2人掛けの玉座 【〆】

あぁ、お前に色んなとこに連れ回されたらそのうにこの時代が当たり前になる。ん、そこか分かりにくいな…、急に笑顔になれと言われてもだな…
(これから先もまた相手の突拍子もない提案やこちらの文化に対する興味をもって見知らぬ場所へ出向くことは多々あるだろう。そうやって未知の世界へ繰り出すうちに相手と暮らす場所が安心して帰るべき場所になることを心から願っている。いつだって隣に居ていい相手と様々な景色をみて自分がいた時間とは異なる未来を作りたかった。その日々の記録として写真を撮るのは大いに構わないが、何せ2人の距離が近い。人がいない場所とはいえこんなにもくっついている所を他人に見られるのはいたたまれなかった。だが相手が引っ込む様子もなく、心臓の鼓動を早めたまま写真を取らなければならないようだ。いつもはこちらからやることが多い頬をつつく行為が飛んでくる、至近距離でこちらに構う様はこちらに効果抜群だ、心臓はさらに早まっていく。笑顔で、と言われたもののこの状況と意図的に笑顔を作ることに慣れていない体では咄嗟に笑顔を作ることができなかった。さらにスマートフォンのカメラは画面から少しズレた位置にあり、画面をまっすぐ見ていては目線が会わないようになっている。レンズに目線を向けなんとか口角を無理やりあげてみるも、口だけが三日月型になった非常に歪な笑顔を浮かべていて)

これは笑顔の練習しないとね。んーとね、こういう時は楽しかった事とか思い出せばいいんだよ。例えば…あ、さっきの俺の執事姿かっこよかったでしょ。冷静沈着って感じがしてさ
（一度そのままシャッターをきってみて撮影された写真を確認してみるがやっぱり歪な笑顔になってしまっている。これはこれで保存はしておくが、ツーショットとしては何か違う気がする。自分と過ごす中で表情豊かな所も見せてくれるようになったが、こういう時にいざ笑顔になってと言われても難しいのかもしれない。本当に楽しい時にだけ見せてくれる笑顔も希少価値があるようで好きだがこれから一緒に過ごして思い出を作っていくなら写真撮影に慣れておくのも大事なはずだ。相手の心配や動揺など知る由もなくどうやったら良い写真を撮れるか考えては在り来りなアドバイスをする。こういう時は撮影するという事から少し意識を反らした方が自然な笑顔が撮れると大叔父も言っていた気がする。その事を思い出せば視線はレンズに向けたまま先程の執事喫茶についての話題を振る。いつもと同じ調子で雑談しながらもわざとツッコミどころを混ぜては和ませようとして）

俺はお前みたいにずっと緩く笑ってはいないからな。……冷静沈着？あれのどこが冷静沈着だ、最初だけだっただろ。
(かシャリと音がなって画像が保存されたようだが撮影された写真はやはりぎこちない笑顔、違和感があって不気味ささえある。対して隣で写る相手はというといつもの緩い笑顔を写真におさめていたようだ、こうも瞬発的に笑顔に慣れるとは。楽しかった事を思い出せば良いというが、つまりは相手にはこれまでたくさん楽しかった思い出があるということか。それを思えば微笑ましいとも思うがそれではまだ顔に笑顔は浮かばない。敵に真意を悟られないため常に仏頂面でいることを心がけてきたがこんなところで弊害が出るとは。苦し紛れの言い訳を言うがこのままでは思い出として残すのにふさわしい写真とは言えない。どうしたものかとしばらく考えていたが、不意に話は少し前の出来事に及ぶ。確かに執事としての振る舞いはよく出来ていたがそれも入店したあたりまでだ。その後はこちらのせいもあって可愛らしい反応を見せていたろうに。この会話が相手の作戦だとは思わず、顔は正面に向けたまま目線をすぐ隣に相手へやる。あの時のことを思い出すとまた相手をからかいたくなってしまった、相手の狙い通りにツッコミを入れつつその口元は自然と口角が上がっていて)

