執事 2020-07-30 19:43:59 |
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ん……今起きた…………
(部屋の中に鳴り響くノック音。夢と現実の間でまどろんでいたが、その音で一気に現実へと引き戻される。ゆっくり身体を起こすと、目を擦りながら彼の声にそう返して)
(/了解しました!それでは此方も失礼します!)
……私の知っている本日の主役の顔ではありませんねえ
(いつもの様にスペアキーでドアを開け、まだ寝ぼけ眼の彼の両頬をぺちりと包む様にして軽く両手で叩き。こんな間抜けな顔、一体どこのどなたでしょう、なんて彼の顔をまじまじ見つめては、彼の頬から手を離して杖を一振、花の良い香りがする水がなみなみと注がれた洗面器を机の上に置いて、)
あぅ、
(まだ脳が完全に働いていないのか抵抗する気も起きず、されるがままに顔を弄ばれ。洗面器から両手で中の水を掬うと、そのままぱしゃりと顔へ。濡れた顔を上げると、タオルを探しキョロキョロと周りを見て)
はい、どうぞ
(彼の目線辺りにふわふわ洗いたてのタオルを差し出して。ここまで眠たそうにしている彼も珍しいが、最近は勉強の出来もよく彼も彼なりに頑張っているのだろう、そう結論づけては彼の頭をよしよし、いい子ですね、なんてあやすようにしながら優しく撫でて、)
?!、な、なんだ?珍しいな……
(タオルに顔を埋めていた所、なんの脈略もなく突然撫でられたものだから、顔を拭き終えると驚きつつ彼の方を向いて。撫でられること自体嫌いじゃない……というか撫でられるのは好きなので、朝からとろんと幸せで表情が柔らかくなり)
いえ、最近はよく頑張っていらっしゃるので
(珍しいな、彼にそう言われればまたなにか嫌味を言われるかもと身構えていたのだが、予想していたことは起きなくて。むしろ彼はふわりと溶けたような幸せな表情を浮かべていて、こちらも幸せな気持ちになってしまう。ふ、と優しい笑顔を浮かべた後、どさりと机に参考書を置いて、)
、……なんだ、その量は
(この幸せな気分に浸り、「今日一日このままでもいいかも」なんて考えていた矢先、横から聞こえる嫌な音。まさか、まさかな…と嫌な予感が頭を過りつつ、恐る恐る彼の方を見て)
ええ、今日の分ですが
(冷静に、そしていつも通りに。楽しいことは常に後からやってくるものなのだから。涼しい顔で彼にそう告げれば、いつもの2倍はある参考書を指さして「内容は音読と書き取りです、難しくないでしょう?」煽るように呟いて、)
ふ、普通誕生日って、特別に勉強量少なくするとかじゃないのか?!
(嫌な予感は的中だ。折角の誕生日なのになんで二倍も勉強を……、と異議の声をあげつつ、山のような参考書を恨めしそうに見つめ。煽られても嫌なものは嫌である。先程までのとろんとした笑顔から一変、むすっと納得いかないような表情で)
一国の主たるもの、これくらいは…
(むすりと納得のいかない顔をする彼にはて、と?を頭に浮かべながらそう切返す。なぜ誕生日だからと言って彼を甘やかさせねばならぬのか。しかし、この後には今日、彼のための誕生日会が開かれるのだ。喉は乾かないよう机のそばにミネラルウォーターを置けば「ではまた」と彼の部屋を後にして)
…………
(まだぶつぶつとぼやきつつも、もう彼が部屋から去ってしまった以上、これらの参考書をこなすしかない。しっかり椅子に座り直すと、筆記用具を手に取って取り掛かり始め)
こんなものでしょうか、
(広間で、部屋の飾り付けを確認したあとキッチンに向かって誕生日ケーキに最後の飾り付けを施す。大きくはないが、高さは充分。キメの細かいスポンジに、繊細な飴細工と新鮮なフルーツ、それに甘くてふわふわなクリームをふんだんに使った3段の誕生日ケーキをくまなく見渡せば、よし、と1人キッチンで微笑んで)
……つ、疲れた…………
(課題の量が二倍ということで、何時もの何倍も頭を働かせて問題に取り掛かった。そのためかなりくたくたの状態で。最後の一問をどうにかして解き終えると、集中力が切れ、ドッと疲れが出てくる。それに耐えきれず机で突っ伏す形になり)
__終わりました?
(全てのセッティングを終えたあと、しゅん、とまるで瞬間移動のような魔法で彼の傍に帰ってきて。こんな魔法滅多に使わないし、使う必要もないがたまには良いだろう、余興のようなものだ。ぐったり机に伏している彼の背にぽすんと手を当て)
っ?!、……びっくりした……
(びくっと肩を震わせて机から顔を上げ。こんな魔法も使えたのか……と単純に驚きつつ「急に現れるな……」と、まだドキドキする心を軽く押さえながら呟いて)
おやおや、心も体もハムスターのようですね
(彼の誕生日だからといって、無駄に気を遣うことはしない。ふん、と笑いながらからかうがしかし、ひとさじの優しさも忘れずに。可愛らしい袋に包まれたキャラメルをひとつ、彼の前にぽてんと置けば「取り敢えず、それで歩けるくらいの元気は出してください」と声をかけ、)
体は関係ないだろ
(心ならまだしも何故体……と不満げに反論し。丁寧にキャラメルの包みを開くと口の中へ入れて。疲れきった脳は糖分を欲していたようで、キャラメルの甘みが身体全体へと染み渡る。その程よい甘さに癒されつつ、元気も取り戻してきたようで)
さあ、行きますよ
(元気を取り戻した彼の様子を見、ゆるく微笑めば彼の椅子を引き。今年は去年と被らぬようにケーキも食事も、かなり手を混んだ。彼は喜んでくれるだろうか、不安がないといえば嘘になるが、それを払拭するかのように薔薇の胸飾りを彼に着けてやり、)
(元気が回復すると同時に気分も良くなってきたのか上機嫌で、とんっ、とリズム良く椅子から降り。胸につけられた薔薇を眺めては小さくふふんと胸を張り、自信満々に執事の方を向いて)
待ちくたびれる所だったぞ
お待たせしてしまい、申し訳ございません
(誇らしげな彼の様子に、くすりと笑みが溢れて
。他愛ない会話をしながら綺麗に飾り付けられた廊下を歩き続け、広間の扉を開ける。去年よりシンプルで大人な雰囲気の飾り付けと料理は、自分の指示であった。使用人が口々に祝福の言葉を投げかけ、そんな言葉を聴きながら彼のために用意されたテーブルの椅子を引き、)
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