(　My Dear ...　) 〆

そんなことを言ったって何も…いや、満面の笑みしか出ないぞ。嬉しいものは嬉しい。でも少し心配だな、君ときたらそのうち私を有難がって拝み始めそうなくらいの勢いじゃないか。

間違ってもそんな日は来ないから心配するなよ、何故って君以外にこんなことは言わない。それとも何か、君は私が荘園じゅうの奴らを口説いて回ってるとでも？大の男がそうやって照れてるのが面白、ン゛ン、可愛いんじゃないか。…私の顔が可愛いって？クレス先輩がそう言うならそうなんだろ、そいつは君限定の真理だ。

満面の笑みが見たい。普段のあんたも悩む時の表情も全部あんたらしくて好きだ、でも時々は心から笑って欲しい。心配するな、もう拝んでる。正確に言うと神を通じて拝んでるんだ。ルカに会わせてくれた事に深く感謝して。

それはそれで将来が不安なような…喜びたいが喜び過ぎてあんたに近付く人をいつの間にか追っ払ってしまいそうだぞ。口説いているつもりがないからタチが悪いんだろ、寿命を縮めてくれるな。今面白いって言った！…クソッ、クソ、今の発言を取り消させてみせる！おい、冷めた反応だな。その下睫毛なんて特に可愛い。髪の毛が一部跳ねているのも可愛い。僕より小さいのも、なんてな。

君、本当に私の顔が好きだよな…無理に笑ってる訳じゃない、少なくとも君と一緒に過ごしている時は。私も君との出会いには感謝してるんだ、だからそれは否定し切れない。とはいえ私は君のように敬虔な信仰者ではないし、感謝するあてと言ったら君自身よりほかに存在しないんだが。という訳で、荘園に来てくれてありがとう！まあ此処へは私の方が後から来たんだが、それはさておいて…酒があれば「私たちの出会いに乾杯！」とでも言っていたんだけどなあ。

それは困る…が。極端な話をすると、最終的に君が私の傍に居てくれたらそれでいいとは思う。──えーと…あー、なんて言ったらいいんだ？着目点がいちいち独特だよな…そのユニークな感性は評価する。可愛いっていうのはちょっと、いや全く分からないけどさ。それと私は小柄な訳じゃないぞ、アンドルーが体格に恵まれているだけだ。

ん？別に顔だけに限った話じゃないが？それ…本心だろうな。疑っているような言い方をしてすまん、勝手に浮かれている自分をどうしたらいいか分からないだけだ。今の話を日記に書いておくか、そうすれば何回も読み返して浸れる。此方こそありがとう、ルカ。酒なら探してきてやるがどうする？何処かにヴィンテージワインがあるかもしれない。

きょ、極端な話をどう解釈すればいいか分からないが、一番近くに居られるならそうしていたい。あんたが望む僕でいられるようにする。これが可愛いと言われた側の気持ちなんだよ、分かっただろ？知っているさ、身体は勿論心が桁外れにデカいルカはいつでも僕の憧れの存在なんだ。話をしているだけで世界がもっと広がっていく。こんな出会いは今まで無かった。

私も相当だって自覚はあるが、君も結構しれっと恥ずかしいことを言うよな…。君に好かれてるって自惚れて、もっと浮かれそうな話をしてやろうか？今晩だけは研究にも小休止を挟むことにしたんだ。今は君との時間に集中していたい。酒があるなら万々歳だな、たった一杯だって構わないさ。

どうも何も、君以外にはほかに要らないって意味だよ。熱烈だろう？いやいや、特に何かを意識する必要は無い。そのままの君が私の望むアンドルーだ。……いや、一本取られた！理解したよ、認めたくはないけどな。それにしても随分と嬉しいことを言ってくれるじゃないか。私だって、今まで君ほど自分を買ってくれる人物には出会ったことがないぞ。大袈裟なんかじゃない。