それはゲイツが揶揄うからでしょ。 …、お、いい感じ。 ほら、ゲイツもさっきより断然に自然に笑えてるし良い写真じゃない？
（日常を切り取る写真撮影は平和である現代ならではの文化なのだろう。カメラを向けられ、笑みを浮かべて応じる事が出来るかはきっと経験の差だ。それと普段の表情の動かし方の違いだろうか。どちらにしろ慣れるためには回数をこなす他ない。少しでも堅苦しい表情ほぐそうとした話題振りに狙い通り食い付いてくれた。主人役の戯れによって情けない姿を見せてしまったことにツッコミが入り、それに応えようとふと視線を向ければ自然と口角の上がった相手と目が合う。その瞬間を逃さぬようすかさず撮影ボタンを押せば、再びカシャリと音が鳴った。腕を引っ込めて撮れた写真を確認すれば制服姿で自然に笑い合う二人の姿があった。目線こそカメラを向いてはいないがそれがむしろ自分達らしいような気がして良い写真だ。初めての二人の写真を上機嫌に相手に見せつけては自らの感想口にして:、反応伺い）

お前が揶揄いがいがあるのが……今撮ったのか？まぁ……確かに良く撮れてるな。……画面の中のお前を見ていたら笑顔の写真が撮れるかもな…もう一度撮ってくれ。
(会話を続けようと返事をしようとしたところでシャッター音がなる、まさかこうやって普通に話している瞬間を切り取るとは思わなくて目を開いて驚く。だが見せられた写真は確かに2人が笑っていて、それこそ展示されている写真のような何気ない光景を切り取ったものみたいだ。同時に相手と話している時こんなにも自分は笑っているのかとそれにも驚く。しかめっ面で荒野を歩く日々だった頃を思えば随分と表情豊かになったものだ。同時に写真という客観的視点からみても写真の中の2人は笑いあって幸せそうで、この写真のような風景のまっただ中を今自分が生きていると思うと幸福でならなかった。特にこの緩い笑みを見ていると自然と気持ちが溢れてくる。そこまで考えてふと画面の方を見る。内カメラで撮る関係状況前方にも相手がいることになる、そして今撮りたいのは2人ともカメラ目線の写真だろう。となれば画面の中にいる相手の顔を見ていればもう少し自然に笑えるかもしれない。撮影の瞬間だけレンズに目線をやれば望みの写真が撮れるかもしれない。もう一度画角に収まるため、そして画面に写る相手の顔を視界にしっかり捉えるために顔をより寄せると再度撮影をお願いし)

こうした方が自然な表情になるかなって思って。 ふふ、めちゃくちゃ嬉しい事言ってくれるね？ じゃあ撮るよ、はいチーズ
（相手にとっては不意打ちだったかもしれないが結果的に良い写真が撮れた。狙い通りって奴だ。2人とも楽しそうに映る写真は正に青春って感じの構図で展示してある写真部の物と遜色無い出来栄えだと自画自賛してしまいそうだ。楽しかった出来事は勿論記憶に残るだろうが、こうやって形に残しておく事も後に振り返ったりする時に大事になるはずだ。良い写真が撮れたことに満足気にしていれば意欲的な相手の提案が聞こえて、ますます表情が明るくなる。それはつまり自分のことを見ていれば自然と笑みが出てくるということでそれだけ大きな存在ということ。これ以上に幸せなことはない。相手の方を向いてくすくすと笑いながらも再び腕を伸ばしてカメラのセッティングをする。相手から顔を寄せられると先程よりも近い距離感にドキドキしながらも二人の顔を画角に収める。今度はカメラのレンズを見つめたまま撮影の掛け声をかけ、幸せに微笑んだままシャッターを切り）

