幽霊さんの中の人 2021-11-09 00:49:13 ID:1acb2f836 |
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うっすらと目を開けた。
薄暗い拷問室。カビの匂い、血の匂いが埋め尽くす中で、耳に呻き声が届く。
暗い中で、床にくたりと倒れる白い体がよく見えた。
目に鮮烈なまでに映るのは、美しい織物から零れ落ちたような金色の髪。
彼は薄く開いた深紅の目で、自分の髪を掴み顔をあげさせる拷問官を流し見た。
均整の取れた肉体には赤黒い蚯蚓脹れ……鞭の後が夥しく残っている。
周りには生臭い匂いも漂っていた。あの様子では、受けた拷問は暴力だけではなかったのだろう。うつくしい顔をしているから、尚更のはずだ。
少し耳鳴りがして、聴力が戻ってきたようだった。
うるさい男のがなり声が耳を刺したあと、拷問を受けているとは思えない穏やかな声が返るのが聞こえた。
「何をされても答えは同じです。……喋らないよ、僕は」
鈍い鈍い音がして、彼がこちらへと倒れ込む。顔を殴りつけられ、その上頭を硬い床に打ち付けたようだ。また、彼が呻く。
「暴力や蹂躙でしか解決できない人間ほど愚かなものも無い」
けれど、肩ほどまでの金糸の隙間からその赤は笑っていた。綺麗だと、心の底からそう思った。
話の流れから聞くに、彼は高貴なご身分の方だったらしい。それなのに、国に謀反を起こそうとしているグループの参謀役だったのだと。
バカね、なんて思いながら再び腹を蹴られる彼を見つめていた。
やがて男がそこから出ていったあと、微かに胸を上下させて鎖に繋がれ、横たわる彼だけが残された。小さな声で、一言だけ聞こえた。
「かえりたい」
か細い一言だった。思わず手を伸ばす。届くはずなどない。きっともう何かに触れることなんて……
「うわ」
「っ!?」
女の声と男が息を飲む音が重なる。
仕方がない、と心を決めた暗闇の向こうの「彼女」はとうとう男に声をかけた。
「酷くされたのね。背中が真っ赤」
あまりにも驚いたのか、焦ったように浅い呼吸を繰り返す彼を宥めるように手を伸ばして、髪を梳く。
彼女は結局言わなかった。
この拷問室の血の原因。
彼の横、決して照らされない暗闇の奥で、密やかに死んでいる女の体があることを。
自分がそのかつての主であり、現在の自分は彼以外の誰にも触れられない存在であることを。
(まだ募集しておりますよ!ただ初めて間もなく、実は知らないうちにマナー違反をしてしまっていたみたいで……募集を停止しようと思っていたのですが、どなたか来ていただけるのなら……と思っておりました。)
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