下級妖怪 2021-05-06 19:39:12 |
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何時も通り、友達と別れやっと自分が戻って来たように感じる癒しの時。
背伸びをして、茜色に染まりつつある空を見上げほっと息を吐いて気分転換にでも少し遠回りをしていこうかと住宅街を外れ小道に入っていく。
「……え、あ……?」
小道を真っ直ぐ真っ直ぐ獣道が続くまで歩いていたらこつん、と何かが当たった音がした。小さな小さな鳥居が並ぶ列。足元をよく見なきゃ確認は出来なかった。
何故か危うい気がするも足は気持ちとは反対に鳥居を追いかけるとばかり踏み出し、走っていて。
ずっとずっと、ずっと、その鳥居の終着点まで無我夢中で走っていた。
「す……っご、い………!」
綺麗、より凄いを口に出してしまっていた。奥には古びた神社が見えていて、それを掴むかのように手を伸ばし虚を掻き大きくそれを視界に入れるだけで心を奪われ目が冴え渡る鳥居を潜り抜けていた。
好奇心と言う病が瞬に治るかのようにゆとりは我に返った。視界に広がるのは見えていた古びた神社ではなく言葉で言い表すことも出来ない神秘的な息を呑むこともその世界を壊してしまうようでとてもじゃないが出来ることもない光景。提灯に屋台に今時古風な建物。目を惹き遊びたくなってしまうそんな魅力的でしかない光景、ゆとりはでも、何故か。
恐怖を覚えていた。
今すぐにでも帰らなくちゃ、と振り返るも潜って来た大きな鳥居は忽然と消えていてそれにまた恐怖心が襲い掛かって来る。
「あ……」
どうしよう、どうしよう、帰りたい。どうすればいいの、と思考を巡らそうと俯かせたその瞬間、眼を又もや奪ったのは自分の手に何故か握られていた一つの水晶立体の提灯だった。
「なに、これ」
太陽のようにもうもうと燃えた呑み込むような火を見つめ、ぎゅっと瞼を伏せればどくんどくんっと生々しく鳴り響く胸倉を片方の手で握り締め、正面に向き直る。明らかに人間ではない者たち。
それがまた、ゆとりの恐怖心を広がらせた。
「だ、だれか……たすけて……」
弱弱しくそんなことを言ってしまった自分に嫌になる。外来者! 人間だ! と囁く声が聞こえゆとりは恐る恐る振り返れば悍ましい手がふらふらと捕まえようと伸ばされる。ゆとりは慌てて立ち上がり竦んだ足を必死に動かし走る。
言葉のしようが無い声に耳を塞ぎたくなるゆとりは気付けば廃れた木造の屋敷に逃げ込んでしまっていた。
「ここ、ほんとに……どこなの……だ、だれ……か」
誰かいますか、と虚に訊きそうになりぱっと口を噤んでしまうゆとりは、先程のような自分を食って掛かる者がいるかもしれないから慎重にならなくてはと思い、しゃがみ込む。
膝をついて、ゆっくりと移動して隠れるところはないか、と探していて。
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