まぁそれなら、目論見通りと言った所だな。……今のは上手く撮れていそうだな。…俺はお前といるとあんな顔になるのか。
(自然体であれば笑えるはずという予想はまさに的中だ、いつもなら相手の狙い通りになった時大抵こちらが狼狽えることが多いが今回だけは別。今のはこちらの事をよく知りそしてよく考えてくれなければ浮かばない作戦だ。カメラの前で固くなっていた所を笑顔にする手腕は見事としかいいようがない。そして自分はいつも相手によって笑顔になっているのだと思い知る。普段から硬い顔だと誰に言われたのかも覚えていないが、無闇に笑顔を見せるタイプではなかった。それが相手と一緒にいて、その顔をみると自然と顔が緩んで口は三日月型に変わる。再度スマートフォンを向けられると暫くは画面の中の相手をみて、シャッターが押される少し前にレンズの方へ視線を送る。そうしてやれば最初とは違う自然な笑顔のままきっちりとカメラ目線で写真の中に収まっている。2人制服姿で並んで楽しい思い出を共有した証を残す、この写真をみてきっと今日のこの撮影のやり取りだって思い出すだろう)

うん、大成功。…せっかくだから待受画面にしちゃおうっと。そうだよ、気付いてなかった？ 俺の事よく笑うっていうけどゲイツも結構表情豊かだよね。 色んな表情をするゲイツのこと好きだよ。
（撮影した写真を確認すれば自然な笑みを浮かべた2人がカメラ目線で写っていた。正に仲良しのツーショットと言える仕上がりに声色弾みながら画面見せ付けて。文化祭の思い出がまた一つできた。初めての2人での写真だ、いつでも見返せるにしても保存しておくだけなのは勿体無いような気がしていつも使うホームの待受画面にその写真を設定する。これでロックを解除すればいつでもこの写真を見る事が出来るようになった。思わず口元がにやけてしまっていれば相手の呟きが聞こえてきて素直にそれを肯定する。殆ど無意識だったのだろうか。それはそれで自分の存在や行動が相手を笑顔にさせていたのだと実感して何だか擽ったい気がする。確かに自分の方がコロコロと表情が変わるだろうが、相手だって近頃は色んな表情を見せてくれる。少し怒ったり、申し訳なさそうな顔をしたり、幸せそうに笑ったり、楽しそうにからかってきたり。初対面の頃には考えられないほどだ。その全てが愛おしくて真っ直ぐと好意伝えて）

お前な……他の奴に見られないようにしろよ。…、……俺が、表情豊かになったのは間違いなくお前の影響だ。それをお前が好きと言うなら俺はこのままでいる。……俺は、お前の恋人だからな。
(この文化祭を忘れられないものにする1枚になったとは思うが、それは止める間もなくスマートフォンの1番見るであろう場所に据えられてしまった。2人の関係を隠すならば元に戻せと言うべきなのだろうが、その言葉は口から出なかった。今日1日手を繋いで歩きもした、そしてそれはこちらを辱めるためじゃない。むしろ自慢するためらしい。そうやって他人に自慢したくなるほどにこの2人の関係を相手は喜んでくれているのだろう。それを目に見える形にしているだけだ。だったら止める必要もない、釘はさしておくが。そしてそのホーム画面に写る自分は制服を着ているのも相まって年相応に見える。それだけ何も気負わずに居られているのかもしれない。そんな姿も好きだと真っ直ぐ視線を交わして伝えられると、一瞬たじろぎはしたが目を逸らすのをなんとか堪える。こんな真っ直ぐな思いを正面で受け止めずにどうする、相手の誠意を貰ったなら当然こちらも誠意を示すべきだ。軽く呼吸してから心を落ち着かせると、自分の心に浮かんだままを口に出した。大袈裟な物言いではなく、確かに相手と出会って人生が変わった。そしてそれに好意を持ってくれているのなら、何より嬉しいことはない。こちらを真っ直ぐ見つめるその瞳に僅かにかかる前髪を軽く払ってやりながら、相手につられまた小さく口角を上げていて)

