怪しいひと 2021-09-27 23:06:20 |
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( 葛藤で揺れる様もまた一興、心配より先に好奇の念が先立つのは人外の性なのであろうか。小さな顔いっぱいの衝動を目にしつつ、興味深いとばかりに左右の腕を絡ませて首肯する。拍子に上がってゆく視線はじき頭部に寄せられ、吹風がぱらぱらと揺らす白髪に終着し。" おや、人間にはこんな髪色もあったのか? "今更ながらの思案で首を傾げるも、今は脇に置いておくこととして。「……ああ、驚かせてしまった?ごめんね」変化に対する驚きに跳ねた肩を前に「そういえば、この墨は人間には馴染みのないものだった」、取ってつけたような言葉とと同時、墨染は所定の位置へと逆戻り。差し当たって現在の眼を表すなら無表情、それが一番違和感の少ない単語だろう。「うん、うん、探しているよ。寂しかったから、きみが来てくれて嬉しいよ」案じの言葉に歌うような返答。主語はないものの眼前の幼子への説明にはこれで十分だろうと、些か傲慢が透けた態度でぽん、ぽんと軽く肩を叩き。背を向けた自身に対して背後から若干の戸惑いは感じたものの、広がってゆく体温を鑑みるに、彼女はこの自分に身を委ねることを是としたらしい。「うた?うた、というんだね。良い名前だ」おそらく名前である一人称が耳に入ってくれば、少ない自身の語彙から称賛の言葉を引っ張り出して確認を兼ねて背後へ首を捻じり。「ふふ、心強い。二人で探せば、きっとなんでも見つかるよ」よいしょ、と爺臭くもある掛け声と共に背後の温もりをしっかりと抱え、小さな土埃の立つ地面を踏みしめて立ち上がる。ざりと踏み出した一歩は先程の縁台とやらを目指しており、未だ変わらぬ祭の喧騒の中を縫うように進んで行き。左右に立ち並ぶ屋台は様々だが、そう時間の立たぬうちに大きな" 林檎飴 "が白抜きされた赤い横幕を見つけては、「見て、」と人差し指を折り曲げて )
(/ご提案非常に魅力的です…!ありがとうございます!そうですね、どこかで物言わぬ人々が襲撃する展開は入れたいと思っておりました。それではこの後、二人の持つ「林檎飴」に執着を示す通行人の一人が、ふらりと唄ちゃんに齧り付こうとする、という展開1はいかがでしょうか…!そこからの発展としてあばら家へ誘導して、とか、どうかなーと思いまして……。
了解です!大正時代、素晴らしいと思います…!ではそちら前提としてお話進めさせていただきますね!)
( “人間には馴染みのないもの”まるで当人はそれ以外だと換言する言葉が左に流れて行く事は無く、不思議な模様と相まって憶測は推測に。最も奇異な容姿を持つ自身も十分人間離れしているが。そんな妙な親近感も抱きつつ、何ら隔てなく接する彼の布に描かれた瞳と視線が合わさり少々まごつきながらも短く頷き「唄です。」こうして最も容易く村の禁忌を犯したのだが、自覚するのはもう少し後の話。今は名を褒められた事に対し、優しさの皮を被ったそれ以外の何かだとしてもせ胸の内が温かくなる感覚を人知れず感じ取り。「二人で探せば…おにぃ、貴方のお名前は?」重力に反し地面から足裏が離れて宙ぶらりんとなった両脚、慣れぬ浮遊感に首に巻き付けた腕に自然と力が込められ、ぎゅっと目を瞑ったのも束の間、再度開かれた瞳に映る世界に気を取られ。何処までも続く色鮮やかな提灯、薄く張った水の下で小さな尾鰭を揺らし優雅に泳ぐ金魚、ふわふわの綿毛を連想させる綿菓子、子供には宝物にも思える魅力的な的屋の玩具。空に輝く美しい星々が落っこちて来たのではないか、少女の瞳は幽玄な煌めきに満ちていて。彼の声にまだ夢現な視線をゆっくりと移し、指の先のその文字の横に並ぶ丸い果実を発見して。「!…あれが林檎飴ちゃん、キラキラしてはる、丸うて可愛いね。…おにぃと唄の分、足りるかいな。」光沢のあるそれは正しく名の通り。慌てて帯に隠し持った柄の無い点袋を取り出し、彼の顔を横から覗くようにして手に持つそれを渡そうと。中には三銭程が収められていて )
(/是非その展開を盛り込んで行きましょう…!きっと信頼関係も構築されるはずです。通行人さんは常世の亡霊と行ったところなんですかね?それとも人間の想いの具現化ですかね、色々と想像が働きます…!あばら家行きも承知しました、日常的な部分も楽しめそうですね!)
