少年D 2021-02-22 00:09:26 |
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>音倉 詩楽( />>24)
…そうか。おまえがそう言うなら、それで良い。
(結局のところテンネンが何であるかの謎は解けず終いだが、周りが笑顔になる事を考えても、目の前の彼がそんな自分を嫌うこともなくましてや好きだと言ってくれる事を考えてもこの問題は深く追求せずともいい様に思えた。思えば、好き、という言葉は聞き慣れない響きだ。蕎麦が好き、ヒーローが好き、母が好き、自分が好きだと思う瞬間はあれど誰かからこの2文字を受け取る事は滅多にない事である。だからだろうか。心臓がじんわりと暖かくなる様な、擽ったい様な感覚が不思議で微かなる疑問をその場に残していった。そんな感覚を誤魔化す様に触れた掌に少しばかりの力を込めると其れに応えるように彼が言葉を紡いだ。子供の頃によくした2人の約束事。再び思考を巡らせては2つの影が仲良く並ぶ姿が浮かんできた。"あそこへいこう、ここで遊ぼう、あれをしよう、これに挑戦しよう。"何処に行くのにも2人1緒だった時期があった。今はもう随分昔の事に思えるが、形を変えても近くにいる彼を想えばまた同じ様に2つの影が並ぶ毎日も夢ではない気がする。ふと、彼の顔が徐に持ち上がった。見下ろしていた此方と視線交わると途端、電撃を食らったように動かなくなってしまった幼馴染の姿。触れた彼の掌がじわじわと熱を帯びていき、連動する様にその表情も赤く染まっていくように思えた。ただ、薄暗さに飲み込まれた現状では本当にそうであるかの確信は持てないのだが。一先ずに浮かぶ心配の言葉を投げ掛け様と口を開くと、それを遮る様にして彼が先に口を開いた。何処か泣き出しそうなその声に、心臓をぎゅっと握られるような感覚を覚える。何だ、この気持ちは。それを悟られまいとする様に寮に急ぐ彼の姿を、理由は解らずとも引き止めなければならないと、本能がそう告げていた。思えば、自身の手を取り引き出す彼を足に力を入れる事で引き止める。走っちゃおう!と、走り出した無邪気な彼を拒否して、その足がそれ以上前に行かぬようにと、言葉にならない気持ちを形にした時、なぜだか今はこの感情を伝えるべきだと、真っ直ぐに彼を見据えて口を開いた。)
……音倉。…俺はイマイチ、おまえが思ってることをちゃんと理解してやれてねぇかも知れねぇ。けど、おまえが俺を大切にしてくれてるみてぇに、俺もおまえを大切にしてぇと思ってる。
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