ノーマル 2021-09-07 06:50:28 |
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こんなのって、充分凄いだろ
(どうやらメイジにとって、どうということもない魔法のようだが、ノーマルから、というより自分からしたら、大変便利な有り難い魔法だと思った。この魔法を使えば、探し物の依頼だけでそれなりに稼ぐことが出来るのでは、と金欠故にふと考えつく。しかし、この街でそんな事は絶対に不可能で、もし彼がこの街中で魔法を使おうものなら、即座に消されるか、捕虜になるかだ。人の役に立つ、良い才能なのに残念なことだ。そして、彼は相当呆れながらもライターの在り処を見つけ出してくれるようで、次は無いからそのつもりでと言われれば「もちろん、今回だけだ」と何とも信用ならない軽い返事をする。彼の目には何がどう映っているのかは想像が出来ないが、魔法を使って探し出している様子を見てワクワクしていると、急に目を見開き驚いた顔をする。何かと思えば、ライターが床に山積みの服の中に紛れていたらしい。)
え?…あー…ズボンに突っ込んでたの忘れてた。悪い、これは本当に気をつける
(いつかズボンのポッケに入れたまま脱ぎ捨ててしまった記憶があり、服の中からズボンを手に取り、両足のポッケを弄れば黒色のライターが出てくる。彼の家が火事で失われたというのに迂闊だった。これについては深く反省しているようで、眉尻を下げ謝罪を述べて)
反省してるなら別にいいけど…ちゃんと気を付けてね。君まで僕と同じような目に遭う必要ないんだから
(彼がこの部屋に思い入れがあるのかどうかは分からないけれど、それでも燃えるような事があったら多少なりとも思うところはあるはずで。自分が知るノーマルの中で唯一好感が持てて、なおかつ命の恩人である彼が自分と同じ宿無し状態になってしまうのは本当に笑えない。彼がそのような事態にならないよう事前に防ぐのも、自分に課せられた恩の返し方ではないだろうか。それにはまず、とにもかくにも、今すぐ取り組んで解消すべき問題があって)
…あーっ、もう!やっぱり一刻も早くこの部屋を掃除するべきだ!朝食はその後!当然君も手伝ってよ!
(我慢の限界だと言わんばかりに声を張り上げては、さっそくゴミ袋を何枚か取り出して広げていく。まずは分かりやすく燃えるゴミだけをとにかく回収しよう。自分にとってはゴミに見えても、彼にとってはそうじゃないものがある可能性もあるからだ。しかしそれを彼に判断して貰おうにも、ここまでごちゃごちゃな状態では仕分けも一苦労である。ならば、自分が手を出しても大丈夫だろう衣服もついでに片付けてしまおう。彼に向けて指示を飛ばして)
紙屑とか煙草の空箱とか、そういう燃えるゴミはここに捨てる!それから衣服は全部纏めて洗濯機の近くに置くこと!スペースを作らないことにはいる物といらない物の仕分けも出来ないからね、まずはそこから!ほら動いて!早く!
ああ、気をつけるよ
(自分自身がとんだ災難に見舞われたというのに、何か目的があっても無くても、他人を気遣う彼は、人の事を言えないぐらいにお人好しだ。そこがまた彼の良いところで、彼を気に入った理由でもある。だから彼の言う事には出来るだけ耳を傾けようと思っていて、改めて注意する事と口にして。そして、まずは掃除だと声を張る彼は、先に一服させてくれと言う隙も与えずに、バシバシと指示が飛ばしてくる。その勢いに押されて「は、はい」と急ぎめで取り出した一本の煙草をまた箱に戻せば、さっそく燃えるゴミを袋の中に放り込んでいく。目に見える範囲でひたすらゴミを捨てていくと、当たり前だが、テーブルや棚の上が先ほどよりもスッキリ綺麗になった気がする。今度は散らばった服をかき集めて両腕で抱え、洗濯機の横に置く。実際に集めてみて、かなりの量を溜め込んでいた事にようやく気づき、よくもこんなに溜め込んだなと自分自身に少しだけ幻滅してしまう。とりあえず彼の指示をこなしていくと、それだけでリビングや寝室が少しはマシに見えてきて、掃除するのも悪く無いなとも思い始め。こちらを監視しつつ、ゴミをまとめているお掃除隊長に次の指示を仰ぐ)
…よし、ゴミと洗濯物はまとめたぞ。次はどうすりゃいい?