( 耳に届いたあどけない声、聴き違いをしてはいなかったようだと密かな安堵。しっかりと胸に焼き付けた短い二文字は己の胸中に仄かな満足感をもたらしたが、ここで告げることでもなかろうと口を噤み。「俺の名前?俺はね、河原だよ。川のそばの土地のこと」彼女の問いかけに対するあっさりとした返答は実の所余り褒められた対応ではなく、合理的に考えれば名を隠すべき場面であった。けれども、負うた子どもの体から伝わるとくとくとした心音に、浮かれてしまったのが運の尽きとでも言おうか。まあ───いいか、と。背の体温に顔を見ずとも伝わる周囲への興味関心、視線をさまよわせるその様子は、微笑ましく愛らしく。見慣れたというより見飽きてしまった光景も、彼女にしてみれば魅惑の舞台と映るらしい。「ほんとだね、きらきらしてる……君の目の色と似ているね」他意のない呟きとほぼ同時、チャリと金属の擦れ合う音と共に取り出された点袋。横目で見たそれはどうやら彼女の財産とみて間違いないようだ。幼子特有の自立心云々から、一連の売買を自身で済ませたいと考えているのかと思ったが、その推測は全く的外れのようで。「そっか、」林檎飴の横幕を指した指は右手、束の間片腕を支えとしていた背後の子どもを再度両の腕で抱え直すと、その姿勢のまましゃがんでは地面へ降りることを促して。「俺のぶんも買ってくれるつもりだったんだ。ありがとうね。でも、大丈夫だよ」彼女の取り出した金銭に目を留めるも、制止するようにやんわり手のひらを押し付ける。そのままくるりと手首を返し、柔い手を軽い力で握って。店主らしき者も見当たらぬ無人の屋台、店頭に並べられた林檎飴の二つをおもむろに手中に収めては、その一つを「はい、君の」と屈託なく差し出して )
(/良かったです…!通行人については考えているものはあるのですが、お話中に盛り込んだほうが面白いかなー、と思い…!
楽しんで頂けるなら何よりの幸いでございます!それでは、質問等なければそろそろ背後は引っ込みますね。宜しくお願いします!)
( 耳に届いたあどけない声、聴き違いをしてはいなかったようだと密かな安堵。しっかりと胸に焼き付けた短い二文字は己の胸中に仄かな満足感をもたらしたが、ここで告げることでもなかろうと口を噤み。「俺の名前?俺はね、河原だよ。川のそばの土地のこと」彼女の問いかけに対するあっさりとした返答は実の所余り褒められた対応ではなく、合理的に考えれば名を隠すべき場面であった。けれども、負うた子どもの体から伝わるとくとくとした心音に、浮かれてしまったのが運の尽きとでも言おうか。まあ───いいか、と。背の体温に顔を見ずとも伝わる周囲への興味関心、視線をさまよわせるその様子は、微笑ましく愛らしく。見慣れたというより見飽きてしまった光景も、彼女にしてみれば魅惑の舞台と映るらしい。「ほんとだね、きらきらしてる……君の目の色と似ているね」他意のない呟きとほぼ同時、チャリと金属の擦れ合う音と共に取り出された点袋。横目で見たそれはどうやら彼女の財産とみて間違いないようだ。幼子特有の自立心云々から、一連の売買を自身で済ませたいと考えているのかと思ったが、その推測は全く的外れのようで。「そっか、」林檎飴の横幕を指した指は右手、束の間片腕を支えとしていた背後の子どもを再度両の腕で抱え直すと、その姿勢のまましゃがんでは地面へ降りることを促して。「俺のぶんも買ってくれるつもりだったんだ。ありがとうね。でも、大丈夫だよ」彼女の取り出した金銭に目を留めるも、制止するようにやんわり手のひらを押し付ける。そのままくるりと手首を返し、柔い手を軽い力で握って。店主らしき者も見当たらぬ無人の屋台、店頭に並べられた林檎飴の二つをおもむろに手中に収めては、その一つを「はい、君の」と屈託なく差し出して )
(/良かったです…!通行人については考えているものはあるのですが、お話中に盛り込んだほうが面白いかなー、と思い…!
