「囚人」 2020-11-19 02:16:14 |
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実際に人を殺したかどうかは分からないし、例えそうだとしてもじゅうぶんに罰を受けたと思う。僕がそれを見届けた、証人は此処にいる。どうせ世界は腐敗しきっているんだ…正義も悪も結局は紙一重なんだろう。好きな相手に甘くしちゃ何か不味いのか?あんたの為にならゴミ程度のプライドも捨てられる気しかしない。僕が知る好きはそういうやつだ。都合良く使われて次の日には忘れられたって別に構わない。何日も口をきかれなくても憎んだりしない。ルカへの気持ちに恐れるところが全く無くて我ながら不思議なくらいなんだ。
最高傑作を完成させたらもう怖いものなしだな。どんな物かさっぱり想像がつかんが、想像がつかないからこそ楽しみだ。頭じゃなくて身体で覚えてる。とはいえこの懐かしさ、それと一番好きな味わいを言葉で説明するのは無理だろ。ああ…また恋しくなってきた。任せろ、宇宙一の料理は何かを証明してやるからな。
君が証人?じゃ、それで十分だ。曖昧な罪を誰にも許して貰えなくたって、たった一人の理解者が居てくれたらそれでいい。潔いなあ、君は。覆せない事実について苦悩する自分が馬鹿らしく思えてくる。でもさ…惚れた欲目っていうのか?ああ、いや、そういうんじゃないよな!ごめん。ともあれ、君は私を美化し過ぎる嫌いがある。私はその献身に報いるだけの行いが出来ているのかな。既にそれだけ尽くして貰っておいて、さらにこれ以上を求めたら…どうなる?罰が当たりそうだなんて抽象的な言い方はしない。率直に言って…君自身は嫌だと思わないのか?私が一番恐れているのは、求め過ぎて君に拒絶されることなんだ。
頭じゃなく身体で、か。心当たりが無いでもないな。テーブルマナーだとかワルツの踊り方だとか、正しい作法だとか手順だとかは全部頭から抜けてるくせ、ふとした時に身体が勝手に動くんだよ。確かにそうだ、この原理を口頭で説明しろって言ったって難しい。宇宙一と来たか!それはまた大きく出たな…楽しみにしてるよ、思い出のお裾分けを。
…あ、そうか。今ので分かった。あんたに惚れていたんだな。驚いたぞ、人間の感情がちゃんとあるじゃないか!流石は天才だ、何でも解明出来る。報いて欲しいなら金を請求していたぞ。これ以上を求める気が起きるならそれで良いじゃないか、あんたは周りを見なさ過ぎていたんだから。他人に口出しされるのを嫌うあんたに頼られたらそれこそ役得だろうさ。好きの反対は嫌いじゃなくて無関心だろ、今の僕にはあんたに繋がる全てが綺麗に見える。この想いを受け入れるのはルカの想いを受け入れるのと同じなんだと知れて良かった。ん、"I'm ok , you are ok".
