【彼は小説より奇なり。(〆)】

…あくまでも、個人の意見ですけれどね。
(また無表情に戻り、本を積む作業へと戻って)

……ありがとうございます
(彼の言葉に、ほんの少し心が軽くなったような気がした。それと同時にまた心臓が騒ぎ出す。)
あ、と…もう一つ、いいですか？

……何でしょう。
(彼はまた作業の手を止めると顔を上げて)

特定の人と話してて、ドキドキする…というか、緊張することがあるんですけど……何故なんでしょうか？
(まさに今の自分である。ゆっくり相手に視線を向けつつそう質問し)

……病気でしょうね。軽度の緊張症じゃないですか？
(空とぼけたような返事を返しつつ作業の手を再開して)

成程……
(彼からの返答を真面目に捉えて半分納得したような表情で)

……冗談ですよ。恋じゃないんですか、それ。
(吹き出したように少しだけ表情を緩め、作業をしながらそう返し)

恋、
(完全に信用する所だった、──しかし、自分が恋……とは。更に、その相手はまさかの綾兎さん。どうしたら……と色々な感情が入り交じるなかそう尋ね)
綾兎さんは、……恋ってしたことありますか？

………どうでしょう。自分じゃ分からないですね。
(作業の手を止めると首を傾げ、また表情を無表情に戻し)

今日は、色々……ありがとうございました
(一度意識してしまうと、どうも元には戻れない。一人うんうん唸りながらも、お礼は伝えておかねばと頭を下げて)

………いえ。…勤務時間、あと少しで終わるので。
(どこか含みを持たせたような口ぶりでそう告げて)

もし良かったら、一緒に帰りませんか？
(彼の業務時間がもう終わると聞いて、途中まででもいいので！、とそう頼み)

………構いませんが。
(彼は気だるげに答えて)

…ありがとうございますっ、
(ぱっ、と表情を明るくするとお礼を伝え。「じゃあ僕、入口の所で待ってますね」と言い残すと、嬉しそうに入口へ向かって)

………待たせたな。
(暫くすると入口から煙草を吹かしながら顔を覗かせ)

いえ、お疲れ様です！
(待たせた、という言葉にそう返し、小さく口角を上げ彼の方へ寄って)

………そりゃどうも。…で？何の用や。
(軽く手を挙げて答え、じろりと訝しげな目線を向けて)

(口調が完全に砕けている……、これは更に親しくなるチャンスだと捉え)
もっと綾兎さんのことが知りたいな…、と思いまして……