2人掛けの玉座 【〆】

そういうことにしておけ。まぁだが、夏祭りは楽しみだな。……俺達はどうもこの色に惹かれるみたいだな。
(次の夏祭りで相手の浴衣姿が可愛いにしろカッコイイにしろ、楽しみであるのは変わりない。またひとつ新たにできた約束を大切に胸にしまっておく。今目の前で開かれている祭りも悪くは無いが、2人で浴衣を着て夜道を歩いて花火を見上げる夏祭りは想像もつかないほど未知のもので満ち溢れている。まだ知らないこの時代のことはなるべくソウゴと一緒に経験したい。自分にとっての初めての場面全てに相手の姿を移していたい。そんな独りよがりで、しかし心からの願望をひとつずつ叶えて行きたいと願っていた。いつか一緒に2人で浴衣を着て夏祭りを歩いたときには今日のことも思い出すだろう。そんな子供のような願いにお似合いの笑みを浮かべながらヨーヨーを相手へ掲げる。随分と子供っぽい行為をしてしまったが、こうやってまたひとつ相手とのおそろいを増やせたことに嬉しさしかない。相手に自慢して見せていたヨーヨーの隣に相手の分が並べられる。意識したわけではなかっだが、ヨーヨーの色はまたもやお互いの装甲の色だ。並べられて初めてその事に気がつくと先程の高揚を引きずっているせいか、また考えもなしに無邪気な笑みが浮かんだ。まるで2人を表すように並べられた2つのヨーヨー。空気で膨らんだ2つのまん丸をピタリとくっつけるように寄り添わせる。互いの運命を受け入れ共に進んでいるような感覚、大袈裟だがそんな大それたことを感じてヨーヨーをくっつけたまま相手の方を見やり)

っ、そう、だね。 俺とゲイツが一緒に居ることを予知されてるみたい。良いお土産が出来て良かった。 …他に何かやる？ 別のお店を見てみるのも良いけど
（また一つ新しく夏祭りの約束が出来た。こうやって時を歩んでいけば季節ごとのイベントを一緒に迎えることがこれから沢山あるに違いない。それを可能な限り相手と一緒に楽しみたいと思っている。きっと似た様な事を相手も考えてくれているという自惚れもある。相手の方を見ていればまた無邪気な笑みが浮かんで思わず目が奪われた。同級生気分の為に来て貰った制服姿も相まって年相応に笑う相手が眩しくて、ワンテンポ遅れた相槌になる。人のことを魔性だの天然だの言うがこんな笑みを見せる相手だって不意に差し込んだ希望の光のように誰かを引き付けてしまいそうだ。それでも、その笑みは自分に向けられていて並べられたヨーヨーと同じ様に隣にいる。何処に行っても見掛ける2人の色はそれを祝福されているようで何だか嬉しい。それにまた今日のことを思い出せるようなお土産にもなる、と緩く笑みを見せながら呟き。 無事それぞれにヨーヨーが手にいれば一旦立ち上がる。他のゲームをやるのも良いが夏祭りに行くのを約束したならばその時の楽しみにするのも悪くない。釣れたヨーヨーの輪っか部分に中指を入れ、気まぐれに手元で跳ねさせて遊びつつも次はどうしようかと意見求めて）

…、……あぁ、…おそらく俺達はこれからもこの色とめぐり逢い続ける。必ず2人一緒にな。つまりお前の言うように……これからも俺達が一緒に居ることは決まってる。……たこ焼きを買って屋上に行くのはどうだ？店番の前にもう少し腹ごしらえした方がいいだろう？
(何気なく向けた視線だったが、相手の目線は分かりやすく見開かれて、そして分かりやすくこちらへ釘付けになっていた。その目がこちらにだけ向けられている。迷いなくこちらを射抜いて魅入られている。自分の何が相手をそうさせたかはまだ理解できない、しかし間違いなく相手は今自分だけを見ている。それが心地よくも、そして幸せでもあって、無邪気な笑みは少しづつ照れ隠しの笑みに変わってそれを噛み殺すように口元は不自然な形で閉じられた。今2つのヨーヨーを並べて間違いなく自分は幸せであるが、相手もきっと同じように、下手すればそれ以上にこの光景に心を揺さぶられている。不自然な形だった口はそのうち柔和な笑みへとかわる。今がとても充足していると共にもっと相手との時間を過ごしたいと願っている。つまるところまだこの文化祭を相手と楽しみたいと願っているのだが、店番の時間も気になる所だ。執事となるならば不特定多数の人間と会うことになる、その前に2人だけの時間を過ごしたいと、胸に独占欲が湧くとそれをそのまま口にして)