なあ、ひとついいか。数日寝ていないと、自分が何を言っているのかよく分からなくなってくるんだ。研究や実験の間はなんとか集中できるんだが、そうした作業以外に関しちゃてんで駄目でね。言ってもいいことと言うべきでないこととの区別がつかないから、今日の私がべらべらと捲し立てていたのは紛れもなく本心だ…ああ、明日の私は余計なことを言ったって後悔するかもな。それを踏まえて聞いてくれよ、眠いんだ。君と話していたら眠くなった。退屈だとかそういうことじゃない。深夜帯、自然に眠くなることはほとんどないからさ…そうだな、もしかすると安心したのかも。ふ、ふふ、いつも一人で起きているのは平気なくせ…君と話したらとこれだ！全く笑えるよ。

おやすみ、アンドルー。良い夢を。今日は私もよく眠れそうだ。

おはよう、折角の夜更かしが早々に終わって残念だ…一晩くらい眠気を封印出来たらいいのに。あちらに返しながら今日も可能な限りあんたに語り続けようと思う。昨晩は付き合ってくれてありがとう、楽しかった。

眠くなったのか！良かった、是非しっかりと休めよ。僕のことは構わず寝ておけ。頭の中を整理するためにも。それと…あんたの本心が嬉しくて変に勘違いしそうだ。僕も勿論本心しか言っていない、可愛いの件は想像に任せるが。ルカ、昔も今も僕を必要としてくれてありがとう。もうじゅうぶんに幸せだよ、楽園は実は地上にあるのかもな。

ン…おはよう、アンドルー。こちらこそありがとう、昨晩はとても楽しかった。規則正しい生活をしている友人を付き合わせて、なんだか悪いことをしているような気になるけどな。聖職者に禁止事項を破るよう勧めてるみたいな、そんな気分だ。

二度寝したらもうこんな時間だ、これでまた暫くは保つかな。起き抜けの…働かない頭で語り掛けることを許して欲しい。忘れないうちに話しておかないと、と思って。君の夢を見た、君とケーキを食べる夢だ。はは、ファンシーだよな。文字通り実に甘い夢だった。礼を言われることじゃないさ…昔も今もこの先も、私は君を必要とし続けるよ。だから、これからも宜しくな。

大人が自分の意思でしているのなら、それは完全に自己責任だろ。何かを削ってでも実現したい時があるのは、あんたならよく分かる筈だ。速度を問わない環境を与えてくれて助かる。心に木漏れ日が降り注ぐような温もりを感じるぞ、寒くも渇きも飢えもなくて安心出来る。

ケーキの夢か。前に悪夢に魘されていた時とは随分違って楽しそうじゃないか。良かった、そんなイマジネーションも出来るようになったと聞いて安心した。よし、ケーキに挑戦してみるとするか！ああ、何処までもあんたに付き合わせて貰うさ。僕にもあんたが必要だ。牢屋の中よりは幸せな暮らしをさせてやる。

それじゃ自己責任ってことを踏まえて、限りある時間を私に費やしてくれていることに感謝しておこう。いいね、詩的な表現だ。私が寄り添っているうちは凍えさせやしないさ、ってのは流石に言い過ぎだよな？ほら、絵面的な意味で。君か私、どちらか一方が可憐なお嬢さんだったならまた別だったかも知れないが。

食べ物の夢なんか見たのはいつ振りだ？荘園に来て以来初めてな気がする。甘い菓子類が特別好きだって訳でも無いのにさ。言ったな？君が音を上げるまでとことん振り回してあげようじゃないか、覚悟しておけよ。…君、自信満々に控えめなことを言うよなぁ。比較対象が牢屋ってどうなんだ？彼処に比べたらマップ上にある地下室の方がまだマシに思えるくらいだ。もっと胸を張れって。事故以前のことはほとんど覚えちゃいないが、入獄以降、今が一番幸せだと思うよ。

そっちこそ。かなり甘えさせて貰った、こっこういうのは偶にならしてもいい…んだよな？僕にも変化球を使えるんだ、凄いだろ……ヒッはは。あんたが可憐なお嬢さんじゃなくてもお嬢さんでも親しくなりたくなると思うぞ。それともあんたは女相手じゃなきゃ嫌なのか？僕の思考が可笑しいなら言ってくれ、気持ち悪いならは、離れる、から。

実は糖分を求めていたかもしれないよな、毎日頭を使うならあり得る。好きなだけやってみろよ、喜んでもみくちゃにされてやるから。あんたは牢屋の中しか知らないと言うし、僕は墓地しか知らない、だから明日が満ち足りた瞬間になるなら牢屋なんてクソほどにどうでもよくなると思ったんだ。馬鹿か…ウッ、泣かせるなこの…野朗。

