魔王 2020-11-10 20:05:51 |
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っ!……ふざけてる場合か!明らかに時空がおかしい、アナザーライダーの攻撃かもしれないんだぞ!
(こちらに向けられる困惑の視線と言葉に一瞬で状況を理解すると嫌でも息が詰まった。昨日までと異なる世界線でこんな状況になってしまうことを想定していなかったわけではない。しかしいざ誰より大切で唯一無二の存在からその他大勢同然の扱いを受けると、嫌という程胸が痛くて大切な物が失われた焦燥感がかけていく。状況把握は出来ているはずなのにそれを受け入れたくなくて相手に半ば縋るように両肩に手を置く。理性的な思考よりも大切な人を、恋人を失いたくない気持ちが勝ってしまった。それらしい言葉を出せば正気に戻るだろうか、それともこちらがよっぽど焦れば冗談だよ、なんて言いながらいつもの様に笑ってくれるだろうか。大声を出したせいか周囲の生徒の視線が痛い。それでも目の前でこの手からすり抜けて行きそうな相手を引き止めたくて、軽く相手の体を揺さぶりつつ叫んでいて)
アナザーライダー? 正直なんの事かは分かんないけど困ってるなら話くらい聞くから、ね?
(訳が分からないという此方の反応に明らかにショックを受けているような表情だ。噂に聞いていた硬派な印象とは大分違っている。困惑していれば不意に肩に両手を置かれ、慣れない接触にぴくっと肩が跳ねる。グラグラと縋るように肩を揺らされるがやっぱり相手の口から出る『時空』とか『アナザーライダー』という単語に聞き覚えはなくて言葉の意味を理解せずに聞き返すことしか出来ない。いつもなら誰かの冗談か自分をからかっていると判断しただろう。だけど、それを訴える相手の顔と肩を掴む手があまりにも必死で、嘘を言っているようにも見えない。同時に相手が大きな声を出していることもあって周りからの視線も痛い。まずは冷静になってもらうことが大事だ。こちらも相手の両肩に手を置いて落ち着くように声を掛けて一旦距離を取る。こうやって声を掛けてきた辺り自分関連の出来事なのだろうか。何はともあれ困っている民がいるのならそれを助けるのが王様の使命だ。相手を見つめながら話を聞く意思は見せて提案し)
___、…すまん、取り乱した。……放課後お前に聞きたい事がある、俺のところに来い。
(両肩に相手の手が置かれる、それは昨晩あのベンチでこちらに触れてきた手とは違ってまるで冷たい。さらにその冷たい手さえも距離を置かれると同時に離れていくと手にしていたものが瞬く間に崩れていくような感覚がして内蔵が隅々まで引いていく感覚がした。世界にたった1人きりになるくらいならまだマシだ、昨日までこちらに向けられていた目とはまるで違うものがこちらに向いて緩やかな拒絶が感じ取れる。吐き出す息が震えた、この時代に来る前なら感情を表に出さないよう自分をコントロールしてみせたのに今相手を見つめる顔は衝撃と寂しさが混じった随分と情けないものになっているだろう。深く呼吸をする、ここで精神を崩しては元も子もない。おそらくこの時間が歪んだ原因がどこかにあるはずだ、それを探らなければこいつは元には戻らない。今は何を話したところで通じることはないだろう。目線を合わせようとしたがこちらを「民」としてみるその顔が耐えきれなくて顔を逸らす。とにかく自由に動ける時間、すなわち放課後になるまでは何も出来ないと踏むと相手に背を向け自分のクラスであろう隣のクラスへ足を向けて)
…うん、分かった。 じゃあまた放課後ね。
(両肩に手を置いて声を掛ければひとまずは叫ぶのを辞めて落ち着いてくれたらしい。だが、その表情は寂しそうな憔悴した様な物で、相手とは初めてまともに顔を合わせたはずなのに胸がぎゅっと強く締め付けられた。そんな顔をさせては行けないと誰かが警鐘を鳴らしてる様な気がする。だけど胸に訴えかけてくるそれが何かまでは分からなくてきっかけであろう相手を見つめるばかりだ。一瞬お互いの目線が交わる。此方を見ているはずなのに自分を通して違う何かを見ているようなそんな感覚。その主を更に探ろうとしたら顔を反らされた。その行為にまた胸の何処かが痛んだ。少し間が空いて放課後の話を切り出され、素直に頷いて了承をした。そのまま背を向けた相手を引き止めるにも何を言っていいのかわからず、何とか約束を復唱するだけで去っていくのを見送り)
