名無しさん 2021-04-19 19:31:40 |
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( 前方の足音が止むとどうやら住居に辿り着いたことに気付き其方へ身体を向け、かなり立派な造りをしていると素人目で見ても分かる程度には美しい煉瓦の一軒家が聳え立っていて。感嘆の息を吐こうとする前に、先導して中に入る彼に自身も入るよう促され恐る恐るといった様子で一歩踏み込み、混凝土とも土の地面とも違う床の感覚に淡い感動を覚える傍ら、徐に上げた目線で視認できた二つの角らしき影に一瞬息が止まる。悪魔かそれに準ずる種族、それとも何らかの獣人かと思考を巡らせるが未だ吸血鬼の選択肢は出て来ない様で、悶々と思い悩んでいた矢先に端的な問いを投げ掛けられ。切り替わった脳内でまるで医者からの問診みたいだと余計なことを想起しながらも、一拍置いてからちらりと彼を見上げ。 )
……お腹は、ちょっとだけ空いてます。体調は特に悪いところはないです。
そうか、
(体調が良好なのはよし、しかし空腹となると…。怪我にせよ空腹にせよ、身体に栄養が回っていなかったり、少しでも不調があったりすると血液の質は落ちる。返答を聞きながら部屋の奥へ移動し、食材の入っている籠を覗き込んで。中には森で採ってきた果実、先日町で買ってきた卵や野菜等多種多様の食料が詰まっており。血液が主食である吸血鬼にとってこれらは嗜好品でしかないのだが、エルフにとって食事にはなるだろうか。普段中々目にしない種族だからその辺りはさっぱり判らない。暫し悩んだ末、片手に収まりきらない程大きく赤い果実を相手に向かって放り投げ)
まずは腹を満たせ。身体が不調だと折角の血液が不味くなる。
( 奥へと移動する背中に慌てて着いて行き、目に入った籠に目一杯食材が積まれている事が確認できると二つの翠が嬉々と煌めく。勿論、特殊な魔力に満ちているエルフの身体は飲まず食わずでも死にゆくことはないし病気に罹ることもないが、悠久の時を生きる自分たちにとって「食」は何時までも無くなることのない楽しみの一つであり、凡その他種族同様味を吟味することだってある。美味なものを摂取すれば気分は高揚するし、不味いものを食せば悲しくなる。捕らえられてからというもの、まともに口にしていなかった瑞々しい赤い果実を受け取り其方に全意識が集中しそうになった所、発せられた血液の二文字にはたと留まる。眼前の真っ赤な果実、そして彼の真っ赤な瞳を交互に見やって、角が存在する事も含めすとんと腑に落ちて。よもや吸血鬼に買われたとは思いもよらず、動揺を隠す様にしゃくりと果実を人齧りし、咀嚼し、ゆっくりと嚥下してから徐に口を開き。 )
…とても美味しいです。ありがとうございます。…貴方は、吸血鬼だったのですね。
正解だ、
(種族を言い当てられたことにぴくりと眉が反応し。洞察力も優れているのか、と一人感心したように彼女を見下ろすと口を開き。反応を見る限り、渡した果実は好んで貰えたみたいだ。表情には出さないものの内心安堵して小さく息を吐いて、改めて彼女に向き直り。さて、何から説明するべきか。相手はそこまで自分を警戒しているようには見えないし、出来ることならさっさと事情を理解して貰って、血液を頂きたい所だ。外出した影響で腹の減りがいつもより早くなっている、暫く考えた後、端的に説明しようと)
俺はお前に衣食住をやる。その代わり、お前は俺に血液を差し出せ。何か質問は?
