Devil 2021-11-21 21:57:27 |
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「 …勿論、レイモンドさんに不憫なことなんかさせない。
それに、貴様らのような連中のいる元へ、愛しい先輩を堕とすわけにはいかない。
でも安心しろ、俺がその「上」の者だからな。
先輩を守ることは造作もない。」
( まともに取り合おうとせず、余裕そうにウエイトレスに注文をする相手に一瞬眉を動かすが、それ以上の事はせずに 冷静に、それでいて冷たく言葉を返す。
報告するよりもされる側だと遠回しに言えば、テーブルについてた肘を離し背もたれへ身体を預けて腕を組む。罰を与えられるほど格上の地位ではないが、それでも上の位である事には間違いなく、その道を示してくれたのも先輩である彼だった。
自分がもっと出世できる身であったにも関わらず、生真面目に人間と向き合いたいからと今の地位のままで生き生きとしているのがまた愛おしい。…それなのに、と呑気にストローを咥える相手を見据えた。)
「 そもそも、レイモンドさんが本当に悪魔なんかと好き好んで一緒にいると思っているのか?
慈愛に満ちた方だ、お前を哀れんでペットを愛でてるのと同じだろう。」
( 此方もウエイトレスに紅茶を注文すれば、煽ってくるような相手に対して此方もまた薄ら笑いを浮かべて上記を返す。彼からの愛情も信頼も特別なものなんかじゃない、自惚れるな、と彼からの言葉に反発するよう鋭く言い放った。)
それはそれは、わざわざ「上」の方が地上までご足労なことで。
その愛しい先輩とやらはお前に守られることを望んでるかどうか怪しいとこだけどな。
(意外にも地位の高いらしい相手の言葉に肩を竦める。天界で顔が利く奴なのは少し厄介だと思いながらも、彼が相手に守られたいと思っているかどうかは怪しいと言ってのけた。
相手が守りたいと思っているだけで、きっと彼は1人でも大丈夫だし、何より地上では自分がそばにいるのだ。
悪の手から守るのであれば、天使より悪魔の方が適役に決まってる。火に油を注ぎそうなのでそれは口をつぐんでおいた。)
…お前、天使の割に嫌なこと言う奴だな。
あいつが慈愛に満ちてるっていうのは否定しない、でも俺は別にペットでもいいぜ。
(この男はある意味で地位の高い天使らしい、かなり天界に偏った考え方をする天使だ。到底分かりあうのは不可能だとゲンナリした表情を浮かべて、思ったままに口にした。
たしかに彼は慈愛に満ちた天使だ、それは悪魔の自分でもわかること。人を優しく導き、痛みに寄り添うのもうまい、どんな奴であっても見離そうとしない、堕天した悪魔の自分であっても。
「ペットでもいい」というのは、相手のそばにいられるなら、という言葉が隠れている。仮にペットを愛でる感覚だったとしても、今のように一緒にいられるならそれが心地いい。
コーヒーを一気に飲み干したことでズズズ、とストローの中で音を立てると帰っていいかと尋ねた。)
もういいか、あとはあいつに聞いてくれ。
これ以上お前と話すことはないし、話していたくもない。
「 天使だからといって、貴様らにまで情をかけるつもりは無い。」
( 嫌なことを言うなと言われれば、運ばれた紅茶を啜りながら当然だと上記を返した。先輩は悪魔と天使を決して差別しない、それは両者に限らず生き物全て対してそうなのだろう。そこも大いに尊敬する所ではあるが、自分は悪魔だけは分かり合えないと自負している。目の前の相手も恐らく、先輩以外とは分かり合おうともしないのだろう。
ペットだろうとお構い無しとする様子を見て、僅かに顔をしかめる。思ったよりも相手の威勢は図太く、先輩から離れようとする気配もないまま帰ってよいかと尋ねてくる。
席を立ち上がろうとする相手を前に特に取り乱すことはなく、ただ、紅茶を飲み終われば静かにカップを置いてフフフッと笑い出す。)
「 勿論、これからレイモンドさんに会ってくるさ。
それに…あぁそうだ、さっきの話の続きでもあるけど…
なんで俺がレイモンドさんよりも先にお前のところに来たのか
_それは“戒め”の為さ。」
