2人掛けの玉座 【〆】

ん、ぁ……っ、んんッ……そ、うご……
(深いキスを強請った瞬間に腕の中にいる相手の体温が一気に湧き上がるのが分かる。抱え込んでいる分その変化はすぐに伝わる、自分の言葉に呼応しているのが手に取るようにわかり、幸福感が満たされていく。自分の望むものを与えてくれる愛しい恋人、その顔に浮かぶ妖しげな笑みに脳内はくらくらと揺れた。まるで相手の放つ瘴気にあてられたような感覚、思考を溶かし相手しか考えられなくなるこの状態が危険だと思うと同時に心地良いとも思ってしまう。相手の言葉通り欲していた熱く柔らかな舌が口内に侵入する、望んだものが手に入ったにも関わらず他人の侵入に慣れていない体はまたぴくりと跳ねて強ばって、抱きしめていた手に力が籠る。だが侵入した舌はゆっくりと内部をなぞるだけでまだこちらの体を擽るような動きしかしない、待てを強要されるようで体にゾクゾクと欲情だけが煽られるようだ。そんな状態でより欲望に近い腰を引き寄せられる、待てが溜まっていた体はビクッと大きく跳ねて体の力を一時無くしてしまった。なんとか背後の壁に肘をあて体を支え伸びてきた舌先を呼応させるよう動かす。自分が先日獣のように激しく求めた口付けと違ってゆっくり弄ぶようなキス、それに翻弄され口を緩く半開きにさせたまま荒い息を吐き出していて)

　
…ん…っ、…は、…ゲイツ、…
（食べ物や飲み物以外は自分であっても触れることが滅多にない相手の口内をこうやって好き勝手に弄んでいる。直に相手を感じられて幸福と共に独占欲に似た何かが満たされていく。自ら望んだにもかかわらず慣れない舌が侵入してきて身体を強ばらせたのが直ぐに分かる。それでも尚縋るように腕に力を込める姿が愛おしくて堪らない。この熱を与えているのが自分だと刻むように口内をなぞっていればどうやら力を抜けてしまったようで不安定な体勢になった。それを腰に回した手で支えながらも一歩相手の身体ごと前に踏み込んで壁に背中を軽く押し付ける。相手が崩れないように、逃がさないように。一度唇を離して体勢を建て直してあげられる程今の自分に余裕はない。ただ相手を自分のモノにすること以外考えられなかった。荒い息も途切れ途切れに呼ばれる名前もただただ心地良い。熱い吐息混じりに名前を呼び返せば半開きの唇の間に更に深く舌を差し込み、相手の舌を絡めとる。慣れてなくてぎこちない動きでありながらも相手を求めるように交わらせて）

っ、ん…ぁ、ぁ、……そ、…んン……
(緩く開いていた口の中を舌が探る、熱をもったそれは口内でどこにあるのか手に取るように分かった。舌先が絡み合ううち体が背後に押しやられる。そこには部室棟の壁があって崩れそうになっていた体を預けた。だがそうなってしまえばもう退くスペースはない、襲い来る痺れに似た快楽を逃がすよう頭を動かしていたのに、もうそれをする余裕がすらなくなってしまった。こうなってしまえばもう相手から刻みつけられる熱も欲も全て受け止めなければならない。そうやって追い詰められているのに、相手がそれほどの劣情をこちらへ向けているのが幸せで仕方がない。先程よりも深く入り込んだ舌がこちらのものと絡まる。物理的な息苦しさと体が強ばったことでうまく息継ぎができない息苦しさが相まって、まるで相手に溺れているようだ。相手を抱きしめていた手は次第とその服を強く握って必死に縋るものへと変わる。舌の表面に相手の舌が這う度に体が跳ねて自分でも想像だにしない甘い声が漏れ出た。もう相手の名前を呼ぶ余裕すらない。惚けた思考の中で求めるようにこちらからも舌を絡めていると、薄く間口からは時折水音が漏れ出ていて)

