下級妖怪 2021-05-06 19:39:12 |
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決して泳ぐ音はたてないように、一歩、もう一歩と、確実に距離を詰めながらゆっくり近づいていく。あの謎のシルエットまでもう少し、といったところで、
(……!)
何かが話しているような声がして、思わず泳ぐ手を止めてしまい。なんと言っていたのか言葉までははっきりとは聞こえなかったものの、どことなく人の良さそうな、落ち着いた声であった。また、謎の声が聞こえたと同時に、さっきまで一点に留まっていた筈の淡い光がぼわんぼわんと左右に揺れ始めたことを観測して。
一体、なんだっていうんだ。予測不可能な動きを見せる光に、何とも言えない漠然とした不安と隠し味程度の興味を覚えながらももう少しだけ水辺に近寄り。
水中からということもあってか謎のシルエットの正体は闇に包まれたままで依然として掴めず。恐らく謎のシルエットのものは自分の意思でしゃべったり動いたりしているのだろうと、新たに手にした情報を元にそう思案を進める。そんな条件に当てはまるものでパッと思いつくものなど、
(は、……もしかして、人?)
人ぐらいしかいないだろう。
少なくとも、ここはこの世界の者たちがあまり来ない場所だ。……だというのに、何故こんな所に人がいるのか。まことに困惑せざるを得ない状況に素直にそう思いながらも、更にもう一つの疑問が思い浮かぶ。
今、水辺にある黒いシルエットの正体が人だというならば、その人は自分の敵なのだろうか。それとも味方なのだろうか。
……判断がつかない。結果、まだ様子見を決めこむことにしたのか水中から姿を現すことはなく。しかし何かしらの形でアクションを起こすべきだと思ったのか、代わりにぶくぶくぶく、とその場で少しだけ泡を吐き出して。ヴァルプの吐き出した泡は水面へと浮かび上がり、やがて弾けるだろう。
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