__ ごめん、掃除が長引いちゃって
(それから胸に妙なもやもやを抱えたまま時間は過ぎていく。数学の小テストもあまり解けなかったし、あまり授業にも集中出来なかった。気づいた頃にはもう放課後で、掃除当番の仕事に向かう。それが終わった頃には殆どの生徒は部活にいくか帰宅するかで教室に残っている生徒は疎らだ。約束通り隣のクラスに向かうが今朝の相手の態度を思い出して一旦足が止まる。困っているなら助けたいし、自分が何か関わっているなら尚更何とかしたい。いつもの人助けよりも幾らか強く思うのが何故なのか疑問を抱えながら教室のドアを開ければ中に相手の姿が見える。そのまま中に入れば少し遅くなった理由述べながらも近づいていき)
本来なら小言を言うところだが構わん、俺も状況を整理する時間ができた。……俺は明光院ゲイツ。お前は常磐ソウゴ、それか…ジオウ
(当たり前のように進んでいく学校生活は違和感に溢れていた。制服を着て学校に居るという同じ状況でも文化祭の時とはまるで違う。日中は過ぎ去る時間に揉まれるままだったが、授業が終わり人が疎らになったクラスは考えをまとめるのにピッタリの場所だった。おそらくこうやって時間が歪んだ原因を見つけるか、もしくはこの時代の鍵であるソウゴが記憶を取り戻すかがこのおかしな時間軸を元に戻す方法だ。敵がジオウたるソウゴを狙ってくる可能性も考えれば一緒に行動する方が効率的、あの状態のソウゴとまともに向き合う息苦しさを無視すればの話だが。日が穏やかに差し込む教室でそうやって考えているとようやく目当ての人間が扉を開けて現れる。慣れぬ自分の席から立ち上がると相手へ近づいていくが、やはり心理的距離を感じて一定の距離を保って止まった。そして初めて出会った風に自らの名を名乗る、その時にも胸が傷んだが構っている暇はない。まずは試しと相手のもうひとつの名を呼んでみて反応を伺い)
明光院ゲイツ…。…、あのさ、俺達何処かで話した事とかある? 何か初めましてって感じがしないというか、知ってる気がするんだよね、この感じ
(約束通り待っていてくれたらしい。部屋に入った自分に近づいてきて、少し距離を置いて止まった。そしてまた感じる違和感。“本来なら”という言葉は過去にも似たようなことがあったことを匂わす言葉だ。肩を掴まれた時も迷うことなく自らの名を呼ばれたし、まるで自分のことを知ってるような態度だ。穏やかな陽が窓からさして2人分の影が教室に伸びる。少し間を置いて相手が名を名乗った。それを小さく口ずさむと不思議としっくり来る。次に自分のフルネームが呼ばれ、応えるように相手に目線を向けるが続けられた謎の単語は初めて聞くものでキョトンとしてしまう。相手は知っていて、自分は知らないこと。明光院の勘違いだと片付けてしまうには心のモヤモヤの理由がつかない。またあの表情をさせてしまいそうだが、聞かない訳にも行かなくて気になっていたことを切り出す。上手く言語化するのも難しいが、不思議とこの気持ちを相手と共有したくて言葉紡げば反応窺ってみて)
!、……会ったことはあるが、今のお前とまともに話すのは初めてだ。俺が知っているのは……最高最善の魔王だけだ。
(相手の言葉に胸の中が期待で満たされる、もしかしたら思い出すかもしれない、忘れていないかもしれないと根拠の無い希望が溢れた。その溢れる気持ちは押さえられず、相手に詰め寄ると再度両肩を掴んでその瞳と目線を交わす。しかしやはり違う。この瞳は昨日あの公園のベンチで視線を交わしたものとはまるで違った。期待は落胆へ変わる、その思いが顔に出てしまう前にグッと腹の奥底で感情を留め仏頂面を保った。そもそも本当にこちらのことを覚えているなら朝廊下で声をかけた時にあんな反応はしないはずだ。今だってこちらを呼ぶ声にはなんの思いもこもっていない。こんな状態の相手に2人は王と側近の関係だと、ましてや恋人なんだと言えるはずもない。そんなことをしたって余計に混乱を招くだけだ。今度は自ら掴んでいた手を離すとゆっくりと一歩さがる。無理やり抱きしめて口付けすれば思い出すかもしれないと絵空事を描くが、そんなことをすれば今のソウゴが自分から離れていってしまうのは目に見えている。胸が軋むが今は最初から関係を築くしかない。分かっているはずなのに、その右手は強く握られ行き場のない感情が洗われており)
…そっか。俺が目指すのは王様だけどその人とは気が合う気がするね。……、明光院がそんな顔するのって俺のせい? それともその最高最善の魔王って人のせい?