楽しんで頂けるなら何よりの幸いでございます!それでは、質問等なければそろそろ背後は引っ込みますね。宜しくお願いします!)
河原…貴方のお名前も素敵。唄のお家の近くにも小川があって、怖い夢を見た時はせせらぎを聞いて落ち着いてはりました。
( 聞き慣れぬ名だが追求する程勘の良さは持ち合わせておらず、彼への信頼の想いがまた一歩高まる。口の数だけ惑わされた小さな身は単純な思想でありながらも複雑に絡む疑心や警戒の糸は安易に解けず。ただ彼の事は不思議と信じてみたい事ばかり。指先から点袋が回収される事はなく、伸ばした腕は暫し空を彷徨う。小さな揺れに再度その背にしがみ付きつつ、視界が見慣れた位置へと戻ると直ぐに察して体温を分かち合った背中より離れ、砂利道に両足を着き。爪先を揃え、羽織の皺を払い、背筋を伸ばした状態で彼の顔を下から疑問を抱いた瞳で覗き込み。「要らへんのですか?」浅はかな知識ではあるが、物事には何にでも対価があると乳母が教えてくれた。本日も同様に。成人よりも体温の高い己の掌は熱く、大きな掌に包まれるとその熱は直ぐに彼へと伝い。通行人の邪魔にならぬよう直ぐ隣へと歩み寄り、店内を見渡して。在るのは真っ赤に熟れた林檎飴のみ、その一つが彼の手によって伸びてくると、点袋を一旦帯に挟み落とさまいと細い棒部分を握って受け取って。可愛らしい見た目に反して意外にも重みのあるそれは提灯の光が反射し、硝子細工の如く煌めきを放っている。砂糖の甘い香りが鼻腔を刺激して、自然と唾液が口を満たし、思わずごくりと喉を鳴らしてしまった。表情は僅かに綻び、芸術にも思えるそれを幾度と眺めて「食べてまうの、もったいないです。やけど、とってもとっても美味しそう。」一生の宝物に出来たならば、そんな純粋な考えに浸りつつ、通行人に背を押されたような気がして天秤に添えた誘惑よりも憂い事が優先立つと再度彼の顔を見上げて、林檎飴を握ったまま寄せた眉を露に)
…お店の人、カンカンにならしまへんか?おにぃ、林檎飴ちゃんのお店の人とお友達ですか?
(/成る程!楽しみにお待ちしておりますね!有難う御座いました、此方も一旦下がりますね、宜しくお願い致します!)