自己責任なら如何様にも、だって君は自由なんだろう。いや…それはそれで嫌だよな、研究一辺倒の女囚なんてさ。女が発明なんて、とかなんとか言われていたかも知れない。実際レズニック嬢辺りはそれで苦労したんだろうな、きっと。だから私が女好きみたいな言い方は止せって、健全な成人男性が異性に興味を持つのは当たり前だろ？ただ、性別を問わずに親しくしたいっていう点には同意する。男だろうが女だろうがなんだろうが、君は君だ。だから物理的にも心理的にも距離を取ろうとするなよ、寂しくなるじゃないか。

そうかもしれない、という言い方しか出来ない自分の頭が腹立たしいよ。全ては過去の私のみぞ知る、だ。物好きだな、生活習慣の乱れきった仲間に振り回されて喜ぶなんて。──ああほら、泣くな泣くな！出会った頃は想像もしてなかったが、アンドルーってだいぶ感受性豊かだよな。研究のための環境もそこそこ整っていれば、温かいベッドも食事もあって、好きな時間に風呂に入れて、自分の身を案じる仲間も居てさ…何より情に厚い友人に恵まれて、幸せっていうほかないだろ。

そうとも限らないぞ。見た目だけで化け物扱いされる僕からすれば、女の苦労が分からない訳じゃない。機械技師の女だけじゃなくて全員そうだ、男でも大変な奴はいる。僕の神は腐った魂に救いを与えない。そういう…衝動は多分僕にもあるんだろう。まだ感じた事が無いだけで。自分で思っている以上にあんたを途轍もなく恋しく思うのは否定しないでいてくれるか…？本格的に嫌われるまでやめられそうにないんだ、ルカと一緒にいたくて頭がおかしくなりそうだ僕は病気なのか違うそうじゃない正常に決まってる。すまん、独り言は無視してくれ。

誰かが言っていたぞ。過去も未来も等しく現在に繋がっているって。現在を愛せたら過去も未来も愛せる、誰が何と言おうが。忘れる事を憎まないでやってくれないか。だっ…て、誰もそんな事を言わなくて、母さんはいなくなって、地上に味方なんか一人もいないと分かっていたのにルカが否定してみせたんだ。なななッ泣くのが止められん、鼻水が垂れた！ちり紙！

そりゃ確かにそうだな、一理ある…前時代的な偏見は極力持たないようにしているつもりだ。でも、君と話していると私も時代遅れな人間の一人だってことを思い知らされるよ。…君は確かに少しばかり捻くれてるかも知れないが、なんていうかさ、無垢だよな。自分で自分が恥ずかしくなるくらいに。いや…あのなぁ、否定なんかするわけないだろ。あんまり可愛いことを言って私を勘違いさせないでくれよ、アンドルー。

違いない。だけどな、全ての隣人を愛することが出来ないように、忘れることを憎まないのは難しい。この不具合だらけの脳を、私の分まで君が愛してやってくれ。…うん、それは否定しない。私は君の味方だからな。よしよし！私の部屋にまともなちり紙なんかあると思うか？悪いがこの書き損じで我慢してくれ。

ルカは時代遅れじゃない、その発言でもう分かる。変わろうとすれば変われるんだろ、誰でも。僕の偉大な先駆者が走った跡は何もかも見違えてみえるんだ。新しい風を皆に与えてくれる奴なんだよ、あんたって人はな。勘違いするって何をどうするんだ？こんなにストレートに伝えているのに！大体あんたはどうなんだ、言えよ正直に。はぐらかしてばかりは狡いぞ。

───そうか、無責任に言うのは止すべきだよな。不具合を起こしても好きだ、不具合を起こしながら忘れないようにと足掻くあんたも。あ、愛って、良いものだな？生きる理由になる。クソ、鼻を?もうとしても全然拭き取れない…！鼻水が伸びるだけで顔についた！駄目だ洗面台を借りる、貰った書き損じは自分で捨てるから衛生面は心配するな。