ああ、気をつけるよ
(自分自身がとんだ災難に見舞われたというのに、何か目的があっても無くても、他人を気遣う彼は、人の事を言えないぐらいにお人好しだ。そこがまた彼の良いところで、彼を気に入った理由でもある。だから彼の言う事には出来るだけ耳を傾けようと思っていて、改めて注意する事と口にして。そして、まずは掃除だと声を張る彼。先に一服させてくれと言う隙も与えずに、バシバシと指示を飛ばしてくる。「は、はい」とその勢いに押されて、短い返事をすれば、取り出した一本の煙草をまた急いで箱に戻し、さっそく燃えるゴミを袋の中に放り込んでいく。目に見える範囲でひたすらゴミを捨てていくと、当たり前だが、テーブルや棚の上が先ほどよりもスッキリ綺麗になった気がする。今度は散らばった服をかき集めて両腕で抱え、洗濯機の横にドサッと山積みに置いて。実際に集めてみて、かなりの量を溜め込んでいた事にようやく気づき、よくもこんなに溜め込んだなと、自分自身に少しだけ幻滅してしまう。とりあえず彼の指示をこなしていくと、それだけでリビングや寝室が少しはマシに見えてきて、掃除するのも悪く無いなとも思い始める。気分が乗ってきた今のうちに、こちらを監視しつつゴミをまとめているお掃除隊長に、次の指示を仰ぐ)
…よし、ゴミと洗濯物はまとめたぞ。次はどうすりゃいい?
(/誤字が酷かったので修正しました。すみません…!蹴り可です)
(燃えるゴミだけでも相当な量が溜まっていたようで、あっという間にゴミ袋が一つ分埋まってしまった。彼が買ってきた分で足りるだろうかと若干不安に思いつつも、こうなったら全て使う勢いでやるしかないと改めて決意を固める。そうして作業を始めて時間が経った頃、ようやくひと段落した所に彼がやってきて、指示した内容をこなした事を報告された。見れば確かに、部屋中の衣服は一か所に纏められ、彼に持たせたゴミ袋も埋まっているのが分かって)
ん、よろしい。…君、やればちゃんと出来るじゃないか
(彼を時折監視、もとい観察していたが、嫌がったり面倒臭がったりする様子も無く手際も意外と的確で、思っていたより早く済んだ事に内心で少しだけ驚いていた。てっきりこういう方面は不器用なのか、それとも単に苦手だったり嫌いだったりするのかと思っていたのに。…出来るならなんでやらないんだろうという新しい疑問が出来てしまったけれど。ともかく、次の指示を待つ彼にさっそく新しい仕事を任せることにして)
足の踏み場もだいぶ増えたし、これで物も探しやすくなったよね?さっきも言った通り、後は君にとって必要か不必要かをきっちり仕分けて、いるものは分かりやすく机の周りに集めて、いらないものはこっちのゴミ袋に纏めて捨てること。いいね?
(そうやって次の指示を飛ばしつつ、自分はキッチンの方へちらりと視線を向ける。使った食器はすぐに洗うのが理想だが、面倒ならば夜に纏めて洗ってしまってもいい。とにかくその日の内に綺麗にするのが重要…なのだけど、放置されたそれらを見る限り彼がそんな習慣を身に着けているとは到底思えず、虫が飛んでいないだけマシか…と自分の中でだいぶ妥協をしつつ、洗い物をする為に腕まくりをしながら洗剤を手にキッチンへ向かって)
(/修正了解しました!誤字はあるあるなのでお気になさらず…!)
これが終わらない限りは、煙草も吸わせない、飯も食わせない、だろ?