ン、……ふ、…ッ、…はぁ、…ご馳走様、
（全身が熱くて風邪でも引いているようだった。自分よりも筋肉がついていて、単純な力だけで言えば簡単に勝てる相手がキス一つでここまでとろとろと蕩けて後ろに回されていた腕も自分に縋るように握られている。追い詰めて逃げられないようにして、相手が自分のモノだと主張する粘っこい感情が満たされていく。そうして相手の舌の表面を擦り合わせていれば不意に聞こえてきた甘ったるく色のついた声。いつもは凛とした態度の相手から漏れ出た声色に脳内がかき乱される。もっと聞きたい。一度脳内に浮かんだ衝動は熱でゆるゆるになった理性では歯止めが効かずに更に欲深く舌を絡ませていく。相手が上手く呼吸が出来ていないのも知っていて、それでも尚自分本意に息継ぎをしながら口付けを続ける。祭りの場には似つかわしくない水音と息遣いが洩れる。ただひたすら相手を求めるだけの行為。暫しその行為を続け、最後に相手の唇の表面を軽くなぞってから一旦顔を少し離す。愛おしい人の顔を見つめながらも荒い呼吸混じりに呟き）

っ、ぅ……は、……はぁ……人、を食べ物みたいに言うな…、…
(もうどれほどの時間こうやって深く口付け交わっているのか分からない。ただ今は2人だけの行為に夢中になって、こちらへ入り込んでくる相手を受け入れ溺れている。こちらを貪る動きにただ舌を絡め時折息継ぎすることでいっぱいいっぱいで、快楽に溺れた声を抑える余裕はなかった。漸く口が解放され、余韻を刻むように唇に舌先が触れた。口の中に溢れたものを飲み込んで酸素を確保するために粗い呼吸を繰り返す。その吐く息はまだ熱く、生理的に滲んだ涙で潤んでいる目を向けつつ、未だ至近距離にある相手の方を見た。まだ心臓が早い、手を回していた相手の背も同じように熱くてまだ熱を共有している。まだ腰は砕けたままで背中にある壁と相手に回した手でなんとか体を支える状態だ。冗談めかした言葉に対していつも通りの返しをしようとするもまだ言葉が詰まる。頭はまだぼんやりとしている、こんないつ誰がくるか分からない場所で相手の証を刻みつけられた、少しくらいお返ししてやらないと気が済まない。まだぐったりとした体のまままずは口の端にひとつ口付けを。そこから頬、耳裏と順に軽く唇を触れさせながら首元へとたどり着いた。そして襟を少しだけ捲ってやると首筋に顔を埋め、強く吸い付く。先日つけた所有の証はそろそろ消える頃合だろう、それならば新たにまたひとつ証を増やせばいい。襟を少し捲ったすぐそこが赤く腫れ上がる、ネクタイを緩めただけですぐにバレてしまいそうだが、今はむしろこの自分のものである証が他人にバレてしまってもいいとさえ思う。そのまま額を擦り寄せると熱が収まるのを待つように相手を抱きしめたまま呼吸を繰り返していて)

はぁ…、ゲイツだって、俺の事食べようとしたでしょ。 …っ、んん…、もうすぐ店番なのにゲイツのモノって刻まれちゃったね
（荒い呼吸と共に潤んだ瞳で見つめられると欲を掻き立てられまた唇を重ねたくなるが今度こそ止まれなくなる気がしてすんでのところで耐える。相手に夢中で殆ど耳に入ってこなかった祭りの喧騒も聞こえてきて改めて公の場で長く深い口付けをしていたことを実感する。それでもまだ相手のことを手放す気にはさらさらなれなかった。熱い息を吐きつつもいつも通り軽口を叩いては落とされるキスを大人しく受け止める。だが耳裏に触れるだけのキスを落とされた所で異変に気付くも反応する暇もないまま首元に顔が近付く。襟を軽く捲られ、首筋に吸いつかれると思わず身体が強ばる。自分のモノだと刻むための行為は擽ったくもあり酷く官能的な甘い痺れを感じては小さく息が洩れた。こちらからは見えないが、またくっきりと赤い痕が残ったのだろう。もう少ししたら店番として多くの人に奉仕する執事の役をやるのに、その首には一人の独占欲の証が刻まれている。それが背徳的なようで満たされるような気持ちになる辺り随分と相手に溺れてしまっている。持て余してる熱を冷ますように相手を見つめながら言葉にするもその口元は緩んだままで）