君は常に私の背中を見つめているつもりのようだが、時に君は私の先を行っている。君独自の価値観だとか、世界の捉え方だとか、私の持たない魅力的なものを持ってるだろう？その点は誇っていいと思うし、私も学ぶ所がある。冗談抜きで。……どうなんだって何がだ、なんて言うとまた叱られてしまいそうだ。ああ、認めよう！好きだよ、君が。恐らく君自身が思っているよりずっと、ずっとね。

ありがとう。今の私にはもうなんにも残っちゃいないと思っていたが、そこに価値を見出してくれた君には感謝してもし切れない。そうだな、愛は人生の根幹に近しく位置付けられるものだ。社会的動物である人間が、愛なしで生きていくのは難しい。……ふッ、はは、本当に面白いなあ君は！どうぞ、遠慮なく使ってくれ。

え？そんな時があったか？ん…まあ、魅力的なら。魅力的、魅力的、いい響きだ。効率よく墓の穴を掘る技術を今度見学させてやる。スコップを扱った事はあるか？重くて直ぐ疲れるコレを扱えるなんて僕くらいのものだよな。あ、え、あ、ああ。ルカが僕を好き。僕はルカが好き。やった…やったぞ！万歳だクソッタレ！

もともと何も無い僕と足して二で割れば丁度良くなるだろ。自慢させてくれるよな、僕の大事な奴を。見ろよこの神の最高傑作を！しゃ…そうか、要するに同意って事を言いたいわけか。鼻水垂らした大人なんて冗談じゃない、待ってろ直ぐ済ませる！──ただいま、全部落としてやったぞ。

見学？許されるなら是非。スコップを扱ったことは…無いと言いたいが、実はある。もうほとんど覚えてないけどさ。穴を掘って、埋めて、また掘って、そういう繰り返しをさせられたことがあってね。でもやっぱり、私に肉体労働は向いてない。…分かるだろ？君と話すためにこんな場所まで拵えて、一時にせよ研究の手を止めて、好きでないなら一体なんだ？正直、認めたくない気持ちがないわけじゃない…と言ったら君に失礼だよな、すまない。本当はな、怖いんだよ、溺れるのが。

天才だのなんだのって持て囃された時期もあったみたいだが、「神の最高傑作」とはまた…熱烈な称号だな！君の神の名に恥じない存在として振る舞えているなら幸いだ。アンドルーを見ていると本当に飽きないな、怒ったり泣いたり笑ったりしてさ。君がこうも情緒豊かに育ったのは、きっと母上の教育の賜物だろう。

そいつは何とも酷い仕打ちを受けたんだな…＂ギャクタイ＂だ。だってやっと掘っても台無しにされるんだろ？傷付くどころの話じゃない。良い事も残酷な事も人間は思い付くんだな。穴掘りは僕が引き受ける、あんたは粛々と発明に取り組め。そう言われると何かは分からん…あ、あ、あんたの研究を邪魔しておきながら浮かれて悪かった。怖いってどういう意味だ？巫山戯てはいないぞ、真面目に知りたい。

国王は神の御前で戴冠式を挙げるんだろ。勇敢な戦士も称号を貰う時はやっぱり神の御前だ。あんたに最高位の称号を授けろと神が言っている。母さんは素晴らしい人だったさ、勿論。生きていたら会わせていたのに惜しい…手作りの料理を振る舞ってくれただろうな。全く一緒は無理かもしれんが再現してご馳走してやろうか？

世間一般から見て、他人の命を奪った人間はこのくらいの扱いを受けて当然なんだろう。君の受けてきた仕打ちの方が虐待と呼ばれて然るべきじゃないか？…いやいや、いいんだ！別に怒っちゃいない、邪魔だって責めるつもりもない。どうも何もそのままの意味さ。君との関係に依存するのが怖いんだよ、私は結構貪欲だからな。君は私に甘すぎるんだ。このまま行けば君を縛りつけることになり兼ねないし、今以上を君に求めそうで──…ああ、やめだやめ！聞かなかったことにしてくれ。実際、君を好きになって後悔したことなんかないしな。

神様に言われたんじゃ仕方ない！謹んで拝領しよう、そして私は私の最高傑作を生み出す。君、覚えているのか？母上の手料理を…その味を。そいつは素敵だな、君の家族愛に触れた気がする。是非とも頼みたい。