2人掛けの玉座 【〆】

お前なら本当に来世の運命まで願った通りになりそうだな。……あぁ、俺も必ずお前を見つけ出す。互いがどんな人間になっていようとな。
(途方もなく祈りに近いような約束、柄にもないことをしてしまって相手も流石に驚いたようだ。根拠のない事など口にしても意味は無い、相手が言おうものならくだらないと否定していただろう。しかしそんな途方もないことを願ってしまうくらいには2人で高校生活を送るという世界は魅力的で、手に入らない故に虚しさも増す。それを来世で叶えて貰おうなんて馬鹿げた話だが王たる恋人が言うと本当に実現してしまいそうだ。どこからそんな根拠のない自信が湧くのかと戒めるのも本来ならば自分の役目だが、今はその途方もない約束も根拠のない自信もどこか威厳を放ちながら相手が言うならば信じられる。つくづく不思議な奴だ。微笑んで差し出された小指を見遣り、目線を相手のものへと移してこちらも口角が上がる。そして同じように小指を一本立てると互いのを絡ませあって契とした。この王が言うなら次の時代に生まれ変わったとしてもきっとまた同じように巡り会って一緒に時を過ごせる。こんな約束をしてしまうほどには相手のことを手離したくないと願い共にありたいと願っている。保証のない約束をより強固なものにしたくて少し身を乗り出すと小指を繋げている手とは反対の手を相手へ伸ばす。後頭部に手を添えるとこちらへゆっくり引き寄せて小指を繋いだまま軽く口付けて)

ゲイツが言うなら頼もしいね。…ん、また楽しみが一つ出来ちゃった。 ゲイツが一緒にいてくれるなら、何処でも幸せだよ。
（来世だなんて不確かなものを信じて約束をする。どこか子供じみた行為ではあるが、2人が真剣に願えば案外簡単に叶ってしまうような気がしてきた。例え次の世界があったとして、2人が出会える可能性なんてそれこそ奇跡に近い確率かもしれないが相手なら本当に見つけてくれると不思議と信じる事が出来る。その理由だって常磐ソウゴと明光院ゲイツだから、で十分なはずだ。小指を絡めて契りを交わせば満足そうに微笑む。こちらを見つめる相手の瞳に夕日が差し込んできらきらと宝石のように輝いている。ワガママな自分は今世ばかりでなく、来世だってこの輝きを手離したくないと思っている。相手も同じことを思ってくれているのなら遠慮する必要もないだろう。小指を絡めたまま相手の顔が近付いてきて唇が重なった。まるで誓いのキスのようで一旦唇を離せば今度は此方からもう一度口付けを交わす。もう寂しさなんて微塵も感じられなくて代わりに幸せが満ち溢れている。近い距離のまま相手を見つめて緩い笑みを浮かべる。相手が側にいてくれるなら無条件で幸せだと甘ったるい言葉告げて）

……来世じゃ今の俺たちの記憶なんてないだろうがな。俺達ならどんな形であれきっと巡り会う。その時にまたお前に振り回されていたら、来世の俺も幸せだろ。…そろそろ文化祭も終わりだな。行き残したところはないか？
(口付けた直後に相手からの返事のように落とされた口付けを受け取る。先程まで物悲しげに感じていた教室は、心が満たされる感覚と共に幻想的な風景だと思えるようになる。どれだけ時間を越えようと、何度でもこうして2人向かい合って座ってキスを送り合う気がする。そんな夢見心地な思いを抱いてしまうくらい今この瞬間が愛おしくて、そしてすぐ近くにいる恋人の事を改めて好きなんだと反復する。いい加減飛躍した思考を展開し過ぎだとひとつだけ現実的なツッコミを入れておくが最早それだけでは採算が合わないほどに想像のつかない領域までの約束を交わしてしまった。相手の糖度の高い言葉につられ、こちらもまた同じように恋人と或ることの幸せを隠しはしない。写真の前で口にした願いを踏まえ、知りもしない来世の自分に思いを馳せる。もしかしたら2人の性格が真反対でこっちが相手を振り回すこともあるかもしれないが、今の自分の目線で言えばまた想像だにしない理由で自分の手をひいて欲しい。小指だけで繋がっていた手を両手で包み込むと、暫く近い距離のまま見つめ合う。だがそのうちその距離感がむず痒くなってしまって視線を窓側へと移した。窓から強くさしていたオレンジ色の光は少しずつその強さを弱めている。夕方の時間もそろそろ終わりが近い。すなわち文化祭の終わりが近づいているのだろう。最後に校内を回る、という願いの流れで文化祭には関係の無いところにきてしまったが、他に行きたいところはあるか尋ね)

