名無しさん 2021-04-19 19:31:40 |
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…リネーア。リネーアと言います。
( 吸血鬼という言葉だけでイメージしていた凶暴さ狡猾さは眼前の彼には感じられず、ただ無愛想なだけで心根は優しいのだろうと勝手に思案し。唐突に訊ねられた名にそういえば名乗ってなかったかと幾度か目を瞬かせ、淡い微笑と共にしっかりと告げる。然し自身の名を言ってからすぐに彼の名も聞くのが道理だろうと、顔色を窺うように少し華やいだ表情を引き締めておずおずと聞き返し。 )
ご主人様のお名前はなんと言うんですか…?
フォレスだ。フォレス・カルテット。好きに呼べ。
(りねーあ、リネーア。その発せられた名前を覚えようと脳内で反復させつつ、自分はぶっきらぼうに名乗り。さて、お互い自己紹介も済んだことだ。腹ももうそろそろ限界を迎えようとしていることだし、目の前の新鮮な血液にありついてもいいものだろうか。血液は差し出すとつい先程言われたばかり、きっと異論は無い筈だ。改めて血色の良い相手の透き通った肌を眺め。元奴隷とはいえ、檻の中と比べて体調や気分が回復した彼女には随分と食欲をそそられるではないか。もう果実を食べ終えたであろう彼女を一瞥した後、覚えたばかりのその名を口にして)
リネーア、俺も食事を摂る。首か腕どちらがいい、
フォレス……様。
( 荒く教えられた他種族の名前は何処か物珍しく響き、脳に染み込ませる為か自然と反芻する様に呟き、慌てて後から敬称を付け加える。今日から己の主人となるのは"フォレス・カルテット様"、と幾度も幾度も頭の中で繰り返して。呑気に復唱作業を行っていると早速自身の名が呼ばれ其方を見遣り、告げられたのは早くも食事の要求。エルフは不死の身ではあるが痛覚は存在し、魔法で痛覚を麻痺させる事も出来るが、あまり使用したくないのも事実。どのくらい痛みを伴うのか、そして首と腕の二択を迫られたがどうせどちらも多少の痛みはあるだろうからと相手に委ねることにして。 )
私はどちらでも構わないので、フォレス様のお好きな方を選んでください。
そうか、分かった
(返答を聞くと相手の肩を掴んで此方へと引き寄せ、口許を首筋へと近付けて。肩か腕か、どちらでも味に変化はないのだが、流れる量の多い首を選んで。吸血のために口を開けると白く鋭い牙が顔を覗かせる。鋭く尖ったそれは彼女の首へと突き刺さり、それと同時に己の口内にはさらさらとした血液が流れ入る。口いっぱいに広がる血液特有の匂いは食欲を更に刺激し、こくりこくりと喉を鳴らして飲み進め)
──ッ、……
( エルフの血液は当然希少性だけで言えば他種族を凌ぐものの、美味か否かは自身も分からない。近付いた距離と、肩にかかる彼の吐息、何より牙が刺さることの緊張と多少の恐怖から若干体を強ばらせ心臓が早鐘を打つのを感じ。数秒後やってきた皮膚を貫通する衝撃に一瞬肩がぴくりと揺れ、洩れそうになった声を何とか喉に押し留める。耐えられない程の強力な痛みではないものの、想像していたものより大分痛覚に訴え掛けてくる。血管の太さゆえ溢れ出る血液量は多く、ぽたりと首筋を伝ってくる赤を眼下に彼の牙が抜けるのを待ち。 )
(数秒彼女から血液を頂いた後、ぷは、と大きく空気を吸い込むと同時に口を放し。高値がつくだけあって、値段に見合う味わいだった。口の端から零れた血液を服の袖で拭うと、先程噛みついた跡へ視線を向ける。傷口は血が滲んでおり、まだ出血は止まりそうにない。散らばった机の上から白い布切れをつまみ上げると患部へと押し当て止血しようと試みて)
……大丈夫だったか、
( 急激に体温が低下していく様な、そんな感覚をひしと感じてから数秒。突き刺さっていた牙が抜けると同時に強ばっていた身体は一気に弛緩し意図せずふらついてしまい、踏鞴を踏みそうになった所を何とか踏み止め。労いの言葉と控えめな処置に、奴隷の扱いとは程遠い対応だと動揺が隠せず目線を右往左往としたものの、彼なりの気遣いがじわりと心の奥底に滲み自然と口元が弧を描く。首筋や鎖骨に付着した血液を己の手で乱雑に拭ってから、押し当てられた大きな掌をやんわりと退け、代わりに自身で布を宛てがいながらエルフの体質ゆえ数分もしない内に治癒するだろうと鈍い痛みを我慢し。 )
問題ありません。じきに傷は塞がりますので、どうかお気になさらず…
そうなのか、
(奴隷…いや、そもそもエルフというものを買ったこと自体無いため、どう接していいか、はたまたどう接するべきなのかさえ分からないままだ。傷はじきに治ると言われたものの、彼女の足に上手く力が入っていないようだったり貧血のような症状が見られたりとダメージはそこそこあったように思える。しかしまあ、彼女がそう言っているなら大丈夫なのだろう…その言葉を信じることにし。)
奥に幾つか空き部屋があるから好きに使うといい。何年も手を着けていないから汚れているとは思うが、寝具や家具なんかは置いてある筈だ
…!ありがとうございます。えっと…このお屋敷には従者の方などはいないのですか?
( 発言通り次第に傷口は塞がり、押さえていた布をそっと退けて。丁寧にも部屋の説明を受けては、個別に部屋を貰えるのかと内心感動の波が遅い、当然表情にも露骨に表れ一気に華やぎ。そこで不意に湧いてきたのは、これだけ巨大な屋敷の住人は果たして彼だけなのだろうかという単純な疑問。配偶者が同居しているかもしれないし、従者も存在するかもしれない。暫し逡巡した後、恐る恐ると問い掛けて。 )
従者?……そんなものは居ない。此処には俺一人しか住んでいないが…
(彼女の言う通り先程まで血さえ止まっていなかった傷口は綺麗に無くなっており、その治癒の早さに感服していると、開かれた彼女の口に反応して相手の顔を見て。この屋敷は何千年も前からずっと自分一人だけで暮らしてきた。元々人付き合いが得意ではないという理由の他に、森の奥深くに建てられているためそもそも人が来ないということもあり。最早一人が当たり前となっていたのだが、何故そんなことを聞くのか、その質問の意図が掴めず不思議そうな表情でそう回答し。)
そう、ですか……
( この広大な屋敷で、住んでいるのは彼一人。エルフは少数ではあるが群れて生活と行動を共にするのが主であり、何千年も彼は寂しくはないのだろうかと豪奢な邸内が急に寂寞とした空間に感じられる。己を購入した真意が益々不明瞭に靄がかかり、思考の渦に溺れてしまいそうになるのを寸前の所で抑えて控えめな返答をするだけに留めて。如何せん初めてやって来た人工物の室内、どうしたら良いか分からず落ち着かない様子で黙り込み。 )
……慣れないか、
(急に静かになった彼女に違和感を覚えたのか、口を開くとそう問い掛けて。常に周りからの視線を意識して過ごしている為か、他人の感情の変化には敏感であり。…しかしまあ、今まで豊かな自然に囲まれて生活してきたエルフが突然奴隷商に捕らわれ売り飛ばされ……ぐるぐる次々と変わっていく環境に身体が追い付いていないのも分からなくはない。出来れば早めに慣れて欲しいものだが、果たして何か良い方法は無いものか。暫く考え込むと再び口を開き)
リネーア、仕事を頼んでもいいか?
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