( この後彼と会うのだと嬉々として言えば、その直後身を乗り出して相手の顔へ触れれば、それが戒めの合図となった。実質其れには及ばないが…年に1度、悪魔が悶え苦しむあの日、それを彷彿とさせるには十分過ぎるほどの衝撃が走った事だろう。
冷酷だった表情が一変、愉しげに微笑めば、相手に触れていたその手を離す。とりあえずは一度衝撃で収まったようで。)
(当然といえば当然だが、ここまで剥き出しの嫌悪感を向けられるのは久しぶりのことだ。
先日、悪魔とも友達になれそうだと言って嫌な顔ひとつせず同僚に街を見せて回っていた天使の笑顔を思い出す。天界を束ねる天使たちは目の前の相手のような者ばかりだということを忘れかけていた。
動揺さえ見せずこちらを見下しているような冷静極まりないこの空気感も嫌いだ。突然笑いだす相手を前に怪訝な顔をした。)
そりゃあ良かったな。
恋焦がれた大好きな先輩に会えるんだろ、俺のことはいいからとっとと行けよ。
(会いたくて堪らない彼に会えるんだから、こんな所で油を売らずにとっとと行けばいいだろと追い払う仕草をする。
同時にこちらに伸ばされた手に面食らったのも束の間、突然酷い痛みが走って息を飲む。
これは自分が一番嫌いな痛みだ。ついこの前1日苦しんだばかりのそれを忘れるはずがない。確かに一瞬ズキズキと背中が痛んだのだ。
相手の手が離れるのと同時に消えた痛みだが、目の前の天使によるものなのは明らかで眉を顰めると相手を睨みつける。
こんな脅しのようなことまでして、相手の望みは何なのかと問い詰めた。レイモンドに近づくな、と言われても当然従うことはできないのだが。)
___っ、…お前、心底嫌な奴だな。
こんなマネまでして、俺とあいつをどうしたい?
「 …簡単な話さ
お前は今後、レイモンドさんの名を呼ぶことも、焦がれることも、近づくことも許されない。
そして、俺が彼を連れて行く。
こんな低俗が住み着く街にこれ以上居させられないからね。」
( 彼の名を呼ぶ度、想う度、その痛みは再発し、近づけば近づくほどその強さを増していく。そして身体を、精神を蝕む。近づくなと単純に言ったところでこの悪魔が聞くはずもなく、それならば肉体的にもおいやればいいのだと、なんとも天使らしからぬ横暴である。それも全て、愛しい先輩を自分の元へと返す為。
力を解除するには意図的に天使から触れられなければいけないが、実質あの2人が近づくことは出来ないだろうし、自分も解除する気は毛頭ない。)
「 心配しなくても、離れていれば痛みは伴わない。
俺が先輩を連れていけばその力も有って無いようなものさ。
…そのまま、レイモンドさんの事を忘れてしまえばいい。
良かったな。
今まで通り自堕落に生きてろよ。」
( これで解決、と言わんばかりに明るく言えば徐に立ち上がり、一度相手を見下ろし不敵な笑みを向けると、それ以上相手には目もくれずそのまま店の外へと出ていく。憎らしいもので、料金だけは相手の分もしっかりと払って行ったようだ。店の外でぶつかりそうになった人間に対する物腰と眼差しが、先程とは別人のようでなんとも不気味に思うだろう。そしてこれから、先輩の元へと向かうのだろうか。
_一方此方には、街の中心街から少し離れた場所でいつものようにベンチに腰掛け、人間観察に勤しんでいる天使が1人。不意な風に肩を震わせて巻いていたマフラーを鼻辺りまで持ち上げれば、ふと視線を空に向け小さく息を吐いた。)
(彼を天界に連れ帰るだなんて許せるはずがない。何より彼は地上を気に入っている、相手がしようとしていることは彼の気持ちを蔑ろにした行為だ。
天使のことを考えもしない身勝手すぎる言動に声を荒げて反論しようとしたものの、一瞬背中に走る痛みがそれを邪魔した。
少しして痛みが引いた頃には忌々しい天使は颯爽と店を後にするところで、レイモンドのところに行くのかと考える。
が、また背中が痛み苛立った様子で舌打ちをすると立ち上がった。今はまだ耐えられる痛みだが、相当に厄介な力を使われたらしい。
天使のことを考えもせずに生活するなんて不可能だ、天界に連れて行かせるわけにもいかない。どうすればいい。
嫌な痛みを抱えたまま店を出ると、一旦家に戻ろうと寒空の下歩き始めるのだった。)
「 ___レイモンドさん!