はーい、その辺は多分大丈夫だと思うよ。…、へへ、そっか。うん、もっと色んな表情見てみたいからね。…あ、ゲイツも俺にして欲しい事あったら何でも言っていいよ？ 俺に出来る事なら叶えてあげたいし。
（許容を含んだ口調に無邪気に返事する。むやみやたらに誰かに見せるつもりではないが、ふとスマートフォンを開いた時に幸せを象ったようなこの写真が目に入れば常にご機嫌でいられそうだ。誰かに見られるかもという不安にも特に根拠はないが自信満々に問題無いと告げて。普段はツンとした態度と表情の相手がふとした時にそれが緩んでこの写真のように笑う時の顔が好きだ。そんなことを伝えれば一呼吸置いてから応えるように真っ直ぐな言葉が返ってきた。ぱちりと瞬いて次に自然と笑い声が溢れてきた。自分の影響で変わったこと、そして自分が望むならそのままでいてくれること。その幸せを噛み締めるように相槌を打つ。相手の色んな表情をもっと見ていたい。前髪も払われ、邪魔なものが無くなった瞳で相手見つめながらその気持ちを素直に口にして。そんな中で自分のやりたいことばかり聞いて貰っているような気がしてきた。勿論相手も承諾の上のわがままではあるが、どうせなら相手にとってのやりたい事やして欲しい事も聞いてみたい。変わらずの緩い笑みのまま何気無く話題振ってみて様子伺い）

お前にして欲しいことか……そうだな、……つい文句を言ってしまうが、俺の事をいつまでも振り回してくれ。お前のやることはいつも予測がつかないが……だからこそ面白い。つまりは、お前は今のままでいれば良いということだ。
(スマートフォンの画面を見られる危険性などそこそこあるだろうが、自信満々に大丈夫だという相手は止めないでおく。無闇矢鱈に見せびらかすことはないだろうし、それにもう万が一周囲にバレたとしてもある程度は胸を張って入れそうだ。文化祭というたった一日の行事だが相手との関係がまた強固に変わったようにも思う。そんな感慨深さと周囲に誰もいない状況が相まって、つい本音を口にしてしまった。間違いなく相手を調子に乗らせる言葉なのに。無茶苦茶な言動も突拍子もない行動も、心臓には悪いが相手といれば全てが楽しいものになる。そんな普通ではない騒がしい日々が気に入っているのだ。とはいえそれじゃあもっと驚くことを、と気合いを入れられても困る。この王は気合いが入りすぎて歯止めが効かなくなりそうだ。そんな意味合いもこめて今のままで、言葉を添えると、本音を伝えすぎたことにじわじわと恥ずかしさがせりあがってきて、相手の髪型を崩すようにわざと雑にその頭を撫でて)

…ふふ、それなら任せといて。俺が全力で振り回すからちゃんと付いてきてね。前言撤回とか無しだから。 よし、じゃあ校舎巡り再開しよ
（どこかしらに行きたいとか何かをしたいとかてっきりそういった要望をされると思っていたのに返されたのは現状維持だった。拍子抜けしたように目を開くも続けられた言葉に自分の口角が上がっていくのがわかる。つまり自分の思いつきで相手を振り回していまう今の関係が相手にとっても好ましいということだ。反応や口調から本当に嫌な訳では無いことや悪くは無いと思ってくれていることは伝わっていたがこうして言葉にして伝えられるとますますそれが実感出来て口元がニヤつくのが止まらない。本当にこの側近かつ恋人は自分を甘やかし過ぎだ。だけどその甘さがとても心地良い。それが相手の要望ならと得意げに宣言をする。王様としても恋人としてもだ。執事をしていた時にかっこよくセットされた髪は見る影もなく、くしゃくしゃと相手の手で崩されてしまったがそれも悪くない。言質をとったとばかりに先手を打てば髪を撫でていた相手の手をとって握りしめる。そのまま手を引きながら校内探索の再会を告げて歩みを再開して）