だろ?理屈でどうのこうのとしなくても出来る事がある。親しんだ味も舌が覚えているんだ。食べなくても風味を思い出せる。母さんの愛があんたにも喜ばれると信じて、クレス家流のおもてなしをしよう。いざという時のために…ほら、"ルカ、飯、母"このメモを渡しておくぞ。
──へ?…そうなのか?いや、そうもあっさり認められるとは思わなくて…驚いたな。そして君、私をなんだと思ってるんだ?ルカ・バルサーだって人の子だ、喜怒哀楽も三大欲求もしっかり備えてる。発明に傾ける情念と意欲が大きすぎて、そのほかが疎かになっていると言われたらそれまでだが。本当に全部受け入れてくれるんだな、君は。そうして君が私を肯定してくれたんだ、私も私自身の想いを肯定しよう。私と君との関係に" NOT "は要らない、だろ?だから…君が好きだ、アンドルー!思いきりハグして頭を撫で回してやりたいくらいに、さ。大好きだよ。
ああ!ありがとう、このメモは食事会への招待状として有難く頂戴して…ん?でも待てよ。もし私が不義理にもこの約束を忘れてしまったとして、この三つの単語を見て何を連想するだろう。筆跡と呼称を見れば君から渡されたものだと推測するのは容易だから、まあすぐにでも解決するとは思うが。
それ以外に何があるのか逆に知りたい。新しい病気かと不安だったんだ、何かをしようとする度にあんたを思い出して混乱してた。…はは、そうか、そうだよな。ンッフ、すまんどうしてだか猛烈に笑いたくなった。間違いなくあんたは僕の光だと確認出来て嬉しい。ああ、答えは"YES"さ。僕もあんたが好きだぞルカ、こればかりは主にも止められない。ハグでも何でも好きにしろよ。愛しのルカ・バルサー。
くッ──言われてみれば確かに。やり直す!スペルは、向きはこうだったか?グランツに教わったのに一人じゃスラスラと書けん。"ルカ、食う、飯。作る、アンドルー。母、愛"これならどうだ。分からなかったら僕に訊け、手っ取り早いぞ。
いや、笑うなって。こうして話してる以上、私が笑ったり怒ったりするのは知ってるだろう。食欲も睡眠欲も性欲も、一応はあるんだ…一応は。いとッ、…ん、ンン…愛しの、ねえ。なぁ、ちょっと確認したいんだが、私と君って友人なんだよな?自分で言うのもどうかと思うが、これまでにも友人と呼べる相手は確かに存在した筈だ。でも、こんなやり取りをした覚えはない。いやそもそも友人ってなんだ。
流石はグランツ君、こと文筆に関しては優れた教師になっていると見たぞ。オーケー、大丈夫だ。安心しろ、字には問題無い。だけどな…"ルカ、食う、飯"ってさ…これ、ふ、ッはは、いつも君が私に言ってることとほとんど同じじゃないか!「飯を食え」ってさ、ああ可笑しい…ひひ、なんにも面白いことは無いのに!悪い。よし、あとは私がしっかり思い出すだけだな!
知ってる。普段本心を読ませない割には偶に感情が爆破してる。初対面と今じゃ随分違うよな、住む世界が違う奴だと思いきや僕みたいな貧民にも分け隔てなく接してくれるし。ああ、僕も一応あるぞ。それと金銭欲も。…?何か変な事を言っていたか?友人だろ、他に知ってるのは家族、買い手、仲間、クソッタレ、そんな辺りだが。友人は会話したり協力したり、コーヒーを一緒に飲んだりする相手じゃないか。惚れていたら友人じゃなくなるのなら違うんだろう、分からん…あ。もう一つ知ってる!夫婦だ。
文句を垂れるから直してやったのに笑うなクソ!良かったな、リマインドになるだろ。一番目立つ場所に貼って定期的に目を通せよ。上流階級は飯を食えとは言わないんだろうか…飯をお食べしろ。よし分かった、必ずお思い出せろよこのメモで。お飯を用意してお待ってるからな。
君のそれは金銭欲っていうか、なんだ。そんな即物的なものじゃない気がしてるんだが、私の気の所為か?もっとこう、なんて言うんだろうな。信仰に由来する自己救済のツールとしての金銭、か?君の願うものはあくまで一般的に認められる幸福追求の範囲内であって、強欲の領域には立ち入っていないっていうかさ…説明が難しい。──いや、別に変だとは言わない。まあ君の定義で言えば友人でも間違いじゃな…ゲホッ、ん゛っ、うん、アンドルー?澄んだ瞳で思い出したように言わないでくれ、噎せた。余計に遠ざかった気がするんだが。友人ではないにしたって夫婦ではないだろ、将来を誓い合った仲でもなし。…えっ、ないよな?