お久しぶりです、先輩に会いたくて地上まで来てしまいました。
お元気そうでよかった。」
(あの忌々しい悪魔に“戒め“を与えて街に出ると、あとは一目散に愛おしい先輩の元へと向かう。
翠色の瞳に、ベンチに座り空を眺める愛おしい人の姿を捉えるとついさっき悪魔に見せていた冷酷な空気は1mmたりとも感じさせない柔らかな微笑みを浮かべて相手の名前を呼び、そばに駆け寄った。
あなたに会いたくて地上に来たのだと言って少し笑うと、変わらず美しくて優しい空気をまとう相手を見つめて上記を告げたのだった。)
ラグエル…!
久しぶりだね。君も元気そうでよかったよ。
( マフラーの隙間から舞う白い息を見つめていれば、声を掛けられてハッとする。見れば、久しく見ていなかった同僚の姿がそこにあり、一瞬驚いたように目を開くがすぐに目を細めて微笑んだ。
先日やってきた悪魔の彼が話していたもう1人の天使…、やはり.と言っていいのか分からないが、あの時一瞬脳裏に浮かんだ顔がそこにあった。この後輩はよく頭がきれるしとても優秀だ。昔は共に仕事をしていたしよく懐いてくれていた。しかし、彼には困った癖や欠点があるのもなんとなく知っている…。)
まさか地上で君に会えるなんてね。
いつから来ていたんだい?
( ベンチから立ち上がり、駆け寄ってきた後輩の元へと此方も近づく。視線が少し上向いて、今思えば丁度相棒と同じぐらいかなんて考える。微笑みながら上記を述べれば、いつから滞在していたのかが気になりなんとなく訪ねてみた。彼の事だからすぐに自分を探しあててやってきたのだろうか、なんてこの時は気楽に考えていたのだ。)
実は数日前に。少しやることがあって…でも、ようやくレイモンドさんに会えて嬉しいです。
よかったらどこか入りませんか?話したいこともありますし、ここでは寒いでしょう。
(相手が自分の名前を呼んできれいな深いブルーの瞳を優しく細めてくれるだけでこの上ない幸せを感じる。同時に、やはり美しく神聖なこの人を低俗な悪魔などに穢されては堪らないという思いを強くした。
いつからという問いには正直に答えつつ、何をしていたかは今は伏せておこう。数日前から姿だけは見ていたのだ。何よりようやく相手に会えたことが嬉しくてたまらないと、天使らしい笑顔を見せた。
寒そうな相手の背に手を添えて、どこか室内でゆっくり話せるところへ行こうと相手を誘う。
さっきの喫茶店も、この人とならとても幸せな空間だったのだろう。あんな奴と一緒でさえなければいい店だった。)
…おや、そうだったのかい。
言ってくれれば僕が色々案内できたのに。
( 数日前から地上にやって来ていたという相手の言葉に上記を返す。数日前といえば相手の同僚がやってきていた頃だろうか…悪魔嫌いの後輩が自分と親しい者達を知ればどうなるか、それが不安の種であった。なんせ、悪魔に対して嫌悪感を示す天使が多い中、一際その念が強いのが彼である。
しかし、目前の彼を見れば今はそのような心配も無さそうだと考えてしまった。)
そうだね。
それじゃあ近くの店に入るとしようか。
( 背に手を添え促されれば、笑顔で頷いて店内へ向かう事を了承する。話したいこととは上での仕事のことだろうか、なんて思いを馳せながら、談笑しつつ1つ路地を挟んだ距離にある店へと入っていった。
未だ入ったことのない店ではあったが、何時もの喫茶店のように雰囲気もよく、早速店員にアイスコーヒーを注文し席へと腰を落ち着かせた。)
「 本当ですか?もう数日はこちらにいる予定なので、その間にぜひ案内して欲しいです。 」