褒めてくれるの、
( 素敵な──?一瞬理解が遅れたのは自身の名が彼女にとって" 良いもの "と捉えられた故で。せせらぎが落ち着かせた彼女の悪夢。今は聞こえない涼やかさに思いを馳せれば、なるほどそれはまた、「…川の音が子守唄だったんだね。」背後の幼子の足の裏が地面に接したことを横目で窺っては、純粋な疑問に首肯。段々と熱の移ってゆく手を仄かに意識しながら「要らないよ、お金なんてあったって仕方ない……」手にした林檎飴を左右に振りつつ、屋台の奥を示すように飴の先端を差し向けて。屋台の奥はどう見たところで何も窺えぬ闇、踏み入ったところで得る収穫もなし。ただその説明では不足だろう、砂糖菓子を見つめて瞳を輝かせる彼女の様子は一転。背丈に見合わぬ冷静さを目にしては、宥めるように「大丈夫だよ。いないんだ、ここのお店の人は。だって…」……。ふ、と彼女の後ろに視線がいった。通行人達はどこかを目指して歩く筈なのに、" 彼 "は" 彼女 "の持つ艶々と光る赤色の飴に視線を落としていて。ざり、ざりと下駄で砂利道を踏みながら此方へと。彼の茫洋とした瞳と己の目がかち合い、そして浅葱色の着物を着た" 彼 "はその口をぽっかりと開けて、" 彼女 "の双肩に手を掛けようと──)
そやさかい、唄はおにぃのお名前とってもとっても好き
( はにかむまでは行かずとも変化の乏しい娘の口元は自然と綻び、穏やかな嘘偽りのない瞳を細め「──そういうたらおにぃもあの小川みたいね。」それは静穏な佇まいから。心が波立つあの日々も、常しえの夜祭に迷い込んだあの時も、心の調和を与えてくれたのは朗らかなせせらぎと貴方。彼の言葉を理解するには些か情報とおつむが足りないようで、無意識に首を傾げつつ林檎飴と空の露店を幾度と交差し。こんなにも人で賑わっているのに、そういえば誰一人として店に立ち寄ろうとしていない。並べられた商品と居ない店主、そして男の言葉。少々混乱しつつ、なんとか理解に努めようと真剣な面持ちで彼の次の言葉を待ち続け、「……河原?」途絶えた言葉尻に徐に顔を上げ視線を投げ掛ける。彼の視線は別へと向いていた、それも己の背後へ。すっかりと考え込んでいた故に気付く事が出来なかった、ましてや行き交う人混みに紛れた足音など。視線を辿る様に身体ごと斜め背後へと向けた直後、視界に飛び込んできた艶かしい光沢を帯びた肉壁、鋭利に光る歯と洞窟のように薄黒い最奥、見知らぬ男が己を喰らうかの様に口を開けているではないか。その悍ましい光景に悲鳴は恐怖で絞られた咽頭から微かに上がり、伸びてきた両腕に遅れて気が付くと咄嗟に払いのけるよう男の口元へと振り上げて )
──やっ………!!
ありがとう、で良いのかな。
( 屈まねば目も合わせられないほど小さな背丈、彼女の口端が柔らかに緩むのを目にすれば、自然と己の胸中に暖かなものが滲んでゆく。彼女の告げる小川はきっと、己の何倍も魅力的な産物なのだろうけれども、「そっか」気づけば小さな声で肯定を溢していて。光を受けて艶めく飴の先と屋台骨、彼女がその丸い頭を左右に降って確認しているのを良いことに己の名を反芻する。河原、河原……うん、なんだか良いものに思えてきた。そうやって、多少浮かれてしまったのが仇となった──説明途中で切り替えがうまく行かなかった、というのは恐らく言い訳になるまい。男が明らかな" 危害 "を彼女に加えようとしていることに、今の今まで気付けなかったのだ。男はその歯を唾液で湿らせ、細い肩に歯を突き立てて食い破ろうと、いや、「!!」強欲なことだ。男は躊躇いなく、飴ごと彼女を喰らおうとしていた。悲鳴を上げて飴を庇う彼女の腹に咄嗟に自身の腕を回し、もう片方を男の開けた口に押し当てる。その弾みに片手にしていた飴は自身の手を抜けて、多少離れた位置でコトッと音を立てた。左腕の袖はするりと肘に絡み付きながら緩く波打ち、わざと噛ませた左腕から久方ぶりの痛覚が伝って、ほんの僅かに墨染が揺らぎ。「ふ、」喰い付いた男の口腔がいまだ見えぬ内に、塵を投げ捨てるかのごとく腕を振る。恨めしそうに林檎飴を見つめた男の最後の顔が、彼女には見えただろうか?「あ」名残惜しい、と。そう言わんばかりに一言だけ発して、彼はその姿をホロホロと崩していく。ほんの短い間靄となってとどまった" 彼 "は、そうしてもうどこにもいなくなった。「……」ため息と見分けのつかない一息を入れる。なんとはなしに襲撃に対応した左腕に視線を移せば、その瞳にくっきりとした赤い歯型を見つけ「…え?」耳に届くか届かないかの声で小さく驚愕し。拍子に近くの小さな温もりに気がついたなら、取り繕うように配慮の声をかけて )……大丈夫?
