった」と一言呟いた。)
僕は、いつの間にかキミを1番縛り付けてしまっていたんだ…。
でも、もう守って貰う必要なんてないんだよ。
僕は悪魔も天使も関係なくベリアルが好きなんだ。 だから、一緒にいたいんだ。
( 後輩の顔を見上げれば、先程より怒りこそ感じないがそれでも冷静な眼差しで上記を述べる。自分は1人の友人として、背後で此方を見守る相手を信頼している。その事実を、悪魔と天使であるからと言って勝手な判断はして欲しくなかった。
しかし…「 キミにバレてしまった以上、どのみち僕は天界に帰れないだろうなぁ…」と言って小さく笑った。悪魔だから、天使だからなんて下らない。そう思っていても現実はそう甘くはなく、目の前の後輩に自分達の関係が知られた以上、罰を受けるのは時間の問題なのだ。)
「 ……あなたが彼を好きなように、俺だってあなたが好きなんです。あなたと一緒にいたいんです。
___でも、独りよがりになってしまったことは反省しています。
先輩を傷つけたかったわけではないんです。 」
(もう守ってもらう必要はない、という相手の言葉を聞いて自分の願いは叶わないのだということを嫌でも理解してしまった。
外に出たがる小鳥を無理やり鳥かごに入れておくように、こちらを向いていない相手の心を自分に縛りつけようとしてしまっていたのだ。
自分だって相手のことが好きなのだと拭いきれない思いをぶつけたものの、自分の想いを突き通すことに精一杯で周りが見えなくなってしまい、相手の声すらも聞けていなかったことには謝罪の言葉を伝えた。)
「 俺はやっぱり、悪魔と分かり合えるとは思いませんし馴れ合いたくもありません。
……でも、レイモンドさんはいつも正しい道を示してくれた。だから先輩がそれを選ぶなら、今だけは目を瞑ります。
もちろん先輩が堕天しそうになったら、今度こそ有無を言わさず上に連れ帰ります。 」
(なんと言われようと、悪魔は嫌いだし歩み寄ろうとも思わない。敬愛する相手の心を手に入れているあの悪魔は尚更憎らしいのだが、いつも正しい道を示してくれた相手が悪魔ごときのせいで道を踏み外すとも思えなかった。
だから地上に来てから知ったことは全て、今だけは見なかったことにしよう。…とはいえ自分が報告しなくても、天使の力を悪魔を助けるために使ったことくらいはすでにバレてしまっているかもしれないのだが。
違反行為として何かしらの罰が下るかもしれないが、悪魔と親密な関係を持っていることがバレるよりはずっとマシだろう。)
…確かに、今回のことは許せないと言ったけれど
ラグエル、君が自慢の後輩である事には変わりないよ。
( 相手からの言葉を受け取るように頷けば、少し和らいだような微笑みを浮かべて、謝罪の言葉を述べた後輩の頭にそっと触れる。相手の好意に同じように応えることはできないが、それでも、これまでの信頼が完全に崩壊するわけではなかった。)
僕にも天使である誇りがある。気を付けるよ。
…仕事で来たんだし、あと数日は地上にいるんだろう?