…、今そんなプロポーズみたいな事言われるとは思わなかった、な。 …うん、俺も一緒に居たい。 いいと思う。じゃあ、まずたこ焼き買いに行こっか。
（お互い見つめ合って語られる言葉はいつの日にか結んだずっと傍にいるという誓いにも似ていた。現実主義でかつては自分を倒して未来を変えようとした相手が二人で居ることが未来での既定事実だと話す。自分の影響を受けているようで何だか擽ったい。それにあまりにもスラスラとさも当然の様に告げられる内容は余りにも魅力的で無邪気な笑みを見た後には心臓に悪い。不意打ちの宣言に視線迷わせ照れ隠しの様にそのことを指摘してみるも上がった熱は顔をうっすら赤く染めていく。恥ずかしいがどうしようもなく幸せで上手く言葉が出てこない。それでも真っ直ぐと告げられた想いには此方からも応えたくて何とか相手に顔を向け、簡素に同じ気持ちだと告げる。それに続いて相手からの提案も裏返せばまた2人の時を過ごしたいという物。幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうだ。相手の提案に賛同だと伝えるとそのまま相手の手を握って教室から出る。多分あのまま相手の顔を見つめていたらキャパオーバーになりそうだ。照れて緩みきっているであろう顔を見せないように前を歩いて階段を降りていくが結果的に手を繋いでる事には気付いてないままで）

はぁっ？！いや、別に俺はそんな、プ、プロポーズのつもりで言ったわけじゃ……、おい、お前……ソウゴっ！
(胸に浮かんだままの言葉を言ったつもりだったが、相手の視線が揺れて一緒不思議そうな顔を浮かべる。しかし続いて指摘されたことに思わず声をあげてしまった。反射的に否定の言葉が口から出てくるも、考えれば考えるほど確かに内容はプロポーズそのものだ。反論に自信が無くなるのに比例して声が小さくなっていく。一緒に居ることが当然だ、なんて随分と強引な言葉だが、顔が赤くなっているのを見るに悪い気はしていないらしい。そっちからプロポーズだと言っておいて恥ずかしがるとは何事かとツッコミたいのも山々だったが、恥ずかしさを抑えてこちらと目線をあわせ肯定の返事を受け取ると嫌でも胸がはねた。顔を赤らめたままあんな恥ずかしい言葉を受け取ってくれたことにが嬉しくて、胸の高鳴りは愛おしさに変わっていく。周囲には生徒や来客やらが往来して文化祭を楽しんでいるが、2人だけが別の世界にいるようだった。ヨーヨー釣りの店員だけは怪訝そうな顔をしていた気がするが。心臓が落ち着くのを待っていたが、平静を取り戻す前に手を取られて思わず目を開く。そして止める間もなくこちらを引っ張り始めた。確かに手を繋いで歩けばはぐれもしないし行先は相手にしか分からないのだがら効率的だが、文化祭の真っ只中で人が大勢いるなか手を繋いで歩くなんて恋人ですと主張するようなものではないか。こちらが文句でも飛ばせば周囲からもただじゃれているようにも見えるだろうが、如何せんまだ心臓は落ち着いていない、それどころかこの状況に拍車がかかって早くなる。耳の端はもうとっくに赤くなっているだろう。相手を止める言葉も焦る思考回路では思いつかずただ名前を呼ぶことしかできなくて)

