執事 2020-07-30 19:43:59 |
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おはようございます、旦那様
(彼を連れ、旦那様の部屋のドアを軽くノックして。失礼します、そう言い終わった後にドアを開け。部屋の中に子猫は見当たらないが、旦那様が持っているのだろうか、)
おはよう父さん、
(彼の後に続いて部屋に入り、待ちきれない、と何か言いたげな瞳で父親を見つめる。父親はそれを察したらしく、側にあった蓋付きバスケットを手渡され。ずっしりとした重みに、仄かな温かさを感じ、緊張からかドキドキと自身の心臓も鳴っており)
……小さい、
(恐る恐る、バスケットの蓋を開ける。そこには柔らかなそうなタオルケットの上に小さな子猫が座っていて。こんなに小さいだなんて思っていなかった、思わず素直な感想が漏れ出し)
……かわ、いい…
(バスケットの中から顔を覗かせる子猫の顔に、瞬時に言葉が出てこず。きゅんと心を掴まれ、初めての小さな命に少し戸惑いながらもじっと見つめており)
じっとしている場合じゃないですよ、
(しばらく彼と同じようにじっと子猫を見つめていたが、ぱっと彼の肩を叩いた。「その子の親はお坊ちゃんですから」早く部屋に戻って、この子を温めた方がいいと彼に一言、)
…そうだ、
(この猫のお世話をするのは自分なのだ。彼からの言葉にハッとするとバスケットを両手で抱えて立ち上がり、父親にお礼を言った後自分の部屋へと足を進め)
失礼します、
(旦那様の手前、挨拶を雑に済ますことはできない。深く頭を下げては彼を追うように部屋を後にして。彼の隣を歩きながらバスケットを見つめ、「名前は決めました?」と弾んだ声色で問いかけ、)
まだ、
(彼の問いかけに首を横に振る。昨日あれだけ猫のことを考えていたのに、名前に関しては「実際に見てから決める」と後回しにしていた。実際バスケットを開けて目に入ってきたのは黒色の艶のある毛並みのある子。可愛さに目を奪われ、まだ名前を決める余裕もなく)
とても可愛らしいですね、
(彼の部屋のドアを開け、中に入るよう促す。艶々の黒い毛並みと、くりくりしたまんまるの瞳。可愛くて手のかかる子が、また増えてしまった。…しかし、こんな小さな命を守るのは魔法ではなく彼の手がいいだろうと、1冊の冊子を取りだして)
?ヴィラ?
(猫の入ったバスケットをそっと床に置いて。さて、これから何をするべきなのか。脳内に疑問符を浮かべていたところ、彼が本を取り出したのを見て、何をするつもりなのか尋ね)
まとめました、
(子猫なんて育てたことが無かった。さまざまな本で集めた情報を頼りに彼がわかりやすいように、子猫の育て方をまとめた冊子だと説明して。これも勉強だと、極力世話は彼にやらせるつもりらしい、)
じゃあ次は……
(流石執事、そんな事前準備をしてくれていたとは知らなかった。有難い、と感謝の気持ちを抱くのと同時に、次は何をすべきなのかを知りたいらしく彼の手元を覗き込んで)
…ご飯、が妥当でしょうね
(ぺらりと1枚めくり、手書きでまとめた項目のひとつを指でなぞる。子猫の餌はどうするべきか、彼がわかりやすいように簡潔に、しかし丁寧に纏めたひと項目を彼に指さし、)
分かった、ご飯だな
(そう聞くと一目散に部屋を出て厨房へと走る。数分後、事前に誰かが買っておいてくれたであろうキャットフードの袋と容器を両手に抱えて戻ってきて。どんっと音を立ててそれを床に置くと、「これをあげればいいんだよな?」と彼の方に視線を向け)
…よく見ていてください、
(彼が持ってきたキャットフードの表記を見、乾燥している固形のものだとわかれば杖を振り、あたたかいお湯を入ったコップを出す。器に先ず固形のフードを出せば、お湯をたらしてふやかしていき、)
覚えました? _この子の親はお坊ちゃんですから
試しにやってみる──……っづ!
(今回の食事は彼が準備してくれたが、試しにお湯を出すことくらいなら出来る筈。杖を振ってコップを出すところまでは上手くいった。あとはそこに丁度良い温度のお湯を張るだけ─。もう一度杖を振ると、ゴポゴポとまだ沸騰しているような熱湯が出てきて、あまりの熱さにコップを持っていた手を引っ込め)
ッ、随分お熱いのが好みのようで、
(彼が思わず手を離してしまったその時、反射的に杖を振り、中の熱湯を人肌程度までの温度に下げ。手袋をしていてよかったなんて思いながら、コップは片手でしっかり掴んでおり)
危なかった……、有難うヴィラ、
(危機一髪、熱湯を床に溢して大惨事というのは逃れた。流石執事、彼の反応速度には頭が上がらない。やはりこの間のようには魔法が上手くいかないか…、少し落ち込んだらしくしゅんと眉を下げ)
…ほら、この子にご飯をあげてください
(不思議そうな顔をして餌が盛られた器に顔を近づかせている子猫。それが餌だと微妙にわかっていないのか、ふんふん鼻を鳴らすばかりで食べようとはせず。落ち込んだ様子の彼の気を他のことに向けようと試みて)
…、そうだ
(こんなところで落ち込んでいる場合では無いのだ、今はこの子猫にご飯をあげなくては。しゃがんで出来るだけ子猫と目線の高さを近付けると、そっと背中を撫でながら餌の入った器を子猫の真ん前に移動させ)
ほら、ご飯だぞ…
食べてますね、
(少しの間を置いてから、みい、と小さく鳴いた様はまるで"食べるよ!"とでも言っているようだった。真ん前にきた器に顔を突っ込み、はぐはぐと食べ進めていく勢いの良さに思わず目を丸くして)
、……うん……!
(餌を夢中になって食べているその子猫の可愛さたるや、瞬時に言語化出来ないほどで、思わずふにゃりと此方の表情も緩む。本当にずっと眺めていても飽きないな、身体を屈めたまま見守るような視線でその様子を眺めており)
_おや、
(お腹が空いていたのか、もう全て食べ終えた子猫が顔を上げた。まだ少し頼りない足取りで歩き出したかと思えば彼のほうに寄っていき。どうやら、早速彼に懐いた様だ、そろそろ"この子"なんて呼ぶのは気が引けてきた、)
そろそろ、名前を決めたらどうです?
そう…だな、
(近付いてきた黒猫の頭を一撫で。さて、この子になんて名付けよう、悩みながら棚の宝石の本を手に取る。適当にページを開くと、そこには黒い宝石の写真と「ブラックスピネル」の文字があり。それを見た途端、脳内になにかピンとくるものがあったのか)
……スピネ、とか
素敵な名前です、
(スピネ、とは彼も洒落た名前をつけたものだ。スピ坊、と自分の中であだ名をつければ、おもむろにスピネの背中をとんとんと撫でで。彼にとってはこの子が宝石なのだろう、いい名前だ。子猫特有の柔らかさを感じながら撫でつづけ、)
な、……ヴィラばっかりズルいぞ!
(先程、この子の親は自分だと彼が言っていた。のにもまるでスピネを独占するかのように見えた彼の仕草にぷくりと頬を膨らませ。自分も触りたい、とそっとスピネに手を伸ばし、ふさふさな毛並みを撫でて)
嫉妬ですか?
(犬が苦手な訳であって、動物そのものは苦手ではない。スピネは素直に可愛いと思うのだから。少し自分が彼より多く触っただけなのに、ずるいなんて言われてしまえば思わず苦笑いを浮かべて、)
し、嫉妬じゃない!……羨ましかっただけだから…
(自分は嫉妬じゃないと思っているためそう否定するが、その動機は嫉妬そのもので。単純に、自分もスピネを触りたいというのと、彼が猫ばかり触って自分を構ってくれなくなるのでは…という不安もあるらしく、小さな声でそう呟いて)
…お坊ちゃま、寂しくなってしまいました?
(今まで、彼を第一に接してきた。自分の仕事だからそれが当然なのだが、子猫という存在が増えたことによりもしや彼は自分に構われなくなってしまうのではないかと懸念しているのではないかと考えては、わざとらしくはっとした顔を浮かべて)
…………うん、
(彼のわざとらしさに気付いておらず、見事に言い当てられたことに驚きながらも此処は素直に小さく頷いて。その後、自分は何を言ってるんだ、とハッとして「…、別に」ともう遅い言い訳を呟くと、彼からふいと視線を背け)
いつからそんな甘えたになられたんです、
(まさかそんな素直に頷かれるなんて、拍子抜けしたような気の抜けた顔を彼に向けたのも一瞬のこと。もう遅いであろう言い訳を発した彼の頭を撫でながら、からかうように「よしよし」と繰り返し)
……むぅ、
(からかいに何か言い返したそうに彼を見つめるが、撫でるのは止めて欲しくないため、俯いて小さく声を洩らすだけで。もう19だというのに未だに撫でられることが嬉しいなんて自分でも子供じみているとは思うが、好きなものは好きだから仕方ない、と治す気もないらしく)
子猫とそう大差ないですね、
(ずっと彼の隣にいたのだ、撫でられるのが好きだなんてもうお見通しである。それでも彼にそれを直接言わないのは、まだ彼をからかっ底からで。口から出た嫌味とは裏腹に彼を見つめる顔は優しく、)
僕は猫じゃない……
(撫でられながらもそう反論し、猫扱いされ多少不満そうに彼を見つめ返し。自分が撫でられてばかりで何か寂しいものがあったのか、今度はスピネを撫で始め)
スピネも、もうお坊ちゃんに慣れたようですよ?