ハ、言うんじゃなかったか。…安心しろ、お前についていけるのは俺くらいだ。一生お前に振り回されてやる。……そういえば、お前の普段使っているクラスは何か展示しているのか？
(予想通りとも言うべきだが、目の前の相手の表情はみるみる明るくなって、言質でも取ったと言わんばかりに口元がニヤついている。あんなことを言ってしまえば何をされてもどこに連れていかれても文句を言えなくなってしまうの分かっていたのに。しかし後悔はひとつもない、もちろん前言撤回などするはずもない。先程の言葉は自分の本心そのものなのだから。これからもこいつの予報不可能な行動にも言動にも揉まれることになるのだろう、だがそれが楽しみであって、そして自分だけが得られるものだと思えば独占欲も満たされる。こちらもそれを隠すことはない。再び手は繋がれて校内を歩く、もはやこの体勢も慣れたものだ。その時にふと相手を監視していた時のことを思い出す。脳裏に浮かんだのは普段の教室での様子だ。ひとつの部屋にずらりと机が並べられ、前やら後ろやらに座るクラスメイトと話している姿がよく見られた。その光景を思い出すと、相手と共に学園生活を送りたかった叶わぬ夢が胸に燻った。学校を回った限り普段の教室は片付けられ展示に使われている場所も多かったが、相手の教室はどうなのだろうか。もしいつものままであれば、少しは相手のクラスメイトを気分を味わえるかもしれない。そんな淡い期待を抱きつつ問いかけて)

うん、それならずっと寂しくないね。 俺の教室？ クラスで出し物は一つだし、多分何にも無かったと思うよ。 …何ならこっそり入ってみる？
（相手の口調に先程の発言を訂正したり撤回したりしようとする色は見えない。それが紛れもない本音だと証明しているようで何だか擽ったい。自分について行けるのは相手だけだと断言してしまえる所も何ともゲイツらしい。何処までも、それも一生ついてきてくれるならこの先ひとりぼっちになってしまうこともなさそうだ。相手の温もりを知ってしまった身では、1人に戻るのはきっと凄く寂しいだろう。だがこの先ずっと傍にいると約束されるとそんな不安なんて消え失せて思わず安堵に頬が緩む。振り落としてしまわないように繋いだ手をもう一度強く握り直して校内を歩いていく。その中でふと問いかけられるとキョトンとしつつも返事をする。各クラスで出し物は一つだけど決まっていて、喫茶店を別の部屋で開いた自分のクラスは教室を使う予定は無かったはずだ。何故そんなことを問われたかと疑問に思ったが、直ぐにおそらくの察しがついた。今まで色んな教室の中に入ったがあくまで出し物として机やイスを片付けられ単なる空間としてだった。せっかく2人で制服を着ているのだ、普通の教室で過ごしてみたいと思ってきた。本来ならば文化祭中は使用してない教室に入るのは禁止だがこっそり入ればバレないだろう。悪戯っぽい笑み浮かべてはそう提案して）

そうか、ということは俺が監視していた時のままだな。……あぁ、行ってみたい。
(繋がった手が今一度強く握られる、それに返事をするようにこちらからもその手を握り返した。相手はこの世界で最初に出来た繋がりであり、何よりも大切な恋人で、そして夢を共に実現する王だ。2人でやりたいことを全て実現するためには途方もなく時間がかかる。2人でこうやって手を繋いで歩く限り、きっと退屈なんてしないだろう。そして当然寂しい思いもさせない。恋人もそしてその恋人が愛する世界も、必ず守って見せる、それが側近たる勤めだろう。そうやって強固な決意はあるのに、今自分が望むことは何とも緊張感のないものだ。仲間を置いて戦士として時代を超え、ここで王の側近となって未来を変えることを誓ったのに恋人としての願望が顔を出してしまっている。探るような質問をしたつもりだったが、どうやら相手には意図が伝わったらしい。悪戯っぽい笑みは迷いや自制心やらを簡単に壊してしまう。この文化祭は自分にとって一生に1度、それにもうやすやすと学校内に入り浸ることもできないだろう。結局は相手の誘いに乗るような形で教室にいくことを決めた。相手の教室は文化祭では使われていない区画にあるためか人気はない、静かな廊下を歩いていくとやがて監視の時にも覗いていた相手の教室を見つけ出し、中を伺うようにしながらゆっくりと扉を開けて)

