常連さん 2021-10-17 16:20:09 |
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(人目を避けながら住み慣れたアパートの一室へ足を踏み入れる。後ろ手に閉められた扉の施錠音が自分の非行を責めるように聴こえ、いやに罪悪感を掻き立てた。いつも通り画材の散乱した部屋の中で、唯一いつもと違うのは、衝動的に連れ去った一人の少年の存在で。焦燥感や緊張感から僅かに乱れていた呼吸を整えると、誘導の為に掴んでいた少年の手首をパッと離す。力加減を誤っていなかっただろうか。不健康な己の身なりは到底屈強な男には見えないだろうが、仮にも大人の男だ、その上この少年は自分以上に痩せ細っており、触れ方を間違えれば壊してしまいそうな危うさを孕んでいる。相手に痛がっている様子はなく安堵するが、こんな気遣いも優しさではなく単なるエゴイズムかと内心で自分を嘲笑して。『ごめん』と、状況説明より先に溢れかけた本音が声になるのを阻むように、少年は笑顔を浮かべて予想外の言葉を口にした。扉を背に玄関先に立ち竦んだまま、独り言のような問い掛けを零す。「……どうして」驚きと警戒が混ざった神妙な面持ちで、今度はしっかりと目の前の少年へ問い掛けて)
君は……、俺が怖くないのか。
◆◆◆
(外せない用事が出来たので今日の練習は欠席します、そう意気揚々とサッカー部の顧問に断りを入れて、早速生徒指導室へと急いだ。帰路に着こうとする生徒達の流れに逆行して、大股で階段を駆け上がる。生徒指導室へ向かう足取りがこんなに軽いのも、意中の相手から願ってもない呼び出しがあったからだ。用件は恐らく生活態度や試験の成績についてだろうと、粗方見当は付いている。校則違反の容姿に関しては生徒指導の教員である彼から既に何度も注意を受けていたし、今学期の成績が芳しくない事は自分自身が一番良く理解していた。さて、約束の時間にはまだ余裕があったが、折角先生と二人きりになれる絶好の機会だ、早く会えるなら早く会いたいし、何なら下校時刻まで話を長引かせようという腹積りでいる。目的地である生徒指導前の廊下に生徒の姿はなく、静まり返っていた。不必要に走ったせいで息を切らしながら、この奥に居るであろう担任教師に扉越しの挨拶を)
篠宮せんせー、俺です!二見です!
(/初回ロルの投下ありがとうございます!此方も長さはムラがあるのでお気になさらずです、特に序盤は状況描写が多く長文になりがちですが、ある程度物語が進行すればもう少しサクサク返せるようになるかと…!もし現段階で返しにくい等あれば遠慮なく…!本編開始という事で、今後も引き続き展開の相談をさせて頂く事になると思いますが、改めましてこれから宜しくお願い致します!!!)
(恐怖心なんて、今の今まで微塵も無かった。自分の存在をきちんと認識してくれる人がいる。まだ生きていていいんだと教えてくれたような気がして、その嬉しさで心がいっぱいになってしまったから。ここへ来る迄の途中、そこまで強く手首を掴まれていた訳でもないし、きっと逃げ出そうと思えば逃げられた。あの時に無理にでも腕を振り切って、高速移動する鉄の塊に身を任せることも出来た筈だ。でも、そうはしなかった。動機は何であれ、自分がこの男性に助けられたという事実は変わりないのだ。絶望にまみれた真っ黒な未来で、唯一救いの手を差し伸べてくれた彼はまるで救世主のようで。それに縋ってみたいと思った。助けて欲しいと願った。__怖がる訳がない、寧ろ物凄く感謝しているんだ。ゆっくり首を振って、訊かれた問いに答える。)
怖くなんかないよ。お兄さんは僕を助けてくれたんだもん。
◇◇◇
(自分を呼ぶ声、その後の名乗りで声の主を認識すると起動真っ最中であったノートパソコンを一度閉じて入り口の方へ向かう。扉を開けてそこに立っていたこの生徒こそ今回の面談の主役である訳だが、あまりにも早すぎないかと一度時計を確認した。やはり、約束の時間まで余裕はたっぷりある。面談というのは生徒側からしてみれば相当気が乗らない物だろうし、内容が内容だ、約束の時間ギリギリか少し過ぎた辺りに来るのではと予測していたのだが、それを裏切ってのご登場である。ほんの一瞬、驚きで言葉に詰まるも、直ぐ様いつもの調子を取り戻すと彼に中へ入るよう指示し。即席で準備した面談用の机と椅子を指差して)
取り敢えずそこ座ってくれる?