無理にとは言わないが、これは覚えていてほしい。
本当に君の力になってくれる者は、誰になっても可笑しくはない。
( ポンポンと頭を撫でれば、目を瞑ってくれることへ礼を述べ、そのまま上記を続ける。後輩に見逃して貰うなんてなんとも情けない気もするが、例え悪魔でも助けるべきだと感じれば助ける、そんな信念は曲げたくない。例え何かしらの罰を受けることになっても受け入れよう、但し、後輩の目が厳しくなっているだろうし堕天には気を付けたいものだが。
触れていた頭から手を離し、今度はその手を差し出す。色々あったし、後輩には幻滅させてしまった所もあるだろう。だが、それでもまだ慕って欲しいと思うのはきっと考えが甘くて我儘だからだろうか…。
いつの間にか時刻はすっかり遅くなり、波乱のような1日が過ぎたが、目の前の相手はまだ仕事も残っている事だろう。今度こそ地上の面白さや楽しさを純粋に感じ、天使や悪魔という壁に囚わず様々な可能性に気づいて欲しい。そうなれば、自分よりもまた遥かに上へ行くことができるだろう。彼にとって違反行為ばかりの先輩からの言葉なんてただの戯言になってしまうかもしれないが、これだけはどうしても伝えておきたかった。)
___堕天の心配がいるのはお前の方だろうが。…レイモンド、こいつはそこらの悪魔より格段に嫌な奴だぜ。
俺はお前を痛め付けてやらないことには気が済まないけどな。…でも地上でお前に手を出すと、こいつに責任が行くんだろ。
それなら俺の気が変わらないうちにとっとと出て行ってくれ。
何より部屋に天使が2人もいたんじゃ具合が悪くなる。
(安心したように表情を緩め頷いて相手の手を取る天使は、カフェで対面していた同一人物とは思えない。和解したように見える2人の天使の姿をベッドの上から気に食わない表情で見ていた悪魔がついに口を開いた。
相手が怒っていたものだから、お高くとまった天使に文句を言って罵りたいのを彼なりに必死に抑えていたようだ。
悪魔といる相手より、残酷な仕打ちをしてきたこいつの方が堕天を心配すべきだと言いながら、この天使は本当に嫌な奴なのだと相手にも言いつけておく。
本当なら今すぐにでも悪魔の力で仕返しをして苦痛を味合わせてやりたいものだが、地上でそれをやってしまうと相手が責任を追及されてしまうのは分かりきっているため今はそうもいかない。
不服そうにしながらも、せめて早く自分の前からいなくなってくれと追い払う仕草をする。
今回の一件でラグエルに対しての嫌悪感はもちろん、かなり苦手意識も植え付けられたようで、警戒している犬か何かのようにベッドの上から一歩も彼の方へ近づこうとしなかった。
この2人が和解するのはかなり先か、あるいは一生訪れない可能性もある。)
「……俺だって、レイモンドさんを奪ったお前は許せない。
…それでも、先輩があぁ言うんだから…その、もう手出しはしない。
但し、さっきも言ったが、先輩が堕天でもしようものならお前を八つ裂きにして上に連れ帰るからなっ…」
( 手を差し伸べてくれた先輩に対して幾分気持ちが落ち着いていると、その背後から悪魔の声が聞こえてきて一気に顔を険しくさせる。先輩からの言葉に反省はし、口をまごつかせながら危害は加えないと言う。しかし、此方も相手と和解するつもりは無いようで、謝罪こそせず威嚇する猫のように言葉を尖らせた。
だが、愛する先輩からの鋭い視線に気付いたのかすぐに口を閉じてバツの悪そうな顔をすれば、「……帰ります。」と一間の後に静かに呟いた。
そして、先輩に対して律儀に挨拶をすれば、悔しさや寂しさが入り交じった名残惜しそうな顔をしながらもその場を後にした。)
……アル!
本当にすまなかった…。
ゼパルさんから話を聞いた時、まさかとは思っていたんだ….。
先に、彼のことを話しておくべきだった。
( 後輩の背を見送れば、玄関の扉が閉まってすぐさま相手の元へと駆け寄る。一気に緊張が解かれたかのようにもう一度相手を強く抱き締めれば声を震わせて謝罪を述べる。
相手がどれほど苦痛に晒され我慢をしていたか考えれば罪悪感で一杯だった。
あの後輩の悪魔嫌いも性も分かっていた筈なのに、こうなる事を事前に防げなかったことが悔やまれる。全て自分が招いてしまった種だが、何より相手が今、無事でいてくれて心底嬉しかった。)
___痛かった。…もう少し、背中さすっててくれ。
(最後まで気に食わない奴だったがようやく嵐が去り静かになったとため息をつけば急に相手に抱きしめられて目を丸くした。
しかしそのまま相手に体を預けると、酷い苦痛だったのだと不服そうに口にした。でもそれは相手のせいではないし、相手のお陰であの痛みから解放されたのだ。
背中に優しく添えられた相手の手は暖かく、痛んでいた背中に心地よくてもうしばらくそうしていて欲しいと小さく頼んだ。
天使に力を使われたとはいえ、自分にも不甲斐ない部分はあった。相手を天界に連れ帰ると言われ、そうなる前にラグエルを追って相手のもとに行かなくてはと思っていたのだ。
しかし痛みに耐えかねて家から出られなくなってしまい、結果として相手を守るどころか相手の側にさえいることができなかった。相手がいなくなってしまうかもしれないという不安があったが、こうして側にいてくれることに静かにそう口にした。
相手はあの天使から、使った力の詳細を聞いていたのだろうかと思い、相手の肩に顎を乗せたまま尋ねる。相手のことを考えている時間が長いことを思い知らされたと話したら、相手は笑ってくれるだろうか。
相手がラグエルの前で自分のことが友人として好きだと話してくれたように、自分も同じように思っていることを伝えたかった。)
