下級妖怪 2021-05-06 19:39:12 |
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「そう?」
少し疑問に思いながら、彼女が気にするなと言っているから、もしもここで引いても彼女は堪えてくれないだろうと思ったのだ。
だから自分も気にしていない風に話を流しつつ、ぼんやりとした光を漏らす自身の燭手を見つめる。先ほどよりも少し火の威力が強くなっている……様な気がする。気がするだけかもしれないけど。
その間、彼女の動きには気を払っていなかったため、『ソレ』に気付くことはなく。
「えっ、いいの?」
純粋に驚いて聞き返す。先ほどまでの態度から、まさかそんなことを言ってくれるとは思わなかったのだ。
「あ、ありがとうっ!」
海に帰ろうとする彼女に向かって声を投げかける。
内心、安堵の息を付いていた。何がきっかけで心変わりしたのか分からないが、一つでも頼れる先がいるのは十分にありがたい。
だから哲也にしては正直に、純粋に。心からの笑みを浮かべて礼を言った。
――まあ、その心が哲也に本当にあるのかは定かではないのだが。
「(もしも戻った先に人がいても、礼はし来ようかな)」
まあその時はまた冷たくあしらわれるかもしれないが。
いつもならばめんどくさいなと思うのに、どうして彼女に対してはそう思わないのだろう。
なんだか自分が全く別物のナニカに変わっていっている様で。このままではイケナイのではないかと、自らその思考をシャットダウンした。
では自分も戻ろうか、と後ろを振り返り一歩だけ足を進める。
しかしその一歩を踏み出した時、彼女の発言をふと思い出す。
――「危険があったらまた戻ってくれば?」
危険って、例えばどういうものなんだろう。
その言葉に言い知れぬ違和感を抱いたが、まあこんな真夜中だし、不良だとかそんな所だろうと自身で結論付け、今度こそ元居た場所に向かうため足を進めた。
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