質問はありません。…で、ですが、私からもお願いがあります。血液はあげるけれど、自由に外に出れる機会を設けてほしいです。…日の光や、木々の匂いと音に触れたいのです。
( 口腔内に久方ぶりの甘露がじわりと滲んでいくのに、あまり味覚が感じられないのはやはり彼が吸血鬼だという事実の動揺ゆえだろう。肯定され脳内で噛み砕くものの自身の主人となる人物の種族としては、少し不安が過る。そして幸先を案じている所に何処か乱暴に突き付けられた条件及び要求に顔を持ち上げ、暫し何か言いたげに逡巡した後毅然と自身の要求も告げて。元来エルフは屋内でなく広大な森林の中に生息する生物であり、吸血鬼が血液を摂取するのと同様に日光を浴びることは森の精霊種としては活力源にもなり得る。主人に対する態度ではないと怒られてしまうだろうかと、内心恐怖に駆られながらも、ただ怯え従うだけの奴隷にはならないという意思表明の表れか、双眸が強い光を宿し。 )
……別に、お前を拘束する気なんて無い。俺にとっては逃げさえしなければ何でもいいんだ、森でも何処でも好きに出掛ければいい。
(奴隷として売られていただけあって、主人の命令には黙って従うものかと思っていたがどうやらそうはいかないらしい。新たに提示された条件に動揺したのか少し瞳孔が開き、相手の瞳に籠った強い意思を感じ取ってはその力強さに言葉が詰まり。元々このエルフを買ったのは血を得るためであり、正直逃げられさえしなければ大抵のことは許容するつもりであった。それに、エルフの生態として日光や自然を好むのは周知の事実、となるとこの要求も理にかなっている。一人ふむ、と納得するとその真っ直ぐな瞳を見つめ返して回答し)
…!ありがとうございます。
( 正直駄目元での提案で、拒否される未来を想像していたのが途端に拍子抜けする。暫くの間があったものの、此方を見詰め返す彼の口から放たれたのは容認の言葉たちで、ぽかんという擬音が似合いそうな間抜けな表情を披露して一転すぐさま笑顔が咲き。きっと年端もいかぬ人間の少女と変わらない満面の笑みであろう、幼子の如く煌めく瞳で見詰めたまま心からの感謝を。どうやらその要求が通った事でもう何もかもが満足いったのか、檻の中に居た時の陰鬱な雰囲気は最早跡形もなく。 )
(唯外出を許可しただけというのにここまで喜べるとは、随分と表情豊かなものだ。檻の中の虚ろな瞳とは対極なそのきらきらとした笑顔は自分には眩しすぎて。そんな表情を見せられたら、一体自分はどんな反応、どんな言葉を返せばいいのだろう。見慣れない輝き、その圧に思わず目線を外してしまう。自分の中の気まずい感情を振り払うように声を発し)
お前、名前はなんだ。
…リネーア。リネーアと言います。
( 吸血鬼という言葉だけでイメージしていた凶暴さ狡猾さは眼前の彼には感じられず、ただ無愛想なだけで心根は優しいのだろうと勝手に思案し。唐突に訊ねられた名にそういえば名乗ってなかったかと幾度か目を瞬かせ、淡い微笑と共にしっかりと告げる。然し自身の名を言ってからすぐに彼の名も聞くのが道理だろうと、顔色を窺うように少し華やいだ表情を引き締めておずおずと聞き返し。 )
ご主人様のお名前はなんと言うんですか…?
フォレスだ。フォレス・カルテット。好きに呼べ。
(りねーあ、リネーア。その発せられた名前を覚えようと脳内で反復させつつ、自分はぶっきらぼうに名乗り。さて、お互い自己紹介も済んだことだ。腹ももうそろそろ限界を迎えようとしていることだし、目の前の新鮮な血液にありついてもいいものだろうか。血液は差し出すとつい先程言われたばかり、きっと異論は無い筈だ。改めて血色の良い相手の透き通った肌を眺め。元奴隷とはいえ、檻の中と比べて体調や気分が回復した彼女には随分と食欲をそそられるではないか。もう果実を食べ終えたであろう彼女を一瞥した後、覚えたばかりのその名を口にして)
リネーア、俺も食事を摂る。首か腕どちらがいい、
フォレス……様。
( 荒く教えられた他種族の名前は何処か物珍しく響き、脳に染み込ませる為か自然と反芻する様に呟き、慌てて後から敬称を付け加える。今日から己の主人となるのは"フォレス・カルテット様"、と幾度も幾度も頭の中で繰り返して。呑気に復唱作業を行っていると早速自身の名が呼ばれ其方を見遣り、告げられたのは早くも食事の要求。エルフは不死の身ではあるが痛覚は存在し、魔法で痛覚を麻痺させる事も出来るが、あまり使用したくないのも事実。どのくらい痛みを伴うのか、そして首と腕の二択を迫られたがどうせどちらも多少の痛みはあるだろうからと相手に委ねることにして。 )
私はどちらでも構わないので、フォレス様のお好きな方を選んでください。
そうか、分かった
(返答を聞くと相手の肩を掴んで此方へと引き寄せ、口許を首筋へと近付けて。肩か腕か、どちらでも味に変化はないのだが、流れる量の多い首を選んで。吸血のために口を開けると白く鋭い牙が顔を覗かせる。鋭く尖ったそれは彼女の首へと突き刺さり、それと同時に己の口内にはさらさらとした血液が流れ入る。口いっぱいに広がる血液特有の匂いは食欲を更に刺激し、こくりこくりと喉を鳴らして飲み進め)