(掃除はやればちゃんと出来るというのは、自分でも少し驚きだったし、普通の事だが褒められると、嬉しい気がして。何となく面倒だし、そのままでも問題無かったので放置していたが、少しずつ部屋が片付いていくのも気持ちが良かった。ただ、今回ここまで手際良く手早く作業が進んだのは、煙草と朝食をおあずけされているからでもあった。次の任務を言い渡されれば、意気込んで腕捲りをして)
いる物といらない物を仕分けるんだな。了解、お掃除隊長
(了解だと調子良く告げれば、何処の物から仕分けるかと辺りを見回す。まずはリビング内にある小物から片付けてしまおうか。棚や床に転がった物をかき集めて、テーブルの上に広げる。インクのないペンや使い掛けのメモ帳、最後まで服用しきらなかった薬、貰い物の置物や香水、その他諸々。一つずつ手に取ってみて、必要か不必要か確認していく。まずインクの無いペンは言わずもがなゴミ袋へ、メモ帳は使えるのでテーブルに置いておく、謎の薬は謎だからゴミ袋へ、ここら辺までは調子良く分別するが、貰い物で苦戦することに。正直、誰からどれを貰ったかも覚えてないのだから捨てても問題ないだろうが、本当にそれで良いのかと悩みに悩んで、腕を組みそれらと睨めっこ状態。これでは埒が明かない。こういう時はお掃除隊長に聞こうと、テーブルの物を見ながら、キッチンで格闘する彼に問いかけて)
うーん…。なあブラン、お前なら貰い物はどう仕分ける?正直必要ない物ばっかりなんだが、貰い物を捨てるのは気が引けるというか…
(/ありがとうございます…!)
ああ…成る程。うん、よく分かってるね。とりあえず仕分けと、こっちの食器洗いが済んだら一旦終わりにするから、もう少し頑張ってよ?
(彼が掃除に協力的だった理由が判明して、納得したように頷きながらそう告げる。ご褒美があると分かっていれば嫌なことでも頑張れるのはノーマルやメイジは関係無く共通らしい。ご褒美というよりお預けと言った方が正しい気もするけれど、字面が良いのは前者だろう。そんなことを考えていると不意に呼ばれた名称に怪訝な表情になりながら「なに、その呼び方」と思わず突っ込んでしまった。いつの間にやらお掃除隊長とやらに就任していたらしい。本当に彼はよく軽口を叩くというか、気安いというか。まあそこまで大きく間違っているわけでも無いので、別に訂正する必要も無いかと、それ以上の追求はしなかった。彼が後ろで作業している音を聞きつつ、こちらはこちらで役目を果たすべくさっそく食器洗いに取り掛かる。やはり放置されていたせいか一度では汚れを全て落としきれず、何度も洗わなければならないのは非常に手間だ。せめて水につけておくよう厳しく言っておくべきかと検討している最中に彼に呼び掛けられ、一度手を止めて振り返る。彼の周囲には幾つかの物が置かれており、その中には使い所がよく分からない物もちらほらと混ざっていて、どういう経緯で貰ったのか少し気になる所。それはそれとして、彼からの問いかけに答えるべくこちらからも質問をして)
…その貰い物、誰がくれたのかは分かるの?見てると思い出すとか、顔が浮かぶとか、そういうのが一つでもあるかい?
(洗い物が済めば休憩で煙草も朝食にもありつけると言うので、その前に全て整理してしまおうと考えていたが、その考えは生温かったようだ。普段から整理していなかったせいで、気付かないうちに物が増えいたようで、一つ一つに時間がかかる上に数が多い。勿論誰から何故貰ったか覚えている物もあったが、誰から貰ったのかも、これが一体何なのかも分からない、片手サイズのオブジェを摘み上げ、首を捻りながら彼の質問に答えて)
覚えてるやつもあるけど、これは…何なのか全く記憶に無いな…。
(そのオブジェのように、遣り手も価値も分からない物は幾つかあった。謎のオブジェ、古びたサインプレート、キャンドルとキャンドルホルダーなど、どれも埃を被って部屋の隅に雑に放置されていた。何故この部屋にこんな物が転がっていたのか。パブで泥酔した時に知らない客から貰って持ち帰った、それぐらいしか考えられない。もっと綺麗で洒落た部屋だったら、この謎のオブジェも映えたかもしれないが、そんな部屋にするつもりも無いので正直必要は無い。ただ、じーっとそれを観察していると、どんな経緯でウチヘ来たにしろ、愛着のようなものが湧いてきてしまい、捨てるにも……。そこでパッと彼の顔を見て、良い事を思いついたかのように、片手に持ったそれを彼の方に見せて)
なんか捨てるのも勿体ないよなー…。あ、いるか?
本当に何なのそれ…?師匠でもそんなよく分からないものを持って帰ったりしなかったけど…?