…っ、…あ。ごめん、引っ張っちゃって。…、… あのさ、文化祭が楽しくてついはしゃいで、手繋いだままたこ焼き買いに行くの、アリだと思う？
（反論の言葉は逆に普段からあの様な事を想ってくれているという証拠だ。何度も似た様な話は向こうからも此方からもしているはずなのに不意に投げかけられると準備していない分衝撃は強い。言われた言葉が何度か脳内で再生しては嬉しさと羞恥が募っていく。教室を飛び出して多くの人が通る廊下や階段を通っていく。賑わいを見せる校内は色んな音で溢れているはずなのに今は自分の心臓の音の方がうるさかった。ごちゃごちゃした頭の中でひたすら歩みを進めて1階まで降りてきた所で相手の呼ぶ自分の名前だけはやけに響いて歩みを止めた。振り返れば耳の端を赤くした恋人の顔があった。ワンテンポ遅れてここまで来る間に手を繋いでいた事に気付いて声を上げる。完全に無意識だった。直ぐに強引に引っ張ってしまったことを謝罪するが、原因であろう繋いだままの手を離すのは躊躇してしまった。遊園地に行った時のことを思い出す。あの時も周りに多くの人が居るからという理由で手を離した。だけど今は恋人同士で、単純にまだ手を繋いでいたいと思ってしまっている。例え他の人に見られるにしてもだ。少し黙り込んでからこじつけに近い手を繋いでおく為の言い訳を口にしてみる。我ながら身勝手な自覚はあったが、それに乗ってくれるかと恐る恐る相手の様子窺って）

別にそれは構わ……な、お前それ、は……___それなら……アリだ。
(ようやく相手の動きが止まる。引っ張ったことを謝られるがそれは問題にすることでもない。平気だという意味も込めて首をふる。が、本来ここで離れるべき手は繋がれたままだった。手を繋げたまま黙る相手の意図が分からず暫し見つめていたが、ゆっくりと問いかけられた内容にはまた目を開く。今ならば勢いだとかうっかりで済ますことが出来た、しかしここから2人で手を繋ぐということは互いがこの群衆の中手を繋ぐことを選ぶということを意味する。周囲からの目は変わらず文化祭ではしゃいでいる男子生徒2人であろうが、2人だけは互いを思いあって手を繋ぐのだ。今は人がいない階段の途中、しかしそんな状況でもたった2人の秘め事を抱えながら歩くことを考えただけで胸がまたドクドクと音をたて始める。こちらの一言次第では提案を一蹴して手を離すこともできる。しかし今手を離したいかと問われれば答えが脳内に出る前に繋がった手を握り返していた。まだ許されるなら、この手を繋いだままにしておきたい。その思いは口元で変換され、「お前の勝手にしろ」という言葉として出ていこうとする。それを既で止めた。それではこの状況を望んで選んでいるのは相手だけになってしまう。こっちの思考など向こうにはお見通しの気もするが、このままでいたいのはこちらも同じなのだ。泳ぎそうになる目を何とか相手へ向けると、明確に肯定の返事をし、そして大きく頷いた。動きが固くなってしまったせいか大袈裟に頷いてしまったが、これでこっちの意思も伝わっただろう。相変わらず心臓は五月蝿く、火の前にいるかのように熱いが、その目だけは逸らさずにいて)

やっぱ何でもな、…っ！ …うん、ありがと。 じゃあ買いに行こ
（自分の提案に目を見開いて少し間が空く様子を見ればやっぱり行き過ぎたワガママだったのかもしれない。これ以上困らせる訳にも行かずに発言を撤回して、手を離そうとした所で向こうから逆に握り返されると今度は自分が目を見開く番だった。公共の場で手を繋いだまま。言葉を選んでいる様ではあるが大袈裟に頷くのを見れば自分のこの行為を許容してくれるのだと嬉しさが込み上げてくる。噛み締めるように相槌を打ち、此方からも再び手を握り返せば自然と表情も緩んで見つめ合っている相手に笑みを向けながら礼を伝え。尚も収まる気配のない脈拍の早さは手を通して相手にも伝わってしまっていそうだ。2人だけの秘密という約束をしたが、やっぱりこうやって触れ合ってる方がいい。それに自分にはこれだけ大切な人がいるのだと見せ付けたい気持ちもちょっとだけある。ふと浮かんだワガママが叶えば随分と上機嫌になり、改めて仕切り直しとしてたこ焼きを買いに行くことにする。今度は前後で引っ張っていくのではなくて、隣に並んでだ。手を繋いだまま校舎を後にすれば特に人通りの多い出店が沢山並んだ一帯に出てくる。他の人に注目されるのではないかとも思ったが案外皆はそこまで周りを気にしていないようだった。その事に安心しつつも少し離れた所に目的であるたこ焼き屋を見つければ目線で合図して其方の方に歩いていき）