──ッ、……
( エルフの血液は当然希少性だけで言えば他種族を凌ぐものの、美味か否かは自身も分からない。近付いた距離と、肩にかかる彼の吐息、何より牙が刺さることの緊張と多少の恐怖から若干体を強ばらせ心臓が早鐘を打つのを感じ。数秒後やってきた皮膚を貫通する衝撃に一瞬肩がぴくりと揺れ、洩れそうになった声を何とか喉に押し留める。耐えられない程の強力な痛みではないものの、想像していたものより大分痛覚に訴え掛けてくる。血管の太さゆえ溢れ出る血液量は多く、ぽたりと首筋を伝ってくる赤を眼下に彼の牙が抜けるのを待ち。 )
(数秒彼女から血液を頂いた後、ぷは、と大きく空気を吸い込むと同時に口を放し。高値がつくだけあって、値段に見合う味わいだった。口の端から零れた血液を服の袖で拭うと、先程噛みついた跡へ視線を向ける。傷口は血が滲んでおり、まだ出血は止まりそうにない。散らばった机の上から白い布切れをつまみ上げると患部へと押し当て止血しようと試みて)
……大丈夫だったか、
( 急激に体温が低下していく様な、そんな感覚をひしと感じてから数秒。突き刺さっていた牙が抜けると同時に強ばっていた身体は一気に弛緩し意図せずふらついてしまい、踏鞴を踏みそうになった所を何とか踏み止め。労いの言葉と控えめな処置に、奴隷の扱いとは程遠い対応だと動揺が隠せず目線を右往左往としたものの、彼なりの気遣いがじわりと心の奥底に滲み自然と口元が弧を描く。首筋や鎖骨に付着した血液を己の手で乱雑に拭ってから、押し当てられた大きな掌をやんわりと退け、代わりに自身で布を宛てがいながらエルフの体質ゆえ数分もしない内に治癒するだろうと鈍い痛みを我慢し。 )
問題ありません。じきに傷は塞がりますので、どうかお気になさらず…
そうなのか、
(奴隷…いや、そもそもエルフというものを買ったこと自体無いため、どう接していいか、はたまたどう接するべきなのかさえ分からないままだ。傷はじきに治ると言われたものの、彼女の足に上手く力が入っていないようだったり貧血のような症状が見られたりとダメージはそこそこあったように思える。しかしまあ、彼女がそう言っているなら大丈夫なのだろう…その言葉を信じることにし。)
奥に幾つか空き部屋があるから好きに使うといい。何年も手を着けていないから汚れているとは思うが、寝具や家具なんかは置いてある筈だ
…!ありがとうございます。えっと…このお屋敷には従者の方などはいないのですか?
( 発言通り次第に傷口は塞がり、押さえていた布をそっと退けて。丁寧にも部屋の説明を受けては、個別に部屋を貰えるのかと内心感動の波が遅い、当然表情にも露骨に表れ一気に華やぎ。そこで不意に湧いてきたのは、これだけ巨大な屋敷の住人は果たして彼だけなのだろうかという単純な疑問。配偶者が同居しているかもしれないし、従者も存在するかもしれない。暫し逡巡した後、恐る恐ると問い掛けて。 )
従者?……そんなものは居ない。此処には俺一人しか住んでいないが…
(彼女の言う通り先程まで血さえ止まっていなかった傷口は綺麗に無くなっており、その治癒の早さに感服していると、開かれた彼女の口に反応して相手の顔を見て。この屋敷は何千年も前からずっと自分一人だけで暮らしてきた。元々人付き合いが得意ではないという理由の他に、森の奥深くに建てられているためそもそも人が来ないということもあり。最早一人が当たり前となっていたのだが、何故そんなことを聞くのか、その質問の意図が掴めず不思議そうな表情でそう回答し。)
そう、ですか……
( この広大な屋敷で、住んでいるのは彼一人。エルフは少数ではあるが群れて生活と行動を共にするのが主であり、何千年も彼は寂しくはないのだろうかと豪奢な邸内が急に寂寞とした空間に感じられる。己を購入した真意が益々不明瞭に靄がかかり、思考の渦に溺れてしまいそうになるのを寸前の所で抑えて控えめな返答をするだけに留めて。如何せん初めてやって来た人工物の室内、どうしたら良いか分からず落ち着かない様子で黙り込み。 )
……慣れないか、
(急に静かになった彼女に違和感を覚えたのか、口を開くとそう問い掛けて。常に周りからの視線を意識して過ごしている為か、他人の感情の変化には敏感であり。…しかしまあ、今まで豊かな自然に囲まれて生活してきたエルフが突然奴隷商に捕らわれ売り飛ばされ……ぐるぐる次々と変わっていく環境に身体が追い付いていないのも分からなくはない。出来れば早めに慣れて欲しいものだが、果たして何か良い方法は無いものか。暫く考え込むと再び口を開き)
リネーア、仕事を頼んでもいいか?
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