(また肩を掴まれ視線が交わる。廊下の時とは違って仏頂面で露骨に悲しそうな表情はしていないが我慢してるという方が近い表情だ。何となく相手の事を知っているようなそんな直感はどうやら外れたみたいだ。ならば今感じる引っ掛かりはなんだろうか。続けて出てきた『最高最善の魔王』という単語に反応を示す。悪逆非道という印象の魔王という単語と対称的な最高最善という言葉。それが相手の口から顔馴染みの様に出るのだから興味を惹かれるのには十分だった。同じ王を目指す者として勝手に親近感が沸いて軽い笑みと共に呟いてみるが相変わらず相手の顔色は優れない。視界の端に何かを押さえつけるように握られた右手が映れば今度は此方が離れた分相手に近付く。初めてまともに話したと相手も言っていたはずなのに他人事には思えなくて、大事な民だからとかじゃなくて放っておけなかった。そんな表情をさせる原因を取り除きたいとも思う。もう一歩踏み込めば微かに色を含んだ視線で見上げながら問いかけ)
それは……___常磐ソウゴのせいだ。……昨日までソウゴと俺の関係は……とにかく今の時間は昨日までの正しい時間軸からズレている。俺はそれを正して、元に戻す義務がある。そして時間軸を正すにはお前が必要だ。
(こんなにも今苦しい理由、それは昨日や今日なんて関係ない。ただ一人の恋人の存在のせいで心はこんなにも乱れている。たった1人、この手から離れてしまっただけで自分はこうにも崩れそうになってしまうのだ。本来なら目の前の相手と昨日までの恋人とを分けて考えなければならないのに、それがどうしてもできない。一歩近づかれただけで息が詰まるのに、こちらを誘うような目が向けられると吐き出す息は期待とせり上がる熱とでいとも簡単に乱れて、それを引き剥がすように、そして逃げるように教室後方の壁へと歩いていく。背中を壁に預けるようにし深呼吸して事実を並べようとする。それなのに恋人だったと、その一言はどうしても出てこない。目の前にいる同じ顔の人間にその事実を告げて怯えられたり気味悪がられたりするのがよっぽど怖いのだと心の中で自分に呆れていた。あくまでも任務を果たすことに集中しなければと自分に言い聞かせつつ、そのままその任務を相手へ伝えて)
…、うーんとつまり、明光院は今と違う時間軸の人って事で合ってる? それで前の記憶を持っているのも明光院だけ…。 難しいことはよく分からないけど、俺で良ければ協力するよ
(自分のせいだと言われると僅かに胸が痛む。だが一歩迫った時の相手の表情は此方を嫌っているようなものでもなく熱を孕んでいるように見えた。そのまま自分との関係に追及しそうになったのに口を閉じて教室の壁に逃げてしまった。それは追わずに目線を向けたままで話を聞けば何となく今までの態度が腑に落ちた。そのまま言葉を整理すれば相手は別の時間軸から来た人らしい。ここまで自分の生きてきたこの世界が本来からズレている時間軸と言われても実感も無いが相手が言うならと不思議と信じられた。つまり相手の時間軸にも常磐ソウゴがいて、その面影を自分に探していたのかもしれない。相手の言葉を確認するように整理しつつもふとその時間軸の自分と相手の関係が気になった。居ないだけで寂しそうな表情をするのなら友達かそれ以上の関係なのだろうか。色々考えつつも難しい理屈の部分は分からずとも困っている相手に自分が力になるのならと協力申し出て)
……疑わないのか?こんな非現実的なこと、普通なら俺の方がおかしいんだぞ。