(彼が反論してくればそれを素直に受け入れ、ぱ、と手を離し。自分が撫でたときよりもスピネが心無しか嬉しそうに見え、)
そうだな、
(自分が触っても逃げたり噛んだりしないこの猫、もしかしたら元々人懐っこい性格なのかもしれないが、こうして懐いてくれるのは嬉しいもので。両手でスピネを抱き上げると幸せそうに頭や背中を撫でて)
…兄弟のようだ、
(彼がスピネを大切にしているのは、もうスピネに伝わっているようで。動物はそういうことに敏感だというし、彼も嬉しそうだ。仲のいい兄弟のようだとぽそりと零し)
兄弟…、僕がお兄ちゃん……
(一人息子のため、兄や弟の存在なんて自分には無縁だと思っていた。種族は違えど初めてのそんな存在に、自分が手本にならなければ、という責任感も自然と湧いてくる。噛み締めるようにそう呟いては嬉しそうに口角を上げ)
聞こえていましたか、
(彼には聞こえないように呟いたつもりだったが、どうやら聞こえていたらしい。きゅ、と口を結んで嬉しそうな彼を見ては顎に手を添え思わず自分も笑いかけた…のは数秒で、「さて、今日の勉強です」どさりと机に本を置き、)
げ……、…でも……!
(誕生日の時もそうだった。どんなイベントがあろうと課題の量は変わらず、毎度の如く自分を苦しめる大量のそれは、猫が来ようが何をしようが関係ないらしい。…しかし、確か昨日、彼が嫌いなものを当てたことで「書き取りは免除」になった筈…!それを思い出しては、スピネを撫でながら彼の方に顔を向けその旨を訴えて)
_確かに今日、書き取りはありません…免除、とは言いましたが…量が減るとは言ってないはずですよ?
(確かに今日の課題の中に、書き取りは一切無い。魔法を展開するための一連の流れが記された教科書や計算問題などばかりだ。その中には子猫の育て方の本も混ざっており、)
……ヴィラの意地悪
(確かに、そう言われてしまえば反論出来ず、口をへの字に曲げ。嘘はつかれていないものの、やはり腑に落ちない。ぶすっと不細工に頬を膨らませれば、スピネを抱いたまま部屋の隅へ、彼に背を向けて体育座りをするといじいじふて腐れており)
_へぇなるほど、子猫用にご飯が手作りかぁ!
(嘘はついていない、ちゃんと書き取りも除外した。おまけに今日は子猫の勉強もしてもらおうと取り入れてみたのだが、あの彼の様子では今日勉強させるのも難しそうだ。彼の興味を引く為、ひとつ参考書を開いては大袈裟に呟き、)
手作り……
(その単語に反応して、ふて腐れながらも彼の方を向き。勉強は嫌だけれどスピネの為のご飯は作ってあげたいという思いもあり、一人で眉間に皺を寄せつつ葛藤しているようで)
なるほど、ケーキも作れる時代と…
(もう一押し。本のひとつを広げてはおもむろに紙に何やら書き出して。…どうやら、勉強しているらしい。魔法の事はわかっても、子猫用のケーキなんて初耳で自分も勉強しなければいけないのだ、しかし1人ではつまらない、なんとか彼に勉強をさせなければと)
1人ではつまらないなぁ、
……
(変に意地をはって、絶対に反応するものか、とそっぽを向いていたが、うずうずと心が動く。もう我慢の限界が近づいてきたようだ。本に視線、意識が向けられている彼にバレないようゆっくりと立ち上がると、その背後からそっと本を覗き込んで)
…勉強する気になりましたか、
(彼が背後に来たことを感じ取り、わざと楽しそうなページを開いていて。このままこちらに座らせてしまえと、席を立てばわざとらしく両手を合わせ、「弟に格好がつかないですよ、先程はまるで赤子のようでしたので」と彼を煽り、)
っ!…………僕はお兄ちゃんなんだぞ!勉強くらい…
(自分では煽られたことでムキになって、もともと彼が座っていた席に座っては本に視線を落とし。その途中、「自分だってやれば出来るんだ、」と見せつけるようにチラチラ彼を見て)
ほら、弟と私も見てますから
(本当に彼があの大掛かりな魔法を成功させたというのか、にわかに信じ難い。こんな安い挑発にさらりと乗られると、思わず彼の将来を心配してしまう。スピネを抱きかかえ、彼にそれを見せて)
……、出来た!
(彼とスピネ、一人と一匹の視線を感じながら、せかせかと一問解き終え。合ってるか間違っているかは別として、答えを書いた紙を彼に見せ。一問解き終えただけで満足したらしく、「これでいいだろ」と言いたげな視線を向けて)
"それだけ?"……と、
(このままでは、本当に彼は終わらせてしまう。ゆっくり腰の杖を抜き、軽く振ればスピネの顔を見てふんふんと頷き。動物の心がわかる魔法なんてそこまで便利なものありはしないが、あたかもそれを使ったかのように見せ)
?!……な、な訳無いだろ!僕はお兄ちゃんだからな!
(スピネの心が読める魔法があるなんて聞いていない。明らかに動揺しつつ、そんな魔法が使えたのか……と驚きながらもそう反論し。綺麗に騙されて、必死に誤魔化すようにもう一度机に体を向けるとペンを片手に問題を解き始め)
"お兄ちゃん凄いね、!"…だそうです
(まんまと罠にかかった彼に思わず吹き出しかける。それを抑えて、ふたたびスピネの顔を見てふんふん頷けばまたそんなことを言って彼をおちょくり、)
……まぁな!お兄ちゃんだからな!
(スピネから誉められたことに、へへへと照れ笑いを溢すと自身たっぷりに胸を張り。相当嬉しかったのか彼のからかいだとは微塵も気付いておらず)
…3時にまた来ますので、
(ぐ、と思わず口を噤んだ。彼があまりに素直に受け取るものだから、笑いそうになるのを堪えているのだ。抱えていたスピネを彼の近くの床におろし、今日の仕事を終わらせに行こうと部屋を後にして、)
(/背後失礼します、!
過ぎてしまいましたが、よければクリスマスネタをやりたいなと考えています…、どうでしょうか、?)
分かった、……スピネ、お兄ちゃん頑張るからな
(彼の手から離れたスピネを抱き抱えると、自分の目線まで持っていき。小さな声でそう話し掛けるとにこにこ笑顔を見せ)
(/背後としてはお久しぶりです!
クリスマス良いですね……、賛成です、!始めるとするとやはりイヴからでしょうか?)
失礼します、
(約束通り、3時に再び彼の部屋を訪れ。今日のおやつであるラズベリーのムースと桃のフレーバーティーをワゴンに載せ、こんこん、とノックして)
(/ありがとうございます、!
そうですね…、イヴ~クリスマスの流れでいきたいです!)
いいかスピネ、この問題はな……、っ!
(スピネを机の上に座らせ、問題集を一人と一匹で覗き込んでおり。自分が先生気分で夢中になって問題解説をしているところに彼の声が聞こえ、慌てて誤魔化すようにスピネを膝の上に抱え)
(/了解しました、!先レスはどちらから致しましょう?)
お邪魔でしたか、小さな先生
(部屋に入ると、聞こえてきたのは彼の解説。スピネにしても分からない…と思ったのだが、その内容を聞いていればそれは彼が前に躓いていた問題であり。解説ができるまでに理解が深まったのだと嬉しく思ったのは顔に出さず、ふんふんと自分も解説を聞くフリして彼をからかい、)
(/区切りが着いたらこちらから回します、!)
ち、ちがっ、……何の話だヴィラっ
(もしかして聞かれていたのか……、恥ずかしいところを見つかってしまった、とみるみる顔が赤くなっていき。もう遅いであろうが、からかわれに対する抵抗として、そうとぼけて誤魔化し)
(/分かりました、ありがとうございます、!)
はて、なんの話でしょうか?
(しっかり、ばっちりとこの目と耳で見て聞いた。明らかに彼は先生気分だったはずだ。どうやら恥ずかしかったようで、「私はムースを届けに来たのですが…」なんてすっとぼけ、)
(/では背後はこれで失礼します、!)
っ?!、な……何でもない
(彼の様子を見るに、まさか勘違いだったのか……?との考えが脳裏に浮かび上がる。正直予想外の彼の反応に明らかに戸惑いつつもそう否定して)
(/了解です!また何かあれば遠慮なくお呼びください……!)