分かった!お、お食べすれば…っ、ひひ、…いいんだろ?だからもう勘弁してくれ…ここで「お郷が知れましてよクレスさん」とか言うのは野暮だよな。す、素敵なお誘いありがとう存じますわ、わたくしも楽しみに…ッ、ははは!限界だ、笑うなって言われたってそりゃ無理がある!いや、君って本当に面白いなあアンドルー!
まともな稼ぎ方ならまだしも、裏稼業で神殿に行こうとするのは許容範囲に入るのか怪しいだろ。やましい気持ちがある限り僕も低俗な人間だと思う。純粋な信仰者から見れば異端かもな。友人と夫婦の中間を知らないんだから仕方ないじゃないか…さっきの恋人ってのがそれならそうだ。将来なら誓ったぞ、大発明が完成したら祝賀会に招いてくれるって。で、将来を誓ったら夫婦なんだな?やっぱり夫婦で間違いないんじゃないか、僕は色々と神にも誓いを立てるぞ。ルカを未来永劫大事にすると。
僕の故郷なら前に話したのに何言ってるんだ。その"ましてよ"だの"存じます"だの、いちいち難しい言い回しをくっ付けて疲れないのか?金持ちは馬鹿だな。人が折角丁寧になろうとしたのをよくもそんなに笑えるなクソッ、あんたの頭の良さに少しでも合わせようとしたのにこのザマはなんだクソ、クソ!言葉使いなんかクソくらえ!
入るんじゃないか?それは君が悪いんじゃない、君にそういった選択肢しか与えなかった社会が悪い。どんなに清廉潔白だって、心の内にやましさの欠片も抱えてない人間なんかいないだろ。それが聖人君子でもない限り。…いや待て、その結論はおかしいぞ。ちょっと冷静に話し合おう、色々すっ飛ばし過ぎだ!言われてみれば確かに将来は誓ったな。でもほら、なんだ…いいか、あくまで一般論の話をするぞ?恋人だとか夫婦だとかは…ええと、凡そ肉体関係を持つ。それを踏まえて君自身の言動をちょっと振り返ってみてくれ。何度も言うようだが一般論だからな!それが絶対って訳じゃない。
はは…拗ねないでくれ、馬鹿みたいに笑って悪かったよ。あんなに面白いこともそう無いと思うけどな。散々笑っておいてなんだが、言葉遣いなんて然したる問題でもないさ。上品だとか下品だとかそういうことじゃない、大事なのは何を話すかって部分だ。私にとってはな。でも、私に合わせて気取った話し方をしようとする君は正直いじらしいと思った。健気だよな、そういうところが。
寝たか?寝たよな。それじゃ私もどうにかこうにか眠ってみよう、君の隣で。朝起きて文句を垂れたって聞かないぞ、先に寝た君が悪い。何はともあれ、君の傍に居ると早く寝つけるって仮説を検証しなくちゃならないからな。目覚めた君の顔が楽しみだ…おやすみ、アンドルー。良い夢を。
…もう腹がいっぱいで食えな……ヒヘッブシュ!さささ寒い、目の前のご馳走が消えた!?ん、また寝てしまったのか。惜しい…え。ルアアックアッ、グム!起こしたら気の毒だろ静かにしろ僕。───昨日の話をもう忘れていないよな、その、あんたが好きだって事を。あんたといられるなら名前なんか何だっていい。寝顔はやっぱり幼く見えるぞ、かわ、いい、な。堪らなく好きだよクソッ。
──うん…ああ、おはよう?今は朝だな?いつの間にか眠っていて…はは、つまり実証成功と。それよか寒そうだな、きみ。おいで、アンドルー。身を寄せ合えば多少はましになるだろ。あ…一緒に眠っておいて、今更むさ苦しいだとか言うのはなしだぞ。わたしも寒さに強い方ではないから、あまり暖は取れないかもしれないが。
実証って何の話だ?まじないでもしていたのか?あっ、いいのか…!?ルカに触っていいのか、いいんだよな?いい、行くぞ。むさ苦しいなんて今更思わない。今日もあんたが愛しい。……んだ、大丈夫なんだろうな、あんたの方は。寒くない筈がない、おっ。硬いな、身体はやっぱり男だった。