…お前が上に連れて行かれなくて、安心した。
___なぁ、あいつが俺にどういう力を使ったか聞いたか?
( 背中をさすっていて欲しいと言う相手の言葉に何度も頷けば、優しくその背をさすり続けた。前にこうしていたわる事の出来なかった事を思い出し、今傍にいて背中をさすれることがなんだか嬉しかった。それに、素直に身を預けてくれる彼は珍しく何だかこそばゆい気持ちになる。まぁ、あのような事があっては仕方がないだろうが。)
僕は、自分が好きなものをちゃんと守るよ。
…いや、そういえば聞いてなかったな。
でも、相当痛かっただろう。彼は力が強いから…。
( 安心したように肩に体重をのしかける相手に対して上記を述べる。地上の生活も人間の観察も、勿論相手も、自分にとってはこの上なく楽しくて大好きな事だ。それを奪われるなんて心底嫌だし相手になんと言われようとその気持ちも守り抜きたい、と笑いかける。
そして、続けられた問に対してそういえば…と思い返せば、後輩が何をしたのか詳細を聞かされていないことに気づく。自分も気が動転して聞くことを忘れていた部分もあるし、何より、聞いたところで彼が次に何をしでかすか分かったものではなかった。
ただ、苦しむ様子から只事では無かったことは推測されるし、改めて自分の後輩の力の恐ろしさを感じた。特に、憎しみや怒りを感じている彼は力を制御することはないはずだ。
思わず、相手の背をさする手が小さく震える。余計に事を防げなかった自分が情けなくなる。)
あいつの厄介なのは計算高いところだな。
…俺がお前のことを考えたり、名前を呼んだりすることで痛みが起きるようにしてあった。それさえしなければ何ともない。
あとは距離が近づくほど、痛みが強くなる。
俺が痛みを嫌がって、お前と距離を取ると思ったんだろ。
___ただ、想定が甘かったな。あいにく痛くない時間がなかった。…なぁ、言ってることが分かるだろ、天使様。
(相手は単純にあの天使の力が強かったから、あれほど苦しむことになったと思っているのだろうがそれは違う。確かに力のある天使ではあったが、頭がキレて計算高いところが最も厄介だったのだ。
特定の条件でのみ痛みが誘発されるという状況にすることで、自分が痛みを回避するため相手のことを頭から消して距離を取る、というのが相手の考えた理想的な道すじだ。実際その特殊な条件に苦しめられた。
しかし彼の失敗は、想定を甘く見すぎたことだろう。痛みを回避しようにも、いつも頭のどこかで相手のことを考えてしまっていて常に痛みを感じる状態だったのだ。
そうなってしまえばその痛みをやり過ごすしかなく、相手と距離を取るだとかそんなことを考えている余裕もなくなっていく。
相手の手が僅かに震えるのを感じると顔を上げて、悲しそうな顔をしている相手の髪の毛をポンポンと軽く撫でた。
つまり、自分はいつも相手のことを考えているということだ。天使の想定の上を行くほどに、相手を大切に思っているということを暗に伝えたくて、笑いながら言うと相手の目を覗き込んで問いかけた。)
…ラグエル、そんな事をしていたなんて…。
逆に、詳細を聞いていなくて良かったよ…。
( 相手からどのような力を使われていたのか聞けば、驚いたように、それでいて彼の言う通り計算高い後輩の行動に呆れたように呟いた。それに、後輩は少なくとも自分を傷つける事はしないように力の事を言わなかったのだろうが、自分も無理に問いただして真相を知れば、怖気ずいて目の前の悪魔の元から去っていたかもしれないと思うと知らなくてよかった気もすると小さく笑った。
しかし、相手からの問いを聞けば、覗き込んでくるその笑った顔に頭を撫でられ一間考える。すると、真意に気付きまた瞳から涙が溢れ出るのだった。)
…なんだよ、それ。
キミを苦しめてたのは僕じゃないか…でも、それでもこんなに嬉しいと思うなんて、僕は最低だ。
( 上記を述べながらより一層強く相手を抱き締めると、鼻を啜りながら優しく笑った。自分が原因で相手があんなに苦しんでいたのだと思うと罪悪感は増す一方なのに、それでも、痛みが和らぐ間も無いほど相手が自分の事ばかり考えていたという事実に思わず頬が緩んでしまう。それ程までに相手にとって自分が大切な存在であると知れた気がして嬉しかったのだ。