出来るようになったのですね、
(なんでもない、と否定した彼にぽそりと一言。嫌々ながらやっている毎日の勉強は、割と彼の力になっているようで。かちゃかちゃと心地好い音をさせながら紅茶の準備をし、)
…………、
(彼の口から溢れた自信に対する誉め言葉に、声には出さないものの、明らかに嬉しそうに口角を上げ。彼がおやつの準備を始めたのを見ると、机上に広げられていた問題集を片付け始め)
今日はラズベリーのムースです、どうぞ
(明らかに嬉しそうな彼の表情には、あえて触れずに、淡々と今日のお菓子の説明を初め。あえて酸っぱいラズベリーを選び、ムースとして仕上げることで優しい甘さがふわりと広がるようにしてみた。ムースをテーブルに置き、彼のために椅子を引いて、)
頂きます、
(引かれた椅子に座り、フォークを手に取るとムースを一口分切り取って口に運び。口の中一杯に広がる酸味に始めは驚いたものの、それから直ぐにやってくる柔らかい甘味。勉強の疲れが吹き飛ぶほど美味しいそれに心を奪われ、意識しなくともいつの間にか二口目にフォークが伸びていて)
紅茶もどうぞ、桃のフレーバーティーです
(無意識のうちに二口目に手が伸びていく彼。余程美味しかったのだろう、その彼の嬉しそうな姿を見るのが嬉しくて。ムースが半分ほどになったところで熱過ぎずぬる過ぎない程度の温度のフレーバーティーを彼に差し出し)
……んっ、
(もぐもぐとムースを頬張っていたところ、焦って食べたのかむぐ、と喉に詰まらせてしまい。差し出された紅茶の入ったカップを両手で手に取れば、ごくごくと喉に流し込んで)
お坊ちゃまの目にはムースに足が生えているように見えるのですか?
(要するにもっと落ち着いて食べろ、ということだ。こんなに焦る様な食べ方では、クリスマスのケーキは喉に詰まらせるかもしれない。やれやれ、とわざとらしく肩を竦め、)
……、
(危うくむせる所だった、ギリギリそれを免れては数回深呼吸をして息を整えて。彼の言葉に反論したいも、もっとも過ぎて返す言葉もなく。一人口を尖らせては、またムースを口に入れ)
…スピネも、どうぞ
(伝わるのだろうか、兄が1人でおやつを食べているのが。たしたし、自分の足を柔らかいなにかにつつかれていると気づけば足元を見下ろし。そこにはスピネが機嫌悪そうにしており、ポケットから個包装のおやつを取り出してはスピネに与え)
……な、
(残りのムースもぺろりと平らげてしまった。満足そうに息を吐いてふと彼に視線を向けると、スピネにおやつをあげているではないか。見たい見たい、と椅子から立ち上がって急いで彼の方へ歩き、おやつを食べるスピネを眺め)
お坊ちゃん、スピネの教育もお忘れなく
(はぐはぐと小さなからだで満足気にお菓子を食べるスピネが愛らしくて。彼が食べ終わったのなら皿を下げなければ、とスピネから目を離しては皿をワゴンに載せながら一言、)
分かってる
(口でそう答えていても、視線や意識はスピネの方へ一直線。可愛い可愛い、と夢中になっておやつを食べる様子を眺めた後、スピネを抱き抱えてはその頭を撫でて)
…また夜、伺いますからね?
(彼のスピネに対する態度はわからなくもないが、この家に来たのだからしっかり躾て貰わなければならない。とはいえ、きっとスピネは頭のいい子だから大丈夫だろう。ワゴンを片手に部屋を後にして、)
(彼が去っていった後、この部屋にはスピネと自分だけ。抱いていたのを下ろしてやり、部屋の中を興味津々に歩き回るスピネには胸がときめくばかり。こうも眺めていると、次第に自分がスピネと遊んでやりたいという気持ちも芽生えてきて。勿論、猫じゃらしなんてものは貰っていない。それなら……と徐に自分の杖を取り出すと、そのままリズム良く一振り。猫じゃらしでもなんでも、スピネと一緒に遊べるものがいいなぁ、なんて思っていたが、ガシャンと音を立てて現れたのは……大量の釣竿。その数、ざっと数えても30は超えているだろう。猫じゃらしと系統は似ているものの、釣竿は釣竿でしかなく。やってしまった……と苦虫を噛み潰したような表情になり)
__漁師になるおつもりですか、
(午前の仕事や雑務などに追われていれば、彼が寝る時間くらい直ぐにくる。また夜に、と彼に伝えた通り再び彼の部屋の前まで来ていたのだが、部屋からガシャン、と音がして。何か物でも倒したのだろうか、とすぐさま扉を開ければ目の前に飛び込んで来たのは大量の釣竿で、思わず目を丸くして)
これは…………その……っ
(隠れて魔法を使って失敗したこと。自分にとって失敗だとは認めたくないが、猫じゃらしを出そうとして釣竿なんて失敗でしかない。それを口にしてしまえばそれを認めることに変わりはなく、声にするのを憚られてしまう。ばつが悪そうに俯いては必死に言い訳を探し)
何度も試す事、それも勉強です
(なぜ彼は釣竿を出したのか。彼の様子から出したかったものは釣竿ではなく、別の何かなんだろうと察する。ちょいちょい、と足で釣竿を触るスピネを見て何か気づいたようで、彼を責めることも、問い詰めることも無く釣竿を避けつつ部屋に入り、スピネを抱いては彼の元に退かせ。ゆっくり杖を振り、出された釣竿を片付ければ広くなった床を見つめつつ、優しい声色で、)
_はい、私はなんにも見ておりません
…………ヴィラぁ……っ
(てっきり、いつものようにを揶揄されるものだと思っていたのだが、彼の反応は真逆。単純に驚いて瞬時に言葉が出てこない。まさしく神対応と言える彼の言動に言語化できない感情を覚え、じわりと目の端に涙が浮かび。弱々しく名を呼んでは彼の元へ)
おやおや、困ったお兄さんですね、
(余程不安だったのか、たちまち瞳を潤ませて弱々しく自分の名前を呼びながらこちらに来る彼の頭を撫でつつ、やれやれ、と息を吐き。釣竿は自分が綺麗さっぱり片付けた。もう一度頑張りなさい、との意味を込めて彼の背を叩き、)
……うん
(ぐすん、と鼻を啜ると、まだ潤んだ瞳のまま彼の方を見上げてこくりと頷き。気持ちを改め、ぎゅっと杖を握り直すともう一度杖を振る。暫く間が空いた後、その場にぼんっと現れたのは猫じゃらし数十本。相変わらず数はあれだが、お目当てのものは出せたようで)
………まあ、気持ちが強い、ということにしましょう
(一か十なのか、…と、頭を抱えてからかいたくなるのを堪えて。彼は彼なりに頑張ったのだ、十数本の猫じゃらしはそれ程彼のスピネに対する気持ちが強かった、そうフォローしておいた。杖を振り、猫じゃらしを2本残せば残りは別のおもちゃに変えてやり、)
……!
(瞬く間に別のおもちゃへと変わった猫じゃらし達。その業に尊敬の視線を彼に向け、まずは早速一本猫じゃらしを手に取ってスピネの元へ。目の前でゆらゆらと揺らしてやると、見事な食い付きを見せて)
…似てしまったのでしょうか?
(猫じゃらし1本にまんまと引っかかって楽しげに遊ぶスピネ。猫じゃらしには反応しない猫もいるし、楽しげなのを見ていればこちらも嬉しい。しかし、主人であるノエルに似てこの子も単純なのかとわざとらしいとぼけた顔をしながら首傾げ)
スピネも頭がいいってことか?
(何処が似ているんだろう……と少し考えてみる。彼の本来の言葉の意図には気付いていないようで。スピネをじゃらしながらきょとんとした瞳で彼を見ては首を傾げ)
スピネの方”が”、の間違いです?
(どうやら本来の意味は伝わらなかったようだ。やれやれとため息を着けばもう一度、彼が理解出来るように噛み砕いては嫌味ったらしく説明してやり。)
僕はそこまで頭が悪くない!
(たとえ対象がスピネでも、猫と比べられて自分の方が劣っているなんて言われれば納得いく訳ない。彼のからかいはやはりいつも通りであり、腑に落ちない表情で反論し)
それはそれは、大変失礼致しました
(クスリ、顎に手を当て笑みを零せば、おもむろに杖を振り。綺麗に直されていくベッド、そのすぐ下に置かれたのはふわふわふかふかのスピネ専用のベッドで。使うかは分からないが、用意だけはしておいた。「ほら、寝る時間ですよ」ぱん、と手を叩き、)
ほらスピネ、ベッドだぞ
(彼が出したものに関心しつつ、猫じゃらしに意識が向いているスピネをベッドの方へ連れていき。そのまま抱き上げてふかふかの上に乗せると、くるりと丸まって瞳を閉じて。その様子を可愛い可愛いと眺めながら笑みをこぼし)
さ、お坊ちゃんもどうぞ
(どうやら気に入ってくれたようで安心した。丸まって目を閉じたスピネのお腹あたりがゆっくり上下に動いているところを見ると、もう寝てしまったのだろう。スピネを眺めている彼の横で枕にバニラの香りがするピローミストを吹き掛け、準備が整った所でベッドをぽすん、と軽く叩き)
、もう寝る時間なのか?