(気になれた声で「明光院」と呼ばれるとなんとも言えない違和感と物足りなさで胸が詰まる。先日より親しい相手の名前を呼ぶのを躊躇していたというのに、相手から距離を置かれた呼び方をされるとここまで息苦しいとは思いもしなかった。今やその下の名前を呼ぶことも躊躇される。そんな状況なのに悠長に、というと八つ当たりだが、そんな簡単に現実味のないこちらの話をすんなりと受け入れる相手には呆れの感情と、これこそ王たる性格だと感心する感情が複雑に混じり合う。結果表情として出たのは活気のない苦笑いだけだったが、すんなりとこの状況を受け入れてくれたことに心が安らいだのは確かで、その本質の変わらなさはやはり嬉しくもあり寂しくもある。壁際から離れると再度相手の側まで近づく、その真意に向き合うように今度は目をそらさず、視線をその瞳に向けていて)
うーん…、だって明光院はこんな嘘付かないでしょ? それに何か信じられる気がするんだよね
(相手から持ちかけた話であるのにあっさり協力を受け入れた事に苦笑いを零される。確かに現実離れした話で初めて聞いたなら小説や漫画の話かと勘違いする所ではあるが不思議と受け入れることが出来た。そんな話を何度か考えたことがあるからっていうのもあるが1番は相手が話すからだろうか。初めて会ったはずなのにずっと一緒に居たことがあるような妙な心地がするのだ。これも言ってしまえば非現実的な感覚ではあるが突き動かされるような直感に従いたいと思う。壁際から離れまた近付いてきた相手の瞳を見ながら確信にも似た断定系で問いかけ返す。やっぱり嘘を言っているようには見えない。真っ直ぐと視線向けながら緩く笑って見せれば「俺は何すればいい?」と既に話を進めようとして)
常磐ソウゴの本質は変わらないということか……すまん、無駄な時間を使わせた。俺の予想ではお前が変わってしまったのはお前の周辺の何かが変わってしまった体と俺は睨んでる。つまりお前に縁が深いところに行けばいい。まずはクジコジ堂だな。
(軽く息を吐く、なんとも非理論的だが思えばこいつは最初からこうだった。まだ相手を始末しようと思って接していた頃からずっと、信じられそうだからと傍から離れないのが常磐ソウゴという存在だった。今この状況が2人の特別な関係から起こっている奇跡だとも思いたいが妙な期待を持ってしまっては相手にとっても負担だろう。とにかく今はウジウジとこの時間軸に迷い込んだことを嘆いたり、変わってしまった恋人に八つ当たりしている場合ではない。あらゆることを飲み込んで今は平常心を装うと謝罪の言葉を口にする。今やるべきはこの歪んだ時間軸をどうにかすること、鍵たる相手が協力してくれるなら申し分ないだろう。順を追って説明を終えると慣れないカバンを持ち相手の家へ行くことを告げる。本来ならば自分も寝泊まりする場所、二人共に縁がある所ならば顕著な変化があるかもしれないと踏んで教室の外へと足を進め)
明光院にとっては大切な事なんだろうし気にしてないよ。 なるほど…? 大きく変わったことはないと思うけど…ま、行ったら分かるかな。 ふふ、こうやって誰かと下校するの初めてかも
(視線を合わせたままの相手は自らの回答に何かを感じ取ったらしい。相手の呟きが何を指しているのかは分からないがきっと聞く必要のあった話なのだろう。それならば謝罪する必要もないとさらりと受け流して微笑み。自分の周辺の何かが変わったと言われても直ぐにはピンとは来ないが、相手から見れば気付く所があるのかもしれない。若干首を傾げ気味ではあるが協力すると言った身だ、素直に相手の案に乗ってみる。それにしてもクジゴジ堂の名前が出るとは思わなかった。クラスメイトでも自分がクジゴジ堂に住んでいると知っている人は極僅かだ。明光院の時間軸では少なくとも家に招く程度には仲が良かったのかもしれない。そう思えば今から家に帰る道取りも友人と下校するようなシチュエーションに見えてご機嫌そうに横に並んで階段を降りていき、そのまま学校の外に出て)
お前からしてみればいつも通りだろうが、朝起きてクジゴジ堂に居なかった俺にとってはそうじゃない。……お前は学校に特別親しい友達は居なかったな。まるで下校する高校生、か…