そこは前世の記憶って感じでピピッと来るんじゃない？ ふふ、そうだね。 んー、行きたい所はもう全部見終わったかな。 もう少ししたら後夜祭も始まるだろうし先に移動する？
（教室内で好きな人とこうやって口付けを交わすなんて夢みたいだ。相手が未来人だろうと普通の学生だろうと好きである気持ちは変わらない。例え生まれ変わったりして今の記憶が無くなってしまうとしても自分なら相手を直感的に見分ける事が出来ると信じている。何なら今の記憶だって朧気ながらも思い出せそうだ。それ程まで今の自分は相手に惹かれていて手離したくないと思っている。自信満々に告げながらも相手の言葉に幸せの隠しきれない笑みを零す。お互い知る由もない来世について真剣に考えて約束をしている。傍から見れば滑稽な姿かもしれないが自分にとってはどうしようもなく幸せなことだ。包み込まれた手の温かさを感じながら相手を見つめる。だが、その空気感が照れくさくなったのか暫くして視線を反らされてしまった。そんな姿も愛おしくて自分は相手の方を向いたまま問いかけに返答する。当初の目的とは少し逸れてしまったが大体の空気感は楽しむことは出来た。文化祭の一般公開もそろそろ終わりで片付けの終わった生徒がこの教室に帰ってくるのも時間の問題だろう。いくら制服を着ているとはいえ、知らない生徒が教室の中に居たらビックリされそうだ。それに文化祭の終わりということは後夜祭の始まりの時間ではある。どんな事をするかは具体的には分からないが早めに移動しておくのも悪くないだろう。早めに移動しておくかと問いかけて）

まったく、またお前は適当なことを……お前はお宝センサーか。…本当にそんな風に前世の記憶を呼び覚ましてしまいそうなのがお前の怖いところではあるが。それなら移動するか、ここに他の生徒が戻ってきてもまずい。会場で後夜祭が始まるのを待つか。
(適当な擬音を使って自信満々に前世の記憶を手繰るなんて言う相手に今度こそ冷静にツッコんで見せる。とはいえこの王の侮れないところは自分の望む運命や状況を手繰り寄せる能力、かの者が望めばその言葉通りに…なんて神話にでも出てきそうな状況だが、オーマジオウにさえ成りうる可能性のある相手が言うと鼻で笑いとばせなくなってくるのだ。とはいえこちらにとっては悪いことではない。その時の自分に記憶があるにしろないにそろ、相手が多少強引にでも一緒に居てくれさえすればそのうちこの関係にたどり着く。幸せが溢れる顔が視界に入るとその表情をしっかりと焼き付けておこうと再び目線を交える。幸せが溢れ出ているその表情をみていると、こぼれ落ちた分がこちらに流れ込んできてそれで心が満たされていくように感じる。つまりは、相手の幸せそうな顔を見ればこちらも幸せで心が満たされて行くのだ。そんな相手は文化祭を満喫できたようだ。高校生活で最後の文化祭、自分がいることによって相手にとって特別な日になったのならそれで良い。この空間をもっと堪能したい気もするがそろそろ時間が迫っているようだ。移動するかとの問いには頷いて答える。相手のクラスメイトがここに戻ってきてはまずい、他クラスの人間だとか留学生だとか言うには限界があるだろう。椅子から立ち上がるも相手の手を包んでいたうち片方の手は繋いだまま、改めて指を絡め繋ぎ直すと後夜祭の会場に移動しようと立ち上がるのを待ち)

