「囚人」 2020-11-19 02:16:14 |
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どちらも神経伝達物質だ。オレキシンは覚醒を、オキシトシンはストレスの緩和を誘発──うん?待てよ。私はさっきオレキシンを分泌すれば、って言ったか?逆だ、訂正させてくれ。いくら生物学は専門でないって言ったって、こんな初歩中の初歩を間違える辺りルキノ教授に叱られそうだな。まあ何にせよ、要は君の匂いに包まれながら幸せな気持ちで眠りにつけるかも知れないってことだ。えっ、私に君の匂いが移って何か不都合があるのか?割と真面目に。……あー、それを聞いて安心した。だってほら、さっき言ってただろ?襲ってると思われても困る、って。変な話、私と君は"そういう"関係を勘繰られるレベルの付き合い方をしてるってことだ。もし誤解なんてされてみろよ、君に想い人が居たら告白前に失恋って大惨事を招きかねない。そうなった時、私は責任を取ってやれないからな。…私にそういう相手がいるのかって?さあ、それは…どうだろうな。
───びっくりするくらい何を言っているのかさっぱり分からん。目覚める物質とか、安らぎ物質とか、それでいいだろ。魔トカゲも狂眼爺さんも機械技師も昆虫学者も弁護士も僕から見れば全員同じだ。頭が良い奴は絶対難しく表現しようとする、素人を差し置いてぺらぺらとな。それも僕が何もかも勉強不足だからだけどな!不都合、っていう訳じゃなくて、いつもあんたを抱き締めているみたいでむず痒いだけだ…。は、えあ、そうかそうだな。勘繰られるのを気にするなんて変な話だ、好きって難しいんだな…気持ちと行動が揃わない。あ、ふーん。いるのか。なら困るのはあんたの方だ。一方通行でもあんたが好きなんだから満足する、ぼっ僕に諦めろとは言わなかっただろ。うぐッ…胸が痛い。
勉強不足だって思えるアンドルーは賢いさ。無知の知、自分が知らないってことを自覚してるんだからな。その分だけ君は可能性に溢れてる。…ああ、成る程?言われてみればそうだな。私にしてみれば、君が常に傍に居るようでかえって落ち着くかも知れないが…。私にだって隠しておきたいことの一つや二つくらい存在するさ、はぐらかされてくれよ。それにな、いいか?アンドルー。知らない方が幸せなこともある。…おいおい、どうして君が苦しむんだ。君の好意を鬱陶しく思ったりするわけないだろ、それとも私に想い人が居たら不満なのか?
それ毎回言うよな、もっと昔に聞いていれば今頃多少は賢くなっていたかもしれん。なんて後悔するより勉強した方が有意義だとあんたなら指摘してくれそうな気がする。……勘違いさせているのはあんただ、自覚が無いなら今自覚しろよ。そうか、ルカは僕が傷付くのをなるべく減らそうとしている、と。でもな、何を言われようが勝手に傷付くからそんな無駄な親切はやめてくれ。想い人を具体的に教えてくれる必要はない。聞いたら僕が其奴に攻撃してしまうかもしれない。そんなのは醜い嫉妬なんだろう…そりゃ凄まじく不満に決まってる。主よ大罪を犯す私をお赦し下さい、悪意を向けようとしている私に罰をお与え下さい。ルカとその人に絶え間ない祝福をお与え下さい。アーメン。
何度でも同じことを言うぞ、私は忘れっぽいからな。でもな、後悔するより…私の言いたいことが分かってきたじゃないか。──いや、違うんだ。そういうことじゃない。こんなことになるなら言うんじゃなかった、私は本物の馬鹿だな。だが君に「そんな相手は居ない」って嘘を吐くのは論外だとか考えて、中途半端な対応しか出来なかった以上どうしようもなかったのか。どういうことかって?だって、私が君を……性的な目で見てるって、聞きたくなかっただろ、そんなの。私だって言いたくなかったよ。ああ本当に、言いたくなかったさ。
定期的に会話していたら段々と分かってくるんだ、会話しなくても分かる部分が増えた。して欲しい事、して欲しくない事…"イシンデンシン"だったか?あ…ああうん、待てよつまり僕も質問の意味を間違えて捉えていたんだな。さっきのあんたの質問だが、性的な意味で気になる女性がいるかと訊かれているものだと思ってた。それでいないと答えた。あんたは女性じゃない上に子……まあそういう造りには当然なっていないから除外してしまった。すまんルカ!謝らなきゃならないのは僕だ!いや謝る、誠心誠意謝る!頼むから尻窄みにはならないでくれ、正直に打ち明けるとルカにセイテキミリョクを感じてる。キ、口づ、接吻、してみたいとか色々煩悩でいっぱいいっぱいだ。許してくれ、嫉妬した挙句そんな風にさせてしまった僕をなんとか許してくれ…!