(少なくとも、彼に譲ったコーヒー豆のように実用性のあるものが大半を占めていたはずである。本当に、ごく稀に、自分では使い道が分からない何かを持ち帰った事もあるけれど、ああいうのは大抵あの人が使っていたのでノーカンというやつだ。彼が手に持っているなんとも表現しづらい形状をした謎なオブジェをじっと見つめてみるが、見れば見るほどよく分からない。それに加えて彼自身も誰に貰ったかさっぱりだと言うから、いよいよこのオブジェの存在価値が分からなくなってきた。これはゴミ袋行き決定だなと自分の中では結論付けたが、彼にとってはそうでは無かったらしい。唐突にこちらを見たかと思うと、まるで譲る気満々のような発言をしてきて「はぁ?」と思わず声が出て)
君、このままじゃ困るからって僕に押し付けようとしてない?
(というかそもそもの話、貰った物をさらに誰かにあげる、つまりはプレゼントにするのは普通にどうかと思う。少なくとも自分は嫌だ。そんな気持ちが現れたかのようにとてつもなく嫌そうな表情を浮かべて)
(置き型のオブジェなのは間違い無いが、球体と四角を捻ったり捏ねたり、細かったり太かったり、薄かったり厚かったり、スクラップのようでもあり芸術品のようでもある。そのオブジェは彼にも理解不能なようで、例の師匠でも持ってこなかったと言うので)
あの師匠でも持って帰って来なかったのか?まじかよ。
(師匠について殆ど知らないが、息をするように軽率なジョークと共に眉をくいっ上げて驚いた表情をしてみせる。このオブジェの存在価値が自分達には分からなかったとしても、何処かの誰かにとっては必要なもので美しい芸術品なのかもしれない。それなら、貰い物とは言え必要としている人の手に渡る方が、コイツ(謎オブジェ)も嬉しいだろう。何やかんや理由を付けて彼にプレゼントしようかと思ったが、明らかに嫌そうな表情をされてしまった。)
押し付けようとか、そういう訳じゃねえって。…うーん……そうだな…、綺麗にして飾るか。折角だし、他のやつも飾ろう
(このオブジェの為を思ってのことで、押し付けるつもりは無いはずで。彼は要らないそうで、さてどうしたものかと考える。どのような形であれ、一度引き取ってしまった自分に責任があるので、乱雑に放っておくのではなく、綺麗に飾ってやろう。他の物も使えそうな物は綺麗にして、ちょっとした模様替えでもしようかと自己完結させる。一人で納得したところで、彼の手を止めてしまった事に軽く謝り)
悪いな、途中で止めて。洗い物の続き、頼むわ
…ごめん、知らない人の事を言われても分からないよね。無理に合わせなくていいよ
(ついあの人の事を口に出してしまったが、そういえば彼はあの人の事を全然知らないのだった。当然のように話に出してしまったことを少し後悔したが、知らないなりに彼はそれっぽく合わせてくれたらしい。それはありがたかったけれど、申し訳ないと思う気持ちのまま謝罪をしておく。彼にとって自分の師匠のことなんてどうでもいいだろうし、なるべく口に出さないようにしよう。生きてるか死んでるかも分からないのだし。そう改めて思っている間に、彼は謎のオブジェ含めて貰い物全ての処遇を決めたようで)
ふーん…結局捨てないんだね。まあ君の貰い物だし、僕からは何も言わないけどさ
(自分だったら容赦なく捨てていただろうそれらを、彼は取っておくばかりじゃなくきちんと飾るつもりのようだ。誰から貰ったかも覚えていないらしいのに。律儀なんだなと思うのと同時に、ちゃんと使おうとしてくれるのは贈る側も嬉しいだろうなとも思う。贈り物をするなら、彼のような人間にしたいと誰もが考えるだろう。案外、そういう理由で色んなものを貰っているのかもしれない。…例えば、自分が彼に何かを贈ったとして、彼はそれを使ったり、飾ろうと思うのだろうか…ふとそんな事を考えてしまった。それを振り払うように軽く頭を振った後、彼からの謝罪に「別にいいよ、また何かあったら呼んで」と返し、彼に背を向けて皿洗いを再開して)
俺は大丈夫だから、お前こそ気にし過ぎるなよ。
(身内話で申し訳なく思ったのだろうか、"知らないくせに適当な事を言うな"なんて怒られるかと身構えていたら、予想外に謝罪を受けたので内心驚いていた。とりあえず俺に対して変な遠慮はするなという思いから、上記述べる。7年前とはいえ大切な師匠が行方不明となれば、ナイーブになるのも仕方ない。何なら一緒に探そうかと言いかけるが、今は他にもやるべき事があるので落ち着いたらにしようと考えて。そして、貰い物を飾る事には特に口出しするつもりは無いようなので、飾る方向で物を仕分けしていく。テーブルに広げられた雑貨達に夢中で、彼が何かを考え、それを振り払おうとしているのには気付かず、「おう、また呼ぶ」と声だけで返事をする。)