(/わわ、此方こそ宜しくお願い致します!!!これから本格的にお話を築いていける事がとても楽しみです!無事本編スタートということで、何も無いようでしたら一度背後の方は引っ込ませて頂きたく思うのですが、ご相談、ご意見等々ありましたら遠慮なくお呼び下さい…!)
(先刻、踏切に飛び込もうとする彼の姿を見て、考えるより先に身体が動いていた。彼は一時的に一命を取り留めたかもしれないが、どうせ彼を殺して自分も死ぬつもりだった。一緒に死んでくれる人が欲しかった。そんなエゴに無理矢理付き合わせただけなのに。時間に換算してほんの数秒の間にそんな考えが駆け巡る。しかし、此方を見上げる邪気のない表情を前にすると、それら全て口に出してはいけない気がした。「………………そっか」不自然な程の沈黙の後、必死に絞り出した答えがそれだった。答えにすらなっていないが、今多くを語ると襤褸が出ると思った。「…とりあえず靴、脱いで」一先ず立ち話はやめて部屋へ上がるように促す。カーテンまできっちり閉められた薄暗い部屋には一切光がなく、彼より先に足を踏み入れて仄かな明かりを点ける。もはや彼を道連れにしてこの世を去るという決意は自身の中で揺らいでしまっていて)
◆◆◆
(扉が開かれた先に立っていたのは、予想通り彼だった。何やら驚いた様子の彼が時計を確認する間も、正当な理由で二人きりになれる喜びを隠し切れず頬は緩んで。促されるまま部屋の中へ足を運び後ろ手で扉を閉め、先生から指示を受けるなり「あーい」と気の抜けた返事を。用意された向かい合う机の片方にはパソコンが置いてあり、つい先程まで此処で作業中だったのだろうかと思いを巡らせながら、反対側の空席へ大人しく腰を下ろす。用件は予想出来たものの此方から言ってしまえば、喜んで叱られに来た可笑しな生徒だと思われかねない。「で、せんせ。今日はなんで俺のこと呼んでくれたんすか?」警戒されないようにあくまで冷静な声色と表情を意識しつつ問い掛けるが、その問い方すら生徒として不自然である事には気が回らず)
(彼に促された通り、ぼろぼろに使い古された靴を脱ごうとしたところで、己の身体の汚さに気が付いた。そもそも死ぬ気だったのだから自分の身なりに気を遣っている余裕なんてなく、洗濯すらまともにしていない制服には泥やら砂やらがこびりついてしまっている。折角の部屋を汚してしまうのでないか、玄関から一歩踏み出すことを躊躇うも、そうこうしている間に真っ暗な室内に呑まれていく彼の背中。「もう一人にはなりたくない」と慌ててそれを追いかけた。既に暗闇に目が慣れてしまっていたのか、やけに眩しく感じた照明。辺りに転がっていた、普段はなかなか見ないような絵具やキャンバスに思わず目を惹かれ)
◇◇◇
(まあ約束の時間に遅刻されるより、こうして余裕を持って訪ねてきてもらう方が楽といえば楽。もしかしたら早く部活に行きたいがために急いで来たのかもしれない、それなら入室時に息が切れていたのも納得でき_「……は?」そう自分の中で附に落とそうとしていたのだが、聞こえてきた問いかけに、なんとも気の抜けた声が出てしまった。真面目な顔で何を言っているんだこの生徒は。“呼んでくれた”なんて、まるでこの呼び出しを待ち望んでいたかのような_。ひとつ咳払いをして、ぱっと意識を切り替えると指導用のファイルを片手に彼の真正面の席へ着席。今はそんな些細なことを気にしている場合ではないのだ。自分の仕事はあくまでも生徒指導。早速本題を切り出そうと)
なんで呼び出されたのかは君も大体見当ついてるんじゃないの?…ほら例えば、その髪はいつになったら黒に戻るんだ?