(地上を発つ時は相手も自分の隣にいるはずだ。あと数日の地上での生活を2人で満喫するのも良いかもしれないと幸せな想像を巡らせて瞳を輝かせる。
いつ会ってもいつ見ても、この人は優しくて愛おしい。快く喫茶店へと歩き出す相手の隣を歩きながら、自分が一番近くにいられる幸福感を噛み締めていた。)
「 …レイモンドさん、コーヒーなんて飲むんですね。
いつも紅茶かと思っていました、前からお好きでしたよね。
地上での生活はどうですか?」
(幸せな気分のまま相手と席につき、相手の注文を聞いて思わず一瞬表情が固まる。
ついさっき、あの悪魔が飲んでいたものと全く同じものを偶然にも注文したからだ。そこに深い意図はないはずだが、昔から相手は紅茶を飲んでいることが多かったような気がする。
相手には紅茶の方が似合う。あの男のようにどす黒い飲み物が相手を穢してしまわないかなんて、くだらないことを考えた。
急ぐことはないし時間はたっぷりある、どうせならやまない痛みに悪魔の精神が蝕まれるのを見届けてから相手を連れて天界に戻るのもいいではないか。
同じように注文した紅茶も運ばれてきて、ゆったりとそれを飲みながらまず相手の現状を尋ねた。)
…え?あぁ。
飲み物については疎かったけどね。
最近は珈琲もたまに飲むようになったよ。
( 相手が残り数日いると分かれば、今度はどこを案内して回ろうかなんて考える。すると、運ばれてきたアイスコーヒーを受け取りながら後輩の問いに少し照れたように笑いながら答える。
確かに、昔から紅茶ばかりを飲んでいた。甘味以外の嗜好品にはさほど知識はなく、なんとなく気にいっていた紅茶ばかり飲んでいたが、目の前に珈琲ばかり飲む相手ができたもので、その嗜好が少し移っていたのかもしれない。
「相変わらずよく見ているなぁ」なんて相手に笑いかけながらシロップを加えて一口ストローに口をつけ、そのまま相手の問に対する返答を続けた。)
…とても、楽しいよ。
人間は複雑で面白いんだ。
そういえば、僕が出世の道を断った時、君は怒っていたね。
でも、やっぱり僕は今の地位で地上にいる方が合ってるよ。
( 元々観察が好きな自分にとって、地上で人間と関わりながら過ごす日々は毎日が新鮮で素敵なものだ。それに、人々を導くのは難しい事だが、誇りとやり甲斐にも満ちている。
何より、相手と過ごす地上での生活が好きだ。目前にいる後輩にはそんなこと言えはしないが、奇跡的にもウマが合って一緒に居ることが今では心地よい。
地上へやってくるより前のはるか昔を思い出せば、地位の向上を断って視察メインとなる今の仕事に落ち着いた。その選択が間違っていたとは思わないし、寧ろこれでよかった。
視線を落とし、グラスの中で小さく揺らめく黒い水面を眺めれば、無意識にも優しく微笑みを浮かべて)
「 ___そんなはずない。
あなたは天界でもっと上位の天使になって、多くの天使たちを導く存在になるべきです。」
(人間はおもしろいと穏やかに語る相手を見つめて頷いたものの、思いがけず自分が切り出したかった話が持ち出されて息を飲む。
しかし相手から語られたのは自分の理想とは違うもので、その上アイスコーヒーの水面に視線を落として柔らかな表情を浮かべていることに嫉妬心が湧き出すような気がした。
相手をそんな顔にさせているのがもしあの低俗な悪魔なら、そんな恐ろしいことはない。相手がこのまま地上にいる方がいいだなんて、そんなことあるわけがないのに。
首を振って相手の言葉を否定すると、相手の目を見つめたまま身を乗り出して強い口調で言った。)