あ"ー…終わった終わった…!おいブラン、終わったぞ。とりあえず仕分けて、使えるやつを綺麗にしただけだけど。
(それぞれ作業を再開してから、一時間ほど経過すると、両手を上げて背伸びをしながら立ち上がり、やっと終わったと彼の方を向いて伝える。初めの方は部屋中からガラクタを集めて動き回っていたが、その後は座ったまま仕分けと埃や汚れを拭き上げていたので、ソファで寝た為に凝り固まった体が余計に酷くなった気がして。しかし、集中した甲斐あって、部屋は見違えたようにスッキリと綺麗になった。そして自分の背後にはパンパンにゴミが詰まった袋が数個。改めてその袋を見ると、この量のゴミと生活してた自分が信じられないが、今は何より、片付け終えたことの達成感を感じていて。ここまで汚しておいて自慢する事でも無いのに、自慢気に綺麗になった部屋をお披露目するかのように両手を広げて)
どうだ?かなり綺麗になっただろ。高級賃貸よりも綺麗なんじゃないか?
(気が付けばあっという間に時間が過ぎて、あれだけ衛生面に問題が大ありだったキッチンをなんとか綺麗にすることが出来た。ついでに何の調理器具があるか、調味料は何があるかも確認済みなので、これでいつでも朝食作りに取り掛かる事が出来る。我ながらいい仕事が出来たんじゃないかと一人でうんうんと頷きながら達成感に包まれていると、再び彼から声を掛けられたので振り返って…驚いた。あんなに悲惨だった部屋の様子がガラリと変わっており、見違える程に綺麗になっていたからだ。自分の作業に集中していたので気が付かなかったけれど、後ろで彼も相当頑張っていたらしい。勿論、まだまだ掃除しなければならない箇所は沢山あるし、折り返し地点に辿り着いただけでゴールは先だけど、それでも「ふふ」と少し楽しそうな笑みを浮かべて)
それは流石に言いすぎじゃない?でも、君が頑張ってくれたのは見れば分かるよ。手伝ってくれてありがとう、お陰で早く済みそうだ
(彼にも手伝わせたのは効率目的ではあったけれど、彼自身のことがちょっとだけでも知れたのは良いことだった。少しずつ自分の中で彼の情報が集まっていき、更新されていく。第一印象が最悪でも、案外上手くやっていけそうな気がするものだ。…と、まあ、ここで終わらせれば穏やかに済んだかもしれないけれど、そうはいかないのが現実である。「それはそれとして」と一度咳ばらいをしてから、今度はにっこりと満面の笑顔を浮かべて)
そもそも君が部屋の掃除を怠らなければあんな惨状にはなってなかったし、こんなに時間を消費してしまうことも、朝食を遅らせてしまうことも無かったってことは、ちゃーーーんと覚えておくように、ね?
(もしまた汚すようなことがあったらただじゃおかねぇぞ、という意訳と怒りと脅しを多大に含んだ言葉を告げて)
礼を言うのは俺の方だ。ありがとう、ブラン。お前が居なきゃ、一生汚い部屋のままだった
(本来は手伝って貰うような事でもなく、自分自身ですべき事で、彼がきっかけでこんなに住みやすい部屋になったのだから、此方こそお礼を言いたかった。彼が楽しそうに微笑むので、つられて頬を緩ませて礼を述べる。これからの生活もこんな風に穏やかで、なんてことのない日常が続けばと淡い期待を抱く。すると彼がほのぼのとした空気を破るように咳払いをしたかと思えば、あの嫌なにっこり笑顔に切り替わり、もう汚すなよと釘を刺す。先程まで緩んでいた表情がヒクヒクと引き攣り、バツの悪そうに)
あ、ああ…ちゃんと覚えておくよ…
(初めに彼が言った通り、穏やかな共同生活を過ごせるかは自分次第で、もしまた汚部屋にしようものなら、ただでは済まないことを改めて認識させられる。今後ももちろん出来る範囲で努力はするが、この笑顔にあと数回は対面する事になるだろう。気不味さを誤魔化すように、「うわ!」と声をあげれば、慌ててキッチン側に回り、彼の隣に立つと、思いつく限りのユーモアを加えて褒めちぎる)
キッチンも凄え綺麗になってるな。ほら、食器もシンクもコンロもピカピカ!短時間でこんな綺麗になるなんて、お前ってもしかして魔法使いか?