じゃあ行こっか。こっそり教室に入るなんて何かスパイみたい。…誰もいない？ 教室に2人だけってのも何か珍しいね。…ゲイツも座る？
（2人の繋がりを表すように固く結ばれた手はとても暖かい。この温もりさえあればこれから何処に行こうとやっていける気がしてきた。そんな相手が普段自分が使っている教室に興味があるというのだから叶えない訳にはいかない。それに2人が同級生だったら、なんてあったかもしれない世界を少しでも感じられそうだ。繋いだ手はそのままに教室へと歩みを進める。祭りの最中にわざわざ人のいない一角に来る物好きもいないのか辺りは静かで先程とは別世界だ、本来入っちゃ駄目な所にこっそりと入る機会など滅多になく、ちょっと子供みたいにワクワクしてしまう。相手に続いて教室の中を覗き込む。思った通り誰もいないことに安堵しつつも相手の手を引いて教室の中に入ってしまう。いつも賑やかな教室に今は二人だけ。夕方が近いのか橙の陽が差して何処か幻想的な雰囲気だ。そんなことを口にしながらも軽い足取りで自分の席まで寄る。その椅子に座れば隣の席に目線向けながら反応を待ち）

……お前にはスパイは務まらなさそうだな。俺はお前を監視していた時も教室には入らなかったからな、こんな状況普通はない。……あぁ___俺がこの席に座る生徒だったら、お前が授業中居眠りしているのを隣で見ることが出来たわけか。
(幸いにも教室の中には誰もいない、ガランとしか教室は妙に音が響く。夕日の色も相まって夢の中にでも迷い込んだ気分だ。手を引かれて入った初めての教室をゆっくり見回して隅々まで観察する。この机にずらりと生徒が並んで授業を受けるのだ。双眼鏡越しにその様子を眺めてはいたが、実際に中に入り込んでみると落ち着かない。どことなく浮き足だっていたが、相手が自分の席に座り隣の席へと促される。それに従い椅子に座るとこの制服と相まってか、どことなく収まりよく席へ座れているように思う。真正面の黒板をみる、今は何も書かれていないがあそこに授業内容が書かれていくはずだ。そして次に隣へ座る相手の方を見る。ちょうど橙色の夕日を背に受けるような位置にいる相手は暖かなオレンジ色に包まれている、日中の日の光とは違う柔らかな光だ。そんな相手の柔らかさを増すような色合いに心を掴まれつつ、つい「もしも」の話をしてしまう。自分ならきっと真面目に授業をうけるだろう、そして隣にいる恋人は監視していた時と同様に授業中は眠りこけているに違いない。体ごと横を向けると今しか見ることの出来ない光景を目に焼き付けていて)

ある意味文化祭のおかげだね。 ＿＿ ふふ、そうかも。 そしたらゲイツがちょっと怒りながら俺の事起こしてくれたりして。 …来世はそんな世界がいいなあ
（普段は部外者が入ることなど難しそうな教室で相手と過ごせるのも今だけだ。そう思えばとても貴重な時間に思えてきて席に座った相手の方を向く。制服姿も相まってか隣の席に座る相手に違和感はない。本物の同級生のようで、きっと誰に聞いても相手が実は未来人であると気付かないはずだ。そんな中で触れられる「もしも」の話。相手と学校生活を送るなら相手の言う通り自分は授業について行けずに寝てしまって、それを相手が注意したり起こしてくれる姿が容易に想像がつく。今日の文化祭だって一緒に準備を進めて相手も執事役をしていたかもしれない。相手に乗っかる形で色々想像して話してみるが、実際は相手は未来人で色々細工をして転入などしない限りはこの教室で一緒に過ごすことはない。勿論今の状態が不満という訳でもなくこうやって文化祭に付き合ってくれている未来人の戦士である相手が好きで仕方ない。それでもほんの少しだけ「もしも」の事を考えてしまう。相手と同級生になるにはそれこそ今の世界を作り替えるか来世に期待するしかない。今世の一生を捧げてくれるといってくれた相手の来世や違う世界までも自分と一緒にいて欲しいなんてワガママにも程がある。そんなことを考えながら教室に差す夕日の柔らかな光に魅せられてはいつの間にかぽつりと呟いていて）