「 レイモンドさん、俺と一緒に上に戻りましょう。
あなたは地上に留まっていて良い人じゃない、派遣する天使はいくらでもいます。」
(身を乗り出したまま、一緒に天界に帰って欲しいと伝えるとグラスに添えられていた手を取った。
地上の視察や人間たちへの導きは、わざわざ相手のような力のある天使がするべきことじゃない。代わりに地上に派遣する天使はいくらでもいるし、相手が天界に戻れば地上での働きも加味されて確実に上位の天使に出世できる。この前の出世の話の時よりもさらに良い地位に就ける。それでいいじゃないか。)
そう言ってもらえるとは光栄だなぁ。
…ありがとう、ラグエル。
( 首を振る相手を見て少し眉尻を下げて微笑めば、上位の天使になるべきだと言った言葉に静かに礼を述べた。周りがそう認めてくれるのは大変嬉しいことだが、幾分、自分自身、上に立てるようなガラではないと考えてしまうのだ。自分は自由気ままにこうしてのんびりと飲み物片手に人間を観察したり散策したりする生活の方が合っている。
そんな事を考えていると、突如として身を乗り出し口調が強まる相手に驚いたように顔を上げる。相手は此方の目をじっと捉えて離そうとはしない。)
…僕は、君が思うほど立派な者じゃないよ?
それに、僕は今の生活を捨てたくはないし…
キミが上に居てくれるなら僕はそれで安心さ。
( この仕事は好んでしている事であり、上に戻る気はないとやんわりと、それでいてしっかりとした意思をもってそう話す。相手は此方の全てを信頼し尊敬してくれているのだろうが、実際はそんな大したことは無い。なんせ悪魔と日頃仲良くしているぐらいには不真面目だ。
添えられた相手の手を優しく離せば、「ごめんね」と小さく笑って、いつでも来てくれればその度に案内するから!なんて話を逸らそうとして)
(/すみません!
今日、明日と更新頻度が落ちますが、ご了承ください;)
「 何故…何故そんなことを言うんですか。
俺と一緒に天界に戻ると言ってください。あなたはこんな場所にいるべきじゃないんだ。
___あの悪魔のせいですか。
きっとあいつが、穢らわしい力で先輩を誘惑してるんですね。」
(優しい顔のまま、しっかりとした意思を持って語られる言葉と謝りながら離される手に絶望する。
何故相手は地上に留まることにそこまでこだわるのか、平和で清らかな展開と違いここは憎悪も悪も渦巻く混沌とした場所だ。
誰よりも清らかで美しい先輩を長くここに留めておくことなんて容認できない。
離された手を見つめていたものの、再び上げて相手を見つめた瞳には先ほどとは違う感情が渦巻いていた。あの悪魔への憎悪か嫉妬か、天使らしいきらめきに満ちたものではないことは確かだった。
相手の手を再び握り、感情的にまくし立てるように言葉を続ける。あの穢らわしい男が悪魔の力で先輩を誘惑したんだ。そうに違いない。
もしそうなら、あいつが痛みに悶え苦しんだとしても先輩にかけた誘惑を解かせなければと憎しみを募らせるのだった。)
(了解しました!報告ありがとうございます*)
( どこか様子の可笑しい後輩を前に、少し困惑したように首を傾げる。そして、心配は段々と不安へと変わっていくのだ。そう、彼の癖や欠点_それは1つのことに執着し周りが見えなくなる事。自分がその対象であると確信したことは無かったが、彼は昔からたびたび自分の事となると執着心をみせていた。
次の瞬間、再び顔を上げた彼の顔は、先程までの穏やかなものとは全く別のものになってしまっていた。続けて、相手の言葉に此方も目を見開いた。)
…っ!