ゲイツセンサーなら搭載されてるかもよ？ りょーかい。 会場は…確かグラウンドだったよね。 それじゃあレッツゴー！ ＿＿ まだ開始前なのにそこそこ人がいるね。こっちの方で待っていよう
（いつもの如く冷静なツッコミを受けるとへらりと笑ってその言葉を肯定する。お宝というよりは相手だけに特化した直感だと言った方が妥当だ。さも魔王のような強大な能力を持っているような言い方をされるのは語弊があるが、本当にそんな力があるのなら自らの望みのまま来世は相手と巡り会いたいと思う。そんなくだらないとも言える会話をしながら視線を交わせるこの空間は幸せのかぎりであるが、楽しい時間は直ぐに過ぎるもの。そろそろ時間的にも退室しなければならないようだ。自らの問いかけに肯定が返ってくれば後夜祭の会場を思い出しながら立ち上がる。すっかり相手からも当たり前のように繋がれるようになった手に幸せを覚えながら応えるように握り返す。繋いでない手を上に掲げて元気に宣言する。教室から廊下に出ればまだクラスメイトは帰ってきてないみたいだ。それを良い事に階段を降りて校舎を後にする。一般公開の時間も終わり出店も閉店するようになれば外からのお客さんもいなくなり、生徒たちが片付けする声がけが聞こえるようになってくる。それが楽しいお祭りの終わりを告げる様で少し寂しいような気もする。だが、グラウンドの方に向かえば校舎内とちがって後夜祭の開催を待つ生徒の姿が多数あった。後夜祭のジンクス故かカップル同士や男女の混じったグループも多く見られて文化祭とまた違う浮き立った雰囲気だ。その生徒に紛れるように端の方に来れば立ち止まって開幕まで待つことにして）

まったく……都合のいいセンサーだな。____生徒が集まり始めたか。演目はバンド演奏と告白タイムとやらと、そのあとはダンス__…………？
(とりあえずは定例通り呆れた様子で返事をするも、その声色は僅かに華やいでいる。相手は間違いなくこちらを必要としてくれている、繋がりを絶やさないようにと願っている。それを示す言葉を受けて心が満たされないはずがない。自然と自ら繋いだ手のまま教室を出て後夜祭の会場だというグラウンドへと向かった。文化祭が閉幕し色とりどりに飾られていた校内もある程度の片付けが進められている。まるで魔法が解けたようだ、それは自分がこの学校の生徒のフリをするタイムリミットを告げているようにも思えて、浮かれた頭を冷ましていくようだった。外へ出てみると日も落ちてグラウンドは照明でぼんやりと照らされている。相手に連れられるまま会場の端で待機しながら前方に設けられたステージへと目をやった。そこにはデカデカと後夜祭の演目が掲げられていて、まずはパフォーマンスステージの優勝者による演奏、次に告白大会、その後にフォークダンスへと続くようだ。演奏で場を盛り上げてから告白タイムを設け、そこで結ばれたカップルは共にダンスを踊れということか。なんともミーハーな企画だが、相手とダンスの約束がある。その時までは大人しく生徒達のバカ騒ぎを眺めるのが良さそうだ。今からが本番だとも言わんばかりに浮き足立った人間も見受けられる、落ち着かない雰囲気を遠目で眺めていたが、その中にこちらへ視線を向ける集団があるのに気がづいた。女ばかりが4人ほど集まっているようだがチラチラとこちらをみている。こんな時に周囲を観察するスキルが発動するとは思わなかったが、その視線は無視できないもので何を意図しているのか分からず怪訝そうな顔を浮かべ)

後夜祭は初めてだから楽しみだなあ。 最後に何か買ってくれば良かったね、ちょっとお腹空いてきちゃった。……どうかしたの？ …何処かで見たことある人達のような
（文化祭までは去年も一昨日も参加したが今から始まる後夜祭は初めて参加するイベントだ。日が落ちると辺りも暗くなってきて周りの雰囲気も相まっていつも通っている学校のはずなのに今だけは違う場所のようにも思える。その非日常感に相手と参加出来ることに嬉しそうに呟きを零す。相手を誘ったダンスの時間まではもう暫くはありそうでその間雰囲気を楽しみながらも周りを観察すれば浮き足立ったような人達も多いが食べ物を持っている人も多いことに気付く。そういえば毎年終わり際になると出店では材料を残さない為にかなり値引きして売られていることが多かった。店番に行く前に2人でたこ焼きを食べたがアレから働いて時間も経ったせいか小腹が空いてきた。ここに来る前に出店によれば良かったかなとちょっと後悔したがもう閉まっている時間だろう。後夜祭が終わってからでも何か食べればいっかと考え直して。 後夜祭の開催が生徒会によって宣言され、みんなの視線がステージ上に集まる。そんな中で相手の目線だけ違う方向を向いていれば何かあったのかと尋ねながらも自らも其方に目線を向ける。その先には女子生徒が4人ほど集まっているようでその内の一人と偶然目が合うと一瞬驚いた表情をしたかと思えば直ぐに反らされ、仲間内で何やら話し始めたようだった。その反応にキョトンとしながらも何処かで会ったことのある顔のような気がして何とか思い出そうとして）