そうだな、制服で来て良かった。お前が授業についていけなくなるのは困るからな。どうせ後から勉強を教えるのも俺だ。……もし、次の世界があったとしたら今度はお前のクラスメイトになってこうやって隣の席に座る。……恋人にもなる、約束だ。
(最初こそまた訳の分からない要求をしてきたものだと思ったものだが、振り返って見ればこの制服で文化祭に参加して正解だった。この学校の生徒のフリだとしても、いつもとは違う2人の立ち位置にいるようで、まるで自分もただの高校生になった気分になる。もしこの学校の生徒だとしたら相手と一緒に登校してこうやって同じクラスで話して、授業中には相手をたたき起こし、お昼は一緒に食べて、家に帰ってからは2人で勉強する……そんな至って普通の高校生同士として時を過ごしていたかもしれない。空っぽで橙の教室、そこに相手の呟きが響く。そこには「もしも」への憧れとそれが実現することのない寂しさが混じっているような気がした。自分もこの世界を嘆いてるわけではない、そもそも今の2人でなければ世界が平和である未来を掴み取ることはできないのだからこの関係を嘆くことなどしない。しかしこうやって擬似的にでも「もしも」の世界へ近づいてその心地を知ってしまったからこそ、それが手に入らないものだとより明確になって余計な寂しさが湧き上がってしまった。普段は非現実的な事を言うのは無意味だと思っていたが、ついオレンジ色に染まる教室と相手をみて来世の約束を口にしてしまう。今までしてきた一生を超える約束、実現するかも分からない、馬鹿げた約束かもしれないが、いつまでもこの記憶が一度なくなったとしても相手と居たいと思う気持ちは変わらない。静けさに包まれた教室の中で力強くハッキリとした声で新たな約束を告げ)

良いアイデアだったでしょ。 …！ …うん、俺が最高最善の魔王になって二人で皆を幸せに出来たら、神様だって王様特権でワガママ聞いてくれるような気がするんだよね。そしたら真っ先にゲイツ探しに行くから。…約束ね。
（二人で制服を着て文化祭を見たら楽しそうといった単なる思いつきだったが言い出して良かった。そのおかげで写真を撮ったり今こうして教室に居ても不自然ではないのだから。だけどその分静けさに包まれた2人きりの教室にいるせいか妙に感傷的になってしまった。自分はオーマジオウになるかもしれない未来なんてない高校生で、相手もこの時代に生まれた普通の同級生である世界。そんな「もしも」への憧れを含んだ呟きをまさか肯定されるとは思わなくて目を見開いて相手を見つめる。来世なんて非現実的で御伽噺に近い存在で、相手が嫌いそうなものだ。だけど相手の声色に疑いや冗談は含んでいなくて、本当に信じているようなハッキリとした口調だった。今世だけでなく次の世界でも相手は自分に側にいてくれると言う。最後にそれが約束だと言われてしまえば本気で叶えたくなってしまった。二人でこの世界の今も未来も平和に出来たのなら、ご褒美として来世は同級生になるというワガママくらいは聞いてくれてもいいはずだ。なんの根拠もない滅茶苦茶な発想だが、今だって未来から来た相手と恋人になれたのだ、来世だってそのくらいの奇跡は起こる可能性はある。そう思えば「もしも」の話だって叶わない事ではなくて来世での楽しみに変わってきて期待感に口元が緩む。姿形が変わったとしてもまた相手と出会って、惹かれ合って、恋人になりたい。そんな想いを紡げば小指を立てた手を2人の間に差し出して指切り促して）