しかし、またそれと同時に、自分が駆け寄ろうとした際に「来るな」と拒絶された理由も理解し、一度緩んだ頬にも緊張が走る。
距離が近ければ近いほど痛みが増すと言う事は、目の前に自分がいたあの瞬間、相手はとてつもない痛みに蝕まれていたに違いなく、今考えると申し訳ないことをした。だが、それから後輩の思惑通りに去ることなく、自分の手で痛みから解放できて良かったと申し訳なさは残るものの心底安堵し、頬を濡らしながらまた相手の背中を優しくさすった。)
(心優しい相手のことだ。確かにワケを知っていたら自分から離れて行ってしまっていたかもしれないと思うと、よかったと笑う相手に同意した。
少しの間があって自分の言わんとしていることを理解したのちに相手のブルーの瞳から、まるでどこまでも晴れ渡った青空の下でポツリと雨が降るように、涙がこぼれた。
「泣くなよ」と少し困ったように、同時に少し楽しそうに笑うと相手の頬を指で拭ってやる。長いまつ毛に水滴が付いている様子はとてもきれいだったが相手に泣かれるのには弱いのだ。)
レイモンドのせいじゃない。
ただ…そうだな、あいつはお前の後輩だ。迷惑料は先輩のお前にきっちり払ってもらおうか。
今日は疲れた、明日ディナーでもどうだ。
(相手が笑ってくれたことに安堵しつつ抱きしめられると応えるようにポンポンと相手の背中を叩いた。
相手は何も悪くない、どちらかと言えば巻き込まれているようなものだ。気にするなと言いながら、背中をさする手に心地良さそうに目を閉じる。
嫌な痛みだったことは確かだが、あれほど感じていた痛みも相手が触れていてくれるだけでおぼろげな記憶の中に溶けていくようで、もう何ともなくなっていた。
今回の件に関しては“迷惑料“とでも称して、また明日相手をディナーに誘う口実にしよう。何が食べたいわけでもないのだが。
相手がいなくなるかもしれないという不安に苛まれていたせいか、珍しく寂しいとかいう妙な気持ちがあって相手の肩に顎を乗せたまま「このまま泊まってけよ。」なんて言うのだった。)
そんなの、お安い御用だよ。
( 迷惑料を請求されディナーのお誘いを受ければ「勿論」と大きく頷いて上記を述べる。相手と一緒に出掛けられるのならばなんの苦でもないし、寧ろ褒美に近く償いになるのかが疑問である。
相手に涙を拭われるのが少し恥ずかしくて照れたように笑い返せば、優しく背中を叩き返してくれる彼にまた肩の力が抜けて安堵の溜息をついた。
相手が今日1日感じていた痛みに比べればなんでもない筈なのに、気が付けばどっと疲れが出てきた気がして、乱れたままになっていた髪の毛をかきあげた。疲れと安堵の高低が激しくてお互いに体力を使ったことだろう。)
…これはこれは、嬉しいお誘いだなぁ。
一緒に眠ろう。ベリアル。
( 帰りたくないなぁなんて朧気に考えていると、その心を読んだかのように泊まりの誘いを受ければ、しっぽを全振りする犬のように顔を明るくさせる。
勿論断ることは無く、そのまま寄り添いながら眠ろうと相手と共に布団の中へと誘われるのであった。)
場所は任せる。
ディナーだからな、朝から準備するのはやめてくれよ。
お前も珍しく怒って疲れただろ。
(ディナーの誘いを快く了承してくれたことに満足げに笑うと、店は相手の好きなところでいいと伝えておく。
朝から準備だなんだと叩き起こされる可能性があったのでついでにディナーだと釘を刺し、相手とともにベッドに寝転がった。
相手が怒っているのを見るのははじめてだと、からかうように笑う。しかしそれも自分を思ってのことだと思うと嬉しいものだった。
大変な1日だったが相手との絆が深まったのは確かだし、お互いが思う以上にお互いを思い合っていることも証明された。何も悪いことばかりじゃなかったのかもしれない。
そんなことを思いながら、部屋の明かりを落として相手に布団をかけた。)
(今回もありがとうございました!お互い想い合っていることがとてもよく分かる回でしたね…!*
悪魔のために怒ってくれるレイくんが最高に愛おしかったですっ
次はどんな感じのストーリーにしましょうか?やってみたいあれこれなどありますか?)
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