(まだ目が冴えており、まだ寝るには少し不満げで。これ以上起きていると次の日は寝坊確定といっても過言ではないのにも関わらず、もう少し起きていたいらしく。むすっと彼の方を向き視線で訴えかけて)
ご自分で起きれるのなら、いいのですよ?
(まだ目が冴えているのか、これはどう言いくるめても寝ないな、と彼の態度を見てはわざとらしく肩を竦めて首傾げ。明日は起こさないですよ、と言いたげに既に日付を超えた時計を指さしながら)
子守唄でもご所望ですかね、
子守唄……?
(自分で起きられるのかと問われれば、答えはNO。ぎくりと視線を逸らしていると、彼の口から子守唄、なんてワードが飛び出したことに驚いて。子守唄……まだ彼がこの家に来る前、母親から歌ってもらった思い出はあるが、彼の歌声は聞いた記憶がない。目は冴えたままだが、彼の子守唄を聞いてみたいという好奇心につられてベッドの中へ向かい)
随分素直な…おいくつでしたっけ、
(まさか子守唄で釣れるなんて。冗談半分、本気半分で話したことに彼がこんなに食いつくとは予想外で。おや、と目を丸くしつつもベッドの中に潜り込んできた彼の背を?一定のリズムで叩き、いつもより少し低い声で子守唄を歌って、)
別に、それで寝る訳じゃないからな
(子守唄で寝るほど子供じゃないから、なんて宣言してベッドに横になり。眠らないよう目は開いたままだが、彼の子守唄が耳に入ってくると、だんだん瞼が重たくなっていく。落ち着いていて普段とはまた違う声色に、自然と心が動かされ。あれだけ宣言した癖に、数分後にはこてんと眠りに落ちて)
はい、おやすみなさい
(”別にそれで眠る訳ではない”と、あれほど自信ありげに宣言した人物だったとは思えないほどこてんと彼は寝てしまった。狸寝入り、というわけではなく、本当に寝てしまったようで。思わず声を出して笑いかけるが、なんとかそれを抑えては自分も目を閉じて)
(/次の私のレスでクリスマスに入りますね、!)
(今日はスピネが来たり、お世話で忙しかったりと「初めて」が沢山あった。そのため、どっと疲れが出たのだろう。深い眠りの中、楽しかったことが夢に出てきたのか小さく笑みを浮かべ)
(/了解しました、宜しくお願いします……!)
(それから数日後のクリスマス。この日の為にばたばたと毎日を忙しく過ごしていた。朝焼けが見える時間帯に起きれば、廊下にも、各部屋にもきちんとクリスマスの飾りを施して。彼へ用意した朝ご飯もクリスマス風だ。食器を片しながら、彼へ問いかける)
いい子にしていましたか?
当然だろ
(彼からの問い掛けにふふんと自信ありげに胸を張ってそう答え。サンタさんが来るから、と最近は早寝早起きや勉強を頑張っていた。自分自身、今日が楽しみで仕方ないらしく明るい声色で)
お坊ちゃん、プレゼントは届いておりました?
(この時期になると、まだサンタさんを信じている彼の生活態度が急激に良くなる。自分がからかう回数も自然と減って少々寂しいものだが、胸を張る彼は微笑ましい。昨晩、プレゼントをベッドの足元に置いておいたのだ、上記を問いかけながらはて、と首傾げ)
それは…………あった!
(そういやまだプレゼントを見付けていない。起きたばかり、枕元には無かった筈で、一体何処にあるんだろうかと周りを見渡して。そしてベッドの足元に置いてある綺麗に包装された箱を見付けると、ぱぁっと顔を明るくしてそれを手に取って)
よかったですねぇ、
(3日は悩んだ、彼のクリスマスプレゼントは何にしようかと。ひとつは青い宝石がスピネとお揃いのループタイと首輪で、もうひとつは原題でいう音楽プレイヤーのようなものを箱に詰めてみたのだが、果たして彼は喜んでくれるだろうか、)
(包装紙を剥がして箱を開けると、中にはまたもや箱が二つ。どちらから開けようかとわくわくしながら片方を手に取り、そのまま蓋を開ける。きらきら光輝く宝石の付いたそれらに瞳を輝かせ、ループタイは自分の首へ、スピネを自分のところへ抱き抱えて首輪を付けると、ご機嫌に彼の方を向いて)
どうだヴィラ、似合ってるか?
ええ、とてもよくお似合いです
(それはそうだ、なにせこの自分が選んだのだから似合わないはずがない。どれだけそばに居ると思っていることか。しかし、彼は純粋にもサンタからのプレゼントだと思っている。ご機嫌な様子で自分の方を向く彼に、にこりと笑って)
(彼からの返答に満足げに笑みを浮かべ。大切にしよう、と貰ったループタイを一撫でした後、もう一つのプレゼントに手を掛けて。中身を開くと、何やら四角い機械のようなものが入っている。初めて見る代物にきょとんとした表情になりつつそれを取り出し、首を傾げて彼を見て)
なあヴィラ、なんだこれ?
…ね? 凄いでしょう、
(彼が使い方が分からないのも無理もない。なにせこれは滅多に出回らない物だから。きょとりとしたままの彼からプレーヤーを手に取れば、ぽちぽちとボタンを押し。すると、いつもラジオなどで流れる音楽が鮮明に流れ出して、)
、凄い、凄いぞヴィラ!
(ぽかんとしたまま、彼が謎の機械を操作する様子をじっと眺めていて。数秒後に聴き慣れた音楽がその謎の機械から流れ出すと、驚きと興奮で瞳が一回り大きく開かれ。いつもより一つや二つ高くなった声のトーンで感想を口にして。まるで魔法のようではないか。彼からその機械を貰うと、自分でもぽちぽちボタンを弄ったりと興味津々。ループタイ同様、此方のプレゼントも大好評らしく)
壊さないでくださいよ、
(これを持っている人なんて、珍しいんじゃないだろうか。かなり無理を言って取り寄せてもらった商品で、彼の気に入りように思わず笑みがこぼれたのも束の間。やれやれといつものように嫌味をぽろり。とはいえ、比較的ボタンを少ないのを選んだ。彼でもすぐに慣れるはずだ、)
そんなに直ぐ壊すわけないだろ
(流石に貰ったばかりの物を直ぐ壊してしまうほど、自分は無神経ではない。彼からの嫌味にむっとして、プレーヤー片手に腕をぶんぶん振って反論し。壊さないでと言われたばかりにも関わらず扱いが雑になってしまっていることは気付いていないらしく。その拍子に電源ボタンに触れてしまった、軽やかな音楽が止まり、当の本人は突然音が消えた原因なんて全く理解しておらず、驚きを隠せていない。「まさか……壊れたのか……?」なんて苦虫を噛み潰したような表情で、恐る恐る相手に視線を向け)
短い命でしたねぇ……
(彼が電源ボタンに触れたことでぴたりと音が止み。それを壊したのだと勘違いして、とんでもない顔をしている彼をからかうように、わざと肩を竦めてやれやれ、と首を振り。「そこ、真ん中のボタン押してみては?」ふふ、と意味ありげに笑いながら彼に原因を理解してもらおうと、あえて彼に電源ボタンを押してもらうことにした、)
ここ……
(彼に言われた通り、ぽちりとボタンに手を触れそのままぐっと押して。すると、また再びあの軽快なメロディが流れ出す。どうやら壊したわけではなかったらしい、と安堵の息を吐くと同時に「なんで壊れてないって教えてくれなかったんだ!」と彼に不満の意を示し)
これも勉強かと思いまして……
(不満を漏らす彼におや、と目をぱちくりさせ。まさかそんな風に言われるなんて心外だと言わんばかりの反対を見せつつ、「後は焦っている様が面白くて、つい」なんて無駄に綺麗に笑ってみせた。どのみち壊れたら壊れたで夜な夜な直すつもりではいたものだが)
またお前は……
(彼が見せたその笑み、本来ならその言い分にむっとなって言い返すところなのだが、そんな顔をされては何も言えなくなってしまう。ぷくりと不満げに視線を逸らすが、貰った音楽プレーヤーは大切そうにポケットへ仕舞って)
…これは私からのプレゼントです
(音楽プレーヤーを大切そうにポケットにしまう彼を見て、にこりとまた笑いかける。そうこうしながら杖を振れば、いつもより明らかに薄い魔法式の問題集と書き取り用紙1枚がふよふよと空中に浮いて、)
特別ですよ、どちらがいいです?