──!!!
( 突如訪れた最悪は一瞬の間、視界を暗転し硬く瞑った瞳の奥で”彼”が己の腕に噛み付く恐ろしい予測が脳内を迅速に駆け巡る。ぶわっと噴き出た冷汗は額に滲み、跳ね上がる動悸に胸痛さえ感じて。命の危機、前にも似た光景を目にした気がする。次に訪れた衝撃は予測とは異なるもので強い引力で背後へと引っ張られると反射的に瞳は開かれ、鮮血の如く赤い瞳はその衝撃的な光景を目の当たりにし瞳孔は大きく開かれ。己の呼び掛けにあれ程まで興味を示さなかった通行人がまるで野生の獣のように彼の腕に齧り付いているではないか。「……っ」声にならぬ声、表現するにはふさわしい息の詰まった音をか細く漏らして数秒にも至らぬ漠然たした静止画の中でその光景に囚われ。林檎飴の落ちる音に肩が僅かに震え、二度目の瞬きを。そこには初めて感情を表したような単語を最後に消えゆく人の姿があり。あまりにも現実離れした出来事にオーバーショートしていた身体は無意識に固まっていて、緊迫からくる短い呼吸を繰り返していていたが、不意に降りかかる見知った声色に一点を見詰めていた瞳は墨染へ重なり、「河原……!」すっかり抜けていたと思われる腰は思いの外丈夫だったようで、無意識に腹部を押さえる彼の浴衣を掴んでいた手を離し、負傷しているであろう腕を汗ばんだ両手で取って柔らかく抱擁し、傷口にぴたっと熱くなった己の頬を当てがい。微かに震えた声で「唄はなんともあらへん、おにぃ痛いね。唄が今いたいいのいたいの飛んでするさかいね…」握る林檎飴は落ちてヒビの入った片割れを映すばかり )
( 最中は省みる間もなかった彼女の様子を窺うに、どうやら目立った外傷はない模様。一息を付いたのも束の間で、腕に押し当てられた熱にはっとして一瞬言葉を飲み込む。「大丈夫だよ、唄。…痛くないから」相手を安心させるために笑うという手段は己にはなく、先程歪めた墨染は平常と変らぬ無機質さを保っていて。伝播する頬の熱さとたどたどしい声に申し訳なく思いながらも、彼女の心配を払拭する振る舞いが出来ずに長く嘆息。せめてもと未だ自由な方の手を白髪の上に乗せ、指を通すようにぎこちなくかき撫でて……頭皮に爪が食い込まないよう、恐る恐る。慣れていないことが一目でわかるだろうそれは、長年の孤独故に自分で気付くことはない。それでも指から伝わる髪の質感は幼子の生を感じさせ、幾らかの安心感と共に小さく肩を上下させて。「きみに怪我がなくてよかった。俺は大丈夫だけど、怖い思いをさせてごめんね」こんなに小さな身の丈なのだ、下手をすれば丸呑みにされていたかも……なんて、考えただけで胃の腑の底が冷えた。それでも夜の景色は不気味なほどの一定を保ち、先程の襲撃はまるでもとから存在しなかったかのように、自分と彼女の周囲はつつがなく祭りを続けている。どこからか聞こえてくる笛太鼓の音に乱れはなく、人々の足取りに乱れはなく、煌々とした提灯の灯りは一切の揺らぎがなく。ちらりと横目で見た往来の様子は彼女にとって恐怖の対象となりはしないだろうか。瞳に移す赤い歯型がなにか負い目を感じさせてはいやしないだろうか。「…ここにいるのもなんだし、いっそ俺の家に来る?縁台よりも遠くなっちゃうけど」ついとそらした視線の先、ひび割れから細かな破片の飛び散った林檎飴を感情なく見下ろしてはあまりにも危うい提案を )
…ほんまに、痛ない…?