そうだったな、…お互い貪欲だな……しっかり俺の跡を付けておいた。悪い虫を追い払えるしちょうどいい。…着替える時は気をつけろよ、今したことがバレる。
(つい先日にこちらから相手を貪るようなキスをしたばかりで、今はこれは自分のものだと示す証を残している。相手も自分も同じくらいに互いを求めるのを我慢せず、そして同じくらいそんな相手を受け入れている。そんな関係が心地よくて幸福だ。熱を持ちすぎた体は静かにそよぐ風でゆっくりと冷やされていく、体に残るのはこの上ない充足感で、背徳的な行為だとしても密かに求め合った時間は間違いなく幸せなものだった。風に冷やされだんだん冷静になっていたが証をつける際に聞こえた甘さをもった声がこちらの体を擽る。また相手を喰らいたい衝動に駆られるが、相手の店番が迫りつつあるならそれもお預けだろう。代わりに今しがたつけた証に口付けを落としておく、まだ赤く腫れているそこに唇が触れれば僅かな痛みを相手に与えてしまうだろうが、それさえも自分が与えたものなのだと思えば、気持ちは昂ってしまう。この印さえあれば誰しもに仕える執事になったとしても相手は自分だけのもの。今日一日消えることはない所有物の刻印だ。首に埋めていた顔を少しあげ耳に口元をもっていく。そして囁くように、刷り込むように、この刻印を隠していくようにと言い聞かせた。もちろんバレたって構わない、こいつが誰かのものだと知らしめることができる。だが2人の関係はまだ2人だけの秘密、「恥ずかしこと」がバレないようにと釘をさして)

お揃いだし、ちょうど良いんじゃない？ こういうの、俺は好きだよ。…ん、そんなひと居ないと思うけどなあ。…っ、分かった、二人だけの内緒ね。
（自分は相手を求めて、相手は自分を求める。その気持ちはきっと二人とも似たような物であるに違いない。そして相手のモノになるのも好ましいとさえ思っている。額を合わせて体温を共有しながらもゆっくりと熱を冷ましていく。先程の燃え上がるような熱も今みたいに相手と触れ合う時間も全部好きでくす、と笑みを零れる。もう一度付けた痕を確かめるようにキスが落とされると微かな痛みが走るもそれが相手に刻まれた所有証故なら悪くない感覚だ。心配される程、相手以外の人に求められることは無いように思えてぽつりと呟くもそれで安心出来るようなら幾らでも痕を残して貰っても良いとも思える。二人だけしか辺りにいない状態にも関わらずわざわざ耳元で囁かれるとまるで他人にバレてはいけない秘め事のようだ。きっと着替える時も誰かの前に出る時も痕が見えないか意識してしまって、その度に相手の事を思い出すだろう。まるで見えない首輪のようだ。刷り込まれた約束に素直にこくりと頷いて今一度相手だけだと誓い）

そうだな、俺達は互いを食い合うくらいの方がちょうどいい。お前みたいな緩いやつに限って厄介な虫が付きやすい、今日は特に色んなやつが学校に入っているんだから少しは警戒しろ。……そろそろ行くか？まだポテト屋しか行ってないぞ。
(互いを求めるのも求められるのも互いに望んで心を満たす行為。それならばこの在り方が2人にとっては1番良い形なのだろう。額か合わさって目を閉じる、こうして2人で居ることが何より幸せで、間違いなく好きな行為だ。だからこそ他人に奪われるなど言語道断。そもそも他人との壁を作らない性格なのに今日は執事としてフリであっても他人に尽くすことになる。勘違いする輩が出てきてもおかしくないのだ。そこからトラブルに発展しても困る。所有の証は御守り代わりにちょうど良いだろう、相手が調子に乗りすぎないような首輪にもなるなら好都合だ。漸く胸の鼓動も落ち着いてきて遠くに聞こえる文化祭の喧騒を聞き分けるくらいにはなっていた。この体を手放すのは名残惜しいが今日は2人で過ごす文化祭という特別な一日、そろそろ戻る頃合だ。なにせまだ一店舗しか回っていない、相手にとっても最後の文化祭なのだからもっと様々な思い出を作らなければ。もちろん2人で。背中に回していた手をポンポンと叩いて合図を送る。目線で戻ろうと促せば背中に回していた手を離し)