…………。いや、変な聞き方をした私も悪かったよ。結果として見事に墓穴を掘った。叶うならこのまま埋葬して欲しい。怒っているかと聞かれたら間違いなく怒ってるが、それは理不尽な怒りだって自覚してる。そもそも君は悪くないからな、許すも何もないさ。私が勝手に性癖を告白して、勝手に後悔してるだけだ。頼むから私の神経回路をこれ以上混線させないでくれ、怒ればいいのか喜べばいいのか恥じればいいのか分からない。分かった…うん、そうだな、一先ず冷静になる時間をくれないか。
あんたに最低な事をした、死ぬべきは僕だ。ルカに迷惑をかけないように死んでくる。……気持ちは伝えたから後はあんたが落ち着いていられるような形に仕上げておいてくれ。言い訳はこれ以上したくない。じ、じゃあな。また何かあったら声をか…いや、何でもない。ごめん母さん、僕は化け物にしかなれないんだ、好きな相手の心を引き裂いておいて幸せになる資格なんかない。
……君は、本っ当に──ああ、私以上の馬鹿だな。頭を冷やして気持ちを整理する暇さえ与えちゃくれない。ふざけるなよ、君。冗談でも死んでくるなんて言うんじゃない。分かるか、私にその言葉を告げる意味が。知らないなら教えてやる。人殺しはな、死への責任に敏感なんだよ。もういい、謝るな、何も言うな、アンドルー・クレス。( 深々とした嘆息。衝動のまま淡々と捲し立て、ぐっとクラバットを引けば己が唇を以て彼の薄い唇を塞ぎ )
───!!ッは、おあ、ルカご……んっ。謝らない、止める。死ぬのも止める。な…何を言うべきか正直分からん…のだが。この上なくあんたを愛してる、神が、赦さなくても、誰に、唾を吐きかけられても、ルカだけを永遠に愛してる。目が、片目が、殆ど見えていないんだろう…?でもあんたは純粋な心で見てくれるよな。僕も星も虹も月も見えない、ただあんたという光はよく見える。日光が恋しかった、絶え間なく照らしてくれる愛の形が。見つけたよ。あんたは沈まない太陽、LUCA BALCERだったんだ。( 震える手で何度となく彼の頬を愛おしげに撫で )
ッ、は……何も言うなって言っただろ、馬鹿野郎。君とのファーストキスをこんな最低な形ではしたくなかった。昨日の今日で" I'm NOT ok, you're NOT ok "なんて言いたくないが、この流れで気障な台詞を吐く君も、それに絆される自分も嫌だ。…でも、それ以上に愛してるよ。片目が使い物にならなくたって分かる、君こそ瞳に夕陽を閉じ込めてるじゃないか。そりゃ二つも太陽を飼ってたら日差しを眩しく思うわけだよな。光だってなんだって構わないが、月を知らないなら見せてやろうじゃないか。私の目を見ろ、アンドルー。月と同じ色をしてるから。( じわりと熱を持った目頭には素知らぬ振りを通して彼の双眸を見据え )