( 人の歯形にくっきりと内出血を起こした腕は痛々しい程赤く映り、とてもじゃないが一息付ける気になれない。自身を庇ったが故に負傷した事への罪の意識を拭えず寄せられた眉は解ける事はなく。それでも彼なりの配慮から不器用ながらにも頭部を撫でる優しく大きな掌に徐々に身体の強張りは解れ、緊張から野兎のように駆け足であった心拍も落ち着きを取り戻し。徐に顔を上げて掌の隙間から布面の墨染へ控えめに視線を向けて、表情を確認しようと。喜怒哀楽の何れにも当て嵌まらぬ模様に、不安よりも安堵して今度はその胴体にぎゅっと抱き着き。浴衣に顔を埋めて数秒、未だに信じられぬ光景であったがあの通行人が最後に放った言葉、名残惜しいと言わんばかりに消えて行った映像は脳裏に焼き付いていて「あの人…林檎飴ちゃん、食べたい顔しとった、」憶測に過ぎ無いかもしれないが。怖いような切ないようなそんな感情に残された林檎飴を握る掌に力が篭り。「お家?」ぱちりと瞳が開く。寄せていた眉もどこへやら、思わぬ提案に再度顔を上げた。此処には屋台と得体の知れぬ通行人しか居ないと思っていたが彼の家があるとは。縁台から離れるのは些か不安ではあるが、彼から離れ背後へと振り返るも帰路は見当たらず在るのは先程と変わらぬ光景で。相変わらず店主は現れない。また襲われるよりも、いや傷の手当てをするために、最善が何かも分からないが彼に着いて行こうと小さな脳を捻りながら導き出した答えに首を縦に振り。 )
うん、おにぃのお家連れてってくれますか。
( 憔悴の色はどうにか薄れていく様子。己の対応が未熟なのは確かだが、少しでも彼女の心配を拭えたならばと伸ばした手は、間違った対応ではなかったようで。「うん、ほんと。本当に痛くないよ」柔らかく耳朶の近くで囁けば、笑みはないまでもそれを区切りとして。腹部に感じる不意の衝撃に小さく首を傾げたのは一瞬、浴衣を締める黒い帯の辺りに回された小さな手を目に収めて状況を理解する。「そうだねえ。……食べたかったのかなあ、君の林檎飴…」白い棒を握る手にふと目を落とす。あまり肉付きの良いとは言えない細い手には固く閉じ、その肉に力の入っていることを示すもので。痛ましいと思うのはお門違いだろうか、胸中で実際にはあるはずのない眉が顰められていて。「でも、その飴は君のだから。いくら食べたくても、人のものをとっちゃいけないんだ」負担を感じる必要はないのだと言外に滲ませ、彼女の髪を撫でる手をそろそろと引っ込める。だから、その林檎飴は気にせず食べちゃいなよ、なんてそんな言葉を投げかけて。一方で落ちた飴の方へ自身の長い脚を差し出すと、その勢いままペきりと踏み潰してしまった。なんの感情もなく、なんの脈略もないそれは彼女の瞳にどう映るだろうか。「そう、お家。……あんまり面白いものはないんだけどね」周辺を見回す彼女が出した結論は是。頷こうとしたはいいが、一連の事の運びを思い出すとどうにも自身が誠を標していない気がしてならず、まるで誘拐犯になったような複雑な気持ちで視線をそらす。そらすと言っても墨染なのでどちらかというと顔ごとそっぽを向いた形であって、一際強く吹いた風が生温く頬のあたりを撫でた。「じゃあ、行こうか──唄」彼女へと向き直り、家のある方向と交互に視線を動かして。思い浮かべるものはまさしくあばら家と表すべき殺風景で粗末な家屋、隙間風が常に吹く木製の宿。最初の一歩についてくるかどうか、伺いながら砂利を鳴らして )
(/お久しぶりです!お返事が来るたびに唄ちゃんの可愛さに身悶えている背後でございます…!序章はそろそろ区切りかな?と思い顔を出させて頂きます。道中はカットして、次に場面転換であばら家へ到着、という形はどうかなと思っているのですが、大丈夫でしょうか?カットしたくない、または他になにかやりたい展開あればどうぞ仰ってください…!)