ふふ、そうだね。 心配し過ぎだって、でもちゃんと覚えとくから。 …ゲイツも俺が店番の間、可愛い女の子とかに一目惚れしないでね？ うん、次は何処行こうかな…、小腹は満たしたし縁日やってるクラスに行くのはどう？
（結局なんだかんだ言いながらも相手が傍にいてくれて求め合う事が一番の幸せだ。お互いがそれを許しているのだから今のままでいい。緩んだ口元で肯定示しつつも暫し目を閉じた相手を見つめて頬を軽くなでる。将来の夢の事などで何かと浮きがちな学校生活を送っていたせいか相手以外の人から特別な好意を寄せられる様子がピンと来ない。大袈裟なようにも聞こえるがそれも独占欲の現れのように感じられると途端微笑ましくなって頷き。続いて冗談めいた言い方で束縛に近い言葉を告げる。何事にも誠実な相手なら大丈夫だと信じているが念の為だ。閉じられた瞼にキス落とせば合図を受け相手から離れる。こうやって二人で時を過ごすのも良いが文化祭ならではのことをするのも重要だ。賑やかさの中心である校舎の方に戻るように移動を開始しながら次の行き先を考える。また何かを食べるのも良いが、確か出店として縁日をやってるクラスがあったはずだ。未来人の相手にとってまた珍しい光景になるのではないかと思えば提案して）

は、俺がそんな軟派なことをすると思うか？安心しろ俺はお前のものだ。縁日というと祭りで並ぶ出店のことか……そこなら様々な趣向のゲームが楽しめそうだな、そのクラスに行くぞ。
(目を閉じ視界のない状態で寄せあった体の暖かさと頬に触れる優しい手を感じる。それだけで幸福のため息を漏らしてしまうほどにはこの時間が好きだ。いつまでもこうしていてもいいと思えるほどに。次いで閉じた目に口付けが落とされて擽ったさも相まって頬が緩む。まるで余計な虫が寄り付かないようにするおまじないのようだ。基本的にしかめっ面でいる自分にわざわざ声を掛けてくる人間はいないだろうが。それに相手より自分が惹かれる人間など想像もつかない。緩い笑顔の中に時折見られる王の荘厳さ、腹のそこに隠している粘度の高い欲望、こちらを包む暖かな体温と優しく撫でる手のひら…そのどれもが常磐ソウゴにしかないものなのだから。相手について文化祭の賑わいの方へと戻る、先程まで浮かれた行為をすぐ側でしていたのが嘘のようだ。様々な方向から客引きの声が聞こえ、宣伝の看板を持つ生徒が見受けられる。どれも馴染みのないものばかりだが、縁日というのはまたこれも馴染みのないものだ。その言葉の意味は知っているものの、当然体験した事のないもの。相手の提案を頷き肯定すると、縁日を開くクラスへと歩みを進めて)

なら安心した。そうそう、ヨーヨー釣りとか色々あるんだよ。確かこっちのクラスだったはず。…やっぱりお昼近くになると何処も盛り上がってるね。 あ、ここみたい
（実は凄く優しい所も仏頂面な顔が緩んだ時のギャップも全部自分だけが知っていればいい。そんな独占欲を満たすように一瞬の迷いもなく断言されると改めて安心出来て表情を緩む。これだから相手の事が好きなのだ。心配事もなくなれば校舎の中に入って目的地の教室に向かうために階段を登っていく。開場から大分経ち、昼近くになったせいか随分と人が多い。宣伝のために看板を持って声掛けをする人もいれば他校の生徒や親子連れなども客として来場していて何処も賑やかだ。正に文化祭って感じがしてその空気の中にいるだけでこちらまで楽しくなってくる。階段を登った先には「縁日」と書かれた看板の置かれた教室を発見する。どうやら記憶違いでは無かったようだ。そのまま中に入ればヨーヨー釣りや射的、輪投げなど様々なゲームが用意されていて、客のグループも何組か居るみたいだ。接客する生徒も浴衣を着たりしてちゃんと雰囲気も出ている。早速どれからやってみるかと相手に視線送り）