ようやく目が覚めてきた。ん?いや、ただ私にとって都合の良い事実が把握できたってだけさ。どうやら君の傍に居ると私は比較的容易に眠りに就くことができるらしい。ダイアー女史は私に薬を渡すことを渋るし、天然の処方箋が見つかって万々歳だ… どうぞ?反応が一々初心で可愛いなぁ、君。同性なんだから気にすることないだろ。というか身体"は"ってなんだ、何処からどう見たって男だろ?引っ掛かる言い方をするなよ。
へえ…面白い現象だな。それなら毎日、違うどうしてもって時は添い寝してやる。そうだ、調香師に頼んでアロマとやらを調合して貰うか?薬じゃないなら試す価値はあると思うぞ。男が人に引っ付いていたら馬鹿にされる…!それにあんたを襲ってると思われても困る。大事にすると誓ったのに破るなんてあっちゃいけないだろ!顔がかわあいいいからだ、あんたには悪いが…細くて脆そうなところも守ってやらなきゃいけない気にさせる。お、怒ったか?
アロマか、考えてもみなかったな。確かに試す価値は…いや、匂い?それがヒントになるかも知れない。例えば添い寝を頼む代わりに、君の上着を貸してもらうのも一つの手ではあるな。食堂ではそうしてくれたんだろ、その時みたいに。なんだか微妙に変態みたいなことを言ってる気がしないでもないが、本人の許可を得ようとしているだけ良心的だと思って欲しい。…お、襲っ、ははは!いや、別に怒っちゃいないさ。私が襲われてると思われそうだとか可愛いだとか、あとは脆そうだから守ってやらなきゃいけないだとか、その感性を少し疑っただけだ。君、私を箱入り娘か何かだと勘違いしてないか?
あの時は他に無かったからで、しっ仕様がないケースだったんだ。僕の体臭やら土埃やらで相当臭いと思うが…?ルカが僕の匂いで安眠するって、うわあッどああ!て…て…照れるだろ!クソ!幾らでも貸してやる!馬鹿かあんた、婿入り前なんだから自分を大事にしろよ。箱入り娘じゃない、でも可愛いのは取り消せない。頼もしいルカの中に僕だけの可愛いがあったって別にいいだろ…?好きになったんだから自分でも手を打てない、一生このままなんだどうせ僕は変人だよ今度は荘園中からブーイングを受けるんだでもどうすればいい?方法があるなら今教えてくれよ。
なんだよ、別に照れることじゃないだろう。アンドルーが傍に居ることで私が安眠できるという事実に基づいて考察するなら、その上着を抱くなりなんなりすることで自然な眠気を誘えるのでは、という推論に行き着くのは必然だよ。疑似的に君の存在を感じた私の脳がオレキシンとオキシトシンを分泌すれば成功だ。…どうすればいいったってなあ…念の為聞いておくが、気になる相手はいないのか?性的な意味で。ほら、気になる女性とか。今更恥ずかしがることはない、健全な成人男子なら寧ろ全く関心がない方がどうかと思う。
オレ?オト?そっそんなの他に幾らでも方法があるだろう、よりによって僕の汚い服になんか、だああッもう無理だ!ルカが、ルカが、僕の匂いになってしまう…!心臓が壊れかけてるぞもう死ぬ、今日が命日になる!せいて…きな意味で、だと?女性で一番好きなのは母さんだ、いやいや性的とは全く違うか。要するに子供を作りたい相手だろ?…はあ、いない。気持ちが無いのに手を出すのも野蛮な行為だ。でも何故訊いたんだ?あんたにはそういう相手がいるのか?
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