……こっち
(彼からもプレゼントが貰えるのか、と期待を込めた瞳で相手を見つめるが、そこに現れた問題集や書き取り用紙等の勉強道具にうんざりした表情に早変わり。クリスマスだから今日は勉強無し!と密かに願っていただけあって、ショックもそこそこ大きいものだったが、その量に関しては彼の優しさが感じられる気もする。ここで反論して量を増やされてしまえばたまったものではないので、渋々ふわふわ浮いている問題集に手を伸ばし)
メリークリスマス、お坊ちゃん
(ふわふわ浮いていた問題集に彼が手を伸ばし、その指先が問題集に触れた途端、問題集が新しい杖へと姿を変えた。先端には綺麗な宝石が嵌め込まれ、彼の手に馴染みやすいような形になっており。特別だと言ったでしょう?、そう付け足して、)
(一瞬、何が起きたのか分からなかった。確かに、ついさっきまでは見慣れた問題集が宙にあったのだが、今はどうだ。そこには問題集も何もない空間、その代わりに、自分がいつも使っているものよりも十分に質のいい杖が手のひらの中にある。随分とにぎり心地も良く、数回振ってみただけで使いやすさを実感した。本当に問題集がプレゼントなのか、と半分諦めていたところにこれだと、貰ったときの嬉しさや感動も倍になるというもの。きらきら、感謝の念が籠もった瞳で彼を見、)
ありがとうヴィラ。大切にする。
もう下手な失敗はできませんねぇ、
(彼が一定量の魔法を安定して扱えるようになった時には、彼に似合う杖を贈ろうと決めていた。もちろんこの杖は彼が元々使っていたものを元に仕上げたもので、これで無駄は無いはずだ。これからも彼の成長を見届けたい、その思いで贈ったプレゼントをこうも喜ばれるとは思っていなくて。いつもの嫌味をちくりと刺しながらも、彼の目を見てこくりと頷き)
(自分に向けられたその視線。毎度恒例となっている嫌味はさておき、それには彼の期待が込められていると言ってもいいだろう。その思い、無駄にはしたくないと頷き返す。……なんだか今日は物を貰ってばかりだ。そりゃあクリスマスだから当然といっては当然なのだが、こう自分だけプレゼントを貰って喜んでいると彼に申し訳無い気持ちなんかも芽生えて来て。そもそも、彼がクリスマスプレゼントを貰ったのかどうかも定かではない。まだ彼くらいの年齢でもサンタは来るのかどうか、と思考を巡らせつつ)
……お前は貰ってないのか?その、クリスマスプレゼントとかは
………私ですか、?
(なにを言われるかと待ち構えていたら、クリスマスプレゼントの心配をされてしまった。基本的にもう12歳頃で世の中のサンタクロースは役目を終えると思っていたのだが、彼が信じているサンタクロースの存在は潰したくないし、はてなんて答えようと若干答えるまでに間が空いてしまいつつも、素直に答えて)
もらっていないですね、
(やはり彼くらいの年齢になるともうサンタさんは来てくれなのか……。その返答を聞いて少ししゅんとなるも、それが大人になるということなら仕方ないのかと納得し。しかし、自分だけプレゼントを貰うのはやっぱり申し訳ないという気持ちは変わらないまま。何か決断したように立ち上がって引き出しから硬貨の入った──自分のお小遣いが入った袋を取り出してはポケットに仕舞い)
町に行くぞ、ヴィラ。お前にクリスマスプレゼントを買ってやる。
いえ、その、それは…
(基本的に自分は与える側の人間であり、与えられるのは慣れていない。しかもこのクリスマス、自分は彼のために色々用意していたのだ。自分にクリスマスプレゼントと言われればその慣れない言葉にふるふると首を振り、「その硬貨は、お坊ちゃんのためにお使い下さい」_一度意思を固めた彼が中々下がらないことを予想しつつもやんわり断ってみて、)
駄目だ
(断られるのは想定内、ここで折れてしまえば結局意味が無くなってしまうため、引き下がる訳にはいかないのだ。クリスマスプレゼントのお返し、彼への感謝の意を込めての自分からのプレゼントでもある。彼の言葉をばっさり切り捨てると、彼の片腕を引っ張って)
ほら、早く出掛けないと店が閉まるだろ
…まるで猪ですね
(こうなると彼は止まらない。それがもし、危険なことであれば止めるのが自分の義務だが、彼は自分に渡すクリスマスプレゼントを買うと言っているのだ、その気持ちを折る訳にはいかなくて、彼に腕を引っ張られながらやれやれと首を振りつつ、ぽろりとそんな嫌味を零し)
(いつもなら嫌味には言い返す所だが、今日はわざわざ反応している暇はない。あれから止まること無く足を進め、街中へとやってきた。アンティーク雑貨の専門店や宝石店やら時計店など、洒落た店が並んでいる。クリスマスプレゼントを買ってやる、なんて言ったは良いものの、そういえば彼本人の欲しいものはまだ訊いていなかった、一度足を止め彼の方を向いて)
なぁヴィラ、何が欲しいんだ?この近くにお前の欲しいものが売ってればいいんだが。
お坊ちゃんが選んで下さらないのですか?
(アンティーク雑貨、煌びやかな宝石、小洒落た時計店など様々な店が並ぶ中、正直、これが欲しいと明確な物は決まっていなかった。それもこれも、どれも彼の笑顔や存在には劣るものばかりなのだから。
彼の気持ちを無下にはできず、さてなんて答えようかと数秒の間を置いたあとで目を丸くしながら問いかけ、)
僕が……?…………分かった、
(普段彼は物を欲しがらない、だからこそ、口に出していないだけで本当は何か欲しいものがあるのではないかと思っていたが、どうやらそれは違ったらしい。回答に困っているであろう彼の口から飛び出したのは想定外の言葉で。まあなんにせよ、それが彼の願いならば無理矢理欲しいものを聞き出す必要も無いだろう。……となると、今度は自分がなにか、を探さなくてはならない。今まで彼に貰ったもの、彼の好きそうなもの……やはり日常的に使えるものがいいだろうか。その結論は未だ出ないまま、取りあえず商品を見てみようと彼を連れてアンティーク雑貨の店内へ)
へぇ、美しい時計ですね
(連れてこられた雑貨屋で、様々なアンティーク雑貨を珍しいそうに見回して。どれも凝った細工や細やかな色の変化がそれは美しいが、欲しい物は特に無い。彼が何かを選んでくれるのだろうか、年甲斐もなくわくわくと心を踊らせながらそう呟いて、)
(店内へ入るとそこは圧巻の品揃え。アクセサリーや筆記具を眺めつつプレゼントはどれにしようかと思考を巡らせていると、彼の呟きが耳に飛び込んでくる。自然と視線は時計の置かれている場所へと移動された。そこには置き時計、掛け時計、腕時計と多種多様な時計達が一定のリズムで時を刻んでおり、どれも劣らぬ優秀品。そっと値段を確認すると、流石はアンティーク。一般的な時計の何倍もするであろう数字が書かれており、思わず表情を曇らせる。お金を貯めていたとはいえ、今の自分には到底届かない値段であった。残念そうに視線を落とすと、その視線の先には懐中時計の並べられたガラスケースが。ふらりと近づいてデザインにも目を通す。安定の細かな装飾と、他の商品に比べてリーズナブルな値段。これに決めた、こっそりと此処の店主を呼びつけ、その商品を指差して会話を交わす。彼は気付いているだろうか、自分が今何を買っているのか──。支払いを終え、ラッピングされたそれを丁寧にポケットへ仕舞うと、商品を眺めていた彼の背へ声を掛け)
もう用は済んだ。帰るぞ、ヴィラ。
……おや、もう決められたのですか?
(こちこちとそれぞれの時間を刻む時計の音が心地よく、もう何年も彼の隣で仕えているとはいえ日頃の緊張された精神が解かれていくようだった。自分の部屋にも、こんな風に癒される時計があっても良いかもしれない。そうだ、雨の日がつまらない物にならないよう、彼の部屋に綺麗な時計を置こう。
いつの間にか、考えていた彼のこと。やはり自分には彼の成長と、彼と一緒に過ごせるのが1番のプレゼントのような気がする。
そんな物思いに耽っていたからか、彼が何を買ったかなんて気づいていなかった。帰る、と言われてぱっと意識を引き戻し、)
…まあな、
(彼を連れて店を出ると、人気の少ない路地へ移動し。こう、改めて二人きりになると変に緊張してしまう。普段そんな話をしないからこそ、つい表情が強張ってしまっているのだ。もう一度周りに人が居ないことを確認すると、おぼつかない手付きで先程買ったばかりのプレゼントを差し出し。丁寧に包装された箱の中身は薔薇をかたどった懐中時計であり)
……これ、お前に……メリークリスマス
メリークリスマス、……中を開けても?