人も増えてきたな……生徒も盛り上がって来ているようだな。これは……独特の雰囲気だな。それにヨーヨー釣りとはなんだ？
(賑わいを見せてきた文化祭は廊下を歩く人も増えてきている。それに伴い気分も高揚しているのか到着した直後よりも生徒たちの顔が生き生きしているような気がした。宣伝のためにクラスメイトと歩き回る姿こそ微笑ましいが仲睦まじく男女が2人連れ立って歩く姿も見られる。まさか自分と隣に居る相手もまったく同じ状況だとは思われないだろうが。おまけに遠目にはラブレターらしきものを握りしめ友に励まされている女生徒も見える。このお祭り騒ぎに乗じて想いを伝えようとする算段か、どこもかしこも浮かれた空気になっていて1人だけならばとっとと帰ってしまいそうだが相手としては一緒となれば話は別。そんな浮かれた空気さえ新鮮な世界を進むのと同じ感覚なので。相手に連れられ階段を上り該当のクラスにたどり着くとまず目に入ったのは色とりどりの暖簾、そして生徒たちが着る浴衣に目を奪われた。和装に近いがそれよりも身軽で動きやすそうな構造だ。初めてみるもののはずなのにこの縁日にピッタリとあった服装、色も柄も様々でそれを選ぶだけでも好みが出そうな服だった。物珍しげに周囲を見回す、輪投と射的はなんとなく分かるがヨーヨーというものにはピンとこない。相手の方に向き直りどれがそのヨーヨー釣りなのだと問いかけ)

年に一度のイベントだからね。 ビックリした？夏祭りの小さい版って感じかな。あ、今度の夏祭りの時は二人で浴衣着て行くのもアリかも。 ヨーヨー釣りってのはこれ。釣り針でヨーヨーのあの輪っかの所に引っ掛けて釣るんだけど、紙で出来てるから落ちないようにしなきゃいけないんだよね
（やっぱり馴染みのない文化なのか物珍しげに内装を見る相手に簡単に説明をする。こうやって現代の文化について教えて、それに対するリアクションを見るのも結構面白い。その過程でいつか本物の夏祭りにも二人で行ってみたいとアイデアが浮かぶ。この時代にずっと居てくれるのなら次の夏祭りの時期だって傍にいるはずだ。どうせならこの生徒達のように二人で浴衣を着るのも楽しそうでいい事思いついたとばかりにそのまま口にして。辺りを見渡したかと思えば問いかけられ、色とりどりのヨーヨーが大きな桶に張られた水に浮かんだ一角に案内する。その場にしゃがみ込めば受付役の生徒に声をかけてヨーヨー釣り用のこよりを二つ受け取り。それを見せながらヨーヨー釣りの方法について説明して。）

あぁ、……やはりこういうものは実際に目で見てみないと分からないな…あれを2人で着るのか…___そうだな、本物の夏祭りとやらも見てみたい。……なるほど、紙がちぎれる前にこの玉を釣りあげればいいわけか。
(やはり知識はあっても実体験がなければ真の雰囲気は味わうことができない、百聞は一見にしかずとはよく言ったものだ。しかもこれは本物の縮小版だという。文化祭でこれだけ華やかな色合いならばもっと沢山の出店があって、提灯や花火やらが彩られたならどんな風景になるのだろうか。想像できないその光景に思いを馳せていると、2人で浴衣を着ることを提案され、相手の方を見る。普段着や制服もだいぶ見慣れだのだがあの浴衣を相手が着るといったいどんな雰囲気になるのだろうか。どんな色や柄を選ぶのかも興味がある。祭りに興味があるふりをして返事をしたものの視線は向こうに釘付けのまま次の夏祭りには行きたいと返事をしておいた。相手に続き部屋のヨーヨーと呼ばれるものが大量に浮かぶ水槽の前にしゃがみこむ。色とりどりの風船には先端に輪ゴムがついている。一方で相手がうけとった釣り針にはこよりが付いていた。説明をきき数度頷くとなんとなく勝手は理解するも実際に見てみるのが一番早いだろう。とりあえずは隣にいる相手の動向を見守ることにして)

うん、ゲイツカッコイイから多分浴衣似合うと思うんだよね。 じゃあ決定ね、夏が近くなったら一緒に買いに行こ。 出来るだけ手早く慎重に吊るのがコツかな。まあ、見た方が早いよね。こうやって引っ掛けて……、やった、ゲットー！ ゲイツもやってみよ
（何となく浮かんだ案ではあったが、興味のありそうな反応が返ってくれば口元が緩む。この前買った現代の服もかっこよかったが、相手ならば和風の浴衣も似合いそうな気がする。今どきは色々な柄や色もあったはずだからどれが相手に似合うか確かめるのも良い。自分が最後に浴衣を着たのも大分幼い頃までだったはずだからこの機会に一緒に選ぶのも楽しそうだ。この関係が夏まで続くように密かに願を掛けながら約束を結び。今回はそれの予行練習と言ったところだろうか。一緒にヨーヨーの前にしゃがみこみ、説明をすれば何となくは分かったようだが実際に見た方が早いだろう。自分の分の釣り針を水の中に沈め、輪になった所に引っ掛ける。そのままゆっくりと落ちないように引き上げれば白地にピンク色の模様の入ったヨーヨーが釣れてそれを相手の方向に向け見せつければ無邪気に喜び。その弾みにこよりはちぎれてしまったが一個釣れた判定らしい。釣れたヨーヨー眺めながらも相手の分の釣り針渡してやってみるように促して）