( 嫋やかな声色に息づいて硬く握った掌の力を解く。今も尚何処知れぬ顔で歩く者達を己の知っている人とは思えず、今更ながら彼が最初に言っていた意味を理解した。闇雲に尋ね回らなくて良かったと思う反面、彼らへの疑問が募るばかり。憧れの林檎飴を手に入れた事を忘却の彼方に置き去りにしていた様で、彼の促しにより思い出すと変わらず紅く煌めくそれへと視線を落とした。彼の言う事は正しい、人の物は取ってはいけない。けれど…少しばかり同情してしまうのはおかしな事だろうか。小さな悲鳴、では無く林檎飴が砕ける音に伏せていた瞼は持ち上がり、潰されて原型が無くなったそれを目の当たりにする。まるで最後まで通行人の欲求が満たされる事は無いと証明するように。彼の優しく穏やかでありながら何処かよそよそしく、淡々とした振る舞いに再度疑問を抱きつつもそれを言葉にする事は無く、「じゃあ一緒に食べまひょ林檎飴ちゃん。」代わりに一つとなった林檎飴を差し出して。見上げた視線は合わさる事は無かった、彼が何を考えているのか見当もつかない。同じ”迷子”でありながら、家があるのも不思議だが、きっと長い事ここで彷徨っていたのだろうと自己完結に至る。彼の自宅で色々聞けば良いだけだ、此処の事も先程の出来事も、彼の事も、──帰路も。「うん、」小さく返答を。彼の頬を掠めた風は白髪を僅かに舞い上がらせた。もう振り返る事はない、意思を込めて暖かさを取り戻した小さな指先で彼の小指を握り、遅れて一歩を踏み出した。「唄ね、河原に会えて良かった」それは当初この身には大き過ぎる不安を拭い慰めた彼への謝礼の言葉で。そうして賑やかな人混みのに紛れて二人の姿は消えて行き── 。)
(/お久しぶりです、お返事が遅くなってしまい申し訳御座いません…!此方も河原さんの優しさや不思議さ、ノスタルジーに耽ながらいつも楽しませてもらってます…!そうですね、とても区切りが良いので次の場面に移って頂いて大丈夫です!それ以降の展開につきましては考えが浮かび次第お伝えしますね!ご丁寧に有難う御座いました、今後とも宜しくお願いします!)
─────あばら家
(小さな足を気遣いながら歩くこと、体感で十数分。冷えた夜の気に晒すことを申し訳無く思いながらも、最終的には壁があった方がいくらかマシだろうと木の端切れで作ったようなあばら家の前まで案内して。外観は粗末と言って差し支えなく、右隣にポツンと立った紅葉の側には井戸が。先刻差し出された林檎飴をやんわり断ったのも相俟って心苦しさは増すばかりだが、せめてもとキィと音を立てる引き戸の中へ招き入れ。板張りの床はささくれこそないものの年季の入ったことがひと目で伺えるもので、それに今更ながら気づいては「ごめんね、あんまり豪華なところじゃなくて」。中心の囲炉裏を含め室内は八畳といったところだろうか。相手の小さな身形ならば狭いということはないだろうが、どこに座れば良いかは迷うかもしれないと真絹が詰められた真紅の座布団を二枚、囲炉裏をはさみ対面するように置いて。貧相な外観からは浮いているだろうそれに自身の体重も預けたならばどうぞ、と言うように視線で指し示して。黒曜石の火打ち石を懐から取り出しては雑に投げ出された鋼を手に取り、囲炉裏火をつけるべく打ち付け始め)
(/こちらも大変お返事遅くなりました、見逃していて申し訳ございません…!楽しんで頂けているならこちらも嬉しい限りです、上記場面転換させて頂きましたので、お好きなときにお返事頂ければと思います…!※蹴り可)
(/度々申し訳ございません、只今私生活の方が多忙でしてもう暫くお返事に時間がかかりそうなのでご一報致します。近日中にはお返事致しますのでもう暫くお待ち下さい…!此方へのお返事は結構です、いつも楽しいやり取りを有難う御座います…!)
