下級妖怪 2021-05-06 19:39:12 |
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此処に来てからどれくらい時間が経ったか。水の中から空を見上げつつ、ヴァルプは考える。とはいえ空の様子が全く変わる素振りは依然として無く、近くに時間を確認できるものも無い。そんな状況下に置かれているヴァルプには到底答えることのできない疑問であった。考えても分からないものは分からない。やがて匙を投げては現実逃避するように、水中を泳ぎ回る。この一連の行動はヴァルプの習慣になりつつあった。
(……早く帰りたい……けど、ここだけは居心地が良い)
此処の訳の分からないやつらに迫害され逃げ回った結果、偶然見つけた場所ではあるが、この場所は中々に良い。海みたいに広くて深いからか、水中に身を潜めていればやつらに見つかることがあまり無い。
(……そろそろ、上がるか)
ずっと水中にいてもなんてことは無いが、なんとなく息継ぎをしたり、日向ぼっこしてみたりしたくなるものだったり。もっとも、此処では日向ぼっこというよりは月光浴び、だろうが。そんなことを適当に考えながら、いつものように、ぷは、と小さく音を立てれば水面から顔を覗かせて。
「…………誰か、いる?」
いつもなら一旦水辺まで上がるところだが、なんとなく様子がいつもと違う。ただ何となくそう感じ取れば、その場でじっと水辺の方を見ながらもぽつりと呟く。暗くてよく見えないものの、数秒もすれば、ヴァルプには弱々しい淡い光とそれに照らし出されているらしい謎の黒いシルエットがじんわりと浮かび上がっているのが見えた。なんだあれ、気持ち悪い。今の状態では正体がいまいち掴みきれないせいか、そんなストレートな感想が頭を過ぎった。
……気付かない間になにかのオブジェクトが置かれていたのだろうか。それとも例のやつらが自分を探しに来たのだろうか。なんにせよ、不気味なそれの正体を調べる必要があった。もしやつらならば、そのまま遠くへと泳いで逃げてしまえば良い。
(それに照らされなかったら大丈夫、な筈よね)
夜間の水場は光にでも強く照らされなければ、水面下の状況なんてあまり見えないだろう。そう踏んだヴァルプは再び潜ると、ゆっくりとした速度で音をたてないように努めつつ水辺へと近づいていって
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