(/本体より失礼します。ちょっとだけ御相談を……後夜祭の中でクラスメイトの女子に魔王くんが告白される、という流れをやろうかと思うのですが、ステージの告白大会で告げられるだとかこのまま後夜祭の片隅で告白されるだとか、どのような流れが良いかなという御相談です。もし想定されている展開があれば教えていただきたいです！)

（／いつもお世話になっております！ そうですね…、告白大会でするのもアリかなと思うんですけど、後夜祭に参加してる全員の前で目立つことになってその後のダンスに支障が出そうですよね。ガッツリ手とか繋いじゃってますけど個人的にはまだ秘密寄りの方が良いかなと。女の子が魔王をグラウンドの端っことか校舎の方に一人に呼び出して、それをマジェスティ君が気になってこっそり付いてくるって感じが自然な気がするんですがどうでしょうか？内容盗み聞きしてても遠くから行動だけ見て後から告白されたと報告されてもどちらでも楽しそうかなと！）

この雰囲気だからな……ほぼカップルとこれから付き合う男女のためにあるようなものだろ。確かにそうだな、途中で抜けて晩飯を食べに行ってもいいかもしれん。同じ学年の奴なんじゃ…？
(親しい友人が居なかったと聞いていたがこの雰囲気では後夜祭に参加しないのは正解かもしれない。相手は賑やかなのは好きだろうがバカ騒ぎが好きなわけではないだろう。それに後夜祭のジンクス目当てなのかそこかしこで色めき立っているのが見受けられる。もしこの場に乗じてこいつに近づこうとしたものが居たら……と、そこまで考えてありえない可能性を頭を振って落としておいた。相手に言われまた群衆を観察すると、確かに食べ物を持っている人間が多い。日も落ちて小腹が減る頃合いだ、出店の残り物片手に後夜祭を楽しむのは賢い判断だろう。とは言えもう食べ物を入手する手段はない。早めに後夜祭を抜け出して帰り道に何処かの店に寄るのもいいだろう。舞台の方では早速演奏ステージが始まっていて周囲の生徒はそちらに熱狂しているが、こちらに目線を向けてくる女子集団はやはりそのままこっちの様子を伺っている。相手にあまり覚えはないようだが何か用事でもあるのだろうかと考えていると、先程相手と目線があった生徒が他の女生徒に背中を押され駆け足気味にこちらへやってきた。そして相手の目の前で止まると、「常磐くん…話があるから来て欲しいんだけど…」と控えめに話しかけてきて)

(/ありがとうございます、流れ把握致しました！それではまだ2人の関係は秘密のままで、魔王は女の子に校舎の方へ呼び出され、救世主は気になって見にいってしまう…といった感じにさせていただこうかと思います。盗み聞きしちゃって魔王が帰って来た時に嫉妬でちょっとツンケンしてる感じになりそうです。また勝手に告白大会→フォークダンスの流れにしてしまいましたが、逆の方が良ければ順番変えていただいても大丈夫ですので…！文化祭のクライマックス楽しみましょう！/こちら蹴り可です！)

でもたまには良いんじゃない？恋も青春の一部だし。そうしよっか、また寄り道だね。 …、ああ、佐藤さんだ。今日は喫茶店に来てくれてありがとね。話？いいけど…、
（相手の言う通りカップルや新たな恋を探そうとした男女の割合の方が多い。きっと一人なら居心地が悪かっただろうが、今は相手と共にいるおかげか微笑ましくその様子を見ることが出来る。この行事をきっかけに自分達のように好きな人と結ばれるカップルが現れるのなら幸せなことだ。自分達もその一部だとくすくす笑いながら繋いでいる手を強く握ってみる。一方でお腹が空いてきたのも事実で途中で抜ける案に賛成して。思えば相手がこの時代に来たばかりの時も学校帰りにゲームセンターに寄り道した。その時と大きく関係は変わった物だとしみじみ実感して。そんな中でグループの内の1人が駆け足でこちらに近付いてくるのが分かれば咄嗟に相手との手を離す。そこで漸く去年同じクラスメイトで今年も選択授業で同じ教科を選んでいる子だと気付く。わざわざ話しかけられたことに少し驚きつつもいつものテンションで声を掛けては今日も店番の時に来てくれた事に感謝伝える。だが、彼女は落ち着かない様子で改まったように話を切り出されるとその雰囲気に飲まれて承諾しつつも視線は相手に向ける。恋人との時間ではあるが彼女も大事な民の一人。その頼みを無下にする訳にもいかず「…ちょっと話してきていい？」と断りを入れて）