あぁ行くか。……と、とりあえずひとつずつでいいか？
(ぎこちないこちらの返事に対して、恋人の顔はみるみる喜びに溢れていった。言葉こそ発しないがキラキラと輝くエフェクトを空見してしまうほどに相手の気持ちがこちらへなだれ込んでくる。自分の一言で相手がそれほどまで喜んでくれることに息が詰まるほど嬉しい、あからさまに上機嫌な様子に思わず吹き出してしまった。握り返される手が暖かくてそこから幸福が噴き出しているようにも思えてしまう。先程と違い2人並んで歩き出すともう自分は振り回されているだけの人間ではなく、手を繋ぐことを受けいれている人間となる。変な注目を集めてしまうかと最初こそ緊張したが、賑わいを見せる校内では目を止めるものではないらしい。人通りの多い出店街にきてもそれは同じでこの浮かれた雰囲気に上手く2人の存在は紛れているようだ。たこ焼き屋の前にたどり着き、店員の生徒に一瞬驚いたような顔をされるも、この乱癡気騒ぎの中だからと気にすることは辞めたらしい。若干ニヤついた顔を向けられて幾つ買うかと問われる。ここで堂々としすぎては恋人だと言うも当然だし、挙動不審になりすぎても店員のニヤニヤが増すだけ。どういう態度を取るべきか狼狽えてしまうも、結局は勢い任せで通常通りの会話を進めてしまう。とはいえ胸の鼓動が通常にもどったわけでもなくて、言葉をつまらせながらも店員から視線を逸らし相手へ向けると確認をとるため問いかけ)

そうだね、じゃあたこ焼き2つで。 そうそう、俺達めっちゃ仲良いの。ね、ゲイツ？
（人が大勢いる仲を好きな人と手を繋いで歩く。2人きりでいる時とやっている事は変わらないがいつもよりドキドキしてそれ以上に嬉しい楽しいという気持ちの方が上回る。正に制服デートと言った感じだ。たこ焼き屋の前に辿り着けばどうやら同じ3年の店だったらしく、何人か見知った顔があった。戦闘では毅然とした態度の相手がこういう時には狼狽えた表情を見せるのが何だか面白い。十分にそれを見納めてから助け舟を出すように相手の問いかけに頷き、改めて2人分のたこ焼きを注文して。どうやら焼き上がった分は前の客で提供してしまったようで少し待つみたいだ。その間に去年クラスメイトだった店員に繋いだ手の事をからかわれると繋いだままの手を見せつけるように掲げいつもの緩い笑みで仲の良さをアピールしてみる。恋人という事は伏せているが嘘は言ってない。またいつもの変わった行動の一つと捉えられたのか「やっぱり王様は考える事が違うな」などからかい半分に言われつつも同意求める様に相手の名前呼んで）