(彼の強ばる表情と、おぼつかないその手付きに自分になにかを渡したいのだろうと察する。差し出されたその箱の包装を壊さないようにそっと両手で受け取って、まるで初めて外の世界を目にした鳥のようにわくわくした心を表に出さぬよう、彼に首を傾げて問いかけて、)
あぁ、
(照れくさいのか短くこくりとだけ頷く。果たして彼は喜んでくれるだろうか、ドキドキと徐々に大きくなる胸の鼓動は落ち着きそうになく、そわそわしながら相手の反応を伺い)
これは…
(ぱか、と箱を開ければそこには薔薇をかたどった懐中時計があり。この懐中時計が先程の店のどこにあったのか、自分はまったく気づかなかった。一目見ただけでそれが丁寧に作られたことがわかり、自分にこんなに丁寧に作られたものを彼が送ってくれたことが嬉しくて。箱の中の懐中時計を人差し指で撫でつつ、静かに微笑めば)
ありがとうございます、お坊ちゃん
……別に、普段のお礼も込めてだからな
(想像以上に彼は喜んでくれた。嫌味もからかいも無く、こうして素直にお礼を言われると、慣れていないせいもあるのかやっぱり照れくさい。赤く染まってゆく頬を隠すように俯いて視線を逸らし、ぼそりと呟いて)
…明日からは水をお出ししましょうか、
浮いた食費代はお坊ちゃまのお財布へどうぞ
(大人の自分から見れば、懐中時計はぽんと買えてしまうもの。それをまだ子どもである彼が買ってくれたのだ。いくらほかの時計や雑貨より手が届くような値段だったとしても、彼からしたらきっと高い買い物だったはず。
大袈裟に彼の顔を心配そうに覗き込み、心配する素振りを見せればそんなことを呟いて、)
馬鹿にするな、まだ貯金は残ってる
(流石に彼のプレゼントで今まで貯めてきた全財産を使いきるなんて真似はしない。もうお金に余裕が無いんじゃないか、とでも言いたげな彼の言葉にむ、と眉間に皺を寄せ、下がっていた顔を上げるとそう反論し)
馬鹿にした訳ではありません…、私は将来を思ったまでのことです
(彼の眉間に皺が寄っているのを見ては、馬鹿にした訳ではないのにと悲しそうに眉を下げ。勿論ただの演技で彼をからかっているだけなので、すぐにいつもの表情に戻れば彼からのプレゼントを大切そうに仕舞えば「墓場まで持っていくものが増えました」だなんてくすりと笑い、)
(墓場まで、なんて少し大袈裟な気もするが、そう言ってもらえて嬉しくない訳がない。思わず自然と口角が上がってにやついてしまいそうになるが、照れ隠しかふいとそっぽを向くと、彼の腕を引っ張って)
帰るぞヴィラ、あまり遅くなると父さんが心配するだろ
(/返信遅れてしまい大変申し訳御座いません……!見落としておりました……)
そうですね、まだまだお子ちゃまなお坊ちゃんの帰りをお待ちですから
(ふ、とそっぽを向いてしまった彼のその行動が照れ隠しだと直ぐに気づけば、あえてなにも触れずに大人しく引っ張られ。少しの毒を混ぜつつ吐いた言葉は自分のいつも通りであり、すたすた歩いては彼の隣に並んで、)
(/お気になさらず…!私も遅れてしまいすみません!
この後なにかやりたいことなどはありますか?)
(/そうですね、このままふわふわ日常を綴っていくのも、小さなハプニングを起こしてみたり、季節ネタ等イベントだったり、過去未来のパラレル的展開でも……どう転がっても盛り上がりそうなので困ってしまいます(汗)
質問を質問で返すことになってしまうのですが、背後様は逆に何か希望ありますでしょうか……!)
(/とってもベタですが、体調不良ネタやりたいです…!! なんか魔法の調子が悪いな、から実は熱だったり……介抱する側でもされる側でもどちらでも大丈夫なので、よろしければぜひ…!)
(/それも思ったんですよ…!是非是非やりましょう、大賛成です!此方としても病人側看病側どちらの立場でも大丈夫なのですが、如何いたしましょう?
…ボソ…個人的にはヴィラさんを看病してみたいところです……)
おはようございます、お坊ちゃん
(いつも通りの朝。自分の身支度を整え、向かうのは彼の元。こんこん、と彼の部屋のドアをノックしては部屋に入り、まだ眠っているであろう彼を起こす為かちゃんとドアを開けては中に入り、)
ぅ、んん……
(すやすやと心地良さそうに眠っていたところ、自室の扉が開く音、そして誰かが入ってきた気配を感じてはうっすらと瞳を開け)
体を起こさなければ、起きているとは見なしませんよ
(うっすら開いた彼の瞳を確認し、いじわるなことを呟く。今日の朝食はポタージュと焼きたてのパン、その他二、三品を説明する、いつものようによく回る舌に不調は感じられないが、カーテンを開けたのち、クローゼットから服を取り出そうと杖を振ってみたのだが、全く反応せず_つまり、失敗しているのだが、それに気づいていないようでまた杖を振り)
朝から意地悪だな、お前は……
(彼の言い分にむ、と不服そうな表情で身体を起こし。まだ若干の眠気が残るが、ここでうだうだと粘っていても終わりのない毒舌が飛んでくるだけ。ふあ、と大きな欠伸でその眠気を払拭すると、いつも通りに朝食を済ませ。さあ次は着替えか、これもいつも通り、彼が着る服を準備してくれる……筈なのだが。何故だか上手くいかない彼の魔法に不思議そうに首を傾げ)
どうしたヴィラ、何をしてる
私も人間ですから、失敗するときくらいありますよ
(その後3回目でいつものようにクローゼットから服が飛び出し、彼に着られるのを待っていたかのようにベッドの上に置かれた。なんら難しくはない、ただの日常で使う魔法で失敗するなんて、どうしたのか聞きたいのはこっちの方だ。不思議そうに首を傾げる彼に、"私を何だとお思いで?"そう返したもののいつもしない失敗をしているのは明白であり、)
…………、
(彼の言葉には若干の疑問を持ちつつも用意された服に着替え。人間なのだから仕方がない、確かにその一言で片付けられてしまう問題ではあるのだが、どこか胸に引っ掛かりを覚えてしまう。その不信感を取り除くためにも、ここは一つ彼を試してみることにして)
おいヴィラ、もう僕の勉強の時間だろ。
机に問題集を準備しろ。そこの本棚に仕舞ってある筈だから、
おや、明日は空から槍でも降るかもしれませんね
(彼から勉強の用意をしろだなんて、どういう風の吹き回しだ。慣れた手つきで勉強道具が独りでに机に広がるイメージをしながら杖を降ったのだが、教科書たちが浮くどころか独りでに動いたのは全く関係のない観葉植物であり。…つまりはイメージが上手くできていないのだがそれにも気づいておらず、まだ少ししか力を使っていないのに既に息は荒く、)
(やはり、今日の彼は明らかにおかしい。……彼を試してみて正解だった。この呼吸の乱れ具合、イメージが続かない、つまりは集中力の途切れ…これらの症状から導き出される結論なんて限られているだろう。彼の様子からしておそらく、今の自分の状態でさえ理解していないのではないか。…ともかく、このまま放っておくわけにはいかない。側にあった椅子の一つを引くと、そこに座るよう指示をして)
…一度座れ。お前は今日、魔法を使えていない。
…お坊ちゃんには言われたくないのですが…
(魔法が使えていない?彼に言われるということは、認めたくはないが本当に使えていないのだろう。それを彼に指摘されてからやっと気づくだなんて_そういえば、今日は考えがまとまらない。まるで透明のフィルムに頭が覆われたようだ。ふらりとよろけるようにして彼に言われた通り椅子に座れば、どこか焦点が合っておらず顔も火照っていて、)
今日はもう休めヴィラ、凄い熱だぞ……
(ぺたり、座り込んだ彼の額に、自身の手のひらを押し当てる。熱い。いくら執事とは言えど、こんな状態で仕事なんて頼めるわけがない。部屋まで戻って安静にしているように促し、そっと彼の背に手を当てて)
取り敢えず寝室まで戻るぞ、……動けるか?
は、………すみません
(凄い熱だなんて、そんなはずはない。なぜなら、彼の世話をするにあたって、まずは自分の体調が万全でなければ仕事の効率も何もかも落ちるからだ。だからこそ気をつけていたはずなのに、1度熱だと言われると自分の状態がやっと自覚できたようで、素直に彼の言うことを聞けばゆっくり立ち上がって)
(立ち上がった相手を支えながら廊下を通って彼の寝室まで移動し。そのまま彼を寝かせて布団を掛けると同時に口を開いてそう言い残し、濡れタオルを取りに行くため洗面台の方へと足を進め)
今日一日はしっかり休むんだな。今タオルを持ってくるから、
…どこに、行かれたのですか…
(情けない、これでは執事の意味が無いではないか。大人しくベッドで寝ていたのもほんの少しで、上半身だけ起こして辺りを見れば彼の姿が見当たらず。熱さと怠さ、加えて鈍く響くような頭痛で頭が回らず、ついさっき彼の言っていたことすら思い出せなくて探しに行こうとするものの、これ以上体を動かせなくて今の姿勢のまま、ぼーっとドアを見つめており)
勝手に起き上がるな…!
(水の張った洗面器とタオルを持って彼の寝室へ向かう。がちゃり、ドアを開くと視界に入ってきたのは虚ろな目で此方を見つめる彼の姿。水を溢さないよう気を付けつつ洗面器をベッドの片脇にある机へと置き、半ば無理矢理起き上がっていた彼を横に寝かせ。水に浸して冷たくなった濡れタオルを絞って折り畳むと彼の額へと乗せる。汗を拭き取りながらも、病人なんだから安静にしてるよう釘を刺し)
今日一日は寝てろ、勝手に動いたら許さないからな
すみません、こんな姿を…
(戻ってきた彼を見ては、ほっと安心したように僅かだが眉を下げ。そのままされるがまま、ベッドに寝かせられては額にひんやりとした感触を感じて。
こんなことを主人にさせている情けなさだろうか、熱のせいだろうか、素直に零れた言葉は弱々しく、)
そこにいてください、見えないのは不安だ…
……僕は離れない。安心して休んでろ
(普段の彼からは考えられないような彼の弱々しい声色に、少し胸が締め付けられる。思わず表情が曇ってしまいそうだが、彼に変な心配を掛けさせないためにもここは平常心で振る舞って。彼の汗を拭いたタオルを一度畳んで避けておくと、ベッドの傍に置かれていた椅子へと腰掛け)
食欲はあるのか?……熱の時は体力を使うからな、何か食べたいものは?