まぁ、ある意味今だからこそできるものではあるだろうが……あぁ、大叔父が出さないようなジャンクフードを食べるか。っ、………、あぁ……お前に用があるなら、行ってこい。………
(実に浮き足立ったイベントだがそこに恋人と共に参加している時点でこちらに言い訳する余地はない。後夜祭でカップルで参加すれば長続きするというジンクスは今この場に居る自分たち2人にも適用されるのだろうか。来世の約束まで交わした2人なのだ、そんなジンクスに頼らなくとも問題ないだろうと思う反面、少しでも可能性を高めた方が良いのかと余計な思考をしてしまう。そんな中相手の知りいと思われる女子が近づいてくると強く繋がれていた手は向こうから離れてしまった。今は2人で居て周囲に気付かれていないからこそ手を繋いだままで居られたが、他人の干渉があれば当然手を離すべきだ。相手が手を繋いだままだったとしたら、こちらから手を離しただろう。しかしこちらが反応するよりも早く繋がれていた手が離されてしまって、息が詰まるような感覚が襲い来る。向こうから離されていなければ自分から離したというのに、他人を、ましてや女性を前にしていつでも繋がれていた手を向こうから離されてしまうと明確に精神にヒビが入る。形容できない胸の歪みを抱えるも、相手がどこかへと誘われるのを止める言い訳もない。なにせ対外的には自分と相手はただの友達なのだから。女子生徒は今や人気の少ない校舎へと相手を誘っているようだ。自らこの関係を隠そうと言った身では断る理由を見つけだすことは出来なくて、構わないと頷く他ない。得意の理屈では相手を留めておくことは出来ずただ相手を送り出すことしかできず)

…、抜けちゃってごめんね。なるべく直ぐに戻ってくるから。
（相手と出会って、好きになって、告白し合って、付き合って。そんな出来事や経験を経て相手は隣にいる。相手の恋人であることは誇らしいし単純に幸せで、ここにいる人達も出来ることなら好きな人と結ばれて幸せになってほしいと思う。そんな中でかつてのクラスメイトである彼女に「話がしたい」と言われてその場の空気感から何も察せないほど鈍くはなかった。大切な恋人がいるのならこの場でバッサリと断る方が正しいのだろうか。それでも彼女が抱いている気持ちはきっと自分が相手へ抱いていた気持ちと近い物のはずで、それを簡単に切り捨ててしまうのはどうしても出来なかった。断りを入れるために向けた先の相手は苦しそうで何かを言いたいけど言えないような表情に見える。そんな表情をさせてしまっていることに罪悪感が湧いて相手にだけ聞こえるように謝罪の言葉と直ぐに戻ってくるという意思を伝える。そのまま信じて、と伝わるように数秒だけ相手見つめて。それが終われば彼女に大丈夫だともう一度声をかけて連れられるまま校舎側まで歩いていく。夜に近くグラウンドのように明かりがついてないためか薄暗く静けさに包まれている。いい所までやってくれば今から行われるであろうことに一度視線を伏せてから彼女を見つめ「それで…、話って？」と切り出して）