(クジゴジ堂へ行くといって相手はピンと来ていないようだがこちらにとっては調べるべき重要な地点だ。何せこの時代に来て衣食住を置いていた場所、それがいきなり見知らぬ場所に変わっていたのだ、個人的には相手が自分を忘れたことに次ぐ変化だったと言える。クジゴジ堂という名前をすんなり受け入れているところを見るにそういう名前の店は存在しているようだが時計屋のままなのか、そもそもあの大叔父はいるのか、不確定な要素が多くとにかくこの目で確かめて見る他ない。道中隣に並ぶご機嫌そうな顔をチラリとみやる。日が落ちかけて緩やかになった日差しの中制服姿の2人が並んで歩く、それはもし自分がこの時代の高校生だったら日常の光景になっていただろう場面。相手は特定の友達を作ってはいなかったが、もし自分がこの時代に居たら必ず相手の隣にいる自信がある。そういう意味で、この光景も有り得た風景なのかと一瞬受け入れてしまいそうになるが、その考えを振り払うように頭を振る。この雰囲気に飲まれて任務を放棄するなど有り得ない、チラつく誘惑を無視しつつクジゴジ堂への歩みを進め)
…あれ? ってことは明光院もクジゴジ堂に住んでたの? こうやって別のクラスでも何処かで待ち合わせしてさ、テストの事とか遊びに行く予定とか話しながら帰るのって青春!って感じがするよね。……あ、見えてきた。良かったらあがっていく?
(相手の言葉に納得したように頷いた所で何かが引っかかった。言葉通りに受け取れば明光院もクジゴジ堂で寝起きしているということになる。自分の住んでいる所という認識もあるようだったからつまり同じ家で生活していたということだ。ルームシェアみたいなことをしていたのかと興味惹かれるように問いかけて。話すだけならともかく一緒に帰るような親しい友人がいないのも事実で、今が初めてだ。協力の為とはいえ同級生と帰っているのだから浮かれてしまうのも仕方ないだろう。もし、相手と友達なら先程みたいに待ち合わせて一緒に帰る日々を過ごすかもしれない。その日あった事とかくだらない事を話しながら帰る道はきっと今以上に楽しい物だろう。上機嫌に話していれぱ『明光院が友達になってくれたら良いな』という言葉が零れそうになって慌てて口を噤む。それは何となく言ってはダメな気がしたのだ。そんな話をしていれば目的地であるクジゴジ堂が見えてきた。少し前に大叔父が使ってない空き部屋を活用して時計屋兼喫茶店となった店は今日も何組かお客さんが来ているみたいだ。入口で立ち止まれば相手に視線向けて誘ってみて)
、……クジゴジ堂には居候していた。お前の大叔父のことも知ってる。別に青春を謳歌したいとは思わんが…こうやってお前と2人でまいにち帰るのは悪くないのかもしれないな。____な、……俺の知っているクジゴジ堂とは随分違うが…とりあえず上がらせてもらう。
(つい本音を話してしまったが相手に突っ込む隙を与えてしまったようだ。クジゴジ堂に住んでいるのは事実だが、まさか相手を始末するために未来から来て、なんて所から話すわけにはいかないだろう。ただでさえ時間軸が違うと突拍子もないことを言っているのに。ここは混乱を広げない為にもと居候の事実だけを伝えておいた。相変わらず浮かれ気味の相手に事の重大さを理解しているのかとため息をつくも、やはりこうやって2人で歩くのは心地よい。未来や敵を気にすることなくただその日の時間を共有できる空間、心配も憂いも戦いに身を置くよりかはマシだろうか。このままただの高校生として過ごしてしまえと胸の中に悪魔の誘惑が再び湧くが深呼吸と共にまたその願いを押さえつけた。そうして目的地にたどり着いた、はずだったがそこは自分の知る場所とまるで違うものになっていた。相手の問いかけに頷き中へ足を踏み入れるもやはり様子が違う。大叔父が「おかえり」と相手を迎えると共にこちらに気がつくと「あーいつも勉強しに来てくれてる子じゃない」と知らぬ話をされ余計に混乱するばかりで)