(この空気に耐えられなくなったのか、あからさまな態度で綺麗になったキッチンを褒めちぎる彼に溜め息を一つ。どうせ褒めるのなら、誤魔化すための材料としてじゃなく普通に褒めて欲しかった。これでは素直に喜べないではないか。こういう所が彼の残念な一面なんだなと、なんとなく彼の性質が掴めてきたところで)
そうだよ、僕は魔法使いだ。これからもっとすごい魔法を使って君を唸らせる予定だから、邪魔はせずに大人しくしてること。いいね?
(彼のノリに合わせるような形で、けれど声色は呆れ気味にそう言いながら魔力を操作して指を振れば、掃除に入る前に彼が机の上に置いていた煙草の箱とライターが緑色の風に包まれてふわりと浮かぶ。それらをここまで引き寄せてから、彼の手の中に着地させた。ようするに、これから朝食を作るから煙草でも吸って待っていろ、ということである。返事を待たずにさっさと冷蔵庫の方へ向かい、彼が買ってきた食品の内で食パン、卵、バター、ハム、レタス、キュウリを順次取り出して並べた後、レタスとキュウリを水洗いしながら思い出したように口を開いて)
そういえば君、嫌いなものとか苦手なものとかはある?明日からそういうのも考慮して食事内容を考えるから、あるなら今の内に教えてほしいんだけど
なるほど、了解。大人しくしてる
(呆れてはいるようだが話の調子を合わせて、お待ちかねのご褒美を緑色の風に乗せて飛ばしてきた。彼はだんだんと自分の扱い方に慣れてきたようで、その順応力には感心する。与えられた煙草を一本咥えてベランダへと向かい、掃き出し窓に手をかけたタイミングで、嫌いなものについて聞かれるので顔だけ振り返って)
無い。だからお前の好きなようにしてくれ。面倒だったら作らなくてもいいし
(嫌いなものが無い、というより、食事にそこまで興味が無かった。勿論美味しいものを食べられるのなら、それに越したことは無いが、どの料理も食材も胃に入れば全て同じだという考えで。そして、いつまで続くかは分からないが、彼に毎日毎食作らせるのも申し訳ない気持ちがあり、作る作らないについても全て彼に任せようと。ただし、作らない場合は、出来合いの物を買ってくる事しかできないが。そして必要な物はまたメモしてくれと一言添えて)
後は必要なもんがあれば、いつでも何でもメモしといてくれ、買いに行くから。
(ベランダに出て早速火をつければ、深呼吸をするように煙を取り込み、吐き出す。空腹のせいか頭がクラクラと揺れる感覚、いわゆるヤニクラが起きる。普通なら不快に感じるのだろうが、これが起こると煙草を吸っているとより実感でき、この感覚が好きで吸ってる部分もある。ふぅ…と一息吐けば正常な感覚に戻り、またゆっくりと煙を燻らせて。)
そういうわけにはいかないよ。家事を任された以上、料理も僕の仕事の内だからね。面倒だとは思わないけど、もし疲れるようなことがあれば…そうだね、カレーとかシチューとか、そういうのになるぐらいかな
(一人で暮らしていた時だって毎日欠かさず料理をしていたのだから、環境が多少変わったくらいでそれを一度でもやめるつもりは無かった。…ただ、もし、本当にもし、自分の料理の味が彼の口に合わなかったら。彼の口から『不味い』なんて言われたら。流石に落ち込んで、料理する気力が無くなってしまうかもしれないけど…というのは心の内に秘めたまま、買い出しを引き受けてくれるという彼に「うん、それは遠慮なくお願いするよ」と返事をしながら洗い終わった野菜をまな板の上に置き、包丁を手にキュウリを切っていく。手際良く切り終えて一度ボウルの中に移し、今度はハムを四枚用意し、真ん中の部分だけを小さく切り抜いて、また別の皿へ。続けてレタスを手でちぎって、これはキュウリと一緒のボウルに入れた後、掃除中に発掘したトースターの中に食パンを入れてスイッチを押す。それからコンロの上にフライパンを置き、油をしいてから火をつけた所で「あ、そうだ」と彼の方へ顔だけを向けて)
君、卵は半熟がいいとか固めがいいとか、そういう好みはある?師匠がそういうの無駄にこだわりあったから、一応どの固さでも作れるよ
