少年D 2021-02-22 00:09:26 |
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>音倉 詩音 (/>>29)
(濡鴉の様艶のある髪がふわりと揺れて、振り返った彼の薄色の瞳と視線が交わる。動揺の色を微かに滲ませて、其れを主張する様に此方の手を掴んでいる、己と比べると幾分細い掌にじんわりと力が入っていくのを感じた。あまりに静かな空間は2人の間だけ時間が止まってしまった様で、その静けさは耳を掠める風の音に乗せて自身の心臓の音が彼の耳迄届いてしまうのではと心配になる程だった。困らせてしまっただろうか、唇を薄く開きかけた時、暗闇の中で揺れた長い睫毛を合図に緩やかな動きで彼が口を開いた。紡がれる言葉達は彼の個性をなぞる様な優しい音色だ。此方を安心させる様に穏やかな音程で、子供に語りかける様な緩やかなテンポで、それは歌う様に滑らかに、溶けるように鼓膜を揺らす。ただその音色に耳を傾けて、何も言わず最後迄聞き届けては頷く様にして頭ごと視線を落とした。彼は何を言っても、真っ先に此方の心配をしてくれる、自分に寄り添って離れない優しさの塊だ。其れを此方も返したいけれど、今の儘で充分だと口にする彼に、それでも足りないのだと押してしまえば折角の気遣いを無駄にしてしまうようで気が引けた。思えば、これ以上は言うまい。今自分が出来る事は、彼の優しさを甘んじて受け入れて、自分の思い着く限りの優しさを今迄以上に彼に明け渡す事だけ。もう一度顔をあげれば、そこには花が咲く様な笑顔。吊られる様に持ち上げた口角、眉を下げ困り笑顔を浮かべては申し訳なさ気に口を開いた。)
…いや、おまえに何も出来てねぇように感じて、俺も変に勘ぐって悪い。…いつも楽しいと思ってんのは俺も同じだ。ありがとうな。
(そうした後で、開いた片手を伸ばして彼が伸ばしていた掌を包む様にして触れ控えめにも引き離した。次いでは離した手に自らの掌を重ねて握り、走り出した彼を真似て彼の前に移動しながら引いてみせる。子供の頃を思い出しながら、柔らかな笑みを浮かべ乍名前を呼ぶ。今度は優しく、彼によく似た優しい音色で。)
音倉、待たせちまった。今度こそ走ろう。
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