(/催促ではないのですが、一応の目安として上げておきますね…!リアル優先、お返事いつでも構いませんのでお待ちしております。此方こそ素敵なやり取りをありがとうございます…!)
此処が河原お家、
( 辿り着いた其処は、年季の入った彼の家。小さな集落では同じような家屋を良く見てきたので然程驚きは無く、寧ろ家主を守り地に足を着いて聳え立つ姿は白亜の城よりもよっぽど立派なものに感じる。人が住うには些か不便な土地にも感じるが、小さなお頭には其処まで考えを巡らせる程の力量は無く。彼に続いて、彼と彼の住う家へ一声掛けてから室内へと足を踏み入れ、途端に鼻を掠める木材特有の独特な香りに大きく深呼吸をして堪能し。二つの下駄を脱ぎ、漆の剥げた壁へと手を伝わせながら軋む足取りを楽しみ促されるまま室内の中央へと。思えばこうして誰かの家に訪れるのも初めてで、何やら至れり尽くせりなのではと身を更に小さくさせながら対面した座布団へと膝を折って座り。滑らかな座布団の表面を指先でなぞりつつ、囲炉裏に火を起こそうとする相手へと改めて向き直り「唄は此処好きよ、静かで落ち着きます」まだ舌に残る林檎飴の甘味な味わいに、先程の恐怖心はすっかりと半減して、表情の読めぬひとつ目の布面を眺めて。色々と聞きたい事はあるものの何から話せば良いのか、聞いて良いものか、上手く言葉に出来ずに次に唇を開いた時はそれから幾らか過ぎてからで。)
河原は、…いつから此処で暮らしてはったんですか?
(/大変お待たせ致しました。ようやく私生活の方が落ち着きまして週末からは以前のようなペースでやり取りが可能となります、ご心配を掛けてしまい申し訳御座いません…!仕事の都合で時折長期的にお返事が遅れてしまうのですが失踪などは決して致しませんのでご安心下さい!また宜しくお願い致します…!
また今後の展開についてなのですが、何か既に決まっている事はありますでしょうか?
河原さんの行動範囲は何処までなのか疑問でして、出来ればお山の中で紅葉を楽しんだり、星々を眺めに行ったりしたいのですが如何でしょうか?
また唄が直ぐには帰れない事を悟り、帰路を探しつつも暫くは河原さんと共に生活をする方向で落ち着こうと思うのですがご意見を頂ければ幸いです…!)
気に入ってくれたなら良かったよ。……でもやっぱり、きみが来るならもう少し豪華にしておけば良かった。
( 招き入れた相手がどうやら悪感情を抱いて居ないことを知れば安心から一息をつくも、やはり隙間風の吹く家屋は威厳を示すものではなく、ついた息はすぐに苦笑に変わり。話しながらも打ち付けた鋼がちらりと火を吹けば慣れた仕草で枯れ草へ。転がっていた火箸を目に入れると灰をかき分けながら火種を転がし、若干の暖気が相手のもとに届けば重畳と。そうこうしているうちに続けられた質問には一度瞬き、気遣いか遠慮からかまごついた末のそれにも構わず言葉に詰まったのは、答えたくないからというよりも純粋に答えを思い付かなかったから。いつから──いつから?隙間風の吹くあばら家は元からこの姿ではなかった気もするけれど、遠い昔の絵は思い出せず。「いつから、だろうね。たぶん、きみの生まれるずっと昔からということだけ」はぐらかしと言えばはぐらかしなのかもしれない。具体的な年数は何も挙げず、その代わりに「きみのお家はどんななの?」と論点をすり替えて。尻の下に敷いた座布団に体重を預けると、パチパチと爆ぜる火を見るともなしに眺めながら )
(/お帰りなさい、またこちらも大変お待たせしてすみません…!少々忙しくなってしまいお返事遅れてしまいました。そちら様の事情についても了承致しましたのでくれぐれも無理なさらず…!
河原の行動範囲としましては、それが「縁日」「お祭り」「お祝いごと」に地続きになる限りは移動可能でございます!ご提案のいずれもがとても魅力的で、是非是非その展開にさせて頂きたく…! )
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