！！……おい、……なかよ、それは……っ、釣りはとっておけ！
(失敗だった、たこ焼き屋はどうやら相手の知り合いがいる場所だったらしい。好奇の目がこちらに集中して息が詰まった。普段ならば睨んでその視線を散らしてやるのに、心臓が痛いほど脈打つ今は隣に立っているだけで精一杯だ。誰にでも愛想を振りまくなと独占欲を顕示させる余裕すらない。手を繋ぐという独占を表すような行為をしているのだから必要なかったとも言えるが。片や相手はというと言葉を詰まらせているこちらを楽しげに見て、今も緩い笑みのまま上機嫌に同学年生と話をしている。考えてみれば学内には知り合いの生徒も教師もたくさんいるはず、ここへ歩いてきている間にも知らぬ間に見られている可能性すらある。それなのに何故こいつはこんなにも上機嫌なのだ。今はとにかく黙っているのが良いと静かにしていたのに、繋いでいた手を掲げられてしまった。今の言い方では恋人だとバレることは無い、同級生はいつもの突拍子もない行動だと受け取ったようだ。それでも周囲に見せつけるように手を上げられてしまうとそれに反して羞恥がせりあがって顔は俯いていく。顔が熱すぎて思考にモヤがかかってしまったようだ、結局はまたハッキリとした言葉を口にしたまましどろもどろになってしまう。そこに救いの船が現れる。たこ焼きが出来上がったのだ、顔を上げると2箱のたこ焼きが入った袋が目に入った。カッと目を開くと素早い動きでたこ焼きが入った袋をひんづかむ。そしてその素早い動きのまま金を取り出し、代金には多すぎる札をバンッと勢いよく机へ置くと踵を返した。これ以上ここに居るとまともに立つことすらできなくなりそうだ。相手の手は掴んだまま、そこから脱兎のごとく逃げ出す。今度はこちらが相手を引っ張る形になっていて)

…ゲイツ？ わ、お店みたいにまん丸だ。ありがと…っ、て、 ちょ、 待って。 …ゲイツ、
（見知った仲の人に相手とこれだけ仲良いのだと自慢できるような気がして、上機嫌に話をしていたもののさっきから隣の相手の顔がただ黙って俯いていくのに気付く。長い間相手をほったらかしにして話してしまったかと原因誤解すれば機嫌伺うように視線向け。だが、丁度いいタイミングでたこ焼きが出来上がり、そのことを伝える声が聞こえれば其方に気が向く。学生が作った割には綺麗な球状で焼きたてということもあって食欲をそそる匂いで、その出来栄えを褒める言葉が自然と口から出た。そのまま受け取ろうとするもそれよりも先に袋ごと相手が掴んだみたいだった。その素早い行動呆気にとられている間に会計が済み、握られた手ごと引っ張られた。とりあえず軽く店員の生徒に手を振って別れつつも引き摺られるように相手の後を追う。二人で手を繋いでいたことよりも突然の行動に周りから注目が集まっていた気がするが今はどうでもいい。随分と離れた所まで逃げ出してくればひとまずは止まって貰おうと今一度声を掛けて）

っ、……はぁ、ソウゴ……、はぁ…はぁ………すまん……が、お前っ！あぁいうことをするなら予め言っておけっ！
(暫くは夢中で駆け抜けていたのと脳内が熱すぎてまともに機能していないのが相まってただ走ることに夢中だった。出店外を抜け、無意識に人がいない方へと走っていると、いつの間にか文化祭時もひっそりとしている校舎の片隅にたどり着く。そこでようやく相手の呼ぶ声が耳に届くと走る足を止め相手の方へ振り返る。たいした距離を走ったわけでもないのにもともと心臓が高鳴っていたせいで必要以上の体力を消費している。荒れた息を吐いているのが自分でも信じられないくらいだ。何度か呼吸するうちにようやく相手のことをまともに見ることが出来た。目線をおとすして握っていた箇所をみれば、相手のことを省みずに引っ張ってしまったせいか手首が赤くなってしまっている。強く引っ張ってしまって痛い思いをさせてしまったかもしれない、赤くなった部分を両手で包み込み撫でて謝罪するも、すぐに感情が切り替わる。先程の光景を思い出せばまた羞恥心がぶり返してきた。思わず叫びながら文句を言い放って)