…ラグエル、まさか、ベリアルに会ったのか?
( あの悪魔とは、彼の事を示す他ないだろう。なぜ後輩が知っているのか定かではないが…数日前から滞在していた事を考慮すれば、共に居たところを見られていた可能性だってある。
それより問題なのは、この後輩が相手に接触したかどうかだ。強く悪魔を忌み嫌う彼が、自分と親しい悪魔に何をするか考えたくもなかった。どうか、自分の予感が勘違いであって欲しいと強く願うばかりだ。
握られた手にはだんだんと力が入っているのが分かり「力なんて使われていない」とそう静かに訴えるが、果たして感情的になっている彼に届いてはいるのだろうか。)
「 レイモンドさん、あいつの名前なんて口にしないでください。
神聖なあなたが悪魔なんかに穢されるのは許せないんです。
会いましたよ、薄汚い嫌な奴でした。
人間を簡単に貶め、天使にまで手を出す。
力を使われていないなら、何故そこまであの悪魔に肩入れするんですか。地獄に堕ちた奴にまで情けをかける必要なんてない。」
(相手があの悪魔の名前を口にすると眉を顰める。清らかで神聖な先輩の口からあいつの名前が出るのは許せない。制止するように相手の血色のいい唇に指を当てて首を振った。
会ったのかという問いには正直に答えることにした。先輩に嘘をつくのは良心が咎める。
相手にはまったく釣り合わない嫌な悪魔だったと言いながら相手の手を離すことはなく、どうにかして相手を天界に連れ帰ることで頭はいっぱいだった。
悪魔と引き離し、元の先輩に戻ってもらわなくては。相手は偉大な天使になれる存在で、その相手の一番近くにいるのは自分でありたかった。)
…おい、ラグエル…。
( 唇に当てられたその指を退ければ、頑なに首を振る後輩を諭すように声をかける。しかし、彼は興奮した様子で言葉を続けるだけで此方の呼び声には反応を示す様子はない。
そして、相手と会ったと言われれば、途端に不安の色が浮かぶ。あの2人が、会って話したところで穏便に済むはずはない。 なにせ相手も天使のことを全体的に好いている訳では無いし、悪魔を毛嫌いしている後輩とは相性が最悪のはずだ。
そんな事を必死に脳内で考えている合間も、後輩は言葉で詰め寄ってくる。)
…僕は、肩入れしたり情けをかけているつもりはないよ。
ただ、知り合ってからこそ、相手の魅力に気づくことだってあるんだ。
( 言われた言葉に少し冷静になれば、握られた手を冷たく振り払った。後輩の悪魔嫌いは承知の上だが、自分は手など出されていないし、寧ろ助けられてばかりだ。彼の事もよく知らずに罵倒されるのは気分を害された気がした。ここで自分までも感情的になってはいけないと息を吐きつつ、「今日はもう帰るよ」と目を合わせることなく徐に席を立った。
目の前の後輩は自分と悪魔を引き離し、自分を傍に置いておきたい一心なのだろう、しかし、申し訳ないがそうはいかない。
ましてや接触があったと知った今、相手が無事か心配だった。)
「 …っどうして分かってくれないんですか。
先輩のような天使を地上に縛り付けて、あんな奴制裁が下って当然でしょう! 」
(いつも優しい微笑みを浮かべてくれるはずの相手は少し怒ったような悲しいような表情を浮かべている、それもあの悪魔のために。冷たく手を振り払われたことにショックを隠しきれず、席を立つ相手を見上げた。
自分がやったことが間違っているはずがない。穢らわしい悪魔が二度と先輩に近づかないようにしただけだ。それだけの制裁が下っても仕方のないことをしたのはあの悪魔なのに、相手は彼の元へ向かおうとしている。