(靴を脱げと指示したは良いものの玄関先で躊躇する彼。やはり本心では誘拐犯に対する恐怖と、逃げ出してしまいたい衝動に駆られているのではないか。ふとそんな考えが頭を過ぎったが、次の瞬間慌てて自身の背中を追い掛けてきたその姿を見て、少しばかり安堵してしまった。ぼんやりと灯りの灯った部屋で、彼の視線は自分をいつ危険に晒すか分からない犯罪者ではなく、床に散らばった画材に注がれていて。やはり、変わった子だ。しかしその事実に、確かに救われている自分がいる。「それ全部、踏まないで」絵の具は服に付いたら中々取れないから、とそこまで言えば良いのだが、何せ他人と個人的な会話をする事自体久々だったため、言葉足らずな素っ気ない言い方になってしまい。ただ、今の自分には言葉選びに気を配る程の余裕もなく、獣道のように画材が避けられた部分を通るよう指示し、部屋の真ん中に置かれたちゃぶ台の側に腰を下ろすと、正面に座るよう視線で促して。何から話すべきか。そもそも何か話すべきなのだろうか。余計に混乱を招いてしまうかもしれないのに。躊躇した後、向かい合った彼に重々しく口を開いて)
……君、名前は?
◆◆◆
(心底理解出来ない出来事に直面した時、人はまさしくあんな反応をするのだろう。思わず漏れてしまったような先生の気の抜けた声で、数秒前の失言に気が付き思わず視線が泳ぐ。あぁ、えっと、だから……上手い言い訳を脳内で探すうち、先生の方から本題を切り出してくれたため、ほっと胸を撫で下ろす。やはり呼び出しの内容は予見していた通りで「えー……似合ってないすかね?俺結構気に入ってんだけどなぁ。これが友達からもまあまあ好評で」ぺらぺらと饒舌に言葉を紡ぐことも彼を前にすればもはや厄介な癖で、勢いのままに、明かしたくない腹の中まで曝け出してしまいそうになる。しかし何より、出会った当初は黒だった己の髪色を記憶してくれていた事が嬉しい。尤も、生徒が突然茶髪に染めて気付かない担任教師がどこにいる、と言われれば反論のしようもないが。「先生が黒が好きって言うなら戻そっかな。……って答えは駄目っすか。さすがに。はは」乾いた笑い声を漏らしながら、しかし相手の様子を窺い虎視眈々と作戦を練る二つの眼は笑っておらず)
(/長らくお返事お待たせしてしまい大変申し訳ありません…!仕事が片付いたので、以後比較的ペース良く返せると思います…!)
(彼の声で、はっと現実に引き戻される。いつの間にやら、絵具たちの持つなんとも形容しがたい魅力に惹き込まれてしまっていたようだ。“踏まないで”その言葉によれば、この画材たちはきっとそれ程大切なもの、若しくは価値の高いものなのだろう。うん、なんて小さく頷けば、一度踏み出そうとした足を止めて慎重に彼の正面へ向かう。此処へ来るまでは混乱やら状況の整理やらで理解が追いついていなかったため、そこに座って初めてちゃんと見た彼の顔。顔半分が黒マスクで覆われたその表情を読み取ることは非常に困難だが、じっと此方を見つめていた瞳からはどこか安心感を覚えてしまう。数秒の沈黙の後、名前を問われたが直ぐに答えることが出来なかった。長らく呼ばれることも、口にすることもなかった名前。「ほ…たる、楠木、蛍」若干たどたどしくありつつも、はっきりとそう名乗った)
◇◇◇
(はぁ。再び溜息が零れそうになるのをぐっと呑み込み、改めて目の前の彼に向き直る。……読めない。教師という職について早十数年、これまで数多の生徒たちと接するにつれ、徐々にその生徒の考えが自然と読めるようになっていた。所詮子供。感情のメカニズムさえ分かってしまえばその先を推測することなんて容易いもの_の筈だったのだが。どうも目の前の彼相手だと上手くいかない。ただ髪を染め直すよう注意しただけなのに、どうして自分好みの髪色の話になる。なんの脈略もない展開、なかなか握れない話の主導権。こうして自分のリズムを崩されるとどうしても本来の性格が露見してしまいそうだ。面倒くさい。全て投げ出して帰りたい。「…好き嫌いは関係ないだろ」ほんの数秒の葛藤の後、教師としての理性が失われる前に彼の言葉を一蹴し、一週間猶予をあげるからそれまでに染め直してくるように、という旨も伝えておく。この流れで成績の話に持っていって_はやく面談も終わらせてしまおうと)
(/いえいえ、お帰りなさいませ……!此方も大きなタスクが一つ片付いたので、返信速度は上がると思います…!)
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