いや、問題ない……行ってこい。
(先程頭に過ぎった無用な心配が現実になっている。誰かに想いを伝えたいと色めき立つ空気、相手へ一大決心をして近づく姿、想いを絞り出す声、彼女が何をしようとしているのかその方面に疎い自分にさえ察しがつく。誰かに想いを伝えること、それは決して否定できるものでは無い。それは自分も苦労して長い時間をかけて成し遂げ幸せを感じたものだった。他人が同じことをしようとしていのを止める必要はない、だがそれが自分の恋人に向けたものともなると一切を切り捨てさせることなどできなかった。それに相手がこの状況で目の前の女子生徒を門前払いできないのはよく分かる。他人の想いを汲み取り抱えられるのは相手の長所なのだがら。こちらを見つめる目線にこちらの目線も交える。とっとと行ってとっとと戻ってこいと、堂々と言えれば良いのに、僅かでも発生した相手がこの手から離れてしまうかもしれない可能性に平常心が揺さぶられる。そのまま去っていく相手を見送ったが情けないことに心は落ち着かなかった。この場を2人が去った後、女子生徒の取り巻き達が色めき立ちながら2人が向かった先へとついて行く。余計なことをしでかすかもしれない、そんなふうに言い訳をしてそっとその集団のあとをおい相手のもとへ向かった。呼び出した女子生徒はというと暫く話を切り出せずにいた。そして関係者がそろい踏みしたところで口を開く。曰く去年同じクラスで無くし物をして困っていたところを助けてくれたこと、同じ化学の授業で一緒に実験をしてとても楽しかったこと、クラスから校門までの短い時間でも一緒に帰れて嬉しかったこと、そんな日常のありふれた風景のなかで常磐ソウゴに惹かれたようで、最後には「常磐くんの事が、好きです！」と一世一代の告白を告げて)

……、うん。 勇気を出して告白してくれてありがとう。それと俺の事を好きになってくれたことも凄く嬉しい。…、…だけど、ごめんね。俺には凄く大切で一番好きな人がいるからその気持ちには応えられない。…ほんと、ごめん。
（話を切り出せないでいる彼女を急かさずにゆっくりと口を開くのを待つ。誰かに想いを伝えるのはとても勇気がいることだ。遊園地であの時ゲイツが切り出してくれなかったら自分から告白したかと問われたら正直即答出来るほどの自信はない。それをこうやって行事に合わせてとはいえ、自分から誘ってくれた彼女は素直に凄いと思う。暫くして彼女が口を開く。その体験の1つ1つは覚えているものもあれば正直忘れてしまっているものもあった。だけど普段は夢のせいで遠巻きにされることの自分と日々を過ごして好きになってくれたことは単純に嬉しかった。最後に締めのように告白されると一つ相槌を打つ。ここまで真剣に想いを伝えてくれたのだ。今度は自分が返す番だ。初めに出たのは告白してくれたこと、好きになってくれたことへ感謝だ。誰かに好かれることは素直に嬉しい。だからこそ自分を好きになってくれた人を断って、仕方ないとはいえ今から傷付けてしまうのが心苦しい。大事な民には幸せになって欲しいと思うし、それに自分が関われるのなら協力したい。だけど自分にとって一番好きで大切な人はゲイツだ。自分の隣という特等席にゲイツ以外がいる事なんて考えられないし、誰であろうと座って欲しくない。そう考えればどうするかは決まっていた。落ち着かせるように一呼吸置く。そして逃げたくなる視線を彼女に固定して断りの言葉を告げる。ちゃんと告白してくれた彼女に嘘もつきたくなくて、大切な人がいる旨を伝える。みるみると泣きそうに歪んでいく彼女の顔を見るのも辛いが何とか自分の想いを伝えきって）

……
(人気のない校舎に2人の男女、少し離れたところにこっそり女子集団が潜伏している。野暮な事はするなと思う一方で自分も同じようにあの二人の行方が気になって別場所で潜伏している自分に文句を言う資格はない。声が聞き取れる位置に移動してくると壁に背を預け息を潜めて2人の会話を盗み聞く。2人の表情を見ることは出来ないが、壁の向こうから聞こえてきたのは女子生徒の誠意の込められた言葉だった。そのどれもが自分の知らない時間の出来事、自分の知らない世界の出来事、自分の知らない相手の姿だ。彼女の目を通して語られる常磐ソウゴの話に急速に相手が遠ざかっていく感覚を覚える。改めて相手が違う時間を生きていた存在だと思い知らされた気分だ。恋人の返事が聞こえてくる、女子生徒のことを思って優しく紡ぐ言葉は実に相手らしい、相手がこうやって告白を断ると信じていた、何も問題はない。しかし何故か胸の内にしこりのような突っかかるものがあって、じっとして居られなくなってその場から立ち去り元の場所へと戻っていき。一方で想い人への気持ちが成就しなかった女子生徒は、相手の言葉を静かに聞いていた。途中で断られることを察してじわりと涙が目に浮かんだが、真っ直ぐな言葉を最後まで受け止めなければと声を上げるのを耐え続けていた。最後まで返事を聞き終わると「そっか…常磐くん、ちゃんと私の言葉受け止めてくれてありがとう」と礼を言うと耐えきれなくなったのか背中を向けてその場から逃げ出すように去っていき)