意外と口が悪いな。じゃないか、発明家の殻を脱いだルカが出てきてくれただけだよな。否定されても痛くも痒くもないぞ。あんたには"BUT"も付け加えてやって欲しい。元はといえば見当違いな方へ突っ走っていた僕が悪かったんだ。怯えずに告白しておけばあんたに気を遣わせる必要なんか無かったのに。物好きは僕かあんたか、そんなものはもうどっちだってよくなった。これが月……?ああ、模様がある。静かに輝いて迷った男を導いてくれる光。本当に綺麗だ。ならこの瞼は夜空、僕はこっちの目も大好きなんだ。伏せられた聖母の眼差しに思える。( 青タンに柔く口付け落とし )
口が悪いって、さっきまで怒ってた相手にそれを言うか?今はもう全部どうでも良くなったけどな。君と気持ちが通じてることが分かったから怖い物無しだ、我ながら現金な男だよ。…あー…月だのなんだのってヒントを与えた私も大概だが、君も結構ロマンチストだよな。歯の浮くような台詞をすらすら言ってのける辺り、詩人の才能があるんじゃないか?駄目だ、顔が熱い。もしかして照れてるのか、私。こんな気障ったらしい言葉で。──ん、……はは、誰が。私からすれば君の方が億倍も聖母らしく見える。事実、私を頭痛から救ってくれただろ?( 顔中に集まる熱を誤魔化すように頬を掻き )
あんたは僕の全てを肯定してくれただろ。どんなつまらない話でも鼻で笑ったりしない。勿論その、僕は口より脳内の会話がずっと多かったから極端に感じられても仕方ないと思う。今だから暴露するぞ……ルカへの恋心を自覚し始めた頃、紙に書く事で紛らわせようとした事があるんだ。でも思い浮かぶのが苦しいだの切ないだの、まるで陳腐な言葉しか出て来なかった。そこでグランツに誰宛とは言わずに恋文について教えてくれと頼んだら、それはもう天変地異でも起きそうな甘ったるい文章の手本を見せてくれてさ。それを毎晩ひっそりと書き写して密かに読み上げてた。もしあんたに直接伝えられるチャンスを与えられたら…きっと恥ずかしがらずに言おうと…それが今日ついに訪れてくれた。照れさせた僕の、だ、大勝利だな。あんなのは救った内には入らない、僕を動かしたのはルカだと思う。( 十字架を握り締めることで神に深い感謝を捧げ )
…道理であんな言葉が淀みなく出てくる訳だ、納得した。というか彼、そんな文章まで綴れたんだな。全くグランツ君には恐れ入る。しかし紙に書いておくとは…君も考えたな、私もそうしておけば良かった。まあ、今更後悔しても遅いんだが。君がそうして話してくれたんだ、私も一つ打ち明けよう。恥ずかしい話、何が切っ掛けで君に恋をしたのかまるで覚えちゃいないんだ。ただ君への恋心は変わらず私の中にあって、その事実を抱えて今日まで君と接してきた。だから君が私に外套を掛けてくれたって聞いたとき、「その時の私」を心底羨ましく思ったりしてさ。当事者が救われたと思ってるんだ、そういうことにしてくれよ。……ああ、そうだ!今回はきちんと許可を取ろう。なあ、アンドルー。今晩は君の隣で寝たい。やっぱり、君の傍に居ると眠れる気がするんだ。いいだろう?