、……お前も普段の緩みきった服装よりかはちゃんとするんじゃないか。あぁそうするか。だがこの前のトレーニングウェアのように紅白色はごめんだぞ。手早く慎重に、か……よし_____っ！
(こいつに振り回されるのにもそろそろ慣れているはずなのだが、こうも不意打ちで褒められ行為を向けられると反応が遅れてしまう。思いを寄せ思いを確かめあった相手から好意を告げられて嫌な気持ちをするやつがどこにいる。咄嗟に言い返しが思い浮かばずに黙ってしまった、これでは照れていると丸わかりだ、尖った返事しかできないところも自分の心情を隠しているようで格好がつかない。とはいえ相手と本物の夏祭りにいくことは魅力的だ。出店も夜に浮かぶあかりも、夜空に咲く花火もまだ見たことの無いものだらけだ、それを相手と一緒に見られるなんていい思い出になるに違いない。夏祭りの用意として浴衣を買いに行くのももちろん賛成だ。自分で着るのも楽しみだが、相手とお揃いの格好でいられることも楽しみだと思っている自分がいる。随分お花畑な思考だが、心がそれを望んでいるのだから仕方がない。だが派手なのは勘弁だ、スポーツウェアならまだしも浴衣であんな色合いでは目立つ色に加えてお祭り野郎の雰囲気が際立ってしまう。あくまても2人で祭りを楽しみたいのだ、バカ騒ぎしたいわけではない。またおかしな色を選び出したら止めねばと思いつつも、未来の約束に口元を緩めていた。相手からこよりのついた釣り針を受け取る。ヨーヨーを釣り上げる1連の流れはしっかりと観察させてもらった。ようは、こよりを濡らすのを最小限にしつつゴム部分に釣り針を引っ掛ければいい。胃を決すると赤色に黒と黄色のラインが入ったヨーヨーに狙いを定め水槽に顔を近づけつつ慎重にその時を見定める。輪ゴムが見えた瞬間、釣り針を素早く沈め、同じく素早く引き上げる。目論見どおりヨーヨーを釣り上げると思わず口元はニヤケた。しかしヨーヨーを釣り上げたまではよかったが、それをそのまま吊り下げていたのが良くなかった。通常すぐに手で掴むべきものをこよりで吊り下げたままにしていたせいでヨーヨーの重さに耐えきれずせっかく釣り上げたのにこよりは無惨にもちぎれ、ヨーヨーは落ちてしまった派手に水面へ落ちたヨーヨーは水しぶきをあげて、その水しぶきは自分の顔へかかり思わず体を仰け反らせ)

もー、直ぐそういうこと言う。なら、ゲイツが惚れ直しちゃうくらいカッコイイ奴着ようかな。 流石にあそこまで派手な浴衣は無いだろうし選ばないって。ちゃんとしたやつにしよ。 ぶっ、漫画みたい。 …もう1回やってみる？
（何気なく出た言葉だったが直ぐに返事が来ない。ちらりとみた相手の表情を見る限り尖った返答も照れ隠しの1つであるのはこれまでのやり取りで何となく分かる。寧ろ分かりやすいくらいだ。それを指摘するようにわざと不貞腐れたように呟くもその口元は緩んだままだ。お互いいつもの格好ではない服を着て、非日常な事をするのも行事の楽しみの一つだ。そんな話の中でこの前買ったトレーニングウェアの話になればあんな色の浴衣があるのかと苦笑いして。あの色は基本的に室内で着る物として選んだもので外なら嫌でも目立ってしまうだろう。お忍びという訳でもないが好奇の目で見られるより2人きりで楽しみたい。改めてそう約束して。大体のやり方は掴んだようで、相手がちゃんと吊れるか横で見守る。ヨーヨーが持ち上がり、嬉しそうな相手を褒めようとした所でこよりが千切れ、ばしゃんと派手な音を立てて水面に落ちる。その水しぶきが相手の顔にかかるを見ればよく出来た四コマ漫画のオチのようで思わず噴き出してしまった。失敗した相手には悪いが面白くてつい声を上げて笑う。とはいえ、相手の狙っていたヨーヨーは落ちてしまった。このまま去るのも何となく違うような気もして受付の生徒に「…ねぇねぇ、失敗しちゃったからもう1回だけさせてくれない？お願い。」と人懐っこい笑みと共にこっそり頼み込んでみる。するともう一個だけ釣り針を快く渡してくれてそれを相手に差し出しながらリベンジするかと尋ねて）