でもきっと、悪魔は相手がそばにいる痛みに耐えられないだろう。悪魔が本性を見せて相手を拒絶すれば、きっと先輩だって目が覚めて自分の元に戻ってきてくれるはずだと信じていた。)
(___一方の悪魔は、家に戻ったもののベッドから動けずにいた。理由は明確で、相手のことを想わないなど不可能だったからだ。それもあの最悪な天使が相手の元に向かったと分かっているのに。
うつ伏せになり羽根を大きく広げてはいたが、天使の力で誘発されている痛みだからか楽になることはない。
羽根が引きちぎられるような惨めな痛みを背中に感じるたびに、天使でも悪魔でも関係なく君が好きだと、優しく笑ってくれた相手の姿が浮かぶものだから一向に痛みは治らない。
天使を想う、ということが痛みに変わることで初めて自分がこれほど相手のことを考えている時間が長いのだと実感して、思わず痛みの中でも1人笑ってしまう。
相手は天界に戻ったりしないと思いながらも、もし自分を置いて地上を去ってしまったらと、わずかな不安を抱えるのだった。)
…制裁?
その必要があるのなら、きっと僕にだって制裁が下るさ。
彼が僕を縛っているというなら、彼を縛っているのは僕なんだから。
( 此方を見上げる後輩ともう一度目を合わせ上記を述べる。恐らく、この後輩はなんらかで彼を苦しめているのだろう。憎悪対象には躊躇なく力を使う子だ…。しかし、それがどのようなものかは分からず、今現在、痛みで悶え苦しんでる事も知る由もなかった。聞いたところで、これはきっと答えてはくれない。
…相手が自分を惑わせたとされるなら、それは此方も同じことで、上からも下からも許されることではない。もしかすると、後輩の言葉が全て正しいのかもしれないが、こればかりは自分の幸せと平穏の為に我儘を突き通そうと思う。
…だが、果たしてそれは、自分のせいで相手が傷つくと知っても尚、突き通せるのだろうか….。
悲願する後輩を横目に、店を出る。きっと、追いかけてきたり強行突破を試みようとするかもしれないが…今はそれよりも相手の無事を確かめるのが先だ。
_幸いにも、人通りが無い事を確かめれば、誰かがどこかで見ているかもしれないというそんな些細な心配事もせず、大きく純白へ輝く羽を広げれば、その姿を眩ました。何かあったのならば家に避難しているだろうと一目散に向かうのだった。)
(お互いがお互いを愛し合っているかのように言う相手に唇を噛む。相手は悪魔だというのに、どうしてそんな顔を、何故そんなことを言うのか理解できない。
相手を引き止めようと後を追ったものの、人目も憚らず飛び立った相手を見上げて悔しさと悲しさと嫉妬とに駆られながら拳を握りしめるのだった。)
___っぐ、あ…っ何、なんだ…っクソ!
(ベッドにうつ伏せになったまま時間ばかりが経っていく、相手のために何もできない自分が不甲斐ない。
ズキズキと背中が痛むのを感じていたものの、急にその痛みが強まり思わず呻き声を上げる。ベッドの上でうずくまり枕に顔を埋めた。
徐々に強くなる痛みに何が起きているのかと必死に考えを巡らせる。あの嫌な天使が言っていたことを思い返そうとするが、まともに頭が回らず原因は断定できなかった。
冷や汗が滲むのを感じながらも少しでも痛みを逃そうと背を丸め、あの憎たらしい天使に悪態をつくのだった。)
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