いちご…
(安心して休んでいろ、そう言われれば少しは落ち着いたようで。なにか食べたいものと聞かれて、真っ先に思い浮かんだのは好物のショートケーキ。だがしかし、歩くのもしんどいこの体調でショートケーキは食べれたものじゃない。ならば、いちごだけでも口にしよう、温かいスープよりも冷たい果物の方が喉を通りそうで、彼にそのことも伝え)
……分かった、
(返答を聞くに食欲はまだ残っているようだ。こくりと頷いて了承すると、彼の要望の品をはてさてどうやって手に入れようかと思考を巡らせ。まず第一に思い浮かんだのは魔法で苺を生成する方法。……普段物を動かすだけでも一苦労だというのに、果たして何もない空間からいちごなんて出せるだろうか。今の自分の腕前からしてそれは難しいか…そんな結論に陥るが、苺の入手方法は振り出しに戻ってしまった。きっとキッチンの方へ行けば冷蔵庫に幾つか果物が冷やされてあった筈。彼の病状からしてここを離れるわけにはいかない、因って導き出される答えは1つ「冷蔵庫内の苺を魔法でこの寝室へと運ぶこと」。距離はあるものの、前述した方法よりも成功する確率はぐんと上がっただろう。そうと決まれば杖を構え)
少し待てヴィラ、直ぐに苺を持ってくる
…できます、?
(ちらりと彼を見れば、杖を構える姿。…どうするつもりなのだろう、予測を立てることも出来ない。熱ってこんなにしんどかったっけ、改めて自分の体調の悪さを自覚する。それでも、杖を構えたということは魔法でどうにかするつもりなのだ。彼の魔法の力はどれ程か理解しているので、ぽそりと不安げに問いかけて)
僕の魔法を甘く見るな
(不安そうな彼を振り返ると「病人は黙って見ていろ」とでも言いたげな声色でそう返して。その後手元の方へ意識を戻すと、冷蔵庫から苺を取り出し此処まで届く、その一連の流れを想像しながら杖を振り下ろす。……数秒後、どんっ、と此処の扉に何かがぶつかる音、扉を開くとその先には苺の入った籠が転がっており。幸いにも中身は出ていない。冷やされたその籠を拾い上げ彼の元へ戻って。その途中、彼の寝室の扉が軽くへこんでいたり、料理人の叫び声が聞こえてきた気もしないが、そこは見なかった、聞かなかったことにする。先程拾ってきた籠を彼の前へ掲げ)
ほらなヴィラ、僕だってやる時はやるんだ
ふふ、…成長しましたね
(見事苺を用意することに成功したらしい。振り返った彼が自分の前に掲げた籠、それは苺を入れるもので。ゆっくり体を起こして中を見れば確かに苺が入っており、成長したなあ、と柔らかく笑って。そういえば鈍い音がした……ような気がするが、頭痛だろうか。難しいことは考えないようにしようと思考を諦めれば、あ、と小さく口を開けて)
(彼に褒められたことが嬉しくて、自分から褒めてくれと言ったようなものにも関わらず、照れくさくなってふいと視線を逸らしてしまう。ちらりと視線を戻すと開かれた彼の口が視界に入り、何事かと首を傾げるがその意図を汲み取るのにそう時間は掛からなかった。苺を一つ手にとってヘタを取ると彼の口へと入れて)
…おいしい、
(口の中に入れてもらった苺を咀嚼して、口に広がるみずみずしい甘酸っぱさに思わず頬が緩む。これが食べたかったのだ。ごくりと飲み込んでは、どこか落ち着いた様子で。普段の自分なら、彼に食べさせてもらおうだなんて思わない。しかしすでに思考が止まっているようで、ふわふわと熱特有の浮遊感に身を任せればいちごを手に取り頬張って_
……無理は、するなよ
(食欲はあるようで安心した。心なしか顔色も次第に良くなっている気がして、ふっと胸を撫で下ろす。幸せそうに苺を頬張る彼を側の椅子に腰掛けて眺め。彼が体調を崩すなんて珍しいよな、なんて改めて考えてみる。巷ではこの時期に風邪が流行っているのか、それとも日頃の疲れからか。それぞれ真偽は分からないが、どちらにせよ普段の彼は働きすぎではないか。心配からかぼそりと呟いて)
それくらい、成長していただけると有難いのですが…
(無理はするな、噛み砕いた苺と共に飲み込む。
自分は、彼のことも見ながら自分の体調管理もしっかりできているのだと思っていた。実際、体調を崩すことなんてあまり無かったし、仕事が立て込んで睡眠時間が減ったとしても、翌日の仕事には影響無かった。知らず知らず、疲れが溜まっていたのかもしれない。彼の言葉にいつもより覇気のない毒を吐いた後で、けほりと咳き込んだ後一言、)
肝に銘じておきます、お坊ちゃん
……ふぁ、
(相変わらずの毒舌は変わらないようで、む、と顔をしかめる反面、普段の調子が戻ってきたとどこか安心感も抱いており。普段使わない神経を使ったせいで疲れが出てきたのか、ぷつんと自分の中の糸が切れ、先程までの緊張感を失った欠伸をひとつ)
少し休まれてはどうですか
(彼が欠伸したのを見、自分の看病で緊張していたのだろうと察して声をかけ。
身体の関節はまだ痛むものの、怠さは大分引いた気がする。この程度なら1人でも大丈夫だ。
先程彼に釘を刺されたこともあり、熱と怠さが完全に引くまではベッドで大人しくしています、と態度で示すかのようにベッドに潜り込んで)
駄目だ、今日は離れないって言っただろ……
(いくら自分が疲れているとはいえ、さっき今日一日は一緒に居ると宣言したのだ。彼の言葉は有り難いものだったがそれは出来ないと首を横に振り。彼の態度を見るに、自分がいなくなった後こっそりベッドを抜け出して仕事に戻る、なんてことは無いと思うのだが、念には念をというやつだ。意地でも離れないというようにぐっと椅子に座り直し)
全く頑固ですねぇ……、さすが真面目なお坊ちゃま
(本当に言う事を聞かないんだから、と言いたげに見つめてはやれやれ、とため息をひとつ。加えて真面目だ、なんて茶化す言葉も付け足して。
とはいえ、体調の悪い時に彼がそばにいてくれることの心強さは自身の想像を超えていて、安心感からかだんだんと睡魔に襲われていき)
……せいぜい今日一日はベッドの上にいるんだな
(茶化しに対してはもう慣れたものだが、やはりむ、と眉をしかめ。しかし、もう既にまどろみの中にいる彼を現実へと引き戻すのは良くないだろうと声にすることは躊躇う。その代わりに小さな声でそう言っては、彼を今一度眺めた後、これ以上悪化することはないだろうと小さく微笑んで。そうこうしているうち、自分も眠気が襲ってきたらしい。彼の寝ているベッドに突っ伏してしまえば、そのまま眠りに落ちてしまい)
ずっと居たのか…?
(薄ら感じる光に、眉を寄せつつも目を開けて。
どうやら昨晩はあのまま眠ってしまったようだ、体調を崩したのは自分が思っていたよりも体に負担をかけていたらしい。彼の介抱もあってか今はもう不調などなく、昨日のだるさがまるで嘘のようで。
ベッドから起き上がろうとすれば、ふと感じた重さで彼の存在に気づき、ぱちぱち瞬きしながら思ったことを一言、)
……すぅ
(襲いかかってきた眠気に勝てず、眠りに落ちてから数時間経過。既に外は明るく、普段ならそろそろ起きる時間であろうが、当の本人はまだ夢の中にいた。昨日の疲れがまだ利いているのか、目を覚ます様子は一切感じられない。彼が起き上がった気配にも気付かないまま、すやすやと寝息を立てており)
ありがとうございます、お坊ちゃん。…本当に、助かりました
(ベッドから降りても、彼は一向に目を覚まさない。すやすやと眠る彼の寝顔、その頬を優しく人差し指で撫で、起こさないよう小声で上記を呟いた。病人の世話なんて慣れないことをしたからか、疲れきってしまったのだろう。本来ならばもう起きる時間だが今日は特別。"自分の身支度がまだだから、起こしに行くのが遅れた"という理由にしておいて、彼をまだ暫く寝かせることにしておいた。顔を洗い終え、杖を1振りすればあっ、という間にいつもの服を身に纏った姿が出来上がり、)
……あれ、
(あれから数分後、うっすらと瞳を開くと彼が寝ていた場所に視線を向ける。そこには既に彼の姿はなく、空っぽのベッドがひとつ。驚きで勢いよく顔を上げると、その勢いのまま立ち上がる。寝癖の付いた頭で寝起きの眼を擦りながら、部屋を彷徨いて彼の姿を探し)
おや、朝から落ち着きがありませんねぇ
(それから、彼を起こさないようにして部屋を後にした。少し遅めの朝食をワゴンに載せてころころと運んできては、とんとんと彼の部屋のドアをノックしてからドアを開け。どうやら彼は自分が部屋を後にしたあとで目を覚ましたらしい。まだ眠たげな目をしながら部屋の中を彷徨う彼に、首を傾げて)
っ?!お前……もう身体は大丈夫なのか?