は、お前はどっちかというとかわい……ん゛んっ、まぁ期待せずに楽しみにしておく。俺も最高の1枚を選んでお前と夏祭りにいく。……まったく、お前は自覚のない…当然で、このままでは終われん。これを……よし！どうだっ！
(向こうの方に目をやれば言葉と口元があっていない、照れ隠しをしていることに気がついているのだろう。恋人に対して照れ隠しもなにもする必要はないはずだが、見栄を張ってしまうのが自分の性格。それにこういったやり取りの戯れも嫌いじゃない。どこか自信ありげに「カッコイイ」を約束する様を鼻で笑う。浴衣を着たとしても緩く笑うのは目に見えていてカッコイイ浴衣姿は想像できない、むしろその逆だと口にしかけたところで目の前に他の生徒がいることを思い出して言葉を濁した。男が男に可愛いと言っている場面など見られたらその気があるのは一目瞭然だ。周囲の生徒が眉を顰める前に話題を別方向へと向けておいた。ヨーヨーを釣り損ねて顔の水を手で拭っている間に隣で恋人が他人にオネダリしている声が聞こえる。自分のためにやってくれているのは分かるが、そう言うところが他人を惹き付けることをこいつは分かっていない。誰とも壁を作らないのは相手の良い所ではあるが、愛想を振りまきすぎるのもおかしな虫が寄り付きそうで気が気ではない。とりあえず今は新たな釣り針をもらった身、文句は小言に収めておき再びヨーヨー釣りに集中する。先程ので要領は得た、ヨーヨーがぷかぷか流れ輪ゴムが顔を出したのを見計らい素早く釣り針を水の中へつける。勢いのまま手早く釣り上げると今度は水面から上がったヨーヨーを素早くその手に収めた。赤色に黒と黄色のラインが入ったそのヨーヨーを掴み取ると笑みを浮かべ声をあげながら相手の方へと顔を向け)

ふふ、じゃあそういう事で。今から夏が楽しみだなあ。 ん、今度は最後まで気を抜かないようにね。……わ、ナイスチャッチ！ また、俺と一緒だね？
（一応男としてはカッコイイよりも可愛いと言われてしまうのは少し複雑な感想を抱いてしまうが、相手から言われる分は寧ろ嬉しいと感じる。それを口にしようとして誤魔化す相手の姿こそ可愛らしく思うが流石に言葉にはせず笑みを零せば話を逸らした相手に倣って話を纏める。相手の選ぶ最高の1枚もきっと似合っていて二人で夏祭りに出かける日は楽しい一日になる予感がする。今から随分と遠い夏の日が待ち遠しく思えば上機嫌に呟き零しつつも今はヨーヨー釣りに意識を向けて。相手の小言が何を示しているか分からなかったがリベンジにやる気を見せた様子に隣で見守ることにする。先程も途中までは初めてにしては完璧な動きだった。気をつけるのは最後だけだとアドバイスしながらも動向を眺め。時期を定め、沈めた釣り針は見事輪ゴムの輪の部分を引っ掛け持ち上がる。今度は落とすことなく相手の手に収まれば自分の事のように喜びながら声を上げ。やり遂げたとばかりに此方に笑みを見せる相手にどくんとまた鼓動跳ねる。緩んだ表情も随分見慣れたはずなのにこういうのにはまだ弱い。それを誤魔化すように相手の釣り上げたヨーヨーを見ればいつの時かのストラップみたいだと感じて。思ったまま自分の釣り上げた白地にピンク色のヨーヨーを横に並べてみれば無邪気に笑いながら告げて）