疲れてもカレーとシチューは作れるのか?まじかよ、そりゃ頼もしいな
(彼の言葉に素直に驚き感心するが、料理が得意で、毎日自炊をしている人ならそれが普通なのだろうか。もし、料理が出来たとしても、疲れていたら包丁を持つ気にすらなれないだろう。会話をしている最中も彼は手を止めず、要領良く作業をする様子は流石としか言いようが無い。今まで完成品しか見たことが無い自分にとって、その素早い作業は何をしているのか分からなかった。どうやら卵も好みに合わせて作ってくれるようだ。)
んー…どっちかって言うと、半熟が好きだな。こんなに優秀な弟子を置いてくなんて、師匠は勿体無い事をしたな
(あまりこだわりは無いが、強いて言うなら半熟の方が好みだと伝える。師匠と暮らしいてた時、7年以上前から彼は生活面で師匠の事を支えていたのだろう、手際の良さに納得する。これだけ要領が良く、度胸もあって、(多分)美味い飯も作れる優秀な弟子を置いて行ってしまうなんて。助手として連れて行けば、きっと役立つに違いない。素直に思った事を口にして。)
カレーやシチューなら一度にたくさん作れるから、最悪それで一日持たせられるからね。三食全部同じものになっちゃうのが欠点だけど
(料理自体が自分にとって一種の娯楽になっているので、出来るなら朝昼夕全てきちんと作りたいのが本心だ。けれど、疲れていたり体調が悪い状態で料理をするのは良くない事は知っている。それ故の妥協案である。と言っても、別に疲れてなくても普通に食べたいからそれらを作る時もあるのだけど。話している内にフライパンが丁度良い熱さになったので、真ん中をくり抜いた状態のハムをそこに入れていく。じゅわーっと音が鳴るのを聞きながら、卵の固さについて彼が答えてくれたので「半熟だね、了解」と返事をし、さっそく卵を割ってフライパンに2個程投入した後、計量カップに汲んでいた水を周りに敷き詰めるように注いでから蓋をした。休む事無く次の工程に移り、野菜を入れているのとは別のボウルに卵を割って入れながら、卵の固さの件と一緒に彼が言っていた『優秀な弟子を置いていくなんて師匠は勿体ない事をした』という言葉に対して口を開いて)
さあ、それはどうかな。いい加減だけど、師匠は一人で何でも出来る人だったから…僕はむしろ、足手まといだったかもしれないね
(悲観的のようにも聞こえる言葉の羅列だが、声色は非常に淡々としたもの。ただ事実を口にしているだけだからだ。現に表情は少しも崩れていないし、調理を進める手も一度も止まっていない。料理の片手間にする些細な世間話程度の認識で)
(今までも三食全部、しかも毎日同じような物ばかりを食べてきたのだから、それぐらいは気にしておらず「構わねぇよ。」と一言返す。そろそろフライパンが熱せられたようで、食材の焼ける気持ちのいい音が、ベランダにいても聞こえる。その音につられるように、自分の腹も地鳴りのような音を立てる。そうだ、昨日から煙草もだが、飯も食っていなかったんだ、と腹が鳴ってやっと気づく。喫煙タイムは終了にして吸い殻を灰皿に捨てれば、また部屋に戻り、彼が調理する様子が気になり覗こうと隣へと向かう。『自分は足手まといだったかも』という彼は、言葉こそネガティブそのものだが、表情や声は何とも思っていない様子だった。そんな事言うなよ、と声を掛けてやりたい所だが、本人が何とも思っていない様子なら余計な一言かもしれない。)
ふーん…、じゃ、今は師匠がいないおかげで、俺が得してるってことか。ラッキー
(前にも損得で彼を助け、此処に置いた訳では無い事を伝えたが、結果的に掃除を手伝って貰ったり、毎日手料理を作って貰ったりと、自分にとって得な事ばかりで。そして決して師匠が居なくて良かったと思っている訳でもなく、『今は』と頭に付ける。1人で何でも出来て、噂になる程だから、全く消えて居なくなってしまった、という事は無いだろう。淡々と続く作業を横で眺め、時々短く腹を鳴らしながらそのように伝えて。)
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