(ノックの音に気が付かなかったのか、突然背後から聞こえてきた声に驚いてびくりと肩を震わせる。お陰で眠気は吹き飛んだ。振り返るとそこにはいつもの彼の姿。顔色は随分良くなっているが、まだ病み上がりであろう、なのに朝から執務とは…。幾つか心配が残る中そう問い掛け)
私を誰だとお思いで? _そう何日も引きずるような歳じゃありません
(いつものように、口から出た言葉は毒ばかり。とはいえ昨日彼が看病してくれたおかげである。昨日の彼のおかげで、治りも早かったのだ。焼きたてのクロワッサンに温かいスープ、それにベリーのスムージー。早く食べないと味が落ちますと彼を急かしつつ杖を振れば朝食がひとりでにテーブルの上へ座っていき、)
……念のため聞いただけだ
(いつも通りの彼の対応。やはりその言葉ひとつひとつに含まれる毒は健在で、どうやら自分の心配は杞憂に終わったようだ。此処で変に反論しても、また上手い返しで毒を吐かれるだけとこれ以上は言及しないこととして大人しく席に着く。素直になればいいものを…と彼を横目で見つつ、もそもそとクロワッサンを口に運び)
言葉にしなければ分かりませんねぇ
(何か言いたげな彼に、大袈裟なほど困ったように眉を寄せておやおや、と肩竦め。彼が朝食を食べているうちに今日の服を用意しようと、杖を一振り。クローゼットから生きているかのように服がひとりでに動き出し、ベッドの上に畳まれた状態で座った。この前の体調不良が嘘のように完璧な魔法だ、風邪であそこまで不調になるのかと自分でも不思議なほどだ、)
(/いつもお相手ありがとうございます、!!
この後何かしたいなどありますかね…?何しようかなって…)
(彼の含みのある言い方に、自分の気持ちなんて言葉にしなくたって本当は全て読まれているんじゃないかという気になってくる。これ以上の言及を許さないよう「うるさい」と一蹴すると、残り一欠片のクロワッサンをスープで流し込み、スムージーを飲み干したところで朝食を終え。机を離れ、横目で彼を見ながらベッドの着替えに手を掛けた)
(/此方こそいつもお世話になっております…!
そうですね……時期的にクリスマスなんて如何でしょう?)
…冷え込んできましたから、風邪をひかないように。
(一蹴されてしまい、これまたわざとらしく口元に手を当て目を見開きつつ、「ついついこの口が」なんて思っても見ないことをさらりと口にして。
彼の食べ終わった皿を片付けつつ、ふと窓を見れば外は非常に寒そうな空をしていて、彼を労わるように一言忠告し。もちろん彼の心配をしているから出た言葉なのだが。サービスワゴンに全ての皿を乗せ終え、にこりと笑みを浮かべては彼に一言、)
これ以上私の仕事が増えたら、堪ったものではありませんので
(/クリスマス…!! いいですね、そうしましょうか!
クリスマスケーキを手作り、なんてどうですか?材料買う所から一緒に行くのも楽しそうで…!)
言われなくても分かってる、
(口では了承しているものの、つい昨日寝込んでいた人間に言われたくはない、と若干不満気に眉を寄せ。
彼の用意した服に身を包みつつ、自身に向けられた皮肉気味の言葉は聞き慣れたかのように一度受け流すが、どこか腑に落ちない点があったらしく追加で一言)
僕より、まずは自分の体調を心配するんだな
(/それは名案……!大賛成です、是非やりましょう!
切り替えのタイミングに関してはお任せしても宜しいでしょうか…?)
有難いお言葉、肝に銘じておきます
(昨日まで寝込んでいた、彼の看病がなければ今日も寝込んでいたかもしれない自分にとってその言葉は耳に痛いものがあった。珍しく素直に頷きつつ、思わず苦笑いを零して軽く頭を下げ。
手帳を取り出し、今日の予定が特にないことを確認して手帳を閉じようとした手を止め、)
おや。今週末がもうクリスマスですか
(/お返事お待たせしてしまい申し訳ございません!
ちょっと強引な気がしますが、ここで切り替えました)
今年は何が貰えるんだろうな…!
(去年は音楽プレーヤーと、今も自身の胸元で揺れているループタイを貰った。彼の発した「クリスマス」という単語に反応しきらきら瞳を輝かせると、今年もサンタさんが来てくれる筈、そんな期待を込めた視線を向け)
(/こちらこそ反応遅れてしまい申し訳ないです…!
場面転換助かりました!)
クリスマスまででも、成長してくれると非常に助かるのですが…夢のまた夢、でしょうね
(サンタさんなんて存在を信じ、今年のプレゼントに期待を膨らませる彼の素直さに緩く微笑んだのを、上記の嫌味で誤魔化して。どうせ噛み付いてくるはずだから、…少しからかってやろうとはっとした表情と、わざとらしく大袈裟に言ってみせ)
坊ちゃん、実は…その。今年のクリマスケーキ、私たちで作らなければいけないことをいま、思い出しました
(/大丈夫です~!お返事ありがとうございます!)
(普段なら「自分はもう既に成長している」だの「勝手に決めつけるな」だの何かしら反論するはずの彼からの嫌味も、クリスマスという一大イベントを前にすると全く耳に入ってきていないようだ……ったのだが、その後に続く彼の言葉に耳を疑う。例年なら街の洋菓子店で買ってくるなり、料理人に作らせたりとケーキに困ることは無かった筈なのだが。……それにケーキなんて作ったことがない。何故?と疑問符が脳内を埋め尽くすと同時に、彼の口調やはっとした表情も相まって自然と焦りが芽生え始め)
ど、どうするヴィラ!クリスマスまでもう一週間も無いんだぞ!
はい。…ですので、作りますよ。いいですね?
坊ちゃんでも作れるように、シンプルなものにしましょうか
(彼が楽しみにしているクリスマスケーキの用意を忘れるなんて、そんな失態自分はしない。なので先程の自分の発言はちょっとしたからかいのつもり、ケーキはあるから安心するよう言うつもり…だったのだが、あまりにも焦りまくる彼の姿を見、このまま手作りするのも悪くない、にやり、と笑って実行する事を決め。焦る彼に落ち着きなさいと言うかのように杖を振れば、シンプルなショートケーキ、チョコレートケーキ、それにブッシュドノエルのレシピがふわふわと宙を浮き)
どれが食べたいですか? _好きなものを、手に取ってください
(突如現れた宙に浮く3つのレシピ。好きなものを選んでいいと言われたものの、さてどうしようか。折角のイベント事、やはりクリスマスらしいケーキを食べたいものだ。ショートケーキやチョコレートケーキも捨て難いが誕生日ケーキの際に代用できる。となるとやはり……。暫く思考を巡らせた後、ブッシュドノエルのレシピに手を伸ばし)
…これにする。僕でも作れるんだよな?
ええ、勿論。1人で作らせる訳ではありませんし、私が隣に着くので…ご安心ください
(彼にレシピが選ばれると、ほかの選ばれ無かったものはぽんぽんと消えていき。ショートケーキかチョコレートのどちらかを選ぶとばかり思っていたがブッシュドノエルとは。大人になったのか、自分が彼のことをまだまだ子供だと思いすぎていたのか。くすり、と口角を上げて笑ったのも束の間、僕でも作れるかとの彼の問いに、まさか1人で全部作るつもりだったのかとわざとらしく驚いた様子をして、)
僕はもう子供じゃない、お前は見てるだけで十分かもな
(執事という立場上、自分一人で何かさせることはないと分かってはいたのだが、改めて彼が傍につくと伝えられて安心したのも事実。思わず安堵の息が漏れるが、それを彼から指摘され、からかわれることは目に見えていた。誤魔化すようぶんぶんと首を振り、彼の手を借りることなく完成させると強がって見せ)
…では、ご自分の力で完成させてみますか? そこまで言われるなら、さぞ綺麗なケーキが出来上がることでしょうから。ねえ?
(最初から彼にできることはやらせ、まだ難しい所は自分が手伝うつもりでいた…のだが。ただからかっただけなのにそんなに反応されるとは思っていなくて。気が変わりました、とでもいうように首を振って彼を試すように見つめると、軽く笑いながら首を傾げ)
(“また何時もの強がりですか”そう軽くあしらわれて終わる――筈だったのに。彼の口から飛び出した想定外の発言に思わず言葉が詰まる。此方へと向けられた視線はどこか挑戦的に感じ、今更冗談だと言い出せる空気でもない。となれば残る手段はひとつ、覚悟を決めたように小さく頷けば彼の腕を引いて調理場へ)
あ、当たり前だろう!…ほら、早くしないと間に合わない
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