ああ、きっかけなんて些細なものと思っておく。名前を手放さなかった本当の理由も分かった、二重線の意味も。凄いな、こうしてあんたと話してみたら全てが面白い程に繋がっていくんだ。多分どんな時代に生まれても…あんたがどんな姿をしていようと、仮に僕の髪の色が黒かったとしても。丁寧に辿った先には必ずルカがいたんじゃないかと思える。確信出来る。不思議だろ?生きるって…それはもう…悪くないのかもしれない。良いよ、来いよ腕枕でもしてやる。その前に髪を解けよ、結んだままじゃ寝辛いだろ?僕も手袋を外す。
だろうな。わざわざ君自身にメモの意味するところを訊ねた私が言うのもどうかと思うが、自分でも薄々勘付いてはいたんだ。もしかすると、君をファーストネームで呼ぶタイミングを見計らってたのかも知れない。私ならあり得る。…涜神者だって詰られ兼ねないような私でも、君にそう言われると運命を信じたくなる。確かに不思議だよな。私の存在理由は偉大な発明の完遂にあるのかも知れないが、生まれてきた意味を問われるなら、その一つとして君との出逢いを挙げたって罰は当たらないんじゃないかと思うんだ。…どうも、それじゃお言葉に甘えて。そりゃ断るわけないよな、愛しのルカ・バルサーが一緒に寝たいって言ってるんだから。自惚れさせてくれよ、今日くらいは…さ。ほら、来てくれアンドルー!( 無造作に束ねた髪を解けば寝台に身を投げ出して )
あの夜、あんたが発作の後に泣いて……それを見て本当は咽び泣きたくて、でも格好付けるあまりにちゃんとあんたの涙を受け止めてやれなかったよな。今夜は改めてこの手で全て掬い上げておきたい。そうルカに言って貰えるならもう嘆き悲しむ日々は去ったも同じだな。僕達は新しい旅路の始まりに立った、これから何度だって引っ張り上げてやるから大丈夫だ。時に七転八倒しても怖がらなくていい。消えないカンテラで先を照らしながら必ずあんたを連れて行く。おい、自分でそれを言うか?どうぞご自由にって返さなくてもどのみち布団を共有するんだろ。何歳なんだよあんた…はしゃぐな可愛いだろうが!枕元の灯りはどうする?暗闇が苦手なら残しておくぞ。
ああ、確かそんなこともあったよな。自分が何故泣いてるんだか私にもさっぱりだったが、今はあの日思い描いた希望の残滓みたいなものだったんじゃないかって考えてる。──アンドルーまで?いや、あの時は全く気が付かなかった。私の為に我慢してくれてたんだろう?優しい君のことだから。謝罪する代わりに礼を言っておく、ありがとう。もう恥じる所なんか一切ないんだ、過去だの記憶の空白だのにうっかり足を取られそうになったら君に頼る。だから君も握った手を離すなよ、迷った時は私が導いてやるからさ。…そうだなぁ。無いとは思うが…もし断られたら、だ。君の上着を引ったくって部屋から閉め出してたかもな、なんて。なんだよ、少しくらい浮かれたっていいじゃないか。ほんとは「アンドルーと私は両想いだった!」って大騒ぎしたいくらいなのに我慢してるんだぞ。うん…点けておいて貰えると有難い。別に暗闇が苦手なわけじゃないが、今晩は眠るまで君を見つめていたい。それこそ顔に穴が開くくらいに!
──今、泣きたかった理由を全部話したら長くなる。止しておこう。もう心が、魂が、全てが明らかになって羽みたいに軽くなったのが分かる。さっきまでの痛みとは全く違う意味で心臓がざわついているんだ。これが愛なんだろう…か。流石は"光を齎す者"だな、これからも頼りにしてるよ。本体より服の方が大事ってか!?そこまでして匂いが欲しいと言われたのはあんたが最初で最後だ!分かる、僕も惚気たくて堪らないのを踏ん張って制しているところさ。でも夜は静かにしないと不味い。ちょっ、そんなに見たって大した目の肥やしにならないぞ…?ならルカの顔もしっかり見せてくれ、キスした時は見えなかったから今度こそ攻略してやる。布団を掛けてこっち側に横になれよ。
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