はぁ…大丈夫？ それは気にして無い、けど…。ああいう事…って手握ったの見せた事？
（ようやく相手の足が止まれば相手に連れられて走って移動したせいか呼吸乱しながらも自分より荒く呼吸をする相手を心配して。気付けばキスをした部室棟近くのように人のいない校舎の片隅にいるみたいだった。何故相手がその場を離れたかわからずとも掴まれていた手首を撫でられると痛みより擽ったさの方が勝って表情が綻ぶ。そこまで痛かった訳でもないがこうやって包み込まれて撫でられると痛みがゆっくり癒されていくような気がすると同時に相手の優しさか感じられて、素直に手をされるがまま預けていて。そんな癒しの間も直ぐに終わり、叫ぶ様に文句を言われるがああいう事の該当する出来事がすぐに浮かばずきょとんとした面を相手に向ける。強いて言うならと手を握った姿を自慢げに元クラスメイト見せた事が浮かぶ。それで合ってるかと確認を取り。そうだとしてもこの行為自体を怒るのではなく、事前に声をかけなかった所を怒るのはゲイツらしい気がして余裕のない相手とは対称にへらりとした態度で返答を待ち）

そうだ！お前の知り合いがいる店を選んでしまったのは俺の不覚だが、握った手を上に挙げることはないだろ。何故あんな事をする！……
(どうやらピンと来ていないらしい、あれだけ注目を浴びることをしておいてこうもケロっとしているとは。これも王たる所以だろうか、と考えている場合ではない。こちらが大逃亡を遂げたばかりだというのにいつもの調子のままの相手が気に食わなくて、軽く両頬をつねってやった。とはいえ半分以上は相手への八つ当たりだ。冷静になった今思えば、あそこで意に介さないフリをすることも、高校生らしく悪ノリをしているフリをしても良かったのに、それが出来なかった。まだ相手と恋人でいることに慣れていない証のようにも思えて、不甲斐ないのだ。もっと相手の隣で堂々としていられれば良いのに、気持ちが追いついていない。生涯相手といるならばあれくらいのことで動揺している場合ではないのに。相手に文句をつけておいて、不甲斐ない気持ちが勝ってくれば目線を下に向け軽くため息をつき)

いたい。ゲイツとこれだけ仲が良いって自慢したかったというか、…手を繋ぐのも悪い事じゃないし、隠さなきゃいけないものって思いたくなかったから。 でもゲイツの気持ちとか無視して、注目集めちゃったみたいでごめんね。
（両頬をつねられると冗談っぽく呟くも相手の目を見つめる。何故と言われると色々理由があるが、浮かれてこれだけ関係の深い人がいるのだと周りに言ってみたかったというのが一つだ。自分と相手は恋人で、周りがどう言おうとそれは変わらない。隠した方が良い理由も十分分かるし、秘密の関係だと約束した立場ではあるが、世間に隠さないといけない悪い関係だとは思いたくは無かった。言葉を選びながらそれを伝えてみるもそれは相手の考えや想いを無視して突っ走ってしまった想いだと気付く。その事で相手に迷惑をかけるなら本末転倒だ。頬を触っていた相手の手を取り掌で包み込めばしゅんと眉が下がり謝罪の言葉を口にして。）

隠さなくてもいいもの……俺達の関係は悪いものじゃない、他人がどう言おうがお前は俺のものだ。俺は、お前が好きだから。だが、俺の根性が足りないせいで……俺もお前の思いを無視して悪かった。……よし、戻るぞ。
(ようやく相手の行動の意味を理解できた、まさか自分を自慢するためだとは思わなかったが。つまりは、他人に自慢したくなるほどそれだけこちらのことを、そしてこの関係のことを喜んでいるのだ。そんな相手にとってこうやって関係を隠すことは少なからず思うところがあったのかもしれない。当然自分だって相手が恋人であることを恥じているわけでも後ろめたく思っているわけではない。ただただ周囲からチヤホヤされ時にからかわれする事に慣れていないだけ。そろそろこちらの都合を押し付けるのも終わりにしなければならないかもしれない。頬から手を離し軽く抱きしめる。こちらの小さなプライドのせいで恋人に悪い思いをさせてしまった、何よりも大切な人を笑顔に出来ないどころか悲しませてどうするのだ。決意は固まった。少し顔を離して再び目線をあわせる。そしてその決意をもった目のまま出店街へ戻ると宣言して)