……ただいま。 …ちゃんと断ってきたよ。
（泣きそうになりながらも最後まで自分の話を聞いてくれた彼女は本当にいい子だと思う。今まで接した印象からしても彼女と付き合ったらきっと楽しく過ごす事が出来るだろうなと感じた。それでも自分が特別な想いとして好きなのはゲイツであって彼女ではない、と断言出来てしまうほど大切な人と守るべき民を区別してしまっている。振った自分が泣きそうな彼女を慰めるのも何か違う気がして逃げるように去っていく背中を黙って見送るしか出来なかった。女子のグループも彼女を追いかけて居なくなったようだ。誰かに好意を持つことは幸せなことだと思っていたが、その想いが叶わないことが叶えられないことがここまで辛いと思わなかった。もしも自分もゲイツに断られていたら、なんて変な考えが及ぶ。そんな考えを振り切るように自分の頬を軽く抓ればその場を後にして大好きな恋人の待つ場所に戻る。着いて来ていたことなどつゆ知らず元の場所にちゃんといることに安堵しつつも近付いて声を掛ける。付き合っている恋人に対して告白されたと報告するのは気まずいが、何も言わないのも不誠実な気がする。少し間を開けてから静かに結果だけ伝えては恐る恐る反応窺って）

あぁ……お前はこの学校で変人扱いされているのかと思ってたが、告白するやつもいるんだな。お前、今まで色んなやつに愛嬌を振る舞いてきたんじゃないのか？でなきゃ告白なんて……
(結果は知っている、なにせ盗み聞きしていたのだ。相手がここに帰ってくるまでに平常心を取り戻さなければならないのに胸のわだかまりは未だ取れる気配がない。互いにどういう状況か分かっていて相手はこちらに気を使って話しかけてくれている。2人は確かに恋人で一生どころか来世まで誓い合う仲なのに、あの女子生徒が話した相手を好きな理由が忘れられない。こいつが王として民に優しくするのも分かる、そういう所を含めて相手に惹かれたのだから。しかしそんな理屈とは裏腹に相手の方を見ることができない。そして口をついて出る言葉はどこか棘のある声色になってしまう。自分の知らない相手がいる、誰かを惹き付けてしまうほど魅力的な事をこいつは自分以外の誰かにしている。決して悪いことではないはずなのに上手く自分の感情を受け止められずにいた。今や後夜祭の喧騒は耳に入ってこない、未だ目線は逸らしたままつい相手を批難するようなことを言ってしまい)

…っ、…愛嬌かどうかは分からないけど、俺は王様だから、民が困ってるとしたら誰であろうと助けるし、優しくするよ。今までも、これからも。だけど、…ゲイツ、こっち向いてくれる？
（大好きな人と隣同士、先程まで幸せな空間だったのに今は何処か落ち着かないような空気だった。乱された心情を落ち着かせる為にも相手こそが大切な人で2人は結ばれていると確認しようとしたのに返ってきた声は何処か刺々しかった。相手からそんな声色を向けられると思ってなくて一瞬表情が固まってしまった。いつも合わせられる目線が合わないのが余計不安を煽る。その口調のまま告げられる言葉の一つ一つが痛い。自分の普段の振る舞いは八方美人だと批難されているようだった。思ってもみない相手からの言葉に段々と視線が落ちていってしまうが、こうやって相手を不安にさせてしまったのも自分だ。一旦目を閉じて何とか表面上だけでも動揺を落ち着かせれば言葉を紡いでいく。普通ならこれから紛らわしい行動はやめるとでも約束するのだろうか。だけど自分は王様で、皆は守るべき民だ。困っているとしたら助けたいと思うし、優しくしたいと思う。さっきみたいに誰かの好意を断って傷付けることになってしまったとしても。相手の不安を助長するような事を話している自覚はある。だけどこれは常磐ソウゴが王様であるために必要なことで、例え一番大切な相手にいわれようときっと譲ることの出来ない部分だ。そしてここからが一番伝えたいこと。だけどその前に相手の目を見て話がしたい。一度話を区切って相手の名前を呼ぶ。無意識にいつもより覇気のある低い声が出た。そのまま此方を向くように命令に近いお願いをして）