そうなんだ。喫茶店作る前は空き部屋を貸し出してたからそこに住んでたのかな。 …! なら明日からも一緒に帰ろ? ___ あれ、常連さん…じゃないよね。
(相手の時間軸では同じ家で居候として暮らしていたらしい。今のクジゴジ堂には他に人が住むスペースはないが何年前は下宿先の提供とかもしていたはずだ。それが今も残っててみたいな感じかもしれない。意外な接点で、それなら初対面の時の態度も頷ける。まだ今の自分は相手と少ししか話してないが、何となく相手と一緒に過ごすのは楽しいだろうという予想はつく。だからこそ自分の発言を否定せずに寧ろ同意するような言葉が聞こえてくれば即座に反応して目を輝かせながら距離を詰める。そして無邪気に笑いながらも明日も一緒に下校するように誘いをかけてみて。今朝いつも通り出発したクジゴジ堂は相手にとっては様子が違うらしい。これが相手の言う歪みの一つだろうか。出迎えてくれた大叔父に「ただいま。」と返すが相手にも見覚えがあるらしい。どうやらいつも勉強する為にこの喫茶店を使っているらしいが相手は身に覚えのないといった表情だ。ここでもまた噛み合わない所が出て来た。初めて自分と一緒に下校してきた相手をもてなそうと大叔父が奥に引っ込んで行くのを見ればひとまず状況を纏める為にも「とりあえず座ろっか」と喫茶店の奥の方の席に移動して)
その貸し出しの看板を見て居候を始めた。……ここは俺がこの時代に来ても一緒に住むことがない時間軸ということか。っ、……俺は、お前と一緒に通学したいんじゃない。お前と一緒に…暮らしたい。それに当然常連でもない。珈琲も食事も美味いと思っていたがまさか店を構えるとは……いつ頃から店を始めたんだ?
(少し前までは自分がこの時代に来た時と同じ状況だったらしい、ということは今より少し前の時間で何かが歪んだということだろうか。そうやって考え事をしている間に相手の顔が至近距離にやってきて、その不意打ちに嫌でも心臓が跳ねた。もしこのまま元の時間軸に戻ることを放棄したとしても、きっと常磐ソウゴとは恋人同士になるだろう。その確信はある。だがそれは失われた時間軸に置き去りにしてきた恋人から手を離すことを意味するのだ。今自分が一緒に居たいのは何の変哲もない高校生ではなくて、共に並び立ち戦う魔王だ。相手にとっては初めての親しい友人ができかけているところだろうが、その立ち位置に収まるわけにはいかない。輝く目から視線をそらしつつ相手に続いて奥の席へと向かう。元の時計屋も落ち着いた雰囲気だったが、カフェになりさらに居心地の良さが増した気がする。見慣れぬ光景に店内を見回しつつ席へ座り)
…、そっか。なら、早く原因見付けて元通りにしないとね。んーと、1年前くらい? 近所の公園が更地になっちゃったりして皆がのんびり出来る場所がないからちょっとでも憩いの場所に出来たらって。おじさんらしいよね。
(期待を込めて送った視線はあえなく反らされた。何となく分かっていたことだがバッサリ言われるとやっぱり凹むものはある。だが甘いことを言わない辺り相手らしい。それと同時にここまで相手に想われている元の時間軸の自分が羨ましいとも思う。自分に嫉妬というのも可笑しい話ではあるが。ならば今の自分がするべきことは相手に協力して時間軸を元に戻すことだ。ぽつり呟くように相槌を打てば気持ち切り替えるように明るい声色とふわりとした笑みで宣言する。丁度下校時間と被ったせいか店内は学生の客が多い。いつ頃と問われるとぱっとは浮かばなくて大体の時期を答える。近所の公園が再開発の為に更地になったりゲームセンターが移転になったりとした時に喫茶店を開こうと思うと言い出した大叔父にはビックリしたが、その選択は正解だったと思う。思い出話と経緯を語りながらもその口元は楽しげに弧を描いていて)
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