…うん。 俺もゲイツの事好きだし、恋人でいてくれてる事凄く嬉しく思ってる。 …なら、今回はお互い様ってことで。話聞いてくれてありがと。…あれ、戻るの？
（元々こういうのが苦手なタイプで色々無理をさせてしまっていたのかもしれない。そんな心配や後悔が浮かんでいたが相手の腕に包まれると一気に晴れていくようだった。告げられる言葉が相手の本心であるのは分かっていて、同じ想いを抱いていることを確認するように小さく頷く。そして改めて自分の想いを伝える。結局お互いを思ってることには変わりはなくて、他の人の前でどう振る舞うかという価値観の違いだった訳だ。それならばこうやってぶつかり合うのも終わりで良いはずだ。顔を離せばお互い様という形で話を纏めることにして。 また一つ相手の考えを知ってお互いに歩み寄る。それを何度も繰り返すことで関係が深まっていくはずだ。冷たく突き放す訳でも押し付ける訳でもなく、まずは話を聞いて相手に礼を伝えるその顔はすっかりいつもの笑みに戻っていて。てっきりたこ焼きも買ったことだし裏から屋上に向かうと思っていたのだが、出店の場所に戻ると聞けば思わず疑問浮かび。歩いている途中に欲しいものでも見つかったのかと思いつつも異論はなく肯定示し）

あぁ、この件はこれで終わりだ。だから、……出店の並びの所々に椅子とテーブルがセットされてただろう。ふたりっきりで食べるのもいいが、あの賑わいの中で食べられるのは今日だけだ。……いくぞ。
(少しずつ相手のことを知っていく、2人のやり方をみつけていく。そんな共同作業だって大切なことだ、そうした積み重ねをこれからも相手としていきたい。目線が交わった顔には笑顔が浮かんでいてこちらもつられて微笑む。時に悲しい顔にも怒った顔にもなってしまうだろうが、やはり最後にはいつもこの緩い笑顔でいて欲しい。その為に、自分自身と相手との関係を少しずつ変化させていけばいい、そんな気がしていた。不思議そうな顔をする相手に説明を加えてやる。つまりはリベンジだ、せっかく2人とも制服をきて学校という場で文化祭を楽しんでいる。こんな機会は滅多にこない。そんな中で恋人として過ごす時間を作らなくてはもったいない。まだ完全に羞恥心が抜けたわけではないが、相手の望みを叶えてやれるならそれでいい。もう一度手を繋ぐと今度は優しくそこを引く。まだ暖かいたこ焼きの入った袋を軽くふりながら、出店街でこれを食べようと改めて誘って)

っ！ 凄く良いと思う、賑やかな中で食べるのもお祭りの醍醐味だよね。うん、早く行かないと席が埋まっちゃうかも。＿ あ、そこ空いてるから座ろ
（相手からの改めてのお誘いは自分のやってみたいと思っていた望みを汲んだ物だった。それを今一度手を繋いで大好きな恋人に言われる物だから嬉しくない訳がなかった。分かりやすく瞳が輝いて賛成だと主張する声も思わず弾む。誰もいないであろう屋上で2人きりで過ごすのも相手を独占出来て悪くは無い。だが、お祭りの沢山の人がいる中で当たり前のように相手と一緒に並んでたこ焼きを食べる方が文化祭らしいし、正しく制服デートって感じだ。楽しいことの予感に少し心臓が早くなる。それは階段を降りてきた時のような激しい物ではなくて、幸せを感じるような心地好い物だ。手を此方からも握り返せば引かれるまま隣に並んで出店の並びに向かう。先程と同じく人は多いが皆楽しそうだ。その中に混ざろうと辺りを見てみれば丁度いいタイミングで2人席に空きが出来た。相手に伝えるように声掛けつつも早足に近づいてひとまず席を確保してはパイプ椅子に座って）